神本を求めて

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『暗闇坂の人喰いの木』島田荘司|ゴッドオブミステリー降臨

本当の伝説はここから始まった

作品説明

 島田荘司御大による『暗闇坂の人喰いの木』は講談社から1990年に出版された作品である。文庫版のページ数は解説込みで680ページとかなりのボリュームである。

御手洗シリーズの6作目であり、ヒロイン松崎レオナの初登場作品となる。『異邦の騎士』までの作品とは作風が異なり、本格推理小説から本格ミステリーになったといったところだろうか。謎はますます常軌を逸したものとなり、スケールのでかい物語が繰り広げられる。

推理作家としての島田荘司が好きか、ストーリーテラーとしての島田荘司が好きかで、はっきりと賛否が分かれそうだが、暗闇坂にハマるようであれば完全に島田信者になることは間違いないだろう。

なお本作はかなりグロテスクであり、ホラー要素も極めて強くなっている。ホラーや怪奇幻想が好みの人であれば過去のシリーズを読んでいなくても楽しめる。

 

以下、あらすじの引用。

さらし首の名所・暗闇坂にそそり立つ樹齢2000年の大楠。この巨木が次々に人間を呑み込んだ? 近寄る人間たちを狂気に駆り立てる大楠の謎とは何か? 信じられぬ怪事件の数々に名探偵・御手洗潔が挑戦する。だが真相に迫る御手洗も恐怖にふるえるほど、事件は凄惨を極めた。本格ミステリーの騎手が全力投球する傑作。

 

改訂完全版 暗闇坂の人喰いの木 (講談社文庫)

改訂完全版 暗闇坂の人喰いの木 (講談社文庫)

  • 作者:島田 荘司
  • 発売日: 2021/03/12
  • メディア: 文庫
 

 

オカルト、グロホラーの到達点

「探し求めていた本にやっと出会えた....」読了後の率直な感想である。

ホラーやオカルト要素の強いミステリー小説がなによりも好みな私にとっては、まさに好きなものだけを詰め込んだ夢のような作品だった。あまりにも面白く、そしてありえない謎の真相が気になり過ぎて本気の徹夜小説の1冊として殿堂入りした。

 本作はタイトルの通り、犯人と思われるのは樹齢2000年の人喰いの大樹である。

尋常ではない謎を秘めた事件で超自然的な要素がトリックに関わっているため、御手洗潔シリーズを順番通りに読み進めてきた本格推理小説マニアの中には肩透かしを食らう人がいるかもしれない。

 しかし『異邦の騎士』で見られたように、本作もミステリー云々ではなく、ジャンルを超えた島田小説としての魅力があるため、ホラーオタクやオカルトマニアであれば問答無用に楽しめるのは言うまでもなく、ミステリー好きなら誰でものめり込める力作に仕上がっているのは間違いない。

 ホラー小説の求道者であれば必ず手に取っていただきたい1冊である。

 

いきなり狂気のサイコホラー

 プロローグはどういうわけなのか、スコットランドののほほ〜んとした描写から始まり丁寧語で書かれる文章にほっこりしていたら.....クララが死んだ!!

しかも並の殺され方ではなく、内蔵を取り出されバラバラにされて目玉をほじくられ弄ばれるという変態サイコ全開なのである。散々弄ばれた後は家のセメントに塗り込まれて証拠隠滅されたが、後日調査された時にはセメントの中には死体は見つからず....。

あれっ...読む本間違えたかな」と思ってしまうくらいのとんでもないプロローグに意表を突かれたが、本作の謎の面白さと猟奇性は約束されたなと確信したのである。

 くどいようだが、サイコホラーや猟奇的事件を扱ったミステリーが好きな方であれば、冒頭からいきなり血沸き肉躍ること間違いなしだ。

 

鋭い女の分析と解説にニヤリ

 『暗闇坂の人喰いの木』に限らず、島田作品では女性こき下ろしてるんじゃないかと思うくらい鋭い女性論が展開される。女性の恨みを買いそうなのになぜか恨みを買っていないその女性論が失笑を誘う面白さなのだが、本作では島田御大十八番の女性論がかなり強烈に披露される。しかもほぼ本編とは無関係に。

  『暗闇坂の人喰いの木』では作家・石岡君のファンを名乗る女と石岡君がお茶をして、その際のやり取りを御手洗に話すことで、御手洗がその女性の現状や石岡君への想いを論理的に解説するのだがこれがまた異常に面白い。

アラサー過ぎて結婚に焦った女の心境を、あたかも著者ご自身が経験したかのようなリアリティを持って描かれている。アラサー未婚の女性には相当ひどい内容なのだが、おそらくそういった方が読むと図星過ぎて笑えるのではないだろうか。

 もはや事件のことなどどうでもいいとなるくらい笑える御手洗&石岡君の日常会話をずっと楽しんでいたいと思ってしまうことだろう。御手洗シリーズは長く続いていくが、以降のシリーズでは二人が出ない作品も多く、会話の面白さも控えめになっていくので、二人の日常会話は本作が一番面白いのではないかと思う。

 ↓ハードカバー版の著者近影を見て思うのは、やはり若かりし頃の(と言っても当時アラフォーだが)島田御大はいけてますなぁ。女性の描写が異様に巧いのは経験豊富ゆえなのではなかろうか。

 

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なんとも渋い佇まい
 

怪異としか言いようのない事件

 作中でも『占星術殺人事件』を超える恐ろしい事件と称されているが、まったく持ってその通りの常軌を逸した事件である。本作の殺人事件と想定される事件は下記の通りだ。 

  • 壁の中のクララ(上記スコットランドの話)
  • 昭和十六年、木にぶら下がっていた少女の惨殺死体。
  • 嵐の夜に屋根の上で心不全で死んでいた男と同日頭を強打されて重体になった女。
  • 大楠の中から見つかった、頭だけ白骨化してその下はミイラ化した4体の少女の遺体。
  • 嵐の夜に気に食べられる様な姿で死んでいた男と先の事件で重体になっていた女が再び同日頭を強打され死亡。 

 スコットランドの猟奇殺人やら昭和初期の猟奇殺人やら怪談とも言える話、さらには現代の異常な事件と、一見関連が無いような情報がばら撒かれることにより、事件の全貌は撹乱され読者は混乱させられる。

暗闇坂の人喰いの木』を読む以前に、京極夏彦氏の『百鬼夜行シリーズ』を何冊か読んでいたのだが、事件の不気味さや不可解さはそれを上回っていると感じたし、なにより『暗闇坂〜』の方が『姑獲鳥の夏』より早く出ているという事実に、島田御大の偉大さをあらためて実感させられた。

 本作の事件は、ひっかけとも言える余計な要素をキレイさっぱり省けば純粋な本格推理小説になっていたと思うが、あえて超自然的な謎を入れたことで賛否両論にはなったが、作品にカルト的な魅力を付与するのに成功している。また作中に延々と語られる処刑・拷問の薀蓄や処刑場だった暗闇坂のロケーションが恐ろしい雰囲気に拍車をかける。

 ネタバレになるので詳細の記載はしないが、終盤に近い章の『怪奇美術館』のおぞましさはいかなるホラー小説の恐怖描写を凌駕している。本当におぞましいとしか言いようがない阿鼻叫喚の地獄絵図が待っている。

 何度でも繰り返すが、ホラー好きで本書を未読の方は今すぐに読むべきである。高品質ホラーを楽しめるだけでなく、本格推理小説の妙技も楽しめて新たな世界が開けてくるかもしれない。

 
 

旅行小説としても楽しめるスコットランド紀行

 『占星術殺人事件』では京都紀行があったが、本作ではイギリスはスコットランドへの弾丸ツアーが描かれる。

私はブリティッシュロックの影響で昔からイギリスが大好きで、スコットランドではないもののロンドンを中心にマンチェスターリバプール、リーズと長期旅行に行ったことがある。その旅行の思い出も相まって、石岡君の語りに深く共感を覚えてしまった。バスで長距離移動を何度もしたため、イギリスの田舎風景をコレでもかと言うほど満喫したのだが、石岡君の説明の通り日本ではありえない光景であった。

 ヨーロッパの他の国にも行ったことがあるのだが、長距離移動する際の風景がどのタイミングを切り取っても絵になるのが素晴らしかった。またイギリスでは雨が多いのでイギリス人は雨に濡れることをあまり気にしない...日本人で雨に濡れるのを気にしないのは狂人御手洗だけだったというシーンも現地で体験した時の記憶とピッタリで唸らせられた。

 ↓無関係だがブリティッシュロックの名盤『怪奇骨董音楽箱』。本作では『怪奇美術館』というのが登場するので気になったら聞いてみてほしい。

 

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この怪しいジャケットの魅力ときたら...

