探偵小説だって??...否、ハーレムラノベである
作品紹介
横溝正史による『八つ墓村』は1949年から1950年に雑誌『新青年』で連載された金田一耕助シリーズの長編第四作目である。現在の角川文庫版でおよそ500ページとなかなかのボリュームとなっている。
言わずと知れた大横溝作品の中でも確実に5本の指に入るほどの知名度と完成度を誇る作品となっており、本格ミステリの熱心なファンとは言えない私でも『八つ墓村』は別格の超傑作だと思っていて、人生ベスト10小説には必ず名前を挙げている。
『八つ墓村』の良いところの一つとして、本作では名探偵・金田一耕助は脇役にとどまっており、主人公やヒロインは他にいるので、シリーズ四作目ではあるものの順番を気にせず先に読んでも問題ない点がある。『八つ墓村』より前に発表された『本陣殺人事件/獄門島/夜歩く』と比べるとかなりエンターテイメント作品に特化した内容になっており、ミステリ云々ではなく純粋に物語が面白いのである。
ジャンルでいうならば伝奇/冒険/サスペンス/ミステリー/ちょいホラー/恋愛/ラノベであろうか。特に恋愛とラノベの部分は現代の萌えラノベ作家でも到底太刀打ちできないほどの尋常ではない仕上がりになっているため、そういった点に着目しつつ紹介したい。
以下、あらすじの引用
戦国の頃、三千両の黄金を携えた八人の武者がこの村に落ちのびた。だが、欲に目の眩んだ村人たちは八人を惨殺。その後、不祥の怪異があい次ぎ、以来この村は“八つ墓村"と呼ばれるようになったという――。大正×年、落人襲撃の首謀者田治見庄左衛門の子孫、要蔵が突然発狂、三十二人の村人を虐殺し、行方不明となる。そして二十数年、謎の連続殺人事件が再びこの村を襲った……。現代ホラー小説の原点ともいうべき、シリーズ最高傑作! !
セールスポイント
21世紀を生きる人々が『八つ墓村』に対してどのようなイメージを持っているのかは知らないが、昭和末期に産まれた私の本作に対するイメージはおどろおどろしいホラーであった。しかし初めて原作を読んだ時に感じたのは「死ぬほど面白い!!しかもおどろおどろしくないどころかめっちゃ萌えてて超最高♥」である。映画作品は原作レイプし過ぎDEATH。
もちろん萌えているなどは冗談ではなく100%本当のことであり、初読み時に人に薦めるべくまとめたセールスポイントは以下の通りである。
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まさかの萌え系ハーレムライトノベル
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春代と典子の超破壊力
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オカルト全開な怪事件
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超面白い宝探しと愛の逃避行
オカルト要素全開の事件もかなり面白いのだが、『八つ墓村』の最大の魅力はラノベ的なハーレム恋愛である。もうとにかくめっちゃ面白いんだから!!
津山事件(津山30人殺し)
私が崇拝する作家の一人にしてミステリーの神・島田荘司は『龍臥亭事件』という超傑作小説でストレートに津山事件を作中作として盛り込んでいたが、大横溝は津山事件をあくまでもモチーフとして利用している。
だがこの津山事件は『八つ墓村』を読むにあたっては絶対に先に詳細を知っておいた方が良いので、ググってWikipediaを見ても良いだろうし、事前に前述した島田荘司の作品を読んでおくのも有りである。
戦前(戦中)最大最凶の殺人事件だけあって、詳細を調べると「おいおいマジかよ.....」とツッコミを入れたくなること間違いなしの、ランボーもビックリな大虐殺事件なのだが、マジな事件なのである。『八つ墓村』ではこの最悪の事件が非常にうまく取り入れられていて、事件のオカルト性を限界まで高めることに成功している。やはり横溝正史は天才である。
ちなみにやや不謹慎ではあるが、津山事件の犯人・都井睦雄をモデルとした多治見要蔵のフィギュアが涙が出るほどかっこよくて、のどから出るほど欲しいのだけど、妻子ある身としてはさすがに手が出ない.....でもいつかはほすぃなぁ...。頭懐中電灯に日本刀×ショットガン。鬼ですわい。
ミステリではなくミステリー
ミステリとミステリーを特に区別することなく使用する人が極めて多いが、私は明確に区別している。ミステリはすなわち事件があって探偵役が解決する作品だとすれば、ミステリーはオーパーツやピラミッドの謎などに値すると私は考えている。
『八つ墓村』は前者の性質も強く持っているが、むしろ戦国時代1566年(永禄9年)の財宝の謎や鎧武者の謎といった後者の部分こそが本当に面白いところである。そのため本格ミステリ好きの人はもちろんのこと(まぁ本格ミステリマニアで八つ墓村を読んでない人はいないだろうが)、ミステリにまったく興味が無い人でも超楽しめるのである。
とは言ってももちろん推理小説としての完成度も高い。『本陣殺人事件』や『獄門島』ほどコテコテの本格推理小説ではないのだが、人はバタバタ死にまくるのに動機がさっぱりのため、犯人もさっぱりというホワイダニット系の事件である。したがってトリックを見破ったりアリバイを崩すタイプのものではない分、動機は非常に分かりづらくなっている。犯行の動機はこれぞ戦後。これぞ横溝な感じ。
お姉様 or 妹+α。あなたは誰を選ぶ?
ここからが本番である。萌え系ラノベの本領発揮なのだ(笑)
読めば分かることだが『八つ墓村』は真正の萌え系ハーレム小説だ。戦後間もない作品にも関わらず萌えの品質は尋常ではなく、それこそ『ソードアート・オンライン』あたりから始まったと思われる最近の異世界ハーレム物語と何ら変わらない。
⇩FF5のレナ・ファリス・クルルのようなキャラは完備しているのだ。
究極の大団円
これについては伏せておくことにするが、一つ言えることは完全無欠である。
つらいことや悲しいこともいっぱいある物語なのだが、ラストはハリウッド映画も土下座せざるを得ないほどの素晴らしさなのである。どんな結末を迎えるのか。事件の真相(そんなのはオマケに過ぎないけど)は、もしまだ読まれていないのならぜひ....というか絶対に体感すべきであろう。誇り高き大日本帝国の男なら必修科目と言っても過言ではない。読ねば非国民である。
「〇〇にさようなら。お姉ちゃんにありがとう。そして、全ての童貞達におめでとう。」(エヴァじゃないよ、エヴァじゃ笑)
横溝正史よ永遠に
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