神本を求めて

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情け容赦ない物語|『獣の奏者』上橋菜穂子

一人の女性の熾烈な生き様が強く描かれる

 

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この儚く美しい装丁がすべてを物語る

作品紹介

 上橋菜穂子による『獣の奏者』は2006~2010年にわたり講談社より出版された作品である。

単行本、文庫ともに外伝まで含め全5冊で2000ページ級の大長編となっているが、Ⅰ闘蛇編およびⅡ王獣編で話は一応の完結をしている。(by著者)

Ⅲ探求編とⅣ完結編は後から追加された物語だが、前作から繋がる正統な続編で、矛盾することなく回収されていなかった伏線がすべて回収され、心を揺さぶる大団円を迎えることになる。

 また外伝は『獣の奏者』本編を補完する内容となっているため、外伝まで読むことでどっぷり世界観に浸ることができる。

 なお児童文学の作家として名高い上橋菜穂子だが、『獣の奏者』は著者本人が子供向けに書いていないということを宣言している。
そのため内容も明らかに子供向けではなく、Ⅲ探求編とⅣ完結編にいたってはむしろ子供に読ませても大丈夫かというくらい、衝撃的な内容なので大人でも楽しめるのは保証する。(外伝なんてもはや官能小説です)

 読んだ後の放心の度合いは最強クラスであり、若い頃に読んでいたらトラウマになってしまうほどのものなので、読むのなら覚悟を決めてかかる必要がある。

 

 以下、あらすじの引用

リョザ神王国。闘蛇村に暮らす少女エリンの幸せな日々は、闘蛇を死なせた罪に問われた母との別れを境に一転する。母の不思議な指笛によって死地を逃れ、蜂飼いのジョウンに救われて九死に一生を得たエリンは、母と同じ獣ノ医術師を目指すが―。苦難に立ち向かう少女の物語が、いまここに幕を開ける。

 

 

Ⅰ 闘蛇編

 私はネタバレ回避のために絶対に面白いであろう作品を読む時はあらすじもなるべく見ないようにしている。

 そのためてっきり幼い頃に母とはぐれた少女が獣の力を借りて、母をたずねる三千里といった内容を想像していたのだが、まったく違うということを序盤でおもいっきり理解することになった。容赦がない。エグい!!

こんな展開を子供が読んだらショックを受けてしまうような残虐非道なシーンによって『獣の奏者』は開幕する。(想像力があればあるほどヤバいのを想像してしまうというアダルト仕様)

 その後の流れはまさに科学。論理的な思考を養うのにうってつけな話が続くので、若い頃(大学生くらい)に読んでおきたかったなぁとしみじみ思うのであった。
何かを学ぶために小説を読むなどという意識高い系の読書家には間違ってもなりたくないし、なってはならないと思うのだが、意図せず何かを学べるのは良いことだ。

闘蛇編を読んでる時に思ったのはおっさん羨ましいなぁ...である。そんな思いすら叩き潰すのが上橋流だと知ることになるのだが。

 ちなみに闘蛇とは『獣の奏者』に登場する架空の生き物の内の一種だ。

 

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にゅるにゅるした蛇かと思ったら超強そうでビビる

 

Ⅱ 王獣編

 ここから先はあらすじに触れること自体がネタバレに繋がるので、極力内容には触れないように感想を書いていく。

流れ的にはお約束のパターンと言えそうだが、超強力な兵器があってそれがコントロールできるのではないかという可能性が出てきたらどうなるだろうか。時代が時代ならもちろん使って戦争の道具にするだろう。

そんな感じの流れではあるのだが著者はとにかく描き方がうまい。
獣と仲良くなってRPGでいう召喚獣のごとく使役して無双するといったチープな流れには決してならず、最後の最後まで引き込まれまくることになった....というか最後の方は残りページ数は大丈夫なのかというほどである。

