神本を求めて

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『NO.6』あさのあつこ|鬼畜外道の地獄ディストピア

児童文学だって?冗談キツい

 

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真のトラウマ鬱小説認定

作品紹介

 あさのあつこによる『NO.6』は2003~2011年に本編となる#1~#9、2012年に続編にあたる『NO.6 beyond』が講談社より出版された作品で、トータルで2000ページ級の大長編である。

 大ベストセラー『バッテリー』の作家であり、児童文学の作家として名高いあさのあつこだが、『NO.6』は果たして本当に児童に読ませても大丈夫なのか....と思うほど過激な内容であり、冒頭からガールフレンドが突飛なセリフを吐くなど、かなりいかれている。

単行本、文庫ともに9分冊されているため敷居が高く感じるかもしれないが、1冊の分量は概ね200ページ前後で、beyondまで含めても2000ページくらいなので読み始めてしまえば睡眠時間を削りまくる危険な徹夜本である。

不穏なディストピアの世界観に、謎が謎を呼ぶミステリ的展開、魅力的なキャラクターなど稀に見る大傑作として多くの方におすすしたい作品である。

 

 以下、あらすじの引用

 2013年。理想都市『NO.6』に住む少年・紫苑は、9月7日が12回目の誕生日であった。だが、その日は同時に彼の運命を変える日でもあった。『矯正施設』から抜け出してきた謎の少年・ネズミと出会い、負傷していた彼を介抱した紫苑だが、それが治安局に露見し、NO.6の高級住宅街『クロノス』から準市民の居住地『ロストタウン』へと追いやられてしまう。

4年後、紫苑は奇怪な事件の犯人として連行されるところをネズミに救われ、彼と再会を果たす。NO.6を逃れ、様々な人々と出会う中で紫苑は、理想都市の裏側にある現実、『NO.6』の隠された本質とその秘密を知っていく…。

 

NO.6♯1 (講談社文庫)

NO.6♯1 (講談社文庫)

 

 

 読み始めたきっかけ

 著者のことはさっぱり聞いたことがなかったのだが、私が最も好きな作品である貴志祐介の『新世界より』が好きな人へのおすすめとしてネットサーフィンする中でちらほら目にしていた。

 気にはなっていたが9分冊+1冊の大長編ということもあり、用心深く調べまくってみたところ児童文学の作家ということが判明し、他の代表作品を見ても明らかに児童文学という印象を受けたため躊躇していたのだが、日に日に気になる度は上がっていき、よくよく見てみたら1冊1冊の分量はわずか200ページ程度だと知り、さらに文庫版の装丁が美しいことも後押しになり読むことに決めた、という経緯である。

 高い期待値だったにもかかわらず、期待を裏切るどころか超えてきた素晴らしい物語だった。

 

『NO.6』の悪い点

 私は『NO.6』に完全に魅入られてしまっており、べた褒めしてしまいそうなので、先に本作の欠点を挙げてみたい。

  1. 分冊し過ぎ
    単行本であればもともと分冊され、時間を空けて刊行されてきたので文句の付けようがないのだが、文庫版も9分冊してしまうのはちょっとやり過ぎだと思う。
    文庫版は文庫用の著者あとがきがあるのだが、なぜか全巻についているわけではないため、450ページの4分冊+beyondにした方がスッキリしたとは思う。

  2. 謎にBL
    『NO.6』はなぜかボーイミーツボーイという誰得要素が極めて濃厚である。
    BLであることに意味を見出せるのならどんどんBLしちゃっても構わないのだが、本作においてはまったくと言っていいほど意味が見いだせない。
    まぁ著者がホモ好きなのだろう。某シーンなどトリハダが立ってしまいましたわい。
    こういうのが好きな人...腐女子かゲイであれば、大きなプラスポイントであることは言うまでもない。

欠点と言ってもこれぐらいか。ただBLのせいでそれなりに人を選ぶ小説になっているのはかなり深刻なデメリットだと言えるだろう。 
(BLやるなら百合も入れてくだされいッ!)

 

世界観最高

 聖都市と称される理想都市『NO.6』....という言葉を見ただけでテンションが上がってくるのがSFやRPG好きの宿命だろう。

終戦争によって地球上に人間が住めるエリアはほとんど残っておらず、残された地に6つの理想的な都市国家を創造したという設定の時点で、ハァハァしそうなのに壁に囲まれた理想都市の外側にはスラム街のようなエリアがあったりと『NO.6』の世界観は魅力に溢れている。

そんな世界に正体不明の寄生生物や用途不明な施設、都市国家の成り立ちに秘められた謎といった不穏なミステリ要素がこれでもかというほど詰め込まれているのだから悶絶必至である。

 

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こういうSF的な都市はたまらん

 

魅力的なキャラクター

 大長編かつ規模の大きな物語である割には登場人物は少なめで、それぞれがとても個性的で魅力のある良キャラである。キャラの良さは物語で最も大事な要素だと思っているので大きなプラスである。

