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『円』劉慈欣|村から宇宙へ...著者の筆力に脱帽

中国SFの至宝は短編も凄すぎる

 

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これぞ計算陣形!!

 

作品紹介

劉慈欣による『円』は2021年に早川書房より出版された作品である。
ハードカバーで400ページ弱となかなかのボリュームでショートショートくらいの尺の作品を含む十三編の短編が収録されている。

世界中で読まれまくっている『三体』の著者による日本初の短編集で、超大作『三体』と比べて短編はどうなのだろうという不安を粉々に粉砕するほど個々の作品のクオリティが高い。本当にどの短編もバラエティが豊富で良くできていて、とにかく折り紙付きの面白さなのである。『三体』が気になっているがボリュームに恐れをなしている方や、”三体ロス”に苦しむ方にとっては福音書になるだろう。

中国の現状を知らされる貧しい村の話から超文明を持つ宇宙の話まで短編でも相変わらずの超スケールで様々な世界を見せてくれる。そんな超傑作短編集について語っていく。

 

 以下、あらすじの引用

円周率の中に不老不死の秘密がある――10万桁まで円周率を求めよという秦の始皇帝の命を受け、荊軻(けいか)は300万の兵を借りて前代未聞の人列計算機を起動した! 第50回星雲賞に輝く「円」。麻薬密輸のために驚愕の秘密兵器を投入するデビュー短篇「鯨歌」。貧しい村で子どもたちの教育に人生を捧げてきた教師の“最後の授業"が信じられない結果をもたらす「郷村教師」。漢詩に魅せられた超高度な異星種属が、李白を超えるべく、あまりにも壮大なプロジェクトを立ち上げる「詩雲」。その他、もうひとつの五輪を描く「栄光と夢」、少女の夢が世界を変える「円円のシャボン玉」など、全13篇。中国SF界の至宝・劉慈欣の精髄を集める、日本初の短篇集。

 

 

 

収録作品

翻訳者の大森望さんによると、本作品集に収録された作品は劉慈欣本人のチョイスらしく、デビュー作から『三体』発表後の作品までのベスト盤と言っても良いのかもしれない。したがってどの作品も非常に優れているが赤文字にした作品は特に素晴らしいと思う。

  1. 鯨歌(1999年)※デビュー作
  2. 地火(1999年)
  3. 郷村教師(2000年)
  4. 繊維(2001年)
  5. メッセンジャー(2001年)
  6. カオスの蝶(1999年)
  7. 詩雲(2002年)
  8. 栄光と夢(2003年)
  9. 円円のシャボン玉(2003年)
  10. 二〇一八年四月一日(2009年)
  11. 月の光(2009年)
  12. 人生(2003年)
  13. (2014年)

 

イデアの宝石箱

『三体』で素晴らしい奇想を惜しげもなく披露された劉慈欣だが、本作品集では『三体』で使用されたアイデアの原型となるものが複数収録されている。

三体の第一部からスピンオフされた『円』だけでなく、全体的に劉慈欣の奇想が個々の作品に凝縮されていて、しかもどの物語でもストーリーテラー振りを発揮しており、しっかりと意外な落ちが用意されているのでSF作品としてでなく、純粋に話が面白いのが凄い。

全作品熱く語りたいところだが、私が特に好きな作品(上記の赤文字の作品)について感想を書いていきたい。

 

郷村教師

これが超凄いんです。これを読むと「そりゃ黒暗森林や死神永世も生まれますわい」と言った途轍もない作品になっている。

中国の貧しい村で死に瀕した教師が子供たちに最後の授業をするパートと地球から遥かに離れた宇宙戦争終焉のパートに分かれて物語は進んでいき、最後には見事に双方の話が交じり合って見事な結末にいたるのである。

中国の貧しい村と人類を遥かに超越した文明の戦争というギャップに驚嘆しながら読み進めて最後に「あッ」と言わせる著者の剛腕には脱帽するしかない。

 

カオスの蝶

カオス理論における、ある系の変化が初期条件に強く依存する場合に見られる予測不可能な挙動「バタフライエフェクト」を計算してしまおうというトンデモ理論を社会問題に結びつけた話である。

この作品はとにかく劉慈欣の奇想が爆裂しており、故国を救うために一人の男がバタフライエフェクトを利用して奮闘する話である。かなり悲しい話ではあるのだが、こんなバカげた理論を物語に昇華させた著者は天才だと思う。

ちなみに最後がよく分からんのです。私の読解力ではラスト付近を何度か読んでもイマイチ何が言いたいのか伝わりませんでした。教えて偉い人。

 

詩雲

個人的には本作品集で一、二位を争う傑作である。

人間の詩人、人間を家畜として支配する呑食帝国の恐竜、神に等しいテクノロジーを持つ異星人を中心に話が進むのだが、もう凄すぎて凄すぎて....何なら三体第三部の”紙切れ”に繋がる奇想の原型を見せつけられた気分である。

超文明の異星人が過去の偉人が生み出したの詩をテクノロジーで超えてみせるという話なのだが、規模がデカすぎるうえに、最高の詩を創るためにやることが超ド級の鬼畜プレイなのである。いやー.....これはマジで凄いです。

 

