ただのクソエロ忍法本かと思いきや.....。
作品紹介
山田風太郎による『忍びの卍』は1967年に出版された作品である。
文庫版は550ページ程度とそれなりに長尺にも関わらず、登場する忍者は根来・伊賀・甲賀の中から選抜メンバー一名ずつの計三名(+くノ一)と少数精鋭のため、一人一人のキャラや忍法がとても深く掘り下げられている。
忍法帖シリーズの基本フォーマットは〇人対〇人という多人数のチームプレイや一人一人が相打ちに近い形で散っていくというパターンなので、『忍びの卍』は基本形からは離れた作風ではあるが、忍法の連携や忍法の研究といった本作ならではの要素は(いろいろな意味で)面白く、捧腹絶倒シーンのオンパレードである。
またミステリの名手でもある風太郎だからこそ成しえた、二度読みしたくなるような深いラストは感動的で涙すら誘う。
そんな超傑作『忍びの卍』について熱く語りたい。
以下、あらすじの引用
時は寛永9年。三代家光の治世である。大老土井大炊頭の近習・椎ノ葉刀馬は、御公儀忍び組に関する秘命を受ける。伊賀・甲賀・根来の代表選手を査察し、最も優れた組を選抜せよというのだ。妖艶奇怪この上ない忍法に圧倒されながらも、任務を果たす刀馬。全ては滞りなく決まったかに見えたが…それは駿河大納言をも巻き込んだ壮絶な隠密合戦の幕開けだった。卍と咲く忍びの徒花。その陰で描かれていた戦慄の絵図とは…。公儀という権力組織を鮮烈に描いた名作。
使用忍法のネタバレ有り。
『忍びの卍』を面白おかしく語るためには少なくとも忍法や、話の流れについては触れないわけにはいかないので以下ではある程度ネタバレを含むことになる。
ただ本作の最大の魅力は衝撃的なラストにこそあるので正直最後以外は知ってしまっても楽しさは薄れないのでご安心を。
登場忍者が超強い
伊賀・甲賀・根来の三勢力中から一派を選んで公儀御用達の忍び組に任命するという事情のため、それぞれの勢力から選抜された忍者はいずれも超強力で、使う忍法が"舐めたところを性感帯にする"、"性交した女に憑依する"、"性交した女の血を刀に塗って敵にかけると肉を断つ"というクソなものにも関わらず壮絶な知的戦闘が繰り広げられるのだから驚きである。
いやはや実際文字にしてみると本当にひどい能力だなと思うのだが、特に"性交した女に憑依する"という能力がかなり有効活用されており、しかもこのひどい忍法を使用する忍者が寡黙な剣豪キャラだけに爆笑を誘う。それぞれの忍者は選抜メンバーだけあって上記以外にも能力があるので説明してみたい。
アホな割にクソ優秀な忍法
先に説明した忍法だけだと何の役に立つのかさっぱりなのだが(作中でもそんなのが何の役に立つのかと突っ込まれてて笑える)、他にも忍法や剣術を使うのでみんなやたら強い。
根来組忍者
虫籠右陣(むしかご うじん):かなり狡猾な人物だが憎めないおっさん。
- 忍法暗剣殺
テレパシーで殺気を感じることによって敵に攻撃される前に回避できる。 - 忍法ぬれ桜
舌で女の体を舐めることによってその部位を女陰(おま〇こ)と同じ感度にする(笑)また感度の高まった女は雌の魅力をぷんぷん放つ淫乱女と化す。 - 忍法針つばめ
両端が針のようにとがった、くの字型の釘をブーメランのように使用する。
伊賀組忍者
筏織右衛門(いかだ おりえもん):寡黙な剣豪...だからこそ笑える。
お麻というくノ一の妻がいる。
- 忍法任意車
セックスした女に憑依する。作中では(サガ的な)連携をしたり、研究の結果新たな用途を編み出すなどすごい活躍をする。ちなみに当然エロい。 - 宮本武蔵直伝の剣術
忍法を使わずしても達人級の剣豪である。
甲賀組忍者
百々銭十郎(どど せんじゅうろう):気だるくおそろしい美形忍者。
砧、お彩、お宋という3名のくノ一を伴う。
- 忍法白朽葉