まじめでお坊ちゃんだけど、やることはやる天然ボーイの主役・紫苑。

男版ツンデレの決定版・ネズミ(またの名をイブ)

隠れツンデレ萌えキャラ・イヌカシ

いいおっさん・力河 といった中心人物は本当にみんな良いキャラしている。

性別を意識させない人物が多い中、貴重な女性キャラ....というかヒロインの出番がやけに少ないのがちょっと残念だが、このヒロインもいい仕事をしている。

 

欲しいものは精子

 『NO.6』は序盤から児童文学だと考えるのをやめさせる会話がある。

 

女(16歳)「わたし、あなたから貰いたいものがあるんだけど

男(16歳)「うん。今からでも間に合うなら

女(16歳)「精子

女(16歳)「聞こえた?あなたの精子がほしいの

男(16歳)「あ・・・・え? ・・・・・あの

女(16歳)「セックスしたい

 

 対象年齢が低めな作品だと認識していたのだが、このセリフのおかげで「あっ...これなら大丈夫だ」と安心したのは言うまでもない。

 おませな小学校高学年からSFおじさんまで実に幅広く対応しているので、私がそうであったように児童向けだからという理由で忌避している方はご安心だ。

 

情け容赦ないサバイバル

 理想都市の壁の外側にある西ブロックというスラム街はまさに生きること自体がサバイバルな状況で、そこで描かれる過酷な環境下での生存競争はから学ぶことはとても多い。

何かを学ぶために小説を読むといった意識高い系的な愚行は避けたいものだが、『NO.6』からは確かな価値があることが学べるので、こういった観点からは小学生(高学年)であればおすすめしたくなる。

 

以下、少々本編の内容に触れるかも

 ネタバレになるようなことは控えるつもりだが、何一つ知らないで読みたい方はここで退散されることを推奨します。

 

アウシュビッツ級の地獄絵図

 『人狩り』と称した西ブロックでの虐殺兼誘拐と、強制施設で待つ地獄のような処遇は手加減なく本気で阿鼻叫喚の地獄絵図を見せられることになる。

老若男女問わず情け容赦なく残虐に虐殺されたり、瀕死の重傷を負いつつ死にきれない人間が殺してほしいと懇願してきたりと鬼畜この上ない。

そして地獄の先に待つもの......目も当てられないほど悲惨な結末が待ち受けているのである。

 小学生の時に某鬱RPGで強烈なトラウマを背負うことになったのだが、『NO.6』もそれに勝るとも劣らない極悪非道にして鬼畜の所業である。

読んでる時から最悪の結末は予想できていたのだが、もうちょっとマイルドかなと思っていたら想定を遥かに超えてきて唖然。

直接的なことは書かれていないからセーフなのかもしれないが、これは小中学生でも想像できてしまうだろうな....。

 著者は悪趣味な方向で本気を出しまくっているのでぜひとも体感してみてほしい。

 

謎はしっかり回収される

 ラストが近づいてくると「あれ....残りのページ数少ないけど大丈夫か」という不安に包まれた。これは他の読者も感じたことと思う。

ちょっと失礼なことを書いてしまうかもしれないが、個人的に女性作家は論理的にすべての伏線を回収して、きれいに大団円を迎える...ということをあまりしない傾向があるように思っている(ごめんなさい🙇)

だからこそ残りのページ数に冷や冷やしたものだが、結果的に提示されていた謎はすべて解決しているし、あっさりしてる感はあるもののとてもうまく締めくくられていると思う。

謎は解決しつつ、今後の動向について妄想の余地を残しまくる....いいですな。

 

『NO.6 beyond』

 

 “NO.6”が崩壊してネズミは去り、紫苑は留まった。紫苑は再建委員会のメンバーとして、国家の激変を目の当たりにする。何があっても変わらないでくれと、紫苑に哀願して旅にでたネズミの真意とは何だったのか?遙か遠くの荒野からネズミの心は紫苑に寄り添う。瓦解した世界のその後を描く、真の最終章。

 

本編の続編にあたる各キャラ視点の短編集。

『NO.6』はラストからが始まりといった作品なので、続きはいくらでも書けそうな感じがするのだが、コンパクトにまとめて来たといったところだろう。

正直物足りないし、蛇足感もないわけではないが本編を読まれたのならとりあえず読んでおくべき内容である。

ちなみにイヌカシ→ネズミ→紫苑→ネズミの物語で、イヌカシの話はとても良い萌えである(笑)

 

 

紛れもない超傑作

冒頭にも書いたが、私は貴志祐介の『新世界より』のような物語を求めて『NO.6』に出逢ったわけだが、結果的には万々歳。評判通りのどころか、予想以上に楽しむことができた。 

 『新世界より』のような作品を求めている方には自信をもっておすすめしたい。面白さは保証する。(合わなくてもクレームは受け付けませんが笑 )