円円のシャボン玉

読後感が一番よく、SF初心者にこそ強くおすすめした素晴らしい作品である。

世の中的には何の役にも立たなさそうなシャボン玉の研究を、好きだからという理由で主人公の円円が徹底的にやってみたところ、思いもよらない副産物を生み出すという希望に満ちた物語なので、我が子にもぜひ読ませたいと思っている。

全体的にスケールが大きく物騒な話が多い本作品集において、こういったハートフルな作品は癒しとなるだけでなく、著者の守備範囲の広さを伝えることに成功していると思う。本当にいい話です。子供が理科を好きになりそう。

 

月の光

短めな尺の中で文字通り様々な世界を見せられる歴史改変SF。

未来の自分と会話して未来を変えていくのだが、そのたびに「あっちゃー.....」な結果になってしまうのだが、次はどんな結果が待っているのだろうとページをめくる手が止まらない作品である。

物語の始まりのシチュエーションも「どうしてこんな感じにしたんだろう」的な理系っぽい感じで好感触。作中で語られるアイデア一つとっても長編が一つ書けてしまいそうだが、そんなアイデアを惜しげもなくぽんぽん投下する著者に拍手したい。

 

『三体』第一部のVRゲーム三体からのスピンオフ作品である。

秦の始皇帝が優秀な科学者のもとで、軍隊を用いて人力コンピュータを構築し、円周率を計算する(笑)というトンデモな物語である。ただブッ飛んではいるものの実際に実現できそうなのが凄いのである。

『三体』とは異なり一つの物語として起承転結がしっかりしているので、物語自体がとても面白い。アメリカで三体を実写ドラマ化するってことは、この計算陣形も再現されるのだろうけど、想像しただけで壮観である。

劉慈欣の良いところはハードSFであっても、オールドスクール(古典)が持つ分かりやすさや娯楽性の高さをしっかり両立させているところだと思う。こんなの他のSF作家では絶対に思いつかないだろう。

 

今後も超期待

冒頭にも書いたがこれから『三体』を読もうとしている方には素晴らしい入門書になるだろうし、”三体ロス”に苦しむ地球三体協会の方にも救いになるのは間違いない。

また三体の第一部が思ったほど楽しめず第二部以降を読もうか迷っているような方(私はこのパターンだった)にも特効薬となることを保証する。本当に素晴らしい作品集なので気になったのなら迷うことなく手に取ってほしい。

また本作が出版された2021年時点で未翻訳の作品もこれから順次翻訳されていくということなので嬉しい限りである。劉慈欣は今後も世界SFの筆頭として活躍していくはずなので、今後も期待してやまない。

 

 

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『三体 三部作』劉慈欣|次元を超えたSF大作

オールタイムベスト級の超絶ハードSF

アジア人で初のヒューゴー賞受賞作にして、全世界で3000万部以上売り上げているという怪物作品である。そしてその驚愕の内容はまさしくオールタイムベストと言っても過言ではなく、私は「ついに1980年に出版された『星を継ぐもの』を超える作品が出たか...しかも中国で!!」と感激している。
そんな圧倒的な超絶SFについて、主にこれから読もうか迷っている層に焦点を当てて、作品の説明と感想を語っていきたい。
 

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宇宙すら超越した無限のスケール

作品一覧

本国では2008年から2010年に出版されているということが驚きである。

作品紹介

『三体』は三部作であり、第一部が壮大なプロローグでハードカバーにして約450ページ、物語が動き出す第二部はハードカバー上下巻で約700ページ、そして時空を超えた超展開を迎える驚天動地の第三部がハードカバー上下巻で約900ページという大長編となっている。二段組ではないが文字はびっしりなので、最近の国内小説のような文字大きく、文字数が少なめな文庫本に換算するとおよそ3000ページに匹敵する。

大変失礼ながら私は小説としては馴染みのない中国産という理由から第一部を長いこと積んでしまい、しかも第一部がそこまで凄いとは感じなかったため、第二部も長いこと積んでしまったのである。しかし第二部と第三部を読んで、第一部はあくまでもプロローグであり本当に面白くなるのは第二部から。そして第三部は方向性を変えつつもSFとしてはさらなる高みに到達した超絶傑作だったと知ったのである。

ではそれぞれの作品をある程度ネタに触れつつ、これから読もうと思っている人が読みたくなるような紹介をしていきたい。なお『三体』はネタバレされたくらいでつまらなくなるような作品ではないことを保証するが、すでに読む気満々な方はこの記事は読まずに早速読むことをおすすめしたい。

 

※以下ネタバレ注意

三体(2008年)

 

物理学者の父を文化大革命で惨殺され、人類に絶望した中国人エリート科学者・葉文潔。失意の日々を過ごす彼女は、ある日、巨大パラボラアンテナを備える謎めいた軍事基地にスカウトされる。そこでは、人類の運命を左右するかもしれないプロジェクトが、極秘裏に進行していた。数十年後。ナノテク素材の研究者・汪森は、ある会議に招集され、世界的な科学者が次々に自殺している事実を告げられる。その陰に見え隠れする学術団体“科学フロンティア”への潜入を引き受けた彼を、科学的にありえない怪現象“ゴースト・カウントダウン”が襲う。そして汪森が入り込む、三つの太陽を持つ異星を舞台にしたVRゲーム『三体』の驚くべき真実とは?

