神本を求めて

小説を読みまくって面白い本を見つけたら紹介するブログ

『三体0 球状閃電』劉慈欣|超兵器降臨、圧倒的なハードSFミステリー

神本『三体』は前日譚も神だった

 

作品紹介

劉慈欣による『三体0 球状閃電』は2022年に早川書房より出版された、三体シリーズの前日譚と銘打たれた作品で、単行本で420ページ程度の長編である。本国では2005年に単行本化している。

本書の邦題は”三体”を冠しており、シリーズ前日譚として売り込まれているが、これは大人の事情であり三体との繋がりはほとんどない。ただ主要人物の一人が三体でも登場することや、本作で登場する超兵器が三体の原書では登場するなど、前日譚と言って差し支えないくらいには三体に関わっている。

安心安定の劉慈欣クオリティで、ハードSFの醍醐味は標準装備していながら、ミステリーやホラーの手法も見受けられる超面白エンターテイメント作品となっている。とにかく読む手が止まらないタイプの展開で読み始めたら一気読みしてしまうだろう。

毎度奇想天外なアイデアを提示してくれる劉慈欣作品だが、本作では思いもよらぬ球電の正体と量子論が中心となって物語を盛り上げる。三体シリーズを読んだ方もそうでない方にもおすすめできる良質なSFミステリーである。本記事に辿り着いついたのなら必ず読んでいただきたい。

 

 以下、あらすじの引用

激しい雷が鳴り響く、14歳の誕生日。その夜、ぼくは別人に生まれ変わった――両親と食卓を囲んでいた少年・陳の前に、それは突然現れた。壁を通り抜けてきた球状の雷(ボール・ライトニング)が、陳の父と母を一瞬で灰に変えてしまったのだ。自分の人生を一変させたこの奇怪な自然現象に魅せられた陳は、憑かれたように球電の研究を始める。その過程で知り合った運命の人が林雲。軍高官を父に持つ彼女は、新概念兵器開発センターで雷兵器の開発に邁進する技術者にして若き少佐だった。やがて研究に行き詰まった二人は、世界的に有名な理論物理学者・丁儀に助力を求め、球電の真実を解き明かす……。世界的ベストセラー『三体』連載開始の前年に出た前日譚。三部作でお馴染みの天才物理学者・丁儀が颯爽と登場し、“球状閃電”の謎に挑む。丁儀がたどりついた、現代物理学を根底から揺るがす大発見とは? 《三体》シリーズ幻の"エピソード0"、ついに刊行。

 

 

どんな話か

あらすじの引用にある通り、主人公・陳の誕生日に謎の球電が物体を透過して突如目の前に現れ、球電に触れてしまった両親が一瞬にして灰になり、「駆逐してやる!!この世から・・・一匹残らず!!」ではなく、球電の正体を解き明かすことに人生を捧げる物語である。

したがって物語の展開は球電の正体を追い求めるミステリー問題編の第一部、探偵役であり三体の主要人物でもある丁儀が謎を解きまくるミステリー解答編の第二部、壮絶なクライマックスの第三部という構成になっている(ちょっと適当)

物語の展開や探偵役が存在するなど、『三体』の(特に)黒暗森林でも感じたことだが、劉慈欣はとにかくミステリー手法を活かしたストーリーテリングが上手である。著者の他作品の記事でも書いているが、劉作品が面白いのはSF的奇想天外ギミックが面白いだけでなく、話の展開自体が猛烈に続きが気になりまくる仕様になっていて、読みやめるタイミングを失うことにあると考えている。

まぁ何が言いたいかというと問答無用にクソ面白いということである。

 

球状閃電って何?

そもそもこの本が出るまで私は球状閃電=Ball Lightning という自然現象が存在することを知らなかったので、どんなものなのか説明したい.....と言いたいところだが、作中で語られる球状閃電と自然現象の球状閃電はまったくの別物である可能性が高いのでここで触れてもあまり意味がない。それは著者自身も作中での球状閃電の正体は実際はまったく違うだろうと言っているし、球状閃電の本当の正体を解き明かすのは自分の仕事ではなく、その能力もないと語っている。

でも一応書いておくと、自然現象の球状閃電は球状の雷である。それっぽい参考動画のリンクを貼っておくが、人魂のようにふわふわ浮遊しており触るとヤバいというものである。

さらに作中の設定では、ネタバレ防止のため簡易な記載に留めておくが、落雷のように黒焦げになるのではなく、それを圧倒する威力と特殊な攻撃性能を持っており、その設定がミステリー、ホラー的要素を高めるのに一躍買っている。

 


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理系が考える典型的な女

私は文系大学卒でありながらIT業界で働いているため、理系の男&女が周りに溢れかえっている。(ちなみに男女比は9.5:0.5である)

大変失礼なことを書くと、理系の女性は「なんか冴えないけどよく見ると割とキレイなのに、やたら頭でっかちで口げんかが異様に強くムカつく」というイメージを抱いてしまっている。そんな女性ばかりなのに、なぜか理系の作家が描く女性はミステリアスで圧倒的な知識や能力を持つ美女として書かれることが多い(ような気がする)

劉慈欣が本作で描くヒロインはThe・理系の男性の理想像のようなキャラクターで、恋愛小説や青春小説といったジャンルにはまず登場しないタイプの人物像なので、このあたりで普段SFを読まない人は感情移入できなくなるかもしれないが、本作にはふさわしい人物である。

典型的な理系の男女が別にイチャイチャするわけでもなく、魅力に満ちた謎を追い求めていく展開はたまらないのである。

 

量子論

ネタバレNG系の作品なので詳細には触れないが、本作では量子論が非常に重要な意味合いを持ってくる。量子論が何だか分からない人は少しググったりして少しでも把握してから読むと数倍は面白くなる。

とりわけ生きているか死んでいるかは見てみないと分からん。でお馴染みの有名な思考実験「シュレディンガーの猫」のようなシチュエーションが怪現象として不気味に描かれるのだが、その描写に劉慈欣のセンスを感じる。

何年も誰も住んでいないはずの家であり、誰も侵入した形跡はないにも関わらず、なぜか数年放置されたようなさびれた感じはなく、生活感があるといったシーンが序盤で挿入されるのだが、こういった不気味なシーンがちらほら挿入されるのである。

このようなありえない怪現象が作中の理論で解明されるので、こういったミステリー好きであれば謎が気になり過ぎて一気読みさせられるだろう。

 

エモい(死語かな...?)

劉慈欣は天性のエモい作家である。なおこの記事では「エモい」の意味を「心が揺さぶられて、何とも言えない気持ちになること」と定義する。

多くの劉慈欣作品でエモいシーンが連発されるのだが、とりわけ本作では究極レベルのエモいシーンが2か所ほどあり、一つ目の悲しい激エモシーンが二つ目の超兵器エモシーンと結びつくあたりで私は「ぶおっッ」となってしまったのである。

SF的なギミックの積み重ねで築き上げた超絶エモーショナルなシーンをぜひ堪能してほしい。著者がSF作家として凄いのではなく、作家として純粋に凄いのだということが分かるはずだ。

 

劉慈欣無敵伝説

日本語訳された劉慈欣作品はすべて読んでいるし、これからも読み続けるだろうが、いまだかつてこれほどまでにハズレがなくすべてが超高品質な作家に出会ったことがない。何と言っても『三体シリーズ』が有名だが、無理矢理な前日譚である本作含め、ありとあらゆる話が面白すぎるので、すべての作品を超おすすめしたい。

『三体0 球状閃電』までに日本語訳された作品は全作品記事にしているので、気になる方は以下のリンクからぜひお読みいただければ幸いである。

 

 

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『拝み屋怪談 花嫁の家』郷内心瞳|最恐ホラー小説と称される呪われた実話怪談

長らく封印されていた曰く付きの作品が蘇る

 

作品紹介

郷内心瞳による『花嫁の家』は2014年にKADOKAWAのMF文庫ダ・ヴィンチより出版された作品で、文庫で400ページ弱の連作長編である。

最恐ホラー小説の一角として名を連ねる一方で、評判が良いにもかかわらずなぜか(呪い?)長らく紙の本が絶版しており、2022年に角川ホラー文庫より復刊されるまでは中古本の価格が非常に高騰するという状況が続いていた(幸い電子書籍で販売されていた)、正真正銘曰く付きの本である。

本書は「母様の家、あるいは罪作りの家」と「花嫁の家、あるいは生き人形の家」の二編で構成されており、基本的には別々の実話怪談なのだが、思いもよらぬ形で繋がっているため、実質は一つながりの長編として成立している。

自身の本職が拝み屋であるという著者が実際に対応した実話怪談である、という点がリアリティに拍車をかけており、さらに専業作家ではないとは到底思えない優れたストーリーテリングにより、ただ単に怖いだけでなくミステリー風の物語としても楽しめるようになっている。

なお本作は『拝み屋怪談シリーズ』の二作目であり、一作目の『怪談始末』に『花嫁の家』と関連する作品が収録されているのだが、「超ヤバい話があって執筆してるんだけど呪われているせいで数々の妨害があってマジで超やばいんですけど...」という内容なので、一作目を読まずに本作を読んでもまったく問題ない。

私自身が旧版読了直後にえらい目にあったので個人的に嫌な思い出のある本作について語っていきたい。

 

 以下、あらすじの引用

その家に嫁いだ花嫁は、必ず死ぬ。「嫁いだ花嫁が3年以内にかならず死ぬ」――。忌まわしき伝承のある東北の旧家・海上家では、過去十数代にわたり花嫁が皆若くして死に絶えていた。この家に嫁いだ女性から相談を受けた拝み屋・郷内は、一家に伝わるおぞましい慣習と殺意に満ちた怪奇現象の数々を目の当たりにする……。記録されることを幾度も拒んできた戦慄の体験談「母様の家」と「花嫁の家」。多くの読者を恐怖の底へ突き落とした怪談実話がついによみがえる。

 

 

どれくらい怖いのか

この記事に辿り着いた方が知りたいのはずばりこれだろう。しかし残念ながら私は恐怖耐性が高く、ホラー小説を読んで怖いと思うことはほぼない。

だが生粋のホラー好きである私としては、ホラー小説で怖いとはどういうことかという自分なりの定義を持っている。「どれだけ日常生活にダメージを与えるか」である。この一点だけで他にはない。その定義に従って評価すると『花嫁の家』はさほど怖くないということになる。

他に上記の定義に従って有名な長編ホラー小説や怖いことで有名な長編作品を評価していくと『リング』は別に日常生活に影響はないという点で怖くないとなる。人間が怖い系ホラーの最終兵器である貴志祐介の『黒い家』も同様の理由でまったく怖くないと言える。

次に最恐ホラーの最有力候補である小野不由美の『残穢』は条件付きで超怖い(一人暮らしの人が読んだら人生終わる)、三津田信三の『のぞきめ』は隙間を見るたびにビビるという点でかなり怖い、といった具合である。

ちなみに例を長編作品に限定したのは、個人的に本気で怖いホラー小説は必然的に短編になると考えているからである。長編で怖い話を書こうとするとほぼ確実にミステリーと融合してしまうんだよなぁ....。ただ短編はただ怖がらせるためだけに書いたという印象が強く個人的にはあまり評価できないのである。

冒頭からグダグダ書いてしまったが、「読んでいる最中の怖さ」でいうならば『花嫁の家』はとても優れており、ミステリーとうまい具合に融合して紡ぎ出される恐怖はそんじょそこらのクソホラーとは一線を画していることは保証する。読むがどうか迷っている人には、超怖いけど日常生活に支障はないのでご安心を、とお伝えしておく。

 

一万分の一、あるいは十万分の一

果たして本当に実話なのかどうかは正直言ってかなり怪しいと思うし、仮に実話だとしても実話をベースに脚色しまくっていると思う。ただそんなことはどうでも良く、とにかくプロローグからして怖がらせる気満々なんですよ、コレが。

