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山田風太郎『忍法帖』|作品一覧とおすすめ作品ランキング

古今無双の天才による伝奇バトル小説

 ミステリから伝奇/時代小説まで幅広い作風で大量の作品を遺された古今無双の天才山田風太郎。そんな風太郎作品の中でも奇想が際立っているのが1959年の『甲賀忍法帖』から始まる忍法帖である。
今では少年誌であたりまえとなった、異能の能力バトルは山田風太郎忍法帖が祖だと言われている。半世紀以上前に描かれたとは思えないほど古びない作風は今読んでも新しく、奇想と知略が凝縮された忍法バトルは現在でも通用するというのは、『甲賀忍法帖』がアニメ化された『バジリスク』が人気になったことからも明らかである。
そんな普遍的な戦いを描いた忍法帖を紹介していきたい。
 

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この写真、変態っぽくていかにも忍法帖

 

1.作品一覧

作品数が多く、改題された作品もあるので長編と短編にわけて紹介する。

長編

  1. 甲賀忍法帖(1959年)
  2. 江戸忍法帖(1960年)
  3. 飛騨忍法帖【改題:軍艦忍法帖】(1960年)
  4. くノ一忍法帖(1961年)
  5. 外道忍法帖(1962年)
  6. 忍者月影抄(1962年)
  7. 忍法忠臣蔵(1962年)
  8. 信玄忍法帖(1964年)
  9. 風来忍法帖(1964年)
  10. 柳生忍法帖(1964年)
  11. 忍法八犬伝(1964年)
  12. 忍法相伝73(1965年)
  13. 自来也忍法帖(1965年)
  14. 魔天忍法帖(1965年)
  15. おぼろ忍法帖【改題:魔界転生】(1967年)
  16. 伊賀忍法帖(1967年)
  17. 忍びの卍(1967年)
  18. 笑い陰陽師(1967年)
  19. 忍法剣士伝(1968年)
  20. 天の川を斬る【改題:銀河忍法帖】(1968年)
  21. 秘書【改題:秘戯書争奪】(1968年)
  22. 忍法封印いま破る(1969年)
  23. 天保忍法帖【改題:忍者黒白草子】(1969年)
  24. 妖の忍法帖【改題:忍法双頭の鷲】(1969年)
  25. 海鳴り忍法帖(1971年)
  26. 忍法創世記(1969年⇒発表は2001年)
  27. 柳生十兵衛死す(1992年)

短編

※灰文字の作品はちくま文庫化されていない作品

  1. かげろう忍法帖(1964年)
  2. ざらし忍法帖(1964年)
  3. さざなみ忍法帖【改題:忍法破倭兵状】(1965年)
  4. つばくろ忍法帖【改題:くノ一死にに行く】(1967年)
  5. 姦の忍法帖(1968年)
  6. くノ一忍法勝負(1969年)
  7. 忍法関ケ原(1970年)
  8. 武蔵忍法旅(1970年)
  9. 忍法聖千姫(1970年)
  10. 忍者六道銭(1971年)
  11. お庭番地球を回る(1971年)
  12. 津軽忍法帖(1973年)
  13. 剣鬼喇嘛仏(1976年)
  14. 女郎屋戦争(1981年)
  15. 忍法落花抄(1983年)

 

2.読む順番

忍法帖は基本的に1作ごとに話が完結するので読む順番を気にする必要はない

柳生十兵衛三部作』と称される『柳生忍法帖魔界転生柳生十兵衛死す』ですら、順番通りに読まなくても問題ない。

ただし、忍法帖の魅力や基本フォーマットを知るという観点から第一作目の『甲賀忍法帖』を最初に読むことをおすすめしたい。

また一番知名度の高いであろう『魔界転生』は忍法帖というよりはほぼ剣豪小説なので、最初に読む忍法帖としてはふさわしくない。

 

