天に選ばれし唯一無二の才能
16歳の時に『夏と花火と私の死体』を著してデビューした異能の天才作家、乙一。
唯一無二の作風もさることながら、正体を伏せて別名義でも執筆していたり、映画監督をしていたりと、掴みどころのない方だ。
中短編が多くとても読みやすいのが特徴のため、スマホを筆頭に様々な娯楽があふれている現代社会で、若い世代に読書の魅力を伝えるには最高の作家なのかもしれない。この記事ではそんな天才乙一作品の中でも、乙一名義の作品に絞って紹介したい。
作品一覧
この記事では乙一名義の作品のみ格付けするが、別名義の作品も含めて一覧化した方が分かりやすいので名義ごとに分けつつ発表順に並べる。ただ全作品を並べると異常に分かりにくいので、ライトノベルのレーベルから発表されたものや絵本、一部の児童書、共著などは割愛する。
要はマニアックな作品を除き、名の知れた出版社から文庫化された、または今後されそうなもののみ記載したと考えていただきたい。
乙一名義
- 夏と花火と私の死体 集英社(1996年)
「夏と花火と私の死体」
「優子」 -
天帝妖狐 集英社(1998年)
「A MASKED BALL」
「天帝妖狐」 -
石ノ目 【改題】平面いぬ。 集英社(2000年)
「石ノ目」
「はじめ」
「BLUE」
「平面いぬ。」 - 暗黒童話(2001年)
- 死にぞこないの青 (2001年)
- 暗いところで待ち合わせ(2002年)
-
GOTH リストカット事件(2002年)
「暗黒系 Goth」
「リストカット事件 Wristcut」
「犬 Dog」
「記憶 Twins」
「土 Grave」
「声 Voice」〇GOTH 夜の章(2005年)「暗黒系 Goth」「犬 Dog」「記憶 Twins」
〇GOTH 僕の章(2005年) 「リストカット事件 Wristcut」「土 Grave」「声 Voice」 -
ZOO(2003年)
「カザリとヨーコ」
「血液を探せ!」
「陽だまりの詩」
「SO-far そ・ふぁー」
「冷たい森の白い家」
「Closet」
「神の言葉」
「ZOO」
「SEVEN ROOMS」
「落ちる飛行機の中で」〇ZOO 1(2006年)「カザリとヨーコ」「SEVEN ROOMS」「SO-far そ・ふぁー」「陽だまりの詩」「ZOO」
〇ZOO 2(2006年) 「血液を探せ!」「冷たい森の白い家」「Closet」「神の言葉」「落ちる飛行機の中で」「むかし夕日の公園で」 - 失はれる物語 (2003年)
「Calling You」
「失はれる物語」
「傷」
「手を握る泥棒の物語」
「しあわせは子猫のかたち」
「マリアの指」
「ボクの賢いパンツくん」
「ウソカノ」 - 小生物語:エッセイ(2004年)
- 銃とチョコレート(2006年)
- “The Book” jojo's bizarre adventure 4th another day(2007年)
- GOTH モリノヨル(2008年)
〇GOTH 番外篇 森野は記念写真を撮りに行くの巻(2013年) - 箱庭図書館(2011年)
「小説家のつくり方」
「コンビニ日和!」
「青春絶縁体」
「ワンダーランド」
「王国の旗」
「ホワイト・ステップ」 - Arknoah 1 僕のつくった怪物(2013年)
- Arknoah 2 ドラゴンファイア(2015年)
- 花とアリス殺人事件(2015年)
- シライサン(2019年)
- サマーゴースト(2021年)
- 一ノ瀬ユウナが浮いている(2021年)
- さよならに反する現象(2022年)
「そしてクマになる」
「なごみ探偵おそ松さん・リターンズ」
「家政婦」
「フィルム」
「悠川さんは写りたい」 - 野良犬イギー(2022年)
