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能力バトルの始祖|『甲賀忍法帖』山田風太郎

週刊少年ジャンプもひれ伏す

 

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天野絵がすべてを物語っている

作品紹介

 山田風太郎による『甲賀忍法帖』は1959年に出版された作品である。
文庫版は概ね350ページと読みやすい長さで、その中にこれでもかというほど能力バトルが盛り込まれている。

能力バトル作品の始祖とされる作品だが、この時代に書かれたとは思えないほど練りに練られた能力や戦闘になっている。
甲賀卍谷衆VS伊賀鍔隠れ衆の10人対10人が出し惜しみなしの忍術によって潰し合う戦いは面白い以外の何物でもない。

 能力によって相性があったり、忍者であるため正々堂々ではなく奇襲、闇討ち、だまし討ちに多対一といった卑怯な戦術までバリエーション豊富なことが面白さに拍車をかけている。

 またありがたいことに(?)、くノ一たちはやたら妖艶なキャラが多く、使用する忍術が忍術だけに漂うエロスも尋常ではない。

 

 以下、あらすじの引用

 家康の秘命をうけ、徳川三代将軍の座をかけて争う、甲賀・伊賀の精鋭忍者各十名。官能の極致で男を殺す忍者あり、美肉で男をからめとる吸血くの一あり。四百年の禁制を解き放たれた甲賀・伊賀の忍者が死を賭し、秘術の限りを尽し、戦慄の死闘をくり展げる艶なる地獄相。恐るべし風太郎忍法、空前絶後の面白さ。

 

甲賀忍法帖 山田風太郎忍法帖(1) (講談社文庫)

甲賀忍法帖 山田風太郎忍法帖(1) (講談社文庫)

 

 

 

究極の娯楽小説

 60年以上前の本だというのに純粋な娯楽小説として『甲賀忍法帖』は頂点に立っていると断言したい。

少年誌では昔から能力バトル系の漫画が絶大な人気を集めているが、能力バトルにも2パターンあると考えている。

一つは『北斗の拳ドラゴンボール型』である。
北斗神拳南斗聖拳かめはめ波舞空術といった能力のようなものがあるが、強い奴は強いし仲間が殺されて怒れば勝てるタイプだ。

もう一つは『ジョジョ型・HUNTER×HUNTER型』である。

ベースとなる能力にある程度の差はあれど、基本的には圧倒的な戦力差は無く、能力や知恵を総動員して戦うタイプである。

 どちらも面白いことは間違いないが、どちらかというと後者の方が面白いと思うのは私だけではないはずである。
甲賀忍法帖』は典型的な後者である。腕力や剣術などの体術や五感が発達しているといったベースとなる本体にも優劣はあるが、能力や戦術を駆使することでその差を跳ね返すことができる程度のパワーバランスであるため、とにかく読んでいて面白い。

そして各キャラが使用する忍術はしょうもないものから反則級のものまで多彩だが、残念な能力であっても使い方次第では役に立つものなど全20人すべてが個性的である。

バジリスク 甲賀忍法帖』という名でアニメ化もされているが、この原作であれば現代でも通用することは間違いないだろう。そんな普遍性を持った作品である。

 

設定が面白過ぎる

 

 内容はシンプルで、徳川三代将軍決めるために甲賀衆と伊賀衆が代理戦争をするというものである。

 それぞれ10名ずつ選抜して全滅するまで戦うというバトルロイヤル形式が取られるのだが、そもそも代表+1名しか選ばれたメンバーが誰かを知らず、全体にことの全貌が伝わる前からすでに戦いが始まっているのである。

 甲賀のリーダーと伊賀のリーダー恋愛関係にあることも、物語の面白さにただのバトルものとは一味違う魅力を付与している。

忍術バトル×悲恋物語といったところだろう。これがつまらないはずがないことは一目瞭然だ。

 

絶妙なパワーバランスと多彩なバトル

 

 先にも書いた通り、忍者たちには圧倒的な戦力差はない。

もちろん一般人でも格闘術を習っている人は強いし、男性と女性なら男性の方が基本的には強いといった程度の差はあるが、一番強い奴でも大して強くないキャラが5人束になってかかればなんとかなるかもしれない程度の差である。

そして忍者であるがゆえに正々堂々戦うといった概念は無く、奇襲やだまし討ち、リンチを問答無用に行うため、全体的に見れば概ねチーム全体の力は均衡していると言える。

 たとえば一番強いと思われるキャラはほぼほぼ無敵級の強さを誇るが、あるキャラの能力や体質によっては無効化されたり、強力でも能力や弱点が相手にばれたら有用性が大幅に減退するといったバランスである。

 

 溢れんばかりのエロス

 エロスこそが『甲賀忍法帖』の本当にすごいポイントの一つだ(笑)
エロではなくエロス。そこが重要。

総勢20名の忍びの中にはくノ一も多数いる。そんな彼女らの忍術の多くがエロスを演出するために考えられたとしか思えない、妖艶なものなのである。

能力を明かすのはネタバレになるので後々記載とするが、エロい技をエロく使うことにとことん成功している。

 

 ※以下能力ネタバレ

 男というのは能力バトルが好きであり、強さを格付けせずにはいられない生き物なのである。ということで登場人物兼忍術紹介+強さを格付けしたい。

なおアニメ版とは異なり、肉弾戦の描写はさほど多くないため体術は考慮せずに忍術の強さだけで判断する。

 

 メンバー紹介


甲賀

  1. 甲賀弦之介
    リーダー。伊賀のリーダー朧の恋人。瞳術という殺意を持って襲い掛かってきた者を自滅させるというナルトもびっくりな超強力忍術を持つ。
  2. 風待将監
    蜘蛛男。強力な粘着力を持つ痰を吐く(汚い....)。蜘蛛の巣のように吐くこともできてその上を移動することもできる(汚ねぇ...)。
  3. 地虫十兵衛
    芋虫男。四肢が欠損している。口に仕込んだ槍を発射することや、走る以上に速い移動ができる(キモい)。
  4. 鵜殿丈助
    デブ毬男。朱絹が好き。ゴム毬のように柔軟な体を持つ。北斗の拳ハート様ですな。
  5. 霞刑部
    大入道。壁と同化することができる。腕力も超強力。
  6. 如月左衛門
    モブキャラ面(存在感の薄い人)。お胡夷のお兄ちゃん。誰にでも化けることができる。
  7. お胡夷
    豊満な肉体のお姉さん。肉体が吸い付くエロ吸血鬼で如月左衛門の妹である。
    血を吸ったら吐かないといけないのがまたエロい。
  8. 陽炎
    妖艶な美女。弦之介のことを愛しているのがポイント。
    欲情すると吐く息が強力な毒の息になる。
  9. 室賀豹馬
    盲目にして甲賀のナンバー2。弦之介の瞳術の師であり、夜だけ瞳術が使用できる。
  10. 甲賀弾正
    弦之介の祖父。含み針を使用するがすぐに退場。


<伊賀>


  1. 優しいお姉さん。弦之介の彼女。忍術は使えないが生まれながらにすべての忍術を無効化する破幻の瞳を持つ。
  2. 夜叉丸
    イケメン枠。蛍火と付き合っている。女の髪を束ねて作った鞭を使用する。
  3. 小豆蠟斎
    お爺ちゃん。手足が伸縮自在で破壊力も抜群。
  4. 朱絹
    エロお姉さん。体から血の霧を噴出させるというなんともエロい技を持つ。
    もちろん裸にならないと血霧は出せません。
    傷ついた筑摩小四郎のことを看護して好きになるという萌えポイントあり。
  5. 蛍火
    萌え枠。夜叉丸の彼女。
    虫や爬虫類を自在に操るというかなりすごい忍術を操る。
  6. 雨夜陣五郎
    ナメクジ男。水に同化するが塩をかけられたら死ぬ。
  7. 筑摩小四郎
    アニメだと好青年。息を吸うことで引き起こす「吸息旋風かまいたち」というダサいけどこれぞ必殺技な忍術を使う。
  8. 蓑念鬼
    体毛おじさん。空気に触れる箇所以外はすべて体毛に覆われており、その体毛を自在に操ることができる。
  9. 薬師寺天膳
    不死の忍者。伊賀のナンバー2で剣術にも精通している。年齢不詳。
  10. お幻
    朧の祖母。特に何もせずに殺られたが、おそらく鷹を操る。

 

 能力ランキング

ただ書いてみたかっただけである。
人様に読んでいただくために書いているのではなく、完全に脳内妄想に過ぎません(笑)

Eランク

朱絹:完全にサポート役、血を浴びてみたい

Dランク

陽炎:殺傷力は抜群だが使いどころが難しい

Cランク

お胡夷:強そうでいて使い勝手は悪い

:完全にサポート役だが能力はチート

Bランク

鵜殿丈助:体術に対して無敵だがデブ

如月左衛門:まさに忍者。活躍しまくるが戦闘力特化ではない

地虫十兵衛:完全に一発芸。でも動きが速いから優秀

小豆蠟斎:優秀な武闘派だがお爺ちゃん。

雨夜陣五郎:すごい能力だが、弱点が残念

蓑念鬼:無難に優秀だが毛むくじゃら

蛍火:もはや魔法使い級の忍術だが武闘派ではない

Aランク

室賀豹馬:期間限定だが能力はチート。発達した聴力も重要

風待将監:汚いが明らかに強い

霞刑部:忍術も腕力も強い最強候補

薬師寺天膳:まさにチート能力。でも拘束されたらアウト

夜叉丸:無難な強キャラ。使い勝手がいい

筑摩小四郎:使用する忍術が殺傷力ナンバー1

Sランク

甲賀弦之介:朧と盲目キャラを除けば無敵

 

まとめ

 読んでみて思ったのは、ずばり1959年という大昔にこんなに面白い本が存在したのか...という純粋な驚きだ。

多少のアレンジを加えつつ『バジリスク 甲賀忍法帖』としてコミック化、アニメ化されたことからも、現代でも衰えることなく通用することが分かるが、現代でも通用するばかりか、現代でも他を圧倒するような最高クラスの能力バトル作品なのである。

ジョジョHUNTER×HUNTER、そして同じ忍者ものとしてNARUTOが好きな方は何が何でも読んだ方がいいだろう。

 


「甲賀忍法帖」(MV)

甲賀忍法帖 山田風太郎忍法帖(1) (講談社文庫)

甲賀忍法帖 山田風太郎忍法帖(1) (講談社文庫)

 

 

人生最高に面白かった小説|おすすめランキングトップ10

最高評価の小説たち

 

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数多の読了本より究極のエンタメ作品を選別

 

10位  クラインの壺 / 岡嶋二人(1989年)

 

ゲームブックの原作募集に応募したことがきっかけでヴァーチャルリアリティ・システム『クライン2』の制作に関わることになった青年、上杉。アルバイト雑誌を見てやって来た少女、高石梨紗とともに、謎につつまれた研究所でゲーマーとなって仮想現実の世界へ入り込むことになった。ところが、二人がゲームだと信じていたそのシステムの実態は……。現実が歪み虚構が交錯する恐怖!

 

 SF×ミステリーの至高の傑作である。

VRがメインテーマとなる1989年の作品だが、今読んでもまったく古臭さを感じることは無く、SFにも関わらず異常に読みやすいのも高ポイント。

読み始めたら読了まで一気読みせざるを得ない、最強の徹夜本候補である。

 

クラインの壺 (新潮文庫)

クラインの壺 (新潮文庫)

 

 

 

9位  ガダラの豚 / 中島らも(1993年)

 

アフリカの呪術医研究の第一人者、大生部多一郎は、テレビの人気タレント教授。超能力ブームで彼の著者「呪術パワーで殺す!」はベストセラーになった。しかし、妻の逸美は8年前の娘・志織のアフリカでの気球事故での死以来、神経を病んでいた。そして奇跡が売り物の新興宗教にのめりこんでしまった。逸美の奪還をすべく、大生部は奇術師ミラクルと組んで動き出す。

 

 圧倒的なセンスを持った天才作家が本気を出した作品である。娯楽小説の最終到達点と言っても過言では無いほど徹底的に面白いのが特徴だ。

ただ面白いだけでなく、超能力や呪術といった超自然的なことについてしっかりと研究された上で書かれているため、ブッ飛んだ内容にも関わらず確かなリアリティがあり、読者自身の知識も増えて大変お得である。

3部構成であり1部はユーモア、2部はユーモアとアドベンチャー、そして3部はホラーのような展開が楽しめる。

 

ガダラの豚(集英社文庫) 全3冊セット
 

 

8位  八つ墓村 / 横溝正史(1950年)

 

戦国の頃、三千両の黄金を携えた八人の武者がこの村に落ちのびた。だが、欲に目の眩んだ村人たちは八人を惨殺。その後、不祥の怪異があい次ぎ、以来この村は“八つ墓村"と呼ばれるようになったという――。大正×年、落人襲撃の首謀者田治見庄左衛門の子孫、要蔵が突然発狂、三十二人の村人を虐殺し、行方不明となる。そして二十数年、謎の連続殺人事件が再びこの村を襲った……。現代ホラー小説の原点ともいうべき、シリーズ最高傑作! !

 

 国民的な作品だけあって面白さは保証されている。

はっきり言って推理小説としての金田一耕助シリーズとして読む必要はない。金田一はほぼ脇役だし、謎解き以外の部分の方が面白いからである。

八つ墓村』の素晴らしさを一言で言うなら””である。萌えを意識したであろう作品は数多く読んできたが、この本を超える萌え系の本に出会ったことは一度もない。

八つ墓村』が発表された時代には萌えなどという概念はないはずなのに、史上最高の萌えが描かれているのだ。

最近はやりのハーレムアニメを木っ端微塵に粉砕する至高の萌えを堪能してほしい。

 

八つ墓村 (角川文庫)

八つ墓村 (角川文庫)

  • 作者:横溝 正史
  • 発売日: 1971/04/26
  • メディア: 文庫
 

 

7位  粘膜兄弟 / 飴村行(2010年)

 

ある地方の町外れに住む双子の兄弟。戦時下の不穏な空気が漂う中、二人は一人の女をめぐり凄惨な運命に身を委ねていく……『ドグラ・マグラ』『家畜人ヤプー』と比される現代の奇書、シリーズ第3弾!

 

 飴村行という稀代の変態作家が描く『粘膜シリーズ』の中でも、ダークファンタジー的な軍国主義の世界観やエログロが頂点に達した作品であるそして唯一無二のセンスの良いギャグが火を噴きまくるというおまけまで付いている。さらに冒険小説としても、これほど面白いものは他に存在しないのではないかというほど優れている。

この本の特徴はただ一つ。クッソ面白いということに尽きる。

 

粘膜兄弟 (角川ホラー文庫)

粘膜兄弟 (角川ホラー文庫)

  • 作者:飴村 行
  • 発売日: 2010/05/22
  • メディア: 文庫
 

 

6位  暗闇坂の人喰いの木 / 島田荘司(1990年)

 

さらし首の名所・暗闇坂にそそり立つ樹齢2000年の大楠。この巨木が次々に人間を呑み込んだ? 近寄る人間たちを狂気に駆り立てる大楠の謎とは何か? 信じられぬ怪事件の数々に名探偵・御手洗潔が挑戦する。だが真相に迫る御手洗も恐怖にふるえるほど、事件は凄惨を極めた。本格ミステリーの騎手が全力投球する傑作。

 

 この本に出会っていなければ、これほどまでにミステリーにのめり込むことはなかったであろう作品。謎解きよりも冒険モノやホラーとして楽しむことができる内容にであり、物語自体がものすごく面白い。

私は推理小説がもたらす驚きに魅せられてはいるものの、SFやファンタジー、ホラーが好きであり、謎解き自体はあまり興味が無いタイプの人間である。本作は魅力的な謎と怪奇幻想世界を体感させてくれる素晴らしい作品だ。

 

〇個別紹介記事

kodokusyo.hatenablog.com

 

暗闇坂の人喰いの木 (講談社文庫)

暗闇坂の人喰いの木 (講談社文庫)

  • 作者:島田 荘司
  • 発売日: 1994/06/06
  • メディア: 文庫
 

 

なお『レオナ三部作』とも称され、『暗闇坂の人喰いの木』に続く『水晶のピラミッド』『アトポス』も常軌を逸した傑作であり、三部作全体で評価するのであれば本ランキングの1,2位を争う傑作となる。

 

5位  ループ / 鈴木光司(1998年)

 

科学者の父親と穏和な母親に育てられた医学生の馨にとって家族は何ものにも替えがたいものだった。しかし父親が新種のガンウィルスに侵され発病、馨の恋人も蔓延するウィルスに感染し今や世界は存亡の危機に立たされた。ウィルスはいったいどこからやって来たのか?あるプロジェクトとの関連を知った馨は一人アメリカの砂漠を疾走するが…。そこに手がかりとして残されたタカヤマとは?「リング」「らせん」で提示された謎と世界の仕組み、人間の存在に深く迫り、圧倒的共感を呼ぶシリーズ完結編。否応もなく魂を揺さぶられる鈴木文学の最高傑作。

 

 貞子でおなじみの『リングシリーズ』3作目だがホラー要素はまったく無く、ジャンルはまさかのハードSFである。

 ネタバレ無しで感想を挙げるなら①超面白い、②超すごい、③超泣けるといったところだろうか。
想像がつかないだろうが、映画『マトリックス』とRPGファイナルファンタジーⅩ』を足したような衝撃的な世界観と超展開が待っている。

 『ループ』は映画化されていないので(そもそも映画化はできないだろうが)、このシリーズがこんな展開になっていることを知っている人は数少ないのだろう。

 

ループ (角川ホラー文庫)

ループ (角川ホラー文庫)

  • 作者:鈴木 光司
  • 発売日: 2000/09/07
  • メディア: 文庫
 

 

4位  星を継ぐもの / ジェイムズ・P・ホーガン(1977年)

 

月面調査員が真紅の宇宙服をまとった死体を発見した。綿密な調査の結果、この死体は何と死後五万年を経過していることがわかった。果たして現生人類とのつながりはいかなるものなのか。やがて木星の衛星ガニメデで地球のものではない宇宙船の残骸が発見された……。ハードSFの新星が一世を風靡した出世作

 

 古い海外のSF作品ということだけで忌避してしまう方もいるのかもしれないが、『星を継ぐ者に』始まる3部作の面白さはただ事ではない。

「月で5万年前の真紅の宇宙服をまとった死体が見つかった。」という魅力的すぎる謎を科学的に解明していくという最高峰のミステリー作品でもある。

1作目だけでも一応の完結おり楽しむことができるのだが、続編も読むことによって楽しさが跳ね上がるというありがたい仕様になっている。

創元SF文庫で一番の売り上げを誇る作品らしいが、その実績は伊達ではない。

星を継ぐもの (創元SF文庫)

星を継ぐもの (創元SF文庫)

 

 

3位  甲賀忍法帖 / 山田風太郎(1959年)

 

家康の秘命をうけ、徳川三代将軍の座をかけて争う、甲賀・伊賀の精鋭忍者各十名。官能の極致で男を殺す忍者あり、美肉で男をからめとる吸血くの一あり。四百年の禁制を解き放たれた甲賀・伊賀の忍者が死を賭し、秘術の限りを尽し、戦慄の死闘をくり展げる艶なる地獄相。恐るべし風太郎忍法、空前絶後の面白さ。

 

 能力バトル作品の始祖とされる作品だが、この時代に書かれたとは思えないほど練りに練られた能力や戦闘になっている。
甲賀卍谷衆VS伊賀鍔隠れ衆の10人対10人が出し惜しみなしの忍術によって潰し合う戦いは面白い以外の何物でもない。

 能力によって相性があったり、忍者であるため正々堂々ではなく奇襲、闇討ち、だまし討ちに多対一といった卑怯な戦術までバリエーション豊富なことが面白さに拍車をかけている。

 またありがたいことに(?)、くノ一たちはやたら妖艶なキャラが多く、使用する忍術が忍術だけに漂うエロスも尋常ではない。

 純粋に面白い小説が読みたいなら『甲賀忍法帖』を読めば間違いないだろう。

 

甲賀忍法帖 山田風太郎忍法帖(1) (講談社文庫)

甲賀忍法帖 山田風太郎忍法帖(1) (講談社文庫)

 

 

2位  獣の奏者 / 上橋菜穂子(2006年)

 

リョザ神王国。闘蛇村に暮らす少女エリンの幸せな日々は、闘蛇を死なせた罪に問われた母との別れを境に一転する。母の不思議な指笛によって死地を逃れ、蜂飼いのジョウンに救われて九死に一生を得たエリンは、母と同じ獣ノ医術師を目指すが―。苦難に立ち向かう少女の物語が、いまここに幕を開ける。

 

 

 児童文学という印象を持っていたが、創り込まれた世界観と情け容赦ない展開に開いた口がふさがらない作品である。

 『獣の奏者』が圧倒的に面白い理由の一つに、Ⅰの闘蛇編からひたすらに作中の歴史や世界に関する謎をひっぱりまくるところにある。
Ⅰ闘蛇編とⅡ王獣編でいったん物語は完結しており、作者自身も続編を考えていなかったとのことだが、完結編の最後の最後まで謎が明かされないことにより、続きが気になりまくりもはや徹夜は避けられないだろう。

 

 

1位  新世界より / 貴志祐介(2008年)

 

ここは病的に美しい日本(ユートピア)。
子どもたちは思考の自由を奪われ、家畜のように管理されていた。
手を触れず、意のままにものを動かせる夢のような力。その力があまりにも強力だったため、人間はある枷を嵌められた。社会を統べる装置として。
1000年後の日本。豊かな自然に抱かれた集落、神栖(かみす)66町には純粋無垢な子どもたちの歓声が響く。周囲を注連縄(しめなわ)で囲まれたこの町には、外から穢れが侵入することはない。「神の力(念動力)」を得るに至った人類が手にした平和。念動力(サイコキネシス)の技を磨く子どもたちは野心と希望に燃えていた……隠された先史文明の一端を知るまでは。

 

 宇宙最強に面白い小説である。

ファンタジーで青春で恋愛で学園モノでSFでミステリーでホラーでBLで百合で......つまりありとあらゆるジャンルを網羅し、すべてのクオリティが頂点に達しているという奇跡の作品なのだ。

終始不穏であり、エグくてグロいシーンのオンパレードなのでそれなりに人を選ぶことは間違いないのだが、こういったことに抵抗がない方であれば間違いなく好きになる。

人生ナンバーワンに挙げる人が多いのも納得である。

 