 

炸裂する島荘流大トリック

 『斜め屋敷の犯罪』ほどトリックはブッ飛んでいないものの、本格推理小説でしかまかり通らない様な十分に気合いの入ったアクロバティックな大技となっている。
 デビュー時の『占星術殺人事件』や『斜め屋敷の犯罪』と比べると、大樹の魔力による超自然現象が働いているため本格推理マニアからしたらアンフェアであると非難されそうではあるが、本格推理小説はもともと半分ファンタジー世界の話なので、『暗闇坂の人喰いの木』はこてこての推理小説だとは思わずに、本格推理:怪奇幻想を5:5くらいに考えて、純粋に物語を楽しむのが吉であろう。
 推理小説をあまり推理せずにただの物語として楽しむタイプの方であれば、アンフェアな部分は気にならず素直に「やりやがった!」となること請け合いだ。
  しかし本書をリアルタイムで読んでいた本格推理小説マニアは、事件の真相を知ってどう思ったのだろうか。より信者度が上がる方もいれば、当時全盛期であった新本格ムーブメントの作家に乗り換えた方もいたものと思われる。

 

御手洗のイケメンプレイがさりげなく発揮

 事件の全貌を暴いた御手洗が、事件の関係者レオナのために取った行動がイケメン過ぎて泣けてくるのである。過去作品でも『占星術殺人事件』や『数字錠』、『異邦の騎士』でイケメンな動きをしてきた御手洗だが、『暗闇坂の人喰いの木』ではレオナというヒロインを守るためという、これぞ騎士な行動取るのだからたまらない。
 アフターフォローも完璧で、事件から時間が経過した時のレオナをフォローするために気を使いまくりながら語った○○に関する薀蓄にもユーモアが溢れ、御手洗のキャラに新たな魅力を追加しており、本シリーズに女性ファンが多いと言うのも大いに頷ける。
 本作を読んで確かめてほしいのだが、”ゴリラとチンパンジー”のくだりは面白過ぎる。私は思わず吹いてしまった。

 

シリーズはさらなる高みへ

ある意味人生を変えるような作品だったため、愛ゆえの長文記事になったが、『暗闇坂人喰いの木』は後世に名を残すべき傑作である。

講談社文庫の帯で御手洗シリーズ三大傑作には『占星術殺人事件』『斜め屋敷の犯罪』『異邦の騎士』とされており、確かにこの三作品は素晴らしいと思う。

しかし島田荘司らしさが全開に発揮されているという意味では、私は『暗闇坂の人喰いの木』と続いてレオナが登場する『水晶のピラミッド』『アトポス』を三大傑作に推したい。大ベストセラー作家である伊坂幸太郎氏も上記三作を五本の指に入る傑作と称されているため、信憑性は高いと思っていただいて間違いない。
 『暗闇坂の人喰いの木』を読んだ直後のメモには、「今後私の1番好きな作家は島田荘司とすることに決めた。」と書かれていた。本作を読んでからずいぶん多くの本を読んだし、他の作家も開拓していったのだが、その想いは変わっていない。
 一人でも多くの方にゴッドオブミステリーこと島田荘司の魅力をお伝えしていきたいと思う。

 

改訂完全版 暗闇坂の人喰いの木 (講談社文庫)

改訂完全版 暗闇坂の人喰いの木 (講談社文庫)

  • 作者:島田 荘司
  • 発売日: 2021/03/12
  • メディア: 文庫
 

 

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『屍鬼』小野不由美|究極の焦らしプレイ

どこまで溜めればいいのか。

作品説明

 小野不由美女史による『屍鬼』は新潮社から1998年に出版された作品である。文庫版は5分冊でページ数にして2500ページを超える大長編となっている。

ド田舎というクローズドサークルで村人が次々と原因不明の衰弱死を遂げていく謎を、医者とお坊さんが中心になって調査するミステリーである。もちろんタイトルが示している通り原因は分かりきっているのだが。

ラストに向けて実にまったり話が進んでいくため、普段読書慣れしていない人には苦行になりうるが、魅力的なキャラが多いため、一つの作品をじっくり読みたい人にはこれ以上ないほどの作品である。

単行本の上巻(文庫版の一、二巻)はミステリー色が強めで、下巻(文庫版の三、四、五巻)はホラー、ファンタジーが濃厚になってくる。

ゴーストハント』『十二国記』など傑作揃いの小野作品だが、『屍鬼』は間違いなく最高傑作候補の作品である。

 

以下、あらすじの引用。

 死が村を蹂躙し幾重にも悲劇をもたらすだろう―人口千三百余、三方を山に囲まれ樅を育てて生きてきた外場村。猛暑に見舞われたある夏、村人たちが謎の死をとげていく。増え続ける死者は、未知の疫病によるものなのか、それとも、ある一家が越してきたからなのか。

尋常でないなにかが起こっている。忍び寄る死者の群。息を潜め、闇を窺う村人たち。恐怖と疑心が頂点に達した時、血と炎に染められた凄惨な夜の幕が開く…。

 

 

 

眠れぬ夜の睡眠薬(一巻)

とても....眠いの......

 物語の前半でとある主要人物のセリフにこんな感じのがあるのだが、多くの読者は大いにこの言葉に共感することとなるだろう。

 文庫版の1巻は「これから面白くなるな」という予感をぷんぷん放っており、また田舎の閉塞感がとても上手く表現されていてこれはこれで素晴らしいのだが、約600ページに渡りとにかく話が進まない。

しかも尋常ではない数の登場人物が次から次へと現れるため、読書慣れしてない人だと「この人誰だっけ?」とページを行ったり来たりしているうちに、いつの間にか夢の国に足を踏み入れることになるだろう。最強の睡眠本なのだ。

 ただ物語の進行が遅くて退屈=つまらないではなく、地味に面白い状態がずっと続き、しかもじわじわ楽しさが上昇していくのだから安心して読み進めよう。

 

屍鬼』を読むときはぜひともアニメ版『屍鬼』の音楽を聴きことをおすすめしたい。より一層「外場村」の雰囲気に浸れるだけでなく、ますますダークな世界に深く入り込める。

 

悪夢に終わりはない(二巻)

 安心して読み進めようと上記したばかりだが、『屍鬼』はそんなに生易しい作品ではない。恐ろしいことに文庫版の二巻に入っても物語の進捗はまったりしていて、ただひたすら村人が弱って死んでいく.....病気→死亡→葬式→病気→死亡→葬式→病気→死亡→葬式.....という暗く悲しいシーンがひたすらループするのだ。鬱気質の人が読んだら本当に死にたくなる可能性があるため読むのを控えたほうが得策かもしれない。

 極めつけに正体不明の病気の謎を解明するというミステリーが展開されてテンションが上がってくる!....のかと思いきやそもそもミステリーとは"謎"を意味するのに、病気の原因はタイトルで盛大にネタバレされているという鬼畜仕様。

 倒叙形式のミステリーであれば何の問題もないのだが、『屍鬼』は読者が答えを知っているのに作中の人物ががんばって推理するのを見守ることになるのだ。

しかし終わりのない悪夢はない....のかどうかは分からない。

 

いよいよ屍鬼と人間が対決(三巻、四巻)

いいえ、しません。

始まるのは対決ではなく、またもや無限に続くもやもやグダグダシーンだ。

病気の原因が屍鬼だと判明してから突入する三巻では、いよいよ屍鬼との戦いが始まるのかと思いきや、焦らしの小野不由美。そんな展開は許してくださらない。

 普通に考えたらガンガン物語は一気に加速して全面戦争となりそうだが、著者の本領発揮というか、村人たちの「たしかにおかしいけど.....そんなまさかね」的な状況がただただ続くのだ。