3.おすすめ作品ランキング

 忍法帖を評価するとしたら時代小説としての完成度やバトルの面白さなどエンターテイメント要素、エロさ、奇想の忍術、キャラの魅力など様々な要素があり、さらにはミステリの手法を用いて書かれた作品もあるため、どの要素を重視するかによってランキングが変動する。

そのため読者によって好きな作品がかなり異なってくることと思われるが、あくまでも個人的な好みで格付けしていきたい。

 

十五位  外道忍法帖(1962年)

 

天正使節団がローマ法王より下賜された百万エクーの金貨の行方を追って老中・松平伊豆守は主家再興の望みを抱く天草忍者十五人を長崎へと送り込む。一方、天下覆滅を狙う由比正雪も手飼いの甲賀忍者十五人を放っていた。迎え撃つは大友忍法を身につけた十五人の童貞女。その秘所に隠された鈴に金貨の在り処が―。かくて三つ巴の壮絶な死闘の幕はあがった。

 

まさにSNB48(笑)と言わんばかりの三つ巴の戦闘忍法帖

戦闘開始と戦闘開始後序盤は物語としての完成度が高いと思うのだが、中盤以降はひたすら忍びたちが登場して一発かまして散っていくので好みは分かれるだろう。名前もろくに名乗れず散っていくという様は、ある意味山田風太郎の思想を色濃く反映しているのかもしれない。

また48人もいる割には使用する忍法はほぼほぼオリジナルなので「もったいねー!」と思うこともしばしばである。基本的に中盤以降は戦っているだけの作品だが、最後には思いもよらぬ伝奇小説要素が描かれて、やはり山風は凄いなぁと思い知らされる。ちなみに男根を斬られた男が、セックスしたいあまりにすべての指がちんこになったというクソ設定は爆笑である。

 

 

十四位  忍法双頭の鷲(1969年)

 

徳川四代将軍家綱の死去と同時に、劇的な政変が勃発。新将軍には、若年寄堀田筑前守が擁立する綱吉が就任、それまで権勢を誇っていた大老酒井雅楽頭は失脚する。それに伴い、公儀隠密の要職にあった伊賀組が解任され、替って根来衆が登用される。主命を受けた二人の根来忍者、秦漣四郎と吹矢城助は、隠密として江戸を後にした。だが、彼らの行く手には復讐の怨念に燃える伊賀忍者たちの執拗な妨害が…。傑作長猛忍法帖!

 

連作ミステリのような手法で描かれた忍法帖

他の忍法帖に比べると全体的に小粒で地味な印象を受けるが、短編推理小説感覚で読めるのと、それぞれの話がなかなか良くできているので完成度は高い方だとは思う。またタイトルの忍法双頭の鷲とは主役二人の忍法に由来しているのだが、想像すると結構笑える。(ただ他の忍法は優秀なものが多い)

超傑作『忍びの卍』とはある意味対を成す作品であり、忍びとしてあるべき姿が問われている。

 

 

十三位  忍者月影抄(1962年)

 

君子然として倹約を強いる八代将軍・徳川吉宗尾張藩主・宗春は甲賀忍者尾張柳生を使って、かつて吉宗が寵した女たちを日本橋に晒し、その漁色ぶりを痛烈に揶揄する。これを阻止せんと吉宗は伊賀忍者と江戸柳生に秘命を下した!将軍の愛妾をめぐって忍者と剣士が入り乱れる大幻魔戦の結末は―。

 

物語がおまけと言っても過言ではないほどただひたすら戦っている小説(笑)

甲賀VS伊賀だけでもそれぞれ7人ずついるというのに、そこに尾張柳生VS江戸柳生の剣豪がさらにそれぞれ8人ずつ参戦するので人数がアホみたいに多く、もはや忍術を披露するためだけに忍者が存在し、その忍術を際立たせるために剣豪が存在しているだけとも言える。

数々のアホ忍法が炸裂するが、マン毛を使ったクソ忍法おま〇こに死の花を咲かせる忍法、そして名前からして終わっている忍法足三本(笑)が笑えた。

 

