粘膜ワールドを築き上げた変態大元帥
日本ホラー小説大賞でデビューしており、角川ホラー文庫から多くの著書が出ているが、どの作品もホラー要素は少なく、怪奇幻想やミステリー小説としての側面が強い。
代表作である『粘膜シリーズ』は、架空の大日本帝国を舞台としたエログロバイオレンス全開のダークファンタジーである。
ブラックユーモアが溢れるギャグ小説として、また広義のミステリー小説としても一級品であるため、好きな人はとことん好きになる作風だ。(リョナにはたまらないということ)
そんな飴村行の作品を少しでも世に広めるべくおすすめ作品をランキング形式で紹介したい。
作品一覧
唯一無二の世界観を築き上げているだけに、他の作家が贋作を創りえないという事情から、飴村閣下ほど新作が待ち遠しい作家はこの世に存在しないのだが、寡作ゆえに読者の欲求不満を煽るという粘膜SMプレイがなされている。
代表作である『粘膜シリーズ』の他にも傑作が多く、またシリーズ外の作品もエログロや軍国主義といったキーワードは共通している。
粘膜シリーズ
- 粘膜人間(2008年)
- 粘膜蜥蜴(2009年)
- 粘膜兄弟(2010年)
- 粘膜戦士(2012年)
- 粘膜探偵(2018年)
シリーズ以外の作品
- 爛れた闇の帝国(2011年)
【改題】爛れた闇
- 路地裏のヒミコ(2014年)
- ジムグリ(単行本:2015年 文庫版:2018年)
- 粘膜黙示録(2016年:エッセイ)
作品ランキング
作家によってはどれも甲乙付け難く格付けに苦慮する場合があるのだが、飴村閣下の作品はランキングがとても付けやすかった。なぜなら閣下に求めているものが定まっているためである。
求めているものとは物語の面白さ、エログロ、バイオレンス、独自の世界観、ギャグであるため、そういった要素が総合的に高いものを高評価としている。
九位 ジムグリ(2015年)
〇単行本あらすじ
X県山間の町。そこには虻狗隧道(あぶくずいどう)と呼ばれる謎の洞窟があり、〈モグラ〉と称される住民が住んでいた。
故郷と訣別して町に引っ越してきた男は、紹介されたツチヘビの食品加工場で働き、美しい女性と知り合って結婚した。だが、ある日、妻は「トンネルにまいります」との書き置きを残して失踪する。男は妻を探そうと動き出すのだが……。
読み出したら止まらない、読書の醍醐味に満ちた、至高の怪奇幻想小説。
○文庫版あらすじ
闇を抱える美人妻が失踪した! 妻が向かった先は凶暴な種族〈モグラ〉が住む地下帝国。男は妻を連れ戻すことを決意するが……。エログロ小説の鬼才が描く、ダーク・ファンタジー長編。(解説/関根勤)
粘膜シリーズと世界観が似ている怪奇幻想ダークファンタジー小説。駄作では決してないのだが、大風呂敷を広げて回収をし損った感は否めない。
面白い作品であることは間違いないが、他の作品よりは怪奇幻想の世界観に重点が置かれており、エンターテイメント作品としてはやや他の作品に劣る印象。
ただし軍国主義的な飴村ワールドを粘膜シリーズと同等かそれ以上に味わうことができるというかなりマニアックな仕様になっているので、『粘膜シリーズ』を読み終えてしまった方におすすめ。
なお単行本と文庫本で内容が大幅に違う。個人的には単行本の方が好み。
単行本の方がより飴村ワールド全開というメリットがある反面、とにかく話のテンポが悪く途中は結構グダグダというデメリットある。
文庫本は単行本の不評を解消したかのようにテンポが良く、エンタメ要素も強化されているが、肝心な飴村度が少し減退している。また原田ちあきによる装丁のイラストと関根勤による解説が素晴らしい。
八位 路地裏のヒミコ(2014年)
笑いに包まれた恐怖をご賞味あれ!
