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『死に山 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相』ドニー・アイカー|地球最悪の禁足地

真の本格ミステリ

 

タイトルが滑っているのは堪忍

作品紹介

ドニー・アイカーによる『死に山 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相』は2018年に河出書房新社より出版された、ディアトロフ峠事件を調査したノンフィクション作品で、文庫で400ページ程度の作品である。本国では2014年に出版されている。

男女9人のトレッカーが雪山で遭難して全滅するという事件だが、不可解な要素が多く「事実は小説よりも奇なり」を地で行くような怪奇事件であり、オカルトな超常現象説やソ連の秘密兵器説、宇宙人説、雪崩説など様々な見解が飛び交っている。そんな怪事件に魅せられたアメリカはフロリダの映画監督・ディレクター・ジャーナリストのドニー・アイカーが現地に赴き、まさに命をかけた調査の結果、極めて現実味のある真相を導き出すのが本作の内容である。

ノンフィクション作品ではあるが、構成がとても凝っているため、本格ミステリや冒険小説のようなエンターテイメント性があり、物語として純粋に楽しむことができるため、万人におすすめできる優れた作品となっている。

 

 以下、あらすじの引用

一九五九年、冷戦下のソ連ウラル山脈で起きた遭難事故。登山チーム九名はテントから一キロ半ほども離れた場所で、この世のものとは思えない凄惨な死に様で発見された。氷点下の中で衣服をろくに着けておらず、全員が靴を履いていない。三人は頭蓋骨折などの重傷、女性メンバーの一人は舌を喪失。遺体の着衣からは異常な濃度の放射線が検出された。最終報告書は「未知の不可抗力によって死亡」と語るのみ―。地元住民に「死に山」と名づけられ、事件から五〇年を経てもなおインターネットを席巻、われわれを翻弄しつづけるこの事件に、アメリカ人ドキュメンタリー映画作家が挑む。彼が到達した驚くべき結末とは…!

 

 

ディアトロフ峠事件とは

こんなことを言うと不謹慎であることは理解しているが、この事件は人知を超えた内容であり、実際に未知の不可抗力が原因と公表されるくらい不可解なので、最高峰に魅力的な事件だと言える。

私が大好きな作家である島田荘司京極夏彦(特に初期)は、推理小説としての完成度をある程度放棄してでも、怪異のような魅力的な謎を提示することに全身全霊をかけるタイプの作家だ(と考えている)が、ディアトロフ峠事件はそんな彼らがフィクションで創り上げる超不可解な謎に勝るとも劣らない、トンデモな内容である。

事件の詳細はWikipediaや各種媒体でもりもり解説されているので、ここでは私が超適当に要約して説明する。

 

■ディアトロフ峠事件とは  by 俺

1959年ソ連パリピ...ではなく育ちの良い男女の学生トレッカーたちが、バチクソ寒い雪山で全滅した。クッソ寒いうえに風もめちゃくちゃ強いので、テントから離れる=死に直結するにもかかわらず、なぜかみんなまともに服を着ていなかったり、靴を履いていない状態でテントを引き裂いてから飛びだし、テントからそこそこ離れた場所で死亡していた。メンバーみんなが一箇所に固まっていたわけでもなく、しかも争った形跡がないのに頭がい骨骨折やら肋骨骨折、眼球&舌喪失というヤバ気な状態の遺体もあった。さらに何人かの犠牲者の衣服にはありえな線量の放射能汚染があった....etc

 

⇩詳細はWikipedia参照

ja.wikipedia.org

 

構成の妙と物語の魅力

本書は1959年の遭難死したトレッカー、同年に事件を調査した調査兵団、2012に調査をした著者の3つの視点で描かれていく。そのためノンフィクション作品というより、本格ミステリ小説に近い感覚で楽しむことができる。

