国産ファンタジーの筆頭
衣食住が細かく作り込まれており、特に食については1冊の著書としてまとめられるほどしっかりと描かれている(もはや飯テロ)。そんな偉大な作家、上橋菜穂子の作品をランキング形式でご紹介したい。
作品一覧
エッセイなどの作品も上梓されているが、ここでは小説のみ挙げる。
大作シリーズが中心で作品数があまり多くないため、一度何かの作品にはまってしまえば、一気に全著作を読んでしまうかもしれない。
ノンシリーズ
- 精霊の木(1989年)
- 月の森に、カミよ眠れ(1991年)
- 狐笛のかなた(2003年)
- 香君(2022年)
守り人シリーズ
- 精霊の守り人(1996年)
- 闇の守り人(1999年)
- 夢の守り人(2000年)
- 虚空の旅人(2001年)
- 神の守り人 来訪編(2003年)
- 神の守り人 帰還編(2003年)
- 蒼路の旅人(2005年)
- 天と地の守り人 第一部 ロタ王国編(2006年)
- 天と地の守り人 第二部 カンバル王国編(2007年)
- 天と地の守り人 第三部 新ヨゴ皇国編(2007年)
- 流れ行く者(2008年)
- 炎路を行く者(2012年)
- 風と行く者:守り人外伝(2018年)
獣の奏者
鹿の王
- 鹿の王(2014年)
- 鹿の王 水底の橋(2019年)
作品ランキング
上橋作品はノンシリーズものが極端に少ないのでシリーズ作品も1作ずつ対象とする。ただし一つながりの物語となっている以下の作品は記載のセットで1作とみなす。
- 蒼路の旅人/天と地の守り人
全4冊で一括りの物語となっているため。 - 獣の奏者 Ⅰ闘蛇編/Ⅱ王獣編
闘蛇編と王獣編で完結した物語となっているため。 - 獣の奏者 Ⅲ探求編/Ⅳ完結編
探求編と完結編で一括りの物語となっているため。
本ブログではランキング記事を複数掲載しているのだが、上橋作品ほど格付けに困った作家はいない。いずれの作品も甲乙つけがたいほど拮抗しているからである。
そこで格付けでは単品での完成度を重視することにしたい。
十七位 月の森に、カミよ眠れ(2008年)
月の森の蛇ガミをひたすら愛し、一生を森で送ったホウズキノヒメ。その息子である蛇ガミのタヤタに愛されながらも、カミとの契りを素直に受けいれられない娘、キシメ。神と人、自然と文明との関わりあいを描く古代ファンタジー。
『精霊の木』に次ぐ初期作品で、デビュー作ではSF要素が濃厚だったのに対して、2作目『月の森に、カミよ眠れ』は古代(縄文時代)の日本を舞台とした古代ファンタジーである。
著者自身も仰っているそうだが、本作には文化人類学者としてのご自身の思いを物語にしたという側面があるらしく、いまいち作中に引き込まれにくいなど、まだ物語として粗削りな部分があるのは否めないが、後の作品に昇華されていく思想が大いに盛り込まれているので上橋作品を何作か読んだファンにはぜひおすすめしたい。
夢の守り人(2000年)
人の夢を糧とする異界の“花"に囚われ、人鬼と化したタンダ。女用心棒バルサは幼な馴染を救うため、命を賭ける。心の絆は“花"の魔力に打ち克てるのか? 開花の時を迎えた“花"は、その力を増していく。不可思議な歌で人の心をとろけさせる放浪の歌い手ユグノの正体は? そして、今明かされる大呪術師トロガイの秘められた過去とは? いよいよ緊迫度を増すシリーズ第3弾。
バルサの恋人(?)タンダとその師・トロガイが中心の物語で、守り人シリーズ長編の中ではファンタジー要素が最も強く出た作品となっている。
脳内に作中の世界を再生するためには、それなりの想像力(と妄想力)が必要なため、やや読みずらいかもしれないが、窮地に陥ったタンダを全身全霊をかけて救い出そうとするバルサが大好き(それでいてくっつかないのも好き)。
スケールアップする次作以降の物語前に、幻想的な本作のような作品もまたいとおかし。
十五位 精霊の木(1989年)