人がアホみたいに死にまくってるんだからもっと何とかせんかい!とイライラはピークに達する。四巻の時点ではもうほぼほぼ全貌が見えているにも関わらず、何も話が進まないのはもはや変態的な焦らしプレイと言えよう。

 最終巻では怒涛の展開が待っているわけだが、ここまでで2000ページ越え。「ラストがつまらなかったらただじゃおかねぇ!!」という思いはチャージ完了だろう。

 

少しでもテンションを上げたいならアニメ版後半のOP曲を聴くことをおすすめしたい。ノリノリ過ぎかもしれないが、こんなんじゃないとやりきれないだろう。
ちなみにこの曲は私の目覚まし時計の曲だ(笑)。これを聴くと”起き上がる”ことができるのでとても重宝している。

 

終わらないオーガズム(五巻)

 これまでのすべては「怒涛の」という言葉すら生温い、凄絶なラストのために捧げられた伏線、あるいは小野主上による悪質な焦らしプレイだったのだ。

 全面戦争開始後の脳内麻薬の炸裂はほかのどんな小説でも味わえないほど超強烈なものである。例えるならば、有名な漫画『カイジ』にあった我を忘れてすべてを注ぎ込むようなイメージだろうか。

 

 

 下品な表現で大変恐縮だが、我ながらかなり的を得ていると思うので書くと、『屍鬼』の終盤は終わらないオーガズムのようなものである。屍鬼を読んだことがある人なら何となく分かっていただけることだろう。ありがたいことにこの快楽は並みの小説1冊分(約300ページ)も続くのだからたまらないのだ。猛烈なクライマックスが小説1冊分ですよ。長大な物語を読み進めてきた苦労はすべて報われるだろう。

 屍鬼を読んで、どちらが悪なのか考えさせられた、とか人間がやっぱり1番怖いとかいう人は1回死んで起き上がった方がいい。くだらないことは考えず、ただ己の脳内麻薬をドバドバ炸裂させていれば良いのである。
 
我が生涯で五本の指に入るほどアドレナリンが爆裂したシーン。ただひたすら「殺せ!殺せ!!」と心の声が叫んでいた。

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記憶に強く残り続ける

 本当に素晴らしい小説というものは読んでから時間が経過しても記憶の中で大きな存在感を持ち続け、人生に大きな影響を与えるものだが私にとって『屍鬼』はそんな作品である。世の中にはエンタメに特化しためちゃくちゃ面白い本が大量にあるものだが、そのような作品はサクッと楽しめる反面、読後にあまり印象が残らないことが多いのだ。記憶に深く刻まれるような作品をお求めならぜひ『屍鬼』を読んでいただきたい。

ちなみにアニメも強烈。大ボリュームの小説に躊躇される方はアニメでサラッと見てしまうのもありかもしれない。作画がかなり個性的で人を選びそうだが、小説と異なる部分も多く、しかも原作を超えるくらいの悲惨な鬱展開が続くので、見たことを後悔するほど仰天することになるだろう。

 

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う~ん....眠れない

 

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酷過ぎワロタシーン...妻を拷問

 

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小野不由美は情け容赦ない

 

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すべてはここから.....解き放て!!

 

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お気の毒とはこの人のためにある言葉だ

 

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鬼畜外道無双

 

 

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『新世界より』貴志祐介|貴志祐介の最終兵器

すべてを超えた貴志祐介の最終兵器

 

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優しいファンタジーだと思ったら地獄だった。
 

作品紹介

 貴志祐介大先生による『新世界より』は講談社から2008年に出版された作品である。文庫版は3分冊でおよそ1500ページという大長編だが、SFやファンタジー、ミステリーだけでなく青春や恋愛、さらにはホラーとオールジャンルであり、緊張感のあるシーンが続くため長さはまったく感じさせない。

エロありグロありでエグい描写も多いのでそれなりに人を選ぶ作品だが、多くの方が人生最高の作品候補に挙げるだけあって、傑作揃いの貴志作品の中でも完成度が飛び抜けている。文句無しの神傑作であり、名作と称される数多の小説は本作の足元にも及んでいない。

 

 以下、あらすじの引用

ここは病的に美しい日本(ユートピア)。
子どもたちは思考の自由を奪われ、家畜のように管理されていた。

手を触れず、意のままにものを動かせる夢のような力。その力があまりにも強力だったため、人間はある枷を嵌められた。社会を統べる装置として。

1000年後の日本。豊かな自然に抱かれた集落、神栖(かみす)66町には純粋無垢な子どもたちの歓声が響く。周囲を注連縄(しめなわ)で囲まれたこの町には、外から穢れが侵入することはない。「神の力(念動力)」を得るに至った人類が手にした平和。念動力(サイコキネシス)の技を磨く子どもたちは野心と希望に燃えていた……隠された先史文明の一端を知るまでは。

第29回日本SF大賞受賞 第1位

 

新世界より 上中下巻セット

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完成された世界観

 貴志先生による『エンターテイメントの作り方』によると『新世界より』は"生物の攻撃抑制に対する興味"から着想したとのことだ。すなわち生身の人間に他人を殺められるような、強力な攻撃力が備わっていたらどのような社会が生まれるのかという疑問から、世界観やプロットが構成されている。

 しかもこのネタは学生時代から温めてきたようで、SFに傾倒していたという1986年には『凍った嘴』という『新世界より』の原点になった作品が書かれ、ハヤカワ・SFコンテストに佳作入選している。

 したがって『新世界より』の世界観は、SF好きの貴志先生が長きに渡って練りに練りまくった上で誕生しているのだ。ただでさえ重厚な作品を書く貴志先生が、本気を出したらどんな世界が描かれるのかは、読んで確かめるしかないだろう。

 私の魂は神栖66町に囚われたままである。

 

世界観にマッチしたアニメ版の挿入歌

 

呪力 (超能力、サイコキネシス)

 なぜ『スターウォーズ』や『マトリックス』、『JOJO』や『HUNTER×HUNTER』は人気なのだろうか?

それは"本気を出せば俺にだってフォースの力だろうが念能力だって使えるぜ!!"という中二病精神を刺激するからである。(本当にそうなのかどうかは知らんが。)

 こういった作品は修行風景が丁寧に描かれており、修行をすればできそうな気がしてしまうのだ。

 『新世界より』で扱われる"呪力"も護摩を焚き、集中して火を見ながら真言(マントラ)を唱えれば身についてしまいそうなのだ。(催眠や洗脳の叡智も思いっきり取り入れられている。)というか程度はどうあれ習得できるだろう。

 脳科学認知科学、オカルト系の本を読めば、サイコキネシスというのがオカルトではなく実在するものだというのが理解できるし、某脳科学者と某ヨーガの達人は"瞑想で人は殺せる"と断言している。そう....."呪力"は実在するし、現代の人間でも使用可能なのだ。

 貴志先生はデビュー作の『十三番目の人格 ISOLA』からして、脳科学認知科学、オカルトに造詣が深いのが伺える。そういった知識をフル活用して考案されたと思われる"呪力"はリアリティがあり、少年少女たちを修行に駆り立てる魅力を秘めているのである。

 

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呪力をかっこよく使う男

 

エロい。

 前述したが本作は"生物の攻撃抑制に対する興味"から誕生している。皆が核兵器のボタンを持っていると形容されるくらい超強力な呪力をどうやって人に向けて使わせないようにするのか?