山白朝子名義
- 死者のための音楽(2007年)
「長い旅のはじまり」
「井戸を下りる」
「黄金工場」
「未完の像」
「鬼物語」
「鳥とファフロッキーズ現象について」
「死者のための音楽」 - エムブリヲ奇譚(2012年)
「エムブリヲ奇譚」
「ラピスラズリ幻想」
「湯煙事変」
「〆」
「あるはずのない橋」
「顔無し峠」
「地獄」
「櫛を拾ってはならぬ」
「「さあ、行こう」と少年が言った」 - 私のサイクロプス(2016年)
「私のサイクロプス」
「ハユタラスの翡翠」
「四角い頭蓋骨と子どもたち」
「鼻削ぎ寺」
「河童の里」
「死の山」
「呵々の夜」
「水汲み木箱の行方」
「星と熊の悲劇」 - 私の頭が正常であったなら(2018年)
「世界で一番、みじかい小説」
「首なし鶏、夜をゆく」
「酩酊SF」
「布団の中の宇宙」
「子どもを沈める」
「トランシーバー」
「私の頭が正常であったなら」
「おやすみなさい子どもたち」 - 小説家と夜の境界
「墓場の小説家」
「小説家、逃げた」
「キ」
「小説の怪人」
「脳内アクター」
「ある編集者の偏執的な恋」
「精神感応小説家」
中田永一名義
- 百瀬、こっちを向いて。(2008年)
「百瀬、こっちを向いて。」
「なみうちぎわ」
「キャベツ畑に彼の声」
「小梅が通る」 - 吉祥寺の朝日奈くん(2009年)
「交換日記はじめました!」
「ラクガキをめぐる冒険」
「三角形はこわさないでおく」
「うるさいおなか」
「吉祥寺の朝日奈くん」 - くちびるに歌を(2011年)
- 私は存在が空気(2015年)
「少年ジャンパー」
「私は存在が空気」
「恋する交差点」
「スモールライト・アドベンチャー」
「ファイアスターター湯川さん」
「サイキック人生」 - ダンデライオン(2018年)
著者複数(笑)
- メアリー・スーを殺して 幻夢コレクション(2016年)
乙一/中田永一/山白朝子/越前魔太郎/安達寛高
「愛すべき猿の日記」
「山羊座の友人」
「宗像くんと万年筆事件」
「メアリー・スーを殺して」
「トランシーバー」
「ある印刷物の行方」
「エヴァ・マリー・クロス」 - 沈みかけの船より、愛をこめて 幻夢コレクション(2022年)
乙一/中田永一/山白朝子/安達寛高
「五分間の永遠」
「無人島と一冊の本」
「パン、買ってこい」
「電話が逃げていく」
「東京」
「蟹喰丸」
「背景の人々」
「カー・オブ・ザ・デッド」
「地球に磔にされた男」
「沈みかけの船より、愛をこめて」
「二つの顔と表面 Two faces and a surface」
作品ランキング
乙一は他の作家では真似ができないような独自の感覚で執筆されているので、いかに乙一らしいかという点を最重視して格付けした。乙一作品は白乙一と称される透明感のあるせつない系の作品と黒乙一と称される残酷な描写を淡々と書く系があるため、どちらに作品なのかにも触れて紹介したい。
ちなみにこれから乙一作品を読もうと考えている人には「乙一らしさってなんだよ」となるかもしれないが、そんな方は短編集『ZOO』の分冊文庫版である『ZOO1』を読むのが手っ取り早い。乙一らしさが完全網羅されている。また別名義の作品がまとめて収録された幻夢コレクションもおすすめである。
15位 銃とチョコレート(2006年)
少年の旅は、甘くてほろ苦い。切なさの魔術師・乙一の快心ミステリ!大富豪の家を狙い財宝を盗み続ける大悪党ゴディバと、国民的ヒーローの名探偵ロイズ対決は世間注目の的。健気で一途な少年リンツが偶然手に入れた地図は事件解決の鍵か!? リンツは憧れの存在・ロイズと冒険の旅にでる。王道の探偵小説の痛快さと、乙一が仕掛ける意外性の面白さを兼ねる傑作!
