神本を求めて

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恒川光太郎|作品一覧とおすすめランキング17選

独自のダークな異世界の創造主

恒川ワールドの根幹とも言える和製ダークファンタジーを始め、純ファンタジーやSF、伝奇小説など年々守備範囲を広げ、どの作品も納得のクオリティを誇っている。
そんなダークな異世界を書かせたら並ぶ者の無い天才作家・恒川光太郎をご紹介したい。
 

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この見た目からは想像できない幻想世界を生み出す

 

何だろう.....小説の天才はHUNTER×HUNTER的に才能に毛髪を捧げているのだろうか...という少々失礼な冗談はさておき、角川ホラー出身作家の中では貴志祐介と双璧をなす神なのである。
 

作品一覧

創造主・恒川大先生はデビュー以降概ね1年に1作は新作を上梓される極めて読者に優しい作家である。

作品のジャンルはSFや伝奇小説、ホラー要素のあるファンタジーがメインで、短編および中編、連作短編、長編をバランスよく発表されているため、ライトな読者層からコアな恒川信者まで幅広くフォローされている。

 

  1. 夜市|中編集(2005年)
    収録作品:夜市 / 風の古道
  2. 雷の季節の終わりに|長編(2006年)
  3. 秋の牢獄|短編集(2007年)
    収録作品:秋の牢獄 / 神家没落 / 幻は夜に成長する
  4. 草祭|連作短編集(2008年)
    収録作品:けものはら / 屋根猩猩 / くさのゆめがたり
    天化の宿 / 朝の霞町
  5. 南の子供が夜いくところ|連作短編集(2010年)
    収録作品:南の子供が夜いくところ / 紫焔樹の島
    十字路のピンクの廟 / 雲の眠る海 / 蛸漁師
    まどろみのティユルさん / 夜の果樹園
  6. 竜が最後に帰る場所|短編集(2010年)
    収録作品:風を放つ / 迷走のオルネラ / 夜行の冬
    鸚鵡幻想曲 / ゴロンド
  7. 金色の獣、彼方に向かう|連作短編集(2011年)
    【改題】異神千夜
    収録作品:異神千夜 / 風天孔参り / 森の神、夢に還る
    金色の獣、彼方に向かう
  8. 私はフーイー 沖縄怪談短篇集(2012年)
    【改題】月夜の島渡り
    収録作品:弥勒節 / クームン / ニョラ穴 / 夜のパーラー
    幻灯電車 / 月夜の夢の、帰り道 / 私はフーイー
  9. 金色機械|長編(2013年)
  10. スタープレイヤー|長編(2014年)
  11. ヘブンメイカー スタープレイヤーⅡ|長編(2015年)
  12. 無貌の神 |短編集(2017年)
    収録作品:無貌の神  / 青天狗の乱
    死神と旅する女 / 十二月の悪魔
    廃墟団地の風人 / カイムルとラートリー
  13. 滅びの園(2018年)|長編
  14. 白昼夢の森の少女|短編集(2019年)
    収録作品:古入道きたりて / 焼け野原コンティニュー
    白昼夢の森の少女 / 銀の船 / 海辺の別荘で
    オレンジボール / 傀儡の路地
    平成最後のおとしあな / 布団窟 / 夕闇地蔵
  15. 真夜中のたずねびと|(連作)短編集(2020年)
    収録作品:ずっと昔、あなたと二人で / 母の肖像
    やがて夕暮れが夜に / さまよえる絵描きが、森へ / 真夜中の秘密
  16. 化物園|(連作)短編集(2022年)

    収録作品:猫どろぼう猫 / 窮鼠の旅 / 十字路の蛇
    風のない夕暮れ、狐たちと / 胡乱の山犬
    日陰の鳥 / 音楽の子供たち

  17. 箱庭の巡礼者たち(2022年)

 

作品ランキング

恒川作品は漏れなく面白いので既刊作品の大半をランクインさせてしまった。

したがって本ランキングで順位が下の方にある作品でも極めてクオリティは高く、素晴らしい作品なので安心して手に取ってほしい。

単純にエンタメ要素の強いSFやファンタジーが好きな私個人のランキングである。

なお4~1位に入っている作品は、いずれも我が読書人生の中でも最高峰の作品が揃っているため、死ぬほどおすすめしたいのだが、激しく睡眠時間を奪いまくる徹夜小説なのでくれぐれも読む際は注意してほしい。