何なら私は作中で40年前の未解決事件である『占星術殺人事件』に挑んだ島田荘司の同作とほぼ同じ感覚で楽しむことができた。不可解極まる事件の真相が気になってページをめくる手が止まらず、次の日に仕事があることも忘れて徹夜してしまう系なので、連休前に読み始めた方が良いような危険な徹夜本である。

さらに素晴らしいことに、本作は日本人には聞きなれないロシア人名が複数登場する割には、主要な人物にフォーカスして話が展開するため、かなり読みやすいと感じた。1959年当時の写真が多数載せられているため、臨場感が強くそれぞれの部隊と一緒に旅をしているような気分にもなれた。普段ほとんど小説しか読まないような方でも間違いなく楽しめるだろう。

 

著者の執念

本格ミステリには安楽椅子探偵といって、現場に赴くことはせずその名の通り安楽椅子から離れずに推理をする探偵がいる。実際にディアトロフ峠事件は、真相について多くの人が様々な説を挙げているが、そのほとんどは現地調査せずして発表されたものらしい。その点、著者のドニー・アイカーは危険を省みず冬に現地を訪れてみたところ、一番濃厚な説である”雪崩説”は現場の傾斜具合からして一目でありえないことを突き止めている。

そんな著者だが、ロシアに調査で二度訪れている。当時の年齢は30代半ばで、最初にロシアを訪れた時は恋人が妊娠しており、2度目の来訪時は子供が産まれていた。そんな人生の超大事な時期に多くのリスクを背負い、また全財産をはたいてまで行動した著者の覚悟と行動力には敬意を表したい。またこれほどの犠牲を払って行っている調査だけに、調査結果はいよいよ信頼できるのである。

 

追体験する冒険小説

繰り返すが、本作はノンフィクション作品でありながらも、優れた構成と、ふんだんに載せられた写真により、臨場感に溢れた冒険小説として楽しむこともできる。

著者が多くのリスクを払って、ロシアで協力してくれた仲間とともに足が凍傷になりそうになりながらも気合で突き進んだ過程はとてもリアリティがある。また遭難死したディアトロフグループのトレッキングの軌跡も、ディアトロフグル-プに同行しながらも、途中持病の悪化で引き返したことにより唯一の生き残りとなったメンバーとの直接交流によって得られた話が盛り込まれているので、まるで途中まで一緒に冒険したような感覚になれる。一緒に冒険した感覚になるだけに、ディアトロフグル-プが死の直前に撮影した写真を見た時は何とも言えない気持ちになることだろう。

 

※ネタバレ注意 事件の真相

以下、ドニー・アイカーがたどり着いた真相に触れるので、未読で今後読みたいと思った方は読まないことを推奨する。

 

著者がたどり着いた真相とは、カルマン渦と呼ばれる気象現象が地形の関係で、テント付近で偶然にも発生してしまい、カルマン渦によって引き起こされる超低周波音の影響で恐怖や呼吸困難からパニックに陥り、錯乱状態でまともに服も着ずにテントから出てしまったというものである。

低周波音の影響射程から離れて正気に戻ったことで、たちまち生命に危険が迫っていることを察知し、各々生命を守る行動をとる過程で、雪の下に埋もれた岩にぶつかるなどの事故がおきたことが、謎の外傷の原因と推理している。その他、ありえない放射線被爆や眼球、舌の消失にも回答が示されている。

本当かなぁ...と思わないこともないが、実際のところ否定できる要素が少ないことから、真相である可能性が否定できない説であることは確かなようだ。私は映画『ディアトロフインシデント』を見ているので、もっとオカルト的であったりSF的な説であってほしい願望もあるのだが、当面は本説が正だと考えるようにする。

 

本当の真相は

タイムマシーンでも発明されない限り、本当の真相は分からないというのが事実だろう。そういった意味で本作も可能性が高い説の域を出ていないような気もするが、書物として純粋にとても素晴らしい完成度なので、ディアトロフ峠事件に興味がある方や、本格ミステリはぜひ読んでいただきたい。

 

 

 

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