最高評価の小説たち
10位 クラインの壺 / 岡嶋二人(1989年)
ゲームブックの原作募集に応募したことがきっかけでヴァーチャルリアリティ・システム『クライン2』の制作に関わることになった青年、上杉。アルバイト雑誌を見てやって来た少女、高石梨紗とともに、謎につつまれた研究所でゲーマーとなって仮想現実の世界へ入り込むことになった。ところが、二人がゲームだと信じていたそのシステムの実態は……。現実が歪み虚構が交錯する恐怖!
SF×ミステリーの至高の傑作である。
VRがメインテーマとなる1989年の作品だが、今読んでもまったく古臭さを感じることは無く、SFにも関わらず異常に読みやすいのも高ポイント。
読み始めたら読了まで一気読みせざるを得ない、最強の徹夜本候補である。
9位 ガダラの豚 / 中島らも(1993年)
アフリカの呪術医研究の第一人者、大生部多一郎は、テレビの人気タレント教授。超能力ブームで彼の著者「呪術パワーで殺す!」はベストセラーになった。しかし、妻の逸美は8年前の娘・志織のアフリカでの気球事故での死以来、神経を病んでいた。そして奇跡が売り物の新興宗教にのめりこんでしまった。逸美の奪還をすべく、大生部は奇術師ミラクルと組んで動き出す。
圧倒的なセンスを持った天才作家が本気を出した作品である。娯楽小説の最終到達点と言っても過言では無いほど徹底的に面白いのが特徴だ。
ただ面白いだけでなく、超能力や呪術といった超自然的なことについてしっかりと研究された上で書かれているため、ブッ飛んだ内容にも関わらず確かなリアリティがあり、読者自身の知識も増えて大変お得である。
3部構成であり1部はユーモア、2部はユーモアとアドベンチャー、そして3部はホラーのような展開が楽しめる。
8位 八つ墓村 / 横溝正史(1950年)
戦国の頃、三千両の黄金を携えた八人の武者がこの村に落ちのびた。だが、欲に目の眩んだ村人たちは八人を惨殺。その後、不祥の怪異があい次ぎ、以来この村は“八つ墓村"と呼ばれるようになったという――。大正×年、落人襲撃の首謀者田治見庄左衛門の子孫、要蔵が突然発狂、三十二人の村人を虐殺し、行方不明となる。そして二十数年、謎の連続殺人事件が再びこの村を襲った……。現代ホラー小説の原点ともいうべき、シリーズ最高傑作! !
国民的な作品だけあって面白さは保証されている。
はっきり言って推理小説としての金田一耕助シリーズとして読む必要はない。金田一はほぼ脇役だし、謎解き以外の部分の方が面白いからである。
『八つ墓村』の素晴らしさを一言で言うなら”萌”である。萌えを意識したであろう作品は数多く読んできたが、この本を超える萌え系の本に出会ったことは一度もない。
『八つ墓村』が発表された時代には萌えなどという概念はないはずなのに、史上最高の萌えが描かれているのだ。
最近はやりのハーレムアニメを木っ端微塵に粉砕する至高の萌えを堪能してほしい。
7位 粘膜兄弟 / 飴村行(2010年)
ある地方の町外れに住む双子の兄弟。戦時下の不穏な空気が漂う中、二人は一人の女をめぐり凄惨な運命に身を委ねていく……『ドグラ・マグラ』『家畜人ヤプー』と比される現代の奇書、シリーズ第3弾!
飴村行という稀代の変態作家が描く『粘膜シリーズ』の中でも、ダークファンタジー的な軍国主義の世界観やエログロが頂点に達した作品であるそして唯一無二のセンスの良いギャグが火を噴きまくるというおまけまで付いている。さらに冒険小説としても、これほど面白いものは他に存在しないのではないかというほど優れている。
この本の特徴はただ一つ。クッソ面白いということに尽きる。
6位 暗闇坂の人喰いの木 / 島田荘司(1990年)
さらし首の名所・暗闇坂にそそり立つ樹齢2000年の大楠。この巨木が次々に人間を呑み込んだ? 近寄る人間たちを狂気に駆り立てる大楠の謎とは何か? 信じられぬ怪事件の数々に名探偵・御手洗潔が挑戦する。だが真相に迫る御手洗も恐怖にふるえるほど、事件は凄惨を極めた。本格ミステリーの騎手が全力投球する傑作。
この本に出会っていなければ、これほどまでにミステリーにのめり込むことはなかったであろう作品。謎解きよりも冒険モノやホラーとして楽しむことができる内容にであり、物語自体がものすごく面白い。
私は推理小説がもたらす驚きに魅せられてはいるものの、SFやファンタジー、ホラーが好きであり、謎解き自体はあまり興味が無いタイプの人間である。本作は魅力的な謎と怪奇幻想世界を体感させてくれる素晴らしい作品だ。
〇個別紹介記事
なお『レオナ三部作』とも称され、『暗闇坂の人喰いの木』に続く『水晶のピラミッド』『アトポス』も常軌を逸した傑作であり、三部作全体で評価するのであれば本ランキングの1,2位を争う傑作となる。
5位 ループ / 鈴木光司(1998年)
科学者の父親と穏和な母親に育てられた医学生の馨にとって家族は何ものにも替えがたいものだった。しかし父親が新種のガンウィルスに侵され発病、馨の恋人も蔓延するウィルスに感染し今や世界は存亡の危機に立たされた。ウィルスはいったいどこからやって来たのか?あるプロジェクトとの関連を知った馨は一人アメリカの砂漠を疾走するが…。そこに手がかりとして残されたタカヤマとは?「リング」「らせん」で提示された謎と世界の仕組み、人間の存在に深く迫り、圧倒的共感を呼ぶシリーズ完結編。否応もなく魂を揺さぶられる鈴木文学の最高傑作。
