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『星を継ぐもの 三部作』ジェイムズ・P・ホーガン|ハードSF×本格ミステリの至高

最高のハードSFにして超スケールの本格ミステリ

 

創元SF文庫の顔

作品一覧

『星を継ぐもの』は三部作で三作目の『巨人たちの星』で物語大団円を迎えるが、四作目以降も続きがある。すべては翻訳されていないが参考までに記載しておく。

作品紹介

『星を継ぐもの』は三部作であり、最も有名な第一部は文庫版で300ページ程度のコンパクトな尺(といっても創元SFなので文字数多め)の中で、月面で発見された真紅の宇宙服を着た人間らしき生物の遺体。その遺体は5万年前のものだった。というまさに宇宙最強の謎が提示される。そんな超魅力的な謎を各方面の科学者たちがあーでもない、こーでもないと揉めながら解き明かしていくのである。壮大なSF小説なのにノリはまさに安楽椅子探偵推理小説のようでもある。

続く第二部の『ガニメデの優しい巨人』は木星の衛星ガニメデで発見された2500万年前の宇宙船を調査していると、なんとその宇宙船を造った異星人に遭遇するというファーストコンタクト作品である。こちらも300ページそこそこの尺で第一部に勝るとも劣らない謎解きがある。

そして最後の『巨人たちの星』ではこれまでの2作品とはガラッと作風が異なり、宇宙スケールのスパイ/サスペンス小説のような趣が出てきて、ボリュームも500ページ近い大作となり、これまでの伏線をすべて回収して盛大なフィナーレを迎えるのである。

ハードSFとしても本格ミステリとしても並ぶ作品がないほど高い完成度を誇り、SFのセンスオブワンダーも全開なので、少々難しい部分もあるが普段小説を読まない人でもまずは第一部だけでも教養として読んでいただきたい。

 

星を継ぐもの

あらすじの引用

月面調査員が真紅の宇宙服をまとった死体を発見した。綿密な調査の結果、この死体は何と死後五万年を経過していることがわかった。果たして現生人類とのつながりはいかなるものなのか。やがて木星の衛星ガニメデで地球のものではない宇宙船の残骸が発見された……。ハードSFの新星が一世を風靡した出世作

 

 

小説好きになるきっかけとなった作品

『星を継ぐもの』は私にとって非常に思い入れのある作品である。私は昭和末期生まれの人間なので、高校生時代にはまだインターネットでの情報収集がそこまで有効ではなかった(と認識している)。当時からSFとホラー好きだったので角川ホラー文庫を中心にちょこちょこ小説を読んではいたのだが、読書する人は周りにほとんどいなかったし、ましてや神林しおり(バーナード嬢曰くのSFマニア)ような生き字引がいるはずもなく、何から手を出してよいのか分からなかった。

そんな状況から大学に上がり、幸い近くに神保町の三省堂があったため隅から隅まで本屋を徘徊して手に取ったのが『星を継ぐもの』だったのである。ちなみにその時他にもダン・ブラウンの『ダ・ヴィンチ・コード』と乙一の『ZOO』も買った。どうでも良いけどやたら覚えている。

言うまでもなく『星を継ぐもの』は映像化作品では決して味わうことのできない読書の楽しみを教えてくれて、私を小説好きに変えてしまったのである。まさに人生に影響を及ぼした記念碑的な作品なのである。

 

小野不由美女史曰く

私が崇拝している作家の一人、主上こと小野不由美女史がかつて本の帯に以下のコメントを書かれていたので引用する。

 

SFにして本格ミステリ
謎は大きいほど面白いに決まっている。


謎は大きいほど面白いに決まっている....これはまさに超名言だ。なぜならその通りなのだから。(規模の小さい謎を扱う館シリーズでお馴染みの夫がいるのにそんなこと言っていいのか?と苦笑)

私は最初に読んだ本格ミステリが『星を継ぐもの』なので、以降本格ミステリに対する評価が極めて辛辣になってしまい、大半のミステリがちっぽけで残念なものに感じるようになってしまった。

 

超魅力的な謎

月面で発見された真紅の宇宙服を着た人間らしき生物の遺体。
その遺体は5万年前のものだった。

こんな魅力的な謎が提示された時点で、本作が傑作であることは確定している。散々ミステリー小説を読んできたのでこんなことは言いたくないが、正直言って殺人事件とかトリックだやらアリバイなんて超くだらない。だって小さいんですもん。謎が。はっきり言ってどうでもいい。

では月で見つかった5万年前の人間の遺体といったらどうだろう。めっちゃ気になるではありませんか。謎は大きいほど面白いし、不可解であればあるほど惹き付けられるのも当然なのだ。『星を継ぐもの』が提示するこの謎は大きさ、不可解さ共に最高峰である。

 

謎が謎を呼ぶ

科学者達が月の人『ルナリアン』が持っていた手帳を元に謎を解いてたら、木星の衛星ガニメデの地下で2500万年前の宇宙船を発見してしもうた......もう( ゚д゚)ポカーンである。
ルナリアンの正体を追えば追うほどこれでもかと言うほどさらなる謎がぶちまけられてくる。ざっと挙げただけでも以下の超壮大な謎がある。
 