 

十二位  魔界転生(1967年)

 

 島原の乱に敗れ、幕府への復讐を誓う天草側の軍師、森宗意軒は死者再生の秘術「魔界転生」を編み出した。それは、人生に強い不満を抱く比類なき生命力の持ち主を、魂だけ魔物として現世に再誕させる超忍法だった。次々と魔界から蘇る最強の武芸者軍団。魔人たちを配下に得た森宗意軒は紀伊大納言頼宣をも引き込み、ついに柳生十兵衛へと魔の手を伸ばす…。群を抜く着想と圧倒的スケールで繰り広げられる忍法帖の最高傑作。

 

著者自身が最高傑作と認め最も後世に名を残している作品だが、忍法帖としては異色作中の異色作で、忍者は登場せず(くノ一は三名ほど登場)、使用される忍法も特定の条件を満たした者を女の肉体を介して転生させる”魔界転生”とセックスした女の髪を使用して切断する”髪切丸”のみである。その点を考慮して忍法帖としてはこの順位にしている。

転生する魔界衆が、天草四郎時貞宮本武蔵柳生宗矩など超豪華メンバーで、それぞれ転生するまでの過程が面白く、また転生後の悪魔的強さを柳生十兵衛とその仲間たちが知略も用いて相まみえるのというのは完璧なエンターテイメントと言える。

魔界衆の一人、槍の達人宝蔵院胤舜が力を高めるためにオナ禁していたというのに、「無駄、無駄、無駄でござるよ」と言ってヤリチン天草四郎にボコられ魔界転生を決めた過程はすべてのオナ禁ファイターの心を折ったとされる(笑)

自作に厳しい山田風太郎自身が代表作とするだけあって、後世に与えた影響は多大だと思う。

 

 

十一位  忍法剣士伝(1967年)

 

野獣と化した12人の剣豪たちから一人の姫を守り抜け! 幻の傑作忍法帖!”びるしゃな如来”という幻法をかけられ、あらゆる男を誘惑し悩殺する体になってしまった北畠具教の一人娘、旗姫。欲望の塊と化した12人の剣豪たちから愛する姫を守り抜くため、若き忍者が立ち上がる。

 

その名の通り戦国の大剣士が活躍する(笑)剣豪小説。

魔界転生』と同じく忍者よりも剣士たちが前面に出ている作品で普通に剣豪小説と言えなくもないが、忍法帖でラスボス的キャラにして正体不明の幻術師、果心居士直伝のアホバカエロを兼ね備えた幻術”ほおずき燈籠”と”びるしゃな如来”がシリアスな状況に爆笑をもたらす。”ほおずき燈籠”によって女の精を吸収し尽くし、”びるしゃな如来”によりその精を対象の女にぶっかけ(Bukkake)ることによって、その女は世のすべての男が他の男を殺してでもものにしたい魔性の美女に変わり、さらに男はびるしゃな如来化した女の十歩圏内に近づくと射精してしまう(笑)という、まさに忍法帖の中でも最も言語道断の術が大剣士たちを殺し合いへと導く。

しかも”びるしゃな如来”から派生する”地獄如来”が明智光秀に思わぬとばっちりを喰らわせ......なんてこったい(笑)

 

 

十位  くノ一忍法帖(1961年)

 

 大坂城を攻め滅ぼし、天下を手にしたはずの家康を驚愕させる情報がもたらされた。真田幸村の秘策により、信濃忍法を駆使した5人のくノ一が秀頼の子を身ごもった。しかもその女たちは愛孫・千姫の侍女の中に潜んでいるという。禍根を断つべく、家康は伊賀忍者の精鋭5人を呼び寄せ、隠密裡にくノ一たちを葬るよう命ずる。性の極致で繰り広げられる凄艶奇抜な忍法合戦。千姫と家康、勝つはのいずれの執念か。忍法帖の究極作。

 