二十五年前に三人の死を予言し姿を消した、
百発百中の予言者「ヒミコのオッサン」。
漫画家志望の大輝と、ミュージシャン志望の茂夫は、
軽い気持ちで彼の行方と正体を探りはじめる。
当時をよく知る人々の取材をするうちに、
二人が辿りついたのは、想像を絶する恐怖の真相だった……。「粘膜シリーズ」で人気沸騰中の飴村行が、
約二年間の沈黙を破って放つ、渾身の怪作。
恋愛要素のある鬼畜ミステリー「水銀のエンゼル」と怪奇幻想ホラーの「路地裏のヒミコ」という方向性の違う中編2作構成である。
個人的には表題作よりも「水銀のエンゼル」の方が断然面白いと思う。なんならもう少し話を膨らませて長編にしてほしかったくらいである。飴村流の恋愛小説には言うまでもなくヤバ気な仕掛けがあり、目も当てられないほど強烈な内容となっている。
表題作は暗黒度の高い雰囲気や飴村氏の言葉のセンス(ヒミコのおっさんって...)が良いのだが、何だかよく分からんというのが本音。
七位 粘膜探偵(2018年)
戦時下の帝都。14歳の鉄児は憧れの特別少年警邏隊に入隊した矢先、先輩のとばっちりを受け謹慎処分となってしまう。汚名返上に燃える彼は、巷で噂の保険金殺人事件を解決するため独自調査に乗り出すが……。軍部の思惑、昏々と眠る老女、温室で栽培される謎の植物、行方不明の少女――。すべてが交錯する時、忌まわしい企みが浮かび上がる。暴力と狂気が渦巻き、読む者の理性を抉り取る最凶の粘膜ワールド!
粘膜シリーズの5作目で、前作から6年という長い年月が空いているためか、微妙にマイルドになっている.....と言いたいところだがそれでも十分に鬼畜なのでシリーズファンは安心して楽しむことができる。
ミステリー要素はなかなか熱く、クトゥルフ神話っぽいネーミングがあったりラノベ的な展開があったりと、ある意味マニアック度は上がっているのかもしれないのだが、総じて読みやすいので粘膜デビューにもおすすめな一冊である。(粘膜探偵はこれ以前の粘膜シリーズを読んでいなくてもあまり支障がない。)
ラストシーンは飴村作品らしからぬ締め方だが個人的には大歓迎だし、今後はぜひともこういう路線に走ってもらいたいという欲求もある。
六位 粘膜戦士(2012年)
占領下の東南アジアの小国ナムールで、大佐から究極の命令を下された軍曹。抗日ゲリラ、ルミン・シルタと交戦中、重傷を負い人体改造された帰還兵。複雑な家庭事情を抱え想像を絶する悲劇に見舞われる爬虫人好きの無垢な少年。陸軍省の機密書類を盗み出そうとして捕らわれた2人の抗日分子。そして安住の地を求めて山奥に辿り着いた脱走兵……。戦時下で起こる不可思議な事件。目眩く謎と恐怖が迫る、奇跡のミステリ・ホラー!
『粘膜シリーズ』の4作目で、鉄血/肉弾/石榴/極光/凱旋という5作の短編集である。
凱旋は鉄血の続編であり『粘膜人間』のべかやんが主役の鬼畜拷問冒険小説だ。”男体股ぐら泉責め”というパワーワードが登場する(笑)。まったくもってやりたい放題のクソったれな作品だ。
肉弾は『粘膜戦士』というタイトルのもとになった作品で、粘膜的なSF要素のあるクソエンタメ。ちょっとせつない。しかし発想はキチガイ地獄である。
石榴は優れたミステリー作品で、飴村閣下が偏愛している○○が鍵となる。この人は一体どれだけ蜥蜴を愛しているのだろうか....。
極光は粘膜兄弟の"アノ人"と思われる方がすごいことになる作品。
前作までの『粘膜シリーズ』を読んでいることが前提になるが、いずれも短編ながらヘヴィ級の作品であり、粘膜世界全開である。
五位 粘膜黙示録(2016年)
『粘膜人間』で華々しいデビューを遂げたホラー作家、飴村行。しかし、そこに至るまでは聞くものをみなドン引きさせるほどの苦難の日々があった。漫画家を目指し大学を中退するも、あっと言う間に挫折。癖のあり過ぎる人々に囲まれ、過酷な環境で働いた派遣工時代を、逆恨み精神満載で綴った爆笑エッセイ。現代版『蟹工船』がここにある!
粘膜の名を関しているが『粘膜シリーズ』ではない。
私小説と言っても過言ではないくらい、アホバカで外道な面白すぎるエッセイである。
飴村氏の波瀾万丈な半生は、ちょっと脚色して書いてしまえば、現代の『蟹工船』と言えるような凄絶な物語になるのだ。
粘膜人間たる飴村氏が小説家としてデビューするまでの地獄の生活を、ブッ飛びまくった面白いギャグを織り交ぜながら語られる涙の怪作。
四位 爛れた闇(2011年)
あの「粘膜」シリーズを超える不条理とカタルシス!
学校の不良と母親が付き合い出し家に入り浸るようになったため生きる希望を失った高校生の正矢。記憶を失い独房に監禁されたうえに拷問を繰り返される謎の兵士。二人の意識がリンクした時、凄絶な運命の幕が開く!
