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綾辻行人『館シリーズ』|読む順番とおすすめ作品ランキング

新本格ムーブメントの筆頭

それは新本格ムーブメントの発端となった『十角館の殺人』を書いた綾辻行人だろう。

王道のクローズドサークル作品からトリッキーな作品、怪奇幻想要素の高い作品までバラエティ豊富にそろった、綾辻先生の代表作である『館シリーズ』について刊行順や読む順番、おすすめ作品をランキング形式で紹介したいと思う。

なお綾辻氏曰く、『霧越邸殺人事件』はシリーズの番外編とのことで本記事のランキングでは『霧越邸殺人事件』も入れることにする。

 

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作家というよりも名探偵のように感じてしまう


 

刊行年

 『館シリーズ』は全10作構想となっており、現在は9作目まで発表されている。

 

  1. 十角館の殺人(1987年)
  2. 水車館の殺人(1988年)
  3. 迷路館の殺人(1988年)
  4. 人形館の殺人(1989年)
  5. 時計館の殺人(1991年)◆上下巻
  6. 黒猫館の殺人(1992年)
  7. 暗黒館の殺人(2004年)◆全4巻
  8. びっくり館の殺人(2006年)
  9. 奇面館の殺人(2012年)◆上下巻

 ◇ 霧越邸殺人事件(1990年)

 

黒猫館まではかなりのハイペースだが、それ以降はとてもまったりしたペースになっている。しかも暗黒館とびっくり館は純粋な本格推理小説とは言い難い作品なので、もうガチな推理小説は書けないのだろうかと心配していたら奇面館は直球の本格推理小説だったので、シリーズ最終作品となる10作目には大きな期待が持てる。

 

 

読む順番

いきなり結論を書いてしまうとやはり刊行順に読んでいくのが一番いい。

少なくとも1作目の『十角館の殺人』から3作目の『迷路館の殺人』までは必ず順番通りに読まなければならない。

順番通りに読まないと迷路館に仕掛けられた重大なトリックのネタバレになる可能性があるためだ。

迷路館以降の作品は7作目の『暗黒館の殺人』を除けばあまり順番を気にする必要は無いのだが、暗黒館だけは『人形館の殺人』を除く『黒猫館の殺人』までの作品をすべて読んでからでないと楽しみが減少してしまう。

上記の理由から刊行順に読むのが一番無難だと言える。

ただし「俺はガチな本格推理小説が読みたいんだっ!!」という人は以下の順番でもいいかもしれない。

 

  • 1冊目|十角館の殺人
    綾辻先生の処女作であり、後世に名を残すであろう普遍的な傑作なのでこれを最初に読まない理由は存在しないだろう。
  • 2冊目|水車館の殺人 
    上述の通り、次作迷路館の仕掛けの関係で本作は必ず2番目に読むべき作品である。
  • 3冊目|迷路館の殺人
    シリーズを順番通りに読んでいるとここでトリッキーな罠が待っている。
  • 4冊目|時計館の殺人
    人形館を飛ばして読んでも問題ない。傑作と称される本作を早く読みたいというせっかちな人はご参考まで。
  • 5冊目|黒猫館の殺人
    本作も人形館より先に読んでも何の問題もない。
  • 6冊目|奇面館の殺人
    暗黒館という壁に阻まれて本作を読まないのはもったいないので先に持ってきている。もちろん後述の作品より先に読んでも問題ない。
  • 7冊目|人形館の殺人
    あらゆる意味で異色作であり、サスペンス的な要素が強いため本格推理小説としての雰囲気は少なく、シリーズ物として順番通りに読まなくても問題ない。
  • 8冊目|暗黒館の殺人
    人形館をのぞく過去に登場した館に関連する話がたくさん出てくるうえに、既刊の作品を読んでいないと魅力は激減する。また怪奇幻想の要素がかなり強く、謎解きに関してはページ数に見合った衝撃はない。ダークファンタジーとして楽しんだ方がいいくらいなので後回しでも問題ない。

 

迷路館までは必ず順番に読んで暗黒館は後の方に読むと覚えておけば問題ないだろう。

 

作品ランキング

 『館シリーズ』はどの作品も個性的な謎があるためそれぞれ異なった魅力がある。

格付けするのはかなり無理があるのだが、あくまでも個人的な好みで判定したい。

 

10位  人形館の殺人(1989年)

 

父が飛龍想一に遺した京都の屋敷――顔のないマネキン人形が邸内各所に佇(たたず)む「人形館」。街では残忍な通り魔殺人が続発し、想一自身にも姿なき脅迫者の影が迫る。彼は旧友・島田潔に助けを求めるが、破局への秒読み(カウントダウン)はすでに始まっていた!? シリーズ中、ひときわ異彩を放つ第4の「館」、新装改訂版でここに。「遠すぎる風景」に秘められた恐るべき真実!!

