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『霧が晴れた時/牛の首』小松左京|SFホラー短編の最高到達点

SF風味ホラーに紛れる真の恐怖譚

 

作品紹介

小松左京による『霧が晴れた時』および『牛の首』は1964年~1978年に発表されたされたホラー要素のある短編の傑作選である。各作品集には15編ずつ収録されていて、それぞれ文庫版でおよそ400ページ程度になる。国内SFの御三家として君臨する小松左京によるホラー作品を堪能できる良作品集である。

SF界の大御所だけあってSF要素がある作品が多数を占めるが、日本ホラーの最高傑作とも称される「くだんのはは」等、純粋なホラー作品も収録されている。いずれの作品も30ページ程度の短めな尺にも関わらず、読み応えのある傑作が揃っているので、あと一作品、あと一作品....とついつい読み耽ってしまうことだろう。

1993年に出版された『霧が晴れた時』はホラー短編の金字塔とされるだけあって、現在発表されているホラー短編の大半は、小松左京がすでに書いていた内容の焼き直しに過ぎないと思ってしまうほど、様々なタイプの恐怖譚をカバーしている。またいかにも「怖がらせるために書きました」といった浅はかな作品が一つもないのも素晴らしい。

 

 以下、あらすじの引用

『霧が晴れた時 自選恐怖小説集』

太平洋戦争末期、少年が屋敷で見た恐怖の真相とは!? 名作中の名作「くだんのはは」をはじめ、日本恐怖小説界に今なお絶大なる影響を与えつづける、ホラー短編の金字塔。

 

『厳選恐怖小説集 牛の首』

「あんな恐ろしい話はきいたことがない」と皆が口々に言いながらも、誰も肝心の内容を教えてくれない怪談「牛の首」。一体何がそんなに恐ろしいのかと躍起になって尋ね回った私は、話の出所である作家を突き止めるが――。話を聞くと必ず不幸が訪れると言われ、都市伝説としても未だ語り継がれる名作「牛の首」のほか、「白い部屋」「安置所の碁打ち」など、恐ろしくも味わい深い作品を厳選して収録した珠玉のホラー短編集。

 

収録作品など

各作品集の収録作品は以下の通り。2作品集まとめて紹介で全30作品もあるため、特に素晴らしいと感じた作品にフォーカスして紹介していく。

 

■『霧が晴れた時』収録作品

  • すぐそこ(69年) / まめつま(70年) / くだんのはは(68年)
    秘密(タプ)(73年) / 影が重なる時(63年) / 召集令状(64年)
    悪霊(73年) / 消された女(65年) / 黄色い泉(73年) / 逃げる(76年)
    蟻の国(63年) / 骨(72年) / 保護鳥(71年) / 霧が晴れた時(71年)
    さとるの化物(64年)

■『牛の首』収録作品

  • ツウ・ペア(73年) / 安置所の碁打ち(71年) / 十一人(64年)
    怨霊の国(71年) / 飢えた宇宙(68年) / 白い部屋(65年) / 猫の首(69年)
    黒いクレジット・カード(71年) / 空飛ぶ窓(74年) / 牛の首(65年)
    ハイネックの女(78年) / 夢からの脱走(65年) / 沼(64年)
    葎生の宿(73年) / 生きている穴(66年)

 

すぐそこ

一発目から個人的に最高に好きな作品である。田舎にハイキングに来ていた主人公が、国道に出るために近道しようとしたら、なかなか国道に出ることができず、地元民に道を訪ねると皆口をそろえて「すぐそこ」と言ってくるのである。最初からオチまで含めてとても良くできており、田舎と都会の心理的生活的な断絶から生まれた幽霊(?)の解説がたまらない。

また本作で語られる理論は後世の多くのホラー作品に影響を与えまくっていると思われる。そのためこれを読んでいると、他のホラー作家(またはSF作家)のこの手の作品を読んだ時に「あぁ...小松左京の「すぐそこ」パターンか....」と思ってしまうであろう。

 

まめつま

純粋なホラー作品である。しかもかなり凶悪。女性の扱いから昭和の気配をぷんぷん感じるのも高ポイントだろう。(女が読んだら怒るかもしれないが)
本作は言ってしまえば『呪怨残穢』型ホラーであり、20ページに満たない尺に恐怖要素がマシマシに盛られている。

 

くだんのはは

言わずと知れた日本ホラーの最高到達点。怖い話は平安時代から存在しているらしいし、江戸時代ともなれば有名な怪談も多数存在している。そんな中、本作は第二次世界大戦と結びついているという点で、昭和以降の最恐ホラーと言えると思う。

戦禍の描写が秀逸であるのは言うまでもなく、見てはならないと言われている娘の不気味さや、事の発端、結末に至るまで非の打ち所がない作品である。前述の通り怖がらせるために書いた恐怖譚とは一線を画した凄みを持っている。未読の方がいれば絶対に読むべき作品である。

 

秘密(タプ)

食人系のカンニバルホラーである。ただしそんじょそこらの食人もの(なんじゃそら)と比べて、これまた異様に完成度が高く、「不思議・不気味・残酷」だが、さほどグロくないし、知的なところが小松左京作品らしく素晴らしい

 

影が重なる時

星新一筒井康隆の某作品と近い印象感じる逸品。本作のポイントは他のSF御三家2名の某作品と異なり、ホラー作品とされているだけに、シチュエーションを想像すると不気味であること、オチを知るとSF要素が強いことがポイントである。

 

