最高評価の小説たち
10位 獣の奏者 / 上橋菜穂子(2006年)
リョザ神王国。闘蛇村に暮らす少女エリンの幸せな日々は、闘蛇を死なせた罪に問われた母との別れを境に一転する。母の不思議な指笛によって死地を逃れ、蜂飼いのジョウンに救われて九死に一生を得たエリンは、母と同じ獣ノ医術師を目指すが―。苦難に立ち向かう少女の物語が、いまここに幕を開ける。
児童文学という印象を持たれるかもしれないが、創り込まれた世界観と情け容赦ない展開に開いた口がふさがらない作品である。これを小学生が読んだら場合によってはトラウマになるのではないだろうか。官能シーンもあるのだから手加減ゼロである。
『獣の奏者』が圧倒的に面白い理由の一つに、Ⅰの闘蛇編からひたすらに作中の歴史や世界に関する謎をひっぱりまくるところにある。Ⅰ闘蛇編とⅡ王獣編でいったん物語は完結しており、作者自身も続編を考えていなかったとのことだが、謎は残ったままであり、Ⅲ探求編でもその謎は明かされず、結局秘密が明らかになるのは完結編の最後の最後という事情から、続きが気になりまくりもはや徹夜は避けられないだろう。
個人的には数ある「衝撃のラスト小説」の中でぶっちぎり1位の強烈無比にして無慈悲な大団円だと思っている。あまりの衝撃に魂が抜けてしまった。
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上橋作品は『守り人シリーズ』と『鹿の王』も甲乙つけ難い超傑作なので、ぜひ以下の記事もご参照いただきたい。
9位 八つ墓村 / 横溝正史(1950年)
戦国の頃、三千両の黄金を携えた八人の武者がこの村に落ちのびた。だが、欲に目の眩んだ村人たちは八人を惨殺。その後、不祥の怪異があい次ぎ、以来この村は“八つ墓村"と呼ばれるようになったという――。大正×年、落人襲撃の首謀者田治見庄左衛門の子孫、要蔵が突然発狂、三十二人の村人を虐殺し、行方不明となる。そして二十数年、謎の連続殺人事件が再びこの村を襲った……。現代ホラー小説の原点ともいうべき、シリーズ最高傑作! !
国民的な作品だけあって面白さは保証されている。
推理小説としての金田一耕助シリーズとして読む必要はない。金田一はほぼ脇役だし、謎解き以外の部分の方がずば抜けて面白いからである。
『八つ墓村』の素晴らしさを一言で言うなら”萌”である。戦後間もない時期に描かれたにもかかわらず、時代を先取りし過ぎた異世界ハーレム展開。『八つ墓村』が発表された時代には”萌”などという概念はないはずなのに、誰も到達できないクオリティの萌えハーレムを完成させた大横溝は偉大である。
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8位. NO.6 / あさのあつこ(2009年)
2013年。理想都市『NO.6』に住む少年・紫苑は、9月7日が12回目の誕生日であった。だが、その日は同時に彼の運命を変える日でもあった。『矯正施設』から抜け出してきた謎の少年・ネズミと出会い、負傷していた彼を介抱した紫苑だが、それが治安局に露見し、NO.6の高級住宅街『クロノス』から準市民の居住地『ロストタウン』へと追いやられてしまう。
4年後、紫苑は奇怪な事件の犯人として連行されるところをネズミに救われ、彼と再会を果たす。NO.6を逃れ、様々な人々と出会う中で紫苑は、理想都市の裏側にある現実、『NO.6』の隠された本質とその秘密を知っていく…。
児童文学なのかと思いきや、情け容赦ない残虐なSF小説である。
物語が始まって間もないタイミングでいきなり主人公とその幼馴染の少女とのやり取りで以下のシーンがある。
「わたし、あなたから貰いたいものがあるんだけど」
「精子」
「セックスしたい」
つまりこれはヤバい作品なのだ。BL全開だったり、トラウマ級の地獄展開が待っていたりと殺る気満々過ぎてちょっと怖いです.....でも強烈に物語に引き込まれる素晴らしい作品でもある。
9分冊+外伝1冊で全10冊という大ボリュームに恐れをなしてしまうかもしれないが、読み始めたらビックリするくらい読みやめるタイミングがないので少しでも気になったのならまずは1冊目だけでも試してみることをおすすめする。
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7位 暗闇坂の人喰いの木 / 島田荘司(1990年)
さらし首の名所・暗闇坂にそそり立つ樹齢2000年の大楠。この巨木が次々に人間を呑み込んだ? 近寄る人間たちを狂気に駆り立てる大楠の謎とは何か? 信じられぬ怪事件の数々に名探偵・御手洗潔が挑戦する。だが真相に迫る御手洗も恐怖にふるえるほど、事件は凄惨を極めた。本格ミステリーの騎手が全力投球する傑作。
この本に出会っていなければ、ミステリーにのめり込むことはなかったであろう超傑作。謎解きよりも冒険小説やホラーとして楽しむことができる内容でもあり、何と言っても物語自体がものすごく面白い。島田荘司が稀代のストーリーテラーと称されるのも納得である。キャラものとしても至高。