〇個別紹介記事

kodokusyo.hatenablog.com

 

 

新世界より 上中下巻セット

新世界より 上中下巻セット

  • メディア: セット買い
 

 

 類は友を呼ぶ

 
なお人生の100選はこちら。
100選も偏ったチョイスになっているが、SFやファンタジー、ホラー、そして広義のミステリが好きな方であれば参考になると思われる。

 

最強に面白いおすすめ小説|人生最高の100選

神本を求めて

そこでSFやファンタジー、ホラー要素のあるミステリーを好む私がこれまでに読んで素晴らしいと思った作品を挙げていく。

趣味が近そうな方の参考になれば幸いである。

 

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神本を求めて本を積みまくる日々

 

1. 星を継ぐもの / J.P.ホーガン(1977年)

 

月面調査員が真紅の宇宙服をまとった死体を発見した。綿密な調査の結果、この死体は何と死後五万年を経過していることがわかった。果たして現生人類とのつながりはいかなるものなのか。やがて木星の衛星ガニメデで地球のものではない宇宙船の残骸が発見された……。ハードSFの新星が一世を風靡した出世作

 

「月で5万年前の真紅の宇宙服をまとった死体が見つかった。」

こんな魅力的な"謎"がある時点で本作が傑作であることは確定している。

しかも月の人の謎を解明していく最中、木星の衛生ガニメデで2500年前の宇宙船が発見されるというさらなるミステリー。

本作は三部作となっており、1作目『星を継ぐもの』で月の人間ことルナリアンの謎、2作目『ガニメデの優しい巨人』でガニメデの宇宙人の謎、3作目『巨人たちの星』に至っては宇宙戦争の予感すら彷彿させる。

1作目だけでも一応の完結はしているので、古い作品だからと身構えず読んでみてほしい。最高のSFとミステリーが待っている。

星を継ぐもの (創元SF文庫)

星を継ぐもの (創元SF文庫)

 

 

2. クリムゾンの迷宮 / 貴志祐介(1999年)

 

藤木芳彦は、この世のものとは思えない異様な光景のなかで目覚めた。視界一面を、深紅色に濡れ光る奇岩の連なりが覆っている。ここはどこなんだ? 傍らに置かれた携帯用ゲーム機が、メッセージを映し出す。「火星の迷宮へようこそ。ゲームは開始された……」それは、血で血を洗う凄惨なゼロサム・ゲームの始まりだった。『黒い家』で圧倒的な評価を得た著者が、綿密な取材と斬新な着想で、日本ホラー界の新たな地平を切り拓く、傑作長編。

 

 「面白い小説を教えて」と漠然と聞かれた時に紹介する本の筆頭である。

圧倒的なエンタメ性を持つ至高のデスゲーム作品であり、まったく無駄がなく最初から最後までめちゃくちゃ面白いのがポイントだ。

貴志作品に共通する高いリーダビリティと、ちょうど良いページ数により普段小説を読まない人にも自信をもっておすすめできる。

〇個別紹介記事

kodokusyo.hatenablog.com

 

クリムゾンの迷宮 (角川ホラー文庫)

クリムゾンの迷宮 (角川ホラー文庫)

  • 作者:貴志 祐介
  • 発売日: 1999/04/09
  • メディア: 文庫
 

 

3. 暗いところで待ち合わせ / 乙一(2002年)

 

視力をなくし、独り静かに暮らすミチル。職場の人間関係に悩むアキヒロ。駅のホームで起きた殺人事件が、寂しい二人を引き合わせた。犯人として追われるアキヒロは、ミチルの家へ逃げ込み、居間の隅にうずくまる。他人の気配に怯えるミチルは、身を守るため、知らない振りをしようと決める。奇妙な同棲生活が始まった――。

 

これを読んで批判する人はいないのではないかと思うくらい神がかりの傑作である。

こんな作品が書けるのは若かりし頃の乙一くらいのものだろう。天才が全盛期に発表したセンスの塊である。
殺人犯と思われる男が盲目の女の家にこっそり潜伏するという変態的なシチュエーションから大きな感動が生み出される。

暗いところで待ち合わせ (幻冬舎文庫)

暗いところで待ち合わせ (幻冬舎文庫)

  • 作者:乙一
  • 発売日: 2002/04/01
  • メディア: 文庫
 

 

4. 死神の制度 / 伊坂幸太郎(2005年)

 

こんな人物が身近に現れたら、彼/彼女は死神かもしれません──(1)CDショップに入りびたり(2)苗字が町や市の名前と同じ(3)会話の受け答えが微妙にずれていて(4)素手で他人に触ろうとしない。1週間の調査の後、死神は対象者の死に「可」「否」の判断を下し、「可」ならば翌8日目に死は実行される。ただし、病死や自殺は除外。まれに死神を感じる人間がいる。──クールでどこか奇妙な死神・千葉が出会う、6つの人生。

 

 ここまでセンスの良い小説には滅多にお目にかかれないだろう。

伊坂という作家がどうして売れっ子なのかが一発で理解できる作品であり、私は売れっ子というだけで何となく伊坂作品を避けていたが、読了後はすぐに他の伊坂作品を漁っている自分がいた。

ミステリーとしてもヒューマンドラマとしても超一級品である。

死神の精度 (文春文庫)

死神の精度 (文春文庫)

 

 

5. 六番目の小夜子 / 恩田陸(1992年)

 

 津村沙世子――とある地方の高校にやってきた、美しく謎めいた転校生。高校には十数年間にわたり、奇妙なゲームが受け継がれていた。三年に一度、サヨコと呼ばれる生徒が、見えざる手によって選ばれるのだ。そして今年は、「六番目のサヨコ」が誕生する年だった。学園生活、友情、恋愛。やがては失われる青春の輝きを美しい水晶に封じ込め、漆黒の恐怖で包みこんだ、伝説のデビュー作。

 

 恩田陸のデビュー作にしてすべてが詰まった一冊。

様々なジャンルの作品を上梓する多才な恩田陸だが、本作はホラーやファンタジー、ミステリーにとどまらず、多ジャンルにまたがった作品となっている。
作中の文化祭の演劇のシーンは特に素晴らしく、恩田女史の高い筆力に感銘を受けると同時に、完全に小説の世界に吸い込まれてしまった。
真のホラーとはこんな作品のことをいうのだろう。

六番目の小夜子 (新潮文庫)

六番目の小夜子 (新潮文庫)

  • 作者:陸, 恩田
  • 発売日: 2001/01/30
  • メディア: 文庫
 

 

6. クラインの壺 / 岡嶋二人(1989年)

 

現実も真実も崩れ去る最後で最恐の大傑作。200万円で、ゲームブックの原作を謎の企業「イプシロン・プロジェクト」に売却した上杉彰彦。その原作をもとにしたヴァーチャルリアリティ・システム『クライン2』の制作に関わることに。美少女・梨紗と、ゲーマーとして仮想現実の世界に入り込む。岡嶋二人の最終作かつ超名作。そのIT環境の先見性だけでも、刊行年1989年という事実に驚愕するはず。

 

 最強の徹夜本であり読み始めたら最後、読了まで何も手につかなくなるだろう。

伝説の作家ユニット岡嶋二人名義の作品ではあるが、実質はコンビの一人井上夢人氏の作品と言われるSF×ミステリーの至高の傑作である。

1989年に刊行され、VRをメインテーマにしているにも関わらず今読んでもまったく古臭さをまるで感じさせないのは、著者の先見の明と圧倒的な力量だろう。

またSFなのに異常に読みやすいのも高ポイントだ。

クラインの壺 (新潮文庫)

クラインの壺 (新潮文庫)

 

 

7. 秘密 / 東野圭吾(1998年)

 

運命は、愛する人を二度奪っていく。
自動車部品メーカーで働く39歳の杉田平介は妻・直子と小学5年生の娘・藻奈美と暮らしていた。長野の実家に行く妻と娘を乗せたスキーバスが崖から転落してしまう。 妻の葬儀の夜、意識を取り戻した娘の体に宿っていたのは、死んだはずの妻だった。 その日から杉田家の切なく奇妙な“秘密"の生活が始まった。 外見は小学生ながら今までどおり家事をこなす妻は、やがて藻奈美の代わりに 新しい人生を送りたいと決意し、私立中学を受験、その後は医学部を目指して共学の高校を受験する。年頃になった彼女の周囲には男性の影がちらつき、 平介は妻であって娘でもある彼女への関係に苦しむようになる。

 

 稀代の売れっ子作家が超売れるようになるきっかけになった作品だけあって、万人が楽しむことができる作品である。

超傑作量産マシーン東野圭吾の著書は100冊を超える勢いであるだけに、「どれから読めばいいんだ?」という疑問は多いと思う。初期作品は万人向けとは言いがたい推理小説が多く、代表作の中にはシリーズ物も多い。

本作を選べばまず間違いはないと断言できる。

秘密 (文春文庫)

秘密 (文春文庫)

 

 

8. コンビニ人間 / 村田沙耶香(2016年)

 

「普通」とは何か?
現代の実存を軽やかに問う第155回芥川賞受賞作
36歳未婚、彼氏なし。コンビニのバイト歴18年目の古倉恵子。
日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、
「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる――。
「いらっしゃいませー!!」
お客様がたてる音に負けじと、今日も声を張り上げる。
ある日、婚活目的の新入り男性・白羽がやってきて、
そんなコンビニ的生き方は恥ずかしい、と突きつけられるが……。

 

 私は失礼ながら芥川賞=偉い人たちにつまらない本であると認定された不名誉な賞だと考えていたのだが、本作を読んだことでそれは誤りだと気付かされた。

クレイジー沙耶香と称されるキチ〇イ変態作家による、変態成分が控えめでありながらもキレまくりの大傑作。これは全人類必読の書だ。

コンビニ人間 (文春文庫)

コンビニ人間 (文春文庫)

 

 

9. イニシエーション・ラブ / 乾くるみ(2004年)

 

僕がマユに出会ったのは、代打で呼ばれた合コンの席。やがて僕らは恋に落ちて…。甘美で、ときにほろ苦い青春のひとときを瑞々しい筆致で描いた青春小説―と思いきや、最後から二行目(絶対に先に読まないで!)で、本書は全く違った物語に変貌する。「必ず二回読みたくなる」と絶賛された傑作ミステリー。

 

 普段は本を読まない人に小説の魅力を伝えるのに最適な一冊である。

数々の娯楽が溢れかえった今の世の中では、小説に魅力を見出すのが難しいのかもしれないが、そんな中でも小説でしか味わえないものというのがある。

 その一つに小説ならではの仕掛けというのがあるのだが、『イニシエーション・ラブ』は青春恋愛小説でありながらその小説の秘儀を高いレベルで成功させている。

 ミステリー慣れしていない人やこれから読書にハマりたいような人には超おすすめ。

ちなみに映像化不可能な本作はなんと映画化されている。そちらも見ものである。

 

イニシエーション・ラブ (文春文庫)

イニシエーション・ラブ (文春文庫)

 

 

10. 占星術殺人事件 / 島田荘司(1981年)

 

密室で殺された画家が遺した手記には、六人の処女の肉体から完璧な女=アゾートを創る計画が書かれていた。彼の死後、六人の若い女性が行方不明となり肉体の一部を切り取られた姿で日本各地で発見される。事件から四十数年、未だ解かれていない猟奇殺人のトリックとは!? 名探偵・御手洗潔を生んだ衝撃のデビュー作、完全版! 二〇一一年十一月刊行の週刊文春臨時増刊「東西ミステリーベスト一〇〇」では、日本部門第三位選出。

 

 学生時代にこの本に出会っていたら人生が変わっていたと思う。

トリックは『金○○○年○○件○』の某事件で盛大にネタバレされているが、それでも半端なく楽しめたのが本書の凄まじいところ。

否、メイントリックをネタバレされたことによって新たなミスリードを生むのである。

平成以降に生まれた人であればパクった作品の存在を知らないと思われるので100%楽しむことができるだろう(羨ましい....)

最強の推理小説であるだけでなく、物語としてもとても楽しめるのも素晴らしい。

占星術殺人事件 改訂完全版 (講談社文庫)

占星術殺人事件 改訂完全版 (講談社文庫)

  • 作者:島田 荘司
  • 発売日: 2013/08/09
  • メディア: 文庫
 

 

11. プラスティック / 井上夢人(1998年)

 

54個の文書ファイルが収められたフロッピイがある。冒頭の文書に記録されていたのは、出張中の夫の帰りを待つ間に奇妙な出来事に遭遇した主婦・向井洵子が書きこんだ日記だった。その日記こそが、アイデンティティーをきしませ崩壊させる導火線となる! 謎が謎を呼ぶ深遠な井上ワールドの傑作ミステリー。

 

 最強の一気読み小説の筆頭候補で徹夜の覚悟が必要である。ミステリー作品だが仕掛けられたトリックは分かってしまうかもしれない。

しかし本作の魅力はトリックが分かろうが分かるまいが増減するものではない。ただひたすら面白く、そしてなかなか恐ろしい作品なのだ。

最後まで読み終えた時、本作の圧倒的な完成度に驚愕することになる。

プラスティック (講談社文庫)

プラスティック (講談社文庫)

 

 

12. 今夜、すべてのバーで / 中島らも(1991年)

 

薄紫の香腺液の結晶を、澄んだ水に落とす。甘酸っぱく、すがすがしい香りがひろがり、それを一口ふくむと、口の中で冷たい玉がはじけるような・・・・・・。アルコールにとりつかれた男・小島容(いるる)が往き来する、幻覚の世界と妙に覚めた日常そして周囲の個性的な人々を描いた傑作長篇小説。吉川英治文学新人賞受賞作。

 

酒とドラッグにおぼれた天才作家・中島らもによる、ほぼ実話に近いノンフィクション風な私小説である。

私はこの著者はただの変な人だと思っていたのだが、作品を読めば読むほど圧倒的な知性とセンスを感じて驚ろかされるのだが、本作はアルコールについて相当な研究がなされたうえで描かれており、センス×蘊蓄×実体験という要素が掛け合わされたことで素晴らしい作品になっている。

酒好きは飲みながら読もう。そしてやめよう。

今夜、すベてのバーで (講談社文庫)

今夜、すベてのバーで (講談社文庫)

  • 作者:中島 らも
  • 発売日: 1994/03/04
  • メディア: 文庫
 

 

13. 天使の囀り / 貴志祐介(1998年)

 

北島早苗は、終末期医療に携わる精神科医。恋人の高梨は、病的な死恐怖症(タナトフォビア)だったが、新聞社主催のアマゾン調査隊に参加してからは、人格が異様な変容を見せ、あれほど怖れていた『死』に魅せられたように自殺してしまう。さらに、調査隊の他のメンバーも、次々と異常な方法で自殺を遂げていることがわかる。アマゾンでいったい何が起きたのか? 高梨が死の直前に残した「天使の囀りが聞こえる」という言葉は、何を意味するのか? 前人未踏の恐怖が、あなたを襲う。

 

 貴志ホラーとして、またグロ系ホラーとして最高傑作だと思う。

ミステリー的な要素と終始漂う不穏な空気、人々の恐ろしい死に様、気持ち悪い描写の数々に完全にやられてしまった。

おぞましい作品だが、エンタメ作品として素晴らしい作品でもあるため、グロを覚悟してでも読んでおくべき作品である。

天使の囀り (角川ホラー文庫)

天使の囀り (角川ホラー文庫)

  • 作者:貴志 祐介
  • 発売日: 2000/12/08
  • メディア: 文庫
 

 

14. 魔性の子 / 小野不由美(1991年)

 

どこにも、僕のいる場所はない──教育実習のため母校に戻った広瀬は、高里という生徒が気に掛かる。周囲に馴染まぬ姿が過ぎし日の自分に重なった。彼を虐(いじ)めた者が不慮の事故に遭うため、「高里は祟(たた)る」と恐れられていたが、彼を取り巻く謎は、“神隠し”を体験したことに関わっているのか。広瀬が庇おうとするなか、更なる惨劇が……。心に潜む暗部が繙(ひもと)かれる、「十二国記」戦慄の序章。

 

 国内ファンタジーの最高峰『十二国記』の1作目ではあるが、シリーズの番外編に位置する作品となっていてこの1冊で話が完結している。

したがって十二国記には興味が無くても面白いホラー小説に興味があるような方にぜひおすすめしたい。数々の傑作ホラーを生み出している小野不由美女史の作品の中でも、エンタメ要素が高めで素晴らしい内容となっている。

魔性の子 十二国記 0 (新潮文庫)

魔性の子 十二国記 0 (新潮文庫)

 

 

15.  月の影 影の海 / 小野不由美(1992年)

 

「お捜し申し上げました」──女子高生の陽子の許に、ケイキと名乗る男が現れ、跪く。そして海を潜り抜け、地図にない異界へと連れ去った。男とはぐれ一人彷徨(さまよ)う陽子は、出会う者に裏切られ、異形(いぎょう)の獣には襲われる。なぜ異邦(ここ)へ来たのか、戦わねばならないのか。怒濤(どとう)のごとく押し寄せる苦難を前に、故国へ帰還を誓う少女の「生」への執着が迸(ほとばし)る。

 

 事実上の『十二国記』1作目であり、現在アニメに溢れかえっている異世界ものの頂点に君臨する完成度である。

 女子高生が妖しいイケメンに連れられて血も涙もない異世界に放り込まれて、まさに地獄のような旅を余儀なくされる様は、人によっては勇気をもらえることだろう。

 練りに練られた設定は話が進んでも破綻することがないので、『魔性の子』や本作を書く前に一体どれだけ本気で妄想したんだろう....と若き日の小野不由美女史に聞いてみたいものである。

 

十二国記の紹介記事

kodokusyo.hatenablog.com

 

月の影  影の海 (上) 十二国記 1 (新潮文庫)

月の影 影の海 (上) 十二国記 1 (新潮文庫)

 

 

16. 陽だまりの彼女 / 越谷オサム(2008年)

 

 幼馴染みと十年ぶりに再会した俺。かつて「学年有数のバカ」と呼ばれ冴えないイジメられっ子だった彼女は、モテ系の出来る女へと驚異の大変身を遂げていた。でも彼女、俺には計り知れない過去を抱えているようで―その秘密を知ったとき、恋は前代未聞のハッピーエンドへと走りはじめる!誰かを好きになる素敵な瞬間と、同じくらいの切なさもすべてつまった完全無欠の恋愛小説。


 ありがちな恋愛小説っぽくて話自体も王道恋愛小説といった具合に進行するのだが、彼女の正体というミステリー要素が読者をグイグイ引っ込み一気読み確定な作品となっている。

話が進むとファンタジー要素も入ってきてますます読む手は加速していき、ラストは読者によってだいぶ感想が異なってくると思う。

 特に男女でハッピーエンドと見るかバッドエンドと見るか変わってくると思う。
ちなみに私はバッドだと思う(泣)

 

陽だまりの彼女 (新潮文庫)

陽だまりの彼女 (新潮文庫)

 

 

17. 白夜行 / 東野圭吾(1999年)

 

1973年、大阪の廃墟ビルで一人の質屋が殺された。容疑者は次々と浮かぶが、事件は迷宮入りする。被害者の息子・桐原亮司と「容疑者」の娘・西本雪穂――暗い目をした少年と、並外れて美しい少女は、その後、全く別の道を歩んでいく。二人の周囲に見え隠れする、いくつもの恐るべき犯罪。だが、証拠は何もない。そして19年……。伏線が幾重にも張り巡らされた緻密なストーリー。壮大なスケールで描かれた、ミステリー史に燦然と輝く大人気作家の記念碑的傑作。


恐るべき傑作であり、東野圭吾に完全に土下座することになった作品である。

長いけど読んで。としか言いようのない神傑作。

構成といい主役二人が一度も主観にならない書き方といい超絶技巧である。

これを読まずに生きていくなんて人生の損失だと言っても過言ではない。

白夜行 (集英社文庫)

白夜行 (集英社文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 2002/05/25
  • メディア: 文庫
 

 

18. 魍魎の匣 / 京極夏彦(1995年)

 

箱を祀る奇妙な霊能者。箱詰めにされた少女達の四肢。そして巨大な箱型の建物――箱を巡る虚妄が美少女転落事件とバラバラ殺人を結ぶ。探偵・榎木津、文士・関口、刑事・木場らがみな事件に関わり京極堂の元へ。果たして憑物(つきもの)は落とせるのか!?日本推理作家協会賞に輝いた超絶ミステリ、妖怪シリーズ第2弾。

 

 アホみたいに分厚い本が並ぶ京極夏彦先生の百鬼夜行シリーズの中でも、1,2位を争う尋常ではない傑作であり、SFや怪奇幻想要素を持った超絶ミステリーである。

冒頭の美しい文章は芸術的であり、文章を読んで心が震えた数少ない作品である。

これを読んで京極先生の天才っ振りに呆れてしまったものだ。

訳が分からないほど謎まみれなのに最後は見事にすべての伏線を回収。
腰を抜かすほど猟奇的なので注意。

文庫版 魍魎の匣 (講談社文庫)

文庫版 魍魎の匣 (講談社文庫)

  • 作者:京極 夏彦
  • 発売日: 1999/09/08
  • メディア: 文庫
 

 

19. 殺戮にいたる病 / 我孫子武丸(1992年)

 

永遠の愛をつかみたいと男は願った―。東京の繁華街で次々と猟奇的殺人を重ねるサイコ・キラーが出現した。犯人の名前は、蒲生稔!くり返される凌辱の果ての惨殺。冒頭から身も凍るラストシーンまで恐るべき殺人者の行動と魂の軌跡をたどり、とらえようのない時代の悪夢と闇を鮮烈無比に抉る衝撃のホラー。叙述ミステリの極致!