要は、「拝み屋という商売は本来めっちゃ地味であり、みんなが想像するようなゴーストバスターズエクソシスト的な展開はまずありえないんだけど、超低確率で超絶ヤバい本気の案件にあたってしまう。その超スーパープレミアムなレア案件が母様の家と花嫁の家なんだぜ.....どうだまいったか!」という前書きが冒頭で熱弁されるのである。

前作『怪談始末』でヤバい話がある....と前振りしてからのさらなるヤバいアピールで掴みはOKと言えるだろう。

 

母様の家、あるいは罪作りの家

個人的には「花嫁の家」よりもこちらの方が作品として優れていると思う.....なんて書くと実話怪談という体裁なので作品と称したら怒られそうだが。

「母様の家」は話の進め方が非常にテクニカルである。拝み屋郷内さんへの依頼は、「死んだ母親が枕元に現れるから何とかしてください」なのだが、拝み屋のもとにここ最近依頼のあった数々の怪談が挙げられていき、何の関係もないはずのそれらの怪談には思わぬ共通点があることが判明して、キャーーーとなるのである。

ホラー描写は著者の本業が拝み屋だけあって非の打ち所がないのだが、それ以上に話の組み立て方が巧みで、本気でヤバい話であるということがヒシヒシと伝わってくる。

なお母様の家は基本的には典型的なジャパニーズホラーなのだが、とある中二病のクソガキのおかげさまで、人間が怖い系ホラーの要素も持っている。このクソガキのクソっぷりが尋常ではなく、作中でブチ切れた郷内さんが流麗な汚い言葉を発するところはある意味本作のハイライトと言えるのかもしれない(笑)

怖いかどうかは読者に判断していただくとして、グイグイ引き込まれるテクニカルな構成によって恐怖感を強めたり、人間が怖い系の恐怖を合わせ持つなどとても優れた物語であることは間違いない。

 

花嫁の家、あるいは生き人形の家

こちらは「母様の家」よりもストレートに怖い系の話で、不気味極まる花嫁が超怖いことをやらかす、という我が身に降りかかったら発狂するような恐怖描写がある。ヤバ気な気配と相まって、ホラー耐性がない読者にとってはダメージがでかいかもしれない。

拝み屋郷内さんへの依頼は「嫁に行くと三年以内に必ず死んでしまうのだけど、どうしてもお嫁さんになりたいから結婚してみたら、思った以上にヤバいので助けてください」である。事前に説明を受けていたのだからそんな家に嫁ぐなよ...とツッコミを入れたくなるが、....ですな。

対象の家はなぜかサングラス越しに見ているかのように異様に暗い(冥い)し、お爺ちゃんはなんか攻撃的だし、お父さんも微妙だし、旦那さんは思考停止だし、花嫁人形は怖いし....と雰囲気からしてホラーMAXである。しかも超ヤバい案件だった母様の家とほんのり繋がっていたり、お化けが現れて怖いことをべちゃくちゃ喋っていたり、郷内さんが「うるせえ!」となったりでもう大変。極めつけは......キャーーーーー!である。

実際は読んでみていただかないとこの雰囲気は伝えられないのだが、結末は非常にせつなく....ここでもキチガイ的人間怖い系が発動したりと、最後の最後まで一筋縄ではいかないのである。

 

積年の悲願を達成

私はだいぶ前から『花嫁の家』を紹介したかったのだが、書こうとするたびに書く気が無くなるという呪いにかかっていて(笑)、長年書くことができずつらい日々を過ごしてしまった。しかし新装版が出たことにより漸く記事を書くことができて一安心である。

ちなみに冒頭で私自身がえらい目に遭ったというのは本当で、私は会社帰りに読んでいて、ラストが気になり歩きスマホならぬ二宮金次郎スタイルの歩き読みをしていた。ちょうど家まで10分くらいのところで読了したのだが、読了直後にゲリラ豪雨に見舞われ、しかもその日は運悪く翌日客先に配布する大量の資料を持っていた......もちろん書類はずぶ濡れ。本来なら客先直行のはずが、次の日超早起きして会社まで書類を印刷しに行くハメになったという祟りをくらっている。

まぁこんな感じで実際に何らかの霊障に見舞われる可能性を秘めた危険な作品なのである。復刊された機会に読まれてみてはいかがだろう。

 

 

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『流浪地球/老神介護』劉慈欣|神品質超絶短編集

次元の違う圧倒的な傑作群

 

作品紹介

劉慈欣による『流浪地球』および『老神介護』は2022年9月にKADOKAWAより出版された作品で、それぞれ300ページ程度の短編集である。

2022年9月時点で劉慈欣作品はアジア人初のヒューゴー賞受賞作『三体三部作』、短編集の『円』、そしてジュブナイルの『火守』と神レベルの傑作が翻訳されているが、今回も途轍もないクオリティのSF作品であり、早川書房ではなくKADOKAWAから出版されていても翻訳は『三体/円』と同じく大森望氏のため、読みやすく優れた翻訳も健在である。

収録されている全十一作品は初の英訳版短編集『The Wandering Earth』用に著者自身が選別した作品とのことで、ベスト版と言っても良さそうである。そのため初の日本向け短編集『円』とは異なり、長めの作品が多く(文字びっしりの単行本で平均50ページ)、作品の中には他作品と繋がっているものもあるため、実質長めの短編+中編くらいの読みごたえがある。

年間200冊程度の小説を読んでいる私の中で、2022年の1位2位は『流浪地球/老神介護』で確定したも同然級の神作品集について語っていきたい。

 

 以下、あらすじの引用

◆流浪地球

中国大ヒット映画原作、『三体』著者によるSF短編集、待望の邦訳!●ぼくが生まれた時、地球の自転はストップしていた。人類は太陽系で生き続けることはできない。唯一の道は、べつの星系に移住すること。連合政府は地球エンジンを構築し、地球を太陽系から脱出させる計画を立案、実行に移す。こうして、悠久の旅が始まった。それがどんな結末を迎えるのか、ぼくには知る由もなかった。「流浪地球」●惑星探査に旅立った宇宙飛行士は先駆者と呼ばれた。帰還した先駆者が目にしたのは、死に絶えた地球と文明の消滅だった。「ミクロ紀元」●世代宇宙船「呑食者」が、太陽系に迫っている。国連に現れた宇宙船の使者は、人類にこう告げた。「偉大なる呑食帝国は、地球を捕食する。この未来は不可避だ」。「呑食者」●歴史上もっとも成功したコンピュータ・ウイルス「呪い」はバージョンを変え、進化を遂げた。酔っ払った作家がパラメータを書き換えた「呪い」は、またたく間に市民の運命を変えてしまう――。「呪い5・0」●高層ビルの窓ガラス清掃員と、固体物理学の博士号を持ち、ナノミラーフィルムを独自開発した男。二人はともに「中国太陽プロジェクト」に従事するが。「中国太陽」●異星船の接近で突如隆起した海面、その高さ9100メートル。かつての登山家は、単身水の山に挑むことを決意。頂上で、異星船とコミュニケーションを始めるが。「山」

 

◆老神介護

『三体』の劉慈欣、中国で100万部突破のSF短編集!●突如現れた宇宙船から、次々地球に降り立った神は、みすぼらしい姿でこう言った。「わしらは神じゃ。この世界を創造した労に報いると思って、食べものを少し分けてくれんかの」。神文明は老年期に入り、宇宙船の生態環境は著しく悪化。神は地球で暮らすことを望んでいた。国連事務総長はこの老神たちを扶養するのは人類の責任だと認め、二十億柱の神は、十五億の家庭に受け入れられることに。しかし、ほどなく両者の蜜月は終わりを告げた――。「老神介護」●神文明が去って3年。地球で、もっとも裕福な13人がプロの殺し屋を雇ってまで殺したいのは、もっとも貧しい3人だった。社会的資産液化委員会から人類文明救済を依頼された殺し屋は、兄文明からやってきた男から、別の地球で起こった驚愕の事態を訊かされる。「扶養人類」●蟻と恐竜、二つの世界の共存関係は2000年以上続いてきた。恐竜世界の複雑なシステムは、蟻連邦によって支えられていたが、蟻世界は恐竜世界に核兵器廃棄を要求、拒絶されるとすべての蟻はストライキに突入した。「白亜紀往事」●僕が休暇を取る条件は、眼を連れていくことだと主任は言った。デイスプレイに映る眼の主は、若い女の子。ステーションにいる彼女の眼を連れて、僕は草原に旅行に出かけた。宇宙で働く人は、もうひと組の眼を地球に残し、地球で本物の休暇を過ごす人を通して仮想体験ができるのだ。「彼女の眼を連れて」●74年の人工冬眠から目覚めた時、地球環境は一変していた。資源の枯渇がもたらす経済的衰退を逃れようと、「南極裏庭化構想」が立案され実行された結果、深刻な事態が起こっていたのだ。「地球大砲」

 

収録作品

英訳版短編集『The Wandering Earth』を全部収録すると、長くなりすぎるため二冊に分けた経緯がそうな。『流浪地球』は合計六作品収録でそのうち五作は宇宙に関連する内容のためこちらが宇宙編、『老神介護』は合計五作品いずれも地球に関する話のためこちらが地球編として分けているとのことである。

以下、収録作品をまとめて記載する。前述の通りすべての作品が神傑作だが、その中でも特に良かった作品は赤字にしている.....と書いて赤字にしてみると結局ほとんど全作品になってしまったので(笑)、マイベスト級の神傑作に厳選して赤字にした。

流浪地球

  1. 流浪地球(2000年)
  2. ミクロ紀元(1999年)
  3. 呑食者(2002年)
    ※『円』収録の「詩雲」の前日譚
  4. 呪い5.0(2009年)
  5. 中国太陽(2001年)
  6. 山(2005年)

老神介護

  1. 老神介護(2004年)
  2. 扶養人類(2005年)
    ※「老神介護」の後日譚
  3. 白亜紀往事(2004年)
  4. 彼女の眼を連れて(1999年)
  5. 地球大砲(2003年)
    ※「彼女の眼を連れて」と関連している

 

流浪地球

映画版がNetflixで全世界に配信された作品で日本名は『流転の地球』。

シンプルにまとめると400年後に太陽が超爆発(ヘリウムフラッシュ)するから、地球にエンジンをつけて地球ごと他の恒星に移住しようという超絶スケールの物語である。この壮大極まるプロジェクトをハードSFとして書ききる力量も凄まじいが、なにより地球内でプロジェクトを巡って巻き起こる悶着などストーリーテラーとしての能力も発揮しまくっている。

 

ミクロ紀元

太陽爆発(スーパーフレア)で地球文明が滅ぶため、地球外に住むことができる惑星を求めて旅立った宇宙飛行士〈先駆者〉が、結局惑星を見つけることができず、2万5千年後に地球に帰還し、変わり果てた地球の姿と文明を目にするという物語。

シリアスな設定に反してコミカルな展開なのが面白い。変わり果てた文明の様相から真相が分かるまではファンタジーの印象も受ける作品で、劉慈欣の奇想が遺憾なく発揮されている。奇想と言いながらもハードSF作品だけあって、「もしかすると本当に実現できるんじゃね?」という気分に浸れる。

ちなみに本作が筒井康隆氏のベストらしい。

 

呑食者

恐竜のような見た目の宇宙人が地球の資源を奪いつくそうとする侵略SF作品である。

短編集『円』収録の「詩雲」の前日譚にあたる物語だが、別にどちらを先に読んでも、またどちらかしか読まなくても面白い独立した傑作である。個人的には『流浪地球』収録作品中のベストである。