 

17位  草祭(2008年)

 

たとえば、苔むして古びた水路の先、住宅街にひしめく路地のつきあたり。理由も分らずたどりつく、この世界のひとつ奥にある美しい町“美奥”。母親から無理心中を強いられた少年、いじめの標的にされた少女、壮絶な結婚生活の終焉をむかえた女…。ふとした瞬間迷い込み、その土地に染みこんだ深い因果に触れた者だけが知る、生きる不思議、死ぬ不思議。神妙な命の流転を描く、圧倒的傑作。

 

恒川作品の中でもある意味『夜市』以上に恒川ワールド全開な作風となっている。

そのため異世界に浸りたいような方にはこれ以上ない傑作だと思うが、文学的なことを著者が意識したのかなぁと思うところがあり、娯楽作品としては他の作品に一歩譲るように私は感じた。

たぶん『草祭』をこの順位にする恒川ファンは私だけのような気がするが、一般的には恒川作品の中でも特に人気の高い作品で、架空の街”美奥”に魅せられた読者は、作品の中に取り込まれてしまうであろう。

 

 

16位  真夜中のたずねびと(2020年)

 

次々と語られる、闇に遭遇した者たちの怪異譚。ゲストハウスでほんの一時関わっただけの男から送られてくる、罪の告白。その内容は驚くべきもので…。(「さまよえる絵描きが、森へ」)。弟が殺人事件を起こし、一家は離散。隠れ住む姉をつけ狙う悪意は、一体、誰のものなのか。(「やがて夕暮れが夜に」)。全五篇。

 

フツーにめちゃくちゃ面白く、一気読み確定だがあえてこの順位。

というのも本作は恒川作品史上、最も異世界感の希薄な作品で、どちらかというと何かしらの怪異が関わるサスペンスといった作品だからである。

読みやすく面白いものの、恒川作品初心者には作風からしてあまりおすすめできないが、逆に恒川作品をある程度読まれた方には、著者の可能性を知るといった意味でおすすめしておきたい。

個々の物語で登場人物がゆる~くリンクしているので、少しだけ連絡短編の要素があるが、基本的にはサスペンスな短編集である。

 

 

15位  月夜の島渡り(2012年)

 

鳴り響く胡弓の音色は死者を、ヨマブリを、呼び寄せる―。願いを叶えてくれる魔物の隠れ家に忍び込む子供たち。人を殺めた男が遭遇した、無人島の洞窟に潜む謎の軟体動物。小さなパーラーで働く不気味な女たち。深夜に走るお化け電車と女の人生。集落の祭りの夜に現れる予言者。転生を繰り返す女が垣間見た数奇な琉球の歴史。美しい海と島々を擁する沖縄が、しだいに“異界”へと変容してゆく。7つの奇妙な短篇を収録。

 

『私はフーイー 沖縄怪談短篇集』の改題である。

微妙に異世界かした沖縄を舞台とした短編集で、文句なしにクソ面白いが他の作品がさらに神過ぎるのであえてこの順位とした。

いちおう沖縄が関わる物語ではあるものの、ふつうに異世界恒川ワールドが堪能できる恒川成分が詰まった作品集となっている。

意外にも俗世的なサスペンス寄りの作品もあり、特に沖縄×サスペンスな「夜のパーラー」はかなり好みだったりする。

 

 

14位  無貌の神 (2018年)

 

赤い橋の向こう、世界から見捨てられたような場所に私は迷い込んだ。そこには陰気な住人たちと、時に人を癒し、時に人を喰う顔のない神がいた。神の屍を喰った者は不死になるかわりに、もとの世界へと繋がる赤い橋が見えなくなる。誘惑に負けて屍を口にした私はこの地に囚われ、幸福な不死を生きることになるが…。現実であり異界であり、過去であり未来でもある。すべての境界を飛び越える、大人のための暗黒童話全6篇!

