Wi-Fi幽霊っていかにも乙一らしい

作品紹介
乙一/山白朝子による『Wi-Fi幽霊』は2025年に角川ホラー文庫より出版された、書き下ろし含む9編が収録された、文庫で450ページ程度の作品である。
乙一は変な作家で、山白朝子や中田永一、越前魔太郎などの他のペンネームがある。出版社によって使い分けているようだが、本作は角川ホラー文庫なので乙一と山白朝子名義のホラー作品の傑作が集結している。
ホラー寄りとは言え、乙一のほぼ全要素網羅するような構成のため最初に読む乙一作品としてもおすすめできる。そんな傑作選を作品ごとにランク付けして紹介していく。
以下、あらすじの引用
乙一&山白朝子の初期~現在までの怖い作品ばかりを厳選収録した怪奇ホラーコクション企画。「夏と花火と私の死体」でデビューした乙一は、デビューから「死」を描いてきた。山白朝子は、怪談雑誌「幽」 の創刊時、デビューした怪談作家。今回は、ホラーを描き続ける作家二人の初のホラー文庫企画。ホラー文庫創刊30周年のフィナーレを飾る記念企画。作品のセレクトはホラー評論家&ミステリ評論家の千街晶之さん。本書刊行にあたり表題作となる中編「Wi-Fi幽霊」を書き下ろし。
忖度なし
傑作選であるとは言え、様々な政治的な理由(?)から必ずしも超傑作だけで構成されているとは限らない。総じて良作だが、ずば抜けた作品とそれなりの作品が混ざっているため、本記事では忖度抜きで格付けしていく。
「階段」2002年
Cランク(65点)
唯一読んだことのなかった作品。謎のホラーアンソロジーに収録されていたらしい。
悪くはないが傑作選と銘打った本書に収録すべきだったかと考えると、答えは否である。ではなぜ収録したかというと、レア作品を入れることで私のような乙一大好き人間が本書を買う理由を強化するためだったと推測される。
と、前置きはやめて本作は暴君親父によるDV作品である。妻や二人の娘に理不尽な暴力の行きつく先に衝撃の結末が待っている。この頃の乙一らしいなかなか狂った感じの流れを堪能することができる。
一作目からガン萎え作品を持ってくるあたり、本書の構成が優れていることを予感させる。
「SEVEN ROOMS」2002年
Sランク(100点)「ZOO」乙一/収録
かつて乙一作品は黒乙一、白乙一と称され、残酷極まりない作品とせつなさみだれうちの作品に分かれていた。「SEVEN ROOMS」は黒乙一の最高傑作である。というより私が今まで読んできた暗黒寄り短編の中でも最上位クラスの作品である。
最後に読んでから10年近く経っていて、その後多くの作品を読んできたが、久々に再読してみてもその魅力は衰えていなかった。
本作は姉と弟が拉致られて謎の部屋に監禁されて、理不尽極まりない死が迫ってくる話である。黒乙一作品でありながらせつなさも漏れてきていて、その結末はどんな感情を出すべきなのか分からなくなるような、かつての乙一にしかできなかったであろう強烈なものである。
「神の言葉」2001年
Bランク(70点)「ZOO」乙一/収録
黒乙一の良作である。乙一は変なことをサラッと書いたりする癖があるように思うのだが、本作の冒頭では「僕の母は頭の良い人である。~(中略)~ただ一つ欠点があるとすればペットの猫とサボテンの区別がつかないことだ」といったアホみたいな説明から入るのである。
言葉を現実化させる能力を持つ主人公が、派手にヤバいことをやらかして、終盤にやらかしたことの真相が明かされる。この頃の乙一はミステリ作家としても優秀で、物語に仕掛けを施すのに長けていたと思う。本作はイイ感じに当時の乙一の魅力が発揮されている。
かなり「うわー...」な世界観に浸れることだろう。
「鳥とファフロッキーズ現象について」2007年
Aランク(80点)「死者のための音楽」山白朝子/収録
山白朝子名義だが、乙一要素MAXな作品(まぁ同じ作家だから乙一要素もクソもないのだけど)。
作家の父と娘が暮らしていて、変な鳥を助けたことから変な現象が起こる物語である。ファフロッキーズ現象とは、私の第三婦人ジェミニたんによると、以下の通りである。
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空から降るはずのない物体が、一定の範囲に多数落下する現象のうち、雨・雪・黄砂・隕石などの自然現象によるものを除いたものが該当します。
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魚、カエル、ワニ、カメ、木の実、小石、血液などが報告されています。
