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『三体X 観想之宙』宝樹|死神永世すらも超えた超絶スケールSF

三体ロスに陥った人々の救世主

 

作品紹介

宝樹による『三体X 観想之宙』は2022年に早川書房より出版された、三体公式スピンオフ作品で、単行本で340ページ程度の長編である。本国では2011年に三体と同じ重慶出版社から出版されている。

本書は『三体Ⅲ 死神永世』で明かされていなかったことや、説明不足気味な要素を三体ロスに苦しむ宝樹が妄想で補完したうえで、壮絶な喪失感を催す死神永世のその後の世界を描いた内容のため、三体三部作を読破していることが読むための前提条件となる。

そのため読み始めるまでの敷居はとても高いのだが、その壮絶な物語は必ずや三体ロスに陥った人を暗黒世界から救い出してくれるはずである。オタクによる二次創作という悪ノリ要素は賛否両論を呼ぶだろうが、内容に対して文句を言う人はいないのではないだろうか。

なお三体三部作は第一部→黒暗森林→死神永世と回を重ねるごとにスケールアップしているのだが、『三体X 観想之宙』は過去最大最強の度肝を抜く超絶スケールで描かれている。とにかく三体を読破された方は必ず読むべき一冊なので、三体読了者向けに紹介していく。

 

 以下、あらすじの引用

異星種属・三体文明の太陽系侵略に対抗する「階梯計画」。それは、敵艦隊の懐に、人類のスパイをひとり送るという奇策だった。航空宇宙エンジニアの程心(チェン・シン)はその船の推進方法を考案。船に搭載されたのは彼女の元同級生・雲天明(ユン・ティエンミン)の脳だった……。太陽系が潰滅したのち、青色惑星(プラネット・ブルー)で程心の親友・艾(アイ)AAと二人ぼっちになった天明は、秘めた過去を語り出す。三体艦隊に囚われていた間に何があったのか? 『三体III 死神永生』の背後に隠された驚愕の真相が明かされる第一部「時の内側の過去」。和服姿の智子が意外なかたちで再登場する第二部「茶の湯会談」。太陽系を滅ぼした〝歌い手〟文明の壮大な死闘を描く第三部「天萼」。そして――。 《三体》の熱狂的ファンだった著者・宝樹は、第三部『死神永生』を読み終えた直後、喪失感に耐えかねて、三体宇宙の空白を埋める物語を勝手に執筆。それをネットに投稿したところ絶大な反響を呼び、《三体》著者・劉慈欣の公認を得て、《三体》の版元から刊行されることに……。ファンなら誰もが知りたかった裏側がすべて描かれる、衝撃の公式外伝(スピンオフ)。

 

 

まずはじめに

冒頭の作品紹介でも記載したが、『三体X 観想之宙』は完全に三体マニア向けの内容である。したがって本紹介記事では三体Xのネタバレになるようなことはなるべく記載しないようにするが、三体三部作の内容にはある程度触れるので、これから三体三部作を読まれる方(まぁそんな人はいないだろうが)はここから先は読まないことを推奨したい。

それと三体三部作を読破して、三体Xが気になっているが著者がオリジナル作者の劉慈欣ではないという理由で購入を躊躇している方は悩まず購入することをおすすめしたい。賛否両論を巻き起こす要素がテンコ盛りではあるものの、SFとして文句なしに素晴らしい内容であり、三体を補完するという意味でも完璧である。

 

青色惑星(プラネット・ブルー)でイチャラブ♡

『三体X 観想之宙』は全三部構成+終章+終章以降の宇宙を描いたノートという構成である。第一部の「時の内側の過去」は死神永世でプラネット・ブルーに二人っきりになってしまった雲天明と艾AAがイチャイチャしながら、三体文明に脳をデリバリーされて地獄の日々を送った雲天明の物語と、さりげなく壮絶な過去を持つ(という設定になった)艾AAの秘密を語り明かすという内容である。

早くも『三体三部作』の硬派な印象がぶっ壊れているので、三体信者の中にはイラっと来る人もいるかもしれないが、”ロボットガール智子さん”のモデルとなった人物の正体を知ったらドン引きするかもしれない。なぜなら日本の〇〇女〇・〇〇蘭だからである。私もけっこうお世話になった女優なので「ははは...宝樹最高かよ!!笑」という気持ちがある一方で、智子さんを映画『SAYURI』のチャン・ツィイーで脳内再生していた小生の夢が潰されるという「痛恨の極み」を味わうことになり、二つの感情の間で”量子もつれ”が発生してしまった(笑)。