 

 あのトリックを使ったミステリーの中でも最高峰の完成度を誇る大傑作だが、そんなことはどうでも良い。至高のエログロこそが本作の核だ。

恐るべきエロさとやたらリアリティのあるなまなましいグロさが襲い掛かってくる。

口が裂けても女性や子どもにはおすすめできない作品だが、小説の楽しさを教えるという意味でいつかは我が息子におすすめしたい1冊である。

新装版 殺戮にいたる病 (講談社文庫)

新装版 殺戮にいたる病 (講談社文庫)

 

 

20. 砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない / 桜庭一樹(2004年)

 

その日、兄とあたしは、必死に山を登っていた。見つけたくない「あるもの」を見つけてしまうために。あたし=中学生の山田なぎさは、子供という境遇に絶望し、一刻も早く社会に出て、お金という“実弾”を手にするべく、自衛官を志望していた。そんななぎさに、都会からの転校生、海野藻屑は何かと絡んでくる。嘘つきで残酷だが、どこか魅力的な藻屑となぎさは序々に親しくなっていく。だが、藻屑は日夜、父からの暴力に曝されており、ある日―。直木賞作家がおくる、切実な痛みに満ちた青春文学。

 

 最強に面白いという形容詞がふさわしい作品ではないが、魔力と言っても良い不思議な魅力があり、読み始めたら一心不乱に最後まで読み進めることになるだろう。

 私はただちょくちょく名前を見る作品だし、短くて読みやすそうだからという理由で読んだのだが、想定外の素晴らしい読書体験となった。

 

 

21. エムブリヲ奇譚 / 山白朝子(2012年)

 

「わすれたほうがいいことも、この世には、あるのだ」無名の温泉地を求める旅本作家の和泉蝋庵。荷物持ちとして旅に同行する耳彦は、蝋庵の悪癖ともいえる迷い癖のせいで常に災厄に見舞われている。幾度も輪廻を巡る少女や、湯煙のむこうに佇む死に別れた幼馴染み。そして“エムブリヲ”と呼ばれる哀しき胎児。出会いと別れを繰り返し、辿りついた先にあるものは、極楽かこの世の地獄か。哀しくも切ない道中記、ここに開幕。

 

 もはや周知の事実だろうから書かせていただくが、山白朝子とは天才作家・乙一の別名義である。

『エムブリヲ奇譚』は黒乙一ならではの"残酷さ"に白乙一の”せつなさ”をブレンドして、それを独特の世界観を持った時代小説風に描いた連作短編集である。

短編の名手であるだけに個々の作品はかなりのインパクトがあり、サラッと読めるのにかなりヘヴィでせつない読後感が残るすごい作品である。

 乙一のホラーな要素や不思議な話が好きな方なら必読だ。

 

エムブリヲ奇譚 (角川文庫)

エムブリヲ奇譚 (角川文庫)

  • 作者:山白 朝子
  • 発売日: 2016/03/25
  • メディア: 文庫
 

 

22. 異邦の騎士 / 島田荘司(1988年)

 

失われた過去の記憶が浮かび上がり、男は戦慄する。自分は本当に愛する妻子を殺したのか。やっと手にした幸せな生活に忍び寄る新たな魔手。名探偵・御手洗潔の最初の事件を描いた傑作ミステリー『異邦の騎士』に著者が精魂こめて全面加筆した改訂完全版。幾多の歳月を越え、いま異邦の扉が再び開かれる。

 

 稀代の推理作家・島田荘司の事実上の処女作である。

ミステリーなどどうでもいいくらいストーリーが良く、恋愛小説や青春小説(アラサーではあるが)として素晴らしい内容である。
前作まで読み進めてきているのならラストは号泣することになるだろう。 

 シリーズもので他の作品を読んでいないと魅力が半減する作品はなるべく紹介しないようにしたいが、『異邦の騎士』は『占星術殺人事件』を読むだけでも大丈夫なので強くお勧めしたい。

 ちなみに御手洗シリーズは『異邦の騎士』以外の作品は順番を気にしなくてもあまり影響がない。

異邦の騎士 改訂完全版

異邦の騎士 改訂完全版

  • 作者:島田 荘司
  • 発売日: 1998/03/13
  • メディア: 文庫
 

 

23. アヒルと鴨のコインロッカー / 伊坂幸太郎(2003年)

 

大学入学のため引っ越してきたアパートで、最初に出会ったのは黒猫、次が悪魔めいた長身の青年。初対面だというのに、彼はいきなり「一緒に本屋を襲わないか」と持ちかけてきた。標的は――たった一冊の広辞苑。僕は訪問販売の口車に乗せられ、危うく数十万円の教材を買いそうになった実績を持っているが、書店強盗は訪問販売とは訳が違う。しかし決行の夜、あろうことか僕はモデルガンを持って、書店の裏口に立ってしまったのだ! 四散した断片が描き出す物語の全体像とは? 注目の気鋭による清冽な傑作。第25回吉川英治文学新人賞受賞作。

 

 伊坂幸太郎のミステリー作家としての本領が発揮された作品で、広義の推理小説としてとても優れた作品であり、伊坂作品の中でも本格推理度が高いとされる1冊。

 いかにもつまらなそうなタイトル(←ごめんなさい)に読む気が失せるかもしれないが、読んでみればミステリーとしての完成度や物語の面白さに圧倒されるだろう。

 なお動物虐待描写がかなりキツいので苦手な方は要注意。

アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)

アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)

 

 

24. 新世界より / 貴志祐介(2008年)

 

ここは病的に美しい日本(ユートピア)。
子どもたちは思考の自由を奪われ、家畜のように管理されていた。
手を触れず、意のままにものを動かせる夢のような力。その力があまりにも強力だったため、人間はある枷を嵌められた。社会を統べる装置として。
1000年後の日本。豊かな自然に抱かれた集落、神栖(かみす)66町には純粋無垢な子どもたちの歓声が響く。周囲を注連縄(しめなわ)で囲まれたこの町には、外から穢れが侵入することはない。「神の力(念動力)」を得るに至った人類が手にした平和。念動力(サイコキネシス)の技を磨く子どもたちは野心と希望に燃えていた……隠された先史文明の一端を知るまでは。

 

宇宙最強に面白い小説であり、我が生涯のベスト作品である。

ファンタジーでSFでミステリーでホラーでもある神作家・貴志祐介の最終兵器。

数々の傑作を上梓している貴志だが、本作は著者の全身全霊が込められた究極の完成度を誇っている。

文庫で1500ページにもおよぶ超大作でありながら、まったくと言っていいほどダレるところはなく、ひたすら睡眠時間を削られまくったのは良い思い出だ。

 

〇個別紹介記事

kodokusyo.hatenablog.com

 

新世界より 上中下巻セット

新世界より 上中下巻セット

  • メディア: セット買い
 

 

25. 夜のピクニック / 恩田陸(2004年)

 

高校生活最後を飾るイベント「歩行祭」。それは全校生徒が夜を徹して80キロ歩き通すという、北高の伝統行事だった。甲田貴子は密かな誓いを胸に抱いて、歩行祭にのぞんだ。三年間、誰にも言えなかった秘密を清算するために――。学校生活の思い出や卒業後の夢など語らいつつ、親友たちと歩きながらも、貴子だけは、小さな賭けに胸を焦がしていた。本屋大賞を受賞した永遠の青春小説。

 

 私の好きな要素なんて1つもないはずなのにとにかく感動してしまった。

ただ夜歩くだけなのになんでこんなに面白いのだろうか。静かな夜に青春時代を思い出しながら酒を飲んで読みたい作品。(もちろん学生は現在進行形で楽しめるだろう)

投げっぱなしジャーマンが得意で伏線を回収せずに強制終了することの多い恩田作品において、奇跡的にしっかり締められている。

夜のピクニック (新潮文庫)

夜のピクニック (新潮文庫)

  • 作者:陸, 恩田
  • 発売日: 2006/09/07
  • メディア: 文庫
 

 

26. 粘膜人間 / 飴村行(2008年)

 

 「弟を殺そう」――身長195cm、体重105kgという異形な巨体を持つ小学生の雷太。その暴力に脅える長兄の利一と次兄の祐二は、弟の殺害を計画した。だが圧倒的な体力差に為すすべもない二人は、父親までも蹂躙されるにいたり、村のはずれに棲む“ある男たち”に依頼することにした。グロテスクな容貌を持つ彼らは何者なのか? そして待ち受ける凄絶な運命とは……。第15回日本ホラー小説大賞長編賞を受賞した衝撃の問題作。

 

 飴村氏のデビュー作であり、エログロ好きは死んでも読むべき1冊である。

中学生が考えそうなおバカ物語と変態エログロを、廃人文豪が本気を出して小説にしてしまったかのような異常な作品に仕上がっている。

 巨体で凶暴な小学生雷太を殺すため、2人の兄がその殺害を河童に依頼するというアホな話と、エログロ超全開のハイパー怪奇幻想ミステリーで構成されている。

とにかく面白いので、クソ文学に耐性がある方はぜひ手に取って頂きたい。

 生きた女のケツの穴から槍をぶっ刺して、口まで通して串刺しにしてみたいというリョナのあなたは絶対に読みなさいッ!!

 

粘膜人間 (角川ホラー文庫)

粘膜人間 (角川ホラー文庫)

  • 作者:飴村 行
  • 発売日: 2008/10/24
  • メディア: 文庫
 

 

27. メドゥサ、鏡をごらん / 井上夢人(2000年)

 

作家・藤井陽造は、コンクリートを満たした木枠の中に全身を塗り固めて絶命していた。傍らには自筆で〈メドゥサを見た〉と記したメモが遺されており、娘とその婚約者は、異様な死の謎を解くため、藤井が死ぬ直前に書いていた原稿を探し始める。だが、何かがおかしい。次第に高まる恐怖。そして連鎖する怪死! 身の毛もよだつ、恐怖の連鎖が始まる

 

謎が謎を呼ぶ最強一気読み小説。

ミステリーでありホラーであり、SFっぽくもある本作だが、読んでいる最中の面白さは最強と呼ぶにふさわしい。気が付けば徹夜していることだろう。

最も井上夢人らしい作品だとも思っており、岡嶋二人時代の超名作『クラインの壺』的な感覚を彷彿とさせられる。

メドゥサ、鏡をごらん (講談社文庫)

メドゥサ、鏡をごらん (講談社文庫)

 

 

28. 夜市 / 恒川光太郎(2009年)

 

妖怪たちが様々な品物を売る不思議な市場「夜市」。ここでは望むものが何でも手に入る。小学生の時に夜市に迷い込んだ裕司は、自分の弟と引き換えに「野球の才能」を買った。野球部のヒーローとして成長した裕司だったが、弟を売ったことに罪悪感を抱き続けてきた。そして今夜、弟を買い戻すため、裕司は再び夜市を訪れた―。奇跡的な美しさに満ちた感動のエンディング!魂を揺さぶる、日本ホラー小説大賞受賞作。


  日本ホラー小説大賞受賞作した『夜市』と表題作以上に素晴らしい『風の古道』を収録した中編集である。

 どちらの作品もホラー要素はあまり強くなく、美しく儚い幻想的な世界観のダークファンタジーで、表題作はジブリの『千と千尋の神隠し』のような印象もある。
圧巻は『風の古道』であり、映像化など絶対にできない圧倒的な異世界に読者を導いてくれるだろう。

日常に疲れて現実逃避したい時にはこれ以上のものはないだろう。

 

夜市 (角川ホラー文庫)

夜市 (角川ホラー文庫)

 

 

 

29. 火車 / 宮部みゆき(1992年)

 

休職中の刑事、本間俊介は遠縁の男性に頼まれて彼の婚約者、関根彰子の行方を捜すことになった。自らの意思で失踪、しかも徹底的に足取りを消して――なぜ彰子はそこまでして自分の存在を消さねばならなかったのか? いったい彼女は何者なのか? 謎を解く鍵は、カード社会の犠牲ともいうべき自己破産者の凄惨な人生に隠されていた。山本周五郎賞に輝いたミステリー史に残る傑作。

 
 東西ミステリベスト100の国内部門で5位という本気ですごい作品であり、このランキングのトップ5は存命中の作家だと島田荘司だけである。

言うまでもなく尋常ではない完成度の社会派ミステリであると同時に、エンターテイメント作品としてもとても優れており、大ボリュームな作品なのに一気読みさせられることになるだろう。
 クレジットカードや自己破産がテーマになっているためミステリ云々ではなく、読み物として万人におすすめしたい。

火車 (新潮文庫)

火車 (新潮文庫)

 

 

30. 容疑者Xの献身 / 東野圭吾(2005年)

 

天才数学者でありながら不遇な日々を送っていた高校教師の石神は、一人娘と暮らす隣人の靖子に秘かな想いを寄せていた。彼女たちが前夫を殺害したことを知った彼は、2人を救うため完全犯罪を企てる。だが皮肉にも、石神のかつての親友である物理学者の湯川学が、その謎に挑むことになる。ガリレオシリーズ初の長篇、直木賞受賞作。 

 

数々のミステリーの賞を受賞した上に直木賞まで受賞してしまった化け物級の作品だ。

ヒューマンドラマとしても推理小説としても高品質な1冊で、正直大ベストセラーだからと言って舐めてかかっていた私も、トリックが明らかになった時には思わず「何ィーー!?」と唸ることになった。

東野圭吾は悔しいが(?)、日本最高の作家だと認めざるを得ない。

容疑者Xの献身 (文春文庫)

容疑者Xの献身 (文春文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 2008/08/05
  • メディア: 文庫
 

 

31. 神様ゲーム / 麻耶雄嵩(2005年)

 

自分を「神様」と名乗り、猫殺し事件の犯人を告げる謎の転校生の正体とは? 神降市に勃発した連続猫殺し事件。芳雄憧れの同級生ミチルの愛猫も殺された。町が騒然とするなか謎の転校生・鈴木太郎が事件の犯人を瞬時に言い当てる。鈴木は自称「神様」で、世の中のことは全てお見通しだというのだ。そして、鈴木の予言通り起こる殺人事件。芳雄は転校生を信じるべきか、疑うべきか?

 

 講談社ミステリーランドという児童向けのレーベルから刊行された作品にも関わらず、冗談のように邪悪で不謹慎な内容である。問題作ばかり発表し、神だの変態だのと称される麻耶雄嵩の本領発揮だ。全知全能の神が犯人を推理することもなく告げるという特殊な推理小説なので、もちろん犯人当ての要素はないのだが、だれも予想できない狂った真相が待ち受ける。

神様ゲーム (講談社文庫)

神様ゲーム (講談社文庫)

  • 作者:麻耶 雄嵩
  • 発売日: 2015/07/15
  • メディア: 文庫
 

 

32. 旅のラゴス / 筒井康隆(1986年)

 

北から南へ、そして南から北へ。突然高度な文明を失った代償として、人びとが超能力を獲得しだした「この世界」で、ひたすら旅を続ける男ラゴス。集団転移、壁抜けなどの体験を繰り返し、二度も奴隷の身に落とされながら、生涯をかけて旅をするラゴスの目的は何か? 異空間と異時間がクロスする不思議な物語世界に人間の一生と文明の消長をかっちりと構築した爽快な連作長編。

 

 この世には人生を変える本というものが存在するらしいが、本作こそまさにそんな1冊なのだと思う。

人生を台無しにする可能性を秘めた諸刃の剣であり、私はこの本を読んで家族も放ったらかしにしてひたすら読書をするようになってしまった。

男であれば必読の作品である。(もちろん女性が読んでもいいと思う。)

旅のラゴス (新潮文庫)

旅のラゴス (新潮文庫)

 

 

33. 失はれる物語 / 乙一(2003年)

 

目覚めると、私は闇の中にいた。交通事故により全身不随のうえ音も視覚も、五感の全てを奪われていたのだ。残ったのは右腕の皮膚感覚のみ。ピアニストの妻はその腕を鍵盤に見たて、日々の想いを演奏で伝えることを思いつく。それは、永劫の囚人となった私の唯一の救いとなるが……。表題作のほか、「Calling You」「傷」など傑作短篇5作とリリカルな怪作「ボクの賢いパンツくん」、書き下ろし「ウソカノ」の2作を初収録。

 

 天才・乙一によるせつなさみだれうち

せつない作風と短編を得意とする乙一だが、本作はせつない短編のベスト盤だけあって一つ一つの物語の完成度が桁外れである。

表題作含めせつなさに溢れた至高の名作を体感してほしい。

失はれる物語 (角川文庫)

失はれる物語 (角川文庫)

  • 作者:乙一
  • 発売日: 2006/06/24
  • メディア: 文庫
 

 

34. 〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件 / 早坂吝(2014年)

 

アウトドアが趣味の公務員・沖らは、仮面の男・黒沼が所有する孤島での、夏休み恒例のオフ会へ。赤毛の女子高生が初参加するなか、孤島に着いた翌日、メンバーの二人が失踪、続いて殺人事件が。さらには意図不明の密室が連続し……。果たして犯人は? そしてこの作品のタイトルとは? 「タイトル当て」でミステリランキングを席巻したネタバレ厳禁の第50回メフィスト賞受賞作

 

 こんなこと書いたらミステリーマニアとして村八分にされそうだが、本格推理小説としては5本の指に入るほどの傑作だと感じてしまったし、なによりキャラがとても良くて、意味のあるエロが満載なところがたまらない。

愛しすぎてネタバレ無しの個別作品記事も書いてしまったので、ぜひとも参考していただきたい!!

kodokusyo.hatenablog.com

 

○○○○○○○○殺人事件 (講談社文庫)

○○○○○○○○殺人事件 (講談社文庫)

  • 作者:早坂 吝
  • 発売日: 2017/04/14
  • メディア: 文庫
 

 

35. 暗闇坂の人喰いの木 / 島田荘司(1990年)

 

さらし首の名所・暗闇坂にそそり立つ樹齢2000年の大楠。この巨木が次々に人間を呑み込んだ? 近寄る人間たちを狂気に駆り立てる大楠の謎とは何か? 信じられぬ怪事件の数々に名探偵・御手洗潔が挑戦する。だが真相に迫る御手洗も恐怖にふるえるほど、事件は凄惨を極めた。本格ミステリーの騎手が全力投球する傑作。

 

 クララが死んだ!!

正直言ってこんな凄まじいミステリーに出会えるとは夢にも思っていなかったレベルの超絶傑作である。

ミステリーであると同時に非常に恐ろしいホラー小説でもあり、さらに冒険小説としての楽しさを合わせ持っているという規格外の作品で、物語と魅力的な謎に惹かれてただひたすらページをめくってしまった。

すさまじくグロい作品でもあるので注意が必要だ。

 

〇個別紹介記事

kodokusyo.hatenablog.com

 

暗闇坂の人喰いの木 (講談社文庫)

暗闇坂の人喰いの木 (講談社文庫)

  • 作者:島田 荘司
  • 発売日: 1994/06/06
  • メディア: 文庫
 

 

36. ダークゾーン / 貴志祐介(2011年)

 

「戦え。戦い続けろ」プロ将棋棋士の卵・塚田は、赤い異形の戦士と化して、闇の中で目覚めた。突如、謎の廃墟で開始される青い軍団との闘い。敵として生き返る「駒」、戦果に応じた強力化など、奇妙なルールの下で続く七番勝負。頭脳戦、心理戦、そして奇襲戦。“軍艦島”で繰り広げられる地獄のバトル。圧巻の世界観で鬼才が贈る最強エンターテインメント!

 

謎に包まれた空間ダークゾーンにて訳も分からず繰り広げられる"人間将棋デスゲーム"。そこはかとなく漂うせつなさと虚無感がたまらない。

ダークゾーンとは一体何なのか?現実世界では何があったのか?戦いの先に待つものとは?謎が謎を呼びグイグイ物語に引き込まれることになるだろう。

貴志作品の中でも最もエンターテイメントに特化した作品である。

ダークゾーン

ダークゾーン

  • 作者:貴志 祐介
  • 発売日: 2011/02/11
  • メディア: 単行本
 

 

37. 精霊の守り人 / 上橋菜穂子(1996年)

 

精霊の卵を宿す皇子チャグムを託され、命をかけて皇子を守る女用心棒バルサの活躍を描く物語。著者は2014年国際アンデルセン賞作家賞受賞。

老練な女用心棒バルサは、新ヨゴ皇国の二ノ妃から皇子チャグムを託される。精霊の卵を宿した息子を疎み、父帝が差し向けてくる刺客や、異界の魔物から幼いチャグムを守るため、バルサは身体を張って戦い続ける。建国神話の秘密、先住民の伝承など文化人類学者らしい緻密な世界構築が評判を呼び、数多くの受賞歴を誇るロングセラーがついに文庫化。痛快で新しい冒険シリーズが今始まる。

 

 日本を代表するファンタジー小説守り人シリーズ』はシリーズのどの作品も圧倒的に面白いため、本当は全作品を本記事に挙げたいところだが、1作目の『精霊の守り人』のみに留めておく。(詳細は下記URLのシリーズ紹介記事をご参照ください。)

 完成された世界観、物語のスピーディな展開や臨場感のある戦闘シーン、魅力的なキャラクター、そしてハイレベルなリーダビリティ。エンタメ作品として完璧である。

 このシリーズのすごいところは、1作目が最高傑作かと思いきや先に進めば進むほどさらに面白くなっていくことにある。

 

〇シリーズ紹介記事

kodokusyo.hatenablog.com

 

精霊の守り人 (新潮文庫)

精霊の守り人 (新潮文庫)

 

 

38. 月光ゲーム / 有栖川有栖(1989年)

 

夏合宿のために矢吹山のキャンプ場へやってきた英都大学推理小説研究会の面々を、予想だにしない事態が待ち構えていた。山が噴火し、偶然一緒になった三グループの学生たちは、陸の孤島と化したキャンプ場に閉じ込められてしまったのだ。その極限状況の中、まるで月の魔力に誘われたように出没する殺人鬼! 