ひったすらエロいだけの官能小説。真田幸村配下の信濃くノ一と伊賀忍者がただただエロいことをしまくっている。しかし史実の裏を描いた優れた伝奇小説であることも見逃せない。

直木賞受賞作家となった馳星周が若い頃、オナニーの際のオカズにしていたとされている正真正銘のエロ本なので、エロ目的なら迷わずGOである。

使われる忍術は悉くおま〇こやち〇こを使用するエロいものなので、気になる方は以下の個別に紹介した記事を参照してほしい。

忍法筒涸らしを喰らって死ねたら本望だ(笑)

 

kodokusyo.hatenablog.com

 

九位  信玄忍法帖(1964年)

 

天下に向けて歩を進めていた武田軍団が突如として兵を引いた。信玄、果たして健在なりや?徳川家康服部半蔵配下の忍者を放って、その真相を探らせる。一方、死期を悟った信玄は、自らの喪を三年間かたく秘すべし―と言い遺した。大軍師・山本勘介の操る影武者たちを守るは真田忍者・猿飛と霧隠!武田家の命運をかけた伊賀忍者との死闘の顛末は―。

 

歴史小説としても優れた作品だが、面白い忍法が多数登場し、特に剣聖上泉信綱が時を止める超強力な忍者と戦うシーンはやたらかっこいい。ジョジョの「ザ・ワールド」と北斗の拳の「お前はもう死んでいる」がぶつかり合う屈指のシーンはバトル漫画好きなら悶死するだろう。

武田側の猿飛天兵衛と霧隠地兵衛も能力は結局不明でありながら、中二病心をくすぐり、その他登場忍者の忍法もそれぞれ存在感が強く忘れられないものが多い。さらに風魔小太郎も登場するなど面白要素は全開である。

ちなみにエロい。個人的にはちんこまんこな忍法陰陽転と忍法名は不明だが、女が小便している時に蛇が来て催眠術を書けるのがエロい。

 

 

八位  忍法八犬伝(1964年)

 

 安房里見家に代々伝わる家宝がスリかえられた!“忠孝悌仁義礼智信”の伏姫の珠に代わって残されたのは“淫戯乱盗狂惑悦弄”の偽珠。里見家取り潰しを目論む本多佐渡守の策謀であった。珠奪還に健気に奔走する村雨姫のため、甲賀卍谷で修行を積んだ八犬士の末裔たちは奮起する。だが、服部半蔵麾下の妖婉なるくノ一衆8人が立ちはだかり…。その忍法、凄艶絢爛。その筋立て、壮烈無二。反・道徳的にして忍法帖史上屈指の大傑作。

 

滝沢馬琴の『南総里見八犬伝』の八犬士の末裔がやたらエロくて強いくノ一八人衆と珠をめぐって争奪戦を繰り広げるエンタメ特化型の作品である。八犬伝の知識がなくてもまったく支障はない。

本作の魅力は何といっても、八犬士の末裔である八人の男たちのキャラが素晴らしいことである。勝手気ままにふるまう野郎たちが、村雨姫のために命を投げ出して戦って散っていく様はまさに忍法帖だ。

もちろんエロい。冒頭に八人のくノ一が踊りながらおま〇こで珠を鳴らし、中からべちょっと珠を落とすシーンで小生は射精した。また生体バイブVS生体オナホール(密閉型)という変態極まるエロバトルでは爆笑しながら射精させられた。

角川文庫版の京極夏彦の解説も素晴らしいのでかなりおすすめな一冊である。

 

 

七位  柳生忍法帖(1964年)

 

 会津大名、加藤明成は淫虐の魔王ともいうべき暗君だった。諌言の末、主家を見限った堀主水は妖異凄絶の武術を持つ会津七本槍を差し向けられ、一族郎党を惨殺されてしまう。唯一生き残ったのは、かよわき7人の女。父や夫の仇討ちを誓う女たちは、剣豪・柳生十兵衛の助けを借り、命懸けの特訓を始める。奔放無頼な十兵衛も陰ながら援護し、悪鬼のごとき敵を討ち果たすべく凄絶な闘いを挑む!十兵衛三部作の記念すべき第一作。