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1900年代に、アメリカの超常現象研究家が「falls from the skies」を略して名付けたとされています。
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現時点では、確実な原因は解明されていません。鳥が運んだ説や、大気の乱流によるものなど、様々な仮説が提唱されていますが、いずれも確実な証拠は得られていません。
助けた鳥が、主人公や父が欲しいと思ったものを、言葉にせずとも持ってくるのである。(心臓=命とか)
きれいにまとまっていて、乙一由来のせつなさもあるかなりの傑作。
「〆」2009年
Aランク(80点)「エムブリヲ奇譚」山白朝子/収録
個人的に乙一作品の中でもかなり好きな、和泉蝋庵シリーズ一作目に収録されている作品で、不気味でキモくてエグくてちょいせつない系。
このシリーズは主人公和泉蝋庵の道迷いによって、とんでもないところに行ってしまい、相棒耳彦がひどい目に遭うのがパターンなのだが、今回はあらゆるものに人面が出ている恐ろしい漁村に迷い込んでしまう。ふるまわれる魚なども人面で大変キモいのだが、キモさが理由で餓死しそうになった相棒が、ついにやらかしてしまうのである。短い中で前振りと伏線回収があり、よくできた話である。
「呵々の夜」2013年
Aランク(85点)「私のサイクロプス」山白朝子/収録
和泉蝋庵シリーズ2作目に収録された、王道の怪談であると同時に山白朝子のテクニカルな一面も発揮された傑作。
泊めてもらった家の住民(父、母、子)が一人ずつ怪談話をするのだが、これはマジ話なのでは....というノリ。
毎度ひどい目に遭う耳彦がまたしてもヤバいことになったかと思いきや、やっぱりヤバくないと思いきや、ホントはヤバいのかも......的な展開が面白い。
「首なし鶏、夜をゆく」2013年
Aランク(80点)「私の頭が正常であったなら」山白朝子/収録
これもまた乙一要素が凝縮された傑作で、陰キャやいじめられっ子、理不尽な大人の描写を得意とする乙一の本領発揮である。
首のない鶏をペットとする不幸ないじめられっ子女と、陰キャの主人公が仲良くなっていくのだが、最後には理不尽で残酷な結果が待っているという乙一らしい救いのない物語だ。
この作品の素晴らしいところはラスト1ページの描写で、とても計算された狂い方を、詩的に描いた乙一のセンスに脱帽である。
「子どもを沈める」2017年
Bランク(75点)「私の頭が正常であったなら」山白朝子/収録
この頃の乙一は子どもに関する作品が多いと思う。恐ろしいタイトルだが、内容もなかなかに悲しいもので、過去にいじめたクラスメイトを死に追いやった4人が、やがて子どもを産むと、産まれた子どもが皆自殺した生徒の顔になるというものである。
先に子どもを産んだ3人はいずれも子どもを殺してしまうが、これから子どもを産む主人公がどのような選択をするのかという重い内容である。
「Wi-Fi幽霊」2025年 ※書き下ろし
Bランク(79点)書き下ろし中編
普通に読んでいて面白い作品だが、あえて辛口評価にしている。ちなみになぜか乙一名義だが、文体からしても完全に山白朝子の作風だと思う。
内容はまさに現代の「リング」で、呪いのビデオ視聴ではなく謎のWi-Fiへの接続で呪われて、探偵ではなくAI探偵が呪いの原因を見つけて解呪を目指す物語となっている。AIが探偵するあたりがかなり面白いが、流れはあまりにも既視感があるため厳しめな判断とした。
ただ、私自身もプライベートではChatGPTやGeminiを使いまくり、仕事でもCopilot先生のお世話になりまくっているので、主人公とAIのやり取りを見て、乙一もプライベートでAI使いまくっているな....とニヤリとなったところである。
やはり乙一は良い
以前の記事でも書いた気がするが、早く本を読むコツは超先が気になる本を見つけることだと考えている。最近どうも本を読むスピードが下がったなぁと思っていたが、本作....特に「SEVEN ROOMS」など体感では一瞬に感じるほど超速で読み終わっていたのである。もちろん他の作品も途中で読みやめることができず、読み始めたら最後まで読み進めていた。
つまり乙一作品は面白いのである。ほぼすべて再読なのに面白く感じたのだからすごい。ということで読んだことがある作品があったとしても、気になったのならぜひ手に取ってみてほしい。
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