神本を求めて

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『三体 三部作』劉慈欣|次元を超えたSF大作

オールタイムベスト級の超絶ハードSF

アジア人で初のヒューゴー賞受賞作にして、全世界で3000万部以上売り上げているという怪物作品である。そしてその驚愕の内容はまさしくオールタイムベストと言っても過言ではなく、私は「ついに1980年に出版された『星を継ぐもの』を超える作品が出たか...しかも中国で!!」と感激している。
そんな圧倒的な超絶SFについて、主にこれから読もうか迷っている層に焦点を当てて、作品の説明と感想を語っていきたい。
 

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宇宙すら超越した無限のスケール

作品一覧

本国では2008年から2010年に出版されているということが驚きである。

作品紹介

『三体』は三部作であり、第一部が壮大なプロローグでハードカバーにして約450ページ、物語が動き出す第二部はハードカバー上下巻で約700ページ、そして時空を超えた超展開を迎える驚天動地の第三部がハードカバー上下巻で約900ページという大長編となっている。二段組ではないが文字はびっしりなので、最近の国内小説のような文字大きく、文字数が少なめな文庫本に換算するとおよそ3000ページに匹敵する。

大変失礼ながら私は小説としては馴染みのない中国産という理由から第一部を長いこと積んでしまい、しかも第一部がそこまで凄いとは感じなかったため、第二部も長いこと積んでしまったのである。しかし第二部と第三部を読んで、第一部はあくまでもプロローグであり本当に面白くなるのは第二部から。そして第三部は方向性を変えつつもSFとしてはさらなる高みに到達した超絶傑作だったと知ったのである。

ではそれぞれの作品をある程度ネタに触れつつ、これから読もうと思っている人が読みたくなるような紹介をしていきたい。なお『三体』はネタバレされたくらいでつまらなくなるような作品ではないことを保証するが、すでに読む気満々な方はこの記事は読まずに早速読むことをおすすめしたい。

 

※以下ネタバレ注意

三体(2008年)

 

物理学者の父を文化大革命で惨殺され、人類に絶望した中国人エリート科学者・葉文潔。失意の日々を過ごす彼女は、ある日、巨大パラボラアンテナを備える謎めいた軍事基地にスカウトされる。そこでは、人類の運命を左右するかもしれないプロジェクトが、極秘裏に進行していた。数十年後。ナノテク素材の研究者・汪森は、ある会議に招集され、世界的な科学者が次々に自殺している事実を告げられる。その陰に見え隠れする学術団体“科学フロンティア”への潜入を引き受けた彼を、科学的にありえない怪現象“ゴースト・カウントダウン”が襲う。そして汪森が入り込む、三つの太陽を持つ異星を舞台にしたVRゲーム『三体』の驚くべき真実とは?

 

前述の通り、第一部はプロローグに過ぎない。物語舞台は1970年の文化大革命時代と2010年代、そしてVRゲーム「三体」が主軸となり交互に進んでいく。後半まではSF的な要素よりもむしろホラーサスペンス/ミステリー要素が濃厚で、科学者の連続自殺や主要キャラでナノテク素材の研究者・汪森の網膜に浮かび上がる謎のカウントダウン「ゴーストカウントダウン」、謎に包まれたVRゲーム「三体」など様々な謎がばらまかれて、終盤に向けてそれぞれの意味が判明していく。

ずばり簡単に内容を説明してしまうと概ね以下の通りになる。

文化大革命で父を殺された葉文潔は人類に絶望していた。そんな彼女は超エリートだったので某秘密基地で働いていたのだが、ある時人類の科学力を遥かに上回る異星人の罠通信を受取り、人類を滅ぼしてほしくて意図的に応答した。その行動により地球の場所が異星人特定され、超科学文明の異星人に地球を侵略されることになった......のだが、三体星系から太陽系は遠いので地球到達までは450年かかる。三体人の考えでは地球人の科学進歩はスピードが早く、450年後には地球人に負けるのでは?という考えから智子(ソフォン)という陽子スーパーコンピュータを侵略艦隊に先立って地球に送り、地球の科学の発展の妨害と地球の監視されるようになった。人類の運命やいかに。という物語である。