ミステリーランドという講談社の児童向けの企画レーベルから刊行されているため、やや乙一らしさが乏しい児童向けの長編作品である。もちろん白乙一。
このミステリーランドは「どこが子供向けなんじゃい」とツッコミを入れたくなる作品がある中、『銃とチョコレート』はちゃんとした子ども向けの本なので安心だ。
内容は明らかに江戸川乱歩の少年探偵シリーズを意識したうえで世界観を西洋風にしたような、子供向けではあるが大人もしっかり楽しめるものとなっており、さりげなく凝った仕掛けがあるので伏線を拾いながら読むのも楽しいだろう。
14位 暗黒童話(2001年)
突然の事故で記憶と左眼を失ってしまった女子高生の「私」。臓器移植手術で死者の眼球の提供を受けたのだが、やがてその左眼は様々な映像を脳裏に再生し始める。それは、眼が見てきた風景の「記憶」だった…。私は、その眼球の記憶に導かれて、提供者が生前に住んでいた町をめざして旅に出る。悪夢のような事件が待ちかまえていることも知らずに…。
貴重な黒乙一長編である。
黒乙一ならではの常軌を逸したグロ描写が強烈だが、ファンタジー的な不思議設定はこれぞ乙一と言わんばかりであり、物語には白乙一成分もそこそこ交じっている。
高いリーダビリティとミステリー要素があるため一気読み必至だが、短編に比べるとやや切れ味が悪いと思う。
13位 さよならに反する現象(2022年)
哀しみの先には、何があるのだろう──。乙一作家生活25周年記念短編集!心霊写真の合成が趣味の僕が撮影をしていると、一人の女性がカメラに映りこんできた。しかし撮影されたデータには無人の交差点が映っているだけだった。映りたがりの幽霊、悠川さんがこの世に残した未練とは……?(『悠川さんは写りたい』より)ほか、乙一贈る恐ろしくて切ない出会と別れの短編集。
乙一作家生活25周年記念短編集と銘打たれた作品集。
5作品しか入っていないうえに、1編はおふざけモードな作品であり、さらに1編は企画モノのショートショート作品なのでかなり物足りないのだが、乙一の奥義が炸裂した「家政婦」と「悠川さんは写りたい」の2編はかなり強烈。個人的には特に「悠川さんは写りたい」の物語全体の雰囲気と衝撃的な最後のギャップ萌えがたまらなくて好き。
12位 シライサン(2019年)
親友の変死を目撃した山村瑞紀と、同じように弟が眼球を破裂させて亡くなった鈴木春男。それぞれ異様な死の真相を探る中、2人は事件の鍵を握る富田詠子から、ある怪談話を聞かされる。それは死んだ2人と詠子が旅行先で知った、異様に目の大きな女の話だった。女の名を頑なに告げなかった詠子だが、ひょんなことからその名を口に出してしまう。「お2人は…呪われました」―その日から瑞紀たちの周囲でも怪異が起き始め…。
黒乙一になるのだろうがあまり乙一っぽくない、直球の正統派ジャパニーズホラー長編である。
乙一成分が不足しているので少々物足りなく感じるかもしれないが、ホラー作品としての完成度は高めであり、なにより読んでる最中はさりげな過ぎて気付かないかもしれないが邪悪な真相が隠されている.....のかどうかは要考察。いや、されてるな。絶対。
若い頃のようなセンスは薄れている気がしなくもないが、それを技巧でカバーするといった進化が見られる一冊である。
ちなみに映画版のシライサンが不気味過ぎてヤバいので夜に一人で見たらトイレに行けなくなるくらいの恐怖はある(笑) あの顔は怖すぎるし、設定が凶悪なのでホラー苦手な人がみたらかなりキツいかも。ただ私もそうなのだが、ホラー慣れした人が見たら意外と笑える。ちょっと怖カワイイ。
11位 サマーゴースト(2021年)
“サマーゴースト”という幽霊が現れるという。夏、使われなくなった飛行場、花火をすると、彼女は姿を現すらしい。自殺した女性の幽霊なのではないかという噂だ。ネットを通じて知り合った高校生、友也・あおい・涼。3人は“サマーゴースト”を探すために集まった。3人は幽霊に聞いてみたかった。“死ぬって、どんな気持ちですか?”それを聞くべき理由が、3人にはあったのだ――。