 

 本格推理小説の代表作家として必ず名前が挙がる有栖川有栖のデビュー作であり、火山という極限状態でのクローズドサークルものである。

読者への挑戦状があるなど、いかにも本格推理な作品だが本作の素晴らしいところは、ミステリーだけでなく青春小説や恋愛小説としてもとても完成度が高いところだ。

月光ゲーム―Yの悲劇'88 (創元推理文庫)

月光ゲーム―Yの悲劇'88 (創元推理文庫)

 

 

39. 殺しの双曲線 / 西村京太郎(1979年)

 

差出人不祥の、東北の山荘への招待状が、六名の男女に届けられた。しかし、深い雪に囲まれた山荘は、彼らの到着後、交通も連絡手段も途絶した陸の孤島と化す。そして、そこで巻き起こる連続殺人。クリスティの『そして誰もいなくなった』に挑戦した、本格ミステリー。西村京太郎初期作品中、屈指の名作。


 後世に名を残す名作だが、『殺しの双曲線』で使用されるトリックは正真正銘の最初で最後の一発芸である。後続の作家は換骨奪胎して流用することすらできないトリックを体験してほしい。

だが100選にいれたのは推理小説としての完成度云々ではなく、謎が謎を呼ぶ物語の展開の面白さにある。ボリュームのある本だが結末が気になり一気読みは確実だろう。

 

新装版 殺しの双曲線 (講談社文庫)

新装版 殺しの双曲線 (講談社文庫)

 

 

40. ガダラの豚 / 中島らも(1993年)

 

アフリカの呪術医研究の第一人者、大生部多一郎は、テレビの人気タレント教授。超能力ブームで彼の著者「呪術パワーで殺す!」はベストセラーになった。しかし、妻の逸美は8年前の娘・志織のアフリカでの気球事故での死以来、神経を病んでいた。そして奇跡が売り物の新興宗教にのめりこんでしまった。逸美の奪還をすべく、大生部は奇術師ミラクルと組んで動き出す。

 

 娯楽小説の最終到達点と言っても過言では無いほど徹底的に面白い作品である。

ただ面白いだけでなく、超能力や呪術といった超自然的なことについてしっかりと研究された上で書かれているため、ブッ飛んだ内容にも関わらず確かなリアリティがあり、読者自身の知識も増える。

最強に面白い小説が読みたいなら本作を読んでおけばまず間違いない。

ガダラの豚(集英社文庫) 全3冊セット
 

 

41. 99%の誘拐 / 岡嶋二人(1988年)

 

岡嶋二人の代表作!末期ガンに冒された男が、病床で綴った手記を遺して生涯を終えた。そこには8年前、息子をさらわれた時の記憶が書かれていた。そして12年後、かつての事件に端を発する新たな誘拐が行われる。その犯行はコンピュータによって制御され、前代未聞の完全犯罪が幕を開ける。第10回吉川英治文学新人賞受賞作にして、2005年度「この文庫がすごい!」第1位のリバイバルヒットになり、改めてオカジマフタリの名を知らしめた作品でもある。

 

 SFに近いほどのハイテクを駆使した誘拐もので、"人攫いの岡嶋"と称されるほど誘拐モノが得意な岡嶋作品の中でも最高傑作という意見も多い作品。

刊行されたのが1988年とは到底考えられないほどのハイテク犯罪は桁が違いの完成度であり、時代がやっと岡嶋二人に追いついたといったところだろうか。

物語としても非常に面白く非の打ち所の無い1冊である。

99%の誘拐 (講談社文庫)

99%の誘拐 (講談社文庫)

  • 作者:岡嶋 二人
  • 発売日: 2004/06/15
  • メディア: 文庫
 

 

42. 悪意 / 東野圭吾(1996年)

 

人はなぜ人を殺すのか。
東野文学の最高峰。
人気作家が仕事場で殺された。第一発見者は、その妻と昔からの友人だった。
逮捕された犯人が決して語らない「動機」とはなんなのか。
超一級のホワイダニット

 

 世にもめずらしい 動機に焦点を置いているホワイダニット推理小説である。

完成度は尋常ではなく、『名探偵の掟』などで散々自虐していた"推理小説あるある"に全身全霊を込めて答えを提示したかのようである。

 動機が不明な事件って何だよ.....という興味が湧いた方はぜひ読んでみてほしい。

悪意 (講談社文庫)

悪意 (講談社文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 2001/01/17
  • メディア: 文庫
 

 

43. 葉桜の季節に君を想うということ / 歌野晶午(2003年)

 

 「何でもやってやろう屋」を自称する元私立探偵・成瀬将虎は、同じフィットネスクラブに通う愛子から悪質な霊感商法の調査を依頼された。そんな折、自殺を図ろうとしているところを救った麻宮さくらと運命の出会いを果たして―。あらゆるミステリーの賞を総なめにした本作は、必ず二度、三度と読みたくなる究極の徹夜本です。


 もう隠す必要すらない叙述トリックものの傑作である。

個人的には『葉桜』で仕掛けられた騙しの叙述トリック自体は好きになれない....というか嫌いなのだが、真相が判明した後に読む2週目がこれ以上ないほどに滑稽で笑えるのが好印象。

 好き嫌いが分かれるのは間違いないが、物語の面白さと仕掛けの巧妙さはさすがである。とりあえず読んでおくべき作品。 

 

葉桜の季節に君を想うということ (文春文庫)

葉桜の季節に君を想うということ (文春文庫)

  • 作者:歌野 晶午
  • 発売日: 2007/05/10
  • メディア: 文庫
 

 

44. 孤島の鬼 / 江戸川乱歩(1930年)

 

私(蓑浦金之助)は会社の同僚木崎初代と熱烈な恋に陥った。彼女は捨てられた子で,先祖の系譜帳を持っていたが,先祖がどこの誰ともわからない。ある夜,初代は完全に戸締まりをした自宅で,何者かに心臓を刺されて殺された。その時,犯人は彼女の手提げ袋とチョコレートの缶とを持ち去った。恋人を奪われた私は,探偵趣味の友人,深山木幸吉に調査を依頼するが,何かをつかみかけたところで,深山木は衆人環視の中で刺し殺されてしまう……!

 

前半は密室と衆人環境での殺人という二つの殺人事件の謎を追う推理小説、中盤は江戸川乱歩の変態趣味が炸裂する怪奇幻想小説、そして後半は冒険小説と進む。

物語自体が尋常ではない面白さであるため、古い作品だからと言う理由で読まないのはもったいなすぎる。

BLの超傑作でもあるので、腐女子は死んでも読まなければならない。

孤島の鬼 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)
 

 

45. ダイナー / 平山夢明(2009年)

 

ひょんなことから、プロの殺し屋が集う会員制ダイナーでウェイトレスをする羽目になったオオバカナコ。
そこを訪れる客は、みな心に深いトラウマを抱えていた。一筋縄ではいかない凶悪な客ばかりを相手に、
カナコは生き延びることができるのか? 次々と現れる奇妙な殺し屋たち、命がけの恋──。

人の「狂気」「恐怖」を描いて当代随一の平山夢明が放つ、長編ノワール小説。

 

 凶悪でエグくてグロい小説ばかり書いている平山夢明作品の中では、強烈な暴力描写はあるものの、エンタメ要素がかなり強いため、比較的読みやすい部類に入る。映画化もされたのでおすすめしても問題ないだろう。

 一癖も二癖もあるヤバい殺し屋がいっぱい登場して、主役であるオオバカナコ(大バカな子)がピンチになりまくり続けるという流れ。

 ほんのちょっと映画『レオン』のような要素があるのがポイントで、とにかく面白ければ良いという人にはたまらないだろう。

ダイナー (ポプラ文庫)

ダイナー (ポプラ文庫)

  • 作者:平山 夢明
  • 発売日: 2012/10/05
  • メディア: 文庫
 

 

46. 私の頭が正常であったなら / 山白朝子(2018年)

 

 私の哀しみはどこへゆけばいいのだろう――切なさの名手が紡ぐ喪失の物語。

突然幽霊が見えるようになり日常を失った夫婦。首を失いながらも生き続ける奇妙な鶏。記憶を失くすことで未来予知をするカップル。書きたいものを失くしてしまった小説家。娘に対する愛情を失った母親。家族との思い出を失うことを恐れる男。元夫によって目の前で愛娘を亡くした女。そして、事故で自らの命を失ってしまった少女。わたしたちの人生は、常に何かを失い、その哀しみをかかえたまま続いていく。暗闇のなかにそっと灯りがともるような、おそろしくもうつくしい八つの“喪失”の物語。

 

 せつなさの名手、乙一.....ではなく山白朝子の健在を確信した作品である。

かつて乙一名義で発表された『失はれる物語』を大人向け(子どもがいる層)にしたような内容で、より洗練されたせつなさを堪能することができる。

 美しい装丁にふさわしい物語だけでなく、エンタメとしても優れている。

 

私の頭が正常であったなら (幽BOOKS)

私の頭が正常であったなら (幽BOOKS)

  • 作者:山白 朝子
  • 発売日: 2018/02/10
  • メディア: 単行本
 

 

47. オフシーズン / J.ケッチャム(1980年)

 

避暑客が去り冷たい秋風が吹き始めた九月のメイン州の避暑地。ニューヨークから六人の男女が休暇をとって当地にや
って来る。最初に到着したのは書箱編集者のカーラ。すこし遅れて、彼女の現在のボーイフレンドのジム、彼女の妹の
マー ジーとそのボーイフレンドのダン、そしてカーラのかつてのボーイフレンドのニックとそのガールフレンドのロー
ラが到着した。六人全員が到着した晩に事件は勃発した。当地に住む“食人族"が六人に襲い掛かったのだ。“食人族
"対“都 会族"の凄惨な死闘が開始する。

 

 絵に描いたようなB級スプラッタホラーの超傑作。

エロもグロも突き抜けて凄まじいことになっており、怒涛の勢いで阿鼻叫喚の地獄絵図が展開される様は、この手の話が好きなら恋人に嫌われようが必読である。

 世の中にはあからさまなエロやグロを追求した作品が溢れかえっていて、正直興醒めしてしまうのだが、『オフシーズン』は強烈でありながらも狙った感は皆無であり、結末の容赦の無さも実に教訓的で自然である。

 

モダンホラーの帝王S.キング曰く

全米一怖い作家は誰だ?きっとジャック・ケッチャムさ。

『オフシーズン』の無修正版を感謝祭の日に読んだら、

きっとクリスマスの日まで眠れなくなること請け合いだ。

ティーブおじさんが警告しなかったなんて言うなよ、

はっはっはっ……(by スティーブン・キング)

 

オフシーズン (海外文庫)

オフシーズン (海外文庫)

 

 

48. 絡新婦の理 / 京極夏彦(1996年)

 

当然、僕の動きも読み込まれているのだろうな――2つの事件は京極堂をしてかく言わしめた。
房総の富豪、織作(おりさく)家創設の女学校に拠(よ)る美貌の堕天使と、血塗られた鑿(のみ)をふるう目潰し魔。連続殺人は八方に張り巡らせた蜘蛛の巣となって刑事・木場らを眩惑し、搦め捕る。中心に陣取るのは誰か?シリーズ第5弾。

 

個人的には『百鬼夜行シリーズ』の最高傑作であり、ミステリー小説の中でも最も複雑かつ緻密に描かれた美女だらけの超絶ミステリー。

とにかく複雑な事件で、そもそも作中に登場する事件が一つの事件なのかどうかすらさっぱり分からない、まさに女郎蜘蛛に絡め取られるかのような感じである。

最初と最後がこの世のものとは思えない美しい描写で、読了後は100%最初のページに戻らされてしまう。

世の中、絶対に本作の"蜘蛛"のような人間はいるはずだ。

文庫版 絡新婦の理 (講談社文庫)

文庫版 絡新婦の理 (講談社文庫)

  • 作者:京極 夏彦
  • 発売日: 2002/09/05
  • メディア: 文庫
 

 

49. 水晶のピラミッド / 島田荘司(1991年)

 

エジプト・ギザの大ピラミッドを原寸大で再現したピラミッドで起こる怪事。冥府の使者アヌビスが5000年の時空を超えて突然甦り、空中30メートルの密室で男が「溺死」を遂げる! アメリカのビッチ・ポイントに出現した現代のピラミッドの謎に挑む名探偵・御手洗潔。壮大なテーマに挑んだ本格ミステリーの大作。

 

限界突破してしまったミステリー小説。

推理小説という枠を超えて、純粋なミステリーを提供している。

本筋に関係あるのかどうかも分からない、古代エジプトタイタニックの挿話が200ページ近くあるのだが、そこがものすごく面白い。

こんな小説、島田御大にしか書けません。

水晶のピラミッド (講談社文庫)

水晶のピラミッド (講談社文庫)

  • 作者:島田 荘司
  • 発売日: 1994/12/07
  • メディア: 文庫
 

 

50. 青の炎 / 貴志祐介(1999年)

 

櫛森秀一は湘南の高校に通う17歳。女手一つで家計を担う母と素直で明るい妹との3人暮らし。その平和な家庭に、母が10年前に別れた男、曾根が現れた。曾根は秀一の家に居座って傍若無人に振る舞い、母の体のみならず妹にまで手を出そうとする。警察も法律も家族の幸せを取り返してはくれないことを知った秀一は決意した。自らの手で曾根を葬り去ることを……。完全犯罪に挑む少年の孤独な戦い。その哀切な心象風景を精妙な筆致で描き上げた、日本ミステリー史に残る感動の名作。

 

 人によっては貴志祐介の最高傑作に挙げる人もいるであろう青春小説の大傑作である。

 犯人目線で描かれる倒叙ミステリという形のミステリであり、母と妹を外道から守ろうとする主人公の心理描写が貴志作品ならではの強い臨場感で描かれている。

 映画化もされているが、この繊細な心理は役者を通じてでは決して伝わらないであろう。

 しかもこんなシリアスな作品でもちゃっかりエロシーンを入れて、しかもそれが作品のせつなさを跳ね上げているのが貴志クオリティである。

 

青の炎 (角川文庫)

青の炎 (角川文庫)

  • 作者:貴志 祐介
  • 発売日: 2002/10/23
  • メディア: 文庫
  

 

51. 超・殺人事件 推理作家の苦悩 / 東野圭吾(2001年)

 

 新刊小説の書評に悩む書評家のもとに届けられた、奇妙な機械「ショヒョックス」。どんな小説に対してもたちどころに書評を作成するこの機械が、推理小説界を一変させる――。発表時、現実の出版界を震撼させた「超読書機械殺人事件」をはじめ、推理小説誕生の舞台裏をブラックに描いた危ない小説8連発。意表を衝くトリック、冴え渡るギャグ、そして怖すぎる結末。激辛クール作品集。

 

 まさに自虐テロといった感じの危険な内容である(笑)

ただのギャグ小説なのに手加減無用なところがとても好ましい。特定の作家をディスっているようにも思われる、強烈なブラックユーモアに噴き出すこと間違いなしである。出版業界がこんなになったらいやだ....

超・殺人事件―推理作家の苦悩 (新潮文庫)

超・殺人事件―推理作家の苦悩 (新潮文庫)

 

 

52. 殺人鬼 覚醒篇(1990年)

 

伝説の傑作『殺人鬼』、降臨!!’90年代のある夏。双葉山に集った“TCメンバーズ”の一行は、突如出現したそれの手によって次々と惨殺されてゆく。血しぶきが夜を濡らし、引き裂かれた肉の華が咲き乱れる…いつ果てるとも知れぬ地獄の饗宴。だが、この恐怖に幻惑されてはいけない。作家の仕掛けた空前絶後の罠が、惨劇の裏側で読者を待ち受けているのだ。―グルーヴ感に満ちた文体で描かれる最恐・最驚のホラー&ミステリ。

 

 『館シリーズ』で有名な綾辻行人氏ではあるが、個人的には『殺人鬼 覚醒篇』こそが最高傑作だと思っている。最も好きなスプラッタホラーでもある。

13日の金曜日』のような王道のスプラッタ全開ホラーかと思いきや、さすがは新本格ムーブメントの筆頭、ミステリとしての仕掛けもよく練られておりかなり強烈な1冊である。エロ注意、グロ注意。

 

殺人鬼 ‐‐覚醒篇 (角川文庫)

殺人鬼 ‐‐覚醒篇 (角川文庫)

  • 作者:綾辻 行人
  • 発売日: 2011/08/25
  • メディア: 文庫
 

 

53. 殺人鬼 逆襲篇(1993年)

 

伝説の『殺人鬼』、ふたたび。双葉山の惨劇から三年、最初にそれと遭遇したのは休暇中の一家。正義も勇気も家族愛も、ただ血の海に消えゆくのみ。そしてそれは山を降り、麓の街に侵攻するのだ。病院を、平和な家庭を、凄惨な地獄風景に変えていく。殺す、殺す、殺す…ひたすら殺戮を欲する怪物に独り立ち向かうのは、不思議な“能力”を持った少年・真実哉。絶望的な闘いの果てに待ち受ける、驚愕と戦慄の結末とは!?―。

 

 アホみたくグロさとエグさに特化した鬼畜の続編。鬼。

はっきり言ってミステリ×スプラッタホラーのミステリの部分は前作よりも大幅に劣化している。もう取って付けたようなオマケと言えるだろう。

しかしその代わりに、スプラッタ要素が”この作家、頭大丈夫か”と本気で心配してしまうほど残虐性が向上している。
冒頭から鬼畜無双だが、その残虐性が最後の最後まで続くのだからたちが悪い。

私はこの本を読んでいなければ他の綾辻作品に興味を持たなかったと思う。

 

 

殺人鬼  ‐‐逆襲篇 (角川文庫)

殺人鬼 ‐‐逆襲篇 (角川文庫)

  • 作者:綾辻 行人
  • 発売日: 2012/02/25
  • メディア: 文庫
 

 

54. ハサミ男 / 殊能将之(1999年)

 

美少女を殺害し、研ぎあげたハサミを首に突き立てる猟奇殺人犯「ハサミ男」。3番目の犠牲者を決め、綿密に調べ上げるが、自分の手口を真似て殺された彼女の死体を発見する羽目に陥る。自分以外の人間に、何故彼女を殺す必要があるのか。「ハサミ男」は調査をはじめる。精緻にして大胆な長編ミステリの傑作!

 

例のトリックを駆使した小説では必ず名が挙がる小説であり、実際に極めてよくできた作品である。推理小説を読んでここまで驚愕したのは正真正銘初めてだ。
混乱し過ぎて頭が変になったくらいだ。
あのトリックについては極めてフェアだが、ハサミ男の正体については結構アンフェアな作品である。

まぁハサミ男の正体に気付こうが気付くまいが本作が面白いことは変わらない。

ハサミ男 (講談社文庫)

ハサミ男 (講談社文庫)

  • 作者:殊能 将之
  • 発売日: 2002/08/09
  • メディア: 文庫
 

 

55. マリアビートル / 伊坂幸太郎(2010年)

 

酒浸りの元殺し屋「木村」。狡猾な中学生「王子」。腕利きの二人組「蜜柑」「檸檬」。運の悪い殺し屋「七尾」。物騒な奴らを乗せた東北新幹線は疾走する! 『グラスホッパー』に続く、殺し屋たちの狂想曲。

 

完全無欠のハイパーエンタメ小説。

およそ600ページの大作だが、まるで無駄がなく最初から最後までハイテンション! 

伊坂幸太郎という男はまさにエンタメ小説を書くために生まれてきたのではないかというレベルで面白過ぎる作品である。

レビューなどを見ると前作『グラスホッパー』を読んでなくても楽しめるといった意見を見かけるがそれは完全に嘘である。前作も『マリアビートル』ほどではないにせよ、かなり面白いので必ず順番通りに読むようにしよう。

マリアビートル (角川文庫)

マリアビートル (角川文庫)

 

 

56. 月の裏側 / 恩田陸(2002年)

 

九州の水郷都市・箭納倉。ここで三件の失踪事件が相次いだ。消えたのはいずれも掘割に面した日本家屋に住む老女だったが、不思議なことに、じきにひょっこり戻ってきたのだ、記憶を喪失したまま。まさか宇宙人による誘拐か、新興宗教による洗脳か、それとも? 事件に興味を持った元大学教授・協一郎らは〈人間もどき〉の存在に気づく……。

 

不気味な雰囲気が溢れたSFホラー的な傑作。

私はこのような世界観が大好きなため、猛烈な勢いで一気読みしてしまった。

読んでいる最中は紛れもなく最強の傑作なのだが、そこは恩田陸
予想通りというか恩田流投げっぱなしジャーマンが本領発揮する(笑)。

月の裏側 (幻冬舎文庫)

月の裏側 (幻冬舎文庫)

  • 作者:恩田 陸
  • 発売日: 2002/08/01
  • メディア: 文庫
 

 

57. 江戸川乱歩傑作選 / 江戸川乱歩(1960年)

 

読者諸君、これが日本で一番美しい犯罪小説だ。
耽美的トリック×倒錯的フェティシズムが交錯する、本格探偵小説を確立した初期傑作9編。

日本における本格探偵小説を確立したばかりではなく、恐怖小説とでも呼ぶべき芸術小説をも創り出した乱歩の初期を代表する傑作9編を収める。特異な暗号コードによる巧妙なトリックを用いた処女作「二銭銅貨」、苦痛と快楽と惨劇を描いて著者の怪奇趣味の極限を代表する「芋虫」、他に「二癈人」「D坂の殺人事件」「心理試験」「赤い部屋」「屋根裏の散歩者」「人間椅子」「鏡地獄」。

 

もはや説明不要な由緒正しき傑作選である。

一応特徴を説明するならば、時代を感じさせない普遍性があり圧倒的に読みやすい、推理小説というより物語として純粋に面白い、各話30~40ページ程度でお手頃なのにインパクトは絶大といったところだろうか。

以下の解説から引用する。

 

繰り返して言えば、ここに収められた九篇は、初期の乱歩を代表する傑作である。一般に探偵小説は、犯人が判ってしまうと再読に耐えない。だが、乱歩の場合は例外で、普通の小説と同じように、何度読んでも印象が新鮮である。乱歩は、日本の本格探偵小説を確立したばかりでなく、仮に恐怖小説とでも呼ぶべき芸術小説を創り出したのである。その功績は、文学史上に残るものと思われる。
――荒正人(文芸評論家)

 

江戸川乱歩傑作選 (新潮文庫)

江戸川乱歩傑作選 (新潮文庫)

 

 

58. 江戸川乱歩名作選 / 江戸川乱歩(2016年)

 

「陰獣」「押絵と旅する男」ほか、大乱歩の魔術に浸れる全七編を収録。

見るも無残に顔が潰れた死体、変転してゆく事件像(「石榴(ざくろ)」)。
絶世の美女に心奪われた兄の想像を絶す る“運命"(「押絵と旅する男」)。
謎に満ちた探偵作家・大江春泥(しゅんでい)に脅迫される実業家夫人、彼女を恋する私は春泥の影を追跡する――後世に 語り継がれるミステリ「陰獣」。
他に「目羅博士」「人でなしの恋」「白昼夢」「踊る一寸法師」を収録。
大乱歩の魔力を存分に味わえる厳選全7編。

 

歴史ある『江戸川乱歩傑作選』には入らなかったが、傑作選にある作品と比べても遜色ないレベルの作品で構成されている。

「石榴」と「陰獣」という乱歩作品の中でも本格ミステリ度の高い中編に怪奇幻想の傑作短編がサンドイッチされておりバランスも良い。

特に「押絵と旅する男」と「陰獣」は乱歩の中でも最高ランクの作品なのでとてもおすすめである。

 