 

綱川成分濃いめな6作の物語からなる短編集である。

前恒川作品の中でも恒川度の高さでは5本の指に入るほど濃厚さで、割とラノベ度も高く読みやすく面白いうえに、バラエティも豊富なので読書慣れしていない方でも楽しめると思う。

いかにも恒川っぽい表題作に、時代小説風の「青天狗の乱」、個人的には一番好きなラノベファンタジー「死神と旅する女」、恒川式ファンタジーの「カイムルとラートリー」と傑作が多い。

 

 

13位  秋の牢獄(2007年)

 

十一月七日水曜日。女子大生の藍は秋のその一日を何度も繰り返している。何をしても、どこに行っても、朝になれば全てがリセットされ、再び十一月七日が始まる。悪夢のような日々の中、藍は自分と同じ「リプレイヤー」の隆一に出会うが…。世界は確実に変質した。この繰り返しに終わりは来るのか。表題作他二編を収録。名作『夜市』の著者が新たに紡ぐ、圧倒的に美しく切なく恐ろしい物語。

 

恒川作品で初めて濃厚なSF要素を見せる表題作を含む3作の短編集である。

このランキングでは10位となったが、表題作『秋の牢獄』の完成度は素晴らしく、恒川作品全短編の中でもトップクラスの傑作だと思う。

2話目の恒川的な設定が際立つ人間の闇を描いたような「神家没落」や、3話目の不思議な物語から不穏で不気味なラストに展開していく「幻は夜に成長する」と『夜市』を読んで恒川作品をもっと読んでみたいとなった方でも納得されるであろう作品集になっている。

 

 

12位  南の子供が夜いくところ(2010年)

 

からくも一家心中の運命から逃れた少年・タカシ。辿りついた南の島は、不思議で満ちあふれていた。野原で半分植物のような姿になってまどろみつづける元海賊。果実のような頭部を持つ人間が住む町。十字路にたつピンクの廟に祀られた魔神に、呪われた少年。魔法が当たり前に存在する土地でタカシが目にしたものは―。時間と空間を軽々と飛び越え、変幻自在の文体で語られる色鮮やかな悪夢の世界。

 

本作を発表するまでの作品は和風ホラーファンタジーな作風だったが、『南の子供が夜いくところ』は異国情緒あふれる異世界が舞台の連作短編集で純ファンタジーな作品となっている。

どの物語も短編とは思えない重厚さがあり「紫焔樹の島」や「雲の眠る海」「まどろみのティユルさん」あたりはファンタジー全開で没入感がすごい.....のだが最後の話「夜の果樹園」のインパクトが強烈過ぎて他の物語を吹っ飛ばしてしまうほどである(笑)

本の冒頭には異世界の地図が描かれるなど、恒川作品に冒険ファンタジーを求める方には強くおすすめできる。

 

 

11位  異神千夜(2011年)

 

鎌倉の山中に庵を結ぶ僧に、謎めいた旅の男が語り聞かせる響くべき来歴―数奇な運命により、日本人でありながら蒙古軍の間諜として博多に潜入した仁風。潜入部隊の中には美しい巫女・鈴華がおり、かたわらに金色の獣を連れていた。やがて追われる身となった一行の中で、先行きを見通す巫女の存在感は増し、いつしか皆が鈴華の指示に従うようになるが―。

 

『金色の獣、彼方に向かう』の改題版で内容は特に変わりはない。

個人的には旧表題作よりも「異神千夜」の方がはるかに素晴らしい作品だと思うので、装丁も含めて角川の改題版はナイスプレーである。

本作品集は鼬(イタチ)のような金色の獣が共通して登場する、ゆるい繋がりのある連作短編集である。

中でも鎌倉時代元寇を舞台とした中編「異神千夜」は恒川光太郎初の伝奇小説であり、ホラーと時代小説がうまく融合した素晴らしい作品に仕上がっている。

後に続く3作品も恒川度の高いバラエティ豊かな作品が揃っていて、2話目の「風天孔参り」はこれぞ恒川ワールドといった趣のある話である。

 

 

10位  雷の季節の終わりに(2006年)

 

雷の季節に起こることは、誰にもわかりはしない―。地図にも載っていない隠れ里「穏」で暮らす少年・賢也には、ある秘密があった―。異界の渡り鳥、外界との境界を守る闇番、不死身の怪物・トバムネキなどが跋扈する壮大で叙情的な世界観と、静謐で透明感のある筆致で、読者を“ここではないどこか”へ連れ去る鬼才・恒川光太郎、入魂の長編ホラーファンタジー。文庫化にあたり新たに1章を加筆した完全版。

 

恒川光太郎初の長編作品であり、他の長編作品が全体的に恒川ワールドの中では異色な雰囲気を放っているため、長編の中では最も恒川らしい和風ダークファンタジーな世界が描かれている。