乙一が脚本を務めた映画『サマーゴースト』のノベライズ作品。
これでもかというほど白乙一な作品で物語自体は非の打ち所がないし、映画版を鑑賞しているのなら脳裏に美しい映像が浮かび上がってきて昇天できることだろう。
そんな最高の青春小説なのだが、ノベライズの宿命か全体的に深堀りがされていないように感じるためこの順位にしている。
〇個別紹介記事
10位 天帝妖狐(1998年)
とある町で行き倒れそうになっていた謎の青年・夜木。彼は顔中に包帯を巻き、素顔を決して見せなかったが、助けてくれた純朴な少女・杏子とだけは心を通わせるようになる。しかし、そんな夜木を凶暴な事件が襲い、ついにその呪われた素顔を暴かれる時が…。表題作ほか、学校のトイレの落書きが引き起こす恐怖を描く「A MASKED BALL」を収録。ホラー界の大型新人・乙一待望の第二作品集。
白と黒乙一が適度に混じった中編集である。
当時まだ10代だった青年が書いたとは思えないほど完成度の高い、不思議ミステリーの「A MASKED BALL」と乙一らしい痛々しさのあるダークファンタジー「天帝妖狐」が収録されている。どちらも傑作と言ってよい作品だが、表題作よりも仮面舞踏会を意味する「A MASKED BALL」の方が素晴らしいと思う。真相がよく分からなかった方は我孫子武丸氏の解説を読んでから再読するといかに凝った内容なのかが分かるだろう。
9位 平面いぬ。(2000年)
「わたしは腕に犬を飼っている―」ちょっとした気まぐれから、謎の中国人彫師に彫ってもらった犬の刺青。「ポッキー」と名づけたその刺青がある日突然、動き出し…。肌に棲む犬と少女の不思議な共同生活を描く表題作ほか、その目を見た者を、石に変えてしまうという魔物の伝承を巡る怪異譚「石ノ目」など、天才・乙一のファンタジー・ホラー四編を収録する傑作短編集。
乙一が大学生の時に書いた3作目の短編集で、この作品をもってせつない白乙一は完成したと思う。飛び抜けた傑作はないがどの作品も平均点越えの優等生作品集といったところだろうか。
「はじめ」と「平面いぬ。」は乙一らしさが本領発揮されている。おそらくこんな不思議な感覚は乙一にしか書けないだろう。「BLUE」は『トイストーリー』のような話で乙一作品の中でもかなり泣ける作品である。
1話が70~90ページという適度な長さなので、読みごたえと乙一らしさを味わうことができる。
8位 メアリー・スーを殺して(2016年)
「どこかでお会いしましたっけ?」。そして気づく。少女の目は、左右で色がちがっている。右の虹彩は黒色だが、左の虹彩は赤色。オッドアイ。「もうわすれたの?きみが私を殺したんじゃないか」(表題作より)―切なく妖しい夢の異空間へと誘う、異色“ひとり”アンソロジー。
記念すべき一人アンソロジー第一弾。乙一の様々な名義の7作品が収録された、とてもバラエティ豊富な作品集である。
純白乙一から白乙一、黒乙一、漆黒乙一までこれ一冊で本当に幅広い乙一を堪能することができる。乙一と中田永一名義の4編で白寄りの乙一を堪能していると、山白朝子の『私の頭が正常であったなら』にも収録されている「トランシーバー」の破壊的せつなさによって滂沱の涙に沈められ、そんな心境の中読み進めていくと「ある印刷物の行方」と超黒乙一の「エヴァ・マリー・クロス」でエグイ一撃を喰らうことになる。
まさに幻夢コレクションである。
7位 夏と花火と私の死体(1996年)
九歳の夏休み、少女は殺された。あまりに無邪気な殺人者によって、あっけなく―。こうして、ひとつの死体をめぐる、幼い兄妹の悪夢のような四日間の冒険が始まった。次々に訪れる危機。彼らは大人たちの追及から逃れることができるのか?死体をどこへ隠せばいいのか?恐るべき子供たちを描き、斬新な語り口でホラー界を驚愕させた、早熟な才能・乙一のデビュー作
黒乙一の中編集であり、なんと16才の時に書いたというデビュー作である。