人類にとってはめっちゃヤバいシチュエーションなのに、なぜかほのかに漂うユーモアがたまらず読む手が止まらなくなる。またモラルに対する著者の考察は素晴らしさを感じるとともに、蟻に対して畏敬の念を持つようになった。私自身アリの巣観察キットで蟻を飼っていたことがあるが、彼らの組織力と働き者っぷりは感動ものである。

いよいよ地球が滅びる....となった時の人類の抵抗作戦が非常に面白く、ハードSFの真骨頂を体感することができた。それとエリダヌス星の少女がすごくかわいいですな(笑)

読みどころ満載なうえに、最後の最後で判明する衝撃の真相とせつない終幕が素晴らしい。ますます著者のファンになってしまう最高のハードSFだと思う。

 

呪い5.0

筒井康隆星新一を合わせたかのようなスラプスティックでブラックなアホ終末SF。

『流浪地球』収録作品の中では唯一宇宙が関わらない内容だが、迎える結末は人類滅亡といった意味ではスケールが大きい。ITネタが豊富に使用されるのである程度プログラミングの知識があった方が楽しめるのかもしれない。

要はある一人の女性が男に恨みを持ってさほど実害の無い”呪いのプログラム”を作成したのだが、時を経て「呪い」プログラムが1.0から2.0へ、さらに3.0→4.0→5.0とアップデートされて大変なことになるという内容である。登場人物には劉慈欣本人と実在の作家仲間が登場して、酔った勢いで「呪い」にヤバいアップデートをかけてしまうというおバカ極まる展開がクッソ面白い。そして思いのほか残酷なエグイ内容でもある。

個人的に優秀なSF作家だと思っている恩田陸さんは本作がベストらしい。

 

中国太陽

劉慈欣が得意とするテーマである極貧農村から物語は始まる。

極貧農村出身の主人公が都市に出稼ぎに行って、夢を掴もうと奮闘していて高層ビルの窓拭き”通称 スパイダーマン”として働いていると、超壮大な仕事にスカウトされるという物語である。

読了者の感想を見ていると、本作をベストに挙げる方が最も多いように見受けられるが、ド田舎の貧乏人の出世物語と後半の優れたエンターテイメント性を持ちながらもハードSFの魅力も全開であることを考えると妥当だと思われる。

スパイダーマンがどのような仕事にスカウトされるのかについては本編でご確認いただきたいが、宇宙編だけあってまさに宇宙でスパイダーマンのスキルを活かせるトンデモな仕事であることだけは触れておきたい。本当に著者はよくこんなことを思いつくなぁと思わずにはいられない。

最後まで読み終えてから冒頭を振り返るとそこはかとないせつなさに浸れる素晴らしい作品だと思う。

 

どこの『天元突破グレンラガン』だよ(笑)...とツッコミを入れたくなる超傑作。

仲間を山で死なせてしまった元登山家が、異星人の宇宙船襲来による引力で海が隆起してできた世界最高峰の海山に泳いで登山するという物語である。

泳いで山を登るという奇想からして凄まじいものがあるが、何と言っても登山後に邂逅する異星人の生まれ故郷の話が強烈極まりない。(というか「そこに山があったら上りたい」が前提になっているのはちょっと笑える)

宇宙にもいろいろな考え方があるのだろうけど、本作で語られる宇宙観はなかなか興味深いものがある。ドリルで宇宙に風穴を開けてみたい方には超おすすめである(笑)

 

老神介護

わしらは神じゃ。この世界を想像した労に報いると思って、食べものを少し分けてくれんかのう.....」な物語(笑)

筒井康隆氏が書きそうなドタバタSFかと思いきや、かなりの本気SFであるところが意表を突かれて面白い。衰退していくことが目に見えている神文明が、将来養ってもらうために非常に壮大なスケールのプロジェクトにより人類を創造したという内容で、20億人のお爺ちゃんお祖母ちゃんが地球に飛来して、そのうちの一人を中国の家族が養っていく。神に辛辣な秋生一家だがハートフルな一面も垣間見えてラストはうるっと来るあたり、やはり著者のストーリーテラー振りを感じる。

最後の方で明らかになる『三体』の暗黒森林理論にも通じる兄文明の存在と、人類も老後のことを考えなきゃ...という置き土産がとても良い。

 

扶養人類

老神介護の後日談にして、地球の兄文明がいよいよ攻めてくる物語.....かと思って読むとまったく想定外の展開が待っている、著者のストーリーテラー振りが全収録作品中最も強烈に発揮された作品である。

まるっきりノワール(犯罪小説)な雰囲気で、主人公の殺し屋が世界最高級の金持ちたちに、超貧乏人の殺害を依頼されるという本格ミステリでいうところの”ホワイダニット”(Why done it)作品の魅力を持っている。

予想不可能ミステリな展開にはゴッドオブミステリこと島田荘司を感じ、殺し屋の物語には『機龍警察』でお馴染みの月村了衛を感じた。それでいて超貧乏人殺害依頼の動機の真相には壮大なSF的秘密が秘められているなどエンターテイメントの極致といった完成度である。

どこをとっても強烈な内容なのだが、兄文明の現状もまた猛烈な奇想の賜物で資本主義の行きつく先を垣間見たようで恐ろしい。

 

白亜紀往事

6600万年前の白亜紀が舞台で、知性を持った恐竜と蟻が共生文明を築き上げてから崩壊するまでを描いた物語。

これまたかなりのドタバタ感があり、まるで日本SF御三家がタッグを組んでおふざけモードで書いた作品なのでは?...といった印象を受けるが、劉慈欣ならではの奇想が壮大なスケールで存分に描かれている。そもそも白亜紀に恐竜と蟻が文明を築き上げるというのがかなりのトンデモ設定だし、登場人物の名称も何となくお遊びで命名している気がする。

本作では様々なSFガジェットが登場するが、メインテーマは武力による究極の抑止力がテーマだと思われる。冷戦時代の核の抑止力でも十分強力で抑止が失敗すれば人類は滅んでいただろうに、本作で抑止力を生む兵器の破壊力は核兵器とは一線を画したものが採用されている。

面白い要素が満載だが、やはり本作でも最も優れているのは著者の作家としての力量であり、荒唐無稽な設定をしっかりとしたハードSFの物語として成立させられるのが凄い。

 

彼女の眼を連れて

ミステリー要素も秘めたとてもせつないストーリー。神。

未来の世界が舞台で、宇宙ステーションで仕事をする人達は休暇でも地球まで遠すぎてコスト的にNGのため地球に戻ることができない。そこで幸運にも地球で休暇を過ごせる人が””というセンサーグラスをかけていくことで、地球に行くことのできない人達がかける””に味覚などの感覚も含めて共有できる、ということで主人公の男性がある女性の””を地球に連れていくという話である。

問題はこの””の持ち主がどこにいるのか、という点であり持ち主の女性の悲壮な態度が読者にただならぬ想いをもたらすことにある。物語の終盤で明らかになる彼女の居場所を知るとせつなさに包まれること間違いなしである。

ちなみに本作は中国でも人気があり、中学生の国語の教科書に採用されたことでも話題になったらしい。

 

地球大砲

まさに奇想の中の奇想が炸裂した神傑作。

相変わらずというか、本作もストーリーテラーとしての力量が発揮されまくっていて、単に高水準な奇想ハードSFというだけでなく、物語として純粋に超面白いというのが最大のポイントである。

資源の枯渇と環境悪化により南極のリソースに注目された未来世界が舞台で、その世界では核兵器の廃絶に向けて対応が進められている....と言うのが背景となり物語は進んでいく。言ってしまえば地球を貫通する規模の地球トンネルを掘り、時が経ってそれが大砲になる....といった感じなのだがとにかく話の展開が面白く、また『三体』でも頻繁に使われた冬眠による時代スキップや、目覚めるたびに激変する世界、ナノマテリアル技術などのSFガジェットなど面白い要素も詰め込まれまくっている。

地球トンネルを行き来する描写などは想像するだけでもセンス・オブ・ワンダーが刺激されまくり、「俺は今まさにSFを読んでいるぜ!的感覚」を持つことができる。

超傑作である「彼女の眼を連れて」とも緩い関連があり、100年以上に渡る父と子(そして孫)の物語にはのラストでは猛烈なカタルシスに溺れることができる。

 

SF本来の魅力を蘇らせた神

個人的に面白いと思うSF作品はほぼすべてオールドスクール(古き良き/古典的)に属するような作品である。最近のSFの方が好きな方ももちろんいるのかもしれないが、SFにロマンを求める者としては、どうしても古めな作品の方に魅力を感じてしまうのである。

そんな事情から、劉慈欣は古き良きSFの魅力と最新のハードSFの魅力を合わせ持った作品を描き続けているという点で、面白いSFを復活させた神として私は崇拝せずにはいられない。

サムネ画像に帯も含めた書影をアップしているが、帯のコメントに私自身共感するものがあったので挙げてみる。

近頃のSFは小難しくて狭いところに入っているワ、とお嘆きの貴方はぜひ、ご一読を!SF本来のワクワク感とアイデア満載です!by恩田陸

→激しく同意

地球を動かす大ネタがオチではなく枕になる。大劉は、たった一人で黄金期のSFを取り戻してしまった。by藤井太洋

→同じく激しく同意

SF入門者から上級者まで、またそもそも普段SFを読まない人にとっても至高の作品集となっているので、本気でおすすめさせていただきたい。

 

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野﨑まど|作品一覧とおすすめランキング15選

人知を超越した超天才

数多の天才と呼ばれる小説家の中でも、野﨑まどは最強候補の一人だと思ってしまう。というのはそう思わざるを得ない天才的な作品を連発しているからである。作風の幅が異様に広く、SFを中心としながらも様々なジャンルの作品を発表しており、作品によっては本当に同一人物が書いたのか疑わしいくらいに内容にギャップがあったりするのだから驚かされる。
アニメの脚本やアンソロジー編纂もするなど本当に多才なので。どの作品にどの媒体で触れるかによって、野﨑まどの印象が大きく変わるかもしれない。そんな人知を超えた天才である野﨑まどについて、作品をランキング形式で紹介していく。
 

こんなイメージということにしておく

作品一覧

ジャンル分け不能なデビュー作『[映]アムリタ』から『2』までの6作品は、理由についてはネタバレになるので触れないがシリーズということになっている。ちなみに『2』以外の作品は独立しているので順不同で読んでも問題ない。

『なにかのご縁』はおそらくもう続編は出ないだろうが、一応まだ完結はしていないっぽい。また『バビロン』は「ここで終わったらヤバいでしょ....」という状況のまま続編が発表されていない。

以下、発表順に作品を挙げていく。なおシリーズ作品は色文字にしている。

発表順作品一覧

  1. [映]アムリタ(2009年)
  2. 舞面真面とお面の女(2010年)
  3. 死なない生徒殺人事件 ~識別組子とさまよえる不死~(2010年)
  4. 小説家の作り方(2011年)
  5. パーフェクトフレンド(2011年)
  6. 2(2012年)
  7. 独創短編シリーズ 野崎まど劇場(2012年)
  8. なにかのご縁 ゆかりくん、白いうさぎと縁を見る(2013年)
  9. know(2013年)
  10. ファンタジスタドール イヴ(2013年)
  11. なにかのご縁 (2) ゆかりくん、碧い瞳と縁を追う(2014年)
  12. 独創短編シリーズ (2) 野崎まど劇場(笑)(2015年)
  13. バビロン 1 ―女―(2015年)
  14. バビロン 2 ―死―(2016年)
  15. バビロン 3 ―終―(2017年)
  16. HELLO WORLD(2019年)
  17. タイタン(2020年)

アンソロジー編纂

  1. 誤解するカド(2017年)大森望共編
    野﨑まど短編「第五の地平」(2014年)を収録

アニメ脚本

  1. 正解するカド(2017年)※テレビアニメ
  2. HELLO WORLD(2019年)※劇場アニメ

 