 その一つがボノボ型社会である。以下wikiより引用。

 

個体間で緊張が高まると擬似的な交尾行動(マウンティング)、オス同士で尻をつけあう(尻つけ)、メス同士で性皮をこすりつけあう(ホカホカ)などの行動により緊張をほぐす。

 

それを人間に当て嵌めるとどうなるか。

想像にお任せするとしか言いようがないが、ここは一つアニメのワンシーンを挙げておく。百合&BL全開な上に、未成年のセクロスも実に違和感なく盛り込まれている。

 

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百合の花は咲き乱れる。

 

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言うまでもなくBLも全開である。

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当然異性間もある。二人は子どもだ。
 
画像はアニメ版でありアニメでは割と軽くスルーされてしまうのだが、小説の描写はアニメの100倍はエロい。人間の最大の動力源は性欲である。これを読まずして何を読むというのだろうか。
なお女性作家であれば五感を使ったかのような生々しい性描写をデフォルトで取得しているように思うのだが、男性作家は視覚メインの描写が多いせいか、ストレートで少々物足りないことがある。しかし安心である。この貴志祐介という男は女性的なエロ描写を描くことのできる少数派の人間なのだ。

 

センスに溢れた架空の用語

やたらセンスの良い造語が大量に登場する。以下はそのほんの一例である。

◇神栖66町

◇ラーマン=クロギウス症候群→別名『鶏小屋の狐』症候群
 混沌型のラーマンⅠ~Ⅳ型と秩序型と呼ばれるクロギウスⅠ~Ⅲ型

◇橋本アッペルバウム症候群

◇神聖サクラ王朝

◇謎の生物:バケネズミ、ミノシロ、ネコダマシなど

◇古の大量破壊兵器:サイコバスター

 このような架空の用語が多数登場する一方で、Panasonic東芝霞ヶ浦や東京といった実在する名詞が登場することによって、架空の用語も実在するのではないか?という錯覚をもたらされる。最初に読んだ時にPanasonicや東京が出てきた時のテンションの上がり方は相当なものであったことを覚えている。

 

儚い青春と切ない恋愛

 まやかしの学園生活。そして消えていく仲間達。 

貴志先生は『青の炎』で青春や恋愛も書けることを証明しているが、『新世界より』でもその才能は大いに発揮されている。長大なボリュームということもあり、学園のシーンや仲間たちとの冒険がしっかり描かれているため、むしろ『青の炎』より優れているといっても過言ではない。 私は貴志作品で初めて涙を流した。
 
↓アニメ版のED2は『新世界より』の切なさを見事に表現しきっている。
 
完璧に涙腺が決壊した。正直貴志作品で涙を流すことになるとは夢にも思わなかったので、不意打ちをくらったようである。
 

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泣かせにかかっている.....


ホラー全開の地獄の後半戦

 貴志先生と言ったら『黒い家』や『天使の囀り』を書いた天才ホラー作家だ。『新世界より』はSFだけでなく、貴志先生が他の作品でも披露したすべての才能が結集している集大成である。したがってホラー作品としても超一級品なのだ。

『黒い家』『クリムゾンの迷宮』では恐ろしい相手が襲ってくるというスリリングな描写が炸裂しているが、『新世界より』は敵の強さやスケールのでかさが比較になっていない。それでいて”夏”で”田舎”というホラーの王道的なシチュエーションであるため、数ある貴志ホラーの中でも最高傑作と言っても過言ではない。

 ストーリー序盤からすでに不穏な空気は全開なのだが、後半は不穏を通り越して完全にホラー小説以外の何物でもない。特に"○○"との邂逅シーンの恐怖度は、個人的には『黒い家』を完全に凌駕している。

 

アニメ版の画像を見ていただければ、どれほどホラー成分が濃厚なのか一目瞭然だろう。着物キャラに包帯ぐるぐる巻きのコンビネーションは強力である。

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貴志祐介はホラーの名手でもある

何がどうなったら白目をむいて泡を吹いてしまうのかは読んでみてのお楽しみである。ド派手な残虐描写もあるので覚悟しよう。

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完全に狂気のホラー

 

魅力あふれる個性的なキャラクター

 貴志作品には『黒い家』の菰田幸子や『硝子のハンマー』の榎本径、『悪の教典のハスミンなど、著者がかなりこだわったと思われるようなインパクトのあるキャラは確かに存在する。しかし男気溢れるヒーローのようなキャラクターは果たしていただろうか。『新世界より』には北斗の拳で言うところの、トキやレイ、シュウのような自己犠牲精神に溢れた男の中の男が登場する。

特に奇狼丸はすべての貴志作品の中でもナンバー1のスーパーヒーローだ。

 ヒーロー的なキャラ以外にもやんちゃなイケメン、優しいイケメン、奔放な美女など他の作品に比べてもそれぞれの人物の個性が光っている。

 

最強に強いイケメンが登場する。強いイケメンというのはチートキャラということを意味している。彼は地球を真っ二つにできる。

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アニメ版のかっこよさは異常

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貴志作品で1番好きなキャラ。私もこんな風になりたいものである。

人生の目標ができた

新世界より』が好き過ぎてただひたすら褒め称えてしまったのだが、私ごときの文章力でこの本の魅力を伝えきることなど到底できない。とにかくただ素晴らしい作品なのである。

 読了後、私には新たな目的ができた。『新世界より』を超えるほどの面白い本を探し出すということである。このブログのタイトルはその思いから名付けている。

 未読の人はぜひとも読んでほしい。学校や仕事がある方は休もう。そんなことをしている場合ではない。既読の方は脳科学やオカルトの本を読んで今すぐ呪力の修行に入ろう。想像力ですべてを変えてしまおう!!

 

新世界より 上中下巻セット

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『〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件』早坂吝|本格推理小説に新たな伝説(笑)

これぞメフィスト賞...本を燃やすも愛するも読者次第。

 

 

作品紹介

 早坂吝氏による『〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件』は講談社から2014年に出版された作品である。文庫版のページ数は解説込みで326ページとちょうど良いボリュームで読みやすい。

孤島のクローズドサークルという正統派な犯人当ての本格推理小説だが、本作がいかにもメフィスト賞受賞作品らしいところは、いきなり読者への挑戦状で始まり、しかもその内容が”タイトルを当ててみろ”というふざけたものであることだろう。

キャラやラノベのような軽い文体は人を選びまくるだろうが、好きな人はとことん好きになるキャラクターと作風で、当然私は大好きだ。愛している。

 

 以下、あらすじの引用

アウトドアが趣味の公務員・沖らは、仮面の男・黒沼が所有する孤島での、夏休み恒例のオフ会へ。赤毛の女子高生が初参加するなか、孤島に着いた翌日、メンバーの二人が失踪、続いて殺人事件が。さらには意図不明の密室が連続し……。果たして犯人は? そしてこの作品のタイトルとは? 「タイトル当て」でミステリランキングを席巻したネタバレ厳禁の第50回メフィスト賞受賞作

 

○○○○○○○○殺人事件 (講談社文庫)

○○○○○○○○殺人事件 (講談社文庫)

  • 作者:早坂 吝
  • 発売日: 2017/04/14
  • メディア: 文庫
 

 

ずっと前から気になっていた

 学校や職場でずっと気になるあの子というのは必ず一人はいるものだ。そう、本作は私の中でそんなポジションに長いこといた作品である。

少しでもその人の情報を得たいのに、下手に嗅ぎ回ってしまうといろいろな人に噂されてしまう。そんなリスクを背負いながらも、危険を承知でひたすら探偵のごとく情報収集をする。(注:私はストーカーではないです。)

上記は例えなのだが、『〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件』とはそのような戦いが続いた。つまりネタバレを回避しつつも、少しでも多くの情報を得るべくネットサーフィンするという、勘を頼りに地雷原を突き進むような荒業を余儀なくされたのだ。

なにせこのタイトルでメフィスト賞受賞作ですぜ.....駄作の予感がそこはかとなく漂っているではありませんか。

...と、まぁ本作とのなれそめから書いてみたのだが、少しでも好奇心を刺激された方は絶対に読むべきである。良い意味でThe メフィスト賞作品!!と叫びたくなるようなメフィスト史に新たな伝説を刻んだ作品なのだ。

 

空前絶後のお下劣無双

 良い子は見ちゃダメな描写が好きかどうかで本作の評価は決まる。私は意味のないエロやグロは好きではないのだが(いや、本当は好きかも)、この稀代の怪作のエロにはちゃんとした意味がある。

それもちょっとした意味ではなく、極めて重要な意味があるのだから敬意を払いたくなってしまう。私はこれほどまでにち〇こや包〇、さらにはフェ〇〇オやア〇ル責め、ま〇この中に意味を持たせた小説を他には知らない。いや、小説どころかAVでも映画でも局部をここまで有効活用することは不可能だろう。