VRゲーム「三体」での”人力コンピュータ”やド肝を抜く”飛刃”、人類を虫けら扱いできる”智子”など中国ならではなのか、強烈な奇想が惜しげもなく出されるのは非常に面白い。しかし繰り返すがこれはあくまでもプロローグである。第二部以降と比較すると地味でスケールが小さくてそこまで凄いとは言えない。あと個人的には主役の一人・葉文潔のキャラが嫌いである。

絶賛される第一部だが、私のように賞賛されるほど凄いと思えない人もいるかもしれない。しかし第一部を読み終えたのならとりあえず速攻で第二部を読み始めてほしい。超面白いから。

 

 

三体Ⅱ 黒暗森林(2008年)

 

人類に絶望した天体物理学者・葉文潔が宇宙に向けて発信したメッセージは、三つの太陽を持つ異星文明・三体世界に届いた。新天地を求める三体文明は、千隻を超える侵略艦隊を組織し、地球へと送り出す。太陽系到達は四百数十年後。人類よりはるかに進んだ技術力を持つ三体艦隊との対決という未曾有の危機に直面した人類は、国連惑星防衛理事会を設立し、防衛計画の柱となる宇宙軍を創設する。だが、人類のあらゆる活動は三体文明から送り込まれた極微スーパーコンピュータ・智子に監視されていた! このままでは三体艦隊との“終末決戦"に敗北することは必定。絶望的な状況を打開するため、前代未聞の「面壁計画」が発動。人類の命運は、四人の面壁者に託される。そして、葉文潔から“宇宙社会学の公理"を託された羅輯の決断とは?

 

ここからが本番である。エンタメ要素が一気に跳ね上がり、人類VS三体人という勝ち目のない戦いにどうすれば勝利できるのかという激アツな物語になる。

冒頭で三体人の特性”透明な思考”が判明する。三体人は言葉などのコミュニケーションを取らず、思考がダイレクトに相手に伝わるので嘘をついたりといった知略・戦略とは無縁なのである。スーパーコンピュータ”智子”に何もかも監視されていても、人間の思考までは読めない。そこで人類は面壁者という莫大なリソースを使用する権限を持つ人を4人選び、各々が三体人を撃退するための奇策を練っていくのである。

そして4人の面壁者達がそれぞれ凄い作戦を立てていくのだが、これがまぁ面白い。4人の内の脳筋タイプの2人は、現代の科学では実現不可能な超強力武器や艦隊を考案していくのだが、かなりブッ飛んでいるので大いに楽しめるはず。

そして学者型の1人と4人の中でなぜ面壁者に選ばれたのか不明な主人公・羅輯も兵器とは別路線の奇策を打ち立てていく。しかし面壁者には三体人側が用意した破壁人という刺客が放たれており、この破壁人が名探偵のごとく面壁者の策を看破し追い詰めていくので、ミステリー好きにもたまらないだろう。

 

 

三体世界の巨大艦隊は、刻一刻と太陽系に迫りつつあった。地球文明をはるかに超える技術力を持つ侵略者に対抗する最後の希望は、四人の面壁者。人類を救うための秘策は、智子にも覗き見ることができない、彼らの頭の中だけにある。面壁者の中でただひとり無名の男、羅輯が考え出した起死回生の“呪文"とは?二百年後、人工冬眠から蘇生した羅輯は、かつて自分の警護を担当していた史強と再会し、激変した未来社会に驚嘆する。二千隻余から成る太陽系艦隊に、いよいよ出撃の時が近づいていた。一方、かつて宇宙軍創設に関わった章北海も、同じく人工冬眠から目醒め、ある決意を胸に、最新鋭の宇宙戦艦に乗り組むが……。

 

