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『AΩ 超空想科学怪奇譚』小林泰三|大怪獣とヒーローが、 この世を地獄に変える(笑)

やっちゃった感満載の超SFハード・バトルアクション

 

作品紹介

小林泰三による『AΩ 超空想科学怪奇譚』は2001年にKADOKAWAより出版された作品で、文庫で500ページ程度の長編である。2023年に角川ホラー30周年で小林泰三作品が復刊される中で新装丁となって復刊された。

長めの長編ということもあり、複数ジャンルを内包する内容になっているが、本作のメインと言えるのはハードSFである。次いで著者お得意の超絶グロだろうか。読者を選ぶ要素がオンパレードな作品だが、宇宙生命体を説明したハードSFのパートはとても完成度が高く、SF好きで小林泰三の作品を読んでいる方にはたまらない内容であると言える。

続いて悪ノリ感もあるグロホラー要素が濃厚になってくる後半は、悪趣味極まりなくグロホラーを求めて小林泰三作品を読む変態を満足させることだろう。

正直に言うならば、無駄にグロ過ぎたり、作品の質を落とす要素でしかないと感じるオマージュがあるなど、惜しい部分が多過ぎてごく限られた方にしかおすすめできない作品になってしまっている。しかしダメな部分を許容して楽しめる読者にとっては至高の作品となり得るだろう。

人を選ぶが、選ばれし者にとって聖典になり得る作品というのは私が本ブログで最も重視する要素であり、ある意味最もおすすめしたい作品である『AΩ』を紹介していく。

 

 以下、あらすじの引用

大怪獣とヒーローが、 この世を地獄に変える。旅客機の墜落事故が発生。凄惨な事故に生存者は皆無だったが、諸星隼人は一本の腕から再生し蘇った。奇妙な復活劇の後、異様な事件が隼人の周りで起き始める。謎の新興宗教「アルファ・オメガ」の台頭、破壊の限りを尽くす大怪獣の出現。そして巨大な「超人」への変身――宇宙生命体“ガ”によって生まれ変わり人類を救う戦いに身を投じた隼人が直面したのは、血肉にまみれた地獄だった。科学的見地から描き抜かれた、超SFハード・バトルアクション。

 

 

小林泰三作品

SFとホラー好きから読書好きになった私にとって、小林泰三は最初期から贔屓にしていた作家である。しかし本ブログでは著者の作品を本記事執筆時点でほぼ紹介していないのには理由がある。

ハードSFとグロホラーの領域で非常にハイスペックな著者だが、この度小林作品が復刊される中、作品を読み返して感じたのは、人物が描けていないとネタにされる新本格ミステリ以上に人物が描けていないことである。登場人物はテンプレートのようなキャラクターが多く、言動も三文芝居のような印象が濃厚なのだ。どんなに優れたアイデアによって書かれた作品でも読後の印象が弱ければあまり紹介する気になれないのである。

しかし本作は、色々とブッ飛び過ぎていることと、エンターテイメントに特化しまくっているため紹介しようと思った次第である。

 

めちゃクソ面白そうなプロット

ネタバレにならない(であろう)範囲であらすじを書くが、書いていてもクッソ面白そうだなぁ...という感じである。

始まりは旅客機野墜落事故である。旅客機に乗っていた主人公の妻が事故現場を訪れて夫の生死の確認(死んでいるに決まっているような凄惨な状況)をしていたところ、夫の遺体の一部っぽい部分を発見する。悲しむシーンに入る展開なのだが、かくかくしかじかで夫は再生→復活→びびって嘔吐ッ!!

そして謎の宇宙知的生命体の話になり、宇宙生命体の生態や旅客機を墜落させるに至るまでの経緯が説明される。その後再生した主人公はウルト〇マンに変身して、謎の生命体・怪獣と戦いを繰り広げ、世界がびっくり仰天の超絶地獄になっていくのである(笑)

あらすじの時点で「なんじゃそりゃ」な感じだが、中身はもっととんでもないことになっている。とりわけ腐乱死臭が匂い立つ冒頭シーンや宇宙生命体の生態、ウ〇トラマンへの変身シーンの詳細な描写は素晴らしく、中盤までの完成度でいえば確実に小林泰三作品の最高傑作と言えるだろう。なのに後半と言ったら....(それはそれでいいんだけど)

 

墜落遺体

冒頭の夫の生死を確認に行くシーンは、小林泰三お得意のグロテスクな描写が全開と言いたいところだが、飛行機が夏に墜落した場合、バラバラになった遺体の腐敗進行も早く、実際に地獄的な腐乱死臭地獄になるそうである。