貞子でおなじみの『リングシリーズ』3作目だがホラー要素はまったく無く、ジャンルはまさかのハードSFである。
ネタバレ無しで感想を挙げるなら①超面白い、②超すごい、③超泣けるといったところだろうか。
想像がつかないだろうが、映画『マトリックス』とRPG『ファイナルファンタジーⅩ』を足したような衝撃的な世界観と超展開が待っている。
『ループ』は映画化されていないので(そもそも映画化はできないだろうが)、このシリーズがこんな展開になっていることを知っている人は数少ないのだろう。
4位 星を継ぐもの / ジェイムズ・P・ホーガン(1977年)
月面調査員が真紅の宇宙服をまとった死体を発見した。綿密な調査の結果、この死体は何と死後五万年を経過していることがわかった。果たして現生人類とのつながりはいかなるものなのか。やがて木星の衛星ガニメデで地球のものではない宇宙船の残骸が発見された……。ハードSFの新星が一世を風靡した出世作。
古い海外のSF作品ということだけで忌避してしまう方もいるのかもしれないが、『星を継ぐ者に』始まる3部作の面白さはただ事ではない。
「月で5万年前の真紅の宇宙服をまとった死体が見つかった。」という魅力的すぎる謎を科学的に解明していくという最高峰のミステリー作品でもある。
1作目だけでも一応の完結おり楽しむことができるのだが、続編も読むことによって楽しさが跳ね上がるというありがたい仕様になっている。
創元SF文庫で一番の売り上げを誇る作品らしいが、その実績は伊達ではない。
3位 甲賀忍法帖 / 山田風太郎(1959年)
家康の秘命をうけ、徳川三代将軍の座をかけて争う、甲賀・伊賀の精鋭忍者各十名。官能の極致で男を殺す忍者あり、美肉で男をからめとる吸血くの一あり。四百年の禁制を解き放たれた甲賀・伊賀の忍者が死を賭し、秘術の限りを尽し、戦慄の死闘をくり展げる艶なる地獄相。恐るべし風太郎忍法、空前絶後の面白さ。
能力バトル作品の始祖とされる作品だが、この時代に書かれたとは思えないほど練りに練られた能力や戦闘になっている。
甲賀卍谷衆VS伊賀鍔隠れ衆の10人対10人が出し惜しみなしの忍術によって潰し合う戦いは面白い以外の何物でもない。
能力によって相性があったり、忍者であるため正々堂々ではなく奇襲、闇討ち、だまし討ちに多対一といった卑怯な戦術までバリエーション豊富なことが面白さに拍車をかけている。
またありがたいことに(?)、くノ一たちはやたら妖艶なキャラが多く、使用する忍術が忍術だけに漂うエロスも尋常ではない。
純粋に面白い小説が読みたいなら『甲賀忍法帖』を読めば間違いないだろう。
2位 獣の奏者 / 上橋菜穂子(2006年)
リョザ神王国。闘蛇村に暮らす少女エリンの幸せな日々は、闘蛇を死なせた罪に問われた母との別れを境に一転する。母の不思議な指笛によって死地を逃れ、蜂飼いのジョウンに救われて九死に一生を得たエリンは、母と同じ獣ノ医術師を目指すが―。苦難に立ち向かう少女の物語が、いまここに幕を開ける。
児童文学という印象を持っていたが、創り込まれた世界観と情け容赦ない展開に開いた口がふさがらない作品である。
『獣の奏者』が圧倒的に面白い理由の一つに、Ⅰの闘蛇編からひたすらに作中の歴史や世界に関する謎をひっぱりまくるところにある。
Ⅰ闘蛇編とⅡ王獣編でいったん物語は完結しており、作者自身も続編を考えていなかったとのことだが、完結編の最後の最後まで謎が明かされないことにより、続きが気になりまくりもはや徹夜は避けられないだろう。
1位 新世界より / 貴志祐介(2008年)
ここは病的に美しい日本(ユートピア)。
子どもたちは思考の自由を奪われ、家畜のように管理されていた。
手を触れず、意のままにものを動かせる夢のような力。その力があまりにも強力だったため、人間はある枷を嵌められた。社会を統べる装置として。
1000年後の日本。豊かな自然に抱かれた集落、神栖(かみす)66町には純粋無垢な子どもたちの歓声が響く。周囲を注連縄(しめなわ)で囲まれたこの町には、外から穢れが侵入することはない。「神の力(念動力)」を得るに至った人類が手にした平和。念動力(サイコキネシス)の技を磨く子どもたちは野心と希望に燃えていた……隠された先史文明の一端を知るまでは。
宇宙最強に面白い小説である。
ファンタジーで青春で恋愛で学園モノでSFでミステリーでホラーでBLで百合で......つまりありとあらゆるジャンルを網羅し、すべてのクオリティが頂点に達しているという奇跡の作品なのだ。
終始不穏であり、エグくてグロいシーンのオンパレードなのでそれなりに人を選ぶことは間違いないのだが、こういったことに抵抗がない方であれば間違いなく好きになる。
人生ナンバーワンに挙げる人が多いのも納得である。
〇個別紹介記事
類は友を呼ぶ
100選も偏ったチョイスになっているが、SFやファンタジー、ホラー、そして広義のミステリが好きな方であれば参考になると思われる。