作品ランキング

作風の幅が広いため、人によってかなりランキングが異なってくると思われる。この格付けはあくまでも私の好みの問題だと考えてほしい。そこで最初に読むべき本として下記の作品を推奨しておく。

 

ランキングでは多めに作品を挙げているが、下位の作品がつまらないというわけではなく、いずれも傑作だということは先にお伝えしておく。

15位  なにかのご縁 ゆかりくん、白いうさぎと縁を見る(2013年)

 

お人好しの青年・波多野ゆかりくんは、あるとき謎の白うさぎと出会いました。いきなり喋ったその「うさぎさん」は、なんとその自慢の長い耳で人の『縁』の紐を結んだり、ハサミのようにちょきんとやったり出来るのだそうです。さらにうさぎさんは、ゆかりくんにもその『縁』を見る力があると言います。そうして一人と一匹は、恋人や親友、家族などの『縁』をめぐるトラブルに巻き込まれ…?人と人との“こころのつながり”を描いた、ハートウォーミング・ストーリー。

 

これが本当に野﨑まどかよ!?とツッコミを入れたくなるハートウォーミング・ストーリー。

純粋に野﨑まど作品に求めているものではないのと、私が日常系にあまり興味が無いためランキングでは最下位としたが、別に悪い作品ではなく、むしろ万人におすすめできるとても良い作品である。

野﨑作品によくみられるSF要素や超展開はまったくないものの、たまに笑いのツボを刺激するギャグが入ってくるので油断はできない。本当に最後の最後まで普通にいい話なのだが、野﨑まど作品が普通であるということ自体が驚きである(笑)

 

 

14位  なにかのご縁 ゆかりくん、碧い瞳と縁を追う(2014年)

 

春が訪れて、縁結びに大忙しのゆかりくんとうさぎさん。しかしそんな彼らの前に、碧い目をした留学生の少年・ローランと、もふもふの茶色いうさぎ・ユリシーズが現れました。遠くフランスからやってきたその一人と一匹は、縁結びの修行のため、ゆかりくん&うさぎさんコンビと『縁結び勝負』をしたいというのです。貴族出身で始終偉そうな彼らに振り回されながら、ゆかりくんとうさぎさんは新たな『ご縁』の騒動に巻き込まれていき…。人と人との心をつなぐ物語、第2弾。

 

続いてシリーズ2作目。

こちらも1作目と同じく直球のハートウォーミング・ストーリーだが、新キャラクターのローランとユリシーズコンビがなかなかいい仕事をしているので、個人的にはこちらの方がやや上だと感じている。

まずいないとは思うけど、このシリーズを最初に読んだ人が『ファンタジスタドール イヴ』とか『バビロン』を読んだらどう思うのだろう。作風の振れ幅が大きすぎて度肝を抜かれるかもしれない。

 

 

13位  バビロン(2015年~)

 

東京地検特捜部検事・正崎善は、製薬会社と大学が関与した臨床研究不正事件を追っていた。その捜査の中で正崎は、麻酔科医・因幡信が記した一枚の書面を発見する。そこに残されていたのは、毛や皮膚混じりの異様な血痕と、紙を埋め尽くした無数の文字、アルファベットの「F」だった。正崎は事件の謎を追ううちに、大型選挙の裏に潜む陰謀と、それを操る人物の存在に気がつき!?

 

超強烈な野﨑まど流サスペンスからのSF小説

個人的には野﨑まどに求めている作風ではないということと、本作のキーとなる”自殺法”にイマイチぴんと来なかったこと、そして三巻の「」で完結していないという点でこの順位にしている。

原作では二巻、アニメ版では第七話の某シーンでリョナラーである小生が何度も射精させられたという点では、女神として崇めるべき作品なだけにこのまま終わってしまうのは惜しいところである。というかアニメ版の第七話は神である。もう少し生々しくして頂いたり、悲鳴が長引いたりすれば私の金玉は消失していたことだろう。

 

 

⇩これが伝説の第七話。タイトルもズバリ『最悪』である。リョナラーであれば確実に見ておくべきである。なお小説を読んでから見た方がキャラクターが深く書かれている分、インパクトが増大することをお伝えしておく。

 

12位  舞面真面とお面の女(2010年)

 

第二次大戦以前、一代で巨万の富を築いた男・舞面彼面。戦後の財閥解体により、その富は露と消えたかに見えたが、彼はある遺言を残していた。“箱を解き石を解き面を解け よきものが待っている―”時を経て、叔父からその「遺言」の解読を依頼された彼面の曾孫に当たる青年・舞面真面。手がかりを求め、調査を始めた彼の前に、不意に謎の「面」をつけた少女が現われて―?鬼才・野崎まど第2作となる伝記ミステリ、新装版!

 

読みやすさ、面白さ、魅力的な謎を兼ね備えた伝奇ミステリ。

遺言の秘密を探るうちに出逢う、謎に包まれた面の少女が登場して謎が謎を呼びまくる展開は確実に一気読みしてしまうだろう。

私は常々思うのだが、殺人事件などの事件が起きて探偵役が推理して解決するようなジャンルはミステリーだと称したくない。本作は本格ミステリといった内容ではないが、これこそがミステリーと呼ぶにふさわしい内容であり、ミステリーを超えた真相が待っているので、普通の推理小説はあまり興味が無いが、魅力的な謎を暴いていくタイプの展開が好きな方には超おすすめである。

 

 

11位  死なない生徒殺人事件 ~識別組子とさまよえる不死~(2010年)

 

「この学校には、永遠の命を持つ生徒がいる」女子校「私立藤凰学院」に勤めることとなった生物教師・伊藤は、同僚の教師や、教え子からそんな噂を聞く。人として、生き物としてありえない荒唐無稽な話。だがある日、伊藤はその「死なない生徒」に話しかけられた。“自称不死”の少女・識別組子。だが、彼女はほどなく何者かによって殺害され、遺体となって発見される―!“生命”と“教育”の限界に迫る鬼才・野崎まど新装版シリーズ第3弾!

 

タイトルの通り”死なない生徒”が”殺される”学園物語である(笑)

本作は”永遠の命を持つ生徒とはいったいどういうことなのか”ということを追求するという点で本格ミステリ....であるはずは当然なく、びっくり仰天な不死システムに意表を突かれること間違いなしのトンデモ作品になっている。

それはいくら何でも無理があるだろう」という永遠の命と、なんてこったな結末はぜひとも読んで確かめてみてほしい。

 

 

10位  know(2013年)

 

情報化対策として、人造の脳葉“電子葉”の移植が義務化された2081年の日本・京都。情報庁で働く官僚の御野・連レルは、情報素子のコードのなかに恩師であり現在は行方不明の研究者、道終・常イチが残した暗号を発見する。その“啓示”に誘われた先で待っていたのは、ひとりの少女だった。道終の真意もわからぬまま、御野は「すべてを知る」ため彼女と行動をともにする。それは、世界が変わる4日間の始まりだった―

 

SF好きな小説読みが最初に読むであろう野﨑まど作品。

ラノベ的な雰囲気だが内容はハードSF全開であり、野﨑まどがよくテーマにする『幼年期の終わり』のような”人知を超えた存在”の書き方がとても素晴らしいと思う。また私がITの職に就いているということもあり、個人的には特にセキュリティに関して得るものが多かった。

設定も世界観も良いのでSF読みなら読んでおかないといけない重要作品だと思うが、登場人物の名前が変過ぎるのと、主人公のモテる童貞感がそこそこ気になるのでこの順位にしている。野﨑まどの代表作だと思うし、SFとしての完成度はとても高いと思うのだが、とある主人公の行為から最初に読む野﨑まど作品にはしない方が良い気もする。

 

 

9位  [映]アムリタ(2009年)

 

芸大の映画サークルに所属する二見遭一は、天才とうわさ名高い新入生・最原最早がメガホンを取る自主制作映画に参加する。だが「それ」は“ただの映画”では、なかった―。TVアニメ『正解するカド』、『バビロン』や、劇場アニメ『HELLO WORLD』などを手掛ける鬼才・野崎まどの作家デビュー作にして、電撃小説大賞にて“メディアワークス文庫賞”を初受賞した伝説の作品が新装版で登場!貴方の読書体験の、新たな「まど」が開かれる1冊!

 

記念すべき野﨑まどのデビュー作品。

ネタバレ厳禁であるだけでなく、「野﨑まどがどんな作品を書く作家なのか」や「本作がどんなジャンルなのか」ということすらも知らないで読むことを推奨したい作品。

したがって「マジで凄いから読んでみて」くらいしか紹介しようがないのだが、この記事にたどり着いた方で本作を未読だとしたら、迷わずただちに読むことを推奨する。私は他の作品を読んでから本作を読んでいるため、野﨑まどがどんな作家なのかある程度知ってしまっていたので100%の衝撃は無かったのだが、それでも「うおおおおおおお

」となるくらいには衝撃を受けた。知識ゼロで読む人は羨ましい限りである。

 

 

8位  小説家の作り方(2011年)

 

駆け出しの小説家・物実の元に舞い込んだ初めてのファンレター。そこには、ある興味深い言葉が記されていた。「この世で一番面白い小説」。あまねく作家が目指し、手の届かないその作品のアイディアを、手紙の主は思いついたというのだ。送り主の名は、紫と名乗る女性。物実は彼女に乞われるがまま、小説の書き方を教えていくのだが―。鬼才・野崎まど新装版シリーズ第4弾。「小説家を育てる小説家」が遭遇する非日常を描く、ノベル・ミステリー。

 

タイトルとあらすじからは想像もつかない超野﨑まど作品。

基本的に青春恋愛物語といった感じで、主人公と非人間的超美人である依代のどこか危なっかしい絡みにニヤニヤしながら読み進めてみると.......ウソーン!!Σ(;゚ω゚ノ)ノとなってしまうだろう(笑)

完全にネタバレ厳禁なので「頼むから読んでくれ!」というくらいしかできないのが歯がゆいのだが、『小説家の作り方』の素晴らしさは保証するのでぜひとも読んでいただきたい。読了後に新装版の表紙の女性を見ると....秘密。

 

 

7位  HELLO WORLD(2019年)

 

「お前は記録世界の住人だ」本好きで内気な男子高校生、直実は、現れた「未来の自分」ナオミから衝撃の事実を知らされる。世界の記録に刻まれていたのは未来の恋人・瑠璃の存在と、彼女が事故死する運命だった。悲劇の記録を書き換えるため、協力する二人。しかし、未来を変える代償は小さくなかった。世界が転回する衝撃。初めての感動があなたを襲う。新時代の到来を告げる青春恋愛SF小説

 

ラノベかと思いきやこれでもかというほどのハードSF作品。

それほど分厚くないページ数にも関わらず、途轍もないほどの情報量であり、物語の大枠は分かりやすいかもしれないが、中盤以降はSF好きも唸らせるほど気合が入りまくっている。『君の名は。』のようなライトな青春恋愛SFを想定して読み始めると爆死することだろう。

野﨑まど的超展開、思いもよらぬ真相など著者の良いところが凝縮された作品だと思う。また原作の中盤以降で頭が爆発した方はアニメ映画版の鑑賞をすることで脳内補完されるので、原作とアニメ版はセットで楽しむことを推奨する。

 

映画版は映像が本当に美しいので、野﨑まど云々ではなく傑作アニメ映画として観ておくべき作品。

 

6位  誤解するカド ファーストコンタクトSF傑作選(2014年)

 

突如羽田空港に出現した巨大立方体「カド」。人類はそこから現れた謎の存在に接触を試みるが―アニメ『正解するカド』の脚本を手掛けた野崎まどと、評論家・大森望が精選したファーストコンタクトSFアンソロジーをお届けする。筒井康隆が描く異星人との交渉役にされた男の物語、ディックのデビュー短篇、小川一水野尻抱介が本領を発揮した宇宙SF、円城塔飛浩隆が料理と意識を組み合わせた傑作など全10篇を収録

