神本を求めて

小説を読みまくって面白い本を見つけたら紹介するブログ

『幽霊を信じない理系大学生、霊媒師のバイトをする』柞刈湯葉|理系の思考回路を読む

ロジカル幽霊譚

 

作品紹介

柞刈湯葉による『幽霊を信じない理系大学生、霊媒師のバイトをする』は2024年に新潮社(NEX)より出版された、青春ミステリ(?)作品で、文庫で350ページ程度の作品である。

ラノベのようなタイトルに相応しく、全体的にゆるめな雰囲気で非常に読みやすい青春小説であるが、読者層は平均的なラノベよりも幅広いと思われ、読書が好きな方であれば幅広い層に支持されそうな内容になっている。

青春SF小説とされているが、SF要素はほぼ皆無で、幽霊とあるがホラー要素も皆無である。幽霊を信じない青年が霊媒師と交流することで成長したり、霊媒師のシステムを科学的に説明したり、過去の宝探しの謎を解いたりする話である。

前述の通り、普段から小説を好むような方であれば、老若男女問わず楽しめると思われる傑作を紹介する。

 

 以下、あらすじの引用

幽霊は信じない、けどあなたのことは信じる。春、俺は大学生になり、「慰霊」の手伝いを始めた。『横浜駅SF』『まず牛を球とします。』の著者が贈るすこし不思議な青春SF小説。「他人の気持ちが分からない」ことが悩みの谷原豊(たにはらゆたか)(18)は、曾祖母の死(享年100)をきっかけに、謎の霊媒師・鵜沼(うぬま)ハルと出会った。自称大正生まれのハルは、幽霊が見えず存在を信じてない理屈っぽい理系大学生の豊に、奇妙な“慰霊”のアルバイトを依頼する。彼女の正体と、この街の秘密とは――。モラトリアムの青春を爽やかに描く、すこし不思議なジェントル・ゴースト・ストーリー。

 

 

我が推しの作家

新刊が出たら必ず買う作家が何人もいるのだが、その中で若手作家(...というと定義が曖昧なので、上梓した作品数が10作品未満くらいでこれからな作家)は数少なく、その中の柞刈湯葉である。

柞刈作品の印象は、軽いノリで超読みやすいが、内容は極めてロジカルでウィットに富む会話がされまくるといったものである。SF要素が強い作品から本作のように青春小説までゆるめな雰囲気がありつつも、とても頭が良さそうなのが好みである。

雰囲気が近めな作家は森博嗣や野﨑まどといったところだろうか。森博嗣ファンなら好きになる可能性が高そうだが、森博嗣より幅広い層に受けるかもしれない。

 

どんな話か

日常系青春小説と考えてよいと思う。物語を劇的に盛り上げるような展開はなく、日常のちょっとしたイベントが中心だが、なにせ「幽霊を信じない理系大学生が霊媒師のバイトをする」ので、理系大学生の主人公と霊媒師の会話や主人公による霊媒師というシステムの解明がとても面白いのである。

私はIT業界に入りSE業務を10年以上しているが、私立文系卒なので理系の学生(SEやプログラマーのような社会人ではなく学生)の思考回路を知ってみたい欲が強く、ストーリー云々ではなく文章そのものが面白いと感じる。

 

幽霊を信じない

かの京極夏彦氏が「この世に不思議なことなどない」とおっしゃった通り、この世には幽霊なんて存在しない。本作の主人公は当然そう考えているし、バイトをする中でもそのスタンスはブレない。一方、霊媒師はそんな考えの主人公をして「幽霊は信じないが、あなたのことは信じる」というくらいガチ目な能力者である。

幽霊と話していなければ知りようがない情報を出してくるなど、幽霊の存在を肯定しなければ説明しようがないことを、あくまでも論理の帰結として科学的に説明してしまう過程は「へぇー...理系の人はこんな感じで考えるのか」と楽しませてくれるのである。私も幽霊は信じないが、文系育ちのSEなので主人公と考え方は違っていて、そういったところは学びにもなる。最近よく「理系脳を育てる」的な図鑑や児童書を見かけるが、この本はまさにその紹介がふさわしく、我が子にもおすすめしたい一冊である。

 

ちょっとしたミステリー

SF要素やホラー要素はほぼ皆無と前述したが、本作は物語を盛り上げるためにミステリー要素が含まれている。淡々とした日常系であるにもかかわらず、謎解き要素が入ることで読む手を止めさせない。

ネタバレするつもりはないが、本作の謎要素を挙げてみる。

  • 霊媒師は大正生まれの100歳越え...っぽい雰囲気なのに見た目は40前後
  • 霊媒師の収入源と慰霊の目的
  • 主人公と友人が探していた埋蔵金

別にそんなに気になる謎ではないが、いずれの謎もリンクしていて気が付けば最後まで読み終えていること必至である。

 

結局どんな話なの

面白本である。さらっと読める高品質といったところだろうか。青春ミステリというと有名どころで米澤穂信の『氷菓』があるが、私はあのシリーズは肌に合わない....というか嫌いである。そんな私でも否定要素皆無で100%楽しめた作品だ。

しいて欠点を挙げるとすれば萌え要素を付与するために、霊媒師の見た目を40代ではなくアラサーにしてくれれば...(笑)という気がしたが、計算してアラフォーになっているのでそこは問題なし(何を言っているのか自分でも不明)。

 

文庫化してくれ!

2024年8月時点で柞刈作品は文庫化されていない作品が多い。代表作の『横浜駅SF』はもちろんのこと、プレミア化してきている『重力アルケミック』は文庫化して世に広める作品だと思っている。

売り上げなどなど大人の事情でなかなか実現できないことは承知しているが、推しの作家だけに知名度を上げてほしいと考えており、この記事を読まれた方は過去作含めてぜひ読んでいただきたい。

 

 

おすすめ記事

kodokusyo.hatenablog.com

kodokusyo.hatenablog.com

kodokusyo.hatenablog.com

kodokusyo.hatenablog.com