 どうでも良いことだが、どうしてもエリンがFFⅣのリディアで想像されてしまい、某シーンでは「ゴルベーザ四天王とのバトル」が脳内再生されて困ってしもうた....(笑)

 

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モフモフしてるのにやたら強そう


「ゴルベーザ四天王とのバトル」 from FINAL FANTASY 4

 

 Ⅲ 探求編

 王獣編で物語は一応の完結をしており、著者自身としては書きたいことは書ききったとのことで続編は考えていなかったらしいが、講談社の説得により(?)刊行された続編である。
書ききったと言われても、回収されていない謎が多いのでリアルタイム読者であれば「え~.....続き書いてよ!」となっていたと想定されるので、あって当然の続編だと言える。講談社の担当はナイスファイトである。

 探求編は前作からだいぶ時間が経過していろいろな状況が変化しているのだが、ノーネタバレで読んでいる方なら、登場人物を読んでブッ飛ぶことになるだろう。
少なくとも私は「おいおい....相手は誰だよ.....と言うかおらのエリンを返しとくれ~」となった。登場人物を読んで驚いたのは『獣の奏者』が初めてである。

 内容はどうなるのかなぁと思っていたら、これがまぁ不穏。前作からの流れ的に明るい世の中になってるかと思いきや、そうはなっていないところが素敵。

闘蛇編で回収されなかった闘蛇の謎から幕を開けるや、もうそこから先は完結編の最後まで怒涛の一気読みである。

 

 Ⅳ 完結編

 もはや何も言えないのが完結編、賛否両論らしい。まぁ当たり前だろう。

もしかしてそうはならないよな....と祈りつつ読書史上最高スピードでページをめくるほど物語に吸い込まれてしまった。

かなりの本を読んできた中で、物語に泣かせられたり、笑わされたり、胸くそ悪くさせられたり、スッキリ爽快な気分になったりと様々な感情を抱かされてきたが、『獣の奏者』では過去最大に心を揺さぶられた。マグニチュード1億である。

 この物語を読んで上橋菜穂子の本気度が痛いほど伝わってきた。真摯な想いで物語を創っているからこそこのラストに至ったのだろうと思うと、上橋信者にならざるを得ない。

読んだことを後悔するかもしれないが、活字から世界を想像して感情を変化させられるのは人間だけの特権なので、多くの方に思う存分情け容赦ない物語を体験してほしいと思う。(獣の奏者を読んで心を病んでしまった方がいるとかいないとか.....)

 

 外伝 刹那

 

 王国の行く末を左右しかねぬ政治的運命を背負ったエリンは、女性として、母親として、いかに生きたのか。エリンの恩師エサルの、若き頃の「女」の顔。まだあどけないジェシの輝く一瞬。一日一日、その時を大切に生きる彼女らのいとおしい日々を描く物語集。エリンの母ソヨンの素顔を描いた単行本未収録短編「綿毛」収録。

 

 空白の期間が描かれるなどと聞いたので、完結編で受けた心の傷を癒そうと思ったら、全然癒されないどころか傷口を広げられる外伝が『刹那』である。

内容はエリンの母親ソヨンの話や、エリンと〇〇〇の馴れ初め、エサルの過去の話に、エリンの子育てと本編の内容を補完するものである。

明るい物語かと思ったらなんかやたらアダルトな香りがぷんぷん漂う官能小説すれすれの内容でした....子供が読んだらおませになってしまうわい。

異様に強烈なエロスを感じさせる内容だけに、上橋大先生が書くファンタジー官能小説をぜひとも読んでみたいと思ってしまった。書いてくれないかな~。

 

獣の奏者 外伝 刹那 (講談社文庫)

獣の奏者 外伝 刹那 (講談社文庫)

 

 

万人におすすめしたい

 児童文学の作家が書いたとは思えないほどのハードコアな内容ではあるが、この物語を通じて感じることや学ぶことがとても多く、本当に読んで良かったと思える数少ない本に加わった。