 

前述の通り、第一部はプロローグに過ぎない。物語舞台は1970年の文化大革命時代と2010年代、そしてVRゲーム「三体」が主軸となり交互に進んでいく。後半まではSF的な要素よりもむしろホラーサスペンス/ミステリー要素が濃厚で、科学者の連続自殺や主要キャラでナノテク素材の研究者・汪森の網膜に浮かび上がる謎のカウントダウン「ゴーストカウントダウン」、謎に包まれたVRゲーム「三体」など様々な謎がばらまかれて、終盤に向けてそれぞれの意味が判明していく。

ずばり簡単に内容を説明してしまうと概ね以下の通りになる。

文化大革命で父を殺された葉文潔は人類に絶望していた。そんな彼女は超エリートだったので某秘密基地で働いていたのだが、ある時人類の科学力を遥かに上回る異星人の罠通信を受取り、人類を滅ぼしてほしくて意図的に応答した。その行動により地球の場所が異星人特定され、超科学文明の異星人に地球を侵略されることになった......のだが、三体星系から太陽系は遠いので地球到達までは450年かかる。三体人の考えでは地球人の科学進歩はスピードが早く、450年後には地球人に負けるのでは?という考えから智子(ソフォン)という陽子スーパーコンピュータを侵略艦隊に先立って地球に送り、地球の科学の発展の妨害と地球の監視されるようになった。人類の運命やいかに。という物語である。

VRゲーム「三体」での”人力コンピュータ”やド肝を抜く”飛刃”、人類を虫けら扱いできる”智子”など中国ならではなのか、強烈な奇想が惜しげもなく出されるのは非常に面白い。しかし繰り返すがこれはあくまでもプロローグである。第二部以降と比較すると地味でスケールが小さくてそこまで凄いとは言えない。あと個人的には主役の一人・葉文潔のキャラが嫌いである。

絶賛される第一部だが、私のように賞賛されるほど凄いと思えない人もいるかもしれない。しかし第一部を読み終えたのならとりあえず速攻で第二部を読み始めてほしい。超面白いから。

 

 

三体Ⅱ 黒暗森林(2008年)

 

人類に絶望した天体物理学者・葉文潔が宇宙に向けて発信したメッセージは、三つの太陽を持つ異星文明・三体世界に届いた。新天地を求める三体文明は、千隻を超える侵略艦隊を組織し、地球へと送り出す。太陽系到達は四百数十年後。人類よりはるかに進んだ技術力を持つ三体艦隊との対決という未曾有の危機に直面した人類は、国連惑星防衛理事会を設立し、防衛計画の柱となる宇宙軍を創設する。だが、人類のあらゆる活動は三体文明から送り込まれた極微スーパーコンピュータ・智子に監視されていた! このままでは三体艦隊との“終末決戦"に敗北することは必定。絶望的な状況を打開するため、前代未聞の「面壁計画」が発動。人類の命運は、四人の面壁者に託される。そして、葉文潔から“宇宙社会学の公理"を託された羅輯の決断とは?

 

ここからが本番である。エンタメ要素が一気に跳ね上がり、人類VS三体人という勝ち目のない戦いにどうすれば勝利できるのかという激アツな物語になる。

冒頭で三体人の特性”透明な思考”が判明する。三体人は言葉などのコミュニケーションを取らず、思考がダイレクトに相手に伝わるので嘘をついたりといった知略・戦略とは無縁なのである。スーパーコンピュータ”智子”に何もかも監視されていても、人間の思考までは読めない。そこで人類は面壁者という莫大なリソースを使用する権限を持つ人を4人選び、各々が三体人を撃退するための奇策を練っていくのである。

そして4人の面壁者達がそれぞれ凄い作戦を立てていくのだが、これがまぁ面白い。4人の内の脳筋タイプの2人は、現代の科学では実現不可能な超強力武器や艦隊を考案していくのだが、かなりブッ飛んでいるので大いに楽しめるはず。

そして学者型の1人と4人の中でなぜ面壁者に選ばれたのか不明な主人公・羅輯も兵器とは別路線の奇策を打ち立てていく。しかし面壁者には三体人側が用意した破壁人という刺客が放たれており、この破壁人が名探偵のごとく面壁者の策を看破し追い詰めていくので、ミステリー好きにもたまらないだろう。

 

 

三体世界の巨大艦隊は、刻一刻と太陽系に迫りつつあった。地球文明をはるかに超える技術力を持つ侵略者に対抗する最後の希望は、四人の面壁者。人類を救うための秘策は、智子にも覗き見ることができない、彼らの頭の中だけにある。面壁者の中でただひとり無名の男、羅輯が考え出した起死回生の“呪文"とは?二百年後、人工冬眠から蘇生した羅輯は、かつて自分の警護を担当していた史強と再会し、激変した未来社会に驚嘆する。二千隻余から成る太陽系艦隊に、いよいよ出撃の時が近づいていた。一方、かつて宇宙軍創設に関わった章北海も、同じく人工冬眠から目醒め、ある決意を胸に、最新鋭の宇宙戦艦に乗り組むが……。