早坂吝は股間の神様だ!!(笑)

 このブログはまとめ記事を中心にして、個別記事は余程のことが無い限り書かない方針で考えていたのだが、もはやこれだけは書かずにはいられなかった。大人になれたと思っていたが、残念ながら中身はクレヨンしんちゃんのままだったのである。

 

実はガチなフーダニット

 本作はキワモノである。例えるなら裏ビデオといったところだろうか。

しかし裏ビデオとはいえ、昨今ではノーマルビデオと同等かそれ以上.....否、もはや裏世界の女優たちの戦闘力はAKB48などのアイドルを軽く凌駕してしまっているのである。

くだらない例えをしてしまったが、何が言いたいかというと『〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件』は正真正銘の本格推理小説である。それも孤島というクローズドサークルにおけるこてこてのフーダニット(犯人当て)であり、そのクオリティはすでに推理小説の世界で名の知れた作品群と比較しても遜色ないレベルなのだ。

私はあまりにもこの本を気に入ってしまったため、読了後すぐに最初から読み始めたのだが、要となる重要な仕掛けについてかなりフェアにヒントが提示されていた。 しかも2週目を読むと股間のふくらみとともに笑いまでも巻き起こされるのだからたまったものではない。

 また作中に頻繁に放たれるミステリーマニアの主人公のセリフが異常に面白い。あの京大推理小説研究会に所属されていた方だけに、古今東西推理小説ネタが随所にばらまかれていて、様々な推理小説あるあるを堪能することができた。

 

三つ子の魂百まで by 麻耶雄嵩

 『〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件』の解説は新本格の代表作家の中でも、問題作を世に放ち続けることで有名な麻耶雄嵩氏が書かれている。分かる人であれば講談社が解説を麻耶雄嵩に頼んだという時点でこの本がどれほどの作品なのか分かるのではないだろうか。

ちなみにこの解説はかなり面白いので絶対に読むべきなのだが、電子書籍版では端折られているので、紙の本を購入することをおすすめしたい。

それともう一点。世の中には後書きや解説を先に読むというタイプの人間がいることと思う。私もその一人である。ただし本作におけるその行動は極めて危険だということをお伝えしておこう。後書きの直前に『〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件』のタイトルが書かれているので、事故って見てしまう可能性が高い。無論私はタイトルを先に見てしまった。(泣)

これもまた三つ子の魂百までなのだろう。嵌められた。

 

そして伝説へ

 私はまだメフィスト賞受賞作をそれほど多くは読んでいないのだが、『〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件』がこの賞の作品群の中で長く語られていくであろうことはまず間違いない。

メフィスト賞受賞作には『六枚のとんかつ』という蘇部健一による伝説のバカミスが存在するが、本作は新たなる伝説を生んだのである。

さあ、未読の方は今すぐに読まれるがよい!!

 

○○○○○○○○殺人事件 (講談社文庫)

○○○○○○○○殺人事件 (講談社文庫)

  • 作者:早坂 吝
  • 発売日: 2017/04/14
  • メディア: 文庫
 

 

京極夏彦『百鬼夜行シリーズ』|読む順番とおすすめ作品ランキング

作家界の妖怪

見る者を圧倒する分厚いレンガ本が本屋に並ぶため、本好きなら誰もが名前は知っているであろう妖怪作家・京極夏彦

京極作品の中でも最も知名度の高い百鬼夜行シリーズについて刊行順および読む順番、メインストーリーの作品ランキングを書いていく。

百鬼夜行シリーズはとにかくページ数が多いため読むのを躊躇されるかもしれないが、優れたミステリー小説であり蘊蓄の難解な部分を除けば意外と読みやすい。

おまけに京極作品はすべて文章がページを跨がないというこだわりがあり、リーダビリティを高めている。

個性的なキャラや妖怪の仕業としか思えない怪事件が読む手を止めさせない『百鬼夜行シリーズ』の魅力を知っていただければと思う。

 

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京極堂のセルフコスプレをされる京極大先生。

 

刊行年と読む順番

 百鬼夜行シリーズはメインストーリーが九作品あり(塗仏の支度と始末は公式には別作品扱い)、他にサイドストーリーやスピンオフ作品がある。

読む順番について『百鬼夜行シリーズ』は順番通りに読まなくても支障がないようにある程度の配慮がなされているが、基本的には一作目の『姑獲鳥の夏』から順番に読み進めた方がいい。

四作目の『鉄鼠の檻』までは順番通りに読まなくても何とかなると思うが、五作目の『絡新婦の理』以降はさすがに厳しいと思う。

特に『塗仏の宴』はこれまでの作品を読んでいないと誰が誰だかさっぱりだろうし、重大なネタバレも喰らうことになる。

サイドストーリーやスピンオフ作品はその作品の刊行年より前のメインストーリーを読んでから気分で読めばいい。

本編

  • 第一作 姑獲鳥の夏(1994年)
  • 第二作 魍魎の匣(1995年)
  • 第三作 狂骨の夢(1995年)
  • 第四作 鉄鼠の檻(1996年)
  • 第五作 絡新婦の理(1996年)
  • 第六作 塗仏の宴 宴の支度(1998年)
  • 第七作 塗仏の宴 宴の始末(1998年)
  • 第八作 陰摩羅鬼の瑕(2003年)
  • 第九作 邪魅の雫(2006年)
  • 第十作 鵼の碑(2023年)
  • 第十一作 幽谷響の家(未定)

サイドストーリー

スピンオフ作品

榎木津礼二郎スピンオフ

  • 百器徒然袋 雨(1999年)
  • 百器徒然袋 風(2004年)

 

■多々良勝五郎スピンオフ

  • 今昔続百鬼 雲(2001年)

 

■中禅寺敦子&呉美由紀スピンオフ

  • 今昔百鬼拾遺 鬼(2019年)
  • 今昔百鬼拾遺 河童(2019年)
  • 今昔百鬼拾遺 天狗(2019年)
  • 今昔百鬼拾遺 月(2020年) ※上記三作品の合本

 

作品ランキング

  最高傑作候補の作品は概ね読者たちの間で共通しているようだが、ランキングとなると読者の好みに大きく影響されると思う。

百鬼夜行シリーズ』は極めて優れた推理小説ではあるが、この記事では推理小説としての完成度はあまり考慮せずに純粋に面白かった順で格付けさせていただく。

 

九位  陰摩羅鬼の瑕(1221頁)

 

「おお!そこに人殺しが居る!」探偵・榎木津礼一郎は、その場に歩み入るなりそう叫んだ―。嫁いだ花嫁の命を次々と奪っていく、白樺湖畔に聳える洋館「鳥の城」。その主「伯爵」こと、由良昂允とはいかなる人物か?一方、京極堂も、呪われた由良家のことを、元刑事・伊庭から耳にする。シリーズ第八弾。

 

 文庫版で1200ページを超える大作でありながら、シリーズの中でも一番シンプルで分かりやすい事件となっている。しかしそれでも不可解な謎や不気味な描写などといったシリーズの核となる要素はしっかり押さえられた作品である。

登場人物もシリーズ最小のため、推理小説慣れしている人であれば序盤で犯人は分かってしまうだろうが、犯人が分かったところで本作の楽しみはまったく損なわれることは無いので安心して読み進められる。

とはいえ内容がシンプルだけに、このページ数だとさすがに冗長感は否めないのでこの順位となった。シリーズを通して関口君が最も活躍する。

 

 

八位  邪魅の雫(1319頁)

 

江戸川、大磯で発見された毒殺死体。二つの事件に繋がりはないのか。小松川署に勤務する青木は、独自の調査を始めた。一方、元刑事の益田は、榎木津礼二郎と毒殺事件の被害者との関係を、榎木津の従兄弟・今出川から知らされる。警察の捜査が難航する中、ついにあの男が立ちあがる。百鬼夜行シリーズ第九弾。

 

731部隊帝銀事件、そしてそれらとの関連を匂わせる毒殺魔などネタはとても良いのだが、百鬼夜行シリーズならではの怪異のような謎がないため、良くも悪くも普通のミステリーになっているのが少々物足りないところだ。

