滅びゆく世界の群像劇
作品紹介
恒川光太郎による『滅びの園』は2018年に出版された作品である。
文庫版は350ページ程度の長さなのだが、倍の尺にしても通用するのではないかというくらい、様々な要素が詰め込まれているので大長編を読んだような読後感が待っている。
著者のお得意分野といえば、読者を”ここではないどこか”誘う幻想的な異世界の描写だが、『滅びの園』でも例外ではなく、異世界ファンタジーの世界を描いている。しかしファンタジーに加えて本作では思弁SF(哲学的なSF)やパニックSFといったタイプのSFの世界観も両立させている。
異世界転生ものと生物パニックというよくあるパターンを合わせたようなものでありながら、著者の独自の設定や世界観により唯一無二の作風することに成功している。
重い物語でありながらもライトノベルのように読みやすい平易な筆致で描かれるため、SF慣れしていない人でも抵抗なく楽しむことができるだろう。
以下、あらすじの引用
わたしの絶望は、誰かの希望。ある日、上空に現れた異次元の存在、<未知なるもの>。それに呼応して、白く有害な不定形生物<プーニー>が出現、無尽蔵に増殖して地球を呑み込もうとする。少女、相川聖子は、着実に滅亡へと近づく世界を見つめながら、特異体質を活かして人命救助を続けていた。だが、最大規模の危機に直面し、人々を救うため、最後の賭けに出ることを決意する。世界の終わりを巡り、いくつもの思いが交錯する。壮大で美しい幻想群像劇。
本を開けばいきなり異世界
『滅びの園』にはまるで無駄がない。無駄を徹底的に削ぎ落しているからこそ読みやすく創造(妄想)の幅が広がる。
物語は仕事に疲れすべてがイヤになった普通のサラリーマンが電車に乗っているシーンから始まる.....と思いきやいきなり異世界。展開がめちゃくちゃ早い。
謎に包まれた西洋のファンタジーっぽい異世界であんなことやこんなことをしながらまったり過ごしていると、元いた世界が大変なことになっているということを知り、滅亡の群像劇は幕を開ける。
展開は早いし内容は衝撃的で独創的。100ページにも満たないうちに、読者は心は完全に異世界に囚われていることだろう。
謎の生物が地球を破滅に導く
群像劇であるため別の人物の視点になり、すべてを飲み込む謎の不定形生物プーニーが大量発生し滅亡の危機に瀕する地球へと舞台が移行する。
このプーニーがかなり不気味で、生物に対してある気持ち悪い作用を及ぼし死に導くのだが、なんといってもその描写がキモくて怖いんです。
恒川光太郎は異世界ファンタジー作家という印象が強いが、そもそもは『夜市』で日本ホラー小説大賞の大賞を受賞してデビューしたホラー作家である。
『夜市』収録の「風の古道」では和風ファンタジー的な世界観の中にも、かなり不気味な描写があり、「あぁ...やはりホラーなんだな」と思ったものだが、そのようなホラー手法は健在で『滅びの園』でもキモ怖全開である。
またプーニーに対する抵抗値や、それに付随するラノベ的特殊能力といった中二病的な要素が、エンタメ要素を大きく高めている。
異世界神風特攻
地球を救うためにあんな策やこんな策を練ったうえで、決行される作戦がまぁ面白い。
他の著者の作品を挙げるのはアレかもしれないが、同じく日本ホラー大賞出身の作家ということであえて挙げてしまうと、貴志祐介の『新世界より』や『ダークゾーン』を合わせたようなテンション上がりまくりMAXなシーンがあるし、さらに挙げるなら貞子でおなじみの『リングシリーズ』三作目の『ループ』的な激アツ特攻は戦闘開始前からせつなくなってしまう。
書こうと思えばいくらでも濃厚に書けそうなシーンをあえてなのかどうかは知らないが、妙にあっさり描いているのは妄想が捗りまくってしまうのです。
最後も一筋縄ではいかない
地球VS異世界の結果がどうなるかは読んでみてのお楽しみだが、戦闘終了後もあれこれあってただじゃあ終わらない。
私は小説を読む時に何かを深く考えたりはしないのでよく分からないのだが、何かいろいろな問いかけを読者にしているのかもしれない。
このあたり、読書しながら思索に耽るのが好きな方にはたまらないかもしれないが、そうでない方はスルーしてしまうかもしれない。文庫版のSF総大将、池澤春奈さんによる解説が他の古典的傑作SFを挙げながら素晴らしい解説をされているので、細かいことを気にせず読んでしまってもしっかりアフターフォローがあるので安心だ。
駄文になってしまった
生涯に読んだ本の中でもかなり高い評価をくだした作品なので、ノリノリで文章を書き始めたものの、どういうわけか筆がまったく乗らない。
なんでだろう....どうもこの物語は感想をうまく文章にできない。群像劇なので一人一人の登場人物を深く掘り下げて、”未知なるもの”やプーニーの設定をより詳細に書いてくれていれば気合が入った記事が書けたのかもしれないが、前述の通りかなり壮大で重い物語にも関わらず全体的にとてもあっさりしているのでどうも文章にしずらいのである。深く書こうとするとネタバレ全開になってしまうし。
ということでグダグダ書くのはやめて締めの一言。
超面白いのでおすすめです。
以上。
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