 

正解するカドとは全く関係がないファーストコンタクトSFアンソロジー

このランキングに入れるのは躊躇したが、本作品集に収録されている野﨑まど短編「第五の地平」がもの凄い傑作なので、6位として本短編を挙げる。

世界を制覇したモンゴル帝国チンギス・ハーンが宇宙進出していくというトンデモ作品であり、次元の突破を試みるラストシーンもおバカの極みなのだが、宇宙規模の凄まじいSFをぶちかまされるのだからたまらない。図解の四次元がとても分かりやすいが、それ以上の次元はやっぱり理解ができないです(´;ω;`)

ちなみにこの作品集に収録された筒井康隆氏の「関節話法」が爆笑必至のクッソ面白い話なので合わせておすすめしておきたい(笑)

 

 

5位  ファンタジスタドール イヴ(2013年)

 

「それは、乳房であった」男の独白は、その一文から始まった―ミロのヴィーナスと衝撃的な出会いをはたした幼少期、背徳的な愉しみに翻弄され、取り返しようのない過ちを犯した少年期、サイエンスにのめりこみ、運命の友に導かれた青年期。性状に従った末に人と離別までした男を、それでもある婦人は懐かしんで語るのだ。「この人は、女性がそんなに好きではなかったんです」と。アニメ『ファンタジスタドール』前日譚。

 

まさかの太宰治人間失格』のオマージュ作品である。

アニメ『ファンタジスタドール』の前日譚とのことだが、私はそのアニメを見たことがなく内容も把握していないにもかかわらず、何の問題もなく楽しむことができたので独立した作品と考えて問題ない。(というかアニメのイラストを見たら本作とのイメージの乖離がデカ過ぎて笑えた)

私が読んでいる間ずっと思っていたのは、実に江戸川乱歩的だなぁ...という印象である。女体...というかおっぱいに異常な執着を持ってしまった変態童貞が、女体を作るというキモい目標に突き進んでいく展開は、『人間失格』をオマージュしていながらも、典型的な乱歩的キモさを120%濃縮して感じ。文体的にもレトロな純文学を意識したようだが、そこには野﨑まどの本気のおふざけが感じられる。早川書房から出ているだけあって作風の割にバッチリSFしている。

 

 

4位  パーフェクトフレンド(2011年)

 

少女たちの“トモダチ大作戦”。みんなよりちょっとだけ頭がよい小学四年生の少女・理桜は、担任の先生のお願いで、不登校の少女・さなかの家を訪れる。しかしさなかは既に大学院を卒業し、数学者の肩書きを持つ超・天才少女!手玉に取られくやしい理桜は、マウントを取るべく不用意に叫ぶ。「あんた、友達居ないでしょ!」かくして変な天才少女に振り回される『友達探求』の日々が始まるのだった…。野崎まど新装版シリーズ、「友情」の極意をお届けする第5弾!

 

ある意味野﨑まどの到達点と言えなくもない作品。

めちゃくちゃ読みやすく、絶妙なギャグセンスが感じられるおふざけ作品かと思いつつも、数学的に導かれる”友達方程式”の論理には、爆笑と同時に野﨑まどへの畏敬の念を感じずにはいられないトンデモな魅力がある。しかもこの完璧な方程式が破綻したときに涙まで流させられるという仕様。本当に凄いと思う。

『[映]アムリタ』とほんの少しだけ繋がりがあり、最後に『2』への伏線がほのめかされるのだが、独立した作品として成立しているため、これから野﨑まどを読まれる方やアニメ作品から野﨑作品に興味を持たれた方にも安心しておすすめできる内容となっている。

ギャグセンスのある理系の人間が数学ネタで本気を出すとこうも面白いものができるのか....と放心するほどの内容なので全力で推しておきたい。

 

 

3位  正解するカド(2017年)

 

羽田空港の滑走路に突如として1辺が2キロメートルを超す謎の超巨大な正立方体が出現し、出現場所に居合わせた旅客機256便(ボーイング777型)が、乗員乗客もろとも立方体に飲み込まれた。政府が関係各省と連携を取り合い、この立方体「カド」の調査と飲み込まれた乗員乗客の救命に奔走する中、立方体上部にヤハクィザシュニナと名乗る存在と、偶然256便に乗り合わせていた凄腕の交渉官・真道 幸路朗が現れる。

 

野﨑まど成分100%のセンスオブワンダーに溢れつつも盛大に暴走したアニメ作品。

小説を紹介する本ブログにおいて、例外的にアニメ作品を紹介するのは、野﨑まどという作家をを紹介するにあたり、『正解するカド』を外すわけにはいかないという判断である。

この作品はあらゆる意味で凄すぎる。まず何と言っても中盤までの圧倒的な高揚感が本当に素晴らしく、センスオブワンダーを感じまくることになる。そして終盤(笑)...「どうしてこうなった」の究極系が待ち受けている。これはぜひとも視聴して体験していただきたいのだが、本気でやらかしているのである。ただそのやらかしは野﨑まどの計算の内だと思われ、私個人としてはとても好きな展開である。

賛否両論MAXでありながらも、これぞ野﨑まどという点で私は大好きだし、アニメのため敷居が低いという点でも強くおすすめしたい。

 

 

2位  タイタン(2020年)

 

至高のAI『タイタン』により、社会が平和に保たれた未来。人類は“仕事”から解放され、自由を謳歌していた。しかし、心理学を趣味とする内匠成果のもとを訪れた、世界でほんの一握りの“就労者”ナレインが彼女に告げる。「貴方に“仕事”を頼みたい」彼女に託された“仕事”は、突如として機能不全に陥ったタイタンのカウンセリングだった―。

 

純粋に完成度が高くとても面白い超野﨑まど作品。

超天才・野﨑まどの良さが余すところなく描かれているという点で、これから野﨑作品を読んでいこうという方から、野﨑ファンまで幅広くおすすめできる傑作である。

仕事とはなにか”ということについて、AIがあらゆる仕事を人類に代わって行う近未来で至高のAI『タイタン』を通じて描いた作品である。野﨑まどと言ったら超展開でおなじみなのだが、本作ではまさにタイトル通りのトンデモな展開が待っていて、なおかつ広げた大風呂敷はしっかり畳まれる(笑)。

敢えてほぼ内容に触れていないのだが、それは『タイタン』も極力事前知識ゼロで読むべき作品だからである。少しでも気になったのなら読んだ方がいい。

 

〇個別紹介記事

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1位  2(2012年)

 

創作することの極地。それが『2』。日本一の劇団『パンドラ』の入団試験を乗り越えた青年・数多一人。しかし、夢見たその劇団は、ある一人の女性によって“壊滅”した。彼女は言った。「映画に出ませんか?」と。言われるがまま数多は、二人きりでの映画制作をスタートする。彼女が創る映画とは。そして彼女が、その先に見出そうとするものとは…。『創作』の限界と「その先」に迫る野崎まど新装版シリーズ・最終章!!『2』が、全てを司る。

 

人知を超えた凄まじい作品。いやホントに。。

衝撃度の高さでは確実に我が生涯5本の指に入る作品だが、本作を読むためには『[映]アムリタ』に始まる前5作品をすべて読む必要があるため、少々下準備が必要となる。

前5作品をすべて読むことが『2』を読むための絶対条件なので、そういった意味で少々敷居が高いのかもしれないが、そもそも『[映]アムリタ』~『パーフェクトフレンド』はいずれもクソ面白いので読むのは何ら苦にならないだろう。

こればかりは「とにかく読んでください」としか言いようがない。注意点として、前述の通り必ずシリーズをすべて読んでから読むことを推奨する。その理由も「読んでください」としか言いようがない。ネタバレも言語道断である。(まぁネタバレを読んでも意味不明だろうが...)

 

〇シリーズ紹介記事

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番外編①  独創短編シリーズ 野崎まど劇場(2012年)

 

電撃文庫MAGAZINE」で好評連載中のユニークすぎる短編が文庫化。死体を探しに行く検死官、対局にペットを連れてくるプロ棋士、勇者を何とかしたい魔王、若頭、サンダーファルコン、ビームサーベル、ライオン、うげげげと喋る牛、電撃文庫の妖精等、変態的(?)な登場人物たちが繰り広げる抱腹絶倒の物語の数々。

 

はっきり言ってアホ。でも時々「ほほぅ」と唸ったりするおバカ短編集。

かなりふざけている内容だが、ある程度野﨑まど作品を読まれた方はぜひとも本書を読んでみてほしい。天才の頭の中をのぞくことができるだろう(?)

 

 

番外編②  独創短編シリーズ (2) 野崎まど劇場(笑)(2015年)

 

電撃文庫MAGAZINE」連載の、図ありイラストあり、挙句はQRコードすら載った奇文珍文目白押しの短編が、1冊にまとまって登場!不可解極まるキャラクターたちが織りなす爆笑必至の物語の数々を見よ!雑誌連載分に加え、恒例ボツネタ集&書き下ろし+αとボリューム満点でお贈りする、編集部の狂気を感じる短編集!

 

もちろんアホ。悪ノリがさらに加速しているとも思える。

こんなふざけた作品集が『バビロン』同じ年に出版されているのだからギャップ萌えせずにはいられない。表紙の女の子も実に良いですな(笑)

 

 

野﨑まどは私たちをどこに導いてくれるのだろうか

読めば読むほど天才としか思えない、異方存在(正解するカド参照)野﨑まどは、作品を通して様々な衝撃やセンスオブワンダーを与えてくれる。

まだまだギリギリ若手(と言っていいのかは甚だ疑問)の著者だけに今後の作品が楽しみで仕方がない。野﨑まど作品を読んでいると本当に何かが目覚めてしまいそうな(笑)感覚があるので、今後我々をどこに導いてくれるのだろうと想像してしまう。小説だけではなく、アニメの脚本も書かれているだけに、何か途轍もない人知を超えた作品を生み出してしまうかもしれないことに、高揚感を覚えている。

とりあえず新刊の発表と『バビロン』の完結を祈りつつ締めたい。

 

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人生を変えた小説10選|影響力の強い本おすすめランキング+α

人生を変えるって(笑)

よく聞きますよね.....「人生を変える〇〇」というフレーズ。もちろん99%は詐欺なので騙されないように気をつけるのが得策である。
そもそも人生を変えるというのはどういうことなのだろうか。私が思いつくのは「自殺」である。死ねば宝くじで1兆円当たるよりも、超能力者になって地球人類を支配するよりも人生は変わると思うからだ。
ただそれではこの記事は1冊だけ紹介して終わってしまいそうなので、この記事では良い方にも悪い方にも考え方や生き方に影響を及ぼす本だと定義して紹介したい。先に書いておくが、人生を変えるというのは会社を辞めて起業してお金持ちになってヒャッハーではないと考えている。そういうのを求める方は自己啓発書や宗教をおすすめしておこう。
 

人生を変えるというのは悪い方にも作用する(笑)

 

まずは教えてならない禁断の本を1冊

さて、冒頭で触れたのでとりあえず一瞬確実人生を変えるための本を1冊挙げておきたい。ちなみにネガティブな本ではなく、むしろ生きやすくなったと言われるような本なので安心してほしい。
 

①  完全自殺マニュアル / 鶴見済(1993年)

 

世紀末を生きる我々が最後に頼れるのは生命保険でも年金制度でもない。その気になればいつでも死ねるという安心感だ。…薬局で買えるクスリから、最も安楽に死ねる方法まで、聖書より役立つ、コトバによる自殺装置。

 

引用した紹介分にもある通り、いざとなったら死ねるという安心感は何よりも強力である。とりあえず読んでみて知識を入れるだけでも役に立つという意味でとても良書だと言える。

但し、どうやら本書を読んで本当に人生を変えてしまった方もいるようなので、取扱注意というのは間違いない。なんだかんだ言って首吊りが安全安心感はあるが、遺体が思いのほか損傷するので、個人的には時限発火装置と合わせて使いたいと思った。