1300ページを超える作品だが、終盤で榎木津と京極堂が出陣するまでは全体的に物語の起伏が少なく盛り上がりに欠けることと、事件が異常に複雑な上に登場人物が多く、しかも偽名を使うなどややこしいので、読み進めるのはかなりの労力が必要になる。

だが事件自体は非常に良くできており、京極堂による付物落とし(本作ではほとんど名探偵としての推理に近い)や、榎木津が下す罰が素晴らしい。

 

 

七位  鵼の碑(1280頁 ※単行本)

 

殺人の記憶を持つ娘に惑わされる作家。消えた三つの他殺体を追う刑事。妖光に翻弄される学僧。失踪者を追い求める探偵。死者の声を聞くために訪れた女。そして見え隠れする公安の影。発掘された古文書の鑑定に駆り出された古書肆は、縺れ合いキメラの如き様相を示す「化け物の幽霊」を祓えるか。

 

昔から本のタイトルは告知されていたが、いつまで経っても発売されず、満を持して十七年振りにいよいよ発表された続刊。

神傑作である『魍魎の匣』や『絡新婦の理』のような作品を期待すると、どうしてもあっさりした印象ではあるが、キャラものとして期待通りの完成度であることと、テーマが好みだったため、個人的には大いに楽しむことができた。ちなみにこのシリーズは事件が複雑であることが常だが、本作は『邪魅の雫』に勝るとも劣らない複雑っぷりで考えながら読むことは早々にやめた。(いつも通りではあるのだけど)

なお私は基本、新書が苦手で分冊文庫版で読むのだが、今回は単行本で読んだため随分読みにくいと感じた(笑)

いくら何でもこれはやり過ぎでしょう...。

 

 

六位  鉄鼠の檻(1359頁)

 

忽然と出現した修行僧の屍、山中駆ける振袖の童女、埋没した「経蔵」…。箱根に起きる奇怪な事象に魅入られた者―骨董屋・今川、老医師・久遠寺、作家・関口らの眼前で仏弟子たちが次々と無惨に殺されていく。謎の巨刹=明慧寺に封じ込められた動機と妄執に、さしもの京極堂が苦闘する、シリーズ第四弾。

 

最高傑作という方も多い作品で前作までとは作風がやや異なっており、怪奇幻想の度合いが減退し本格推理小説としての度合いが高まっている。 

寺での連続殺人事件に加えて、謎に包まれた寺そのものの正体を探るミステリーでもあり、さらに禅宗がメインテーマの一つである関係で、京極夏彦氏による悟り論を読むことができるなどとても完成度の高い作品である。

しかし本作では舞台が舞台だけに、京極夏彦お得意の妖気を纏った色っぽい女性キャラがほぼ活躍しないのが痛いところだ。

魅力的な女性キャラは京極作品のセールスポイントだと考えているので、登場人物がお坊さんばかりというのは個人的には厭だ(笑)

榎木津の神のごとき大活躍を読めるだけでも価値あり。

 

 

五位  狂骨の夢(982頁)

 

夫を四度殺した女、朱美。極度の強迫観念に脅える元精神科医、降旗。神を信じ得ぬ牧師、白丘。夢と現実の縺れに悩む三人の前に怪事件が続発する。海に漂う金色の髑髏、山中での集団自決。遊民・伊佐間、文士・関口、刑事・木場らも見守るなか、京極堂は憑物を落とせるのか?著者会心のシリーズ第三弾。

 

「女が同じ男を何度も殺す」という非常に不可解な謎が提示されるなど、百鬼夜行シリーズの中でも最も怪奇幻想度やオカルト要素が特に高い作品だと思う。

ばらまかれた謎とありえない事件が後半の怒涛の伏線回収と共に解決していく様は読んでいて爽快感すらある。ネタバレになりかねないので詳細は伏せるが、謎の神主やら某密教描写は特に話に引き込まれた。

心理学の蘊蓄部分が難解で序盤は読み進めるのが難儀なのが玉に瑕だが、主要登場人物である朱美のキャラやシリーズの中でも風景の描写が美しいなど好きな人はとことん好きになるだろう。

 

 

四位  姑獲鳥の夏(630頁)

 

この世には不思議なことなど何もないのだよ―古本屋にして陰陽師が憑物を落とし事件を解きほぐす人気シリーズ第一弾。東京・雑司ケ谷の医院に奇怪な噂が流れる。娘は二十箇月も身籠ったままで、その夫は密室から失踪したという。文士・関口や探偵・榎木津らの推理を超え噂は意外な結末へ。

 

 「20ヶ月妊娠している女」と「完全な密室で消失した男」という極めて不可解な謎が魅力的なシリーズ一作目。

はっきり言ってトリックだけ見てしまえばバカミスなのだが、京極堂の100ページに及ぶ冒頭の蘊蓄や事件の複雑な背景がトリックの伏線となっていて、バカミスだとは口が裂けても言えないような状況を作り上げている。

ページ数も少なく(笑)話も二作目以降の作品に比べれば分かりやすいので、必ず最初に読んでおくべき作品だ。

しかしこれがデビュー作とは天才はいるんだなぁと思う次第である。

 

 

三位  塗仏の宴(2051頁)

 

「知りたいですか」。郷土史家を名乗る男は囁く。「知り―たいです」。答えた男女は己を失い、昏き界へと連れ去られた。非常時下、大量殺戮の果てに伊豆山中の集落が消えたとの奇怪な噂。敗戦後、簇出した東洋風の胡乱な集団六つ。十五年を経て宴の支度は整い、京極堂を誘い出す計は成る。シリーズ第六弾。

 

「愉しかったでしょう。こんなに長い間、楽しませてあげたんですからねぇ」。その男はそう言った。蓮台寺温泉裸女殺害犯の嫌疑で逮捕された関口巽と、伊豆韮山の山深く分け入らんとする宗教集団。接点は果たしてあるのか?ようやく乗り出した京極堂が、怒りと哀しみをもって開示する「宴」の驚愕の真相。

 

 トータルで2000ページを超える大長編だが、シリーズの中でも特にエンタメ要素が強く、あまり長さを感じることなく読み進められる傑作。

謎の生物「くんほう様」や、くんほう様を狙う謎の組織や人物など途方もない量の謎がばら撒かれている。

事件の全貌すら把握出来ない....というよりそもそも事件かどうかも怪しいのだが、満を持して京極堂が出陣するシーンのテンションの上がり方は半端ではない。お馴染みのメンバーがそれぞれに活躍し、シリーズ最強の難敵と戦うのが熱い。

オールスター作品であり『百鬼夜行シリーズ』の一つの到達点ともいえる内容だ。

 

 

二位  絡新婦の理(1389頁)

 

当然、僕の動きも読み込まれているのだろうな―二つの事件は京極堂をしてかく言わしめた。房総の富豪、織作家創設の女学校に拠る美貌の堕天使と、血塗られた鑿をふるう目潰し魔。連続殺人は八方に張り巡らされた蜘蛛の巣となって刑事・木場らを眩惑し、搦め捕る。中心に陣取るのは誰か?シリーズ第五弾。

 

冒頭の美しさは天下一品。

そして最後まで読み終わったら必ず最初に戻るという蜘蛛の罠。

女郎蜘蛛が知らず知らずのうちに常軌を逸した事件を引き起こしていく超絶ミステリーであり、百鬼夜行シリーズの中でも最も複雑な事件であるにも関わらず、エンタメ要素が高まっておりとても読みやすいのが特徴だ。

事件の黒幕は京極堂も苦戦を強いられるほどの難敵であり、”黒い聖母”などのオカルトも魅力的だが、本作の素晴らしさはとにかく美女&美少女まみれでとっても華やかだということである。

聖ベルナール女学院に全員女の織作家。これぞ男子本懐の極み。

フェミニズムに関する京極先生の考察は男性でも女性でも一読すべき素晴らしい内容となっている。『塗仏の宴』を読んでショックを受けたのは私だけではありますまい。

 

 

一位  魍魎の匣(1060頁)

 

