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『拝み屋怪談 花嫁の家』郷内心瞳|最恐ホラー小説と称される呪われた実話怪談

長らく封印されていた曰く付きの作品が蘇る

 

作品紹介

郷内心瞳による『花嫁の家』は2014年にKADOKAWAのMF文庫ダ・ヴィンチより出版された作品で、文庫で400ページ弱の連作長編である。

最恐ホラー小説の一角として名を連ねる一方で、評判が良いにもかかわらずなぜか(呪い?)長らく紙の本が絶版しており、2022年に角川ホラー文庫より復刊されるまでは中古本の価格が非常に高騰するという状況が続いていた(幸い電子書籍で販売されていた)、正真正銘曰く付きの本である。

本書は「母様の家、あるいは罪作りの家」と「花嫁の家、あるいは生き人形の家」の二編で構成されており、基本的には別々の実話怪談なのだが、思いもよらぬ形で繋がっているため、実質は一つながりの長編として成立している。

自身の本職が拝み屋であるという著者が実際に対応した実話怪談である、という点がリアリティに拍車をかけており、さらに専業作家ではないとは到底思えない優れたストーリーテリングにより、ただ単に怖いだけでなくミステリー風の物語としても楽しめるようになっている。

なお本作は『拝み屋怪談シリーズ』の二作目であり、一作目の『怪談始末』に『花嫁の家』と関連する作品が収録されているのだが、「超ヤバい話があって執筆してるんだけど呪われているせいで数々の妨害があってマジで超やばいんですけど...」という内容なので、一作目を読まずに本作を読んでもまったく問題ない。

私自身が旧版読了直後にえらい目にあったので個人的に嫌な思い出のある本作について語っていきたい。

 

 以下、あらすじの引用

その家に嫁いだ花嫁は、必ず死ぬ。「嫁いだ花嫁が3年以内にかならず死ぬ」――。忌まわしき伝承のある東北の旧家・海上家では、過去十数代にわたり花嫁が皆若くして死に絶えていた。この家に嫁いだ女性から相談を受けた拝み屋・郷内は、一家に伝わるおぞましい慣習と殺意に満ちた怪奇現象の数々を目の当たりにする……。記録されることを幾度も拒んできた戦慄の体験談「母様の家」と「花嫁の家」。多くの読者を恐怖の底へ突き落とした怪談実話がついによみがえる。

 

 

どれくらい怖いのか

この記事に辿り着いた方が知りたいのはずばりこれだろう。しかし残念ながら私は恐怖耐性が高く、ホラー小説を読んで怖いと思うことはほぼない。

だが生粋のホラー好きである私としては、ホラー小説で怖いとはどういうことかという自分なりの定義を持っている。「どれだけ日常生活にダメージを与えるか」である。この一点だけで他にはない。その定義に従って評価すると『花嫁の家』はさほど怖くないということになる。

他に上記の定義に従って有名な長編ホラー小説や怖いことで有名な長編作品を評価していくと『リング』は別に日常生活に影響はないという点で怖くないとなる。人間が怖い系ホラーの最終兵器である貴志祐介の『黒い家』も同様の理由でまったく怖くないと言える。

次に最恐ホラーの最有力候補である小野不由美の『残穢』は条件付きで超怖い(一人暮らしの人が読んだら人生終わる)、三津田信三の『のぞきめ』は隙間を見るたびにビビるという点でかなり怖い、といった具合である。

ちなみに例を長編作品に限定したのは、個人的に本気で怖いホラー小説は必然的に短編になると考えているからである。長編で怖い話を書こうとするとほぼ確実にミステリーと融合してしまうんだよなぁ....。ただ短編はただ怖がらせるためだけに書いたという印象が強く個人的にはあまり評価できないのである。

冒頭からグダグダ書いてしまったが、「読んでいる最中の怖さ」でいうならば『花嫁の家』はとても優れており、ミステリーとうまい具合に融合して紡ぎ出される恐怖はそんじょそこらのクソホラーとは一線を画していることは保証する。読むがどうか迷っている人には、超怖いけど日常生活に支障はないのでご安心を、とお伝えしておく。

 

一万分の一、あるいは十万分の一

果たして本当に実話なのかどうかは正直言ってかなり怪しいと思うし、仮に実話だとしても実話をベースに脚色しまくっていると思う。ただそんなことはどうでも良く、とにかくプロローグからして怖がらせる気満々なんですよ、コレが。