江戸川乱歩名作選 (新潮文庫)

江戸川乱歩名作選 (新潮文庫)

 

 

59. 獣の奏者 / 上橋菜穂子(2006年)

 

リョザ神王国。闘蛇村に暮らす少女エリンの幸せな日々は、闘蛇を死なせた罪に問われた母との別れを境に一転する。母の不思議な指笛によって死地を逃れ、蜂飼いのジョウンに救われて九死に一生を得たエリンは、母と同じ獣ノ医術師を目指すが―。苦難に立ち向かう少女の物語が、いまここに幕を開ける。

 

 児童文学ではない。大人ですら心を揺さぶられずにはいられない情け容赦ない本気のファンタジー小説である

 『獣の奏者』が圧倒的に面白い理由の一つに、Ⅰの闘蛇編からひたすらに作中の歴史や世界に関する謎をひっぱりまくるところにある。
Ⅰ闘蛇編とⅡ王獣編でいったん物語は完結しており、作者自身も続編を考えていなかったとのことだが、完結編の最後の最後まで謎が明かされないことにより、続きが気になりまくりもはや徹夜は避けられないだろう。

 

 

60. GOTH / 乙一(2002年)

 

 連続殺人犯の日記帳を拾った森野夜は、未発見の死体を見物に行こうと「僕」を誘う……人間の残酷な面を覗きたがる者〈GOTH〉を描き本格ミステリ大賞に輝いた乙一出世作

世界に殺す者と殺される者がいるとしたら、自分は殺す側だと自覚する少年「僕」。もっとも孤独な存在だった彼は、森野夜に出会い、変化していく。彼は夜をどこに連れて行くのか? 「僕」に焦点をあてた3篇を収録。

 

「僕」と「夜」のキャラが最高すぎる、ラノベ寄りの傑作連作短篇集。

私はこの二人の会話が好きで好きでたまらない。きっとみんなも好きになることだろう。本格ミステリ大賞に選ばれただけあって推理小説としての完成度は非常に高い。

乙一の最高傑作といってもいいかもしれない。

ちなみに夜の章が先だというのを忘れてはならない。私は順番を間違えて泣いた。

続編である番外編もとても素晴らしいので絶対に読もう。

GOTH―リストカット事件

GOTH―リストカット事件

  • 作者:乙一
  • メディア: 単行本
 

 

61. アトポス / 島田荘司(1993年)

 

虚栄の都・ハリウッドに血でただれた顔の「怪物」が出没する。ホラー作家が首を切断され、嬰児が次々と誘拐される事件の真相は何か。女優・松崎レオナの主演映画『サロメ』の撮影が行われる死海の「塩の宮殿」でも惨劇は繰り返された。甦る吸血鬼の恐怖に御手洗潔が立ち向かう。渾身のミステリー巨編が新たな地平を開く。

 

 1000ページ近い大作にも関わらずまったくと言っていいほど長さを感じることが無い奇跡的な作品である。

作中作ではギネス級の大量殺人鬼エリザベート・バートリーの挿話が200ページ以上続くのだが、この挿話が尋常ではない面白さでありページ数的にも1冊の超傑作歴史ホラー小説として十分に成り立っている。

戦時中の魔都上海やサロメのエピソードもあり何から何まで謎まみれであり、島田式本格ミステリーが完成した作品といっても過言ではないと思う。

御手洗はまさに白馬の王子様である。嗚呼レオナよ.....。

アトポス (講談社文庫)

アトポス (講談社文庫)

  • 作者:島田 荘司
  • 発売日: 1996/10/14
  • メディア: 文庫
 

 

62. 恋のゴンドラ / 東野圭吾(2016年)

 

都内で働く広太は、合コンで知り合った桃美とスノボ旅行へ。ところがゴンドラに同乗してきた女性グループの一人は、なんと同棲中の婚約者だった。ゴーグルとマスクで顔を隠し、果たして山頂までバレずに済むのか。やがて真冬のゲレンデを舞台に、幾人もの男女を巻き込み、衝撃の愛憎劇へと発展していく。文庫特別編「ニアミス」を収録。

 

 あらすじを読んで楽しそうと思った方ならクリティカルヒット確実な、東野圭吾のブラックユーモアと残念な男性心理が炸裂する悪ノリ本である。

 かなり評価が割れている本だが、読者がリア充であるか非リアであるかによって評価が決まるのだろう。ちなみにミステリーでもなくラブコメ連作短編集なのでその点もミステリー作家としての東野ファンには受け入れられないのかもしれない。

まぁとりあえず面白そうだと感じたら読もう。ラブコメとはいえ百戦錬磨の東野作品だけに、壮絶極まりないラストが待っている。

 

恋のゴンドラ (実業之日本社文庫)

恋のゴンドラ (実業之日本社文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 2019/10/04
  • メディア: 文庫
 

 

63. 粘膜蜥蜴 / 飴村行(2009年)

 

国民学校初等科に通う堀川真樹夫と中沢大吉は、ある時同級生の月ノ森雪麻呂から自宅に招待された。父は町で唯一の病院、月ノ森総合病院の院長であり、権勢を誇る月ノ森家に、2人は畏怖を抱いていた。〈ヘルビノ〉と呼ばれる頭部が蜥蜴の爬虫人に出迎えられた2人は、自宅に併設された病院地下の死体安置所に連れて行かれた。だがそこでは、権力を笠に着た雪麻呂の傍若無人な振る舞いと、凄惨な事件が待ち受けていた……。

 

 これは内緒なのだが、私は『粘膜シリーズ』を上梓した飴村行氏のおかげで読書沼に落とされたと言っても過言ではない。

本作は一部の変態にカルト的な人気な人気を誇る『粘膜シリーズ』の二作目であり、まさかの推理作家協会賞を受賞した作品である。

本作の特徴はとにかく面白いということだ。飴村行と言ったらデビュー作の『粘膜人間』の名前が挙がるのが普通だと思うが、はっきり言って本作はホラー小説界ではカルト的な人気を誇る『粘膜人間』よりも遥かに上をいく傑作である。

推理小説としても冒険小説としても最高な『粘膜蜥蜴』をぜひみんなに読んでいただきたい!!「怨敵、粉砕撃滅!!」

粘膜蜥蜴 (角川ホラー文庫)

粘膜蜥蜴 (角川ホラー文庫)

  • 作者:飴村 行
  • 発売日: 2009/08/22
  • メディア: 文庫
 

 

64. ラバー・ソウル / 井上夢人(2012年)

 

 幼い頃から友だちがいたことはなかった。両親からも顔をそむけられていた。36年間女性にも無縁だった。何度も自殺を試みた―そんな鈴木誠と社会の唯一の繋がりは、洋楽専門誌でのマニアをも唸らせるビートルズ評論だった。その撮影で、鈴木は美しきモデル、美縞絵里と出会う。心が震える、衝撃のサスペンス。

 

 井上作品の中でも本格ミステリファンであれば最高傑作に挙げるであろう、凝りに凝った仕掛けとビートルズ愛が詰まった傑作。

初読み時は井上夢人の高いリーダビリティにより気持ち悪いストーカー話を楽しませてくれるのだが、衝撃の真相を知って再読してみればまったく別の物語になってしまうだろう。

 少々長い話だが、そのすべてが伏線である。ぜひ驚きを体感してみてほしい。

 

ラバー・ソウル (講談社文庫)

ラバー・ソウル (講談社文庫)

  • 作者:井上 夢人
  • 発売日: 2014/06/13
  • メディア: 文庫
 

 

65. 屍鬼 / 小野不由美(1998年)

 

死が村を蹂躙し幾重にも悲劇をもたらすだろう―人口千三百余、三方を山に囲まれ樅を育てて生きてきた外場村。猛暑に見舞われたある夏、村人たちが謎の死をとげていく。増え続ける死者は、未知の疫病によるものなのか、それとも、ある一家が越してきたからなのか。

 

長い...退屈...暗い...そして登場人物多過ぎ。
相当読書慣れしてない人はまず読もうとは思えないだろうが、覚悟を決めて読んだら間違いなく心に残る1冊になるだろう。

 

〇個別紹介記事

kodokusyo.hatenablog.com

 

屍鬼〈上〉

屍鬼〈上〉

 
屍鬼〈下〉

屍鬼〈下〉

 

 

66. 黒い家 / 貴志祐介(1997年)

 

若槻慎二は、生命保険会社の京都支社で保険金の支払い査定に忙殺されていた。ある日、顧客の家に呼び出され、期せずして子供の首吊り死体の第一発見者になってしまう。ほどなく死亡保険金が請求されるが、顧客の不審な態度から他殺を確信していた若槻は、独自調査に乗り出す。信じられない悪夢が待ち受けていることも知らずに……。恐怖の連続、桁外れのサスペンス。読者を未だ曾てない戦慄の境地へと導く衝撃のノンストップ長編。第4回日本ホラー小説大賞受賞作。

 

 最恐レベルのホラーサスペンスであり、サイコパスを書かせたら貴志祐介に並ぶ者はいないのではないかと思われるほど、狂った人の描写にリアリティがある。

 一番怖い小説に『黒い家』を挙げる人が多いのも納得であり、”人間が怖い系”の作品の中でも飛び抜けた完成度である。

 なお著者自身のサラリーマン時代の経験が主人公に活かされており、とにかく臨場感が半端ではないのも『黒い家』の恐ろしいところである。

黒い家 (角川ホラー文庫)

黒い家 (角川ホラー文庫)

  • 作者:貴志 祐介
  • 発売日: 1998/12/10
  • メディア: 文庫
 

 

67. 倒錯のロンド / 折原一(1989年)

 

精魂こめて執筆し、受賞まちがいなしと自負した推理小説新人賞応募作が盗まれた。―その“原作者”と“盗作者”の、緊迫の駆け引き。巧妙極まりない仕掛けとリフレインする謎が解き明かされたときの衝撃の真相。鬼才島田荘司氏が「驚嘆すべき傑作」と賞替する、

 

 最強に面白い本格ミステリの最有力候補である。

折原一といったら叙述トリックなので、もはや隠す必要はないだろうから書いてしまうと、『倒錯のロンド』は非常にレベルの高い叙述トリックものである。

 だがそんなことはどうでもいいほど物語が面白いのである。
猛烈に勢いのある筆致に、なんとなくブラックユーモアめいたセリフ、そしてS・キングの『シャイニング』を全力でパロっていたりととことん面白さを追求している。

 

倒錯のロンド (講談社文庫)

倒錯のロンド (講談社文庫)

  • 作者:折原 一
  • 発売日: 1992/08/03
  • メディア: 文庫
 

 

68. クレオパトラの夢 / 恩田陸(2003年)

 

北国のH市を訪れた神原恵弥。不倫相手を追いかけていった双子の妹を連れ戻すという名目の裏に、外資製薬会社の名ウイルスハンターとして重大な目的があった。H市と関係があるらしい「クレオパトラ」と呼ばれるものの正体を掴むこと。人々の欲望を掻きたててきたそれは、存在自体が絶対の禁忌であった―。謎をめぐり、虚実交錯する世界が心をとらえて離さない、シリーズ第二作!

 

 圧倒的かつ幻想的な謎が提示された前作よりもスケールダウンしたかと思いきや、そんなことはなく、むしろ更にスケールアップしたのではとすら思える気合の入った傑作である。

主人公、神原恵弥のオカマキャラもますます板についたようで、お姉口調や振る舞いに何の違和感も感じることはなく、かつての『クレヨンしんちゃん』の如し。

陰謀小説が好きな方なら必読の一冊だ。

 

クレオパトラの夢 新装版 (双葉文庫)

クレオパトラの夢 新装版 (双葉文庫)

  • 作者:恩田 陸
  • 発売日: 2015/04/16
  • メディア: 文庫
 

 

69. アルケミスト / パウロ・コエーリョ(1988年)

 

半飼いの少年サンチャゴは、その夜もまた同じ夢を見た。一週間前にも見た、ピラミッドに宝物が隠されているという夢――。少年は夢を信じ、飼っていた羊たちを売り、ひとりエジプトに向かって旅にでる。
アンダルシアの平原を出て、砂漠を越え、不思議な老人や錬金術師の導きと、さまざまな出会いと別れをとおし、少年は人生の知恵を学んでいく。
「前兆に従うこと」「心の声を聞くこと」「何かを強く望めば宇宙のすべてが協力して実現するように助けてくれること」――。
長い旅のあと、ようやくたどり着いたピラミッドで、少年を待ち受けていたものとは――。人生の本当に大切なものを教えてくれる愛と勇気の物語。

 

世界的なベストセラーなのでもはや説明不要かもしれない。

私は浪人中に駿台予備校の名物英語講師に勧められて読んだのだが、ずばり人生を変える1冊となった。

さて、思い出話は置いといて本作の素晴らしいところは自己啓発書的な物語でありつつも、優れた冒険小説でありエンタメ要素が高いという点であろう。

どんなに良い本でも面白くなければ読みたくはならない。本作は素晴らしいエンターテイメント作品なのである。

アルケミスト 夢を旅した少年 (角川文庫)
 

 

70 アルカトラズ幻想 / 島田荘司(2012年)

 

一九三九年十一月二日、ワシントンDCのジョージタウン大学脇にあるグローバーアーチボルド・パークの森の中で、娼婦の死体が発見された。被害者は両手をブナの木の枝から吊るされ、性器の周辺がえぐられたため股間から膣と子宮が垂れ下がっていた。時をおかず第二の殺人事件も発生し、被害者には最初の殺人と同様の暴虐が加えられていた。凄惨な猟奇殺人に世間も騒然とする中、恐竜の謎について独自の理論を展開される「重力論文」を執筆したジョージタウン大学の大学院生が逮捕され、あのアル・カポネも送られたサンフランシスコ沖に浮かぶ孤島の刑務所、アルカトラズに収監される。やがて、ある事件をきっかけに犯人は刑務所を脱獄し、島の地下にある奇妙な場所で暮らし始めるが……。先端科学の知見と作家の奔放な想像力で、現代ミステリーの最前線を走る著者の渾身の一作がついにベールを脱ぐ!

 

 島田御大の到達点というところだろうか。まさにゴッドオブミステリーである。

はっきり言って小説の体を成していないハチャメチャ作品なのかもしれないが、ミステリーの求道者は死んでも読むべき1冊である。

猟奇的殺人、恐竜絶滅の謎、アルカトラズ刑務所、地球空洞説、パンプキン王国???

開いた口が塞がらない伝説の作品である。

アルカトラズ幻想 上 (文春文庫)

アルカトラズ幻想 上 (文春文庫)

  • 作者:島田 荘司
  • 発売日: 2015/03/10
  • メディア: 文庫
 
アルカトラズ幻想 下 (文春文庫)

アルカトラズ幻想 下 (文春文庫)

  • 作者:島田 荘司
  • 発売日: 2015/03/10
  • メディア: 文庫
 

 

71. 羆嵐 / 吉村昭(1977年)

 

北海道天塩山麓の開拓村を突然恐怖の渦に巻込んだ一頭の羆の出現!日本獣害史上最大の惨事は大正4年12月に起った。冬眠の時期を逸した羆が、わずか2日間に6人の男女を殺害したのである。鮮血に染まる雪、羆を潜める闇、人骨を齧る不気味な音…。自然の猛威の前で、なす術のない人間たちと、ただ一人沈着に羆と対決する老練な猟師の姿を浮彫りにする、ドキュメンタリー長編。

 

 まるでその場で惨劇を見ているかのような最強のリアリティ小説である。

描写の臨場感は尋常ではなく、読んでいると羆の息遣いがすぐそこで聞こえてくるようで、相手はクマなので言うまでもなく残虐さも最恐クラスである。

 くまのプーさんが危険なファンタジーであることが分かる強烈な一冊。

羆嵐 (新潮文庫)

羆嵐 (新潮文庫)

  • 作者:昭, 吉村
  • 発売日: 1982/11/29
  • メディア: 文庫
 

 

72. 密室殺人ゲーム 王手飛車取り / 歌野晶午(2007年)

 

“頭狂人”“044APD”“aXe(アクス)”“ザンギャ君”“伴道全教授”。奇妙なニックネームの5人が、ネット上で殺人推理ゲームの出題をしあう。ただし、ここで語られる殺人はすべて、出題者の手で実行ずみの現実に起きた殺人なのである…。リアル殺人ゲームの行き着く先は!? 歌野本格の粋を心して堪能せよ。

 

 歌野晶午と言ったらまずは『葉桜の季節に君を想うということ』がまずは頭に浮かぶだろうが、私は葉桜は好きになれなかった。

 そして本作も葉桜とは違った意味で好きにはなれなかったのだが、面白さだけは認めない訳にはいかない。なんと言っても500ページ越えの小説にも関わらず一晩で読んでしまったという強力な徹夜本だからである。

 連作短編集と言っていい作品だが、最後には”これぞ歌野晶午”と言わんばかりの驚きが仕掛けられていて、「おッ!」となること間違いなしである。 

密室殺人ゲーム王手飛車取り (講談社文庫)

密室殺人ゲーム王手飛車取り (講談社文庫)

  • 作者:歌野 晶午
  • 発売日: 2010/01/15
  • メディア: 文庫
 

 

73. Another / 綾辻行人(2009年)

 

夜見山北中学三年三組に転校してきた榊原恒一は、何かに怯えているようなクラスの雰囲気に違和感を覚える。同級生で不思議な存在感を放つ美少女ミサキ・メイに惹かれ、接触を試みる恒一だが、謎はいっそう深まるばかり。そんな中、クラス委員長の桜木が凄惨な死を遂げた! この”世界”ではいったい何が起きているのか!?

 

萌え系学園ホラーミステリー

文体からしてかなりラノベ寄りの作品だが、ホラーとしてもミステリーとしても非常によくできた作品である。

私は小説でしかできないあのトリックを妻に思い知らせたくて、本作のアニメ版を無理やり見せたら無事に「えッ!?」と言わせることに成功した。

Another

Another

  • 作者:綾辻 行人
  • 発売日: 2009/10/30
  • メディア: 単行本
 

 

74. 甲賀忍法帖 / 山田風太郎(1959年)

 

家康の秘命をうけ、徳川三代将軍の座をかけて争う、甲賀・伊賀の精鋭忍者各十名。官能の極致で男を殺す忍者あり、美肉で男をからめとる吸血くの一あり。四百年の禁制を解き放たれた甲賀・伊賀の忍者が死を賭し、秘術の限りを尽し、戦慄の死闘をくり展げる艶なる地獄相。恐るべし風太郎忍法、空前絶後の面白さ。

 

 能力バトル作品の始祖とされる作品だが、この時代に書かれたとは思えないほど練りに練られた能力や戦闘になっている。
甲賀卍谷衆VS伊賀鍔隠れ衆の10人対10人が出し惜しみなしの忍術によって潰し合う戦いは面白い以外の何物でもない。

 能力によって相性があったり、忍者であるため正々堂々ではなく奇襲、闇討ち、だまし討ちに多対一といった卑怯な戦術までバリエーション豊富なことが面白さに拍車をかけている。

 またありがたいことに(?)、くノ一たちはやたら妖艶なキャラが多く、使用する忍術が忍術だけに漂うエロスも尋常ではない。

 純粋に面白い小説が読みたいなら『甲賀忍法帖』を読めば間違いないだろう。

 

甲賀忍法帖 山田風太郎忍法帖(1) (講談社文庫)

甲賀忍法帖 山田風太郎忍法帖(1) (講談社文庫)

 

 

75. 悪の教典 / 貴志先生(2010年)

 

晨光(しんこう)学院町田高校の英語教師、蓮実聖司はルックスの良さと爽やかな弁舌で、生徒はもちろん、同僚やPTAをも虜にしていた。しかし彼は、邪魔者は躊躇なく排除する共感性欠如の殺人鬼だった。学校という性善説に基づくシステムにサイコパスが紛れこんだとき──。ピカレスクロマンの輝きを秘めた戦慄のサイコホラー傑作。

 

 貴志祐介黒いお得意のサイコパスを描いた作品であり、イケメン英語教師ハスミンが大暴れするハイパーなサイコ物語である。

前半はブラックユーモアを匂わせつつハスミンが邪魔者をひっそりと抹殺していく傑作サスペンス、下巻は自分の利益のために生徒全員を皆殺しにするという阿鼻叫喚の地獄絵図が展開される。

 貴志本人によると”一気読み”を狙った作品とのことで、大長編にも関わらずとにかく読ませまくる作品だ。

 

悪の教典 上下巻 セット

悪の教典 上下巻 セット

  • メディア: セット買い
 

 

76. 阪急電車 / 有川浩(2008年)

 

隣に座った女性は、よく行く図書館で見かけるあの人だった…。片道わずか15分のローカル線で起きる小さな奇跡の数々。乗り合わせただけの乗客の人生が少しずつ交差し、やがて希望の物語が紡がれる。恋の始まり、別れの兆し、途中下車―人数分のドラマを乗せた電車はどこまでもは続かない線路を走っていく。ほっこり胸キュンの傑作長篇小説。

 

 普段恋愛小説は滅を読まないような人でも『阪急電車』は楽しめるだろう。

連作短編集で構成がよくできていて、彼と彼氏だけの話ではなく、阪急電車をベースに紡がれる群像劇になっているので、単純な恋愛小説ではなくヒューマンドラマとして楽しむことができるためである。

 この記事は私の好みのためミステリ寄りの作品ばかりだが、たまにはほっこり系の小説もいいだろう。

 

阪急電車 (幻冬舎文庫)

阪急電車 (幻冬舎文庫)

  • 作者:有川 浩
  • 発売日: 2010/08/05
  • メディア: 文庫
 

 

77. puzzle / 恩田陸(2000年)

 

学校の体育館で発見された餓死死体。高層アパートの屋上には、墜落したとしか思えない全身打撲死体。映画館の座席に腰掛けていた感電死体―コンクリートの堤防に囲まれた無機質な廃墟の島で見つかった、奇妙な遺体たち。しかも、死亡時刻も限りなく近い。偶然による事故なのか、殺人か?この謎に挑む二人の検事の、息詰まる攻防を描く驚愕のミステリー。

 

 恩田陸的な投げっぱなし感が強烈な中編幻想ミステリ。

広義のミステリとしてみれば素晴らしいのだが、本格推理小説としてみると途端に壁投げ本と化すというかなり好みが分かれる作品だが、幻想的な雰囲気は恩田陸ならではの美しさがある。

