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古代エジプトにタイタニック号のミステリー|『水晶のピラミッド』島田荘司

ピラミッドにタイタニック号?

作品説明

 島田荘司御大による『水晶のピラミッド』は講談社から1991年に出版された作品である。文庫版のページ数は解説込みで750ページ近い大ボリュームである。

御手洗シリーズの7作目でありヒロイン松崎レオナが前作以上に活躍する。前作『暗闇坂の人喰いの木』で披露した島田荘司独自の本格ミステリーにさらに拍車がかかっており、話は古代エジプトやなぜかタイタニック号、ピラミッド論にまでおよぶため、もはや推理小説という枠に収まっていない。

さらにレオナのキャラもますますエキセントリックになっているため、好き嫌いが分かれる作風かもしれないが、ミステリーを本来の意味でとらえるなら『水晶のピラミッド』こそ真のミステリーと言えるだろう。

 

以下、あらすじの引用。

エジプト・ギザの大ピラミッドを原寸大で再現したピラミッドで起こる怪事。冥府の使者アヌビスが500年の時空を超えて突然蘇り、空中30メートルの密室で男が溺死を遂げる。アメリカのビッチ・ポイントに出現した現代のピラミッドの謎に挑む名探偵・御手洗潔。壮大なテーマに挑んだ本格推理の名作。

 

水晶のピラミッド (講談社文庫)

水晶のピラミッド (講談社文庫)

  • 作者:島田 荘司
  • 発売日: 1994/12/07
  • メディア: 文庫
 

 

一線を画したミステリー

 『暗闇坂の人喰いの木』に続いて探し求めていた本に出会えた...もう島田荘司の本しか読みたくない!!そんな気持ちにならざるを得ないような、あまりにも素晴らしすぎる内容である。

こう言っては何だが、殺人事件があって探偵が解決するといったような話は正直言って超つまらないと私は思っている。「警察が来るまでみんなでゲームでもして待ってればいいじゃん....探偵って(笑)」という感覚なのだ。

そんな人間にとって『水晶のピラミッド』は本当に素晴らしい。何といっても200ページ過ぎまで延々と古代エジプトの話とタイタニック号の船上の話が続くのだから。

そもそもミステリーとは難解な殺人事件といったようなものではなく、宇宙や超古代文明オーパーツ、さらにはUFOやUMAといった人智の及ばないものだと考えている。謎は大きいほど良い....と小野不由美さんも言っていた。

本格推理小説を求めて本書を手に取ったのならやや肩透かしを食らうかもしれないが、純粋に謎や物語を求める人には至高の作品になるはずだ。

 

⇩まずはコレでも聴きなされ、エジプトとデスメタルは相性良好!


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気分はスッキリされただろうか?それでは本作を褒め讃えよう。

 

古代エジプトの悲恋

開始早々いきなり文体が変わって「マーデュ」という地の話が始まり、ほとんどの人はなんじゃこりゃとなってしまうものと思われる。

そして読まれた方はこの話に引き込まれまくることになると思うのだが、私は引き込まれたどころではなくディッカに憑依してしまったかのごとく、古代エジプトに魂が逝ってしまった。

本編とどう関係するか不明だがやたら気合の入ったサイドストーリーは島田御大の十八番であり、圧倒的な筆力も相まって下手したら本編以上に話にのめり込むことになるかもしれない。

この古代エジプトエピソードが『水晶のピラミッド』にどう関わって来るのか半端なく気になりまくりながら狂ったようにページをめくり続けてしまうだろう。

 

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古代エジプトエピソードはジョジョ3部でいうとこんな感じだ

 

タイタニックの悲劇

 まずはコレ。

 


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古代エジプトのエピソードと交互にタイタニック船上の話が進むのだが、「俺は一体何を読んでいるんだ?」という状態になった。

しかもこのエピソードも強い臨場感を伴う素晴らしい筆力で描かれているため、名作映画『タイタニック』の映像が頭に蘇りまくり、とても悲しくなると同時に魂がタイタニックの船上に飛んで逝ってしまった。