 

 

人生を変える本=影響力のある本

繰り返すが人生を変えるというのは、自己啓発書に書いてあるような経済的に成功して社会的地位も高くなるといったものでなければ、やりたいことをやりたいだけやるというものでもない。
色々な面で影響を受けてしまう本こそが人生を変える本なのである。例えば私は「男はあらゆるものを犠牲にしてでも好きなことをやりたい放題やって良い」という思想を持っている。ヤバいでしょ?
それと合わせて「本気で祈れば宇宙全体が助力して願いを叶えてくれる」というのも信じている。ヤバ過ぎでしょ?もちろん妻は日々大激怒しているがそんなことは知ったことではない。人生を変える本というのは良い薬にも悪い薬にもなり得る諸刃の剣なのである。

 

10位  アルケミスト / パウロ・コエーリョ(1988年)

 

羊飼いの少年サンチャゴは、アンダルシアの平原からエジプトのピラミッドに向けて旅に出た。そこに、彼を待つ宝物が隠されているという夢を信じて。長い時間を共に過ごした羊たちを売り、アフリカの砂漠を越えて少年はピラミッドを目指す。「何かを強く望めば宇宙のすべてが協力して実現するように助けてくれる」「前兆に従うこと」少年は、錬金術師の導きと旅のさまざまな出会いと別れのなかで、人生の知恵を学んで行く。欧米をはじめ世界中でベストセラーとなった夢と勇気の物語。

 

引き寄せの法則系の自己啓発書を物語にしたような内容だが、若い頃に読めば読むほど人生に絶大な影響を及ぼすであろう作品。

私は19歳の時に予備校講師に勧められたのがきっかけで読んだので、必ずしも素直に本作の物語と向き合えなかったのだが、それでもやはり受けた影響は大きい。冒頭で挙げた「本気で祈れば宇宙全体が助力して願いを叶えてくれる」というのは本作からの受け売りである(笑)

この記事にたどり着いたような方は普段はあまり小説を読んだことがないかと思われるので、10位にはしたがまずは本作を手に取ることをおすすめしたい。

 

 

9位  死ねばいいのに / 京極夏彦(2010年)

 

死んだ女のことを教えてくれないか。三箇月前、自宅マンションで何者かによって殺された鹿島亜佐美。突如現れた無礼な男が、彼女のことを私に尋ねる。私は彼女の何を知っていたというのだろう。交わらない会話の先に浮かび上がるのは、人とは思えぬほどの心の昏がり。

 

死にたいと言っているような人に「はい、これ」と手渡したくなる一冊。

京極夏彦といったら百鬼夜行シリーズだろうが、本作は京極式禅問答がコンパクトかつスタイリッシュに描かれていて、さらにはミステリとしての側面も持つ”読む憑き物落とし”となっている。

京極夏彦作品は全般的に読む人の人生に影響を及ぼすのだが、書店で見れば分かる通り分厚い作品やタイトルに感じがずらーっと並んでいて敷居が高い印象を受けるかもしれない。そんなレンガ本群に恐れをなした方にこそ洗練されていて読みやすい『死ねばいいのに』をおすすめしたい。

 

 

8位  アルカトラズ幻想 / 島田荘司(2010年)

 

1939年11月2日、ワシントンDCのジョージタウン大学脇にあるグローバーアーチボルド・パークの森の中で、娼婦の死体が発見された。被害者は両手をブナの木の枝から吊るされ、性器の周辺がえぐられたため股間から膣と子宮が垂れ下がっていた。時をおかず第二の殺人事件も発生し、被害者には最初の殺人と同様の暴虐が加えられていた。凄惨な猟奇殺人に世間も騒然とする中、恐竜の謎について独自の理論を展開される「重力論文」を執筆したジョージタウン大学の大学院生が逮捕され、あのアル・カポネも送られたサンフランシスコ沖に浮かぶ孤島の刑務所、アルカトラズに収監される。やがて、ある事件をきっかけに犯人は刑務所を脱獄し、島の地下にある奇妙な場所で暮らし始めるが……。先端科学の知見と作家の奔放な想像力で、現代ミステリーの最前線を走る著者の渾身の一作がついにベールを脱ぐ!

 

いろいろとブッ飛び過ぎているゴッドオブミステリー最強の超幻想である。

基本的にはSFミステリーなのだが、とにかくあらゆる面でヤバいのでひたすらに影響を受けまくってしまっている。多数のトンデモ理論や意味不明の展開の応酬に読み終わるころには何かが変わっているかもしれない。

少なくとも私はこの本を読んで地球の歴史に興味を持って調べまくったし、オカルトにもますます興味を示すようになり、そして恐竜大好き人間になってしまった。受けた影響力でいったら最高クラスである。

しかし恐竜絶滅と重力を人間の女性の出産が苦しい理由に結びつける作家が他に存在するのだろうか....いるはずないな。

 

 

7位  悪童日記 / アゴタ・クリストフ(1986年)

 

 戦争が激しさを増し、双子の「ぼくら」は、小さな町に住むおばあちゃんのもとへ疎開した。その日から、ぼくらの過酷な日々が始まった。人間の醜さや哀しさ、世の不条理―非情な現実を目にするたびに、ぼくらはそれを克明に日記にしるす。戦争が暗い影を落とすなか、ぼくらはしたたかに生き抜いていく。人間の真実をえぐる圧倒的筆力で読書界に感動の嵐を巻き起こした、ハンガリー生まれの女性亡命作家の衝撃の処女作。

 

文句なしに仕事術カテゴリーで人生を変える本として読むべき作品。

私にとってこの本ほど読む前と読んだ後で印象が異なる作品は初めてで、圧倒的ギャップ萌えに悶えたものである。つまり超ヤバい本なのだ。どんな内容かというと二人のサイコパス兄弟が極めて....極めて淡々とヤバいことをこなしまくっていくというものである。

生きるということは淡々とやるべきことをこなしていけば良いということを、本作はただひたすら静かに教えてくれる。とんでもないところでとんでもない終わり方をする本作だが、三部作構成となっているため続きが存在している。

続編の『二人の証拠』はスタイルを多少変えながらも『悪童日記』に勝るとも劣らない凄まじいサイコ小説となっているので、第一部にはまったら第二部も絶対に読もう。ただ第三部だけはかなり作風が異なるので、こちらはあまりおすすめしない。

 

 

6位  星を継ぐもの / ジェイムズ・P・ホーガン(1977年)

 

月面調査員が真紅の宇宙服をまとった死体を発見した。綿密な調査の結果、この死体は何と死後五万年を経過していることがわかった。果たして現生人類とのつながりはいかなるものなのか。やがて木星の衛星ガニメデで地球のものではない宇宙船の残骸が発見された……。ハードSFの新星が一世を風靡した出世作

 

この本が私に及ぼした影響はあまりにも大きい。

まず小説好きになるきっかけの作品であり、SF好きを爆発させることになり、ミステリーにも興味を持つようになり....と挙げていけばキリがないのだが、最も大きな変化は好奇心が強化されまくったことだと思う。

本書を読んでからというもの、何かに興味を持った時にその対象を調べまくってしまうようになった。子供の時に読んでたら絶対に科学者志望になったであろう、素晴らしい物語は我が子にも何とかして読んでもらいたいと考えている。

なお文庫版は活字が小さめでフォントもお堅い感じなので、読書慣れしていない方には電子書籍版をおすすめしたい。電子書籍で文字をデカくしてフォントをポップなものに変えてしまえば攻略は楽勝である。

 

〇個別紹介記事

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5位  精霊の守り人 / 上橋菜穂子(1996年~)

 

老練な女用心棒バルサは、新ヨゴ皇国の二ノ妃から皇子チャグムを託される。精霊の卵を宿した息子を疎み、父帝が差し向けてくる刺客や、異界の魔物から幼いチャグムを守るため、バルサは身体を張って戦い続ける。建国神話の秘密、先住民の伝承など文化人類学者らしい緻密な世界構築が評判を呼び、数多くの受賞歴を誇るロングセラーがついに文庫化。痛快で新しい冒険シリーズが今始まる。

 

 上橋菜穂子作品はどれも本当に素晴らしく、人生の指針になったり科学的な考え方をはぐくむ物語が多いのだが、この記事では主人公のバルサ(初登場時はアラサー独身女性)がかっこ良すぎる『守り人シリーズ』を選んだ。

シリーズの中には王子チャグムが主人公の作品もあり、その作品がまたとても素晴らしいのだが何と言ってもバルサである。小説によっては登場人物が好きで追い続ける作品があるのだが、守り人シリーズはまさにそのパターンで、仕事とかでつらくてぼーっとしてる時に心の中でバルサの妄想をしたりして乗り切ったりすることがあるんです(笑)

とにかく万人におすすめしたい人生に良い影響を与える作品である。

 

 

4位  悪の教典 / 貴志祐介(2010年)

 

とびきり有能な教師がサイコパスだったとしたら、その凶行は誰が止められるのか?晨光学院町田高校の英語教師、蓮実聖司はルックスの良さと爽やかな弁舌で、生徒はもちろん、同僚やPTAから信頼され彼らを虜にしていた。そんな〝どこから見ても良い教師〟は、実は邪魔者は躊躇いなく排除する共感性欠如の殺人鬼だった。少年期、両親から始まり、周囲の人間をたいした理由もなく次々と殺害してきたサイコパス。美形の女生徒をひそかに情婦とし、同僚の弱みを握って脅迫し、〝モリタート〟の口笛を吹きながら、放火に殺人にと犯行を重ねてゆく。社会から隔絶され、性善説に基づくシステムである学校に、サイコパスが紛れこんだとき――。ピカレスクロマンの輝きを秘めた戦慄のサイコホラー傑作長編。

 

この世のあらゆるビジネス本を葬り去る究極の一冊である。

私も社会に出てそれなりに経験を積み、役職がついて部下を持つようになったのだが、仕事の流儀の多くをこの本から学んでいる。有名な作品であり、映画化もされているため、おおまかな内容くらいなら知っている人もいるかもしれないが、本作はサイコパスの教師が目的達成・問題解決のために、ありとあらゆる手段を駆使して大暴れするという物語である。

サイコパスは関わりたくはない人種だが、ビジネスに限って言えば仲間にしたいタイプの人であることは間違いない。そんなサイコ野郎の仕事をサイコパスの名手・貴志祐介が書くのだから役に立つこと間違いなしなのである。

 

 

3位  十二国記 / 小野不由美(1991年~)

 

「お捜し申し上げました」──女子高生の陽子の許に、ケイキと名乗る男が現れ、跪く。そして海を潜り抜け、地図にない異界へと連れ去った。男とはぐれ一人彷徨(さまよ)う陽子は、出会う者に裏切られ、異形(いぎょう)の獣には襲われる。なぜ異邦(ここ)へ来たのか、戦わねばならないのか。怒濤(どとう)のごとく押し寄せる苦難を前に、故国へ帰還を誓う少女の「生」への執着が迸(ほとばし)る。シリーズ本編となる衝撃の第一作。

 

人生を変える小説の真打登場である。国産ファンタジー小説の最古参作品であり、また異世界モノの始祖とされる作品、その完成度の高さはいまだに他の追随を許さない。

十二国記の素晴らしいところはそれこそいくらでも挙げられるのだが、本記事で紹介するとしたら、多くの登場人物がベリーハードな苦境に陥りながらも、何とかして乗り越えていくことだろう。特に大長編の『白銀の墟 玄の月』にいたっては、1500ページ級の長い物語の内、実に90%近いシーンが半端ではない絶望モードで展開され、読者もそろそろ精神の限界か....となってからの大放出!!