200ページに満たない尺でやりたい放題やらかしてるのが最高。

puzzle (祥伝社文庫)

puzzle (祥伝社文庫)

  • 作者:恩田 陸
  • 発売日: 2000/10/01
  • メディア: 文庫
 

 

78. 告白 / 湊かなえ(2008年)

 

「愛美は死にました。しかし事故ではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」我が子を校内で亡くした中学校の女性教師によるホームルームでの告白から、この物語は始まる。語り手が「級友」「犯人」「犯人の家族」と次々と変わり、次第に事件の全体像が浮き彫りにされていく。衝撃的なラストを巡り物議を醸した、デビュー作にして、第6回本屋大賞受賞のベストセラー。

 

 イヤミスというジャンルは正直あまり好きになりたくないジャンルなのだが、本作は正真正銘の傑作である。それもただの傑作ではなく稀にみる超傑作なのだ。

私は元来女という生き物には警戒心を持って接してきたが、本作を読んだことでその警戒レベルが1段階も2段階も上昇してしまった。女には気をつけたいものよ。

きっと湊かなえは最悪に性格が悪いのだと思う。

告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)

告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)

  • 作者:湊 かなえ
  • 発売日: 2010/04/08
  • メディア: 文庫
 

 

79. モンスター / 百田尚樹(1999年)

 

田舎町で瀟洒なレストランを経営する絶世の美女・未帆。彼女の顔はかつて畸形的なまでに醜かった。周囲からバケモノ扱いされる悲惨な日々。思い悩んだ末にある事件を起こし、町を追われた 未帆は、整形手術に目覚め、莫大な金額をかけ完璧な美人に変身を遂げる。そのとき亡霊のように甦ってきたのは、ひとりの男への、狂おしいまでの情念だった——。


 話は実にシンプルで、非常に醜い容姿だった女が整形を繰り返しまくって絶世の美女になり、かつて好きだった男に〇〇するという物語である。

『モンスター』のすごいところは、これぞエンターテイメントと言えるくらい話が面白いだけではない。
美容整形に関する蘊蓄の量が尋常ではなく、いったい著者は(ハゲなのに)どれだけ研究したんだよとツッコミを入れたくなるレベルなのだ。

 美容整形について学べる本としても万人が読んでおくべきなのかもしれない。

 

モンスター (幻冬舎文庫)

モンスター (幻冬舎文庫)

  • 作者:百田 尚樹
  • 発売日: 2012/04/12
  • メディア: 文庫
 

 

80. リング / 鈴木光司(1991年)

 

同日の同時刻に苦悶と驚愕の表情を残して死亡した四人の少年少女。雑誌記者の浅川は姪の死に不審を抱き調査を始めた。―そしていま、浅川は一本のビデオテープを手にしている。少年たちは、これを見た一週間後に死亡している。浅川は、震える手でビデオをデッキに送り込む。期待と恐怖に顔を歪めながら。画面に光が入る。静かにビデオが始まった…。恐怖とともに、未知なる世界へと導くホラー小説の金字塔。

 

 国民的アイドル貞子が活躍するジャパニーズホラーの超傑作である。

 意外かもしれないがあまり怖くはなく、呪いのビデオによってかけられた一週間後に死ぬという呪いから逃れる方法を論理的に解明していくホラー×ミステリである。
とはいえいかにも怖がらせようとする恐怖描写はなくても不気味さはあるためそれなりには怖いかもしれない。

 ホラーと言うよりはむしろ愛する者の命を救うため、全身全霊をかけて呪いに挑むという熱い物語なので、小説として純粋におすすめできる大傑作である。

 

リング (角川ホラー文庫)

リング (角川ホラー文庫)

  • 作者:鈴木 光司
  • 発売日: 1993/04/30
  • メディア: 文庫
 

 

81. らせん / 鈴木光司(1995年)

 

幼い息子を海で亡くした監察医の安藤は、謎の死を遂げた友人・高山竜司の解剖を担当した。冠動脈から正体不明の肉腫が発見され、遺体からはみ出た新聞紙に書かれた数字は、ある言葉を暗示していた。…「リング」とは?死因を追う安藤が、ついに到達する真理。それは人類進化の扉か、破滅への階段なのか。史上かつてないストーリーと圧倒的リアリティで、今世紀最高のカルトホラーとしてセンセーションを巻き起こしたベストセラー。

 

 『リング』がミステリ小説でいうところの問題編だとすると、『らせん』は解答編にあたる作品である。

 呪いの正体が”あるもの”であることが判明するため、ジャパニーズホラー的なノリはほとんどなく、物語も別の路線として大きな飛躍を遂げているのだが、考えようによってはこちらの方が怖いかもしれない。

 設定がいろいろとブッ飛んでいるので、ホラー好きというよりもSF好きであれば絶対に読まなければならないだろう。

らせん - (角川ホラー文庫)

らせん - (角川ホラー文庫)

  • 作者:鈴木 光司
  • 発売日: 2000/04/06
  • メディア: 文庫
 

 

82. ループ / 鈴木光司(1998年)

 

科学者の父親と穏和な母親に育てられた医学生の馨にとって家族は何ものにも替えがたいものだった。しかし父親が新種のガンウィルスに侵され発病、馨の恋人も蔓延するウィルスに感染し今や世界は存亡の危機に立たされた。ウィルスはいったいどこからやって来たのか?あるプロジェクトとの関連を知った馨は一人アメリカの砂漠を疾走するが…。そこに手がかりとして残されたタカヤマとは?「リング」「らせん」で提示された謎と世界の仕組み、人間の存在に深く迫り、圧倒的共感を呼ぶシリーズ完結編。否応もなく魂を揺さぶられる鈴木文学の最高傑作。

 

一体どうやったらこんな展開を思いつくのだろうかというハードSF作品である。
『リングシリーズ』3作目だがホラー要素はまったく無い。

とにかく設定が予想の斜め上を言っていることは間違いなく、SF好きなら確実に押さえていただきたいところだ。

愛する者のためにすべてをかけた熱い男の物語としても至高。

 

ループ (角川ホラー文庫)

ループ (角川ホラー文庫)

  • 作者:鈴木 光司
  • 発売日: 2000/09/07
  • メディア: 文庫
 

 

83. パワー・オフ(1996年)

 

 高校の実習の授業中、コンピュータ制御されたドリルの刃が生徒の掌を貫いた。モニター画面には、「おきのどくさま…」というメッセージが表示されていた。次々と事件を起こすこの新型ウィルスをめぐって、プログラマ、人工生命研究者、パソコン通信の事務局スタッフなど、さまざまな人びとが動き始める。進化する人工生命をめぐる「今」を描く。

 

 著者が得意としているIT分野の知識が本領発揮された超傑作SFである。

1996年に書かれた作品ということが信じられないくらい、コンピュータウイルスやネットワーク、セキュリティについて詳細に描かれている。
AI(人口知性)ではなく、生物学や進化論に基づくAL(人工生命)という独自の発想がなされているため、独自性のあり時が経っても廃れない普遍的な作品となっている。

 下手な参考書や技術書を読むよりよほどITのお勉強になるため、今のご時世読んでおいて損のない作品である。

もちろん内容は最強に面白い小説にふさわしいものである。

 

パワー・オフ (集英社文庫)

パワー・オフ (集英社文庫)

  • 作者:井上 夢人
  • 発売日: 1999/07/16
  • メディア: 文庫
 

 

84. ゴーストハント / 小野不由美(1930年)

 

 学校の旧校舎には取り壊そうとすると祟りがあるという怪奇な噂が絶えない。心霊現象の調査事務所である渋谷サイキックリサーチ(SPR)は、校長からの依頼で旧校舎の怪異現象の調査に来ていた。高等部に通う麻衣はひょんなことから、SPRの仕事を手伝うことに。なんとその所長は、とんでもなく偉そうな自信家の17歳になる美少年、渋谷一也(通称ナル)。調査に加わるのは個性的な霊能者たち。ミステリ&ホラーシリーズ。

 

 小野不由美と言ったらホラー×ミステリーの名手だが、結構読みずらい本が多いので、手に取る本を誤ると挫折する可能性もあるかもしれない。

代表作である『十二国記』ですらけっこう読みずらいのである。
そんな中この『ゴーストハント』はとても読みやすく、魅力的なキャラクターたちによって繰り広げられる、超高品質なホラー×ミステリーである。

 もともとはティーン向けの作品だったが、怪奇現象を例の仕業なのか人間の仕業なのか論理的に追及する流れは大人が読んでも楽しむことができる。

 

ゴーストハント1 旧校舎怪談 (角川文庫)

ゴーストハント1 旧校舎怪談 (角川文庫)

 

 

85. 八つ墓村 / 横溝正史(1950年)

 

戦国の頃、三千両の黄金を携えた八人の武者がこの村に落ちのびた。だが、欲に目の眩んだ村人たちは八人を惨殺。その後、不祥の怪異があい次ぎ、以来この村は“八つ墓村"と呼ばれるようになったという――。大正×年、落人襲撃の首謀者田治見庄左衛門の子孫、要蔵が突然発狂、三十二人の村人を虐殺し、行方不明となる。そして二十数年、謎の連続殺人事件が再びこの村を襲った……。現代ホラー小説の原点ともいうべき、シリーズ最高傑作! !

 

何度も映像化されているため誰もが名前だけは知っている作品だと思うが、意外に原作を読んでいる方は多くないのではないだろうか。

映像作品の影響でおどろおどろしい先入観を持っている方が多いと思われるが、映像化作品は原作に忠実ではないようで、実際はおどろおどろしさはほとんどない。

それどころかこれでもかというほどの萌え要素が詰め込まれているので、萌え豚は何がなんでも読もう。

八つ墓村 (角川文庫)

八つ墓村 (角川文庫)

  • 作者:横溝 正史
  • 発売日: 1971/04/26
  • メディア: 文庫
 

 

86. リカ / 五十嵐貴久(2002年)

 

妻子を愛する42歳の平凡な会社員、本間は、出来心で始めた「出会い系」で「リカ」と名乗る女性と知り合う。しかし彼女は、恐るべき“怪物”だった。長い黒髪を振り乱し、常軌を逸した手段でストーキングをするリカ。その狂気に追いつめられた本間は、意を決し怪物と対決する。単行本未発表の衝撃のエピローグがついた完全版。第2回ホラーサスペンス大賞受賞。

 

 おっさんが出会い系に手を出したらとんでもない化け物にストーカーされちゃった!という、THEホラーサスペンスな作品である。

貴志祐介の傑作ホラー『黒い家』にノリが近いのだが、『リカ』はリアリティよりも純粋なホラーとしての要素が強く、リカが人間離れし過ぎているのがポイント。

 お世辞にも面白いとは言えない続編が何作も出ているが、著者のデビュー作でありシリーズ1作目となる『リカ』は文句なしに面白い。
 

リカ (幻冬舎文庫)

リカ (幻冬舎文庫)

 

 

87. みんな邪魔 / 真梨幸子(2010年)

 

少女漫画『青い瞳のジャンヌ』をこよなく愛する“青い六人会”。噂話と妄想を楽しむ中年女性たちだったが、あるメンバーの失踪を機に正体を露にし始める。飛び交う嘘、姑息な罠、そして起こった惨殺事件―。辛い現実から目を背け、ヒロインを夢見る彼女たち。その熱狂が加速する時、新たな犠牲者が…。殺人鬼より怖い平凡な女たちの暴走ミステリ。

 

 最強のイヤミス候補である。
イヤさ加減は”イヤミスの女王”と呼ばれる真梨幸子の著書の中にあってなお、目も当てられぬ程酷いものであり、なおかつミステリとしても高水準でしっかり驚けるという激ヤバな作品である。

 おばさんの暴走を書かせたらこの人に勝る者はいないのではなかろうか。

みんな邪魔 (幻冬舎文庫)

みんな邪魔 (幻冬舎文庫)

  • 作者:真梨 幸子
  • 発売日: 2011/12/06
  • メディア: 文庫
 

 

88. 十角館の殺人 / 綾辻行人(1987年)

 

十角形の奇妙な館が建つ孤島・角島を大学ミステリ研の7人が訪れた。館を建てた建築家・中村青司は、半年前に炎上した青屋敷で焼死したという。やがて学生たちを襲う連続殺人。ミステリ史上最大級の、驚愕の結末が読者を待ち受ける!

 

 超凄い。という残念な感想しか出ないほど犯人とトリックに感激してしまった。

小説でしか味わえない楽しみの一つに映像化が不可能という要素があるのだが、本作は映像化不可能トリックの中でも最高の完成度を誇っている。

コテコテのド本格推理小説であるため、100年読み継がれるであろう普遍的な傑作。 

〇『館シリーズ』紹介記事

kodokusyo.hatenablog.com

 

十角館の殺人 <新装改訂版> (講談社文庫)

十角館の殺人 <新装改訂版> (講談社文庫)

  • 作者:綾辻 行人
  • 発売日: 2007/10/16
  • メディア: 文庫
 

 

89. 粘膜兄弟 / 飴村行(2010年)

 

ある地方の町外れに住む双子の兄弟。戦時下の不穏な空気が漂う中、二人は一人の女をめぐり凄惨な運命に身を委ねていく……『ドグラ・マグラ』『家畜人ヤプー』と比される現代の奇書、シリーズ第3弾!

 

『粘膜シリーズ』に共通する軍国主義の独特な世界観はそのままに、圧倒的にパワーアップしたセンスの良いギャグが火を噴く圧倒的なエンタメ傑作。個人的にはシリーズ最高傑作である。

さほど知名度が高い作品でないことは承知している。でもお願いします、読んで。

こんなに面白い本には滅多に出会うことはできないのだから。

 

粘膜兄弟 (角川ホラー文庫)

粘膜兄弟 (角川ホラー文庫)

  • 作者:飴村 行
  • 発売日: 2010/05/22
  • メディア: 文庫
 

 

〇飴村行元帥のまとめ記事

kodokusyo.hatenablog.com

 

90. ZOO / 乙一(2003年)

 

何なんだこれは! 天才・乙一のジャンル分け不能の傑作短編集「1」、「2」を合本版で。「1」は双子の姉妹なのになぜか姉のヨーコだけが母から虐待され――(「カザリとヨーコ」)。謎の犯人に拉致監禁された姉と弟がとった脱出のための手段とは?――(「SEVEN ROOMS」)など5編をセレクト。「2」は、目が覚めたら、何者かに刺されて血まみれだった資産家の悲喜劇(「血液を探せ!」)、ハイジャックされた機内で安楽死の薬を買うべきか否か?(「落ちる飛行機の中で」)など驚天動地の粒ぞろい5編に加え、幻のショートショート「むかし夕日の公園で」を特別収録。

 

 ややクオリティにばらつきはあるが、バラエティ豊富で乙一の天才的なセンスが散りばめられた傑作短編集である。

『陽だまりの詩』『SEVEN ROOMS』は問答無用の超傑作であり、特に後者についてはあまりの臨場感に気分が悪くなってしまったほどである。

また『落ちる飛行機の中で』は『GOTH』のような変な二人の掛け合いは最高だ。

乙一寄りの作品だが、白要素もあるため初乙一の方にもおすすめできる。

ZOO(集英社文庫) 全2冊セット

ZOO(集英社文庫) 全2冊セット

  • メディア: セット買い
 

 

91. こどもの一生 / 中島らも(2003年)

 

異才・中島らものB級ホラーの頂点!
瀬戸内海の小島に、サイコセラピーのために集まった5人の男女。薬の投与と催眠術を使った治療で、彼らの意識は10歳のこどもへと戻ってゆく。抱腹絶倒、やがて恐怖が襲う超B級ホラー。


 とにかく徹底的に娯楽を追求したような作品であり、中島らものお笑いのセンスが火を噴く、爆笑必至の中盤までの展開は催眠術の豊富な蘊蓄による絶妙なリアリティがある。

 そして突如様子が変わってホラー化する終盤の流れは、中島らも自身がよくできたと評されている通り、笑えるのに笑えない本気のホラーとなっている。

 小説に面白さだけを追求するなら最良の選択肢になるだろう。

 

こどもの一生 (集英社文庫)

こどもの一生 (集英社文庫)

  • 作者:中島 らも
  • 発売日: 2006/07/20
  • メディア: 文庫
 

 

92. 塗仏の宴 / 京極夏彦(1998年)

 

「知りたいですか」。郷土史家を名乗る男は囁く。「知り――たいです」。答えた男女は己を失い、昏(くら)き界(さかい)へと連れ去られた。非常時下、大量殺戮の果てに伊豆山中の集落が消えたとの奇怪な噂。敗戦後、簇出(そうしゅつ)した東洋風の胡乱(うろん)な集団6つ。15年を経て宴の支度は整い、京極堂を誘い出す計は成る。シリーズ第6弾。

「愉しかったでしょう。こんなに長い間、楽しませてあげたんですからねえ」。その男はそう言った。蓮台寺温泉裸女殺害犯の嫌疑で逮捕された関口巽と、伊豆韮山の山深く分け入らんとする宗教集団。接点は果たしてあるのか? ようやく乗り出した京極堂が、怒りと哀しみをもって開示する「宴(ゲーム)」の驚愕の真相。

 

 絡新婦の理で「こんな複雑な事件がこの世にあったとは.....」と思ったが、塗仏はさらにスケールアップしていて驚愕してしまった。

洗脳、催眠、気功等などそっち系の要素がフルコースで提供されるため、オカルトマニアは何が何でも読むべき1冊である。

 レンガ本オンリーの『百鬼夜行シリーズ』でも最長のページ数を誇っているが、シリーズの中でも最もエンタメ要素が高く、前半の支度は連作短編の形式で描かれているため、あまり長さを感じることはなく読みやすい。


文庫版 塗仏の宴 宴の支度 (講談社文庫)

文庫版 塗仏の宴 宴の支度 (講談社文庫)

  • 作者:京極 夏彦
  • 発売日: 2003/09/12
  • メディア: 文庫
 
文庫版 塗仏の宴 宴の始末 (講談社文庫)

文庫版 塗仏の宴 宴の始末 (講談社文庫)

  • 作者:京極 夏彦
  • 発売日: 2003/10/15
  • メディア: 文庫
 

 

93. カラフル / 森絵都(1998年)

 

生前の罪により、輪廻のサイクルから外されたぼくの魂。だが天使業界の抽選にあたり、再挑戦のチャンスを得た。自殺を図った少年、真の体にホームステイし、自分の罪を思い出さなければならないのだ。真として過ごすうち、ぼくは人の欠点や美点が見えてくるようになるのだが…。不朽の名作ついに登場。

 

児童文学として認識していたが、個人的には子供にとっては不適切な描写があるという観点から大人向けの本かと思う。

答えは見え見えではあるものの、ぼくの前世というミステリ要素があるため読ませられる本である。

文章はとても読みやすくボリュームもそこそこなので、読書慣れしていない方にこそおすすめである。

 

カラフル (文春文庫)

カラフル (文春文庫)

  • 作者:森 絵都
  • 発売日: 2007/09/10
  • メディア: 文庫
 

 

 

 

94. 墓地を見おろす家 / 小池真理子(1993年)

 

新築・格安、都心に位置するという抜群の条件の瀟洒なマンションに移り住んだ哲平一家。問題は何一つないはずだった。ただ一つ、そこが広大な墓地に囲まれていたことを除けば…。やがて、次々と不吉な出来事に襲われ始めた一家がついにむかえた、最悪の事態とは…。復刊が長く待ち望まれた、衝撃と戦慄の名作モダン・ホラー

 

 なかなか怖い本だが、霊がめっちゃアグレッシブでやたら面白いのがポイント。

ホラー小説は怖さを重視するとエンタメ性が低下するし、面白くしようとすると怖くなくなるというパターンに陥るが、『墓地を見おろす家』は恐怖とエンタメのバランスがよくとても面白い。

おとなしそうな装丁からは予想もつかない大暴れが待っている。

 

墓地を見おろす家 (角川ホラー文庫)

墓地を見おろす家 (角川ホラー文庫)

 

 

95. 酒気帯び車椅子 / 中島らも(2004年)

 

家族をこよなく愛する小泉は中堅の商社に勤める平凡なサラリーマン。彼は、土地売買の極秘巨大プロジェクトを立ち上げた。必死の思いで進めた仕事のメドがたったある日、計画を知るという謎の不動産屋から呼び出される。彼を待っていたのは暴力団だった。家族を狙うという脅しにも負けず敢然と立ち向かう小泉だったが…。容赦ない暴力とせつない愛が交差する中島らもの遺作バイオレンス小説。

 

 エンタメを追求することにすべてをかけたような著者の遺作。

のほほん→地獄→復讐→皆殺しと実にシンプルに話は進むが、著者のセンスの良いギャグが随所に入れられることにより、普通ならどんより激重な話になりそうなところだが、清々しさと爽快感が溢れる仕様となっている。

 

酒気帯び車椅子 (集英社文庫)

酒気帯び車椅子 (集英社文庫)

  • 作者:中島 らも
  • 発売日: 2008/07/18
  • メディア: 文庫
 

 

kodokusyo.hatenablog.com

 

96. ジェノサイド / 高野和明(2011年)

 

創薬化学を専攻する大学院生・研人のもとに死んだ父からのメールが届く。傭兵・イエーガーは難病を患う息子のために、コンゴ潜入の任務を引き受ける。2人の人生が交錯するとき、驚愕の真実が明らかに――。

 

 絶対に読むべき1冊である。はっきり言ってあまり万人受けする作品ではないと思うのだが、それでもベストセラーになったのはまだまだ日本人も捨てたもんじゃないな...などと調子に乗ったことを思ってしまった。

私の感想は本作はエンタメに振り切った作品ではなく、著者の政治的な思想が色濃く出ている社会派ミステリーであるため、エンタメに振り切らなかったという点で少々惜しいのだが、その点を差し引いても、これを読まずして何を読むのかというレベルの作品である。

小説を通じて何かを学びたいという方にはうってつけの素晴らしい内容である。

ジェノサイド

ジェノサイド

  • 作者:高野 和明
  • 発売日: 2011/03/30
  • メディア: 単行本
 

 

97. MAZE / 恩田陸(2001年)

 

アジアの西の果て、荒野に立つ直方体の白い建物。一度中に入ると、戻れない人間が数多くいるらしい。その「人間消失のルール」を解明すべくやってきた男たちは、何を知り得たのか?めくるめく幻想と恐怖に包まれる長編ミステリー。人間離れした記憶力を持ち、精悍な面差しで女言葉を繰り出す、魅惑のウイルスハンター・神原恵弥を生み出した、シリーズ第一作!