  1. 「謎に包まれたプロローグ」
  2. 「月の裏側の戦闘基地」
  3. 「超破壊兵器」
  4. 「ルナリアンの月と母星の戦争」
  5. ノアの方舟の如き謎の宇宙船」
  6. ホモ・サピエンスの起源」

 

そんな解読不能だと思われる途方もない謎も、ある仮説に当てはめると綺麗に筋が通るのだから驚きだ。ルナリアンの正体が分かった時の感動といったら....ぜひ味わってほしい。

知る人ぞ知る月の裏側。本書でこのキモさの理由が解明される。

我は〇〇人なり

本作のラストは鳥肌ものである。何故ホモ・サピエンスは地球を支配するに到ったのか。私はこの話はフィクションではなく事実だと認識するようにしている。
何故ならその方が人生面白いからだ。

地球上の生物を見ると思う。「我は○○○○○人なり!!」と。

しかし著者のジェイムズ・P・ホーガンは本当に天才としか言いようがない。1978年当時の情報から、”月の裏側で見つかった人間のような遺体”というフィクションに、つじつまのあう理論を組み立ててしまうのだから。

 

残りまくる謎

ルナリアンの正体は分かった。しかしガニメデの2500万年前の宇宙船は一体何なのだろうか?またルナリアンの戦争は何がきっかけだったのか?そもそもルナリアンの進化の秘密とは一体?謎は残りまくるが次作でさらなる謎の解明に挑み、最終作では何もかもが完結する。
最終作まで読めば『星を継ぐもの』も『ガニメデの優しい巨人』自体が壮大な伏線と言えるほどの感動的な仕掛けが明かされる。SNSなどで情報を得ていると、おそらくかなりの方が第一部だけ読んで続きは読まないというパターンに陥っているように思うのだが、それはあまりにももったいない。なぜなら第二部も素晴らしいハードSF×本格ミステリだし、第三部まで読めばシリーズ全体の完成度が跳ね上がるような驚きの仕掛けがあるからである。

 

ガニメデの優しい巨人

あらすじの引用

木星の衛星ガニメデで発見された異星の宇宙船は二千五百万年前のものと推定された。ハント、ダンチェッカーら調査隊の科学者たちは、初めて見る異星人の進歩した技術の所産に驚きを禁じ得ない。そのとき、宇宙の一角からガニメデ目指して接近する物体があった。遥か昔に飛びたったガニメアンの宇宙船が故郷に戻って来たのだ。

 

こいつは異星の優しくない巨人

※以下は必然的に多少のネタバレを含むためご注意を

冒頭から超ハードSF

第二部についてどう書こうか迷う。なぜなら第二部は完全に『星を継ぐもの』で導かれた結論の延長線上にある話だからである。

SNSをやってるとよく見る「何を書いてもネタバレになっちゃう♥」的な思考停止発言は大嫌いなのだが、『ガニメデの優しい巨人』は文字通り何を書いてもネタバレになってしまうのである。そのため書ける内容はかなり限定されるのだが、許される範囲で内容に触れていく。

そしてプロローグ。これがもういきなりSF好きなら脳内麻薬全開な幕開けなのである。宇宙船に乗った科学者的な人たちが恒星イスカリスが超新星爆発を起こす!逃げなきゃ!!でも逃げるには超高速で飛ぶ必要があるのだが、減速装置が壊れているので、このまま自然原則に任せて飛ぶんじゃ相対性理論やらなんやらで何百万年も時間が経過してしまうぜ!!(泣)な感じなのである。掴みはOK。『星を継ぐもの』から間髪入れずに読んでいる方なら誰の話なのか分かるだろう。

ちなみに私が初めて読んだ時に感動したのはこの宇宙船の推進力である。様々なSFで核融合エネルギーで飛ぶような描写は目にするのだが、この宇宙船は飛ぶというよりも人為的にブラックホールを発生させて、そのブラックホールに超高速で無限に落ち続けるという理論らしい。いやー....すごいよ。

 

優しい巨人とファーストコンタクト

第一部にて木星の衛星ガニメデで発見された2500万年前の宇宙船を調査していると、なんとその宇宙船を造った異星人に遭遇してしまうのである。

そしてタイトルの通りこの異星人たちは諸々の理由があって非常に優しく、 異星人ガニメアンの底抜けの優しさの理由に始まり、ホモサピエンスとガニメアンの関係、2500万年という空白の時間の謎を、地球の学者コンビ×異星人の圧倒的な科学力と人工知能ゾラックにより、またしても論理的に解明していく流れは前作同様に知的好奇心を刺激されまくる。

人類の真の起源、星を継ぐものとは何か、母星にいたガニメアンに何があったのか。このような魅力的な謎が明らかになった時、大きなセンス・オブ・ワンダーに包まれること間違いなしである。全編に渡りと~っても平和なのが愛おしい。

 