続いて後半。前半をさらに加速させた面白さになっており、面壁者VS破壁人の知的バトルは一段落して、冬眠により時代は200年後に移行する。200年後の人類は智子に妨害されつつも科学のブレイクスルーを起こして驚くほど進歩しており、強力な2000機からなる宇宙艦隊を築き上げたので、面壁計画は過去のものになっていた。なぜなら正面から戦っても楽勝で勝てるんじゃね?気分に浸っていたからである。

そんな状況の中、人類は三体人から放たれたたった一機の探索機”水滴”に対して2000機の宇宙大艦隊で迎え撃つのだが.....。超すごいです。あえてここでは書かないが、例えば2000人のサイヤ人(スーパーサイヤ人ではない)がフリーザ様と戦ったらどうなるのかを想像してほしい。

そして絶望に沈む人類。だがついに主人公・羅輯が宇宙の謎を解き、素晴らしい大団円を迎えることになるのである。このラストシーンは本当に素晴らしくSF史に残るだろうし、羅輯が提唱したフェルミパラドックスに対する一つの解である暗黒森林理論は後世に多大な影響を及ぼす理論になるのは間違いない。

宇宙観を変えてしまうような稀代の傑作なので、絶対に読むべき作品である。

 

 

三体III 死神永生(2010年)

 

圧倒的な技術力を持つ異星文明・三体世界の太陽系侵略に対抗すべく立案された地球文明の切り札「面壁計画」。その背後で、極秘の仰天プランが進んでいた。侵略艦隊の懐に、人類のスパイをひとり送る――奇想天外なこの「階梯計画」を実現に導いたのは、若き航空宇宙エンジニアの程心。計画の鍵を握るのは、学生時代、彼女の友人だった孤独な男・雲天明。この二人の関係が人類文明の――いや、宇宙全体の――運命を動かすとは、まだ誰も知らなかった……。一方、三体文明が太陽系に送り込んだ極微スーパーコンピュータ・智子は、たえず人類の監視を続けていた。面壁者・羅輯の秘策により三体文明の地球侵略が抑止されたあとも、智子は女性型ロボットに姿を変え、二つの世界の橋渡し的な存在となっていたが……。

 

第二部がとても綺麗に完結するので、果たして続編なんて書けるのか?という疑問を誰もが持つことになるのだろうが、ところがどっこい第二部すら圧倒するほどの限界突破したスケールで描かれる超傑作に仕上がっているのである。

第三部は前作の面壁計画と並行して推進されたもう一つの計画”階梯計画”が主軸となる。三体人に地球人を送り込むというこれまたブッ飛んだ計画なのである。と言いつつも計画はやるだけやって失敗したっぽいと判断してとりあえず忘れ去られてからの展開が超激アツなのだ。”智子降臨”である。

人類と三体人は第二部で侵略がストップしたので、仲良く交流していたのだがあることが契機となり、またしても人類に危機が訪れる。そこで三体側の代表として活躍するのが、スーパーコンピュータ”智子”が擬人化された女性型ロボット”智子”である。この世のものとは思えない美貌に美しい着物姿、そして日本刀。あるシーンで智子さんが大変なことをしてしまうのだが、これが妙に萌えるんです。劉慈欣さんは本当に分かっていらっしゃる。

そんなこんなで萌えまくっていると、今回も何とか人類は危機を一時的に脱するのだが、それと引き換えに近い将来確実に滅亡することが確定してしまう。そして下巻に続く!!