 

 これこそが真のミステリーと言いたい、SFやファンタジー要素の強い作品である。

恩田陸の良いところと悪いところ(笑)がぎっしり詰まっているので、本格ミステリ好きは肩透かしかもしれないが、ミステリー寄りの恩田作品に慣れたファンなら感涙モノだろう。ずばりおすすめ。

 

MAZE 新装版 (双葉文庫)

MAZE 新装版 (双葉文庫)

  • 作者:恩田 陸
  • 発売日: 2015/04/16
  • メディア: 文庫
 

 

98. メアリー・スーを殺して / 著者複数(2016年)

 

奇想ホラーの名手・乙一を筆頭に、
感涙ラブコメ中田永一、異色ホラーの山白朝子、
そして'10年以降沈黙を守っていた越前魔太郎、と鬼才4名が揃い踏み、幻夢の世界を展開する。
そしてその4名を知る安達寛高氏が、それぞれの作品を解説。

 

 乙一のすべてが結集した究極の一人アンソロジーである。

別名義も含めた乙一のすべてが堪能できるだけでなく、乙一の本名名義で各短編の解説もされているという徹底された乙一本だ。

名義が変われば作風もばっちり変わるため、バラエティ豊かであり個々の作品は名義ごとの個性が色濃く出ていて完成度も高い。

乙一ファンだが別名義の作品は追えていなかったという方には超おすすめだ。

 

 

99. 屋上 / 島田荘司(2016年)

 

 自殺する理由がない男女が、次々と飛び降りる屋上がある。足元には植木鉢の森、周囲には目撃者の窓、頭上には朽ち果てた電飾看板。そしてどんなトリックもない。死んだ盆栽作家と悲劇の大女優の祟りか?霊界への入口に名探偵・御手洗潔は向かう。人智を超えた謎には「読者への挑戦状」が仕掛けられている!

 

 ゴッドオブミステリーによる最強のバカミスである。

賛否両論を呼んでいるが、本格推理小説として考えずに純粋にエンタメ作品としてみれば稀に見る傑作である。

これでもかというほど自殺するはずがない人が次々と屋上から飛び降り自殺するという怪事件が、アホみたく面白おかしく描かれる。

 島田御大はたまに笑える作品を書かれるのだが、『屋上』はお笑い本としては最高傑作であり、ミステリーとしてもしっかりしているので万人におすすめ。

 

〇個別紹介記事

kodokusyo.hatenablog.com

 

屋上 (講談社文庫)

屋上 (講談社文庫)

 

100. 嫉妬事件 / 乾くるみ(2011年)

 

城林大ミステリ研究会で、年末恒例の犯人当てイベントが開催され、サークル一の美人・赤江静流が、長身の彼氏を部室へ連れてきた当日、部室の本の上には、あるものが置かれていた。突如現れたシットを巡る尾篭系ミステリの驚愕の結末とは!?「読者への挑戦」形式の書き下ろし短編、「三つの質疑」も特別収録。

 

 まさにクソな内容だが、いろいろな意味ですごい本である。

とにかく人に読ませたいという強い衝動を呼び起こさせる、汚すぎるが論理的な内容は著者ならではなのだろう。

まぁいないとは思うが推理小説が好きな女性がいたら、悪意を持って強くおすすめしてしまいそうだ。

 

嫉妬事件 (文春文庫)

嫉妬事件 (文春文庫)

  • 作者:乾 くるみ
  • 発売日: 2011/11/10
  • メディア: 文庫
 

 

神本探しに終わりはない

 素晴らしい本に出会ったらその都度作品を入れ替えながら更新していく。

 この記事が読書好きやこれから小説を読もうと考えている方の参考になれば幸いである。

 

究極のエンタメ小説|伊坂幸太郎『殺し屋シリーズ』グラスホッパー / マリアビートル / AX

最強にして高純度のエンタメ作品

 そもそも面白い小説というものは人それぞれ考え方が違い、紹介者が面白いと感じてもいざ読んでみると、あまり面白くないということはよくある話だ。
 そこで紹介したいのが伊坂幸太郎の『殺し屋シリーズ』である。
私は万人受けしそうな作風やベストセラー作家はあまり好きになれない(というかなりたくない)というタイプなので、THE 売れっ子作家代表である伊坂幸太郎作品はついつい粗探しをするつもりで読んでしまうのだが、そんな読み方をしていても伊坂作品はどれも非常にエンタメとして優れていると認めざるを得ない。
 そんな伊坂作品の中でも『グラスホッパー』に始まる『殺し屋シリーズ』は人が死ぬ系の小説がOKな方であれば、まず間違いなく楽しむことができる最強エンタメ小説だと考えている。
というのも本シリーズはジャンルとしては広義のミステリやサスペンスに属すると思われるが、ジャンルにとらわれずオールマイティーかつ高純度のエンターテイメント作品だからである。
それでは『殺し屋シリーズ』の3作品について紹介していきたい。
 

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装丁のスタイリッシュさに見合った内容だ

 

作品紹介

 『グラスホッパー』『マリアビートル』『AX』の3作品が発表されている。
先に注意点を書いておくが、世の中には『殺し屋シリーズ』は順番を気にしなくてもあまり前作と繋がっていないから大丈夫、といった意見が見受けられる。たしかにストーリーは延長線上にあるわけではないので、順番通りに読まなくても分からないことは特になく読むことはできる。
 しかし『グラスホッパー』の重要人物は続編でも登場し活躍するし、何よりもまずいのは、前作での生存者といった重大な情報が『マリアビートル』や『AX』で分かってしまうので、100%楽しむためにも、またネタバレ回避のためにも必ず順番通りに読むことをおすすめしたい。

 まぁどの作品も問答無用のエンタメ傑作なので、順番通りに読まない理由はないだろう。

 

1作目  グラスホッパー(2004年)

 

 「復讐を横取りされた。嘘?」元教師の鈴木は、妻を殺した男が車に轢かれる瞬間を目撃する。どうやら「押し屋」と呼ばれる殺し屋の仕業らしい。鈴木は正体を探るため、彼の後を追う。一方、自殺専門の殺し屋・鯨、ナイフ使いの若者・蝉も「押し屋」を追い始める。それぞれの思惑のもとに―「鈴木」「鯨」「蝉」、三人の思いが交錯するとき、物語は唸りをあげて動き出す。疾走感溢れる筆致で綴られた、分類不能の「殺し屋」小説。

 

 伊坂幸太郎は芸術的な伏線回収の巧みさに定評がある作家だが、『グラスホッパー』は「鈴木」「鯨」「蝉」という普通の人+2名殺し屋目線で物語が展開する中で多くの伏線をばらまき、それがスッキリ爽快!と思わず叫びたくなるくらいキレイに回収される。

 物語自体とても勢いがあり、スタイリッシュに話が展開されていくため、とても面白いというのは言うまでもないのだが、ミステリー好きであれば伏線回収の妙技に震えることだろう。
また鈴木や鯨、蝉以外にも複数の魅力的な殺し屋や外道キャラが登場するので、キャラ同士の掛け合いもとても面白い。

なお『グラスホッパー』は生田斗真浅野忠信、山田涼介、波留、菜々緒などのキャスティングで映画化されている。 完成度は観てのお楽しみだが、キャストはこれでもかというほどイメージ通りである。

 

グラスホッパー (角川文庫)

グラスホッパー (角川文庫)

 

 

2作目  マリアビートル(2010年)

 

 幼い息子の仇討ちを企てる、酒びたりの元殺し屋「木村」。優等生面の裏に悪魔のような心を隠し持つ中学生「王子」。闇社会の大物から密命を受けた、腕利き二人組「蜜柑」と「檸檬」。とにかく運が悪く、気弱な殺し屋「天道虫」。疾走する東北新幹線の車内で、狙う者と狙われる者が交錯する――。小説は、ついにここまでやってきた。映画やマンガ、あらゆるジャンルのエンターテイメントを追い抜く、娯楽小説の到達点!

 

 星の数ほどあるエンタメ小説の中でも最強候補の超傑作、それが『マリアビートル』である。
ノリは前作に近く、殺し屋が入り乱れて大変なことになる話なのだが、あらゆる面で前作を凌駕しており、600ページに迫る大作でありながら退屈なシーンがないどころか、徹頭徹尾ハイパー面白いという奇跡的な完成度なのである。

 前作の以上に魅力的な殺し屋や、読書中ひたすらぶっ殺したくなる外道中の外道、そして前作で活躍したキャラの再登場とキャラクターの魅力はさらに向上し、走行中の東北新幹線というクローズドな状況により緊迫感やスピード感も跳ね上がっている。
またページ数に比例して増大した伏線回収の妙技も堪能できる。

 とにかくひたすら面白いので何が何でも読んでほしい!!

 ちなみに『マリアビートル』は『Bullet Train』のタイトルでハリウッド映画化されることが決まっている。主演はブラッド・ピットでレディーガガも出るらしい。さらに日本からは真田広之も出演するそうな....。日本の小説がハリウッド映画化されるのはうれしいものである。

 

マリアビートル (角川文庫)

マリアビートル (角川文庫)

 

 

3作目  AX(2017年)

 

 「兜」は超一流の殺し屋だが、家では妻に頭が上がらない。一人息子の克巳もあきれるほどだ。兜がこの仕事を辞めたい、と考えはじめたのは、克巳が生まれた頃だった。引退に必要な金を稼ぐために仕方なく仕事を続けていたある日、爆弾職人を軽々と始末した兜は、意外な人物から襲撃を受ける。こんな物騒な仕事をしていることは、家族はもちろん、知らない。物語の新たな可能性を切り拓いた、エンタテインメント小説の最高峰!

 

 複数の登場人物の視点が入り乱れて展開される『グラスホッパー』『マリアビートル』とは少々趣が異なり、ほぼ妻子ある恐妻家の殺し屋「兜」の視点で語られる連作短編集となっている。

 ホームドラマやコメディ要素が濃厚な「AX」「BEE」「Crayon」で前作までとは異なるタイプの楽しさを堪能していると、「EXIT」→「FINE」でミステリ的な物語が展開され、感動的なラストを迎えるというこれまた傑作なのである。

 私はホームドラマといった作風があまり好きではないし、恐妻家というのも共感できないのだが、それでもなお一気読みさせられるという優れたエンタメだった。

『AX』もまた映画化に適した作品なので、きっとそのうち映画化されるだろう。

AX アックス (角川文庫)

AX アックス (角川文庫)

 

 

今後も期待

 『殺し屋シリーズ』は個々の作品がある程度独立しているため、伊坂本人がその気になればいくらでも続編が書けてしまいそうである。
それなりの数の生存者がいるため、ぜひともそういったキャラが活躍する続編が読みたいものである。
 

想像不能な超展開|鈴木光司『リングシリーズ』リング/らせん/ループ/バースデイ/エス/タイド

映画からは想像もつかない超展開

 映画では怨霊のような存在として登場し、『貞子3D』以降の作品では完全にB級映画よろしくのクリーチャーと化してしまった貞子だが、原作では似ても似つかないような存在なのはあまり知られていないのかもしれない。
 映画は映画でホラー作品として確固たる地位を築いていることは誰もが認めるところであろうが、原作も神懸った傑作なのだ。
 この記事では、少々混乱しがちな映画の流れにも言及しつつ『リングシリーズ』の魅力を語っていきたい。
 

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原作にはこんな伝説の一発芸はございません(笑)

 

作品一覧

 原作は『リング』『らせん』『ループ』の三部作+『バースデイ』でいったん完結したが、『エス』『タイド』が新章として発表されている。

 小説

作品紹介

 すっかりジャパニーズホラー映画のカリスマとしての貞子が定着してしまっているかもしれないが、原作の貞子はかなり立ち位置が異なる。

 原作は呪いのビデオから生還するための謎解きメインのホラー×ミステリ『リング』から始まり、呪いの正体を科学的に分析していくSFバイオホラー×ミステリ『らせん』ですべての謎が解き明かされたと思いきや、完全に想像を超えた超展開を起こした、ハードSFの『ループ』に続く。

 主役は貞子というより、DNAといったところだろうか。いずれにせよ物語が想像もつかない内容であることと、超面白いことを保証できる稀代の名作である。

 

①  リング (1991年)

 

同日の同時刻に苦悶と驚愕の表情を残して死亡した四人の少年少女。雑誌記者の浅川は姪の死に不審を抱き調査を始めた。―そしていま、浅川は一本のビデオテープを手にしている。少年たちは、これを見た一週間後に死亡している。浅川は、震える手でビデオをデッキに送り込む。期待と恐怖に顔を歪めながら。画面に光が入る。静かにビデオが始まった…。恐怖とともに、未知なる世界へと導くホラー小説の金字塔。

 

 言わずと知れたジャパニーズホラーの超傑作である。
恐怖描写に特化しまくった映画とは異なり、主役の浅川は男性であり、友人の高山とともに、見たら1週間後に死ぬ”呪いのビデオ”の謎を解くというミステリ要素がとても強い。

 意外かもしれないが、あまり怖くはない。
確かに怖いことは怖いのだが、謎解き要素がかなり強く、また狙ったような恐怖描写は思いのほか少ないのである。

 ホラーと言うよりはむしろ愛する者の命を救うため、全身全霊をかけて呪いに挑むという熱い物語なので、小説として純粋におすすめできる大傑作である。

 

リング (角川ホラー文庫)

リング (角川ホラー文庫)

  • 作者:鈴木 光司
  • 発売日: 1993/04/30
  • メディア: 文庫
 

 

②  らせん(1995年)

 

幼い息子を海で亡くした監察医の安藤は、謎の死を遂げた友人・高山竜司の解剖を担当した。冠動脈から正体不明の肉腫が発見され、遺体からはみ出た新聞紙に書かれた数字は、ある言葉を暗示していた。…「リング」とは?死因を追う安藤が、ついに到達する真理。それは人類進化の扉か、破滅への階段なのか。史上かつてないストーリーと圧倒的リアリティで、今世紀最高のカルトホラーとしてセンセーションを巻き起こしたベストセラー。

 

 『リング』がミステリ小説でいうところの問題編だとすると、『らせん』は解答編にあたる作品である。

 呪いの正体が”あるもの”であることが判明するため、ジャパニーズホラー的なノリはほとんどなく、物語も別の路線として大きな飛躍を遂げているのだが、考えようによってはこちらの方が怖いかもしれない。

 『リング』の結末を大きくひっくり返すような内容であり、ジャンルも前作とは別物であるため、人を選ぶかもしれないが、 個人的には『リング』を遥かに上回る大傑作なので、『リング』を読んで合わなかったという方にも『らせん』はおすすめしたい。

 というか設定がいろいろとブッ飛んでいるので、ホラー好きというよりもSF好きであれば絶対に読まなければならないだろう。
 同年に発表された瀬名秀明の『パラサイト・イヴ』はノリ的にも近いものがあり、ホラーの大傑作として名が挙げられる貴志祐介の『天使の囀り』にもやや通じるところがある。

 

らせん - (角川ホラー文庫)

らせん - (角川ホラー文庫)

  • 作者:鈴木 光司
  • 発売日: 2000/04/06
  • メディア: 文庫
 

 

③  ループ(1998年)

 

科学者の父親と穏和な母親に育てられた医学生の馨にとって家族は何ものにも替えがたいものだった。しかし父親が新種のガンウィルスに侵され発病、馨の恋人も蔓延するウィルスに感染し今や世界は存亡の危機に立たされた。ウィルスはいったいどこからやって来たのか?あるプロジェクトとの関連を知った馨は一人アメリカの砂漠を疾走するが…。そこに手がかりとして残されたタカヤマとは?「リング」「らせん」で提示された謎と世界の仕組み、人間の存在に深く迫り、圧倒的共感を呼ぶシリーズ完結編。否応もなく魂を揺さぶられる鈴木文学の最高傑作。

 

 『リング』や『らせん』の世界観を木端微塵に吹き飛ばす、想像の斜め上を行く超傑作ハードSFである。
もはやホラー要素は皆無だが、我が生涯でも最高ランクの名作だと断言できる、限界突破しまくったハイパーな作品だ。

 何を書いてもネタバレになってしまいそうなので、書けることは限られてしまうが、要点を挙げるならば①超面白い、②超すごい、③超泣けるといったところだろうか。
想像がつかないだろうが、映画『マトリックス』とRPGファイナルファンタジーⅩ』を足したような衝撃的な世界観と超展開が待っている。

 正直このシリーズがこんな展開になるなど予想もつかなかったし、『リングシリーズ』で泣かされるとは夢にも思わなかった。
『らせん』以上に前作までの結末をひっくり返すことになるので、人を選びまくるかもしれないが、これほどの傑作には滅多にお目にかかれない。
超おすすめである。

 

ループ (角川ホラー文庫)

ループ (角川ホラー文庫)

  • 作者:鈴木 光司
  • 発売日: 2000/09/07
  • メディア: 文庫
 

 

④  バースデイ(1999年)

 

リングの事件発生からさかのぼること三十年あまり。小劇団・飛翔の新人女優として不思議な美しさを放つひとりの女がいた。山村貞子―。貞子を溺愛する劇団員の遠山は、彼女のこころを掴んだかにみえたが、そこには大きな落とし穴があった…リング事件ファイル0ともいうべき「レモンハート」、シリーズ中最も清楚な女性・高野舞の秘密を描いた「空に浮かぶ棺」、『ループ』以降の礼子の意外な姿を追う「ハッピー・バースデイ」。“誕生”をモチーフに三部作以上の恐怖と感動を凝縮した、シリーズを結ぶ完結編。

 

 『リング三部作』を補完し、『ループ』の後日譚となる完結編である。
無くてもいいという意見も見受けられるが、滂沱の涙を流すことになるであろう素晴らしい作品である。

『らせん』のサイドストーリーとなる「空に浮かぶ棺」と、劇団時代の貞子を描きつつも、リング&らせんともリンクする「レモンハート」、そしてそれら2作を内包して『ループ』の先の世界を描いた「ハッピー・バースデイ」で連作短編の形式となっている。

 映画『リング0 バースデイ』では貞子の悲しい生前の物語だったが、原作である「レモンハート」は、映画で儚いイメージを見せた貞子とは異なり、ミステリアスなキャリアウーマン(?)として描かれていて面白い。

 三部作で物語は完結していると言えるが、『ループ』が好きな方であれば絶対に読んでおくべき作品である。

 

バースデイ (角川ホラー文庫)

バースデイ (角川ホラー文庫)

  • 作者:鈴木 光司
  • 発売日: 2000/04/06
  • メディア: 文庫
 

 

⑤  エス(2012年)

 

映像制作会社に勤める安藤孝則は、ネット上で生中継されたある動画の解析を依頼される。それは、中年男の首吊り自殺の模様を収めた不気味な映像だった。孝則はその真偽を確かめるため分析を始めるが、やがて動画の中の男が、画面の中で少しずつ不気味に変化していることに気づく。同じ頃、恋人で高校教師の丸山茜は、孝則の家で何かに導かれるようにその動画を観てしまうのだった。今“リング”にまつわる新たな恐怖が始まる。

 

 まさかの『リングシリーズ』新章である。
物語的には『らせん』の未来の世界を描いた続編にあたる。

 リング三部作+バースデイで見事に完結していただけに、存在そのものが蛇足感にあふれているが、内容はそれなりに面白くファンであれば一気読みだろう。
反面、過去作を読まずに『エス』から読み始めると完全に置いてけぼりを喰らうことになるので注意である。

 エンタメとしては優秀だと思うのだが、感動的だった『バースデイ』の内容を完全にぶち壊してくれるという点と、終盤がいくら何でも適当に畳みかけ過ぎなのはいただけない。

 『ループ』『らせん』後のifの一つとして考えれば、魅力的ではあるのでシリーズファンならとりあえず読んでみるのも有りだろう。

 

エス (角川ホラー文庫)

エス (角川ホラー文庫)

  • 作者:鈴木 光司
  • 発売日: 2013/05/25
  • メディア: 文庫
 

 

⑥  タイド(2013年)

 

高山竜司、二見馨という二人の男の人生を生きた記憶を持つ、予備校講師の柏田誠二は疑問を抱えていた。おれは何のためにこの世界にいるのか…。謎の病に伏した少女を介し受け取った暗号に導かれ、伊豆大島に渡った柏田は、『リング』という本に記された竜司の行動を追うことで、山村貞子の怨念の起源を知る。自らの使命を自覚する柏田だったが、時を越え転生した貞子の呪いに身体を蝕まれ…。新「リング」シリーズ第2章!

 

 過去作品をぶち壊しながらシリーズを進めてこられた鈴木光司だが、『エス』の前日譚にあたる『タイド』はいくら何でもやり過ぎである。
ダメ。ゼッタイ。」という御法度をやらかしまくりなのだ。

 読書家を自称できる程度には多くの作品を読んできた私だが、これほどやらかした作品を読んだのは初である。黒歴史界の伝説として後世に語り継ぐべき内容と言っても良いのかもしれない。

 ギャグにしても笑えないし、役小角に関する蘊蓄や後付け設定の解説が多くエンタメ要素も低いというどうしようもない子なのだが、『エス』まで読まれた方には衝撃の後付け設定を味わってほしいと思う。

 いやはや何もかも完全にぶち壊して、貞子のキャラも怨念も「うっそーん」という残念なものにしてしまった著者には、いい意味でも悪い意味でも脱帽である。

 

タイド (角川ホラー文庫)

タイド (角川ホラー文庫)

  • 作者:鈴木 光司
  • 発売日: 2016/03/25
  • メディア: 文庫
 

 

まだ続編が続くだと...?

 『リングシリーズ』が三部作だったように、『新リングシリーズ』も三部作とのことで、続編となる『ユビキタス』が連載中である。

謎の古文書である「ヴォイニッチ手稿」がテーマとのことであり、なおかつ執筆にも時間がかけられていることから、ひょっとしたら『ループ』級の超傑作となるのかもしれない。

なんにせよ超展開を見せた旧シリーズという前例があり、また『タイド』で盛大にやらかした後に続く物語というのは、否応なしに好奇心を刺激させられまくる。

世界で活躍する貞子に興味がある方は、ぜひとも『リング』から始まる物語を楽しんでいただければと思う。

脳内麻薬のビッグバン|『酒気帯び車椅子』中島らも

皆殺し....!!