匣の中には綺麗な娘がぴったり入ってゐた。箱を祀る奇妙な霊能者。箱詰めにされた少女達の四肢。そして巨大な箱型の建物―箱を巡る虚妄が美少女転落事件とバラバラ殺人を結ぶ。探偵・榎木津、文士・関口、刑事・木場らがみな事件に関わり京極堂の元へ。果たして憑物は落とせるのか!?日本推理作家協会賞に輝いた超絶ミステリ、妖怪シリーズ第2弾。

 

 シリーズの中でも飛び抜けてグロテスクな描写で描かれる屈指の傑作。

「生きている人形」や「重体で医療機器に繋がれた少女が衆人環境で瞬時に消失」といった不可解な謎を初めとして、関連があるのかどうかも不明な複数の謎が散りばめられるが、最後は京極堂の憑き物落としにより見事に収束していく。

冒頭の美しい文章から、恐るべき事件の収束まで一気読みしてしまうほど素晴らしい。

アニメ化も映画化もされており、特にアニメの方はとても完成度が高いので、読むのを躊躇される方はアニメから入るのもありかもしれない。

 歴代ミステリーを格付けした東西ミステリーベスト100の上位に入るほどの傑作をぜひ体感してほしい。

 ただしSF的な要素を持つグロテスクな描写はくれぐれも注意が必要だ。

 

 

最後に

 百鬼夜行シリーズは下手な自己啓発書やビジネス書よりもはるかに学べることが多い。まだシリーズを未読の方は今すぐにでも『姑獲鳥の夏』を読み始めるべきだが、ページ数の多さに躊躇されるというのならば、まずはコミック版をおすすめしたい。

そして幻となった続編『鵺の碑』が近日発売とのアナウンスが出た。

すでにシリーズを通読された方もこの際最初から読み直されてみてはいかがだろうか。

 

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綾辻行人『館シリーズ』|読む順番とおすすめ作品ランキング

新本格ムーブメントの筆頭

それは新本格ムーブメントの発端となった『十角館の殺人』を書いた綾辻行人だろう。

王道のクローズドサークル作品からトリッキーな作品、怪奇幻想要素の高い作品までバラエティ豊富にそろった、綾辻先生の代表作である『館シリーズ』について刊行順や読む順番、おすすめ作品をランキング形式で紹介したいと思う。

なお綾辻氏曰く、『霧越邸殺人事件』はシリーズの番外編とのことで本記事のランキングでは『霧越邸殺人事件』も入れることにする。

 

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作家というよりも名探偵のように感じてしまう


 

刊行年

 『館シリーズ』は全10作構想となっており、現在は9作目まで発表されている。

 

  1. 十角館の殺人(1987年)
  2. 水車館の殺人(1988年)
  3. 迷路館の殺人(1988年)
  4. 人形館の殺人(1989年)
  5. 時計館の殺人(1991年)◆上下巻
  6. 黒猫館の殺人(1992年)
  7. 暗黒館の殺人(2004年)◆全4巻
  8. びっくり館の殺人(2006年)
  9. 奇面館の殺人(2012年)◆上下巻

 ◇ 霧越邸殺人事件(1990年)

 

黒猫館まではかなりのハイペースだが、それ以降はとてもまったりしたペースになっている。しかも暗黒館とびっくり館は純粋な本格推理小説とは言い難い作品なので、もうガチな推理小説は書けないのだろうかと心配していたら奇面館は直球の本格推理小説だったので、シリーズ最終作品となる10作目には大きな期待が持てる。

 

 

読む順番

いきなり結論を書いてしまうとやはり刊行順に読んでいくのが一番いい。

少なくとも1作目の『十角館の殺人』から3作目の『迷路館の殺人』までは必ず順番通りに読まなければならない。

順番通りに読まないと迷路館に仕掛けられた重大なトリックのネタバレになる可能性があるためだ。

迷路館以降の作品は7作目の『暗黒館の殺人』を除けばあまり順番を気にする必要は無いのだが、暗黒館だけは『人形館の殺人』を除く『黒猫館の殺人』までの作品をすべて読んでからでないと楽しみが減少してしまう。

上記の理由から刊行順に読むのが一番無難だと言える。

ただし「俺はガチな本格推理小説が読みたいんだっ!!」という人は以下の順番でもいいかもしれない。

 

  • 1冊目|十角館の殺人
    綾辻先生の処女作であり、後世に名を残すであろう普遍的な傑作なのでこれを最初に読まない理由は存在しないだろう。
  • 2冊目|水車館の殺人 
    上述の通り、次作迷路館の仕掛けの関係で本作は必ず2番目に読むべき作品である。
  • 3冊目|迷路館の殺人
    シリーズを順番通りに読んでいるとここでトリッキーな罠が待っている。
  • 4冊目|時計館の殺人
    人形館を飛ばして読んでも問題ない。傑作と称される本作を早く読みたいというせっかちな人はご参考まで。
  • 5冊目|黒猫館の殺人
    本作も人形館より先に読んでも何の問題もない。
  • 6冊目|奇面館の殺人
    暗黒館という壁に阻まれて本作を読まないのはもったいないので先に持ってきている。もちろん後述の作品より先に読んでも問題ない。
  • 7冊目|人形館の殺人
    あらゆる意味で異色作であり、サスペンス的な要素が強いため本格推理小説としての雰囲気は少なく、シリーズ物として順番通りに読まなくても問題ない。
  • 8冊目|暗黒館の殺人
    人形館をのぞく過去に登場した館に関連する話がたくさん出てくるうえに、既刊の作品を読んでいないと魅力は激減する。また怪奇幻想の要素がかなり強く、謎解きに関してはページ数に見合った衝撃はない。ダークファンタジーとして楽しんだ方がいいくらいなので後回しでも問題ない。

 

迷路館までは必ず順番に読んで暗黒館は後の方に読むと覚えておけば問題ないだろう。

 

作品ランキング

 『館シリーズ』はどの作品も個性的な謎があるためそれぞれ異なった魅力がある。

格付けするのはかなり無理があるのだが、あくまでも個人的な好みで判定したい。

 

10位  人形館の殺人(1989年)

 

父が飛龍想一に遺した京都の屋敷――顔のないマネキン人形が邸内各所に佇(たたず)む「人形館」。街では残忍な通り魔殺人が続発し、想一自身にも姿なき脅迫者の影が迫る。彼は旧友・島田潔に助けを求めるが、破局への秒読み(カウントダウン)はすでに始まっていた!? シリーズ中、ひときわ異彩を放つ第4の「館」、新装改訂版でここに。「遠すぎる風景」に秘められた恐るべき真実!!

 

 サスペンスとしてはなかなか魅力的な作品であることは間違いないのだが、館シリーズ』に求めるタイプの感動は得られないかもしれないということでこの順位とした。

島田荘司御大による世界最強の推理小説占星術殺人事件』が実在の事件として作中に登場するのがアツい。探偵役の名前を島田潔にしてしまっただけあって、島田御大への大きなリスペクトがうかがえる。

 

 

9位  びっくり館の殺人(2006年)

 

あやしい噂が囁かれるお屋敷町の洋館、その名もびっくり館。館に住む少年と友だちになった三知也たちは、少年の祖父が演じる異様な腹話術劇におののくが…クリスマスの夜、ついに勃発する密室の惨劇!悪夢の果てに待ち受ける戦慄の真相とは!?ミステリーランド発、「館」シリーズ第八弾。

 

 個人的にはかなり好みの作風で、好きで好きでたまらない作品である。

しかしながら『館シリーズ』として考えればこの順位が妥当かと思う。

番外編というかシリーズとしての必然性がほとんどなく、シリーズの共通要素となる「中村青司」や「島田潔」はオマケ程度の登場である。

推理小説と言うよりもホラー小説と言った方が妥当かもしれない。

 

 

8位  黒猫館の殺人(1992年)

 

大いなる謎を秘めた館、黒猫館。火災で重傷を負い、記憶を失った老人・鮎田冬馬の奇妙な依頼を受け、推理作家・鹿谷門実と江南孝明は、東京から札幌、そして阿寒へと向かう。深い森の中に建つその館で待ち受ける、“世界”が揺らぐような真実とは!? シリーズ屈指の大仕掛けを、読者は見破ることができるか?