環境破壊で地球が滅び、様々な星へ人類は移住していた。少年シンが暮らすナイラ星も移住二百年を迎えるなか、従妹のリシアに先住異星人の超能力が目覚める。失われた“精霊の木”を求め、黄昏の民と呼ばれる人々がこの地を目指していることを知った二人。しかし、真実を追い求める彼らに、歴史を闇に葬らんとする組織の手が迫る。
上橋菜穂子デビュー作である。特筆すべき点はあらすじからも分かる通りSF作品であるということだろう。SF要素 7:ファンタジー要素 3といった絶妙な塩梅で描かれる作品は今後の著者の作品に昇華していく要素がこれでもかというほど詰め込まれている。
いろいろ詰め込み過ぎた感があるのと、まだ自身の作風が完成されていない(守り人シリーズとはかなり筆致が異なり、小松左京や筒井康隆っぽい)ことから、ややとっつきにくいかもしれないが、著者デビュー30周年記念で文庫化されているため上橋ファンなら絶対に押さえておきたい作品である。
十四位 獣の奏者 外伝 刹那(2010年)
王国の行く末を左右しかねぬ政治的運命を背負ったエリンは、女性として、母親として、いかに生きたのか。エリンの恩師エサルの、若き頃の「女」の顔。まだあどけないジェシの輝く一瞬。一日一日、その時を大切に生きる彼女らのいとおしい日々を描く物語集。エリンの母ソヨンの素顔を描いた単行本未収録短編「綿毛」収録。
まず先に言っておきたいのは、本作は完全に大人向けの内容である。なぜならば子供には理解できないタイプのエロ...ではなくエロスがそこはかとなく匂い立っているからである。もう官能小説すれすれ。
エリンの母親ソヨンの生前の話(さりげないエロが爆発)やⅡ王獣編からⅢ探求編に至る空白の期間(エリンと〇〇〇の馴れ初め有り)、異様にエロいエサルの過去の話に、エリンの子育てと本編の内容を補完するものである。
完結編を読んだ後に読むとますます気分が沈む可能性があるので要注意。
十三位 炎路を行く者(2012年)
『蒼路の旅人』、『天と地の守り人』で暗躍したタルシュ帝国の密偵ヒュウゴ。彼は何故、祖国を滅ぼし家族を奪った王子に仕えることになったのか。謎多きヒュウゴの少年時代を描いた「炎路の旅人」。そして、女用心棒バルサが養父ジグロと過酷な旅を続けながら成長していく少女時代を描いた「十五の我には」。──やがて、チャグム皇子と出会う二人の十代の物語2編を収録。
十二位 虚空の旅人(2001年)
隣国サンガルの新王即位儀礼に招かれた新ヨゴ皇国皇太子チャグムと星読博士シュガは、〈ナユーグル・ライタの目〉と呼ばれる不思議な少女と出会った。海底の民に魂を奪われ、生贄になる運命のその少女の背後には、とてつもない陰謀が――。海の王国を舞台に、漂海民や国政を操る女たちが織り成す壮大なドラマ。シリーズを大河物語へと導くきっかけとなった第4弾!
十一位 狐笛のかなた(2008年)
小夜は12歳。人の心が聞こえる“聞き耳”の力を亡き母から受け継いだ。ある日の夕暮れ、犬に追われる子狐を助けたが、狐はこの世と神の世の“あわい”に棲む霊狐・野火だった。隣り合う二つの国の争いに巻き込まれ、呪いを避けて森陰屋敷に閉じ込められている少年・小春丸をめぐり、小夜と野火の、孤独でけなげな愛が燃え上がる…愛のために身を捨てたとき、もう恐ろしいものは何もない。
上橋女史のノンシリーズ作品の中では『狐笛のかなた』が内容、完成度、読みやすさともにトップクラスである。そのため上橋作品を始めて読まれる方には『精霊の守り人』と並んで最もおすすめしたい。
戦国時代の日本を想起させられる和風でありながら、微妙に異国情緒も感じられる世界観は上橋作品の中でも特に物語の世界へ引き込まれやすい。
さりげなく恋愛要素を入れてくる上橋女史だが、本作が一番純愛な感じが美しい。
〇個別紹介記事
十位 神の守り人(2003年)
女用心棒バルサは逡巡の末、人買いの手から幼い兄妹を助けてしまう。ふたりには恐ろしい秘密が隠されていた。ロタ王国を揺るがす力を秘めた少女アスラを巡り、〈猟犬〉と呼ばれる呪術師たちが動き出す。タンダの身を案じながらも、アスラを守って逃げるバルサ。追いすがる〈猟犬〉たち。バルサは幼い頃から培った逃亡の技と経験を頼りに、陰謀と裏切りの闇の中をひたすら駆け抜ける!
