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京極夏彦『百鬼夜行シリーズ』|読む順番とおすすめ作品ランキング

作家界の妖怪

見る者を圧倒する分厚いレンガ本が本屋に並ぶため、本好きなら誰もが名前は知っているであろう妖怪作家・京極夏彦

京極作品の中でも最も知名度の高い百鬼夜行シリーズについて刊行順および読む順番、メインストーリーの作品ランキングを書いていく。

百鬼夜行シリーズはとにかくページ数が多いため読むのを躊躇されるかもしれないが、優れたミステリー小説であり蘊蓄の難解な部分を除けば意外と読みやすい。

おまけに京極作品はすべて文章がページを跨がないというこだわりがあり、リーダビリティを高めている。

個性的なキャラや妖怪の仕業としか思えない怪事件が読む手を止めさせない『百鬼夜行シリーズ』の魅力を知っていただければと思う。

 

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京極堂のセルフコスプレをされる京極大先生。

 

刊行年と読む順番

 百鬼夜行シリーズはメインストーリーが九作品あり(塗仏の支度と始末は公式には別作品扱い)、他にサイドストーリーやスピンオフ作品がある。

読む順番について『百鬼夜行シリーズ』は順番通りに読まなくても支障がないようにある程度の配慮がなされているが、基本的には一作目の『姑獲鳥の夏』から順番に読み進めた方がいい。

四作目の『鉄鼠の檻』までは順番通りに読まなくても何とかなると思うが、五作目の『絡新婦の理』以降はさすがに厳しいと思う。

特に『塗仏の宴』はこれまでの作品を読んでいないと誰が誰だかさっぱりだろうし、重大なネタバレも喰らうことになる。

サイドストーリーやスピンオフ作品はその作品の刊行年より前のメインストーリーを読んでから気分で読めばいい。

本編

  • 第一作 姑獲鳥の夏(1994年)
  • 第二作 魍魎の匣(1995年)
  • 第三作 狂骨の夢(1995年)
  • 第四作 鉄鼠の檻(1996年)
  • 第五作 絡新婦の理(1996年)
  • 第六作 塗仏の宴 宴の支度(1998年)
  • 第七作 塗仏の宴 宴の始末(1998年)
  • 第八作 陰摩羅鬼の瑕(2003年)
  • 第九作 邪魅の雫(2006年)
  • 第十作 鵼の碑(2023年)
  • 第十一作 幽谷響の家(未定)

サイドストーリー

スピンオフ作品

榎木津礼二郎スピンオフ

  • 百器徒然袋 雨(1999年)
  • 百器徒然袋 風(2004年)

 

■多々良勝五郎スピンオフ

  • 今昔続百鬼 雲(2001年)

 

■中禅寺敦子&呉美由紀スピンオフ

  • 今昔百鬼拾遺 鬼(2019年)
  • 今昔百鬼拾遺 河童(2019年)
  • 今昔百鬼拾遺 天狗(2019年)
  • 今昔百鬼拾遺 月(2020年) ※上記三作品の合本

 

作品ランキング

  最高傑作候補の作品は概ね読者たちの間で共通しているようだが、ランキングとなると読者の好みに大きく影響されると思う。

百鬼夜行シリーズ』は極めて優れた推理小説ではあるが、この記事では推理小説としての完成度はあまり考慮せずに純粋に面白かった順で格付けさせていただく。

 

九位  陰摩羅鬼の瑕(1221頁)

 

「おお!そこに人殺しが居る!」探偵・榎木津礼一郎は、その場に歩み入るなりそう叫んだ―。嫁いだ花嫁の命を次々と奪っていく、白樺湖畔に聳える洋館「鳥の城」。その主「伯爵」こと、由良昂允とはいかなる人物か?一方、京極堂も、呪われた由良家のことを、元刑事・伊庭から耳にする。シリーズ第八弾。

 

 文庫版で1200ページを超える大作でありながら、シリーズの中でも一番シンプルで分かりやすい事件となっている。しかしそれでも不可解な謎や不気味な描写などといったシリーズの核となる要素はしっかり押さえられた作品である。

登場人物もシリーズ最小のため、推理小説慣れしている人であれば序盤で犯人は分かってしまうだろうが、犯人が分かったところで本作の楽しみはまったく損なわれることは無いので安心して読み進められる。

とはいえ内容がシンプルだけに、このページ数だとさすがに冗長感は否めないのでこの順位となった。シリーズを通して関口君が最も活躍する。

 

 

八位  邪魅の雫(1319頁)

 

江戸川、大磯で発見された毒殺死体。二つの事件に繋がりはないのか。小松川署に勤務する青木は、独自の調査を始めた。一方、元刑事の益田は、榎木津礼二郎と毒殺事件の被害者との関係を、榎木津の従兄弟・今出川から知らされる。警察の捜査が難航する中、ついにあの男が立ちあがる。百鬼夜行シリーズ第九弾。

 

