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1.作品一覧
『守り人シリーズ』は7作品(全10巻)の本編と2冊の短編集、1冊の外伝が発表されている。なおタイトル末尾に守り人がつく作品が女用心棒バルサが主役の話であり、末尾が旅人がつく作品は皇太子チャグムが主役である。
本編
- 精霊の守り人(1996年)
- 闇の守り人(1999年)
- 夢の守り人(2000年)
- 虚空の旅人(2001年)
- 神の守り人 来訪編(2003年)
- 神の守り人 帰還編(2003年)
- 蒼路の旅人(2005年)
- 天と地の守り人 第一部 ロタ王国編(2006年)
- 天と地の守り人 第二部 カンバル王国編(2007年)
- 天と地の守り人 第三部 新ヨゴ皇国編(2007年)
短編集
- 流れ行く者(2008年)
- 炎路を行く者(2012年)
外伝
- 風と行く者:守り人外伝(2018年)
2.読む順番
『守り人シリーズ』は刊行順に読む以外に選択肢はない。本編は時系列通りに進行し、後の作品はその前の作品までを読んでいることが前提になっているためである。(大河ドラマを途中から見るようなものだ)
著者ご自身も仰っている通り、一応1作目の『精霊の守り人』と2作目の『闇の守り人』、3作目の『夢の守り人』までは個別の作品としても楽しめるようになっているのだが、その3冊も順番通りに読むに越したことはないし、4作目以降は一つの大きな物語として進行し、『蒼路の旅人』以降はラストまで話が繋がっている。また本編以外の作品も必ず順番通りに読むべきである。
3.おすすめ作品ランキング
『守り人シリーズ』のすごいところは1作目の『精霊の守り人』が素晴らしい傑作であるため、最初が一番すごいというありがちなパターンかと思いきや、先に進めば進むほどますます物語が盛り上がってきて読むのをやめられなくなるという点にある。
したがって後の作品ほど面白いと言ってしまえばそれまでなのだが、それでは意味がないのであくまでも私の好みで格付けしたいと思う。
十位 流れ行く者(2008年)
王の陰謀に巻き込まれ父を殺された少女バルサ。親友の娘である彼女を託され、用心棒に身をやつした男ジグロ。故郷を捨て追っ手から逃れ、流れ行くふたりは、定まった日常の中では生きられぬ様々な境遇の人々と出会う。幼いタンダとの明るい日々、賭事師の老女との出会い、そして、初めて己の命を短槍に託す死闘の一瞬―孤独と哀切と温もりに彩られた、バルサ十代の日々を描く短編集。
生前のバルサの養父ジグロや子どもの頃のバルサとタンダなどが描かれたサイドストーリーの短編集で、短編という事情からか本編の長編作品よりも文学的な要素が強いように感じられ、児童文学というより大人向けの印象を強く受ける。
1作目の時点で故人だった、ジグロが過去を振り返る形ではなく生きた姿で描かれるのは本編読了後であれば感慨深いものがあるかもしれない。
九位 夢の守り人(2000年)
人の夢を糧とする異界の“花"に囚われ、人鬼と化したタンダ。女用心棒バルサは幼な馴染を救うため、命を賭ける。心の絆は“花"の魔力に打ち克てるのか? 開花の時を迎えた“花"は、その力を増していく。不可思議な歌で人の心をとろけさせる放浪の歌い手ユグノの正体は? そして、今明かされる大呪術師トロガイの秘められた過去とは? いよいよ緊迫度を増すシリーズ第3弾。
呪術師トロガイとその弟子タンダがメインとなる、シリーズ中最もファンタジー色が強い作品である。他の作品に比べるとややインパクトが弱い感は否めないが、窮地に陥ったタンダを救おうとする健気なバルサがとても良い。
タンダ好きにおすすめということは当然として、精霊の守り人振りに登場する成長したチャグムに会えるのも高ポイントである。
八位 炎路を行く者(2012年)
『蒼路の旅人』、『天と地の守り人』で暗躍したタルシュ帝国の密偵ヒュウゴ。彼は何故、祖国を滅ぼし家族を奪った王子に仕えることになったのか。謎多きヒュウゴの少年時代を描いた「炎路の旅人」。そして、女用心棒バルサが養父ジグロと過酷な旅を続けながら成長していく少女時代を描いた「十五の我には」。──やがて、チャグム皇子と出会う二人の十代の物語2編を収録した、シリーズ最新刊。
七位 虚空の旅人(2001年)
隣国サンガルの新王即位儀礼に招かれた新ヨゴ皇国皇太子チャグムと星読博士シュガは、〈ナユーグル・ライタの目〉と呼ばれる不思議な少女と出会った。海底の民に魂を奪われ、生贄になる運命のその少女の背後には、とてつもない陰謀が――。海の王国を舞台に、漂海民や国政を操る女たちが織り成す壮大なドラマ。シリーズを大河物語へと導くきっかけとなった第4弾!