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これが中国での智子さんのイメージらしい

 

帰還命令にそむいて逃亡した地球連邦艦隊の宇宙戦艦〈藍色空間〉は、それを追う新造艦の〈万有引力〉とともに太陽系から離脱。茫漠たる宇宙空間で、高次元空間の名残りとおぼしき“四次元のかけら"に遭遇する。〈万有引力〉に乗り組む宇宙論研究者の関一帆は、その体験から、この宇宙の“巨大で暗い秘密"を看破する……。一方、程心は、雲天明にプレゼントされた星から巨額の資産を得ることに。補佐役に志願した艾AAのすすめで設立した新会社は、数年のうちに宇宙建設業界の巨大企業に成長。人工冬眠から目覚めた程心は、羅輯にかわる二代目の執剣者(に選出される。それは、地球文明と三体文明、二つの世界の命運をその手に握る立場だった……。

 

かつてない危機に立たされた人類は”智子”先生から教わった救済の方法を考えるうちに、すっかり忘れてた”階梯計画”に成果があったことを知り、超ミステリー的な暗号解読が始まる。そしてここから先は超絶ハードSFになる。

三体文明を超えるほどの超文明から太陽系が攻撃されることが確定したことにより、人類はまたも絶滅を逃れるための策を考えまくるのである。そしてこれなら助かると思った矢先、ついに来た超文明による”紙切れ”1枚の次元の違う攻撃。

そして超展開に次ぐ超展開にアーサー・C・クラークの『幼年期の終わり』や小松左京の『果しなき流れの果に』を彷彿とさせる、まさに時空を超えた驚愕のラストを迎えるのである。終盤150ページくらいでなぜか私は果てしない寂しさや悲しみを覚えた。

著者自身も第三部はSFマニア向けのハードSFになったと仰っているように、第三部前半までのエンタメ要素は大幅に減退し、ゴリゴリの超絶ハードSFが展開される。そのため賛否両論になるのかもしれないが、私は第三部が一番好きである。宇宙のすべてを理解してしまった感がある。

 

 

三体X 観想之宙(2011年) 宝樹

 

異星種属・三体文明の太陽系侵略に対抗する「階梯計画」。それは、敵艦隊の懐に、人類のスパイをひとり送るという奇策だった。航空宇宙エンジニアの程心(チェン・シン)はその船の推進方法を考案。船に搭載されたのは彼女の元同級生・雲天明(ユン・ティエンミン)の脳だった……。太陽系が潰滅したのち、青色惑星(プラネット・ブルー)で程心の親友・艾(アイ)AAと二人ぼっちになった天明は、秘めた過去を語り出す。三体艦隊に囚われていた間に何があったのか? 『三体III 死神永生』の背後に隠された驚愕の真相が明かされる第一部「時の内側の過去」。和服姿の智子が意外なかたちで再登場する第二部「茶の湯会談」。太陽系を滅ぼした〝歌い手〟文明の壮大な死闘を描く第三部「天萼」。そして――。 《三体》の熱狂的ファンだった著者・宝樹は、第三部『死神永生』を読み終えた直後、喪失感に耐えかねて、三体宇宙の空白を埋める物語を勝手に執筆。それをネットに投稿したところ絶大な反響を呼び、《三体》著者・劉慈欣の公認を得て、《三体》の版元から刊行されることに……。ファンなら誰もが知りたかった裏側がすべて描かれる、衝撃の公式外伝(スピンオフ)。

 

なんとまさかの『三体Ⅲ 死神永世』のその後の物語である。つまり死神永世を読んで三体ロスに陥った方はただちに読み始めるべし。内容については下記の記事にネタバレ極小でまとめたので参照されたし。死神永世すら小さく見えるほどスケールがデカいとんでもない作品である。

 

〇個別紹介記事

kodokusyo.hatenablog.com

 

『三体』を超える作品は出るのだろうか

『三体』は中国では2008~2010年に発表されている。私は少なくとも2010年から2021年までに『三体』を超える作品には出逢っていない。超えるというより他の作品はそもそも『三体』にかすりもしていない。となるともう何らかの科学のブレイクスルーが起きて、人類が大きな躍進を遂げない限り、もう人類にこれ以上の作品を想像する術はないように思うのである。
『三体』は現在人類が書くことのできる最高のSFである。そして最高のエンターテイメントでもある。21世紀に生きる人間であれば必読の一冊と言い切りたい。
でも1番言いたいことは「智子LOVE!!」なのだ。