召集令状

超絶傑作。タイトル通り戦争が関わるが、時代背景は終戦後20年ほど経っている昭和の高度経済成長期である。戦争を知らない若者(といっても第二次世界大戦時に幼児だった世代)に突如、赤紙が届いて、召集時間になると赤紙を受け取ったものが消滅してしまうという作品である。

オチを知ると、ジョジョ好きの私としてはスケールの大きい超強力なスタンド攻撃のように感じてめちゃくちゃ熱くなってしまった。結末は救いようがないが....「天皇陛下万歳

 

黄色い泉

なかなかエロい古事記が関連する作品。時代背景もあるのかもしれないが、小松左京はエロ描写も頻繁に書くんですよな。女の野糞という私の大好きな(笑)シチュエーションからの「おっぱいのペラペラソース by バイオハザード4」的なノリはたまらないのである。異種交配輪姦とか好きな方の性癖を100%刺激するだろう。なおせつなくて悲しいので注意。

 

逃げる

ややコミカルでおバカ寄りの作品だが、いい感じの怪談になっていてオチが秀逸。女衒のおっさんに「足がヤバいことになっている(?)」いい女を紹介してもらってセクロスしちゃった後に衝撃の事実がッ!的な感じである。こんな作品を書けてしまうところも小松左京の凄いところだろう。

 

蟻の国

個人的にクトゥルフ神話が頭に浮かんだSFホラー(コズミックホラー型)の作品。不思議な事件から高次元的な恐怖に繋がる展開は小松左京ならではだと思う。1963年に発表された作品とのことで、小松左京の中でも最初期の作品なので、著者の根底にある世界観を知るという点でも読むべき作品だと思う。

 

保護鳥

海外旅行が怖くなる系の作品。某国に行った主人公が意味不明なことを熱心に地元民に聞かれるところから話は始まる。郷に入っては郷に従えというか、危険な好奇心は持ってはならないということが身に染みる。

 

霧が晴れた時

SF風味のあるある意味一番恐ろしい話。超好き。突然人が消える系の不思議な本作を未読の方は是非読んでほしい。怖い話には悪霊が怖い系、呪いが怖い系、人間が怖い系などがあるが、個人的には宇宙的恐怖こそ最恐だと思っている。

 

ツウ・ペア

『牛の首』収録の1発目であり、唯一のホラー作品と言えるかもしれない。他の作品はSF要素が強かったり、世にも奇妙な物語系であったりと、純粋なホラーは無い。

意味不明で理不尽な怪異に苦しむ話で、先に紹介した「召集令状」と同様、ジョジョ好きの私としては、発動条件が難しい代わりに強力かつ不可避なスタンド攻撃だと感じた。普通に面白い。

 

安置所の碁打ち

不思議不死系の物語。昭和を強く感じる描写も良い。ある日突然、様々な感度が鈍くなり、実は心臓が止まっていて肉体的には死んでいるのに、なぜか意識があるという謎の状況が面白い。全然怖くないが作品的には非常に面白く、また怖くないと言いつつ、終盤のシチュエーションを想像すると相当不気味である。

 

飢えた宇宙

The SFホラーである。宇宙船で乗組員が一人、また一人と消滅していくという話が、古典的なホラーとも結びついて意外な真相を知ることになる。男女が追い詰められた状況下でやることは一つ。無駄にエロシーン全開なところがツボ。

 

猫の首

自宅の塀に猫の切断された首が乗っているという、ネコ好きにはショッキングなシーンから話は始まる。私もネコを飼っているのでキツイところだが、小松左京氏も愛猫家だったらしい。

猫が殺される事件ものかと思いきや、実はなかなか面白い設定のディストピアSFであり、恐ろしい結末も含めて非常に面白い。

 

黒いクレジット・カード

典型的な世にも奇妙な物語系の作品。偶然拾った不気味なクレジットカードの謎も面白いが、何よりクレジットカードがまだあまり普及していない71年に書かれた作品であるため、当時のつけ払いの描写が面白い。

 

牛の首

まず間違いなくこの世で一番恐ろしい話である。そしてこれからも本作を超える恐怖は存在し得ないだろう。どんな話なのかはぜひ読んでみてほしい。あまりの恐ろしさに内容に触れることすら躊躇してしまうのだから....。

 

ハイネックの女

「牛の首」収録作品では個人的に最も面白かった作品。ネタバレ厳禁な内容のためあまり深く触れられないが、タイトル通りハイネックで首を隠している女の秘密がトンデモないことになっている。

日本の怪談とSFが悪魔合体した結果、良い感じに凄い話に仕上がった感じである。ちなみに小松左京作品を読むと、京極夏彦は影響受けてるんだろうなぁと思うことがたまにあるが、本作もそう思った作品である。

 

葎生の宿

山で道に迷った男が遭遇するそんなバカな系の話だが、ブッ飛び具合がとても面白い。そして超展開に至るまでの流れは不思議で美しい。デビュー長編の『日本アパッチ族からして奇想は本作でも全開である。

 

生きている穴

異次元に通じているっぽい生きた穴がいたるところに発生する話。穴はものだけでなく人間にもできるし、できても死にはしないという不気味な現象である。小松左京による穴のSF的解釈がとても面白い。

 

まとめ

全体的に『霧が晴れた時』に優秀なホラー作品が多いので、まずは『霧が晴れた時』を読んでみて、気に入ったら『牛の首』を読むことをおすすめする。小松左京といったら何と言っても『復活の日』や『日本沈没』が浮かぶかもしれないが、ホラー作家としても超一流であることが分かる。

 

 

 

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