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『三体0 球状閃電』劉慈欣|超兵器降臨、圧倒的なハードSFミステリー

神本『三体』は前日譚も神だった

 

作品紹介

劉慈欣による『三体0 球状閃電』は2022年に早川書房より出版された、三体シリーズの前日譚と銘打たれた作品で、単行本で420ページ程度の長編である。本国では2005年に単行本化している。

本書の邦題は”三体”を冠しており、シリーズ前日譚として売り込まれているが、これは大人の事情であり三体との繋がりはほとんどない。ただ主要人物の一人が三体でも登場することや、本作で登場する超兵器が三体の原書では登場するなど、前日譚と言って差し支えないくらいには三体に関わっている。

安心安定の劉慈欣クオリティで、ハードSFの醍醐味は標準装備していながら、ミステリーやホラーの手法も見受けられる超面白エンターテイメント作品となっている。とにかく読む手が止まらないタイプの展開で読み始めたら一気読みしてしまうだろう。

毎度奇想天外なアイデアを提示してくれる劉慈欣作品だが、本作では思いもよらぬ球電の正体と量子論が中心となって物語を盛り上げる。三体シリーズを読んだ方もそうでない方にもおすすめできる良質なSFミステリーである。本記事に辿り着いついたのなら必ず読んでいただきたい。

 

 以下、あらすじの引用

激しい雷が鳴り響く、14歳の誕生日。その夜、ぼくは別人に生まれ変わった――両親と食卓を囲んでいた少年・陳の前に、それは突然現れた。壁を通り抜けてきた球状の雷(ボール・ライトニング)が、陳の父と母を一瞬で灰に変えてしまったのだ。自分の人生を一変させたこの奇怪な自然現象に魅せられた陳は、憑かれたように球電の研究を始める。その過程で知り合った運命の人が林雲。軍高官を父に持つ彼女は、新概念兵器開発センターで雷兵器の開発に邁進する技術者にして若き少佐だった。やがて研究に行き詰まった二人は、世界的に有名な理論物理学者・丁儀に助力を求め、球電の真実を解き明かす……。世界的ベストセラー『三体』連載開始の前年に出た前日譚。三部作でお馴染みの天才物理学者・丁儀が颯爽と登場し、“球状閃電”の謎に挑む。丁儀がたどりついた、現代物理学を根底から揺るがす大発見とは? 《三体》シリーズ幻の"エピソード0"、ついに刊行。

 

 

どんな話か

あらすじの引用にある通り、主人公・陳の誕生日に謎の球電が物体を透過して突如目の前に現れ、球電に触れてしまった両親が一瞬にして灰になり、「駆逐してやる!!この世から・・・一匹残らず!!」ではなく、球電の正体を解き明かすことに人生を捧げる物語である。

したがって物語の展開は球電の正体を追い求めるミステリー問題編の第一部、探偵役であり三体の主要人物でもある丁儀が謎を解きまくるミステリー解答編の第二部、壮絶なクライマックスの第三部という構成になっている(ちょっと適当)

物語の展開や探偵役が存在するなど、『三体』の(特に)黒暗森林でも感じたことだが、劉慈欣はとにかくミステリー手法を活かしたストーリーテリングが上手である。著者の他作品の記事でも書いているが、劉作品が面白いのはSF的奇想天外ギミックが面白いだけでなく、話の展開自体が猛烈に続きが気になりまくる仕様になっていて、読みやめるタイミングを失うことにあると考えている。

まぁ何が言いたいかというと問答無用にクソ面白いということである。

 

球状閃電って何?

そもそもこの本が出るまで私は球状閃電=Ball Lightning という自然現象が存在することを知らなかったので、どんなものなのか説明したい.....と言いたいところだが、作中で語られる球状閃電と自然現象の球状閃電はまったくの別物である可能性が高いのでここで触れてもあまり意味がない。それは著者自身も作中での球状閃電の正体は実際はまったく違うだろうと言っているし、球状閃電の本当の正体を解き明かすのは自分の仕事ではなく、その能力もないと語っている。

でも一応書いておくと、自然現象の球状閃電は球状の雷である。それっぽい参考動画のリンクを貼っておくが、人魂のようにふわふわ浮遊しており触るとヤバいというものである。

さらに作中の設定では、ネタバレ防止のため簡易な記載に留めておくが、落雷のように黒焦げになるのではなく、それを圧倒する威力と特殊な攻撃性能を持っており、その設定がミステリー、ホラー的要素を高めるのに一躍買っている。

 


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理系が考える典型的な女

私は文系大学卒でありながらIT業界で働いているため、理系の男&女が周りに溢れかえっている。(ちなみに男女比は9.5:0.5である)

大変失礼なことを書くと、理系の女性は「なんか冴えないけどよく見ると割とキレイなのに、やたら頭でっかちで口げんかが異様に強くムカつく」というイメージを抱いてしまっている。そんな女性ばかりなのに、なぜか理系の作家が描く女性はミステリアスで圧倒的な知識や能力を持つ美女として書かれることが多い(ような気がする)

劉慈欣が本作で描くヒロインはThe・理系の男性の理想像のようなキャラクターで、恋愛小説や青春小説といったジャンルにはまず登場しないタイプの人物像なので、このあたりで普段SFを読まない人は感情移入できなくなるかもしれないが、本作にはふさわしい人物である。

典型的な理系の男女が別にイチャイチャするわけでもなく、魅力に満ちた謎を追い求めていく展開はたまらないのである。

 

量子論

ネタバレNG系の作品なので詳細には触れないが、本作では量子論が非常に重要な意味合いを持ってくる。量子論が何だか分からない人は少しググったりして少しでも把握してから読むと数倍は面白くなる。

とりわけ生きているか死んでいるかは見てみないと分からん。でお馴染みの有名な思考実験「シュレディンガーの猫」のようなシチュエーションが怪現象として不気味に描かれるのだが、その描写に劉慈欣のセンスを感じる。

何年も誰も住んでいないはずの家であり、誰も侵入した形跡はないにも関わらず、なぜか数年放置されたようなさびれた感じはなく、生活感があるといったシーンが序盤で挿入されるのだが、こういった不気味なシーンがちらほら挿入されるのである。

このようなありえない怪現象が作中の理論で解明されるので、こういったミステリー好きであれば謎が気になり過ぎて一気読みさせられるだろう。

 

エモい(死語かな...?)

劉慈欣は天性のエモい作家である。なおこの記事では「エモい」の意味を「心が揺さぶられて、何とも言えない気持ちになること」と定義する。

多くの劉慈欣作品でエモいシーンが連発されるのだが、とりわけ本作では究極レベルのエモいシーンが2か所ほどあり、一つ目の悲しい激エモシーンが二つ目の超兵器エモシーンと結びつくあたりで私は「ぶおっッ」となってしまったのである。

SF的なギミックの積み重ねで築き上げた超絶エモーショナルなシーンをぜひ堪能してほしい。著者がSF作家として凄いのではなく、作家として純粋に凄いのだということが分かるはずだ。

 

劉慈欣無敵伝説

日本語訳された劉慈欣作品はすべて読んでいるし、これからも読み続けるだろうが、いまだかつてこれほどまでにハズレがなくすべてが超高品質な作家に出会ったことがない。何と言っても『三体シリーズ』が有名だが、無理矢理な前日譚である本作含め、ありとあらゆる話が面白すぎるので、すべての作品を超おすすめしたい。

『三体0 球状閃電』までに日本語訳された作品は全作品記事にしているので、気になる方は以下のリンクからぜひお読みいただければ幸いである。

 

 

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