 

歴史/時代小説としてもエンターテイメントとしても非常に優れた作品で、本作を忍法帖のベストに挙げる意見を見受けるのも納得の作品である。

冒頭で鬼畜外道の大量虐殺シーンに始まり、復讐を誓った女たちが柳生十兵衛の助太刀を得て、人間離れした技を操る難敵である会津七本槍と知略によって一人ずつ葬っていく展開はめちゃくちゃ面白く、柳生十兵衛が超ピンチになったところを女たちが助けたり、女たちがみんな十兵衛に惚れてラブコメしちゃったりとTheエンタメである。ジョジョの第二部やHUNTER×HUNTERが好きな人なら100%楽しめるだろう。

もっと上位にしても良いくらいだが、魔界転生と同じく忍法帖としては異色作であることと、後半戦が前半とはだいぶノリが異なり、前半の方が面白いのでこの順位とした。

 

 

六位  忍法忠臣蔵(1962年)

 

殿中での吉良への刃傷沙汰により、浅野家は断絶され、赤穂浪士は仇討の機を窺う。一方、吉良方が頼りとする上杉家では、家老の千坂兵部が女忍者を用い、仇討防止に色仕掛けで浪士の骨抜きを企む。大石内蔵助が同志と密議の最中に、妖美と怪異の忍法が華と炸裂した!殺気と妖気が奔流のごとくに交錯する。

 

山田風太郎の奇想ここにあり!と断言できる伝奇小説。

日本人なら知らねば非国民となる忠臣蔵の裏で繰り広げられる、妖艶凄絶にして奇妙奇天烈な工作が描かれる。マジでどうしたらこんなことが思いつくのだろうという工作とは、忠義をとことん嫌う鬼強い忍者、無明綱太郎(2chなどでは山風強忍者ランクの上位)が赤穂浪士を上杉家の者から守りつつ、赤穂浪士の士気を削いで堕落させようと試みるエロくノ一たちを支援・監視するというものである。

史実に忠実な山田風太郎忍法帖なので結末がどうなるのかは分かっているのだが、それでも引き込まれる物語はさすがとしか言えない。もちろん物語の性質上クッソエロいです(笑)

 

 

五位  伊賀忍法帖(1967年)

 

 戦国擾乱の世。主君筋の御台、右京太夫に邪恋を抱いた梟雄・松永弾正は、幻術師・果心居士配下の根来鴉天狗に美女狩りを命じる。美女の愛液からなる強力な媚薬、“淫石”を作らせ、篭絡しようというのだ。その毒牙に掛かったのは、伊賀忍者・笛吹城太郎の妻、篝火。死してなお犯され、弾正の愛人と首をすげ替えられたと知った城太郎は復讐を誓い、一人苛烈な闘いを七鴉天狗に挑んでゆくが…。奇想極まる山風忍法帖の代表作。

 

これぞ王道というストーリーで、伊賀の若きイケメン忍者笛吹城太郎が超美人な婚約者を根来の化け物僧「根来七天狗」に殺され犯されたことで復讐を誓うという分かりやすい展開となっている.......のだがヤりたい放題のエログロMAXでかなりブッ飛んでいる。

物語の鍵となるのは”淫石”なる女の愛液(まんこ汁)煮て作る最強の媚薬と、根来七天狗の一人である羅刹坊が使用する切り離れた肉体を結合させる忍法壊れ甕である。忍法帖の中でも見事なエログロっぷりでこういうのが好きな人ならば惚れ惚れするだろう。

なかなか強い笛吹城太郎がクッソ強い七人の怪僧たちを葬っていく流れは、多対多が基本の忍法帖の中では読みやすく、熱くなれること間違いなしである。

 

 

四位  甲賀忍法帖(1959年)

 