 

続いて後半。前半をさらに加速させた面白さになっており、面壁者VS破壁人の知的バトルは一段落して、冬眠により時代は200年後に移行する。200年後の人類は智子に妨害されつつも科学のブレイクスルーを起こして驚くほど進歩しており、強力な2000機からなる宇宙艦隊を築き上げたので、面壁計画は過去のものになっていた。なぜなら正面から戦っても楽勝で勝てるんじゃね?気分に浸っていたからである。

そんな状況の中、人類は三体人から放たれたたった一機の探索機”水滴”に対して2000機の宇宙大艦隊で迎え撃つのだが.....。超すごいです。あえてここでは書かないが、例えば2000人のサイヤ人(スーパーサイヤ人ではない)がフリーザ様と戦ったらどうなるのかを想像してほしい。

そして絶望に沈む人類。だがついに主人公・羅輯が宇宙の謎を解き、素晴らしい大団円を迎えることになるのである。このラストシーンは本当に素晴らしくSF史に残るだろうし、羅輯が提唱したフェルミパラドックスに対する一つの解である暗黒森林理論は後世に多大な影響を及ぼす理論になるのは間違いない。

宇宙観を変えてしまうような稀代の傑作なので、絶対に読むべき作品である。

 

 

三体III 死神永生(2010年)

 

圧倒的な技術力を持つ異星文明・三体世界の太陽系侵略に対抗すべく立案された地球文明の切り札「面壁計画」。その背後で、極秘の仰天プランが進んでいた。侵略艦隊の懐に、人類のスパイをひとり送る――奇想天外なこの「階梯計画」を実現に導いたのは、若き航空宇宙エンジニアの程心。計画の鍵を握るのは、学生時代、彼女の友人だった孤独な男・雲天明。この二人の関係が人類文明の――いや、宇宙全体の――運命を動かすとは、まだ誰も知らなかった……。一方、三体文明が太陽系に送り込んだ極微スーパーコンピュータ・智子は、たえず人類の監視を続けていた。面壁者・羅輯の秘策により三体文明の地球侵略が抑止されたあとも、智子は女性型ロボットに姿を変え、二つの世界の橋渡し的な存在となっていたが……。

 

第二部がとても綺麗に完結するので、果たして続編なんて書けるのか?という疑問を誰もが持つことになるのだろうが、ところがどっこい第二部すら圧倒するほどの限界突破したスケールで描かれる超傑作に仕上がっているのである。

第三部は前作の面壁計画と並行して推進されたもう一つの計画”階梯計画”が主軸となる。三体人に地球人を送り込むというこれまたブッ飛んだ計画なのである。と言いつつも計画はやるだけやって失敗したっぽいと判断してとりあえず忘れ去られてからの展開が超激アツなのだ。”智子降臨”である。

人類と三体人は第二部で侵略がストップしたので、仲良く交流していたのだがあることが契機となり、またしても人類に危機が訪れる。そこで三体側の代表として活躍するのが、スーパーコンピュータ”智子”が擬人化された女性型ロボット”智子”である。この世のものとは思えない美貌に美しい着物姿、そして日本刀。あるシーンで智子さんが大変なことをしてしまうのだが、これが妙に萌えるんです。劉慈欣さんは本当に分かっていらっしゃる。

そんなこんなで萌えまくっていると、今回も何とか人類は危機を一時的に脱するのだが、それと引き換えに近い将来確実に滅亡することが確定してしまう。そして下巻に続く!!

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これが中国での智子さんのイメージらしい

 

帰還命令にそむいて逃亡した地球連邦艦隊の宇宙戦艦〈藍色空間〉は、それを追う新造艦の〈万有引力〉とともに太陽系から離脱。茫漠たる宇宙空間で、高次元空間の名残りとおぼしき“四次元のかけら"に遭遇する。〈万有引力〉に乗り組む宇宙論研究者の関一帆は、その体験から、この宇宙の“巨大で暗い秘密"を看破する……。一方、程心は、雲天明にプレゼントされた星から巨額の資産を得ることに。補佐役に志願した艾AAのすすめで設立した新会社は、数年のうちに宇宙建設業界の巨大企業に成長。人工冬眠から目覚めた程心は、羅輯にかわる二代目の執剣者(に選出される。それは、地球文明と三体文明、二つの世界の命運をその手に握る立場だった……。

 

かつてない危機に立たされた人類は”智子”先生から教わった救済の方法を考えるうちに、すっかり忘れてた”階梯計画”に成果があったことを知り、超ミステリー的な暗号解読が始まる。そしてここから先は超絶ハードSFになる。

三体文明を超えるほどの超文明から太陽系が攻撃されることが確定したことにより、人類はまたも絶滅を逃れるための策を考えまくるのである。そしてこれなら助かると思った矢先、ついに来た超文明による”紙切れ”1枚の次元の違う攻撃。

そして超展開に次ぐ超展開にアーサー・C・クラークの『幼年期の終わり』や小松左京の『果しなき流れの果に』を彷彿とさせる、まさに時空を超えた驚愕のラストを迎えるのである。終盤150ページくらいでなぜか私は果てしない寂しさや悲しみを覚えた。