精液が満ちてくると女を魅了し引き寄せる。
⇒つまりオナ禁ファイターと言える(笑) - 忍法赤朽葉
溜まりに溜まった性欲をもって女を犯し、その女の血を刀に塗って剣を振って飛んだ血に触れたものを斬る。
⇒なお射精すると狂暴な剣鬼と化す...凶暴な賢者タイム(笑)
上記の三名の忍者に加えて、審査員の役割を担う椎ノ葉 刀馬という侍の四名が主要人物となる。椎ノ葉 刀馬も柳生宗矩の弟子であるため、強力な剣豪である。
審査、そして三つ巴の忍法バトル
伊賀・甲賀・根来の三勢力中から一派を公儀御用達の忍び組に任命するという、メインっぽい部分は意外にあっさりと決まってしまう。
もちろん面白いのはそれからであって、いろいろな思惑があって物語は根来組虫籠右陣&伊賀組筏織右衛門VS甲賀組百々銭十郎&椎ノ葉 刀馬という構図のバトルへと展開していく。
そしてこれがクッソ面白い。なんの役に立つのかさっぱりな忍法ぬれ桜と忍法任意車が連携されることによって妖艶極まる美女が恐るべき剣術をふるうという山田風太郎的、圧倒的なエロスが大爆裂し、迎え撃つは邪悪なオナ禁ファイターなのでエロはどんどん加速していく。しかも伊賀組と甲賀組の二人は冗談が通じないタイプのキャラなので、一言一句、一挙手一投足がめちゃくちゃ笑えるのである。
ホントこの作品のエログロバトルは最高の一言に尽きる。他の忍法帖では登場人物が多いのが基本なので、強力な忍者もあっさり散っていくのだが、こんな笑える忍法が緻密に描かれるのだからたまらないのだ。
読者を勃起させ我慢汁を垂れ流させながらも、腹筋崩壊させるというのが山田風太郎の忍法なのだろう。
半分...否。7割、3割。
”セックスした女に憑依する”という忍法任意車は精液を女に注入することによって、精虫が女を支配するといった仕掛けらしい(笑)....そこで研究して編み出したのが、精液を何パーセントかは女Aにぶちまけて、残りの精液を女Bにすることによって、注入した分だけの力を発揮するという笑うしかない秘儀である。
しかも論理上は精虫の数だけ女に憑依できるのだと考えられるのだからクソである(作中でもたわけとか言われてたっけ)。
このわけの分からないクソ奥義がなかなかいい仕事をして、ミステリ的な知的戦闘を巻き起こすのだから山田風太郎は天才である。
半分の織右衛門とか3分の織右衛門、7分の織右衛門といったアホな言葉が連発されるたびに「フフッ....」と笑わされてしまうのである。
最後はまさかの涙。
上で語らせていただいたアホエロバトルの応酬だけでも忍法帖トップクラスの面白さだと思うのだが、『忍びの卍』が真に素晴らしい作品と成らしめているのは予想外の真相が明らかになるラストにある。
山田風太郎は『太陽黒点』や『明治断頭台』といった東西ミステリベスト100にも挙げられる猛烈などんでん返しを得意とされるお方だが、『忍びの卍』でもこういったミステリにも通じる手法が発揮されており、読後は涙を流すとともに再読を誓うことになること間違いなしなのである。
このラストはエンタメとしての忍法帖ファンだけでなく、どんでん返し系の話が好きな方にも猛烈におすすめしたいと思う。
どんでん返しがあることを知ると萎えるという意見は百も承知だが、本作についてはどんなミステリマニアであっても予想するのは不可能なのであえて説明した。本気でおすすめです。
マジ卍!!(死語)
忍法帖は敵味方がバッタバタと散っていく忍術バトルの応酬ももちろん素晴らしいと思うのだが、一人一人のキャラと忍法を深く掘り下げていった本作は、他の忍法帖にはない魅力が詰まりまくっている。
エロくて笑えて泣ける物語(なにそれ)が好きな方は必読ですぞ!
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