王道の”剣と魔法のファンタジー”が好きな方であればおそらくシリーズの中でも一番引き込まれるようなファンタジー要素が強めな作品である。
鬼神タルハマヤを宿した者〈サーダ・タルハマヤ〉という大量破壊兵器に置き換えられるような少女・アスラを巡ってアスラを守るバルサVS破壊の力を利用しようとする〈猟犬〉の対立が読む手を加速させる。
中二病患者にはもってこいの作品だ!
九位 獣の奏者 探求/完結編(2009年)
〇する者と〇〇れ、〇となったエリン。ある村で起きた闘蛇の大量死の原因究明を命じられ、行き当たったのは、かつて母を死に追いやった禁忌の真相だった。〇と〇〇との未来のため、多くの命を救うため、エリンは歴史に秘められた真実を求めて、過去の大災厄を生き延びた人々が今も住むという遙かな谷を目指すが…。
あらすじが微妙にネタバレしているため、一部〇〇表記にしている。前作から作中の時間がだいぶ経過しており、登場人物一覧を見ただけで度肝を抜かれるというビックリ仕様である。「エリンたんに何があったの....?」という疑問が浮かぶだろうが、空白の時間については『外伝 刹那』で語られる。
前作で語られなかった闘蛇と王獣の謎を追い、リョザ神王国の成り立ちにも迫る前作以上に緊迫した物語である。もはや児童書失格。
衝撃の結末を迎えるため、賛否両論となりうる内容となっており、読むのには覚悟を決める必要がある。こんなのを書いちゃう上橋女史が大好きです。
八位 鹿の王 水底の橋(2019年)
伝説の病・黒狼熱大流行の危機が去った東乎瑠帝国では、次の皇帝の座を巡る争いが勃発。そんな中、オタワルの天才医術師ホッサルは、祭司医の真那に誘われて恋人のミラルと清心教医術発祥の地・安房那領を訪れていた。そこで清心教医術の驚くべき歴史を知るが、同じころ安房那領で皇帝候補のひとりの暗殺未遂事件が起こる。様々な思惑にからめとられ、ホッサルは次期皇帝争いに巻き込まれていく。『鹿の王』、その先の物語!
『鹿の王』の後の物語だが、続編というよりは外伝的な位置づけで、ファンタジー要素がかなり少なく、医療サスペンス ✕ 恋愛小説といった感じの内容になっている。
前作の主人公の一人ヴァンやユナ、サエといった主要人物が一切登場せず(おらのサエを返してくれ...笑)、本編の主人公の一人ホッサルとその彼女ミラルが主役の物語である。
生死に関わる深刻な物語ではあるものの、前作とは異なりスケールはそこまで大きくなく、"医療の在り方とは"に特化している。
新たに漢字名の登場人物が多数登場するなど、少々読みずらいかもしれないが、読み進めれば進めるほど話は緊迫していき、読むのを止められなくなるような展開には息が詰まるほどである。
コロナ禍の影響かは不明だが、単行本から1年後に文庫化されたという経緯があるほど医療について深く描かれた傑作で完成度はとても高い。
七位 蒼路の旅人/天と地の守り人(2005~2007年)
生気溢れる若者に成長したチャグム皇太子は、祖父を助けるために、罠と知りつつ大海原に飛びだしていく。迫り来るタルシュ帝国の大波、海の王国サンガルの苦闘。遥か南の大陸へ、チャグムの旅が、いま始まる! ──幼い日、バルサに救われた命を賭け、己の身ひとつで大国に対峙し、運命を切り拓こうとするチャグムが選んだ道とは? 壮大な大河物語の結末へと動き始める。
大海原に身を投じたチャグム皇子を探して欲しい──密かな依頼を受けバルサはかすかな手がかりを追ってチャグムを探す困難な旅へ乗り出していく。刻一刻と迫るタルシュ帝国による侵略の波、ロタ王国の内側に潜む陰謀の影。そして、ゆるやかに巡り来る異界ナユグの春。懸命に探索を続けるバルサは、チャグムを見つけることが出来るのか……。大河物語最終章三部作、いよいよ開幕!