著者自身も第三部はSFマニア向けのハードSFになったと仰っているように、第三部前半までのエンタメ要素は大幅に減退し、ゴリゴリの超絶ハードSFが展開される。そのため賛否両論になるのかもしれないが、私は第三部が一番好きである。宇宙のすべてを理解してしまった感がある。

 

 

三体X 観想之宙(2011年) 宝樹

 

異星種属・三体文明の太陽系侵略に対抗する「階梯計画」。それは、敵艦隊の懐に、人類のスパイをひとり送るという奇策だった。航空宇宙エンジニアの程心(チェン・シン)はその船の推進方法を考案。船に搭載されたのは彼女の元同級生・雲天明(ユン・ティエンミン)の脳だった……。太陽系が潰滅したのち、青色惑星(プラネット・ブルー)で程心の親友・艾(アイ)AAと二人ぼっちになった天明は、秘めた過去を語り出す。三体艦隊に囚われていた間に何があったのか? 『三体III 死神永生』の背後に隠された驚愕の真相が明かされる第一部「時の内側の過去」。和服姿の智子が意外なかたちで再登場する第二部「茶の湯会談」。太陽系を滅ぼした〝歌い手〟文明の壮大な死闘を描く第三部「天萼」。そして――。 《三体》の熱狂的ファンだった著者・宝樹は、第三部『死神永生』を読み終えた直後、喪失感に耐えかねて、三体宇宙の空白を埋める物語を勝手に執筆。それをネットに投稿したところ絶大な反響を呼び、《三体》著者・劉慈欣の公認を得て、《三体》の版元から刊行されることに……。ファンなら誰もが知りたかった裏側がすべて描かれる、衝撃の公式外伝(スピンオフ)。

 

なんとまさかの『三体Ⅲ 死神永世』のその後の物語である。つまり死神永世を読んで三体ロスに陥った方はただちに読み始めるべし。内容については下記の記事にネタバレ極小でまとめたので参照されたし。死神永世すら小さく見えるほどスケールがデカいとんでもない作品である。

 

〇個別紹介記事

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『三体』を超える作品は出るのだろうか

『三体』は中国では2008~2010年に発表されている。私は少なくとも2010年から2021年までに『三体』を超える作品には出逢っていない。超えるというより他の作品はそもそも『三体』にかすりもしていない。となるともう何らかの科学のブレイクスルーが起きて、人類が大きな躍進を遂げない限り、もう人類にこれ以上の作品を想像する術はないように思うのである。
『三体』は現在人類が書くことのできる最高のSFである。そして最高のエンターテイメントでもある。21世紀に生きる人間であれば必読の一冊と言い切りたい。
でも1番言いたいことは「智子LOVE!!」なのだ。
 

『[映]アムリタシリーズ』野﨑まど|究極の創作

予想不可能な超展開の連続

 次元の違う超天才作家・野﨑まど。そんな異才による内容の想像すら不可能な超絶傑作小説群が『[映]アムリタ』に始まり『2』に終わる一連のシリーズである。(といいつつシリーズであるっぽいことが判明するのは5作目の『パーフェクトフレンズ』の最後の最後なのだが)
私は野﨑まどをSF小説も書くラノベ作家というイメージが先行しており、ラノベが不得意という事情から野﨑まどとのファーストコンタクトが遅れてしまい、特にこのシリーズは後回しにしてしまっていたのだが、本当に後悔するぐらいのとてつもない超絶傑作である。
著者が野﨑まどである、ということ自体がネタバレになりかねないほどネタバレしない方が良いシリーズなのだが、本シリーズの魅力を伝えるためにできるだけ内容に触れることは避けつつも、必要な範囲で内容をご紹介していきたい。

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新装版のイラストが萌えてMAX

作品一覧

 

作品紹介

前述の通りシリーズ作品である(っぽい)ことが判明するのは5作目の最終版であり、『2』を読むことで初めてこれまでの5作品が『2』を読むための伏線であることが判明するという仕様である。したがって1作目から4作目は完全に独立した作品なので読む順番は気にする必要はない。また5作目の『パーフェクトフレンド』も1作目の『[映]アムリタ』とわずかに繋がりがあるだけなので、こちらも順不同でも問題ない。

最終作の『2』だけは絶対に他の全作品を読んでから読まなければならない。特に1作目は絶対に必須で、そもそも読んでいなければ話がよく分からなくなるだろう。また2作目から5作目も読んでおかないと『2』の魅力が1作読まないごとに1割以上減少してしまうので読まないのは非常にもったいない。

だが2作目から5作目も非常に面白く、『2』を読むための使命感で読む必要などまったくないので安心である。

 

①  [映]アムリタ(2009年)

 

芸大の映画サークルに所属する二見遭一は、天才とうわさ名高い新入生・最原最早がメガホンを取る自主制作映画に参加する。だが「それ」は“ただの映画”では、なかった―。TVアニメ『正解するカド』、『バビロン』や、劇場アニメ『HELLO WORLD』などを手掛ける鬼才・野崎まどの作家デビュー作にして、電撃小説大賞にて“メディアワークス文庫賞”を初受賞した伝説の作品が新装版で登場!貴方の読書体験の、新たな「まど」が開かれる1冊!