死体となった"私"の視点で語られる変態的なホラーの表題作と不気味なホラー風ミステリー「優子」という2作の中編が収録されている。やはりすごいのは表題作で、とてもではないが10代半ばの学生が書いたものとは思えない完成度だから驚きである。
解説は小野不由美女史が書かれており、我孫子武丸氏、法月綸太郎氏が大騒ぎしていたそうだ。(天帝妖狐の我孫子氏の解説で、綾辻行人氏も大騒ぎしていたのが分かる。)
つまりホラーやミステリー界の大御所がこぞって絶賛しているのだから、本作の素晴らしさは折り紙付きである。
6位 一ノ瀬ユウナが浮いている(2021年)
幼馴染みの一ノ瀬ユウナが、宙に浮いている。十七歳の時、水難事故で死んだはずのユウナは、当時の姿のまま、俺の目の前にいる。不思議なことだが、ユウナのお気に入りの線香花火を灯すと、俺にしか見えない彼女が姿を現すのだ。ユウナに会うため、伝えていない気持ちを抱えながら俺は何度も線香花火に火をつける。しかし、彼女を呼び出すことができる線香花火は、だんだんと減っていく――。
かなり久々のストレートな白乙一作品である。
あらすじに書いてあることが全てと言わんばかりの捻りのない直球の恋愛小説なのだが、せつない小説を書かせたら右に出るものがいない乙一が書くと、こうも素晴らしくなるものなのかと感じる物語に仕上がっている。私自身、もの凄く久しぶりに読書で泣くという体験をしてしまった。
〇個別紹介記事
5位 沈みかけの船より、愛をこめて(2022年)
破綻しかけた家庭の中で、親を選択することを強いられる子どもたちの受難と驚くべき結末を描いた表題作ほか、「時間跳躍機構」を用いて時間軸移動をくり返す驚愕の物語「地球に磔(はりつけ)にされた男」など全11編、奇想と叙情、バラエティーにあふれた「ひとり」アンソロジー。
11収録された作品一人アンソロジー第二弾。
こちらは名義が4名に減っており(一人だけど)、なおかつ山白朝子名義の作品が実話怪談風の1話しかないため、実質乙一と中田永一の作品集である。全体的にとてもバランスがよく様々たなタイプの物語が収録されているため、進化した乙一の『ZOO』に続く傑作選と言えるような内容となっている。
どれも好きだが、黒っぽい乙一による「カー・オブ・ザ・デッド」と白っぽい乙一の「二つの顔と表面 Two faces and a surface」が特に素晴らしいと思う。
〇個別紹介記事
4位 ZOO(2003年)
何なんだこれは! 天才・乙一のジャンル分け不能の傑作短編集。「1」は双子の姉妹なのになぜか姉のヨーコだけが母から虐待され――(「カザリとヨーコ」)。謎の犯人に拉致監禁された姉と弟がとった脱出のための手段とは?――(「SEVEN ROOMS」)など5編をセレクト。「2」は、目が覚めたら、何者かに刺されて血まみれだった資産家の悲喜劇(「血液を探せ!」)、ハイジャックされた機内で安楽死の薬を買うべきか否か?(「落ちる飛行機の中で」)など驚天動地の粒ぞろい5編に加え、幻のショートショート「むかし夕日の公園で」を特別収録。
黒乙一作品が多いが白乙一作品もある、乙一ワールドが完全網羅された傑作短編集である。ジャンル分け不可能と言われるほどあらゆるタイプの話が収録されているため、乙一のすべてが分かるようで、逆にますます分からなくなるという仕様。
全11作品の中でも飛び抜けた傑作が、黒乙一の神作「SEVEN ROOMS」と白乙一の奇跡のSF作品「陽だまりの詩」だ。白黒それぞれの最高峰である。
どちらも乙一にしか書けないような唯一無二の内容で、感受性豊かな人が読んだら現実世界に帰って来られなくなるかもしれない。
表題作の「ZOO」と「落ちる飛行機の中で」も狂った感じがたまらない。
トラウマ級の作品もあるが、乙一初読みには最適な1冊である。
3位 失はれる物語(2003年)
目覚めると、私は闇の中にいた。交通事故により全身不随のうえ音も視覚も、五感の全てを奪われていたのだ。残ったのは右腕の皮膚感覚のみ。ピアニストの妻はその腕を鍵盤に見立て、日日の想いを演奏で伝えることを思いつく。それは、永劫の囚人となった私の唯一の救いとなるが…。表題作のほか、「Calling You」「傷」など傑作短篇5作とリリカルな怪作「ボクの賢いパンツくん」、書き下ろし最新作「ウソカノ」の2作を初収録。
