本格推理小説と怪奇幻想ホラーの二刀流
作品一覧
代表作である『館シリーズ』以外にもシリーズものが多く、シリーズごとにジャンルがはっきりと分かれている。
またノンシリーズ作品は『霧越邸殺人事件』が館の番外編ともいわれる作品のため、実質『館シリーズ』に近く、他は『どんどん橋、落ちた』を除けば怪奇幻想寄りの作品が多いのが特徴である。
館シリーズ
- 十角館の殺人(1987年)
- 水車館の殺人(1988年)
- 迷路館の殺人(1988年)
- 人形館の殺人(1989年)
- 時計館の殺人(1991年)◆上下巻
- 黒猫館の殺人(1992年)
- 暗黒館の殺人(2004年)◆全4巻
- びっくり館の殺人(2006年)
- 奇面館の殺人(2012年)◆上下巻
〇『館シリーズ』の紹介記事
囁きシリーズ
- 緋色の囁き(1988年)
- 暗闇の囁き(1989年)
- 黄昏の囁き(1993年)
殺人方程式シリーズ
- 殺人方程式 切断された死体の問題(1989年)
- 鳴風荘事件 殺人方程式II(1995年)
殺人鬼シリーズ
- 殺人鬼(1990年)⇒ 殺人鬼 覚醒篇 【改訂決定版】
- 殺人鬼II 逆襲篇(1993)⇒ 殺人鬼 逆襲篇 【改訂決定版】
深泥丘シリーズ
- 深泥丘奇談(2008年)
収録作品|顔/丘の向こう/長引く雨/悪霊憑き/サムザムシ/開けるな
六山の夜/深泥丘魔術団/声 - 深泥丘奇談・続(2011年)
収録作品|鈴/コネコメガニ/狂い桜/心の闇/ホはホラー映画のホ
深泥丘三地蔵/ソウ/切断/夜蠢く/ラジオ塔 - 深泥丘奇談・続々(2016年)
収録作品|タマミフル/忘却と追憶/減らない謎/死後の夢/カンヅメ奇談
海鳴り/夜泳ぐ/猫密室/ねこしずめ
Anotherシリーズ
- Another(2009年)
- Another エピソードS(2013年)
- Another 2001(2020年)
ノンシリーズ
- 霧越邸殺人事件(1990年)
- 眼球綺譚(1995年)
収録作品|再生/呼子池の怪魚/特別料理/バースデー・プレゼント
鉄橋/人形/眼球綺譚 - フリークス(1996年)
収録作品|夢魔の手─三一三号室の患者─/四〇九号室の患者
フリークス─五六四号室の患者─ - どんどん橋、落ちた(1999年)
収録作品|どんどん橋、落ちた/ぼうぼう森、燃えた/フェラーリは見ていた
伊園家の崩壊/意外な犯人 - 最後の記憶(2002年)
- 人間じゃない 綾辻行人未収録作品集(2017年)
収録作品|赤いマント/崩壊の前日/洗礼/蒼白い女
人間じゃない─B〇四号室の患者─
作品ランキング
はっきり言って私は本格推理小説にはあまり興味が無い。ミステリーはアホみたく大量に読んでいるのだが、これぞ推理小説!といった内容の本格モノにはあまり興味を持てないのである。したがって、一般的な綾辻ファンとはかなり上位作品が異なるかもしれないが、怪奇幻想やホラー好きには参考になるかと思う。
10位 眼球綺譚(1995年)
人里離れた山中の別荘で、私は最愛の妻・由伊とふたりで過ごしていた。妖精のように可憐で、愛らしかった由伊。しかし今はもう、私が話しかけても由伊は返事をしない。物云わぬ妻の身体を前にして、私はひたすらに待ちつづけている。由伊の祝福された身体に起こる奇跡―由伊の「再生」を(「再生」)。繊細で美しい七つの物語。怪奇と幻想をこよなく愛する著者が一編一編、魂をこめて綴った珠玉の作品集。
やや作品の完成度に差があると思うが、綾辻氏の怪奇幻想作品の中では最高峰だと言える短編集。
最初の作品である「再生」が他を圧倒している。最初のページからブッ飛び方がハンパではない。他の綾辻作品や他作家と比較しても最強クラスの完成度だろう。不気味さ、気持ち悪さ、雰囲気など完璧だ。
他にもなんとも不気味な「呼子池の怪魚」や思った通りグロい「特別料理」は完成度が高く、綾辻氏の怪奇幻想作品を読むならまずは『眼球綺譚』だろう。
9位 フリークス(1996年)
「J・Mを殺したのは誰か?」―巨大な才能と劣等感を抱えたマッドサイエンティストは、五人の子供に人体改造術を施し、“怪物”と呼んで責め苛む。ある日、惨殺死体となって発見されたJ・Mは、いったいどの子供に殺されたのか?小説家の「私」と探偵の「彼」が謎に挑めば、そこに異界への扉が開く!本格ミステリとホラー、そして異形への真摯な愛が生みだした、歪み真珠のような三つの物語。
精神病患者の話といういずれも突拍子もない話で、ミステリー色が強めの怪奇幻想ホラー短編集。
江戸川乱歩や夢野久作といった過去の巨人へのリスペクトが感じられる作品である反面、なんとも嫌な雰囲気なので人は選ぶと思う。
ミステリー要素が強い怪奇幻想というよりは、本格推理小説の怪作のような作品なので、どの層の綾辻ファンにもある程度は受け入れられるとは思う。
8位 どんどん橋、落ちた(1999年)
ミステリ作家・綾辻行人のもとに持ち込まれる“問題”はひと筋縄ではいかないものばかり。崩落した“どんどん橋”の向こう側で、燃える“ぼうぼう森”の中で、明るく平和だったはずのあの一家で…勃発する難事件の“犯人”は誰か?本格ミステリシーンを騒然とさせた掟破りの傑作集!