要は、「拝み屋という商売は本来めっちゃ地味であり、みんなが想像するようなゴーストバスターズエクソシスト的な展開はまずありえないんだけど、超低確率で超絶ヤバい本気の案件にあたってしまう。その超スーパープレミアムなレア案件が母様の家と花嫁の家なんだぜ.....どうだまいったか!」という前書きが冒頭で熱弁されるのである。

前作『怪談始末』でヤバい話がある....と前振りしてからのさらなるヤバいアピールで掴みはOKと言えるだろう。

 

母様の家、あるいは罪作りの家

個人的には「花嫁の家」よりもこちらの方が作品として優れていると思う.....なんて書くと実話怪談という体裁なので作品と称したら怒られそうだが。

「母様の家」は話の進め方が非常にテクニカルである。拝み屋郷内さんへの依頼は、「死んだ母親が枕元に現れるから何とかしてください」なのだが、拝み屋のもとにここ最近依頼のあった数々の怪談が挙げられていき、何の関係もないはずのそれらの怪談には思わぬ共通点があることが判明して、キャーーーとなるのである。

ホラー描写は著者の本業が拝み屋だけあって非の打ち所がないのだが、それ以上に話の組み立て方が巧みで、本気でヤバい話であるということがヒシヒシと伝わってくる。

なお母様の家は基本的には典型的なジャパニーズホラーなのだが、とある中二病のクソガキのおかげさまで、人間が怖い系ホラーの要素も持っている。このクソガキのクソっぷりが尋常ではなく、作中でブチ切れた郷内さんが流麗な汚い言葉を発するところはある意味本作のハイライトと言えるのかもしれない(笑)

怖いかどうかは読者に判断していただくとして、グイグイ引き込まれるテクニカルな構成によって恐怖感を強めたり、人間が怖い系の恐怖を合わせ持つなどとても優れた物語であることは間違いない。

 

花嫁の家、あるいは生き人形の家

こちらは「母様の家」よりもストレートに怖い系の話で、不気味極まる花嫁が超怖いことをやらかす、という我が身に降りかかったら発狂するような恐怖描写がある。ヤバ気な気配と相まって、ホラー耐性がない読者にとってはダメージがでかいかもしれない。

拝み屋郷内さんへの依頼は「嫁に行くと三年以内に必ず死んでしまうのだけど、どうしてもお嫁さんになりたいから結婚してみたら、思った以上にヤバいので助けてください」である。事前に説明を受けていたのだからそんな家に嫁ぐなよ...とツッコミを入れたくなるが、....ですな。

対象の家はなぜかサングラス越しに見ているかのように異様に暗い(冥い)し、お爺ちゃんはなんか攻撃的だし、お父さんも微妙だし、旦那さんは思考停止だし、花嫁人形は怖いし....と雰囲気からしてホラーMAXである。しかも超ヤバい案件だった母様の家とほんのり繋がっていたり、お化けが現れて怖いことをべちゃくちゃ喋っていたり、郷内さんが「うるせえ!」となったりでもう大変。極めつけは......キャーーーーー!である。

実際は読んでみていただかないとこの雰囲気は伝えられないのだが、結末は非常にせつなく....ここでもキチガイ的人間怖い系が発動したりと、最後の最後まで一筋縄ではいかないのである。

 

積年の悲願を達成

私はだいぶ前から『花嫁の家』を紹介したかったのだが、書こうとするたびに書く気が無くなるという呪いにかかっていて(笑)、長年書くことができずつらい日々を過ごしてしまった。しかし新装版が出たことにより漸く記事を書くことができて一安心である。

ちなみに冒頭で私自身がえらい目に遭ったというのは本当で、私は会社帰りに読んでいて、ラストが気になり歩きスマホならぬ二宮金次郎スタイルの歩き読みをしていた。ちょうど家まで10分くらいのところで読了したのだが、読了直後にゲリラ豪雨に見舞われ、しかもその日は運悪く翌日客先に配布する大量の資料を持っていた......もちろん書類はずぶ濡れ。本来なら客先直行のはずが、次の日超早起きして会社まで書類を印刷しに行くハメになったという祟りをくらっている。

まぁこんな感じで実際に何らかの霊障に見舞われる可能性を秘めた危険な作品なのである。復刊された機会に読まれてみてはいかがだろう。

 

 

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