 

とりあえず読んで」としか言いようがない作品である。

学園もののラノベ的展開が続くので、ただの青春恋愛映画製作小説だと認識して読み進めていると恐るべき.....これ以上はネタバレになるので言えない、という感じ。

おそらく事前情報ゼロ(たとえばリアルタイムで読んだ人)であればブッ飛ぶこと間違いなしである。もちろんある程度の情報が入っていても驚愕するのでご安心を。サイコホラーやSFとも受け取れる超天才が超天才だと理解させられる超絶作品。

 

 

②  舞面真面とお面の女(2010年)

 

第二次大戦以前、一代で巨万の富を築いた男・舞面彼面。戦後の財閥解体により、その富は露と消えたかに見えたが、彼はある遺言を残していた。“箱を解き石を解き面を解け よきものが待っている―”時を経て、叔父からその「遺言」の解読を依頼された彼面の曾孫に当たる青年・舞面真面。手がかりを求め、調査を始めた彼の前に、不意に謎の「面」をつけた少女が現われて―?鬼才・野崎まど第2作となる伝記ミステリ、新装版!

 

超読みやすくて超面白い伝奇ミステリである。“箱を解き石を解き面を解け よきものが待っている”という暗号を解読していく過程で謎の”お面の少女”と出逢い、謎が謎を呼ぶ魅力的な内容になっている。そして野﨑まどお馴染みの超展開も待っている。

1作目が凄すぎたので、本作はどうなんだろうなぁ....という不安を木端微塵に吹き飛ばすほどの楽しく、謎が気になりまくるので一気読み必至である。

また本作の主人公・舞面真面は『2』の主要キャラクターになるという点でも強くおすすめしたい。

 

 

③  死なない生徒殺人事件~識別組子とさまよえる不死~(2010年)

 

「この学校には、永遠の命を持つ生徒がいる」女子校「私立藤凰学院」に勤めることとなった生物教師・伊藤は、同僚の教師や、教え子からそんな噂を聞く。人として、生き物としてありえない荒唐無稽な話。だがある日、伊藤はその「死なない生徒」に話しかけられた。“自称不死”の少女・識別組子。だが、彼女はほどなく何者かによって殺害され、遺体となって発見される―!“生命”と“教育”の限界に迫る鬼才・野崎まど新装版シリーズ第3弾!

 

不老不死の女が殺されていくという、設定自体がブッ飛んだ作品である。

タイトルに”殺人事件”とついているが、本格ミステリというよりは本格SFといった方がふさわしい内容になっている。超天才野﨑まどが考案した学園での”不老不死システム”がどんなものなのかぜひとも確かめてみてほしい。こんなことを思いつくところが鬼才などと称される所以なのだと思う。SFのセンスオブワンダーが溢れている。

もちろん言うまでもなく野﨑まど的超展開もあるので本作も一気読み確定だろう。それと新装版の表紙の女性が萌えてますね(まさかあんなキャラだとは....)

 

 

④  小説家の作り方(2011年)

 

駆け出しの小説家・物実の元に舞い込んだ初めてのファンレター。そこには、ある興味深い言葉が記されていた。「この世で一番面白い小説」。あまねく作家が目指し、手の届かないその作品のアイディアを、手紙の主は思いついたというのだ。送り主の名は、紫と名乗る女性。物実は彼女に乞われるがまま、小説の書き方を教えていくのだが―。鬼才・野崎まど新装版シリーズ第4弾。「小説家を育てる小説家」が遭遇する非日常を描く、ノベル・ミステリー。

 

ジャンルを明かすことすらためらわれる超絶作品である。

あらすじの通りの内容なのだが、まずは何といっても「この世で一番面白い小説」のアイデアを思いついたが、それを書くすべを持たないので教えてほしいという”依代”のキャラクターが超最高なのです。そしてそんな彼女の持つ”秘密”の凄まじさと言ったら....もう1作目と同様「とりあえず読んで」としか言いようがないのでとにかく読んで!!青春恋愛(っぽい)小説(?)としても楽しめます。

ちなみに超美人な表紙の女性が”依代”です。この人間とは思えないような無表情な感じは本書を読めば納得なのである。

私個人の好みだと、単体の作品では本作がナンバー2である。

 

 

⑤  パーフェクトフレンド(2011年)

 

少女たちの“トモダチ大作戦”。みんなよりちょっとだけ頭がよい小学四年生の少女・理桜は、担任の先生のお願いで、不登校の少女・さなかの家を訪れる。しかしさなかは既に大学院を卒業し、数学者の肩書きを持つ超・天才少女!手玉に取られくやしい理桜は、マウントを取るべく不用意に叫ぶ。「あんた、友達居ないでしょ!」かくして変な天才少女に振り回される『友達探求』の日々が始まるのだった…。野崎まど新装版シリーズ、「友情」の極意をお届けする第5弾!

