中島らも|作品一覧とおすすめ小説ランキング10選
知性とセンスを合わせ持ったラリリ天才
しかし実際には著書の大多数は、非常に高い知性と類まれないセンスが滲み出る優れたエンターテイメント作品である。
作品一覧
らも小説は大きく分けると2パターンある。
著者の実体験が色濃く反映されたノンフィクション風の小説と、徹底的にエンタメに特化した作品である。
また長編と短編が概ね半々で上梓されている。いずれにしてもキレッキレだ。
- 頭の中がカユいんだ|中編+短編集(1986年)
頭の中がカユいんだ
東住吉のぶっこわし屋
私が一番モテた日
クェ・ジュ島の夜、聖路加病院の朝 - ぷるぷる・ぴぃぷる|短編集(1988年)
新作落語 / ぷるぷる・ぴぃぷる / 小説 - お父さんのバックドロップ|短編集(1989年)
お父さんのバックドロップ
お父さんのカッパ落語
お父さんのペット戦争
お父さんのロックンロール - 超老伝-カポエラをする人|連作短編集(1990年)
- 今夜、すべてのバーで|長編(1991年)
- 人体模型の夜|連作短編集(1991年)
プロローグ
邪眼 / セルフィネの血
はなびえ / 耳飢え
健脚行--43号線の怪
膝 / ピラミッドのヘソ
EIGHT ARMS TO HOLD YOU
骨喰う調べ / 貴子の胃袋
乳房 / 翼と性器
エピローグ - ガダラの豚|長編(1993年)
- 白いメリーさん|短編集(1994年)
日の出通り商店街いきいきデー
クロウリング・キング・スネイク
白髪急行 / 夜走る人
脳の王国 / 掌
微笑と唇のように結ばれて
白いメリーさん
ラブ・イン・エレベーター - 永遠も半ばを過ぎて|長編(1994年)
- 水に似た感情|長編(1996年)
- 寝ずの番|短編集(1998年)
寝ずの番Ⅰ~Ⅲ
えびふらっと・ぶるぅす
逐電 / グラスの中の眼
ポッカァーン / 子羊ドリー
黄色いセロファン - バンド・オブ・ザ・ナイト|長編(2000年)
- 空のオルゴール|長編(2002年)
- こどもの一生|長編(2003年)
- 酒気帯び車椅子|長編(2004年)
- ロカ|長編(2005年)
- 君はフィクション|短編集(2006年)
山紫館の怪 / 君はフィクション
コルトナの亡霊 / DECO−CHIN
43号線の亡霊 / 結婚しようよ
ねたのよい / 狂言「地籍神」
バッド・チューニング
作品ランキング
完全に私の好みで格付けしているので狙ったわけではないのだが、偶然にも長編と短編が5作品ずつになった。
らもファンからすればあの作品が入っていない!という意見も出てきそうだが、エンタメに特化した作品からノンフィクション風の作品までバランスよくランクインできたと思う。
10位 君はフィクション(2006年)
中年小説家「おれ」の創作パワーの源は証券会社に勤める若いOL香織との密会だ。今日も、ホテルの瀟洒なバーで待ち合わせ。だが、現れたのはプータローをしているという双子の妹・詩織だった。「おれ」はまったく性格の違う彼女に魅かれ、打ち解ける。すると詩織はルームキーを取り出し…。表題作『君はフィクション』ほか、単行本未収録の幻の3作品を特別収録した中島らも最後の短編集。
中島らもが亡くなられた後に発表された短編集ということもあり、やや完成度にばらつきがあるが、絶妙にブッ飛んだ表題作を始めとしてモダンホラーな「コルトナの亡霊」や亡くなる直前に執筆された音楽愛に溢れたラリ傑作「DECO−CHIN」、らも的なセンスが魅力的な「バッド・チューニング」は素晴らしい。
他の作品を差し置いて本作をランクインさせたのは著者の長女中島さなえさんによる巻末エッセーがファンなら絶対に読むべき優れたものだからだ。
らも作品を何冊か読まれた方に強くおすすめしたい。
9位 白いメリーさん(1994年)
まっ白な帽子に白いスーツ、白いストッキングに白いハイヒール。髪もまっ白という「白いメリーさん」。誰を殺してもいいという年に一度の「日の出通り商店街いきいきデー」―など、怖すぎて、おもしろすぎる9編を集めた珠玉の短編集。ナニワの奇才・中島らものユニークな世界に思わず引き込まれる一冊。
ブッ飛びまくった1作目のバトルロイヤル「日の出通り商店街いきいきデー」からパワー全開で、2作目以降もバラエティ豊かな傑作が勢ぞろいである。
ホラーな話からSF、ファンタジーっぽい作品まで幅広いのでボリュームの割に猛烈に読んだ感がする上に、最後の「ラブ・イン・エレベーター」がトドメの一発をかましてくれるので読後のインパクトは大きい。