731部隊帝銀事件、そしてそれらとの関連を匂わせる毒殺魔などネタはとても良いのだが、百鬼夜行シリーズならではの怪異のような謎がないため、良くも悪くも普通のミステリーになっているのが少々物足りないところだ。

1300ページを超える作品だが、終盤で榎木津と京極堂が出陣するまでは全体的に物語の起伏が少なく盛り上がりに欠けることと、事件が異常に複雑な上に登場人物が多く、しかも偽名を使うなどややこしいので、読み進めるのはかなりの労力が必要になる。

だが事件自体は非常に良くできており、京極堂による付物落とし(本作ではほとんど名探偵としての推理に近い)や、榎木津が下す罰が素晴らしい。

 

 

七位  鵼の碑(1280頁 ※単行本)

 

殺人の記憶を持つ娘に惑わされる作家。消えた三つの他殺体を追う刑事。妖光に翻弄される学僧。失踪者を追い求める探偵。死者の声を聞くために訪れた女。そして見え隠れする公安の影。発掘された古文書の鑑定に駆り出された古書肆は、縺れ合いキメラの如き様相を示す「化け物の幽霊」を祓えるか。

 

昔から本のタイトルは告知されていたが、いつまで経っても発売されず、満を持して十七年振りにいよいよ発表された続刊。

神傑作である『魍魎の匣』や『絡新婦の理』のような作品を期待すると、どうしてもあっさりした印象ではあるが、キャラものとして期待通りの完成度であることと、テーマが好みだったため、個人的には大いに楽しむことができた。ちなみにこのシリーズは事件が複雑であることが常だが、本作は『邪魅の雫』に勝るとも劣らない複雑っぷりで考えながら読むことは早々にやめた。(いつも通りではあるのだけど)

なお私は基本、新書が苦手で分冊文庫版で読むのだが、今回は単行本で読んだため随分読みにくいと感じた(笑)

いくら何でもこれはやり過ぎでしょう...。

 

 

六位  鉄鼠の檻(1359頁)

 

忽然と出現した修行僧の屍、山中駆ける振袖の童女、埋没した「経蔵」…。箱根に起きる奇怪な事象に魅入られた者―骨董屋・今川、老医師・久遠寺、作家・関口らの眼前で仏弟子たちが次々と無惨に殺されていく。謎の巨刹=明慧寺に封じ込められた動機と妄執に、さしもの京極堂が苦闘する、シリーズ第四弾。

 

最高傑作という方も多い作品で前作までとは作風がやや異なっており、怪奇幻想の度合いが減退し本格推理小説としての度合いが高まっている。 

寺での連続殺人事件に加えて、謎に包まれた寺そのものの正体を探るミステリーでもあり、さらに禅宗がメインテーマの一つである関係で、京極夏彦氏による悟り論を読むことができるなどとても完成度の高い作品である。

しかし本作では舞台が舞台だけに、京極夏彦お得意の妖気を纏った色っぽい女性キャラがほぼ活躍しないのが痛いところだ。

魅力的な女性キャラは京極作品のセールスポイントだと考えているので、登場人物がお坊さんばかりというのは個人的には厭だ(笑)

榎木津の神のごとき大活躍を読めるだけでも価値あり。

 

 

五位  狂骨の夢(982頁)

 

夫を四度殺した女、朱美。極度の強迫観念に脅える元精神科医、降旗。神を信じ得ぬ牧師、白丘。夢と現実の縺れに悩む三人の前に怪事件が続発する。海に漂う金色の髑髏、山中での集団自決。遊民・伊佐間、文士・関口、刑事・木場らも見守るなか、京極堂は憑物を落とせるのか?著者会心のシリーズ第三弾。

 

「女が同じ男を何度も殺す」という非常に不可解な謎が提示されるなど、百鬼夜行シリーズの中でも最も怪奇幻想度やオカルト要素が特に高い作品だと思う。

ばらまかれた謎とありえない事件が後半の怒涛の伏線回収と共に解決していく様は読んでいて爽快感すらある。ネタバレになりかねないので詳細は伏せるが、謎の神主やら某密教描写は特に話に引き込まれた。

心理学の蘊蓄部分が難解で序盤は読み進めるのが難儀なのが玉に瑕だが、主要登場人物である朱美のキャラやシリーズの中でも風景の描写が美しいなど好きな人はとことん好きになるだろう。

 

 

四位  姑獲鳥の夏(630頁)

 

この世には不思議なことなど何もないのだよ―古本屋にして陰陽師が憑物を落とし事件を解きほぐす人気シリーズ第一弾。東京・雑司ケ谷の医院に奇怪な噂が流れる。娘は二十箇月も身籠ったままで、その夫は密室から失踪したという。文士・関口や探偵・榎木津らの推理を超え噂は意外な結末へ。

 

 「20ヶ月妊娠している女」と「完全な密室で消失した男」という極めて不可解な謎が魅力的なシリーズ一作目。

はっきり言ってトリックだけ見てしまえばバカミスなのだが、京極堂の100ページに及ぶ冒頭の蘊蓄や事件の複雑な背景がトリックの伏線となっていて、バカミスだとは口が裂けても言えないような状況を作り上げている。

