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『タイタン』野﨑まど|人類の命運がかかった”おねショタ”

仕事とは何かを考え進撃する巨人

 

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とても秀逸な表紙だ

 

作品紹介

 野﨑まどによる『タイタン』は2020年に講談社より出版された作品である。
単行本で400ページ弱と野﨑まど作品の中ではボリュームが多い部類に入り、ジャンルもハードSFなので非常に読みごたえがあるのだが、野まど作品に共通するラノベに通じる高いリーダビリティは本作でも健在であり、非常に読みやすいのが特徴である。

SF作家としてもミステリー作家としても高い評価を得ている著者が、AIが仕事をすることにより、人類が仕事をする必要がなくなった2205年を舞台としたハードSFな世界観の中で、”仕事とは何か”という魅力的な謎を極めて論理的に突き詰めていく物語なので、人を選ぶ作風の著者ではあるが、万人におすすめできる非常に素晴らしい作品となっている。

これ以上はネタバレになりかねないので本記事の後半に記載するが、非常にエンターテイメント要素が高いのも高ポイント。興味を持たれた方にはぜひとも読んでいただきたい一冊である。

 

 以下、あらすじの引用

至高のAI『タイタン』により、社会が平和に保たれた未来。人類は“仕事”から解放され、自由を謳歌していた。しかし、心理学を趣味とする内匠成果のもとを訪れた、世界でほんの一握りの“就労者”ナレインが彼女に告げる。「貴方に“仕事”を頼みたい」彼女に託された“仕事”は、突如として機能不全に陥ったタイタンのカウンセリングだった―。

 

後半はネタバレありで感想を書きます。

野﨑まど作品は基本的に何を書いてもネタバレになりやすい傾向がある。

『タイタン』も例外ではなく、前情報ゼロで読んだ方が圧倒的な驚きを体感することができるので、ネタバレ無しの記事にしたいところだが、悲しいことにそれでは本作の魅力を書くことは(少なくとも私には)無理なので、途中から物語の内容に触れさせていただくが、ネタバレ要素を含むことは事前に記載する。

 

踏み込んだあらすじ

本作はハードSF=科学的な本格的なSFである。

2205年には21世紀中ごろに誕生したAI『タイタン』の恩恵を享受して、人間は働く必要がなくなっている。(人間が働くと効率が悪くなるため、AIにすべてを任せた方が生産性が高い状況....この辺はなかなか著者の皮肉が利いていて面白い)

そんな素晴らしい(泣)世の中で世界中に12基ある知能拠点の内の第二拠点、『コイオス』が原因不明の性能低下に陥ってしまい、心理学を仕事....ではなく趣味としている、内匠成果(人名で女性)がAIのカウンセリングをするという物語である。

踏み込んだあらすじと言いながらもこれ以上はネタバレになるので控えざるを得ない。

他の野﨑まど作品を読まれた方ならすでに認識されていることだろが、野﨑まどは並みの作家とはレベルの違う天才である。というか異次元過ぎる。SFやミステリーを読んでいると稀に「本当によくこんなの書けるよなぁ」と思うことがあるのだが、野まど作品では著者が驚かせることを狙ったと思われる作品ではもれなく、上記の感想を持つことになるのである。

そんな稀代の天才が仕事とは何かを追求するのだからとにかく面白く、好奇心を刺激されまくるのである。

 

史上最大規模のおねショタ

さて、本作はこれ以上ないほど壮大なおねショタ物語でもある(笑)おねショタとは何かを知らない一般人のために、念のためおねショタとは何かグーグル先生に聞いてみよう。

 

おねショタとは、主に漫画作品のジャンルにおいて、年上の女性と年端も行かない少年とのカップリングを指す俗語。 ショタコンに代表する少年性愛や、もしくは年の差カップルなどのカテゴリ内に属する細分化された派閥である。 英語圏のインターネットには、日本のおねショタに相当する「Ara Ara」というスラングがある。

wikipediaより引用

 

だそうである。ちなみにエロは一切ないのでご安心ください。

予想はつくだろうから書いてしまうと、人知を超えた知性を持つAIも、カウンセリングのためにいざ人格を発現させるとなると、子どもになってしまうのである。

つまり内匠成果というお姉さんが”コイオス”という子どものカウンセリングをしてしまう話であり、失敗すると残された11基のAIでは人類すべての生活をカバーすることができないため結果的に10億人以上の人類の命運がかかったおねショタということになるのである。野﨑まどってこんなのも書けるのか....と驚嘆しつつクオリティの高い対話にこれでもかというほど知的好奇心を刺激されるのだからたまらない。

この対話は本当によくできており、ファーストコンタクトSF的な要素も多いのでSF好きが熱くなることは確実だろう。

 

以下、ネタバレ注意

何から何までネタバレするわけではないが、どうしても書きたいことがあり物語の展開には大きく触れるので、これから読もうと思われる未読の方は注意していただきたい。ただしすぐには読む気のない方や、読もうか迷っていて少しくらいなら判断材料としてネタバレがあっても問題がないという方は、物語のミステリ部分には触れないので読んでもいいかもしれない。

 

超大型巨人!?