 400年来の宿敵として対立してきた甲賀・伊賀の忍法二族。彼らは服部半蔵の約定によって、きわどい均衡を保っていた。だが慶長19年、家康によってついにその手綱が解かれる。三代将軍の選定をめぐる徳川家の紛争を、両里から選ばれた精鋭各10名に代理させようというのだ。秘術の限りを尽くし、凄絶な血華を咲かせる忍者たち。だが、そこには流派を超え、恋し合う2人の名も含まれていた…。

 

忍法帖の一作目にして最高傑作級の完成度を誇る奇跡的な傑作である。

多人数VS多人数、連携プレー、騙し討ち、異能の能力バトル、魅力的なキャラ、忍法帖独特のせつない読後感などこれぞ忍法帖といった要素を完璧に備えており、しかもすべてが高水準あるため、一作目にして完成してしまっている。

能力バトルの始祖となる作品にも関わらず、”敵意を持って攻撃してきた者を自滅させる瞳術”や”すべての忍術を無効化する瞳”、”不死の能力”など現代的なバトル作品でも通用しそうな能力や、汎用性の高い攻撃特化能力や隠密特化型の能力、くノ一ならではの妖艶なエロ忍法など、今読んでもなお新しい恐るべき普遍性を誇る。これが1959年に描かれた作品なんて信じられませぬ。

 

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⇩アニメ『バジリスク』のOP曲は忍法帖をいい感じに表現していて良い。


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三位  銀河忍法帖(1968年)

 

不敵な無頼者「六文銭の鉄」の活躍を描く、幻の傑作忍法帖!多くの鉱山を開拓し、家康さえも一目置いた稀代の傑物・大久保石見守長安。彼に立ち向かい護衛の伊賀忍者たちと激戦を繰り広げる不敵な無頼者「六文銭の鉄」の活躍を描く、爽快感溢れる忍法帖!

 

エンタメだけで評するなら一、二位を争うほど純粋に超面白い作品。

忍法帖は”愛すべきバカ”が活躍する作品ほど娯楽に特化している感があるのだが、本作の主人公「六文銭の鉄」はまさにその典型で、しかも基本は六文銭の鉄

VS伊賀忍者+美女親衛隊なので、笑える六文銭のキャラを満遍なく楽しめるというのが激アツだ。バトル小説としても他の作品よりかなり分かりやすい面白さとなっており、戦う伊賀忍者の背景が丁寧に描写され、いかに強い忍者なのかをもりもりアピールしてくるのだが、六文銭はなぜか知らんがやたら強く、”ワンパンマン”のごとくほぼほぼワンパンで敵を粉砕してしまうのだから笑ってしまう。大ボス役の大久保長安の絶妙なサイコっぷりもなかなかのもので、若さと精力絶倫の秘訣がグロ恐ろしい。

また六文銭の鉄の正体やヒロインというべき朱鷺の正体や真の目的が気になり、読む手を止められない傑作となっている。おまけに山風お得意の衝撃の真相も完備。ラストの美しさとせつなさはただ事ではない。(ただし想像すると強烈)

 

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二位  忍びの卍(1967年)

 

 時は寛永9年。三代家光の治世である。大老土井大炊頭の近習・椎ノ葉刀馬は、御公儀忍び組に関する秘命を受ける。伊賀・甲賀・根来の代表選手を査察し、最も優れた組を選抜せよというのだ。妖艶奇怪この上ない忍法に圧倒されながらも、任務を果たす刀馬。全ては滞りなく決まったかに見えたが…それは駿河大納言をも巻き込んだ壮絶な隠密合戦の幕開けだった。卍と咲く忍びの徒花。その陰で描かれていた戦慄の絵図とは…。公儀という権力組織を鮮烈に描いた名作。

 

はっきり言って超傑作である。

500ページ越えなのに登場忍者は三人のみ。しかも使う忍法が"舐めたところを性感帯にする"、"性交した女に憑依する"、"性交した女の血を刀に塗って敵にかけると肉を断つ"という意味不明なものにも関わらずよくもまぁこんなしっかりした戦闘が描けたものだと感激してしまうくらい濃厚な知的な戦いが続くのである。