私の好みとしてミステリ小説は、論理帰結として犯人やトリック、動機を導き出せるタイプの作品よりも、多少論理が破綻していようとも提示される謎がいかに魅力的かという点に注力した作品を推す。
ゴッドオブミステリーこと島田御大はデビュー作にして本格推理小説の最高傑作『占星術殺人事件』の頃から超がつくほど魅力的な謎を提示し続けていたが、『暗闇坂の人喰いの木』からは魅力的な謎という点において限界突破している。だって犯人が人喰いの木なんですもん(笑)
しかも本編にどのように関わるのが想像もできない、怪奇幻想趣味全開のスコットランドのグロテスクな物語から始まったかと思ったら、今度は突然昭和の人喰いの木の物語に話がシフトしたりと、とにかくぶっ飛びまくった内容となっている。ヤバいミステリーが読みたい方には超おすすめ。
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なお『レオナ三部作』とも称され、『暗闇坂の人喰いの木』に続く『水晶のピラミッド』『アトポス』も常軌を逸した傑作であり、三部作全体で評価するのであれば本ランキングの1,2位を争う傑作シリーズとなる。
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6位 滅びの園 / 恒川光太郎(2018年)
わたしの絶望は、誰かの希望。
ある日、上空に現れた異次元の存在、<未知なるもの>。それに呼応して、白く有害な不定形生物<プーニー>が出現、無尽蔵に増殖して地球を呑み込もうとする。
少女、相川聖子は、着実に滅亡へと近づく世界を見つめながら、特異体質を活かして人命救助を続けていた。だが、最大規模の危機に直面し、人々を救うため、最後の賭けに出ることを決意する。世界の終わりを巡り、いくつもの思いが交錯する。壮大で美しい幻想群像劇。
著者が得意とする"ここではないどこか"へ読者を導く稀有なファンタジーの世界観と、深遠な思弁SFが見事に両立した比類無き傑作である。
本を開いてほんの数ページめくるだけで、のどかな異世界に連れ去られ、さらに読み進めると、突如話は人類滅亡に関わる壮大なSFへと物語は姿を変える。
異世界と破滅の危機に陥った地球で繰り広げられる群像劇は魂を揺さぶるほど素晴らしい。もちろんエンタメ的にも完璧。
『夜市』で有名な著者だが、ラノベのように読みやすい筆致はそのままに、猛烈にパワーアップされた筆力には脱帽である。
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超傑作しか書かない恒川光太郎だが、『金色機械』以降の長編は特に途轍もない傑作揃いなので、ぜひ以下の記事もご参照いただきたい。『金色機械』と『スタープレイヤー/ヘブンメイカー』は『滅びの園』に勝るとも劣らない神本である。
5位 2 / 野﨑まど(2012年)
創作することの極地。それが『2』。日本一の劇団『パンドラ』の入団試験を乗り越えた青年・数多一人。しかし、夢見たその劇団は、ある一人の女性によって“壊滅”した。彼女は言った。「映画に出ませんか?」と。言われるがまま数多は、二人きりでの映画制作をスタートする。彼女が創る映画とは。そして彼女が、その先に見出そうとするものとは…。『創作』の限界と「その先」に迫る野崎まど新装版シリーズ・最終章!!『2』が、全てを司る。
究極の創作。そして究極のミステリーである。
私は野﨑まどは次元の違う超天才だと思っているのだけど、『2』を読めば誰もがそう思うってしまうのではないだろうか。『2』は単にミステリーとして扱うことのできる作品ではなく、ハードSFを中心に様々な要素を含んでいる。もうとにかく何もかもが凄過ぎる人知を超えた作品なのである。少しでも気になったのなら、『[映]アムリタ』から『パーフェクトフレンド』までの一連の作品を読んだうえで『2』を読んでいただきたい。本作の素晴らしさは単体では発揮されない。
ちなみに[映]アムリタからパーフェクトフレンドまでの5作品も超絶面白いので本気でおすすめしたい。どれもラノベのような印象を受けるが読んでみれば想像の斜め上の超展開が待っている。
〇個別紹介記事
『2』は最初に読む本にはふさわしくないのと、野﨑まど作品は甲乙つけがたい超傑作が多いので、以下の記事ではランキング形式で作品紹介している。最初に読むべきおすすめの本も挙げているので気になった方はご参照いただきたい。
4位 甲賀忍法帖 / 山田風太郎(1959年)
家康の秘命をうけ、徳川三代将軍の座をかけて争う、甲賀・伊賀の精鋭忍者各十名。官能の極致で男を殺す忍者あり、美肉で男をからめとる吸血くの一あり。四百年の禁制を解き放たれた甲賀・伊賀の忍者が死を賭し、秘術の限りを尽し、戦慄の死闘をくり展げる艶なる地獄相。恐るべし風太郎忍法、空前絶後の面白さ。
能力バトル作品の始祖とされる作品だが、この時代に書かれたとは思えないほど練りに練られた能力や戦闘になっている。
甲賀卍谷衆VS伊賀鍔隠れ衆の10人対10人が出し惜しみなしの忍術によって潰し合う戦いは面白い以外の何物でもない。