.トリッキーな本格推理小説である『迷路館の殺人』や『奇面館の殺人』を圧倒するほどの超絶トリッキーな作品が集められた短編集。
どの作品も「なにぃィーーーッ!!」ではなく「ふざけるな!(笑)」となるものばかりで、推理して真相を暴ける者はこの世に存在しないと思われる。
「伊園家の崩壊」は某サ〇エさんをパロったもので笑えるのだが、内容はこれ以上ないほどダークなのがまた失笑ものである。
7位 暗黒館の殺人(2004年)
蒼白い霧の峠を越えると、湖上の小島に建つ漆黒の館に辿り着く。忌まわしき影に包まれた浦登(うらど)家の人々が住まう「暗黒館」。当主の息子・玄児に招かれた大学生・中也は、数々の謎めいた出来事に遭遇する。十角塔からの墜落者、座敷牢、美しい異形の双子、そして奇怪な宴……。著者畢生(ひっせい)の巨編、ここに開幕!
文庫版にして2000ページ越えの超大作であり、推理小説としては正直どうかと思うが、綾辻氏の趣味が全て反映されたダークファンタジーである。
ある意味一番人を選ぶ作品だと思われるが、『館シリーズ』を順番に読んできた人なら間違いなく驚く仕様になっている。この本を読んでから他の館を読み返すと、見方が変わってくるのが面白い。
本格推理小説というよりは著者のすべてが発揮された集大成として読むのが良いと思う。著者自身も一番気に入っている作品らしい。
6位 迷路館の殺人(1988年)
奇妙奇天烈な地下の館、迷路館。招かれた4人の作家たちは莫大な“賞金”をかけて、この館を舞台にした推理小説の競作を始めるが、それは恐るべき連続殺人劇の開幕でもあった!
周到な企みと徹底的な遊び心でミステリファンを驚喜させたシリーズ第3作、待望の新装改訂版。初期「新本格」を象徴する傑作!
叙述トリックなど生温い最強の騙し小説である。
構成からしてやたらトリッキーであり、どんなに気を付けて読んだとしても必ずどこかしら騙されるというすごい作品である。
小説でしか味わえない魅力の一つに映像化不可能というキーワードがあると思うが、『迷路館の殺人』は映像化不可能の代名詞だろう。
最初から最後まで仕掛けまみれの超傑作である。
5位 緋色の囁き(1988年)
名門・聖真女学園高校の「開かずの間」で、少女が死んだ。「魔女」という謎の言葉を残して―。美しくも残酷な連続殺人劇の、それが幕開けとなる。転入生・冴子の心にひそむ“赤い記憶”の秘密。夜ごとに少女たちを襲う殺人者の正体は?鮮血と狂気に彩られた「囁き」シリーズ第一弾、待望の新装改訂版。
綾辻ワールド全開のサスペンスである。
綾辻先生はひょっとすると本格推理小説よりもこっち系の作品の方がお得意なのではないかと思うくらいよくできていて、この作風は『Another』に引き継がれていくのだが、『緋色の囁き』の方がホラー要素がない分よりミステリーとして楽しめるようになっている。
しかしお嬢様の描写がテンプレのようでいて、集団心理と絡めてとてもよく書かれているのが良い。(奥さんにいろいろ相談したんだろうなぁと邪推)
4位 十角館の殺人(1987年)
十角形の奇妙な館が建つ孤島・角島を大学ミステリ研の7人が訪れた。館を建てた建築家・中村青司は、半年前に炎上した青屋敷で焼死したという。やがて学生たちを襲う連続殺人。ミステリ史上最大級の、驚愕の結末が読者を待ち受ける!