十二国記を読んでおけば自身が苦境に陥ってもこの物語を思い出すことで「あれよりはマシだから何とかなるだろう」という勇気が湧いてくることだろう。

 

〇シリーズ紹介記事

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2位  旅のラゴス / 筒井康隆(1986年)

 

 北から南へ、そして南から北へ。突然高度な文明を失った代償として、人びとが超能力を獲得しだした「この世界」で、ひたすら旅を続ける男ラゴス。集団転移、壁抜けなどの体験を繰り返し、二度も奴隷の身に落とされながら、生涯をかけて旅をするラゴスの目的は何か?異空間と異時間がクロスする不思議な物語世界に人間の一生と文明の消長をかっちりと構築した爽快な連作長編。

 

とにかく読むべき日本SF御三家・筒井康隆によるSFファンタジー旅小説。男用

冒頭で挙げた私の危険思想「男はあらゆるものを犠牲にしてでも好きなことをやりたい放題やって良い」はこの本の影響である。本書の主人公であるラゴスはやりたいことをするために、問答無用に女や地位を犠牲にしまくっている。

そんなことからとても筒井康隆らしい印象で、男にとっては至高の聖典になり得る反面、女にとっては最悪な作品であり、この本を読むとモテなくなることはないと思うが、結婚できなく可能性があるという諸刃の剣である。

私は1986年生まれだが、「男は男らしく、女は女らしく」という昨今のジェンダー論に逆行する考えを持っていて、フェミニストはヒステリーを起こした狂人だと考えている。そんな考えを持った昭和的な男は絶対に読もう。

 

 

1位  忍びの卍 / 山田風太郎(1967年)

 

 時は寛永9年。三代家光の治世である。大老土井大炊頭の近習・椎ノ葉刀馬は、御公儀忍び組に関する秘命を受ける。伊賀・甲賀・根来の代表選手を査察し、最も優れた組を選抜せよというのだ。妖艶奇怪この上ない忍法に圧倒されながらも、任務を果たす刀馬。全ては滞りなく決まったかに見えたが…それは駿河大納言をも巻き込んだ壮絶な隠密合戦の幕開けだった。卍と咲く忍びの徒花。その陰で描かれていた戦慄の絵図とは…。公儀という権力組織を鮮烈に描いた名作。

 

文句なしに我が生涯最高に人生を変えた本である。

なぜならば多くの自己啓発書なんかに書いてある独立して自由になろう的な思想とは圧倒的に真逆のことが書かれているからである。会社のためには命すら捨てる覚悟を持って仕事をすべしということだ。否、会社に入った時から命は捨てたものと思えというのが正確だろうか。くだらないことは考えずに真剣に働いていれば人生は攻略したも同然。(但しブラック企業は除く)

教訓云々は抜きにして、エンターテイメント作品としても神の領域に達している。登場忍者は三人のみ。しかも使う忍法が"舐めたところを性感帯にする"、"性交した女に憑依する"、"性交した女の血を刀に塗って敵にかけると肉を断つ"という意味不明なものにも関わらず異様に知的な戦いが続くのである。

果たしてこれのどこが人生を変えるのだと思われるのが普通だろうが、真面目に働いているサラリーマンは本作読了後に必ず涙を流し、生きることの活力が爆増することだろう。

 

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言い訳とお詫び代わりのおまけ

 様々な方面から人生を変える小説を紹介してきたが、興味を持たれた本はあっただろうか。もしあったのならぜひ手に取ってみていただきたい。ただ小説というのは人によって評価や受ける印象がまったく違うので、私に大きく影響を与えた本が他の人の人生を変える本にならない可能性が高いということをお伝えしておこう。
 そこでお詫びとして、または冥途の土産としてさりげなく2000冊以上はビジネス本や自己啓発書、ハウツー本を読んできた私が本当に素晴らしいと思う人生を変える系の本を2冊挙げて締めさせていただく。この本は私自身年一で読み返している数少ない小説以外の本で、本気で素晴らしい内容となっている。
 

 

 

小説『サマーゴースト/一ノ瀬ユウナが浮いている』乙一|花火×幽霊の白乙一スーパーコンボ

超久しぶりのストレートな白乙一に泣く

 

作品紹介

乙一による『サマーゴースト』および『一ノ瀬ユウナが浮いている』は2021年10月と11月に集英社より出版された作品で、それぞれ150、240ページ程度の長編である。

『サマーゴースト』は乙一が脚本を務めたアニメ映画のノベライズなので、通常の小説とは書かれた経緯が異なり、尺はかなり短く全体的にあっさりした印象の仕上がりなののだが、読んだ感じはしっかり乙一している。ある共通の目的を持った高校生三人が、夏にとある場所で花火をすると出現する幽霊に死んだ感想を聞きに行くといった物語は、似たような境遇にいて共感してしまう人にとってはかなり刺さるだろう。

姉妹編にあたる『一ノ瀬ユウナが浮いている』は”花火をすると幽霊が現れる”という設定のみ共有している作品で、登場人物やストーリーには何の関連もない乙一書き下ろしの長編小説である。そのためサマーゴーストを先に読んでいる必要はない。『一ノ瀬ユウナが浮いている』は直球のせつない青春恋愛小説なので白乙一好きにはクリーンヒットすることだろう。私はどちらかというと黒乙一や山白朝子名義の作品が好みなのだが、本作は乙一名義では久しぶりに(というか失はれる物語ぶりかも)せつなさ泣きさせられてしまった。

どちらの作品もミステリー作家でもある乙一からすると、ひねりのないシンプルな物語となっているが、小細工に頼らずストレートに攻めてくるインファイトっぷりに感動してしまった。このたび『サマーゴースト』の映画も鑑賞したのでまとめておきたい。

 

 以下、あらすじの引用

◆サマーゴースト

“サマーゴースト”という幽霊が現れるという。夏、使われなくなった飛行場、花火をすると、彼女は姿を現すらしい。自殺した女性の幽霊なのではないかという噂だ。ネットを通じて知り合った高校生、友也・あおい・涼。3人は“サマーゴースト”を探すために集まった。3人は幽霊に聞いてみたかった。“死ぬって、どんな気持ちですか?”それを聞くべき理由が、3人にはあったのだ――。

 

◆一ノ瀬ユウナが浮いている

幼馴染みの一ノ瀬ユウナが、宙に浮いている。十七歳の時、水難事故で死んだはずのユウナは、当時の姿のまま、俺の目の前にいる。不思議なことだが、ユウナのお気に入りの線香花火を灯すと、俺にしか見えない彼女が姿を現すのだ。ユウナに会うため、伝えていない気持ちを抱えながら俺は何度も線香花火に火をつける。しかし、彼女を呼び出すことができる線香花火は、だんだんと減っていく――。

 

小説サマーゴースト

作品がストレートなだけに私も思いのままの感想を書く。

一言でまとめるなら「最高だけどかなり惜しい」に尽きる。映画製作のことはよく分からないのだが、乙一が脚本を担当した作品ということは乙一のオリジナル作品であって、その映画をノベライズしたというのは実質書き下ろし小説と何が違うのだろう?と思ってしまったりする。

何が惜しいのかというと、ノベライズ作品ゆえなのか全体的に掘り下げが浅いように感じてしまう部分がとても多い。私は小説を読んでから映画を見たので、映画に比べればかなり深堀はされているのだが、それでも主人公以外の登場人物や主人公と母との関係、いろいろあった後の〇〇と〇〇の関係など、映画とは無関係に書きまくってもらえれば、長編小説として乙一の中でも優れた作品になったような気がしてならない。

ただそれも好みの問題かもしれなくて、本来乙一は短編の名手なので、あまり無駄な描写は書かずに重要な要素に焦点を絞って書いたことがプラスになっているのかもしれない。なので何とも言えない。

さて、肝心な内容だが、一応ネタバレはしない方針で紹介してみる。ある共通の目的を持った高校生三人が、ある目的でサマーゴーストを召喚(笑)し、共同作業をするうちに丸く収まった。という感じである。何の意外性もなく「まぁこうなるよね」というとてもシンプルな内容であり、私自身は登場人物の誰にも共感することはないのだが、読み終えてみると”効く”んですよね...これが。

若かりし頃の(今も若いけど)乙一の超傑作『失はれる物語』に収録されていても違和感がない印象なので、別名義や映画に力を注いでいる近年の乙一に対して、白乙一に飢えているファンにはたまらない内容だろう。白乙一好きなら必読の一冊である。

 

映画サマーゴースト

このブログは本を紹介しているので、映画版も紹介しようか迷ったが、せっかくだから簡単に紹介しておきたい。

40分程度の短いアニメなので当たり前かもしれないが、結論から言うと物語の背景や登場人物の描写が少な過ぎて、映画を見ただけで果たして楽しめるのだろうか...という印象をどうしても受けてしまう。私が小説版を先に読んだのが原因なのかもしれないが、よくありがちな単純に綺麗なアニメーションを鑑賞して、目の保養にするくらいにしか効能がないように感じた。

また先に小説を読んだ者としては、主人公やサマーゴーストのキャラクターが想像していたのとかなり違うんですけど...という感じがしまくった。涼とあおいはまぁほとんどイメージ通り。友也は母親との描写が少ないこともあり、見た感じママがうるさいリア充くらいにしか思えず、〇にたい理由にイマイチリアリティが湧かない。またサマーゴーストさんは萌え可愛すぎる。いや、小説版のサマーゴーストも良い感じのキャラなのだが、霊的な感じはほとんどしなかったのに対して、映画版は幽霊感がかなり強い感じがする。『幽遊白書』でいうところのぼたん的な印象である。(でもイラストはどう見てもアスカなんだけど) 全面的に小説版の方が好みではあるものの、サマーゴーストのキャラだけは映画版の方がちょっと好みだったりするのがポイント(笑)

まぁ映像がとても素晴らしい作品なので、乙一ファンで小説を先に読んだ方は、映画を見て損することはないので鑑賞をおすすめしたい。

 

 

漫画サマーゴースト

こちらは読んでいないので何も書けないのだが、感想を覗いてみるとどうやら映画や小説版とはかなり異なっているようで、友也以外の二人も深堀されているらしい。私としては乙一作品だから読んだり鑑賞したという作品なので、漫画まで読むことはない予定だが、映画から入って『サマーゴースト』が気になった方は読んでみるのもありかもしれない。

 

 

一ノ瀬ユウナが浮いている

冒頭にも記載の通り、『サマーゴースト』姉妹編ということになっているが、花火で幽霊を召喚するということ以外はまったく関連がないので、完全に独立した乙一書き下ろし長編だと認識して問題ない。むしろ私はノベライズ作品の関連作品と認識してしまったせいで、発売直後の購入を見送ってしまったので姉妹編として売り出したのは失敗なのでは....などと思ってしまう。余談だけど。

そして肝心な内容である。『サマーゴースト』と同様『一ノ瀬ユウナが浮いている』の紛うことなきハイパー白乙一であり、こちらの方がせつなさ成分が100倍くらいあるので、白乙一ファンが読んだら感動して死んでしまうかもしれない。私は恋愛小説はほぼ読まないのだが、ストレート過ぎる純愛ストーリーにいい年こいて泣かされてしまった。願望であり妄想だが文庫化される時に加筆したサマーゴーストとセットにしたら、圧倒的白乙一コンボになすすべなく涙腺崩壊させられるだろう。

物語自体は本当に何のひねりもなく、正統派にしてお手本のような展開であらすじに書いてあることがほぼすべてという感じなのに、なんでこうも響くのだろうか。念のためもう一度あらすじを引用する。

 

幼馴染みの一ノ瀬ユウナが、宙に浮いている。十七歳の時、水難事故で死んだはずのユウナは、当時の姿のまま、俺の目の前にいる。不思議なことだが、ユウナのお気に入りの線香花火を灯すと、俺にしか見えない彼女が姿を現すのだ。ユウナに会うため、伝えていない気持ちを抱えながら俺は何度も線香花火に火をつける。しかし、彼女を呼び出すことができる線香花火は、だんだんと減っていく――。

