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『リングシリーズ』鈴木光司|想像不能な超展開(リング/らせん/ループ/バースデイ+α)

映画からは想像もつかない超展開

 映画では怨霊のような存在として登場し、『貞子3D』以降の作品では完全にB級映画よろしくのクリーチャーと化してしまった貞子だが、原作では似ても似つかないような存在なのはあまり知られていないのかもしれない。
 映画は映画でホラー作品として確固たる地位を築いていることは誰もが認めるところであろうが、原作も神懸った傑作なのだ。
 この記事では、少々混乱しがちな映画の流れにも言及しつつ『リングシリーズ』の魅力を語っていきたい。
 

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すべてはここから始まった

作品一覧

 原作は『リング』『らせん』『ループ』の三部作+『バースデイ』でいったん完結したが、『エス』『タイド』が新章として発表されている。

 小説

作品紹介

すっかりジャパニーズホラー映画のカリスマとしての貞子が定着してしまっているかもしれないが、原作の貞子はかなり立ち位置が異なる。

 原作は呪いのビデオから生還するための謎解きメインのホラー×ミステリ『リング』から始まり、呪いの正体を科学的に分析していくSFバイオホラー×ミステリ『らせん』ですべての謎が解き明かされたと思いきや、完全に想像を超えた超展開を起こした、ハードSFの『ループ』に続く。

 主役は貞子というより、DNAといったところだろうか。いずれにせよ物語が想像もつかない内容であることと、超面白いことを保証できる稀代の名作である。

 

①  リング (1991年)

 

同日の同時刻に苦悶と驚愕の表情を残して死亡した四人の少年少女。雑誌記者の浅川は姪の死に不審を抱き調査を始めた。―そしていま、浅川は一本のビデオテープを手にしている。少年たちは、これを見た一週間後に死亡している。浅川は、震える手でビデオをデッキに送り込む。期待と恐怖に顔を歪めながら。画面に光が入る。静かにビデオが始まった…。恐怖とともに、未知なる世界へと導くホラー小説の金字塔。

 

 言わずと知れたジャパニーズホラーの超傑作である。
恐怖描写に特化しまくった映画とは異なり、主役の浅川は男性であり、友人の高山とともに、見たら1週間後に死ぬ”呪いのビデオ”の謎を解くというミステリ要素がとても強い。

 意外かもしれないが、あまり怖くはない。
確かに怖いことは怖いのだが、謎解き要素がかなり強く、また狙ったような恐怖描写は思いのほか少ないのである。

 ホラーと言うよりはむしろ愛する者の命を救うため、全身全霊をかけて呪いに挑むという熱い物語なので、小説として純粋におすすめできる大傑作である。

 

リング (角川ホラー文庫)

リング (角川ホラー文庫)

  • 作者:鈴木 光司
  • 発売日: 1993/04/30
  • メディア: 文庫
 

 

②  らせん(1995年)

 

幼い息子を海で亡くした監察医の安藤は、謎の死を遂げた友人・高山竜司の解剖を担当した。冠動脈から正体不明の肉腫が発見され、遺体からはみ出た新聞紙に書かれた数字は、ある言葉を暗示していた。…「リング」とは?死因を追う安藤が、ついに到達する真理。それは人類進化の扉か、破滅への階段なのか。史上かつてないストーリーと圧倒的リアリティで、今世紀最高のカルトホラーとしてセンセーションを巻き起こしたベストセラー。

 

 『リング』がミステリ小説でいうところの問題編だとすると、『らせん』は解答編にあたる作品である。

 呪いの正体が”あるもの”であることが判明するため、ジャパニーズホラー的なノリはほとんどなく、物語も別の路線として大きな飛躍を遂げているのだが、考えようによってはこちらの方が怖いかもしれない。

 『リング』の結末を大きくひっくり返すような内容であり、ジャンルも前作とは別物であるため、人を選ぶかもしれないが、 個人的には『リング』を遥かに上回る大傑作なので、『リング』を読んで合わなかったという方にも『らせん』はおすすめしたい。