 

単体の作品としては個人的にナンバー1の超絶傑作である。

もうとにかく凄すぎてヤバいのだけど、その数学SF的なすさまじさがギャグに結びついているというところに著者の圧倒的な才能を思い知らされたのだ。理系的な思考を突き詰めたような”友達方程式”は爆笑とともに畏敬の念を覚えた。

  1. 友達とは何か
  2. なぜ友達が必要か
  3. 友達は作れるか

上記の問いを論理的に解明し、それを数式化するというハードSFに片足を突っ込んだような感じなので、SF的センスオブワンダーも全開である。

しかし本作の素晴らしさは論理が崩壊した先に待っている。超展開からの超展開に著者が人間を超越した者だと思えたほどである。5作目であり1作目と関連しているが、個人的には本作を一番最初に読むのがベストではないかと思っている

 

 

⑥  2(2012年)

 

創作することの極地。それが『2』。日本一の劇団『パンドラ』の入団試験を乗り越えた青年・数多一人。しかし、夢見たその劇団は、ある一人の女性によって“壊滅”した。彼女は言った。「映画に出ませんか?」と。言われるがまま数多は、二人きりでの映画制作をスタートする。彼女が創る映画とは。そして彼女が、その先に見出そうとするものとは…。『創作』の限界と「その先」に迫る野崎まど新装版シリーズ・最終章!!『2』が、全てを司る。

 

究極の創作としか言えない作品。それが『2』である。

1作目から5作目こそが『1』であり、すべては『2』の伏線となっている。『1』を読むことが『2』の素晴らしさを堪能しきる前提となるため、ぜひ順番通りに読んでほしいものである。

『2』単体では「???」になる部分が多いのだが、1作目から5作目を読むことにより圧倒的なミステリーに姿を変える。これまでのすべてを伏線とするような超展開の乱れ打ちには、文字通り脳に何らかの影響を及ぼすかもしれない。野﨑まどの超天才っぷりが400%発揮された人知を超えた作品である。

 

 

神に等しい作家

他の作品読んだり、脚本を担当されたアニメ『正解するカド』を観れば世界観が広がることは間違いなしだ。
 

『タイタン』野﨑まど|人類の命運がかかった”おねショタ”

仕事とは何かを考え進撃する巨人

 

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とても秀逸な表紙だ

 

作品紹介

 野﨑まどによる『タイタン』は2020年に講談社より出版された作品である。
単行本で400ページ弱と野﨑まど作品の中ではボリュームが多い部類に入り、ジャンルもハードSFなので非常に読みごたえがあるのだが、野まど作品に共通するラノベに通じる高いリーダビリティは本作でも健在であり、非常に読みやすいのが特徴である。

SF作家としてもミステリー作家としても高い評価を得ている著者が、AIが仕事をすることにより、人類が仕事をする必要がなくなった2205年を舞台としたハードSFな世界観の中で、”仕事とは何か”という魅力的な謎を極めて論理的に突き詰めていく物語なので、人を選ぶ作風の著者ではあるが、万人におすすめできる非常に素晴らしい作品となっている。

これ以上はネタバレになりかねないので本記事の後半に記載するが、非常にエンターテイメント要素が高いのも高ポイント。興味を持たれた方にはぜひとも読んでいただきたい一冊である。

 

 以下、あらすじの引用

至高のAI『タイタン』により、社会が平和に保たれた未来。人類は“仕事”から解放され、自由を謳歌していた。しかし、心理学を趣味とする内匠成果のもとを訪れた、世界でほんの一握りの“就労者”ナレインが彼女に告げる。「貴方に“仕事”を頼みたい」彼女に託された“仕事”は、突如として機能不全に陥ったタイタンのカウンセリングだった―。

 

後半はネタバレありで感想を書きます。

野﨑まど作品は基本的に何を書いてもネタバレになりやすい傾向がある。

『タイタン』も例外ではなく、前情報ゼロで読んだ方が圧倒的な驚きを体感することができるので、ネタバレ無しの記事にしたいところだが、悲しいことにそれでは本作の魅力を書くことは(少なくとも私には)無理なので、途中から物語の内容に触れさせていただくが、ネタバレ要素を含むことは事前に記載する。

 

踏み込んだあらすじ

本作はハードSF=科学的な本格的なSFである。

2205年には21世紀中ごろに誕生したAI『タイタン』の恩恵を享受して、人間は働く必要がなくなっている。(人間が働くと効率が悪くなるため、AIにすべてを任せた方が生産性が高い状況....この辺はなかなか著者の皮肉が利いていて面白い)

そんな素晴らしい(泣)世の中で世界中に12基ある知能拠点の内の第二拠点、『コイオス』が原因不明の性能低下に陥ってしまい、心理学を仕事....ではなく趣味としている、内匠成果(人名で女性)がAIのカウンセリングをするという物語である。

踏み込んだあらすじと言いながらもこれ以上はネタバレになるので控えざるを得ない。

他の野﨑まど作品を読まれた方ならすでに認識されていることだろが、野﨑まどは並みの作家とはレベルの違う天才である。というか異次元過ぎる。SFやミステリーを読んでいると稀に「本当によくこんなの書けるよなぁ」と思うことがあるのだが、野まど作品では著者が驚かせることを狙ったと思われる作品ではもれなく、上記の感想を持つことになるのである。

そんな稀代の天才が仕事とは何かを追求するのだからとにかく面白く、好奇心を刺激されまくるのである。

 