 

 サスペンスとしてはなかなか魅力的な作品であることは間違いないのだが、館シリーズ』に求めるタイプの感動は得られないかもしれないということでこの順位とした。

島田荘司御大による世界最強の推理小説占星術殺人事件』が実在の事件として作中に登場するのがアツい。探偵役の名前を島田潔にしてしまっただけあって、島田御大への大きなリスペクトがうかがえる。

 

 

9位  びっくり館の殺人(2006年)

 

あやしい噂が囁かれるお屋敷町の洋館、その名もびっくり館。館に住む少年と友だちになった三知也たちは、少年の祖父が演じる異様な腹話術劇におののくが…クリスマスの夜、ついに勃発する密室の惨劇!悪夢の果てに待ち受ける戦慄の真相とは!?ミステリーランド発、「館」シリーズ第八弾。

 

 個人的にはかなり好みの作風で、好きで好きでたまらない作品である。

しかしながら『館シリーズ』として考えればこの順位が妥当かと思う。

番外編というかシリーズとしての必然性がほとんどなく、シリーズの共通要素となる「中村青司」や「島田潔」はオマケ程度の登場である。

推理小説と言うよりもホラー小説と言った方が妥当かもしれない。

 

 

8位  黒猫館の殺人(1992年)

 

大いなる謎を秘めた館、黒猫館。火災で重傷を負い、記憶を失った老人・鮎田冬馬の奇妙な依頼を受け、推理作家・鹿谷門実と江南孝明は、東京から札幌、そして阿寒へと向かう。深い森の中に建つその館で待ち受ける、“世界”が揺らぐような真実とは!? シリーズ屈指の大仕掛けを、読者は見破ることができるか?

 

 変化球型ではあるが、散りばめられたヒントから壮大な仕掛けを見破ることが可能な魅力的な作品になっている。王道のクローズドサークル作品とは趣きが異なるが、エンタメ要素は高めで伏線の張り方がとても巧みな作品である。

 

 

7位  時計館の殺人(1991年)

 

鎌倉の外れに建つ謎の館、時計館。角島・十角館の惨劇を知る江南孝明は、オカルト雑誌の“取材班”の一員としてこの館を訪れる。館に棲むという少女の亡霊と接触した交霊会の夜、忽然と姿を消す美貌の霊能者。閉ざされた館内ではそして、恐るべき殺人劇の幕が上がる!第45回日本推理作家協会賞に輝く不朽の名作、満を持しての新装改訂版。

 

 世間的には1,2位を争う傑作という評価がなされており、私自身も本格推理小説としての完成度は1番だと思っている。ただあまりにも教科書通りな展開であることと、おいおいそんなに殺されるかよ普通!という心の声によりこの順位となった。

本格推理小説にリアリティを持たせることに何の意味もないことなど百も承知しているのだがいくら何でもあっさり殺され過ぎである。

 

 

6位  霧越邸殺人事件(1990年)

 

1986年、晩秋。劇団「暗色天幕」の一行は、信州の山中に建つ謎の洋館「霧越邸」を訪れる。冷たい家人たちの対応。邸内で発生する不可思議な現象の数々。見え隠れする何者かの怪しい影。吹雪で孤立した壮麗なる“美の館”で舞台に今、恐ろしくも美しき連続殺人劇の幕が上がる!日本ミステリ史上に無類の光芒を放ちつづける記念碑的傑作、著者入魂の“完全改訂版”!!

 

 番外編とのことだがこれ以上ないほどの”吹雪の山荘”モノであり、館シリーズ以上に館している作品である。本作は新潮社から出ているという理由でシリーズに入っていないのだろうがシリーズに入っていても違和感はない。

怪奇幻想要素が入っており、綾辻先生によると本格推理7:怪奇幻想3の塩梅だそうだが、殺人事件のトリックと幻想要素はうまいこと分離されているので、本格推理小説として十分に楽しむことができる

冒頭に「もう一人の中村青司に捧ぐ」とあるがこれは奥様である小野不由美女史のことである。夫婦愛があって良いですな。

 

 

5位  水車館の殺人(1988年)

 

仮面の当主と孤独な美少女が住まう異形の館、水車館。一年前の嵐の夜を悪夢に変えた不可解な惨劇が、今年も繰り返されるのか?密室から消失した男の謎、そして幻想画家・藤沼一成の遺作「幻影群像」を巡る恐るべき秘密とは…!?本格ミステリ復権を高らかに謳った「館」シリーズ第二弾、全面改訂の決定版。

 