 というか設定がいろいろとブッ飛んでいるので、ホラー好きというよりもSF好きであれば絶対に読まなければならないだろう。
 同年に発表された瀬名秀明の『パラサイト・イヴ』はノリ的にも近いものがあり、ホラーの大傑作として名が挙げられる貴志祐介の『天使の囀り』にもやや通じるところがある。

 

らせん - (角川ホラー文庫)

らせん - (角川ホラー文庫)

  • 作者:鈴木 光司
  • 発売日: 2000/04/06
  • メディア: 文庫
 

 

③  ループ(1998年)

 

科学者の父親と穏和な母親に育てられた医学生の馨にとって家族は何ものにも替えがたいものだった。しかし父親が新種のガンウィルスに侵され発病、馨の恋人も蔓延するウィルスに感染し今や世界は存亡の危機に立たされた。ウィルスはいったいどこからやって来たのか?あるプロジェクトとの関連を知った馨は一人アメリカの砂漠を疾走するが…。そこに手がかりとして残されたタカヤマとは?「リング」「らせん」で提示された謎と世界の仕組み、人間の存在に深く迫り、圧倒的共感を呼ぶシリーズ完結編。否応もなく魂を揺さぶられる鈴木文学の最高傑作。

 

 『リング』や『らせん』の世界観を木端微塵に吹き飛ばす、想像の斜め上を行く超傑作ハードSFである。
もはやホラー要素は皆無だが、我が生涯でも最高ランクの名作だと断言できる、限界突破しまくったハイパーな作品だ。

 何を書いてもネタバレになってしまいそうなので、書けることは限られてしまうが、要点を挙げるならば①超面白い、②超すごい、③超泣けるといったところだろうか。
想像がつかないだろうが、映画『マトリックス』とRPGファイナルファンタジーⅩ』を足したような衝撃的な世界観と超展開が待っている。

 正直このシリーズがこんな展開になるなど予想もつかなかったし、『リングシリーズ』で泣かされるとは夢にも思わなかった。
『らせん』以上に前作までの結末をひっくり返すことになるので、人を選びまくるかもしれないが、これほどの傑作には滅多にお目にかかれない。
超おすすめである。

 

ループ (角川ホラー文庫)

ループ (角川ホラー文庫)

  • 作者:鈴木 光司
  • 発売日: 2000/09/07
  • メディア: 文庫
 

 

④  バースデイ(1999年)

 

リングの事件発生からさかのぼること三十年あまり。小劇団・飛翔の新人女優として不思議な美しさを放つひとりの女がいた。山村貞子―。貞子を溺愛する劇団員の遠山は、彼女のこころを掴んだかにみえたが、そこには大きな落とし穴があった…リング事件ファイル0ともいうべき「レモンハート」、シリーズ中最も清楚な女性・高野舞の秘密を描いた「空に浮かぶ棺」、『ループ』以降の礼子の意外な姿を追う「ハッピー・バースデイ」。“誕生”をモチーフに三部作以上の恐怖と感動を凝縮した、シリーズを結ぶ完結編。

 

 『リング三部作』を補完し、『ループ』の後日譚となる完結編である。
無くてもいいという意見も見受けられるが、滂沱の涙を流すことになるであろう素晴らしい作品である。

『らせん』のサイドストーリーとなる「空に浮かぶ棺」と、劇団時代の貞子を描きつつも、リング&らせんともリンクする「レモンハート」、そしてそれら2作を内包して『ループ』の先の世界を描いた「ハッピー・バースデイ」で連作短編の形式となっている。

 映画『リング0 バースデイ』では貞子の悲しい生前の物語だったが、原作である「レモンハート」は、映画で儚いイメージを見せた貞子とは異なり、ミステリアスなキャリアウーマン(?)として描かれていて面白い。

 三部作で物語は完結していると言えるが、『ループ』が好きな方であれば絶対に読んでおくべき作品である。

 