話が逸れてしまうが、飯塚訓による『墜落遺体 御巣鷹山日航123便』というノンフィクション作品では、地獄と化した実際の現場が非常にリアルに描かれている。私の読書人生の中でも、小説非小説含めたランキングでトップクラスに入る神本なので、この場でおすすめしておこう。こんな紹介をすると不謹慎だが、創作のグロを超えた真のグロ地獄が待っている。

 

1985年8月12日、群馬県御巣鷹山日本航空123便が墜落。覚悟も準備もできないまま、一瞬にして520人の生命が奪われた。奇蹟の生存者はわずか4人。本書は、当時、遺体の身元確認の責任者として、最前線で捜査に当たった著者が、全遺体の身元が確認されるまでの127日間を、渾身の力で書きつくした、悲しみ、怒り、そして汗と涙にあふれた記録。

 

プラズマ生命体の生態系

個人的に私が小林泰三に求めているのはハードSFであり、デビュー作『玩具修理者』でも表題作よりも「酔歩する男」に惹かれたという事情がある。

どちらかというと小林泰三作品のファンはグロホラーそして入った層が多く、何なら女性ファンも多いのではないかという気がしている。そんな中、非SFファン層にはついていけないレベルのハードSF描写でプラズマ生命体の生態系ともう一人の主人公”ガ”の状況が説明される。(”ガ”というネーミングセンスが光るが、本当のフルネームは最後に明かされる)

プラズマ生命体を説明するという時点で気合が入りまくっているが、説明は多岐にわたっていて、人間(というより地球の生命体)とはまるで異なる生殖行為など、オリジナリティ溢れまくった解説が楽しめる。私はそれなりにSF小説を読んでいると自認しているが、既視感は感じなかったことからも独創的だと言えると思う。

 

ウルト〇マン VS 怪獣

色々あって墜落遺体から復活した主人公は超人に変身し、これまた色々あって地球に現れた怪獣と「ダッ!!」などとあからさまにウ〇トラマンの気合声を発して戦うのである。怪獣との戦闘シーンにも力は入っているが、人間からウルト〇マンに変身する過程が異様に詳細に描かれていて、本物のウルトラマンもこうやって大きな犠牲を払いながら変身しているのかなぁ...と思いながら読んでいた。

変身シーンや変身後の描写を妙に丁寧に書くあたりが理系のハードSF作家という感じだが、この辺が著者の、そして本作の魅力だと思う。他に面白いというか強烈なのが、ウルト〇マンに変身した主人公の必殺技が鬼強いことである。最初から使えよ...と思わざるを得ないレベルのオーバーキルっぷりで笑えてくることだろう。

ヒーローと怪獣が戦うこのあたりのシーンまでは本当に面白く、ここでうまいこといい感じに締めくくっていれば、本作は超傑作になっていたと思う。ここから先は悪夢のヤスミンワールドに突入していく。。。

 

悪趣味全開の地獄が幕を開ける

後半の悪趣味っぷりは尋常ではない。小林泰三作品はエグイ描写や悲惨な描写が多々あるが、本作の悪趣味さは最悪レベルであり、グロい、キモい、痛い、苦しい、臭い、BBAの口から脱糞危機などありったけの最悪を詰め込んだかのようである。

また『ジョジョの奇妙な冒険 第一部』をパロった怪物との戦闘も、怪物の異形とギャグのような怪物のネーミングにそこはかとないB級感から来る気持ち悪さがある。この悪趣味な後半シーンは高く評価する人もいるかもしれないが、個人的には悪ノリし過ぎてちょっともったいない、という印象である。(ちなみにクトゥルフ神話要素もごく微妙に入れてきている)

過去のSFやホラーの傑作をオマージュする形で盛り込むのは良いと思うのだが、露骨にセリフまでそのままで入れてしまうのは、前半のオリジナリティ溢れる部分を帳消しにしてしまう感じがするし、作品の品位を落としてしまっているようにも思う。

とはいえこの悪趣味地獄を超えたラストシーンはなかなか胸に込み上げてくるものがある良シーンなので、読後感はある程度の喪失感とカタルシスを味わうことができる。

 

角川ホラー文庫よもっとやってくだされ

角川ホラー文庫小林泰三作品は新品では入手できなくなっており、また昔の角川ホラー文庫あるあるで表紙のイラストの手抜き感が否めないので、新装版での復刊は大変ありがたいものである。願わくば『臓物大展覧会』くらいまでの作品は新装版で復刊してほしいものである。

 

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