訳も分からず拷問され続ける軍人の話と現代日本の話が交互に描かれる、とても完成度の高い怪奇幻想ミステリー小説である。
2つの話にはどんな関連があるのか?そして正体不明の軍人はなぜ拷問され続けるのか?
飴村氏は粘膜シリーズ以外でもやりたい放題書きまくっている。重くて暗い話だが、謎が気になって一気読み確実の変態鬼畜外道ミステリーである。
”スペルマバーグ”や”ビッチコック”といった、名前を聞いただけでセンスの良い笑いを誘う裏ビデオ監督が登場する(笑)
三位 粘膜人間(2008年)
「弟を殺そう」――身長195cm、体重105kgという異形な巨体を持つ小学生の雷太。その暴力に脅える長兄の利一と次兄の祐二は、弟の殺害を計画した。だが圧倒的な体力差に為すすべもない二人は、父親までも蹂躙されるにいたり、村のはずれに棲む“ある男たち”に依頼することにした。グロテスクな容貌を持つ彼らは何者なのか? そして待ち受ける凄絶な運命とは……。第15回日本ホラー小説大賞長編賞を受賞した衝撃の問題作。
飴村氏のデビュー作であり、エログロ好きは死んでも読むべき1冊である。
中学生が考えそうなおバカ物語と変態エログロを、廃人文豪が本気を出して小説にしてしまったかのような異常な作品に仕上がっている。
巨体で凶暴な小学生雷太を殺すため、2人の兄がその殺害を河童に依頼するというアホな話と、エログロ超全開のハイパー怪奇幻想ミステリーで構成されている。
とにかく面白いので、クソ文学に耐性がある方はぜひ手に取って頂きたい。
生きた女のケツの穴から槍をぶっ刺して、口まで通して串刺しにしてみたいというリョナのあなたは絶対に読みなさいッ!!
二位 粘膜蜥蜴(2009年)
国民学校初等科に通う堀川真樹夫と中沢大吉は、ある時同級生の月ノ森雪麻呂から自宅に招待された。父は町で唯一の病院、月ノ森総合病院の院長であり、権勢を誇る月ノ森家に、2人は畏怖を抱いていた。〈ヘルビノ〉と呼ばれる頭部が蜥蜴の爬虫人に出迎えられた2人は、自宅に併設された病院地下の死体安置所に連れて行かれた。だがそこでは、権力を笠に着た雪麻呂の傍若無人な振る舞いと、凄惨な事件が待ち受けていた…。
『粘膜シリーズ』2作目。粘膜人間と比べて怪奇幻想やエログロが減少した代わりに、他のあらゆる面が超パワーアップしている。
しかもその年の一番優れたミステリー小説に贈られる日本推理作家協会賞を受賞しているというミステリーとしても超一流なとんでも本である。
軍国主義の粘膜大日本帝国は本作から本領発揮しており、爬虫人やナムール国といった粘膜ワールドの代名詞も本作から登場する。「怨敵粉砕撃滅!!」といった国粋ワードも炸裂するようになる。
冒険小説としても圧倒的に面白く、小説好きであれば誰にでもおすすめできる1作だ。
一位 粘膜兄弟(2010年)
ある地方の町外れに住む双子の兄弟、須川磨太吉と矢太吉。戦時下の不穏な空気が漂う中、二人は自力で生計を立てていた。二人には同じ好きな女がいた。駅前のカフェーで働くゆず子である。美人で愛嬌があり、言い寄る男も多かった。二人もふられ続けだったが、ある日、なぜかゆず子は食事を申し出てきた。二人は狂喜してそれを受け入れた。だが、この出来事は凄惨な運命の幕開けだった……。待望の「粘膜」シリーズ第3弾!
『粘膜シリーズ』3作目。ただでさえ面白すぎる『粘膜蜥蜴』に、強烈なギャグ要素と恋愛要素を追加して、エンタメ度をさらに高めたのが『粘膜兄弟』だ。
我が生涯でも5本の指に入るほどの超絶傑作であり、これ以上ないほど人を選ぶ作風とはいえ、もっと有名になってほしいと願うものである。純粋なエンターテイメント作品としてはこれを超える作品には出会っていない。
金玉拷問、腸がはみ出て死を待つ美女ビッチに死姦ならぬ死にかけ強姦というワードにピンと来たそこなあなた。
"くびとまらぼうをながくしてまってます
へるぷみー" へもやん
まとめ
私は現在年間で300冊程度の小説を読むため小説好きを自認しても良いものだと思っているのだが、このようになるきっかけとなった作品が『粘膜シリーズ』なのである。
そういった意味で飴村閣下には感謝してもしきれないのだ。恩返しのためにも布教し続けていきたい。