上橋作品の中でも最もスケールが大きく、『守り人シリーズ』を締めくくるのにふさわしい超大作にして、魂が揺さぶられる素晴らしい物語である。
守り人シリーズの記事と異なり蒼路の旅人と天と地の守り人をセットにしているため全体で五位とした。
大切な人を守るため、自ら死地に赴いたチャグム王子(もはや1作目とは別人)の男気溢れる熱い冒険で物語は幕を開けて、窮地に陥ったチャグム、そして新ヨゴ皇国を救うため女用心棒バルサが男気(女だけど)を魅せまくる壮大な旅へと繋がる。
余韻を残して締められるため、読後も守り人シリーズの世界観からなかなか抜け出せないだろう。
六位 風と行く者(2018年)
バルサが挑む、ロタ王国の歴史の闇!つれあいの薬草師タンダと草市をおとずれた女用心棒バルサは、二十年前にともに旅したことのある旅芸人サダン・タラムの一行と偶然出くわし、再び護衛を引き受ける。魂の風をはらむシャタ〈流水琴〉を奏で、異界〈森の王の谷間〉への道を開くことができるサダン・タラムの若い女頭エオナは、何者かに命を狙われていた。二十年前の旅の折、養父ジグロとエオナの母サリは情を交わしていた。養父ジグロの娘かもしれないエオナを守るため、父への回顧を胸にバルサはロタ王国へと旅立つ。
2018年に前作の短編からだいぶ時間を空けて突如上梓された作品で、『守り人シリーズ』の良い部分と『鹿の王』の良い部分を合わせもった物語となっている。
過去を清算する物語『闇の守り人』に近い感覚で読めるが、『風と行く者』は本編後の時系列でバルサが36歳くらい時の物語のため、とにかく大人っぽい話で児童には不適切なシーンがさりげなくも強烈に存在している。
現在とジグロと過ごした過去が交錯して、ミステリー的な手法で展開でされる物語は著者の進化を感じさせる。
五位 精霊の守り人(1996年)
精霊の卵を宿す皇子チャグムを託され、命をかけて皇子を守る女用心棒バルサの活躍を描く物語。著者は2014年国際アンデルセン賞作家賞受賞。
老練な女用心棒バルサは、新ヨゴ皇国の二ノ妃から皇子チャグムを託される。精霊の卵を宿した息子を疎み、父帝が差し向けてくる刺客や、異界の魔物から幼いチャグムを守るため、バルサは身体を張って戦い続ける。建国神話の秘密、先住民の伝承など文化人類学者らしい緻密な世界構築が評判を呼び、数多くの受賞歴を誇るロングセラーがついに文庫化。痛快で新しい冒険シリーズが今始まる。
前述の通り、本記事の格付けは作品単体の完成度を重視するため、守り人シリーズの記事とは順位が異なるが、シリーズ1作目である『精霊の守り人』を四位とする。
1作目にしてすでに世界観の基礎となる部分は完璧に築きあげられているため最初に読むなら『精霊の守り人』一択である。必ず最初に読もう。
物語のスピーディな展開や臨場感のある戦闘シーン、女用心棒バルサの魅力的なキャラクターなどどこを取っても欠点の見あたらない傑作である。
読み終われば必ず続編も読みたくなるはずなので、時間に余裕のある時にシリーズを一気に通読することをおすすめしたい。
四位 香君(2022年)
遥か昔、神郷からもたらされたという奇跡の稲、オアレ稲。ウマール人はこの稲をもちいて帝国を作り上げた。この奇跡の稲をもたらし、香りで万象を知るという活神〈香君〉の庇護のもと、帝国は発展を続けてきたが、あるとき、オアレ稲に虫害が発生してしまう。時を同じくして、ひとりの少女が帝都にやってきた。人並外れた嗅覚をもつ少女アイシャは、やがて、オアレ稲に秘められた謎と向き合っていくことになる。『精霊の守り人』『獣の奏者』『鹿の王』の著者による新たなる代表作の誕生です。
まさに円熟の極みといった内容である。
香君は上橋作品にしてはめずらしく、戦闘シーンが皆無に等しいので他の作品に比べると序盤はやや物足りない感があるかもしれないが、獣の奏者や鹿の王で培ってきた科学的なミステリー要素が本作ではさらなる完成度に達しており、神から授けられたとされる超万能稲こと”オアレ稲”の秘密の解明に焦点が絞られている。