着物×アジアン超絶ビューティーといったら彼女しか知らん

思わぬ方向に話がずれてしまったが、人によっては上記の内容を圧倒するほど驚きの妄想設定がある。ずばりオリジナルの三体ではほとんど描かれなかった三体人の姿である。その衝撃的な姿に対してかなり説得力のある説明がなされていたものの、「そんなのはイヤだ!」「絶対に認めん!」となること請け合いであろう。私もその設定はイヤ派である。
そしてもう一つの妄想設定が艾AAの生い立ちである。「どこの魍魎の匣だよ」と心の中でツッコミを入れつつもこの設定はかなり好き。ぜひ読んでいただきたい。結局のところ第一部はイチャイチャラブラブしていたのである(笑)。しかし死神永世では主人公・程心が微妙で艾AAの方が良いキャラしてるよなぁとか思っていたら、見事に最高のヒロインに進化していて感動してしまったよ。

 

宇宙#647で智子さんとペチャクチャ

第二部。艾AAさんと語り明かした後は舞台が宇宙#647に変わって、今回も懲りずに雲天明と智子さんがひたすらしゃべりまくります(笑)

話す内容はあまりにもハードSF過ぎて、SFにまったく興味が無い人が読んだら頭がおかしくなってしまうかもしれない。どんな話かというと、かつて宇宙は十次元のパーフェクトワールドであったが、とある理由から低次元化を望む勢力が現れて、二つの勢力がドンパチして次元攻撃などおなじみの超攻撃によって、宇宙が低次元化していく様が延々と語られていくのである。まぁマニア向けですね。

しかも智子さんと語り合っていく中で、涼宮ハルヒの特にアニメではえらいことになっていた『エンドレスエイト』が実にさりげなく、かつ効果的に登場する。智子のモデルといい、涼宮ハルヒといい、やはり宝樹は最高である。

またもや話がオタクネタの方にブレてきてしまったが、SFとして本当に素晴らしくて、しかも壮大極まるため、これ以上ないほど「いま俺はSFを読んでいる」感に浸ることができるだろう。それと雲天明がとんでもないことになるのはけっこう笑える。

 

もうなんだかよく分からん

第三部はなんと『三体Ⅲ 死神永世』でとんでもない”紙きれ”を放って太陽系を滅ぼしたあの”歌い手”の物語である。

とんでもないハードSFなのかもしれないが、とんでもないことをし過ぎていて、SF熟練度がまだまだ未熟な私にはファンタジーにしか思えず、風景も想像しにくい(というか想像できる人は三次元人ではないだろう)のだが、何をしていて何が起きたかという大枠は分かりやすくなっている。

要するにスーパーマンとなった雲天明が、死神永世のコンスタンティノープルに登場したあの高次元女と大活躍してしまうのである。私には現状これ以上この章の紹介は難しいので読んでいただくしかないのだが、”紙きれ”すら子供だまし級に感じてしまうほどの途方もないスケールの争いは読んでいて( ゚д゚)となってしまうこと間違いなしである。

 

程心ご乱心...そして大団円へ

終章になってようやく登場する程心はもう完全に残念なキャラになってしまっています(笑) 嵌められてヒステリー起こして智子さんと大喧嘩してみたりと完全にキャラが崩壊しているのだけど、この爆発力を執剣者になった時に発揮できていれば水滴無双は避けられただろうに...などと浸っていると宇宙は......。

終章後の世界は本当にたまらない。智子さんキャラ崩壊に伴うの天明お兄様が連発とかもうどうすればいいのやら(笑) 最後の最後は宝樹の劉慈欣に対するリスペクトが感じられるとともに、見事に三体ロスを叩きつぶして最高の大団円を迎える。

理解が難しいシーンも多々あったけど、ラストシーンでは正真正銘のカタルシスを得ることができて、死神永世読了後以降に続いていた無気力感を、憑き物が落ちたかのようにきれいさっぱり拭い去ってくれた。宝樹には感謝するしかない。

 

これはひどい記事だ

死神永世の延長線上にある物語だけあって、かなり難解だったりスケールがデカ過ぎたりするせいで、説明が難しく全然紹介になってなかった...(泣)

まぁとりあえず三体三部作を読んだ人なら避けては通れない内容なので、少しでも興味を持たれたならぜひとも読んでください。超凄いです。それと宝樹さんがいかに素晴らしい作家なのかというのもビシビシ伝わってくるので、現状は『時間の王』しか翻訳されていないが、これを機に長編作品も翻訳していただきたいものである。

 

 

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