連携プレイや忍術開発など本作ならではの魅力が詰まっており、ふざけていないのに爆笑させられるという素敵なシーンも多々ある。

ミステリ好きな読者であればあるほど二度読みしたくなる、想定外の結末は山田風太郎の本領発揮といったところだろう。本気でおすすめ。

 

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一位  風来忍法帖(1964年)

 

 天正18年、時は秀吉が北条を呑み込もうとしていた時代、混乱の世などどこ吹く風の戦場荒らしの風来坊、7人の香具師がいた。気侭な香具師稼業で奔放に日々を送っていたが、北条方の美貌の麻也姫に見咎められ、痛い目に遭わされる。復讐を誓い、麻也姫の貞操を狙う7人。だが、いつしか天真爛漫かつ気丈な彼女に惚れた彼らは、最強の忍者集団・風摩組を敵に死闘を挑む。機智と詐術の香具師忍法が繰り広げられる痛快奇抜な忍法帖

 

忍法帖の中でも娯楽性に特化しまくった究極のエンターテイメントである。

人間味あふれる魅力的な主人公たち、妖艶で献身的なくノ一軍団、超強い化け物級の風摩忍者&超絶忍法、史実をうまくアレンジした伝奇小説っぷり、分かりやすく激アツな展開、さわやかだがせつないラストなどの強力なエンタメ要素が、700ページ近い大作であるにもかかわらず、徹頭徹尾ダレることはなく一気読みさせる牽引力を生んでいる。

全体的に明るく爽やかな展開だが、愛液(まんこ汁)を使った忍法恋さみだれや男が女に化けることもできる忍法などエロさも凄く、風閂なる髪で何でも切断してしまう忍法がエログロを創出しているなど、安心の忍法帖クオリティを持っている。

なお本作のMVPはちんこがクソでかいせいで童貞という哀れな男馬左衛門である(泣)

 

 

4.山田風太郎の自作評価

 個人的なランキングは上記の通りだが、おまけで山田風太郎自身の評価も挙げておきたい。何となく風太郎評価はエンターテイメントとして優れていることよりも、時代小説としてまた文学的に優れた作品を高評価にしているような印象を受ける。

A評価作品

  1. 甲賀忍法帖
  2. くノ一忍法帖
  3. 忍者月影抄
  4. 忍法忠臣蔵
  5. 信玄忍法帖
  6. 柳生忍法帖
  7. 伊賀忍法帖
  8. 魔界転生
  9. 忍びの卍
  10. 笑い陰陽師

B評価作品

  1. 江戸忍法帖
  2. 外道忍法帖
  3. 風来忍法帖
  4. 忍法八犬伝
  5. 忍法封印いま破る
  6. 銀河忍法帖
  7. 海鳴り忍法帖
  8. 柳生十兵衛死す

C評価作品

  1. 軍艦忍法帖
  2. 自来也忍法帖
  3. 魔天忍法帖
  4. 忍法剣士伝
  5. 秘戯書争奪
  6. 忍者黒白草紙
  7. 忍法双頭の鷲
  8. 武蔵野水滸伝

その他の評価作品

 

なお講談社文庫と角川文庫から出版された傑作選の内、双方の出版社の傑作選に選出された以下の作品が読者から一般的に評価の高い作品なので参考までに挙げておく。

山田風太郎は永遠である

半世紀以上経っても読み継がれている忍法帖は、さらに半世紀経ってもおそらく読み継がれているだろう。これはすごいことである。

現代の忍者作品の超傑作NARUTOはものすごく面白いが50年後も読まれているかというと多分それはないだろう。もちろんその他大勢の能力バトル作品も怪しいものである。

少年誌の漫画に飽きてきた人が普遍性のある優れた能力バトル作品を欲するようになった時に、忍法帖は最大の選択肢となるだろう。

 

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