地図に載っていない隠れ里””という異世界の存在だけでもワクワクしてくるが、他にも様々な魅力的な要素があり、ファンタジーとホラーが見事に調和して独自の世界観に否応なしにひきづり込まれることになる。

恒川ワールド全開な長編作品を読みたいなら『雷の季節の終わりに』で決まりである。

 

 

9位  竜が最後に帰る場所(2010年)

 

魔術のような、奇跡のような。稀有な才能が描く、世界の彼方――今、信じている全ては嘘っぱちなのかもしれない。しんと静まった真夜中を旅する怪しい集団。降りしきる雪の中、その集団に加わったぼくは、過去と現在を取り換えることになった――「夜行の冬」。古く湿った漁村から大都市の片隅、古代の南の島へと予想外の展開を繰り広げながら飛翔する五つの物語。日常と幻想の境界を往還し続ける鬼才による最重要短編集。

 

短編集の中では最高の完成度を誇る作品集である。

5つの短編は特に繋がりがある訳ではないのだが、俗世的な物語から段々話が異世界よりになっていくコンセプトなのが面白い。

またいずれの短編もタイプがバラバラなので、様々な恒川ワールドが楽しめるという点で、初めて恒川作品を読まれる方には『夜市』と並んでおすすめできる。

どの短編もやたらハイクオリティだが、恒川ワールド全開といった意味で3話目の「夜行の冬」と4話目の「鸚鵡幻想曲」特に素晴らしい。

中でも「夜行の冬」はホラー/SF要素を含むダークファンタジーの超傑作なので、個人的に数ある短編の中でも1,2を争う傑作だと思っている。

 

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8位  夜市(2005年)

 

妖怪たちが様々な品物を売る不思議な市場「夜市」。ここでは望むものが何でも手に入る。小学生の時に夜市に迷い込んだ裕司は、自分の弟と引き換えに「野球の才能」を買った。野球部のヒーローとして成長した裕司だったが、弟を売ったことに罪悪感を抱き続けてきた。そして今夜、弟を買い戻すため、裕司は再び夜市を訪れた―。奇跡的な美しさに満ちた感動のエンディング!魂を揺さぶる、日本ホラー小説大賞受賞作。

 

言わずと知れた有名かつ人気な天才のデビュー作である。

幻想的なダークファンタジーの世界観が濃厚な表題作の他、表題作以上の傑作と言っても過言ではない恒川ワールド全開の和風ホラーファンタジーの「風の古道」が収録されている。

日本ホラー小説大賞受賞作だがさほど怖い物語ではなく、どちらの収録作もジブリ作品、特に『千と千尋の神隠し』のような雰囲気が濃厚であり、直木賞にもノミネートされたことから万人におすすめできる作品となっている。

特に「風の古道」は物語への没入感がすさまじく、読了後は異世界を長く旅してきたような余韻に浸ることができるだろう。

 

 

7位  化物園(2022年)

 

「人間はおもしろい。だが、飼ってはならぬ」スリルに憑かれ空き巣を繰り返す羽矢子。だが侵入した家の猫に引っかかれ、逃げた先で奇妙な老人に出会い……「猫どろぼう猫」自尊心が高く現実に向き合えない王司。金目的で父の死を隠蔽した後、家にやってきたのは……「窮鼠の旅」〈お手伝いさん〉として田舎の館に住み込むことになった、たえ。そこでの生活は優雅だが、どこか淫靡で……「風のない夕暮れ、狐たちと」その他「十字路の蛇」「胡乱の山犬」「日陰の鳥」「音楽の子供たち」全七篇。恒川光太郎が描く、《化物》たちの饗宴を、ご覧あれ。

 

 

6位  白昼夢の森の少女(2019年)

 

異才が10年の間に書き紡いだ、危うい魅力に満ちた10の白昼夢。人間の身体を侵食していく植物が町を覆い尽くしたその先とは(「白昼夢の森の少女」)。巨大な船に乗り込んだ者は、歳をとらず、時空を超えて永遠に旅をするという(「銀の船」)。この作家の想像力に限界は無い。恐怖と歓喜、自由と哀切―小説の魅力が詰まった傑作短編集。

 

ショートショート含む10作からなる短編集で、これまで未収録だった書かれた時期もバラバラな作品の寄せ集めなので、クオリティは大丈夫なのかと疑問を持たれるかもしれないが、心配ご無用な超傑作のバーゲンセールである。