私は中盤以降の展開と超ド派手なシーンに歓喜のあまり震えてしまったのである。

というのもAI『タイタン』は人間の思想に則った思考をするために、ハードウェアは人間の”脳”の形が取られている。しかし人間の脳を人間以外の動物の体に搭載したとして、人間と同じように考えられるであろうか.....答えはもちろん「NO」である。

つまり脳の形をしたAIは人間の形をした骨格に搭載させられているのである。その骨格の大きさたるや全長1000メートル。『進撃の巨人』に出てきた超大型巨人(60m)も真っ青の超特大サイズの巨人なのである。

そんな超超超大型巨人がね....カウンセリングの結果「ルルルルルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」と唸って立ち上がってしまうんです。このシーンでもう私は脳内麻薬が出まくってぶるぶる震えてしまったのである。(あとにさらにすごいことが待っているとも知らずに)

 

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こいつの16倍強のデカさなんですぞ(泣)

超野﨑まど展開炸裂!!

全長1000メートルの巨人が立ち上がったことですでにビックリMAXなのですが、なんと12基の巨人の中でも最も後に創られた巨人『フェーベ』に会いに行くため、第二知能拠点の北海道から第十二知能拠点であるアメリカはシリコンバレーまで歩いて行ってしまうのです!これぞおねショタロードムービー!!

この旅路がなんとも言えずほっこりしてとても良いのですよ。野﨑まど作品は冒頭で何を書いてもネタバレになりうると書かせていただいたのだが、本作の最後に参考文献があり、そこには『地球の歩き方』のロシアからシベリア、アラスカ、そしてカナダが挙がっているのである(少しネタな気もする)。参考文献を読んでもネタバレになりうるのが野﨑まど作品である。

 

感激極まる

人知を超えた超知性を持つ『コイオス』と最後の巨人『フェーベ』ーちなみにこのAIはアラサーくらいの女性の人格であるーが出逢ってどんな対話をするのだろうか、こういった人知を超えたもの同士の対話といったテーマは野﨑まどの十八番と言っても良いようで、ハードSFとして完成度の高い『know』でも似たような状況があったのだが、『タイタン』ではどうなるのか。なんと”戦う”のである。

この二体の戦闘はすさまじく(まぁデカいのだから当然だが)、『進撃の巨人』でいうなら戦鎚の巨人の能力を持った超大型巨人の16倍デカい鎧の巨人VS進撃の巨人級に未来を見据えて戦鎚の巨人の能力を持った超大型巨人のよりも圧倒的にデカい女型の巨人の戦いということになる(じつはこれが書きたくてこの記事を書きました(笑))

もうこういうの本当に好きで、一人で宴を始めてしまうくらいには我を忘れて歓喜してしまったのです。もちろんこの戦いには極めて必然的な理由があるので、その理由については本編でご確認いただければ幸いである。

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まさにこんな感じ....野まど万歳!

 

野まど的ラスト

いろいろと激しいアクションシーンを経て、”仕事とは何か”と”コイオスの機能不全の理由”という二つのミステリーを解き明かした内匠成果&コイオスのおねショタコンビは、まさに天才野﨑まどでしか思いつかないようななるほど....と唸らせる結末を迎えるのである。本作『タイタン』についてはあまり他人のレビューを拝見していないのだが、個人的には素晴らしいラストだと思う。というかこれ以上の結末は考えられないように思う。

 

今日も働く、人類へ

「仕事に疲れちゃった」とか「仕事にやりがいを感じない」ということで悩んだり、悩み過ぎて鬱っぽい症状が現れている方には本気でおすすめしたい。

野﨑まどは天才なので、作中に登場するカウンセリングについても非常に研究されたうえで書かれているようで、上記のような症状の方には様々な気付きを与えてくれるように思うからである。

登場人物は非常に少なく、文体も読みやすいのでSFが苦手な方でも問題なく読めることは保証する。超おすすめ。

 

 

 

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