しかし本当に気になるのは、エジプトの話と言いタイタニックと言い一体事件に何の関係があるんだ!?ということである。

未だかつて味わったことのない猛烈な好奇心センサーを刺激されてしまったのだが、ここまで物語に引き込まれるなんて滅多にない。島田御大は読ませる力が強大過ぎる。

ちなみに映画タイタニックのシーンが頭に浮かぶほどの描写なのに、映画公開よりずっと前に『水晶のピラミッド』が発表されていることにびっくり。

 

尋常ではない怪事件

なんとなく『斜め屋敷の犯罪』の様なハイパーなトリックを匂わせる。
実際にクフ王のピラミッドの謎に対する島田流の解釈を反映したかの様なウルトラトリックが炸裂するのだが、本作の事件の強烈さはこの大技による一発芸には留まらない。

間違いなくすごい事件だが、個人的には古代エジプトタイタニックのエピソードがどう関わるのかとピラミッドのミステリーが気になり過ぎて事件はそっちのけだった。

暗闇坂と同様にかなり事件が撹乱され、ややアンフェアな感じなので、この事件を看破した人はいないと思うのだが、もしいたらきっと宇宙人なのだろう。

クフ王のピラミッドを模したピラミッドの、高い位置にある部屋で、なおかつコレでもかと言うほどの密室で男が死んだ。しかも死因は溺死ときた。
 

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犯人はアヌビスの暗示のスタンドか!?
 

ヒーローは遅れて登場する

前作で活躍したスーパースター・レオナの要請で御手洗が登場するのは、まさかの400ページを過ぎてから。しかも登場してもヤバイくらいの鬱状態でイヤな奴全開モードである。しかしこの鬱モードの御手洗のヤル気なさは酷すぎて逆に笑えてしまった。

レオナの気合で少しずつヤル気になった後はもう最高だ。エジプト紀行にて私自身好きでたまらないピラミッドのミステリーの薀蓄とそれに対する御手洗の考えがあるのだが、ここは本当に面白過ぎた。なるほど島田御大はそのように考えておられるのか、と。事件の舞台アメリカでも、大冒険やらトリック解明のための大実験など最高過ぎる。

それと毎回御手洗の女性論には激しい同意と失笑を経験するのだが、今回もたまらない。以下、本作最大の迷言。
(登場したのは石岡君の回想)

女性の典型、すなわち表面的には必要にして十分だけ優しげで、他者への思いやりに充ちているように見せているが、その実一円も損をすまいと絶えず身構えている図太い利己主義者

毎回ホントにひどいことを仰る.....とか思いつつも以前心理学の本でこんなことを読んだ。「デートの後にその女とセックスしたければ、ディナーは割り勘にすべし」。それはすなわち割り勘のまま解散したら元が取れないという、汚い女性心理によるものである。それにしてもレオナにモテる御手洗の振る舞いは面白い。そしてレオナは不憫だ.....

 

御手洗シリーズにはめずらしい仕掛け

ネタバレになるので詳細には触れないが、正直今回の事件のトリックは見え見えで、簡単だったな...ヘヘッとか思っていたのだが、完全に騙された。

騙されたといってもヤケに簡単だったうえに、いろいろと曖昧な部分があったため、本当にこんなんで良いのかな...と思っていたらやはりそんな訳はなかったのだ。

本作の仕掛けが新本格の作家たちがやりがちな叙述トリックを使った衝撃のラスト的な、あっと驚くものではないのに好感が持てる。島田御大はやはり神なのだ。

個人的には〇〇が✕✕だった!!的な一発芸の叙述トリックは邪道であると考えているので、本作のような仕掛けはウェルカムである。

 

ゴッドオブミステリーは止まらない

島田御大が提唱する「21世紀本格」という、”ミステリーとは、脳の科学小説だ”という思想が『水晶のピラミッド』では大爆発しており、以降の作品ではさらに凄まじいものになっていくのだからたまらない。
本作を読んで血沸きに肉躍った方は以降の作品をゴリゴリ読み進めることをおすすめする。

 

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水晶のピラミッド (講談社文庫)

水晶のピラミッド (講談社文庫)

  • 作者:島田 荘司
  • 発売日: 1994/12/07
  • メディア: 文庫