2008年から2018年というデビュー時から本書の出版時までの単行本未収録短編集となっており、恒川光太郎のあらゆる属性を短いページ数で堪能できるという素晴らしい作品集だ。

『夜市』を筆頭とするThe恒川な作品はやや少なめだが、和を感じる恒川ワールドから純ファンタジー、SF、実話怪談まであらゆる恒川作品を網羅しており、いずれの話も超読みやすいという点から、『夜市』や『竜が最後に帰る場所』と並んで最も恒川作品初読みな方にもおすすめできる内容となっている。

個人的にはパニック終末SF系の「焼け野原コンティニュー」と不思議SF風ファンタジーの「白昼夢の森の少女」、純ファンタジーな「銀の船」や世にも奇妙な物語的なサスペンスの「傀儡の路地」、笑えない不思議ワールドな「平成最後のおとしあな」がたまらなく好きだ。というか全部好き。

 

 

5位  スタープレイヤー(2014年)

 

鬼才・恒川光太郎が描く、いまだかつてない創世記!
路上のくじ引きで一等賞を当て、異世界に飛ばされた斉藤夕月(34歳・無職)。そこで10の願いが叶えられる「スタープレイヤー」に選ばれ、使途を考えるうち、夕月は自らの暗い欲望や、人の抱える祈りの深さや業を目の当たりにする。折しも、マキオと名乗るスタープレイヤーの男が訪ねてきて、国家民族間の思惑や争いに否応なく巻き込まれていく。光と闇、生と死、善と悪、美と醜――無敵の力を手に、比類なき冒険が幕を開ける!鬼才・恒川光太郎RPG的興奮と神話世界を融合させ、異世界ファンタジーの地図を塗り替える、未曾有の創世記!

 

恒川作品らしいようでいて、実は異色作と言える王道中の王道な異世界ファンタジーである。(主人公は女性だが)俺TUEEEE系のテンプレートを踏襲したかのようなありがちな物語なのに、力量の違いを見せつけるかのような完成度を誇っている。

突如異世界に飛ばされた主人公が10の願い事をどのように使っていくのかという楽しみの他、Theファンタジーな民族間の戦争や謎の超強い人(?)と読みどころは満載であり、しかもものすごく読みやすいので、アニメ、ゲーム好きな人であれば普段本を読まないような人でも100%楽しめることを保証できる素晴らしい作品である。

ちなみに恒川光太郎は何気に”クソ野郎”の描写がやけに巧いという特長があるのだが、その妙な才能は本作でも健在であり、とある理由で異世界召喚される男のクソっぷりの描写がすごいです(笑)

 

 

4位  金色機械(2013年)

 

時は江戸。ある大遊廓の創業者・熊悟朗は、人が抱く殺意の有無を見抜くことができた。ある日熊悟朗は手で触れるだけで生物を殺せるという女性・遙香と出会う。謎の存在「金色様」に導かれてやってきたという遙香が熊悟朗に願ったこととは―?壮大なスケールで人間の善悪を問う、著者新境地の江戸ファンタジー

 

圧倒的な異才を放つ謎の超強い存在(ロボット?)”金色様”を始めとして、触れるだけで生物を殺せるという女や人が抱く殺意を見抜くという男がヤバいくらい面白い物語を生み出している超傑作時代/伝奇小説である。

面白い小説を受賞させるという点について、個人的に最も信頼できる歴史ある由緒正しい日本推理作家協会賞の受賞作だけあって、”金色様”の正体といった超気になる謎を含むミステリ要素がとにかく読む手を止めさせない。

舞台は戦国時代から江戸時代の中期にまたがる時代設定だというのに、”金色様”はずばり『スターウォーズ』のC-3POがダースベイダーのような戦闘力を持つという違和感全開のキャラであり、言動の一つ一つがやたら興味深いのが特徴である。

 

 

3位  箱庭の巡礼者たち(2022年)

 

神々の落としものが、ぼくらの世界を変えていく。ある夜、少年は優しい吸血鬼を連れ、竜が棲む王国を出た。祖母の遺志を継ぎ、この世界と繋がる無数の別世界を冒険するために。時空を超えて旅する彼らが出会った不思議な道具「時を跳ぶ時計」、「自我をもつ有機ロボット」、そして「不死の妙薬」。人智を超えた異能(ギフト)がもたらすのは夢のような幸福か、それとも忘れられない痛みか。六つの世界の物語が一つに繋がる一大幻想奇譚。