ライトノベルのレーベルから出版されていた短編集から選ばれた白乙一のベスト盤である。白乙一短編としては間違いなく最高傑作だろう。
収録作は以下の通り。
○短編傑作選
「Calling you/失はれる物語/傷/手を握る泥棒の物語/しあわせは子猫のかたち」
○書き下ろし中編「マリアの指」
○文庫版収録「ボクの賢いパンツくん/ウソカノ」
表題作の「失はれる物語」は乙一のセンスのすべてが注ぎ込まれた渾身の超傑作で、魂が作品の中に閉じ込められるほど物語に引き込まれるだろう。
「Calling you」と「しあわせは子猫のかたち」もせつなさでいえば乙一作品の筆頭で、きっとみんな泣く。我孫子武丸さんも泣いたらしい。(天帝妖狐の解説より)
白乙一のすべてを堪能したいなら迷うことなく本書を選ぼう。
2位 GOTH(2002年)
森野が拾ってきたのは、連続殺人鬼の日記だった。学校の図書館で僕らは、次の土曜日の午後、まだ発見されていない被害者の死体を見物に行くことを決めた…。触れれば切れるようなセンシティヴ・ミステリー。
黒乙一による"僕"と"夜"を主役とした連作短編ミステリである。あまり推理作家というイメージがない乙一作品の中では、最も本格推理小説としての側面が強く、本格ミステリ大賞を受賞している。
この本の特徴は何と言っても"僕"と"夜"のキャラが最高過ぎることに尽きる。元々はラノベとして書かれているため、ブッ飛んだキャラである2人の絡みは激萌だ。
推理小説を読み慣れていない人を感激させ、本格ミステリの世界に入門させるのにはもってこいの作品で、推理小説でよく使われる"あのトリック"に本作で初めて触れる方もいるかもしれない。黒乙一作品に特有のショッキングなグロ描写があるので、グロが苦手な方にはダメージがでかいかもしれないがそれでも強引におすすめしたい。
文庫本の順番よりも単行本の順番で読んだ方が確実に面白いと思うが、文庫で読む場合は「夜の章」→「僕の章」の順番で読まないと後悔することになるので気をつけてほしい。ちなみに番外編も素晴らしい。
⇩電子書籍でよいなら合本版が激安なので超おすすめ⇩
1位 暗いところで待ち合わせ(2002年)
視力をなくし、独り静かに暮らすミチル。職場の人間関係に悩むアキヒロ。駅のホームで起きた殺人事件が、寂しい二人を引き合わせた。犯人として追われるアキヒロは、ミチルの家へ逃げ込み、居間の隅にうずくまる。他人の気配に怯えるミチルは、身を守るため、知らない振りをしようと決める。奇妙な同棲生活が始まった―。書き下ろし小説。
貴重な白乙一の長編である。
殺人事件の容疑者になった主人公の男が、事件現場の付近にある盲目の女性の家に潜伏するという奇妙な同棲生活を描いた異様な作品で、まさに乙一にしか書けない至高の一品になっている。
事件の真相も気になるが、なにより素晴らしいのは同棲生活を送る2人が接近していく過程である。せつなさの名手と言われる乙一氏は数々のせつない傑作を発表しているが、本作はせつなさのさらに一歩先に到達しており、最高の読後感が約束されている。
250ページ程度の長さなので読書慣れしていない人でも読みやすく、本を読まない人を読書沼に引きずり込む最強の布教兵器と言えるだろう。
まとめ
もう20代の前半頃に書いていたような作品は書けないんだろうなぁ...と思いつつも最も新作が楽しみな作家であることは間違いない。
★追記
『一ノ瀬ユウナが浮いている』や一人アンソロジーである2冊の幻夢コレクション『メアリー・スーを殺して』と『沈みかけの船より、愛をこめて』を読んだ感じだと、むしろ若かりし頃よりも進化しまくっているように感じる。新作が出れば買わずにはいられない作家である。
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