魅力的なキャラ達

前作では主に原子物理学者のヴィクター・ハントと生物学者のクリスチャン・ダンチェッカーがホームズとワトソンならぬ、ホームズ×ホームズ体制でミステリーに挑んでいったわけだが、第二部以降はパーティメンバーにガニメアンのガルースとシローヒン、そしてガニメアンの超AIゾラックが加わり、みんな良キャラなので第一部よりもキャラモノとしては面白いだろう。

特に圧倒的な計算力をもつゾラックが地球人が苦労して解き明かした謎をあっさり解いてしまったりする時のやりとりは面白い。

 

なお『ガニメデの優しい巨人』は新たなSFのマスターピースとなりうる、アンディ・ウィアーの『プロジェクト・ヘイル・メアリー』とノリが似ている部分がある。どちらかの作品が好きな方は、絶対にもう片方も好きになるはずなので、気になる方はチェックしていただきたい。

kodokusyo.hatenablog.com

 

巨人たちの星

あらすじの引用

冥王星の彼方から〈巨人たちの星〉のガニメアンの通信が再び届きはじめた。地球を知っているガニメアンとは接触していないにもかかわらず、相手は地球人の言葉のみならず、データ伝送コードを知りつくしている。ということは、この地球という惑星そのものが、どこかから監視されているに違いない……それも、もうかなり以前から……!! 5万年前月面で死んだ男たちの謎、月が地球の衛星になった謎、ミネルヴァを離れたガニメアンたちの謎など、からまったすべての謎の糸玉が、みごとに解きほぐされる。前2作で提示された謎のすべてが見事に解き明かされる。《巨人たちの星》シリーズ第3部。

 

 

物語はまったく予想外の展開へ

前作とは打って変わって不穏な空気が漂う三部作の最終作である。いよいよ前二作のネタバレに触れずに書くのは不可能になってきているので端的に書いていく。

まず今回も相変わらず本格ミステリの要素は残っているし、物語の構成は完全にミステリのそれである。またハードSFとしても相変わらず凄い。しかし今回は政治やスパイ/サスペンスといったこれまでとは真逆の作風に変貌するのである。

『巨人たちの星』で提示される謎は、現在のガニメアンの状況はどうなっているのか。かなりヤバい状況っぽいけどいったいどうなっているのか。というものである。またその謎に挑む中で前二作で明らかになってきた事実の真の解決篇がなされる。

宇宙規模の陰謀と戦争という圧倒的な規模の物語の中で、一作目から張り巡らされていたありとあらゆる謎が解明され、迎える大団円は衝撃という言葉すら生温い超絶なものでなのある。

 

複数勢力がそれぞれの思惑で動く

今回は物語の性質上、登場人物がかなり多いうえに、複数勢力がそれぞれの思惑で行動するため整理しながら読まないと、途中で何がなんやら分からなくなる可能性がある。

私は小説を読む時にどんな複雑であろうともメモを取ったりしながら読むことなんてしないのだが、『巨人たちの星』は今のところ人生最初にして最後、ただ一度きり本気でメモを取って図を書いて整理しながら読んだという点で本作は思い出深い。

丁寧に読む価値がある本なんてほんの一握りだと思うし、今後もメモを取り図を書いて読む本なんてお目にかかれないかもしれないと考えると、本当に貴重な読書体験になった。一作目からぶっ続け出読んですべての真相を目の当たりにすると「うおぉぉぉぉぉぉーーーーーーッ!!」となること間違いなしである。超どんでん返し、圧倒的な伏線回収に酔いしれてほしい。

 

ちなみに『巨人たちの星』はSF永遠の今日傑作として語り継がれるであろう『三体』に近い印象を受ける。巨人たちの星が好みであれば三体も必ず読もう。

kodokusyo.hatenablog.com

 

最後におまけ...というかアドバイス

本シリーズはめちゃくちゃ面白い。しかし唯一の弱点と言ったら、版を重ねた古い創元SF文庫のため、活字が小さくフォントもお固くて読む気が失せることだ。(東京創元社様ごめんなさい)最近重版がかかったものなら微妙に活字が読みやすくなっているが、それでも読書慣れしていない人には敷居が高い印象を受けるかもしれない。

しかし電子書籍という近代兵器を使えば、おそるるに足らずである。私は『星を継ぐもの 三部作』は紙の本も所有しつつ電子書籍で読んだ。....すごい読みやすかった。

ということで紙の本で無理ゲーだと感じた方は電子書籍をおすすめしたい。私はH・P・ラブクラフトの『ラブクラフト全集』も電子書籍で読み申した。

 

これぞまさしく文明の利器

 

センス・オブ・ワンダーの宝庫

インターネット経由で情報収集がしやすくなった今では、おそらく読書に興味を持った方の多くが早い段階で『星を継ぐもの』を目にするだろう。

読書慣れしていない人には、年季の入った翻訳書であったりハードSFということもあり、少々敷居が高いかもしれないが、むしろミステリ慣れしていないという点で、大きな感動が得られることは間違いない。センス・オブ・ワンダーの宝庫を味わってほしい。