 

創造主・恒川光太郎の作家としての技巧が存分に発揮された作品。

ファンタジーやSF要素がとても強い作品で、ゆるい結びつきを持ちながらも個々で独立した6つの物語を、5つの断片の物語で結びつけたことによって、短編集でありながらも長編を超えるような圧倒的な読後感に浸ることができる。

物語の終章を読んだ後に1話目から振り返ってみると、時間も空間も超越した壮大な旅を終えたようなカタルシスが待っている。

 

〇個別紹介記事

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2位  ヘブンメイカー(2015年)

 

“10の願い”を叶える力を得た者が思い描く理想郷とは――
気が付くと殺風景な部屋にいた高校二年生の鐘松孝平。彼は横須賀にむかってバイクを飛ばしている最中に、トラックに幅寄せされ……その後の記憶はなかった。建物の外には他にも多くの人々がおり、それぞれ別の時代と場所から、「死者の町」と名付けられたこの地にたどり着いたという。彼らは探検隊を結成し、町の外に足を踏み出す。一方、片思いの相手を亡くし自暴自棄になった大学生の佐伯逸輝は、藤沢市の砂浜を歩いていたところ奇妙な男に勧められクジを引くと――
いつのまにか見知らぬ地に立ち、“10の願い"を叶えることができるスターボードという板を手渡された。佐伯は己の理想の世界を思い描き、異世界を駆け巡ってゆく……。興奮と感動をよぶ、渾身のファンタジー長編!

 

前作『スタープレイヤー』の続編で、世界観を共有し前作の登場人物も一部姿を見せるが、時系列的には『ヘブンメイカー』の方が先で話が独立しているため、前作を読んでいなくても問題なく楽しめるようになっている。

前作からしラノベやアニメでおなじみの王道異世界ファンタジーの超絶傑作であったが、この『ヘブンメイカー』は同じく王道の異世界ファンタジーでありながら、より著者の思想が深く投影されており、世界観はより深淵に、スケールはさらに大きく、おまけにミステリー要素まであるため、『スタープレイヤー』を凌駕する神傑作となっている。

600ページ近い大作ながら、一気読みは避けられないのでくれぐれも注意していただきたい。

 

 

 

1位  滅びの園(2018年)

 

わたしの絶望は、誰かの希望。ある日、上空に現れた異次元の存在、<未知なるもの>。それに呼応して、白く有害な不定形生物<プーニー>が出現、無尽蔵に増殖して地球を呑み込もうとする。少女、相川聖子は、着実に滅亡へと近づく世界を見つめながら、特異体質を活かして人命救助を続けていた。だが、最大規模の危機に直面し、人々を救うため、最後の賭けに出ることを決意する。世界の終わりを巡り、いくつもの思いが交錯する。壮大で美しい幻想群像劇。

 

SFとファンタジーを強引にくっつけてホラー的な不気味さを添加したにも関わらず、何の違和感もなく一気読みさせる恒川光太郎の集大成である。

バリバリのSFなのに恒川作品特有のラノベ的なリーダビリティにより、読みずらさはまるでなく、読み始めたが最後、何もかも放棄してラストまで読むのをやめることはできなくなる神傑作である。

『滅びの園』を読んで私が思ったのは「恒川先生、ありがとうございました」ある。人生で相当な数の小説を読んできたが、こんな気持ちになったのはまだ10作ほどしかない。

バリバリのSFとゴリゴリのファンタジーを完璧に融合した超傑作をぜひ体験してみてほしい。

 

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異世界マスターはまだまだこれから

この記事の初稿は2021年10月で、創造主・恒川はまだギリギリ40代のアラフィフなので、これからも超傑作を上梓されることが期待される。

じわじわ作品の守備範囲を広げ、『金色機械』以降は限界突破したかのような徹夜本を連発しているので、私の中では最も新作が待ち遠しい作家である。

『スタープレイヤー』の3作目の続編とか『滅びの園』みたいなSF×ファンタジーが発表されたらきっと嬉し泣きしてしまいそう。

この記事を読んでくださった方はぜひ、気になった恒川作品を読んでいただき、一緒に新作の発表を祈ろうではありませんか。

 

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