8位 バンド・オブ・ザ・ナイト(2000年)
「悪夢を見るなら今のうちだよ」と誰かがおれの耳元でささやいた―。「悪魔の館」と呼ばれる家に入り浸るジャンキーたち。アルコールをはじめ、睡眠薬、咳止めシロップなどの中毒者たちが引きおこす悲喜劇を濃密に描いた衝撃作。そして、今夜も言葉のイメージが怒涛のように、混濁した脳裡に押し寄せてくる。
著者の代表作に挙げられるであろう作品だが、かなり人を選ぶ内容になっている。
公序良俗に全力で反する乱れに乱れた生活が描かれるだけでなく、作品の1/3近くがラリっていて、意味があるのかないのかさっぱりな言葉の羅列が続くためである。
しかしこれ以上ないほど著者の人間性が詰まった作品でもあるため、人によってはバイブルになりうるだろう。
らもの十八番であるギャグは封印されているため(それでも笑えることもある)、エンタメを期待すると完全に肩透かしかもしれないが、薬がキマった状態のらもファンなら絶対に気に入ると思う。
7位 お父さんのバックドロップ(1989年)
下田くんのお父さんは有名な悪役プロレスラーの牛之助。頭は金髪、顔は赤白の隈取り、リングでみどり色の霧を吹く。そんな父親が下田くんはイヤでたまらない。今度は黒人の空手家「クマ殺しのカーマン」と対戦することになったのだ。父を思う小学生の胸のうちをユーモラスにえがく表題作。ロックンローラー、落語家、究極のペットを探す動物園園長と魚河岸の大将。子供より子供っぽいヘンテコお父さんたちのものがたり。
児童向けの内容だが、大人が読んでも面白い....いや面白すぎる短編集である。
文字数が少なく挿絵もあるためとても読みやすく、どの作品もハートフルでギャグセンスがみなぎっている。
プロレスラー、落語家、魚河岸、ロックンローラーとヘンテコなお父さんが活躍しまくるハートフルで笑える万人におすすめできる傑作だ。
特に表題作である「お父さんのバックドロップ」の完成度は素晴らしく、爆笑→感動という著者の必殺技が炸裂する。
6位 こどもの一生(2003年)
異才・中島らものB級ホラーの頂点!
瀬戸内海の小島に、サイコセラピーのために集まった5人の男女。薬の投与と催眠術を使った治療で、彼らの意識は10歳のこどもへと戻ってゆく。抱腹絶倒、やがて恐怖が襲う超B級ホラー。
著者によると構想に長い年月をかけたとか.....(笑)
娯楽を追求しまくったエンタメ作品で、中盤までは中島らものお笑いのセンスが火を噴き爆笑必至である。それでいて心理学や催眠術の豊富な知識により、笑えるだけでなく内容は素人には到底書けないクオリティを誇る。
そして突如様子が変わってB級スプラッタホラー化する終盤の流れは、中島らも自身がよくできたと評されている通り、笑えるのに笑えない本気のホラーとなっている。
らも作品にエンタメを求めるのなら最高の1冊である。
5位 頭の中がカユいんだ(1986年)
何かワケありの僕は、ある日、突然、妻子を残し家出する。勤める小さな広告代理店に、寝泊りするようになった僕。TV局員をはじめ、いろんなギョーカイ人たちと、夜に、昼に、昭和最後のヒートアップする大阪を徘徊する日々。次々とトンデモナイ事件が起こる中、現実と妄想の狭間で僕は…。中島らも自身が「ノン・ノンフィクション」と銘うった記念碑的処女作品集。
著者の小説デビュー作である表題の中編と3作の短編からなる作品集である。
表題作はノン・ノンフィクションを称する自伝的な小説で、エンタメを狙ったわけではなさそうなのに、いたるところで笑わされるという天才的な才能が発揮されている。
下手なホラーより怖いイかれたショートショートの「東住吉のぶっこわし屋」や童貞的な心理描写が面白い「私が一番モテた日」これまた童貞的で著者の女性観が垣間見える「クェ・ジュ島の夜、聖路加病院の朝」とエンタメにより過ぎていない分、センスが際立っている。
4位 人体模型の夜(1991年)
一人の少年が「首屋敷」と呼ばれる薄気味悪い空屋に忍び込み、地下室で見つけた人体模型。その胸元に耳を押し当てて聞いた、幻妖と畏怖の12の物語。18回も引っ越して、盗聴を続ける男が、壁越しに聞いた優しい女の声の正体は(耳飢え)。人面瘡評論家の私に男が怯えながら見せてくれた肉体の秘密(膝)。眼、鼻、腕、脚、胃、乳房、性器。愛しい身体が恐怖の器官に変わりはじめる、ホラー・オムニバス。
本気ですごい短編集である。
連作短編集と称されているが、人体にまつわる話という共通点があることと、プロローグとエピローグにより最大の一撃をぶちかますという仕掛けがあるだけで、個々の作品はとても完成度が高くバラエティ豊かな短編として独立しているのでとても読みやすいい。