六位 天と地の守り人(2006年)
大海原に身を投じたチャグム皇子を探して欲しい―密かな依頼を受けバルサはかすかな手がかりを追ってチャグムを探す困難な旅へ乗り出していく。刻一刻と迫るタルシュ帝国による侵略の波、ロタ王国の内側に潜む陰謀の影。そして、ゆるやかに巡り来る異界ナユグの春。懸命に探索を続けるバルサは、チャグムを見つけることが出来るのか…。大河物語最終章三部作、いよいよ開幕。
読めば読むほど面白くなるという『守り人シリーズ』の特性からして、本作は第一部から完結まで最も楽しむことができたと思う。文庫版で1000ページを超える大作でありながらずっと緊迫感をキープすることに成功した著者の筆力はすさまじい。
感動的なシーンや衝撃的なシーンが強力なインパクトを残し、この長大な物語にふさわしい余韻を残すラストも素晴らしい。読了後、放心してしまうことは避けられないだろう。
五位 風と行く者(2018年)
バルサが挑む、ロタ王国の歴史の闇!つれあいの薬草師タンダと草市をおとずれた女用心棒バルサは、二十年前にともに旅したことのある旅芸人サダン・タラムの一行と偶然出くわし、再び護衛を引き受ける。魂の風をはらむシャタ〈流水琴〉を奏で、異界〈森の王の谷間〉への道を開くことができるサダン・タラムの若い女頭エオナは、何者かに命を狙われていた。二十年前の旅の折、養父ジグロとエオナの母サリは情を交わしていた。養父ジグロの娘かもしれないエオナを守るため、父への回顧を胸にバルサはロタ王国へと旅立つ。
アダルト。そんな言葉が浮かび上がる洗練された物語である。
『天と地の守り人』の後日談となるバルサが単独でサダン・タラム“風の楽人”の護衛につく物語と、20年前にジグロとともにサダン・タラム護衛についた物語がリンクして、ロタ北部の歴史の闇に隠されていた秘密に迫っていく。
ミステリー要素も強い展開が読む手を止めさせないが、何と言ってもバルサとジグロの物語が再度味わえるのが素晴らしい。中年女が過去を振り返るのは『闇の守り人』に通じるものがある。
四位 精霊の守り人(1996年)
老練な女用心棒バルサは、新ヨゴ皇国の二ノ妃から皇子チャグムを託される。精霊の卵を宿した息子を疎み、父帝が差し向けてくる刺客や、異界の魔物から幼いチャグムを守るため、バルサは身体を張って戦い続ける。建国神話の秘密、先住民の伝承など文化人類学者らしい緻密な世界構築が評判を呼び、数多くの受賞歴を誇るロングセラーがついに文庫化。痛快で新しい冒険シリーズが今始まる。
シリーズ1作目であるため、単品の作品としての完成度は一番だと思う。
『守り人シリーズ』の世界観において重要なキーワードとなる異世界「ナユグ」といった概念はすでに完成されており、物語のスピーディな展開や臨場感のある戦闘シーン、魅力的なキャラクターなども完璧である。
怪物の姿が『クトゥルフ神話』のような造形であることも個人的に興味をそそられる要素であった。
この本を読むとシリーズ全作読むまでやめられなくなるという呪いにかかるので覚悟を決めて読むのがいいだろう。
三位 神の守り人(2003年)
女用心棒バルサは逡巡の末、人買いの手から幼い兄妹を助けてしまう。ふたりには恐ろしい秘密が隠されていた。ロタ王国を揺るがす力を秘めた少女アスラを巡り、“猟犬”と呼ばれる呪術師たちが動き出す。タンダの身を案じながらも、アスラを守って逃げるバルサ。追いすがる“猟犬”たち。バルサは幼い頃から培った逃亡の技と経験を頼りに、陰謀と裏切りの闇の中をひたすら駆け抜ける。
『守り人シリーズ』はファンタジーではあるものの、強力な魔法があったり強大なドラゴンが登場するといった類の物語ではない。そんなシリーズにおいて唯一チート級の破壊力を持った神、鬼神タルハマヤを宿した者〈サーダ・タルハマヤ〉が登場するのが『神の守り人』である。
中二病に罹患気味な者にとっては、このようないかにもファンタジーの設定には燃えない訳にはいかないのである。
二位 蒼路の旅人(2005年)
生気溢れる若者に成長したチャグム皇太子は、祖父を助けるために、罠と知りつつ大海原に飛びだしていく。迫り来るタルシュ帝国の大波、海の王国サンガルの苦闘。遥か南の大陸へ、チャグムの旅が、いま始まる! ──幼い日、バルサに救われた命を賭け、己の身ひとつで大国に対峙し、運命を切り拓こうとするチャグムが選んだ道とは? 壮大な大河物語の結末へと動き始めるシリーズ第6作。
すでに”できる男”としての地位を気付いたチャグムが、ベリーハードな蒼路の旅人になってしまう話である。『蒼路の旅人』から最終作の『天と地の守り人』は完全に繋がった一つの物語なのだが、その壮大な物語の序章となる本作の素晴らしさは言葉では言い表せないものがある。良キャラクターのヒュウゴが初登場する作品というのも高ポイント。
一位 闇の守り人(1999年)
女用心棒バルサは、25年ぶりに生まれ故郷に戻ってきた。おのれの人生のすべてを捨てて自分を守り育ててくれた、養父ジグロの汚名を晴らすために。短槍に刻まれた模様を頼りに、雪の峰々の底に広がる洞窟を抜けていく彼女を出迎えたのは――。バルサの帰郷は、山国の底に潜んでいた闇を目覚めさせる。壮大なスケールで語られる魂の物語。読む者の心を深く揺さぶるシリーズ第2弾。
『精霊の守り人』が大傑作であったために、それに続く本作は大丈夫かな...という考えを木っ端微塵にした素晴らしい作品である。
傑作ばかりで格付けにはとても苦慮した本シリーズにおいて、1位が『闇の守り人』であることはすんなり決まった。バルサが過去を清算するという内省的な物語は大人である私にはとても響き、また地下という闇の世界の幻想的な描写と様々な想いが込み上げてくるラストシーンに圧倒されたためだ。
小説を読んでこれほどまでに心を揺さぶられたのは初めてかもしれない。そんな一生ものの1冊である。