バースデイ (角川ホラー文庫)

バースデイ (角川ホラー文庫)

  • 作者:鈴木 光司
  • 発売日: 2000/04/06
  • メディア: 文庫
 

 

⑤  エス(2012年)

 

映像制作会社に勤める安藤孝則は、ネット上で生中継されたある動画の解析を依頼される。それは、中年男の首吊り自殺の模様を収めた不気味な映像だった。孝則はその真偽を確かめるため分析を始めるが、やがて動画の中の男が、画面の中で少しずつ不気味に変化していることに気づく。同じ頃、恋人で高校教師の丸山茜は、孝則の家で何かに導かれるようにその動画を観てしまうのだった。今“リング”にまつわる新たな恐怖が始まる。

 

 まさかの『リングシリーズ』新章である。
物語的には『らせん』の未来の世界を描いた続編にあたる。

 リング三部作+バースデイで見事に完結していただけに、存在そのものが蛇足感にあふれているが、内容はそれなりに面白くファンであれば一気読みだろう。
反面、過去作を読まずに『エス』から読み始めると完全に置いてけぼりを喰らうことになるので注意である。

 エンタメとしては優秀だと思うのだが、感動的だった『バースデイ』の内容を完全にぶち壊してくれるという点と、終盤がいくら何でも適当に畳みかけ過ぎなのはいただけない。

 『ループ』『らせん』後のifの一つとして考えれば、魅力的ではあるのでシリーズファンならとりあえず読んでみるのも有りだろう。

 

エス (角川ホラー文庫)

エス (角川ホラー文庫)

  • 作者:鈴木 光司
  • 発売日: 2013/05/25
  • メディア: 文庫
 

 

⑥  タイド(2013年)

 

高山竜司、二見馨という二人の男の人生を生きた記憶を持つ、予備校講師の柏田誠二は疑問を抱えていた。おれは何のためにこの世界にいるのか…。謎の病に伏した少女を介し受け取った暗号に導かれ、伊豆大島に渡った柏田は、『リング』という本に記された竜司の行動を追うことで、山村貞子の怨念の起源を知る。自らの使命を自覚する柏田だったが、時を越え転生した貞子の呪いに身体を蝕まれ…。新「リング」シリーズ第2章!

 

 過去作品をぶち壊しながらシリーズを進めてこられた鈴木光司だが、『エス』の前日譚にあたる『タイド』はいくら何でもやり過ぎである。
ダメ。ゼッタイ。」という御法度をやらかしまくりなのだ。

 読書家を自称できる程度には多くの作品を読んできた私だが、これほどやらかした作品を読んだのは初である。黒歴史界の伝説として後世に語り継ぐべき内容と言っても良いのかもしれない。

 ギャグにしても笑えないし、役小角に関する蘊蓄や後付け設定の解説が多くエンタメ要素も低いというどうしようもない子なのだが、『エス』まで読まれた方には衝撃の後付け設定を味わってほしいと思う。

 いやはや何もかも完全にぶち壊して、貞子のキャラも怨念も「うっそーん」という残念なものにしてしまった著者には、いい意味でも悪い意味でも脱帽である。

 

タイド (角川ホラー文庫)

タイド (角川ホラー文庫)

  • 作者:鈴木 光司
  • 発売日: 2016/03/25
  • メディア: 文庫
 

 

まだ続編が続くだと...?

 『リングシリーズ』が三部作だったように、『新リングシリーズ』も三部作とのことで、続編となる『ユビキタス』が連載中である。

謎の古文書である「ヴォイニッチ手稿」がテーマとのことであり、なおかつ執筆にも時間がかけられていることから、ひょっとしたら『ループ』級の超傑作となるのかもしれない。

なんにせよ超展開を見せた旧シリーズという前例があり、また『タイド』で盛大にやらかした後に続く物語というのは、否応なしに好奇心を刺激させられまくる。

世界で活躍する貞子に興味がある方は、ぜひとも『リング』から始まる物語を楽しんでいただければと思う。