 安定感のある傑作でシリーズ全体でも最も正統派な本格推理小説の印象がある。犯人、トリック、動機とどこをとっても優れており雰囲気もとても良い。盟友の有栖川有栖氏は本作を読んで綾辻行人のことを認めたそうだ。

十角館と迷路館というインパクトのある作品に挟まれているせいで地味なイメージなのかもしれないが、過去と現在が交互に語られ徐々に事件が明らかになっていくのは面白い。

 

 

4位  奇面館の殺人(2012年)

 

奇面館主人・影山逸史が主催する奇妙な集い。招待された客人たちは全員、館に伝わる“鍵の掛かる仮面”で顔を隠さねばならないのだ。季節外れの大雪で館が孤立する中、“奇面の間”で勃発する血みどろの惨劇。発見された死体からは何故か、頭部と両手の指が消えていた!大人気「館」シリーズ、待望の最新作。

 

トリッキーでありつつも直球の推理小説という遊び心が溢れた作品である。全作品の中で1番探偵が探偵っぽい活躍をしている点もいかにも本格推理小説らしい。

同じくトリッキーな作品である迷路館の正当な続編のようなポジションにある作品で、綾辻作品に大きな驚きを期待する方にはかなりおすすめできる。エンタメ要素も強めで上下巻による長さはほとんど感じない。

大御所となった綾辻先生が"吹雪の山荘"モノのクローズドサークル作品を上梓したという事実にも価値があると思う。

 

 

3位  暗黒館の殺人(2004年)

 

蒼白い霧に峠を越えると、湖上の小島に建つ漆黒の館に辿り着く。忌まわしき影に包まれた浦登家の人々が住まう「暗黒館」。当主の息子・玄児に招かれた大学生・中也は、数々の謎めいた出来事に遭遇する。十角塔からの墜落者、座敷牢、美しい異形の双子、そして奇怪な宴…。著者畢生の巨編、ここに開幕。

 

 文庫版にして2000ページ越えの超大作であり推理小説としては正直どうかと思うが、とても優れたダークファンタジとなっている。暗黒館の世界観が好きかどうかで評価は完全に別れそうだが、好きな人はとことん好きになる作風である。

しかし正統派な推理小説を好む方にはかなり厳しいと思う。既刊のシリーズよりも霧越邸殺人事件』『眼球奇譚』『フリークス』あたりが好きな方はもう暗黒館の住人である。恐れることなく読み始めよう。

 

 

2位  迷路館の殺人(1988年)

 

奇妙奇天烈な地下の館、迷路館。招かれた四人の作家たちは莫大な“賞金”をかけて、この館を舞台にした推理小説の競作を始めるが、それは恐るべき連続殺人劇の開幕でもあった。周到な企みと徹底的な遊び心でミステリファンを驚喜させたシリーズ第三作、待望の新装改訂版。初期「新本格」を象徴する傑作。

 

 数々の推理小説の中でも最強の騙し小説候補である。構成からしてやたらトリッキーであり、私は何が何でも騙されないように気合いを入れまくって読んだものだが、それでも後半はひたすら騙され続けるという強烈な敗北を味わうことになった。

綾辻作品は映像化不可能作品がとても多いのだが、本作はそんな作品の中でも間違いなくトップクラスである。数々のエンタメがはびこっている現代の世の中で、小説の魅力を伝えてくれる価値ある作品だ。

 

 

1位  十角館の殺人(1987年)

 

十角形の奇妙な館が建つ孤島・角島を大学ミステリ研の七人が訪れた。館を建てた建築家・中村青司は、半年前に炎上した青屋敷で焼死したという。やがて学生たちを襲う連続殺人。ミステリ史上最大級の、驚愕の結末が読者を待ち受ける!’87年の刊行以来、多くの読者に衝撃を与え続けた名作が新装改訂版で登場。

 

 もはや何も言うまい。お約束である。

本作が別格なのは衝撃の一行があるからというのも大きいが、人物にあまり魅力がない『館シリーズ』において全てのキャラが魅力的だと言うのも極めて重要なポイントであることは間違いない。探偵役が多数いてそれぞれに議論する展開はやはり面白い。

そして誰もいなくなったのだけれど。

 

 

シリーズ完結を願って

 まずはお約束の『十角館の殺人』を読んでみよう。話はそれからである。

これまでの作品ですでに様々なパターンのトリックを使っているし、サスペンス寄りな作品や怪奇幻想、ホラー寄りの作品も上梓されているので、いったいラストはどのような作品になるのだろうか。

綾辻先生のTwitterでたまに館シリーズ最終巻に関するツイートを見るのだが、まだ構想は固まっていないように見受けられる。

なるべく早く最終作を読めることを祈って締めることにしたい。

 

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