そのため物語の構成がシンプルで非常に読みやすく、主人公のアイシャと香君が邂逅するあたり(割と序盤)からは、ページをめくる手がどんどん加速すること間違いなしである。とにかく完成度が高い作品。読後感も最高。
三位 獣の奏者 闘蛇/王獣編(2006年)
リョザ神王国。闘蛇村に暮らす少女エリンの幸せな日々は、闘蛇を死なせた罪に問われた母との別れを境に一転する。母の不思議な指笛によって死地を逃れ、蜂飼いのジョウンに救われて九死に一生を得たエリンは、母と同じ獣ノ医術師を目指すが―。苦難に立ち向かう少女の物語が、いまここに幕を開ける。
上橋作品のベストに挙げる方が多いと思われるが、回収されない伏線が多い(探求編と完結編で明らかになる)といった点で三位とした。
冒頭からかなりハードな展開だが、主人公エリンの半生や王獣との生活を通じて学ぶことがとても多く、子供から大人まで満足できる内容となっている。
特にエリンの成長過程で描かれる科学的なものの見方は実生活や仕事においても非常に重要な考え方なので、ぜひ我が子にも読ませたい作品である。
二位 闇の守り人(1999年)
女用心棒バルサは、25年ぶりに生まれ故郷に戻ってきた。おのれの人生のすべてを捨てて自分を守り育ててくれた、養父ジグロの汚名を晴らすために。短槍に刻まれた模様を頼りに、雪の峰々の底に広がる洞窟を抜けていく彼女を出迎えたのは――。バルサの帰郷は、山国の底に潜んでいた闇を目覚めさせる。壮大なスケールで語られる魂の物語。読む者の心を深く揺さぶるシリーズ第2弾。
児童書として名高い『守り人シリーズ』の中でも特に大人向けの内容で、主人公の女用心棒バルサが過去を清算するという内省的な物語となっている。
シリーズの他の作品と比べればスケールは小さいが、地下という闇の世界の幻想的な描写と様々な想いが込み上げてくるラストシーンは圧巻である。子供に響くかどうかは分からないが、アラサー以降の世代には心に突き刺さる何かがあるはずだ。
一位 鹿の王(2014年)
強大な帝国・東乎瑠から故郷を守るため、死兵の役目を引き受けた戦士団“独角”。妻と子を病で失い絶望の底にあったヴァンはその頭として戦うが、奴隷に落とされ岩塩鉱に囚われていた。ある夜、不気味な犬の群れが岩塩鉱を襲い、謎の病が発生。生き延びたヴァンは、同じく病から逃れた幼子にユナと名前を付けて育てることにする。一方、謎の病で全滅した岩塩鉱を訪れた若き天才医術師ホッサルは、遺体の状況から、二百五十年前に自らの故国を滅ぼした伝説の疫病“黒狼熱”であることに気づく。征服民には致命的なのに、先住民であるアカファの民は罹らぬ、この謎の病は、神が侵略者に下した天罰だという噂が流れ始める。古き疫病は、何故蘇ったのか―。治療法が見つからぬ中、ホッサルは黒狼熱に罹りながらも生き残った囚人がいると知り…!?たったふたりだけ生き残った父子と、命を救うために奔走する医師。生命をめぐる壮大な冒険が、いまはじまる―!
迷いに迷いまくってしまい会社を休もうと思うくらい考えたが(笑)、全体的な完成度とキャラクターの魅力(個人的にヴァン&サエが超好き)、読後の満足感といった点で『鹿の王』がNo.1だという結論に至った。
難読漢字の登場人物や複雑な人間関係などやや読解力が求められるため、他の作品に比べれば読者を選ぶかもしれないが、ミステリやサスペンス要素が上橋作品の中では特に強めなので勢いがついてきたら読む手が止まらなくなるはず。
不朽の名作たち
30年後、50年後も読み継がれている作品というのは世の中にどれだけあるのだろうか。
上橋作品は老若男女問わず楽しめるし、物語の普遍性からして100年後も読み継がれている可能性のある作品ばかりである。
読書を通じて何かを学ぶというのはあまり好きな考え方ではないのだが、上橋作品では読めば必ず人生の糧となる何かを得られることだろう。
何から読んでいいか迷ったら、まずは『精霊の守り人』がおすすめだが、シリーズ作品に躊躇するというのなら、単発かつ高品質な『狐笛のかなた』をおすすめしたい(獣の奏者でも鹿の王でももちろんOK)。
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