とりわけ「セルフィネの血」「はなびえ」「耳飢え」「貴子の胃袋」は超傑作だと思う。全体的にホラー寄りだが、怖さよりもセンスの良さに心を奪われることになるだろう。
3位 今夜、すべてのバーで(1991年)
「この調子で飲み続けたら、死にますよ、あなた」。それでも酒を断てず、緊急入院するはめになる小島容。ユニークな患者たち、シラフで現実と対峙する憂鬱、親友の妹が繰り出す激励の往復パンチ。実体験をベースに生と死のはざまで揺らぐ人々を描いた、すべての酒飲みに捧ぐアル中小説。
中島らも氏本人曰く、「ほぼ実話」なノンフィクション風作品である。
読んでいると自伝としか思えないが、ほどよく脚色されていることでエンターテイメント作品としても大変すぐれた内容になっている。
また『今夜、すべてのバーで』はらも本人がアル中なだけあって、アルコールについて相当な研究がなされたうえで描かれているようで、実体験と知性が掛け合わされたことにより、面白いだけでなくアルコール依存について知識を得ることができるという大変お得な内容だ。
酒好きであれば共感の嵐で、読んでいると無性に酒が飲みたくなるだろうが、飲みながら読み進めていると、ラストで最高のカタルシスを味わうことができる。
全らも作品の中でも自信をもって万人におすすめできる最高の小説である。
2位 ガダラの豚(1993年)
アフリカの呪術医研究の第一人者、大生部多一郎は、テレビの人気タレント教授。超能力ブームで彼の著者「呪術パワーで殺す!」はベストセラーになった。しかし、妻の逸美は8年前の娘・志織のアフリカでの気球事故での死以来、神経を病んでいた。そして奇跡が売り物の新興宗教にのめりこんでしまった。逸美の奪還をすべく、大生部は奇術師ミラクルと組んで動き出す。
天才が本気を出したらどうなるか....その答えが『ガダラの豚』である。
徹頭徹尾尋常でない面白さであり、著者のもつインテリやユーモア、そしてアル中がすべて発揮された究極のエンターテイメントであり、中島らも作品の最高傑作であるばかりか、おもしろ小説界の頂点に君臨する物語なのだ。
文庫版だと3分冊でトータル1000ページに及ぶ大作だが、三部構成の物語はそれぞれが異なる魅力があり、話は展開し続ける。
一部は超能力ネタ全開の爆笑エンタメ、二部はスケールが大きくなった呪術をめぐるユーモアと恐怖が溢れる冒険小説となり、三部は完全にホラーサスペンスである。
繰り返しになるが、『ガダラの豚』は故中島らも氏の一世一代の気合がこもった最高傑作である。
長い物語だが、らも作品初読みの人にもおすすめしたい最強エンタメ小説である。
1位 酒気帯び車椅子(2004年)
家族をこよなく愛する小泉は中堅の商社に勤める平凡なサラリーマン。彼は、土地売買の極秘巨大プロジェクトを立ち上げた。必死の思いで進めた仕事のメドがたったある日、計画を知るという謎の不動産屋から呼び出される。彼を待っていたのは暴力団だった。家族を狙うという脅しにも負けず敢然と立ち向かう小泉だったが…。容赦ない暴力とせつない愛が交差する中島らもの遺作バイオレンス小説。
中島らもの最高傑作は間違いなく『ガダラの豚』である。
それは著者のファンであれば誰もが認めるところだろうし、私自身もそう思っている。
しかし一番好きなのは『酒気帯び車椅子』である。
ユーモアが溢れのほほんとした序盤から一転、平山夢明や友成純一作品で洗礼を受けた私ですら目を背けたくなり、心にダメージを負うレベルの鬼畜外道な中盤、そして脳内麻薬が完全に解き放たれる決死必殺のラストシーンと完璧な序破急が展開される。
序盤で温かい幸せな家庭が描かれるだけに、それが完膚なきまでに破壊される中盤の威力がすさまじい。
そしてそこからなだれ込む復讐劇は血沸き肉躍る最高の読書体験である。
内容がかなりブッ飛んでいるだけあって、万人向けではなくそれなりに評価が分かれているようだが、エンタメ小説としては『ガダラも豚』や『こどもの一生』をさらに洗練させた尖りまくった傑作である。
感謝しつつ合掌
登場人物が階段から落ちて亡くなるという描写が著書である『寝ずの番』にあったが、天才であるだけにご自身の最期が見えていたのかもしれない。
こんな天才は滅多に表れるものではないので、もう新たな作品が読めないのは本当に残念なことだが、幸いらも氏はエッセーも含めれば膨大な著書を遺されている。
残された我々は酒を片手にニヤニヤしながら読もうじゃありませんか。そして偉大な作品の数々を後世に伝えていきましょう。