 

 変化球型ではあるが、散りばめられたヒントから壮大な仕掛けを見破ることが可能な魅力的な作品になっている。王道のクローズドサークル作品とは趣きが異なるが、エンタメ要素は高めで伏線の張り方がとても巧みな作品である。

 

 

7位  時計館の殺人(1991年)

 

鎌倉の外れに建つ謎の館、時計館。角島・十角館の惨劇を知る江南孝明は、オカルト雑誌の“取材班”の一員としてこの館を訪れる。館に棲むという少女の亡霊と接触した交霊会の夜、忽然と姿を消す美貌の霊能者。閉ざされた館内ではそして、恐るべき殺人劇の幕が上がる!第45回日本推理作家協会賞に輝く不朽の名作、満を持しての新装改訂版。

 

 世間的には1,2位を争う傑作という評価がなされており、私自身も本格推理小説としての完成度は1番だと思っている。ただあまりにも教科書通りな展開であることと、おいおいそんなに殺されるかよ普通!という心の声によりこの順位となった。

本格推理小説にリアリティを持たせることに何の意味もないことなど百も承知しているのだがいくら何でもあっさり殺され過ぎである。

 

 

6位  霧越邸殺人事件(1990年)

 

1986年、晩秋。劇団「暗色天幕」の一行は、信州の山中に建つ謎の洋館「霧越邸」を訪れる。冷たい家人たちの対応。邸内で発生する不可思議な現象の数々。見え隠れする何者かの怪しい影。吹雪で孤立した壮麗なる“美の館”で舞台に今、恐ろしくも美しき連続殺人劇の幕が上がる!日本ミステリ史上に無類の光芒を放ちつづける記念碑的傑作、著者入魂の“完全改訂版”!!

 

 番外編とのことだがこれ以上ないほどの”吹雪の山荘”モノであり、館シリーズ以上に館している作品である。本作は新潮社から出ているという理由でシリーズに入っていないのだろうがシリーズに入っていても違和感はない。

怪奇幻想要素が入っており、綾辻先生によると本格推理7:怪奇幻想3の塩梅だそうだが、殺人事件のトリックと幻想要素はうまいこと分離されているので、本格推理小説として十分に楽しむことができる

冒頭に「もう一人の中村青司に捧ぐ」とあるがこれは奥様である小野不由美女史のことである。夫婦愛があって良いですな。

 

 

5位  水車館の殺人(1988年)

 

仮面の当主と孤独な美少女が住まう異形の館、水車館。一年前の嵐の夜を悪夢に変えた不可解な惨劇が、今年も繰り返されるのか?密室から消失した男の謎、そして幻想画家・藤沼一成の遺作「幻影群像」を巡る恐るべき秘密とは…!?本格ミステリ復権を高らかに謳った「館」シリーズ第二弾、全面改訂の決定版。

 

 安定感のある傑作でシリーズ全体でも最も正統派な本格推理小説の印象がある。犯人、トリック、動機とどこをとっても優れており雰囲気もとても良い。盟友の有栖川有栖氏は本作を読んで綾辻行人のことを認めたそうだ。

十角館と迷路館というインパクトのある作品に挟まれているせいで地味なイメージなのかもしれないが、過去と現在が交互に語られ徐々に事件が明らかになっていくのは面白い。

 

 

4位  奇面館の殺人(2012年)

 

奇面館主人・影山逸史が主催する奇妙な集い。招待された客人たちは全員、館に伝わる“鍵の掛かる仮面”で顔を隠さねばならないのだ。季節外れの大雪で館が孤立する中、“奇面の間”で勃発する血みどろの惨劇。発見された死体からは何故か、頭部と両手の指が消えていた!大人気「館」シリーズ、待望の最新作。

 

トリッキーでありつつも直球の推理小説という遊び心が溢れた作品である。全作品の中で1番探偵が探偵っぽい活躍をしている点もいかにも本格推理小説らしい。

同じくトリッキーな作品である迷路館の正当な続編のようなポジションにある作品で、綾辻作品に大きな驚きを期待する方にはかなりおすすめできる。エンタメ要素も強めで上下巻による長さはほとんど感じない。

大御所となった綾辻先生が"吹雪の山荘"モノのクローズドサークル作品を上梓したという事実にも価値があると思う。

 

 

3位  暗黒館の殺人(2004年)

 

蒼白い霧に峠を越えると、湖上の小島に建つ漆黒の館に辿り着く。忌まわしき影に包まれた浦登家の人々が住まう「暗黒館」。当主の息子・玄児に招かれた大学生・中也は、数々の謎めいた出来事に遭遇する。十角塔からの墜落者、座敷牢、美しい異形の双子、そして奇怪な宴…。著者畢生の巨編、ここに開幕。

 

 文庫版にして2000ページ越えの超大作であり推理小説としては正直どうかと思うが、とても優れたダークファンタジとなっている。暗黒館の世界観が好きかどうかで評価は完全に別れそうだが、好きな人はとことん好きになる作風である。

しかし正統派な推理小説を好む方にはかなり厳しいと思う。既刊のシリーズよりも霧越邸殺人事件』『眼球奇譚』『フリークス』あたりが好きな方はもう暗黒館の住人である。恐れることなく読み始めよう。

 

 

2位  迷路館の殺人(1988年)

 

奇妙奇天烈な地下の館、迷路館。招かれた四人の作家たちは莫大な“賞金”をかけて、この館を舞台にした推理小説の競作を始めるが、それは恐るべき連続殺人劇の開幕でもあった。周到な企みと徹底的な遊び心でミステリファンを驚喜させたシリーズ第三作、待望の新装改訂版。初期「新本格」を象徴する傑作。

 

 数々の推理小説の中でも最強の騙し小説候補である。構成からしてやたらトリッキーであり、私は何が何でも騙されないように気合いを入れまくって読んだものだが、それでも後半はひたすら騙され続けるという強烈な敗北を味わうことになった。

綾辻作品は映像化不可能作品がとても多いのだが、本作はそんな作品の中でも間違いなくトップクラスである。数々のエンタメがはびこっている現代の世の中で、小説の魅力を伝えてくれる価値ある作品だ。

 

 

1位  十角館の殺人(1987年)

 

十角形の奇妙な館が建つ孤島・角島を大学ミステリ研の七人が訪れた。館を建てた建築家・中村青司は、半年前に炎上した青屋敷で焼死したという。やがて学生たちを襲う連続殺人。ミステリ史上最大級の、驚愕の結末が読者を待ち受ける!’87年の刊行以来、多くの読者に衝撃を与え続けた名作が新装改訂版で登場。

 

 もはや何も言うまい。お約束である。

本作が別格なのは衝撃の一行があるからというのも大きいが、人物にあまり魅力がない『館シリーズ』において全てのキャラが魅力的だと言うのも極めて重要なポイントであることは間違いない。探偵役が多数いてそれぞれに議論する展開はやはり面白い。

そして誰もいなくなったのだけれど。

 

 

シリーズ完結を願って

 まずはお約束の『十角館の殺人』を読んでみよう。話はそれからである。

これまでの作品ですでに様々なパターンのトリックを使っているし、サスペンス寄りな作品や怪奇幻想、ホラー寄りの作品も上梓されているので、いったいラストはどのような作品になるのだろうか。

綾辻先生のTwitterでたまに館シリーズ最終巻に関するツイートを見るのだが、まだ構想は固まっていないように見受けられる。

なるべく早く最終作を読めることを祈って締めることにしたい。

 

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島田荘司|御手洗潔&吉敷竹史シリーズ年表と作品一覧

島田御大の二大看板シリーズ

両者が登場する作品を読んでいると頻繁に作中の登場人物の年齢を計算してしまうのでまとめてみた。

この時この人物はこんな年齢だったのかと考えながら読んでいくと、なんとも言えないせつなさを感じてしまうのではないだろうか。

 

登場人物の生年月日

 

年表

 

作品発表順

吉敷竹史シリーズ

 

その他の作品

 
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若かりし頃の島田御大。まさにゴッド。