すべてはここから。清冽なる新本格の源流!大学ミステリ研究会の七人が訪れた十角形の奇妙な館の建つ孤島・角島。メンバーが一人、また一人、殺されていく。「十角館」の刊行から二十年。あの衝撃を再び!
優れた本格推理小説は数あれど、コナン君を卒業してこれから推理小説を読んでいきたいような方には”とりあえずビール”感覚でおすすめな作品。キャラクターも魅力的でページ数の割にはかなり読みやすく、必ず驚くことになるという100年後も残る普遍的な1冊である。
アガサ・クリスティー女史の『そして誰もいなくなった』をオマージュした作品の中で、オマージュ元を超えるという偉業を成し遂げた数少ない奇跡。
3位 Another(2009年)
その「呪い」は26年前、ある「善意」から生まれた―。1998年、春。夜見山北中学に転校してきた榊原恒一(15歳)は、何かに怯えているようなクラスの雰囲気に違和感を覚える。不思議な存在感を放つ美少女ミサキ・メイに惹かれ、接触を試みる恒一だが、いっそう謎は深まるばかり。そんな中、クラス委員長の桜木ゆかりが凄惨な死を遂げた!この“世界”ではいったい、何が起こっているのか?秘密を探るべく動きはじめた恒一を、さらなる謎と恐怖が待ち受ける…。
ラノベのようなホラー×ミステリー作品だが、いくつかの謎解き要素があることに加え、綾辻行人の伝家の宝刀であるあの仕掛けが完璧な仕上がりで読者を驚かせるという素晴らしい傑作。著者の得意とする本格ミステリやサスペンス、そして怪奇幻想趣味やホラーが高いレベルで発揮されている。
綾辻行人というと『十角館の殺人』を筆頭とする『館シリーズ』が最も有名だろうが、本格ミステリにはあまり興味がなく、ホラーが好きな私にとっては『Another』こそが綾辻行人の代表作だと思っている。
少々長いことと、エグいシーンがあることを除けば、普段本を読まないような人を読書沼に沈める可能性を秘めた必殺兵器である。
2位 殺人鬼 逆襲篇 (1993年)
伝説の『殺人鬼』、ふたたび。双葉山の惨劇から三年、最初にそれと遭遇したのは休暇中の一家。正義も勇気も家族愛も、ただ血の海に消えゆくのみ。そしてそれは山を降り、麓の街に侵攻するのだ。病院を、平和な家庭を、凄惨な地獄風景に変えていく。殺す、殺す、殺す…ひたすら殺戮を欲する怪物に独り立ち向かうのは、不思議な“能力”を持った少年・真実哉。絶望的な闘いの果てに待ち受ける、驚愕と戦慄の結末とは!?―。
スプラッターに命を捧げた愛すべき作品。
前作ではかなり注力されていたミステリー要素はオマケ程度になっている代わりに、エグさMAXのグロ描写が極限まで強化されている。冒頭からパワー全開の18禁モードなので、好きな人には涙が出るほどのご褒美作品になっている。
こんなのを書いてしまった綾辻行人に畏敬の念を抱かずにはいられない。というかまだ若かりし頃の作品ということもあり、これを読んだ当時の小野不由美女史はどう思ったのだろうか(笑)
1位 殺人鬼 覚醒篇(1990年)
伝説の傑作『殺人鬼』、降臨!!’90年代のある夏。双葉山に集った“TCメンバーズ”の一行は、突如出現したそれの手によって次々と惨殺されてゆく。血しぶきが夜を濡らし、引き裂かれた肉の華が咲き乱れる…いつ果てるとも知れぬ地獄の饗宴。だが、この恐怖に幻惑されてはいけない。作家の仕掛けた空前絶後の罠が、惨劇の裏側で読者を待ち受けているのだ。―グルーヴ感に満ちた文体で描かれる最恐・最驚のホラー&ミステリ。
綾辻行人の最高傑作はどう考えても『殺人鬼』である。異論は認められない。
著者の作品はほぼすべて読み終えたのだが、私が綾辻作品で最初に読んだ本作を超えるものはなかったと断言できる。
セッ〇ス中に串刺しというリョナ御用達の神聖なる名シーンに感銘を受けてからというもの、綾辻神に祈りを捧げる日々を過ごしている。
『館シリーズ』の完結を夢見て、『Another』の続編に心を踊らされつつも、私がいつも願っているのは『殺人鬼』の続編である。あ~ァ.....本当に続編でないかなぁ....。