ページ数も少なく(笑)話も二作目以降の作品に比べれば分かりやすいので、必ず最初に読んでおくべき作品だ。

しかしこれがデビュー作とは天才はいるんだなぁと思う次第である。

 

 

三位  塗仏の宴(2051頁)

 

「知りたいですか」。郷土史家を名乗る男は囁く。「知り―たいです」。答えた男女は己を失い、昏き界へと連れ去られた。非常時下、大量殺戮の果てに伊豆山中の集落が消えたとの奇怪な噂。敗戦後、簇出した東洋風の胡乱な集団六つ。十五年を経て宴の支度は整い、京極堂を誘い出す計は成る。シリーズ第六弾。

 

「愉しかったでしょう。こんなに長い間、楽しませてあげたんですからねぇ」。その男はそう言った。蓮台寺温泉裸女殺害犯の嫌疑で逮捕された関口巽と、伊豆韮山の山深く分け入らんとする宗教集団。接点は果たしてあるのか?ようやく乗り出した京極堂が、怒りと哀しみをもって開示する「宴」の驚愕の真相。

 

 トータルで2000ページを超える大長編だが、シリーズの中でも特にエンタメ要素が強く、あまり長さを感じることなく読み進められる傑作。

謎の生物「くんほう様」や、くんほう様を狙う謎の組織や人物など途方もない量の謎がばら撒かれている。

事件の全貌すら把握出来ない....というよりそもそも事件かどうかも怪しいのだが、満を持して京極堂が出陣するシーンのテンションの上がり方は半端ではない。お馴染みのメンバーがそれぞれに活躍し、シリーズ最強の難敵と戦うのが熱い。

オールスター作品であり『百鬼夜行シリーズ』の一つの到達点ともいえる内容だ。

 

 

二位  絡新婦の理(1389頁)

 

当然、僕の動きも読み込まれているのだろうな―二つの事件は京極堂をしてかく言わしめた。房総の富豪、織作家創設の女学校に拠る美貌の堕天使と、血塗られた鑿をふるう目潰し魔。連続殺人は八方に張り巡らされた蜘蛛の巣となって刑事・木場らを眩惑し、搦め捕る。中心に陣取るのは誰か?シリーズ第五弾。

 

冒頭の美しさは天下一品。

そして最後まで読み終わったら必ず最初に戻るという蜘蛛の罠。

女郎蜘蛛が知らず知らずのうちに常軌を逸した事件を引き起こしていく超絶ミステリーであり、百鬼夜行シリーズの中でも最も複雑な事件であるにも関わらず、エンタメ要素が高まっておりとても読みやすいのが特徴だ。

事件の黒幕は京極堂も苦戦を強いられるほどの難敵であり、”黒い聖母”などのオカルトも魅力的だが、本作の素晴らしさはとにかく美女&美少女まみれでとっても華やかだということである。

聖ベルナール女学院に全員女の織作家。これぞ男子本懐の極み。

フェミニズムに関する京極先生の考察は男性でも女性でも一読すべき素晴らしい内容となっている。『塗仏の宴』を読んでショックを受けたのは私だけではありますまい。

 

 

一位  魍魎の匣(1060頁)

 

匣の中には綺麗な娘がぴったり入ってゐた。箱を祀る奇妙な霊能者。箱詰めにされた少女達の四肢。そして巨大な箱型の建物―箱を巡る虚妄が美少女転落事件とバラバラ殺人を結ぶ。探偵・榎木津、文士・関口、刑事・木場らがみな事件に関わり京極堂の元へ。果たして憑物は落とせるのか!?日本推理作家協会賞に輝いた超絶ミステリ、妖怪シリーズ第2弾。

 

 シリーズの中でも飛び抜けてグロテスクな描写で描かれる屈指の傑作。

「生きている人形」や「重体で医療機器に繋がれた少女が衆人環境で瞬時に消失」といった不可解な謎を初めとして、関連があるのかどうかも不明な複数の謎が散りばめられるが、最後は京極堂の憑き物落としにより見事に収束していく。

冒頭の美しい文章から、恐るべき事件の収束まで一気読みしてしまうほど素晴らしい。

アニメ化も映画化もされており、特にアニメの方はとても完成度が高いので、読むのを躊躇される方はアニメから入るのもありかもしれない。

 歴代ミステリーを格付けした東西ミステリーベスト100の上位に入るほどの傑作をぜひ体感してほしい。

 ただしSF的な要素を持つグロテスクな描写はくれぐれも注意が必要だ。

 

 

最後に

 百鬼夜行シリーズは下手な自己啓発書やビジネス書よりもはるかに学べることが多い。まだシリーズを未読の方は今すぐにでも『姑獲鳥の夏』を読み始めるべきだが、ページ数の多さに躊躇されるというのならば、まずはコミック版をおすすめしたい。

そして幻となった続編『鵺の碑』が近日発売とのアナウンスが出た。

すでにシリーズを通読された方もこの際最初から読み直されてみてはいかがだろうか。

 

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