能力によって相性があったり、忍者であるため正々堂々ではなく奇襲、闇討ち、だまし討ちに多対一といった卑怯な戦術までバリエーション豊富なことが面白さに拍車をかけている。
またありがたいことに(?)、くノ一たちはやたら妖艶なキャラが多く、使用する忍術が忍術だけに漂うエロスも尋常ではない。純粋に面白い小説が読みたいなら『甲賀忍法帖』を読めば間違いないだろう。
〇個別紹介記事
ちなみに本記事では『甲賀忍法帖』を挙げているのだが、一作に絞らないと十選が忍法帖で埋まってしまうので代表として一作目を選別しただけであり、もっと面白い作品は複数ある。忍法帖シリーズは本気でおすすめなので、気になる方は以下の記事もご参照いただきたい。
〇忍法帖シリーズ紹介記事
3位 星を継ぐもの / ジェイムズ・P・ホーガン(1977年)
月面調査員が真紅の宇宙服をまとった死体を発見した。綿密な調査の結果、この死体は何と死後五万年を経過していることがわかった。果たして現生人類とのつながりはいかなるものなのか。やがて木星の衛星ガニメデで地球のものではない宇宙船の残骸が発見された……。ハードSFの新星が一世を風靡した出世作。
古い海外のSF作品ということだけで忌避してしまう方もいるのかもしれないが、『星を継ぐ者に』始まる3部作の面白さはただ事ではない。
「月で5万年前の真紅の宇宙服をまとった死体が見つかった」という魅力的すぎる謎を科学的に解明していくという最高峰の本格ミステリでもある。
1作目だけでも一応完結しているので存分に楽しむことができるのだが、続編も読むことによって楽しさが跳ね上がるというありがたい仕様になっている。
創元SF文庫で一番の売り上げを誇る作品らしいが、その実績は伊達ではない。
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2位 新世界より / 貴志祐介(2008年)
ここは病的に美しい日本(ユートピア)。
子どもたちは思考の自由を奪われ、家畜のように管理されていた。
手を触れず、意のままにものを動かせる夢のような力。その力があまりにも強力だったため、人間はある枷を嵌められた。社会を統べる装置として。
1000年後の日本。豊かな自然に抱かれた集落、神栖(かみす)66町には純粋無垢な子どもたちの歓声が響く。周囲を注連縄(しめなわ)で囲まれたこの町には、外から穢れが侵入することはない。「神の力(念動力)」を得るに至った人類が手にした平和。念動力(サイコキネシス)の技を磨く子どもたちは野心と希望に燃えていた……隠された先史文明の一端を知るまでは。
宇宙最強に面白い小説である。
ファンタジーで青春で恋愛で学園モノでSFでミステリーでホラーでBLで百合で......つまりありとあらゆるジャンルを網羅し、すべてのクオリティが頂点に達しているという奇跡の作品なのだ。
終始不穏であり、エグくてグロいシーンのオンパレードなのでそれなりに人を選ぶことは間違いないのだが、こういったことに抵抗がない方であれば間違いなく好きになる。
人生ナンバーワンに挙げる人が多いのも納得の至高の神本である。
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ご存じの通り貴志祐介はエンタメの神である。上梓する本は悉く他を圧倒する作品なので以下の記事も挙げておく。とりわけ『天使の囀り』『クリムゾンの迷宮』『ダークゾーン』あたりは怪物級の娯楽作品といえる。
1位 三体 三部作 / 劉慈欣(2008~2010年)
物理学者の父を文化大革命で惨殺され、人類に絶望した中国人エリート科学者・葉文潔。失意の日々を過ごす彼女は、ある日、巨大パラボラアンテナを備える謎めいた軍事基地にスカウトされる。そこでは、人類の運命を左右するかもしれないプロジェクトが、極秘裏に進行していた。数十年後。ナノテク素材の研究者・汪森は、ある会議に招集され、世界的な科学者が次々に自殺している事実を告げられる。その陰に見え隠れする学術団体“科学フロンティア”への潜入を引き受けた彼を、科学的にありえない怪現象“ゴースト・カウントダウン”が襲う。そして汪森が入り込む、三つの太陽を持つ異星を舞台にしたVRゲーム『三体』の驚くべき真実とは?
時空を超えた人類最高傑作である。
ハードSFなのに世界で3000万冊近く売れている怪物作品だけあって、その内容は宇宙のすべてがここにあると言っても過言ではない凄まじい物語である。
第一部から第三部に進むにつれて物語のスケールは膨れ上がっていき、地球を超え太陽系を超え、ついには宇宙をも超えて時空の果てに到達するのである。宇宙が分かってしまい、読後は果てしない虚無感に浸ることは間違いない。人類必読の物語である。
なお三部作では一作目は導入部分に過ぎず、本当に面白くなるのは第二部の黒暗森林からなので、第一部を読んでそこまで面白いと感じなかった方でも第二部までは確実に読んでいただきたい。(私は第一部がそこまで良いと思えず黒暗森林を1年以上積んでいた)第二部を読んでしまえば、そのまま第三部に突き進むこと必定である。
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