 

作品紹介

 中島らもによる『酒気帯び車椅子』は集英社から2004年に出版された作品である。
文庫版は344ページと読みやすい長さであり、序盤から中盤、そして終盤へとかなりハードコアな展開が待っている。

 らも作品の中でも最もエンターテイメントに特化した作品である分、著者の持ち味である抒情性が封印されているため評価が分かれているが、『ガダラの豚』や『こどもの一生』あたりが好きな方であれば確実に高評価になるだろう。

 『酒気帯び車椅子』は抒情性どころか知性的な部分もかなり抑えられていて、ただひたすらストーリーに重きを置いているような作品である。しかもこれが著者の遺作というのが著者の熱い遺志であるように思えてしまう。
とにかく頭をすっからかんにして楽しむべき物語である。

 

 以下、あらすじの引用

家族をこよなく愛する小泉は中堅の商社に勤める平凡なサラリーマン。彼は、土地売買の極秘巨大プロジェクトを立ち上げた。必死の思いで進めた仕事のメドがたったある日、計画を知るという謎の不動産屋から呼び出される。彼を待っていたのは暴力団だった。家族を狙うという脅しにも負けず敢然と立ち向かう小泉だったが…。容赦ない暴力とせつない愛が交差する中島らもの遺作バイオレンス小説。

 

酒気帯び車椅子 (集英社文庫)

酒気帯び車椅子 (集英社文庫)

  • 作者:中島 らも
  • 発売日: 2008/07/18
  • メディア: 文庫
 

 

(注意)こればっかりはどうしようもない

 ネタバレはしない方針なので極力内容には触れないようにしたいのだが、この物語は話が極めてシンプルなので、感想を書くこと自体がある程度ネタバレになってしまうということをまずは伝えておきたい。
何一つネタバレを喰らいたくない方はこの本は滅茶苦茶に面白いということは保証するので、ここから先は読まずに『酒気帯び車椅子』を楽しんでいただきたい。

 

のほほ~んとした序章

 『酒気帯び車椅子』はふざけたタイトルに反して、情け容赦ないほど過激な内容である。
序章は嵐の前の静けさと言わんばかりに、平凡なサラリーマン生活と飲み友達との日常、そして温かい家族生活が描かれる。

 あらすじの内容から先に待ち受ける地獄のような展開は想像できてしまうのかもしれないが、かなりのページにわたってユーモア溢れるのほほんとした話が続くため、「この幸せが壊れませんように」という祈りのような思いが、のほほんの中に不穏な緊張感を生み出している。

 著者はユーモラスで脱力した描写が巧いだけに、序盤のまったり感は読んでいるだけでへらへらしてしまうのだが、この温かいゆるさが中盤以降の激情を生み出すのだ。
完全に計算されているのだろう。

ドン引きレベルのえげつない行為

 幸せがぶち壊されるシーンははっきり言って超超超極悪非道だ。
私は映画にしても小説にしても過激な作品を好む傾向があり、残虐極まりない肉体破壊シーンをアホみたいに大量に見ているのだが、『酒気帯び車椅子』の胸糞度は最高ランクと言っても過言ではない。

 過激な肉体破壊系は限界値があるし、そっち系を見れば見るほど耐性がついてきてしまうという弱点がある。また視覚や聴覚を伴わない小説では相性が悪い。
しかし本作はそこそこの肉体破壊+強烈な精神ダメージ系である。
胸糞度に限界値がなく、著者の力量が試されるのだが天才中島らもは完璧である。

 必然性があり、なおかつ下品にならない範囲の肉体破壊と、怒りと憎しみを爆裂させる蛮行が描かれるため、作中の主人公と境遇が近い私はかなりの大ダメージを負った。

 しかし何といっても素晴らしいのは、悪ノリで残虐シーンを描いたのではなく(ちょっとは好きで書いたのかもしれないけど...)、後半のハイパーハイテンションを生み出すための起爆剤となっている点である。

 

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.....と叫びたくなること間違いなしである

 

絶望の中にも笑いとエロ有り

 すべてを失い失意のどん底に陥った主役のおっさんだが、ここで完璧な著者のセンスが発揮されている。
普通なら陰鬱なシーンになってしまうであろうシーンのはずだが、なぜかやたら笑えてしまうし、男の夢の中の夢である「ナースフ〇ラ」というアルティメットなエロシーンがある。

 笑わせたり泣かせたり怒らせたりと、読者の心をコントロールするのがどこまでもうまい作家だと思う。
ちなみに何かで読んだのだが、作家として難しいことは「驚かせる」≦「泣かせる」<「怖がらせる」<「笑わせる」らしい。
一番難しいとされる「笑い」をマスターしているのも、中島らもが天才と称される要素なのだと思う。

 

バカと友情

 外道たちを皆殺しにするための戦術を練ったり、修行をするのだがこれがまぁ面白い。
戦前最悪の大量殺人とされる『津山三十人殺し』を参考文献として名前を挙げるあたり、著者の知性を感じさせるしちょっと面白い。

 そして冗談と中二病で出来上がったようなジェノサイド車椅子がなんともかっこよくて笑えて最高なのだ。

 しかし何といっても見どころなのは、おバカな飲み友達の優しさと友情である。
きっと著者にはこんな友達がいたんだろうなぁと考えながら、ほほえましくなってしまった。

 

 

天誅

 外道どもを血祭りにあげるラストシーン。
ここでのテンションの上がり方は尋常ではなく、脳内麻薬はドバドバである。

 無駄が一切なく、淡々とぶっ殺しまくるのでかなりあっさりしているので物足りないという意見も散見されるが、本作の狙いは大量殺戮を面白おかしく書くことではないと思うので私はちょうど良いと思う。

 脳内麻薬が爆裂する小説は滅多に出会えないものだが、『酒気帯び車椅子』はレアな麻薬小説の中でも最強の1冊である。
酒を片手にニヤニヤしながら車椅子が突撃するシーンを思い浮かべて読むのが良いのだろう。

 

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「駆逐してやる…この世から一匹残らず」見事達成

 

酒気帯び車椅子 (集英社文庫)

酒気帯び車椅子 (集英社文庫)

  • 作者:中島 らも
  • 発売日: 2008/07/18
  • メディア: 文庫
 

 

中島らも|作品一覧とおすすめ小説ランキング10選 

 

kodokusyo.hatenablog.com

 

中島らも|作品一覧とおすすめ小説ランキング10選

知性とセンスを合わせ持ったラリリ天才

 小難しさを感じさせない蘊蓄と、関西人ならではのギャグセンス、そして著者の波乱万丈な生き様から上梓される小説は唯一無二の魅力を持っているのだ。
 酒やドラッグによってラリった状態で書かれるのも特徴で、シラフの人間では思いもつかないようなブッ飛んだ描写が多いのも著者ならでは。
 そんな偉大なる故人・中島らもの小説をランキング形式で紹介する。
なお中島らも氏はエッセーも多数書かれているが、この記事では小説に限定する。

作品一覧

 らも小説は大きく分けると2パターンある。
著者の実体験が色濃く反映されたノンフィクション風の小説と、徹底的にエンタメに特化した作品である。
また長編と短編が概ね半々で上梓されている。いずれにしてもキレッキレだ。

 

  1. 頭の中がカユいんだ|中編+短編集(1986年)
    頭の中がカユいんだ
    東住吉のぶっこわし屋
    私が一番モテた日
    クェ・ジュ島の夜、聖路加病院の朝
  2. ぷるぷる・ぴぃぷる|短編集(1988年)
    新作落語 / ぷるぷる・ぴぃぷる / 小説
  3. お父さんのバックドロップ|短編集(1989年)
    お父さんのバックドロップ
    お父さんのカッパ落語
    お父さんのペット戦争
    お父さんのロックンロール
  4. 超老伝-カポエラをする人|連作短編集(1990年)
  5. 今夜、すべてのバーで|長編(1991年)
  6. 人体模型の夜|連作短編集(1991年)
    プロローグ
    邪眼 / セルフィネの血
    はなびえ / 耳飢え
    健脚行--43号線の怪
    膝 / ピラミッドのヘソ
    EIGHT ARMS TO HOLD YOU
    骨喰う調べ / 貴子の胃袋
    乳房 / 翼と性器
    エピローグ
  7. ガダラの豚|長編(1993年)
  8. 白いメリーさん|短編集(1994年)
    日の出通り商店街いきいきデー
    クロウリング・キング・スネイク
    白髪急行 / 夜走る人
    脳の王国 / 掌
    微笑と唇のように結ばれて
    白いメリーさん
    ラブ・イン・エレベーター
  9. 永遠も半ばを過ぎて|長編(1994年)
  10. 水に似た感情|長編(1996年)
  11. 寝ずの番|短編集(1998年)
    寝ずの番Ⅰ~Ⅲ
    えびふらっと・ぶるぅす
    逐電 / グラスの中の眼
    ポッカァーン / 子羊ドリー
    黄色いセロファン
  12. バンド・オブ・ザ・ナイト|長編(2000年)
  13. 空のオルゴール|長編(2002年)
  14. こどもの一生|長編(2003年)
  15. 酒気帯び車椅子|長編(2004年)
  16. ロカ|長編(2005年)
  17. 君はフィクション|短編集(2006年)
    山紫館の怪 / 君はフィクション
    コルトナの亡霊 / DECO−CHIN
    43号線の亡霊 / 結婚しようよ
    ねたのよい / 狂言「地籍神」
    バッド・チューニング

 

作品ランキング

 完全に私の好みで格付けしているので狙ったわけではないのだが、偶然にも長編と短編が5作品ずつになった。
らもファンからすればあの作品が入っていない!という意見も出てきそうだが、エンタメに特化した作品からノンフィクション風の作品までバランスよくランクインできたと思う。

 

10位  君はフィクション(2006年)

 

中年小説家「おれ」の創作パワーの源は証券会社に勤める若いOL香織との密会だ。今日も、ホテルの瀟洒なバーで待ち合わせ。だが、現れたのはプータローをしているという双子の妹・詩織だった。「おれ」はまったく性格の違う彼女に魅かれ、打ち解ける。すると詩織はルームキーを取り出し…。表題作『君はフィクション』ほか、単行本未収録の幻の3作品を特別収録した中島らも最後の短編集。

 

 中島らもが亡くなられた後に発表された短編集ということもあり、やや完成度にばらつきがあるが、絶妙にブッ飛んだ表題作を始めとしてモダンホラーな「コルトナの亡霊」や亡くなる直前に執筆された音楽愛に溢れたラリ傑作「DECO−CHIN」、らも的なセンスが魅力的な「バッド・チューニング」は素晴らしい。

 他の作品を差し置いて本作をランクインさせたのは著者の長女中島さなえさんによる巻末エッセーがファンなら絶対に読むべき優れたものだからだ。

 らも作品を何冊か読まれた方に強くおすすめしたい。

 

君はフィクション (集英社文庫)

君はフィクション (集英社文庫)

  • 作者:中島 らも
  • 発売日: 2009/07/16
  • メディア: 文庫
 

 

9位  白いメリーさん(1994年)

 

まっ白な帽子に白いスーツ、白いストッキングに白いハイヒール。髪もまっ白という「白いメリーさん」。誰を殺してもいいという年に一度の「日の出通り商店街いきいきデー」―など、怖すぎて、おもしろすぎる9編を集めた珠玉の短編集。ナニワの奇才・中島らものユニークな世界に思わず引き込まれる一冊。

 

ブッ飛びまくった1作目のバトルロイヤル「日の出通り商店街いきいきデー」からパワー全開で、2作目以降もバラエティ豊かな傑作が勢ぞろいである。

 ホラーな話からSF、ファンタジーっぽい作品まで幅広いのでボリュームの割に猛烈に読んだ感がする上に、最後の「ラブ・イン・エレベーター」がトドメの一発をかましてくれるので読後のインパクトは大きい。

 

白いメリ-さん (講談社文庫)

白いメリ-さん (講談社文庫)

  • 作者:中島 らも
  • 発売日: 1997/08/07
  • メディア: 文庫
 

 

8位  バンド・オブ・ザ・ナイト(2000年)

 

「悪夢を見るなら今のうちだよ」と誰かがおれの耳元でささやいた―。「悪魔の館」と呼ばれる家に入り浸るジャンキーたち。アルコールをはじめ、睡眠薬、咳止めシロップなどの中毒者たちが引きおこす悲喜劇を濃密に描いた衝撃作。そして、今夜も言葉のイメージが怒涛のように、混濁した脳裡に押し寄せてくる。

 

 著者の代表作に挙げられるであろう作品だが、かなり人を選ぶ内容になっている。
公序良俗に全力で反する乱れに乱れた生活が描かれるだけでなく、作品の1/3近くがラリっていて、意味があるのかないのかさっぱりな言葉の羅列が続くためである。

 しかしこれ以上ないほど著者の人間性が詰まった作品でもあるため、人によってはバイブルになりうるだろう。

 らもの十八番であるギャグは封印されているため(それでも笑えることもある)、エンタメを期待すると完全に肩透かしかもしれないが、薬がキマった状態のらもファンなら絶対に気に入ると思う。

 

バンド・オブ・ザ・ナイト (講談社文庫)

バンド・オブ・ザ・ナイト (講談社文庫)

 

 

7位  お父さんのバックドロップ(1989年)

 

下田くんのお父さんは有名な悪役プロレスラーの牛之助。頭は金髪、顔は赤白の隈取り、リングでみどり色の霧を吹く。そんな父親が下田くんはイヤでたまらない。今度は黒人の空手家「クマ殺しのカーマン」と対戦することになったのだ。父を思う小学生の胸のうちをユーモラスにえがく表題作。ロックンローラー、落語家、究極のペットを探す動物園園長と魚河岸の大将。子供より子供っぽいヘンテコお父さんたちのものがたり。

 

 児童向けの内容だが、大人が読んでも面白い....いや面白すぎる短編集である。
文字数が少なく挿絵もあるためとても読みやすく、どの作品もハートフルでギャグセンスがみなぎっている。

 プロレスラー、落語家、魚河岸、ロックンローラーとヘンテコなお父さんが活躍しまくるハートフルで笑える万人におすすめできる傑作だ。

 特に表題作である「お父さんのバックドロップ」の完成度は素晴らしく、爆笑→感動という著者の必殺技が炸裂する。

 

お父さんのバックドロップ (集英社文庫)

お父さんのバックドロップ (集英社文庫)

  • 作者:中島 らも
  • 発売日: 1993/06/18
  • メディア: 文庫
 

 

6位  こどもの一生(2003年)

 

異才・中島らものB級ホラーの頂点!
瀬戸内海の小島に、サイコセラピーのために集まった5人の男女。薬の投与と催眠術を使った治療で、彼らの意識は10歳のこどもへと戻ってゆく。抱腹絶倒、やがて恐怖が襲う超B級ホラー。


 著者によると構想に長い年月をかけたとか.....(笑)
娯楽を追求しまくったエンタメ作品で、中盤までは中島らものお笑いのセンスが火を噴き爆笑必至である。それでいて心理学や催眠術の豊富な知識により、笑えるだけでなく内容は素人には到底書けないクオリティを誇る。

 そして突如様子が変わってB級スプラッタホラー化する終盤の流れは、中島らも自身がよくできたと評されている通り、笑えるのに笑えない本気のホラーとなっている。

 らも作品にエンタメを求めるのなら最高の1冊である。

 

こどもの一生 (集英社文庫)

こどもの一生 (集英社文庫)

  • 作者:中島 らも
  • 発売日: 2006/07/20
  • メディア: 文庫
 

 

5位  頭の中がカユいんだ(1986年)

 

何かワケありの僕は、ある日、突然、妻子を残し家出する。勤める小さな広告代理店に、寝泊りするようになった僕。TV局員をはじめ、いろんなギョーカイ人たちと、夜に、昼に、昭和最後のヒートアップする大阪を徘徊する日々。次々とトンデモナイ事件が起こる中、現実と妄想の狭間で僕は…。中島らも自身が「ノン・ノンフィクション」と銘うった記念碑的処女作品集。

 

 著者の小説デビュー作である表題の中編と3作の短編からなる作品集である。

表題作はノン・ノンフィクションを称する自伝的な小説で、エンタメを狙ったわけではなさそうなのに、いたるところで笑わされるという天才的な才能が発揮されている。

下手なホラーより怖いイかれたショートショートの「東住吉のぶっこわし屋」や童貞的な心理描写が面白い「私が一番モテた日」これまた童貞的で著者の女性観が垣間見える「クェ・ジュ島の夜、聖路加病院の朝」とエンタメにより過ぎていない分、センスが際立っている。

 

頭の中がカユいんだ (集英社文庫)

頭の中がカユいんだ (集英社文庫)

  • 作者:中島 らも
  • 発売日: 2008/01/18
  • メディア: 文庫
 

 

4位  人体模型の夜(1991年)

 

一人の少年が「首屋敷」と呼ばれる薄気味悪い空屋に忍び込み、地下室で見つけた人体模型。その胸元に耳を押し当てて聞いた、幻妖と畏怖の12の物語。18回も引っ越して、盗聴を続ける男が、壁越しに聞いた優しい女の声の正体は(耳飢え)。人面瘡評論家の私に男が怯えながら見せてくれた肉体の秘密(膝)。眼、鼻、腕、脚、胃、乳房、性器。愛しい身体が恐怖の器官に変わりはじめる、ホラー・オムニバス。

 

 本気ですごい短編集である。
連作短編集と称されているが、人体にまつわる話という共通点があることと、プロローグとエピローグにより最大の一撃をぶちかますという仕掛けがあるだけで、個々の作品はとても完成度が高くバラエティ豊かな短編として独立しているのでとても読みやすいい。

 とりわけ「セルフィネの血」「はなびえ」「耳飢え」「貴子の胃袋」は超傑作だと思う。全体的にホラー寄りだが、怖さよりもセンスの良さに心を奪われることになるだろう。

 

人体模型の夜 (集英社文庫)

人体模型の夜 (集英社文庫)

 

 

3位  今夜、すべてのバーで(1991年)

 

薄紫の香腺液の結晶を、澄んだ水に落とす。甘酸っぱく、すがすがしい香りがひろがり、それを一口ふくむと、口の中で冷たい玉がはじけるような・・・・・・。アルコールにとりつかれた男・小島容(いるる)が往き来する、幻覚の世界と妙に覚めた日常そして周囲の個性的な人々を描いた傑作長篇小説。吉川英治文学新人賞受賞作。

 

 中島らも氏本人曰く、「ほぼ実話」なノンフィクション風作品である。
読んでいると自伝としか思えないが、ほどよく脚色されていることでエンターテイメント作品としても大変すぐれた内容になっている。

 また『今夜、すべてのバーで』はらも本人がアル中なだけあって、アルコールについて相当な研究がなされたうえで描かれているようで、実体験と知性が掛け合わされたことにより、面白いだけでなくアルコール依存について知識を得ることができるという大変お得な内容だ。

酒好きであれば共感の嵐で、読んでいると無性に酒が飲みたくなるだろうが、飲みながら読み進めていると、ラストで最高のカタルシスを味わうことができる。

 全らも作品の中でも自信をもって万人におすすめできる最高の小説である。

 

今夜、すベてのバーで (講談社文庫)

今夜、すベてのバーで (講談社文庫)

  • 作者:中島 らも
  • 発売日: 1994/03/04
  • メディア: 文庫
 

 

2位  ガダラの豚(1993年)

 

アフリカの呪術医研究の第一人者、大生部多一郎は、テレビの人気タレント教授。超能力ブームで彼の著者「呪術パワーで殺す!」はベストセラーになった。しかし、妻の逸美は8年前の娘・志織のアフリカでの気球事故での死以来、神経を病んでいた。そして奇跡が売り物の新興宗教にのめりこんでしまった。逸美の奪還をすべく、大生部は奇術師ミラクルと組んで動き出す。

 

 天才が本気を出したらどうなるか....その答えが『ガダラの豚』である。
徹頭徹尾尋常でない面白さであり、著者のもつインテリやユーモア、そしてアル中がすべて発揮された究極のエンターテイメントであり、中島らも作品の最高傑作であるばかりか、おもしろ小説界の頂点に君臨する物語なのだ。

 文庫版だと3分冊でトータル1000ページに及ぶ大作だが、三部構成の物語はそれぞれが異なる魅力があり、話は展開し続ける。
一部は超能力ネタ全開の爆笑エンタメ、二部はスケールが大きくなった呪術をめぐるユーモアと恐怖が溢れる冒険小説となり、三部は完全にホラーサスペンスである。

 繰り返しになるが、『ガダラの豚』は故中島らも氏の一世一代の気合がこもった最高傑作である。
長い物語だが、らも作品初読みの人にもおすすめしたい最強エンタメ小説である。

 

ガダラの豚(集英社文庫) 全3冊セット
 

 

1位  酒気帯び車椅子(2004年)

 

家族をこよなく愛する小泉は中堅の商社に勤める平凡なサラリーマン。彼は、土地売買の極秘巨大プロジェクトを立ち上げた。必死の思いで進めた仕事のメドがたったある日、計画を知るという謎の不動産屋から呼び出される。彼を待っていたのは暴力団だった。家族を狙うという脅しにも負けず敢然と立ち向かう小泉だったが…。容赦ない暴力とせつない愛が交差する中島らもの遺作バイオレンス小説。

 

 中島らもの最高傑作は間違いなく『ガダラの豚』である。
それは著者のファンであれば誰もが認めるところだろうし、私自身もそう思っている。
しかし一番好きなのは『酒気帯び車椅子』である。

 ユーモアが溢れのほほんとした序盤から一転、平山夢明友成純一作品で洗礼を受けた私ですら目を背けたくなり、心にダメージを負うレベルの鬼畜外道な中盤、そして脳内麻薬が完全に解き放たれる決死必殺のラストシーンと完璧な序破急が展開される。

 序盤で温かい幸せな家庭が描かれるだけに、それが完膚なきまでに破壊される中盤の威力がすさまじい。
そしてそこからなだれ込む復讐劇は血沸き肉躍る最高の読書体験である。

 内容がかなりブッ飛んでいるだけあって、万人向けではなくそれなりに評価が分かれているようだが、エンタメ小説としては『ガダラも豚』や『こどもの一生』をさらに洗練させた尖りまくった傑作である。

 

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酒気帯び車椅子 (集英社文庫)

酒気帯び車椅子 (集英社文庫)

  • 作者:中島 らも
  • 発売日: 2008/07/18
  • メディア: 文庫
 

 

 

感謝しつつ合掌