 

そう。片思いの女性が亡くなってしまい、悲しみに打ちひしがれる中、ユウナの好きだった線香花火を使うと、ユウナを召喚できる(FFXではなくFFⅢ的な設定w)という、Theありきたりかつ狙ったストーリーなのに、読み進めれば読み進めるほど地獄的にせつなさが込み上げてきてあるシーンでせつなさが限界突破してしまうんですな。

このあるシーンもよくあるパターンな感じで、有名な作品だと『〇〇膵臓〇食べたい』でもあったが、乙一がこのパターンをやると喪失感が凄まじいんですよね。それからのラストシーン。ラストすらも予想通りの展開なのだが、恥ずかしながら小生、涙で文字が読めないくらいになってしまい申した。

ちなみに読了直後に私が読書メーターに投稿した感想がこちら。

いい年こいて泣いてしまったよ....。 聖橋とか東京ドームとか吉祥寺とか九段下とか....学生時代に付き合ってた相手と頻繁に行っていた場所なので、当時を思い出してしまい涙腺にバシバシとボディブローの様に効いてきて、最後で決壊してしまった感じ。 プロットに捻りはなく、正攻法で攻めたせつない恋愛小説だが、白乙一はアラフォーになっても健在。まだまだ『失はれる物語』級の白魔法が使えると知り驚いている。 というか、今更思い返してみると乙一の幽霊ネタは超鉄板ですな。デビュー作も夏と花火と死体だし。いやはや感激。

読了直後にも感じていたようだが、やはり乙一に幽霊ネタを書かせたら並ぶ者のない傑作に仕上がるというのは私だけだろうか。ちなみに乙一作家生活25周年記念短編集である『さよならに反する現象』でも幽霊ネタの二作品は特出していたように思う。

そろそろまとめてみると、『一ノ瀬ユウナが浮いている』は乙一ファンであれば必読だし、最近の乙一作品を読んでいないが過去の作品(2004年くらいまで)は好きだったという方でも、当時と何ら変わらないレベルの白乙一を堪能できると保証したい。やはり小説を読んで涙を流すというのは最高の心の清涼剤だと断言できる。

 

乙一は健在

この記事を書いたことを機に、過去の乙一作品も振り返ってみたのだが、白乙一長編はじつはかなり希少で、私の間違いでなければ2002年の『暗いところで待ち合わせ』振りだと思われる。

20年の時が経っても、いまだにせつない恋愛小説が書ける乙一に驚きであると同時に、むしろ昔よりも文章の力量が上がっている分、私のような社会に出て妻子持ちとなったような、古株の乙一ファンには過去作品以上に響くものがあるのかもしれない。

最後に。ぜひとも昔のような気合の入った黒乙一も読んでみたいですな。山白朝子名義の一部の作品や『シライサン』は黒乙一のようで、黒乙一とはやや異なる感じがするので、どうしても期待してしまうものである。

 

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『三体X 観想之宙』宝樹|死神永世すらも超えた超絶スケールSF

三体ロスに陥った人々の救世主

 

作品紹介

宝樹による『三体X 観想之宙』は2022年に早川書房より出版された、三体公式スピンオフ作品で、単行本で340ページ程度の長編である。本国では2011年に三体と同じ重慶出版社から出版されている。

本書は『三体Ⅲ 死神永世』で明かされていなかったことや、説明不足気味な要素を三体ロスに苦しむ宝樹が妄想で補完したうえで、壮絶な喪失感を催す死神永世のその後の世界を描いた内容のため、三体三部作を読破していることが読むための前提条件となる。

そのため読み始めるまでの敷居はとても高いのだが、その壮絶な物語は必ずや三体ロスに陥った人を暗黒世界から救い出してくれるはずである。オタクによる二次創作という悪ノリ要素は賛否両論を呼ぶだろうが、内容に対して文句を言う人はいないのではないだろうか。

なお三体三部作は第一部→黒暗森林→死神永世と回を重ねるごとにスケールアップしているのだが、『三体X 観想之宙』は過去最大最強の度肝を抜く超絶スケールで描かれている。とにかく三体を読破された方は必ず読むべき一冊なので、三体読了者向けに紹介していく。

 

 以下、あらすじの引用

異星種属・三体文明の太陽系侵略に対抗する「階梯計画」。それは、敵艦隊の懐に、人類のスパイをひとり送るという奇策だった。航空宇宙エンジニアの程心(チェン・シン)はその船の推進方法を考案。船に搭載されたのは彼女の元同級生・雲天明(ユン・ティエンミン)の脳だった……。太陽系が潰滅したのち、青色惑星(プラネット・ブルー)で程心の親友・艾(アイ)AAと二人ぼっちになった天明は、秘めた過去を語り出す。三体艦隊に囚われていた間に何があったのか? 『三体III 死神永生』の背後に隠された驚愕の真相が明かされる第一部「時の内側の過去」。和服姿の智子が意外なかたちで再登場する第二部「茶の湯会談」。太陽系を滅ぼした〝歌い手〟文明の壮大な死闘を描く第三部「天萼」。そして――。 《三体》の熱狂的ファンだった著者・宝樹は、第三部『死神永生』を読み終えた直後、喪失感に耐えかねて、三体宇宙の空白を埋める物語を勝手に執筆。それをネットに投稿したところ絶大な反響を呼び、《三体》著者・劉慈欣の公認を得て、《三体》の版元から刊行されることに……。ファンなら誰もが知りたかった裏側がすべて描かれる、衝撃の公式外伝(スピンオフ)。

 

 

まずはじめに

冒頭の作品紹介でも記載したが、『三体X 観想之宙』は完全に三体マニア向けの内容である。したがって本紹介記事では三体Xのネタバレになるようなことはなるべく記載しないようにするが、三体三部作の内容にはある程度触れるので、これから三体三部作を読まれる方(まぁそんな人はいないだろうが)はここから先は読まないことを推奨したい。

それと三体三部作を読破して、三体Xが気になっているが著者がオリジナル作者の劉慈欣ではないという理由で購入を躊躇している方は悩まず購入することをおすすめしたい。賛否両論を巻き起こす要素がテンコ盛りではあるものの、SFとして文句なしに素晴らしい内容であり、三体を補完するという意味でも完璧である。

 

青色惑星(プラネット・ブルー)でイチャラブ♡

『三体X 観想之宙』は全三部構成+終章+終章以降の宇宙を描いたノートという構成である。第一部の「時の内側の過去」は死神永世でプラネット・ブルーに二人っきりになってしまった雲天明と艾AAがイチャイチャしながら、三体文明に脳をデリバリーされて地獄の日々を送った雲天明の物語と、さりげなく壮絶な過去を持つ(という設定になった)艾AAの秘密を語り明かすという内容である。

早くも『三体三部作』の硬派な印象がぶっ壊れているので、三体信者の中にはイラっと来る人もいるかもしれないが、”ロボットガール智子さん”のモデルとなった人物の正体を知ったらドン引きするかもしれない。なぜなら日本の〇〇女〇・〇〇蘭だからである。私もけっこうお世話になった女優なので「ははは...宝樹最高かよ!!笑」という気持ちがある一方で、智子さんを映画『SAYURI』のチャン・ツィイーで脳内再生していた小生の夢が潰されるという「痛恨の極み」を味わうことになり、二つの感情の間で”量子もつれ”が発生してしまった(笑)。

着物×アジアン超絶ビューティーといったら彼女しか知らん

思わぬ方向に話がずれてしまったが、人によっては上記の内容を圧倒するほど驚きの妄想設定がある。ずばりオリジナルの三体ではほとんど描かれなかった三体人の姿である。その衝撃的な姿に対してかなり説得力のある説明がなされていたものの、「そんなのはイヤだ!」「絶対に認めん!」となること請け合いであろう。私もその設定はイヤ派である。
そしてもう一つの妄想設定が艾AAの生い立ちである。「どこの魍魎の匣だよ」と心の中でツッコミを入れつつもこの設定はかなり好き。ぜひ読んでいただきたい。結局のところ第一部はイチャイチャラブラブしていたのである(笑)。しかし死神永世では主人公・程心が微妙で艾AAの方が良いキャラしてるよなぁとか思っていたら、見事に最高のヒロインに進化していて感動してしまったよ。

 

宇宙#647で智子さんとペチャクチャ

第二部。艾AAさんと語り明かした後は舞台が宇宙#647に変わって、今回も懲りずに雲天明と智子さんがひたすらしゃべりまくります(笑)

話す内容はあまりにもハードSF過ぎて、SFにまったく興味が無い人が読んだら頭がおかしくなってしまうかもしれない。どんな話かというと、かつて宇宙は十次元のパーフェクトワールドであったが、とある理由から低次元化を望む勢力が現れて、二つの勢力がドンパチして次元攻撃などおなじみの超攻撃によって、宇宙が低次元化していく様が延々と語られていくのである。まぁマニア向けですね。

しかも智子さんと語り合っていく中で、涼宮ハルヒの特にアニメではえらいことになっていた『エンドレスエイト』が実にさりげなく、かつ効果的に登場する。智子のモデルといい、涼宮ハルヒといい、やはり宝樹は最高である。

またもや話がオタクネタの方にブレてきてしまったが、SFとして本当に素晴らしくて、しかも壮大極まるため、これ以上ないほど「いま俺はSFを読んでいる」感に浸ることができるだろう。それと雲天明がとんでもないことになるのはけっこう笑える。

 

もうなんだかよく分からん

第三部はなんと『三体Ⅲ 死神永世』でとんでもない”紙きれ”を放って太陽系を滅ぼしたあの”歌い手”の物語である。

とんでもないハードSFなのかもしれないが、とんでもないことをし過ぎていて、SF熟練度がまだまだ未熟な私にはファンタジーにしか思えず、風景も想像しにくい(というか想像できる人は三次元人ではないだろう)のだが、何をしていて何が起きたかという大枠は分かりやすくなっている。

要するにスーパーマンとなった雲天明が、死神永世のコンスタンティノープルに登場したあの高次元女と大活躍してしまうのである。私には現状これ以上この章の紹介は難しいので読んでいただくしかないのだが、”紙きれ”すら子供だまし級に感じてしまうほどの途方もないスケールの争いは読んでいて( ゚д゚)となってしまうこと間違いなしである。

 

程心ご乱心...そして大団円へ

終章になってようやく登場する程心はもう完全に残念なキャラになってしまっています(笑) 嵌められてヒステリー起こして智子さんと大喧嘩してみたりと完全にキャラが崩壊しているのだけど、この爆発力を執剣者になった時に発揮できていれば水滴無双は避けられただろうに...などと浸っていると宇宙は......。

終章後の世界は本当にたまらない。智子さんキャラ崩壊に伴うの天明お兄様が連発とかもうどうすればいいのやら(笑) 最後の最後は宝樹の劉慈欣に対するリスペクトが感じられるとともに、見事に三体ロスを叩きつぶして最高の大団円を迎える。

理解が難しいシーンも多々あったけど、ラストシーンでは正真正銘のカタルシスを得ることができて、死神永世読了後以降に続いていた無気力感を、憑き物が落ちたかのようにきれいさっぱり拭い去ってくれた。宝樹には感謝するしかない。

 

これはひどい記事だ

死神永世の延長線上にある物語だけあって、かなり難解だったりスケールがデカ過ぎたりするせいで、説明が難しく全然紹介になってなかった...(泣)

まぁとりあえず三体三部作を読んだ人なら避けては通れない内容なので、少しでも興味を持たれたならぜひとも読んでください。超凄いです。それと宝樹さんがいかに素晴らしい作家なのかというのもビシビシ伝わってくるので、現状は『時間の王』しか翻訳されていないが、これを機に長編作品も翻訳していただきたいものである。

 

 

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