史上最大規模のおねショタ

さて、本作はこれ以上ないほど壮大なおねショタ物語でもある(笑)おねショタとは何かを知らない一般人のために、念のためおねショタとは何かグーグル先生に聞いてみよう。

 

おねショタとは、主に漫画作品のジャンルにおいて、年上の女性と年端も行かない少年とのカップリングを指す俗語。 ショタコンに代表する少年性愛や、もしくは年の差カップルなどのカテゴリ内に属する細分化された派閥である。 英語圏のインターネットには、日本のおねショタに相当する「Ara Ara」というスラングがある。

wikipediaより引用

 

だそうである。ちなみにエロは一切ないのでご安心ください。

予想はつくだろうから書いてしまうと、人知を超えた知性を持つAIも、カウンセリングのためにいざ人格を発現させるとなると、子どもになってしまうのである。

つまり内匠成果というお姉さんが”コイオス”という子どものカウンセリングをしてしまう話であり、失敗すると残された11基のAIでは人類すべての生活をカバーすることができないため結果的に10億人以上の人類の命運がかかったおねショタということになるのである。野﨑まどってこんなのも書けるのか....と驚嘆しつつクオリティの高い対話にこれでもかというほど知的好奇心を刺激されるのだからたまらない。

この対話は本当によくできており、ファーストコンタクトSF的な要素も多いのでSF好きが熱くなることは確実だろう。

 

以下、ネタバレ注意

何から何までネタバレするわけではないが、どうしても書きたいことがあり物語の展開には大きく触れるので、これから読もうと思われる未読の方は注意していただきたい。ただしすぐには読む気のない方や、読もうか迷っていて少しくらいなら判断材料としてネタバレがあっても問題がないという方は、物語のミステリ部分には触れないので読んでもいいかもしれない。

 

超大型巨人!?

私は中盤以降の展開と超ド派手なシーンに歓喜のあまり震えてしまったのである。

というのもAI『タイタン』は人間の思想に則った思考をするために、ハードウェアは人間の”脳”の形が取られている。しかし人間の脳を人間以外の動物の体に搭載したとして、人間と同じように考えられるであろうか.....答えはもちろん「NO」である。

つまり脳の形をしたAIは人間の形をした骨格に搭載させられているのである。その骨格の大きさたるや全長1000メートル。『進撃の巨人』に出てきた超大型巨人(60m)も真っ青の超特大サイズの巨人なのである。

そんな超超超大型巨人がね....カウンセリングの結果「ルルルルルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」と唸って立ち上がってしまうんです。このシーンでもう私は脳内麻薬が出まくってぶるぶる震えてしまったのである。(あとにさらにすごいことが待っているとも知らずに)

 

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こいつの16倍強のデカさなんですぞ(泣)

超野﨑まど展開炸裂!!

全長1000メートルの巨人が立ち上がったことですでにビックリMAXなのですが、なんと12基の巨人の中でも最も後に創られた巨人『フェーベ』に会いに行くため、第二知能拠点の北海道から第十二知能拠点であるアメリカはシリコンバレーまで歩いて行ってしまうのです!これぞおねショタロードムービー!!

この旅路がなんとも言えずほっこりしてとても良いのですよ。野﨑まど作品は冒頭で何を書いてもネタバレになりうると書かせていただいたのだが、本作の最後に参考文献があり、そこには『地球の歩き方』のロシアからシベリア、アラスカ、そしてカナダが挙がっているのである(少しネタな気もする)。参考文献を読んでもネタバレになりうるのが野﨑まど作品である。

 

感激極まる

人知を超えた超知性を持つ『コイオス』と最後の巨人『フェーベ』ーちなみにこのAIはアラサーくらいの女性の人格であるーが出逢ってどんな対話をするのだろうか、こういった人知を超えたもの同士の対話といったテーマは野﨑まどの十八番と言っても良いようで、ハードSFとして完成度の高い『know』でも似たような状況があったのだが、『タイタン』ではどうなるのか。なんと”戦う”のである。

この二体の戦闘はすさまじく(まぁデカいのだから当然だが)、『進撃の巨人』でいうなら戦鎚の巨人の能力を持った超大型巨人の16倍デカい鎧の巨人VS進撃の巨人級に未来を見据えて戦鎚の巨人の能力を持った超大型巨人のよりも圧倒的にデカい女型の巨人の戦いということになる(じつはこれが書きたくてこの記事を書きました(笑))

もうこういうの本当に好きで、一人で宴を始めてしまうくらいには我を忘れて歓喜してしまったのです。もちろんこの戦いには極めて必然的な理由があるので、その理由については本編でご確認いただければ幸いである。

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まさにこんな感じ....野まど万歳!

 

野まど的ラスト

いろいろと激しいアクションシーンを経て、”仕事とは何か”と”コイオスの機能不全の理由”という二つのミステリーを解き明かした内匠成果&コイオスのおねショタコンビは、まさに天才野﨑まどでしか思いつかないようななるほど....と唸らせる結末を迎えるのである。本作『タイタン』についてはあまり他人のレビューを拝見していないのだが、個人的には素晴らしいラストだと思う。というかこれ以上の結末は考えられないように思う。

 

今日も働く、人類へ

「仕事に疲れちゃった」とか「仕事にやりがいを感じない」ということで悩んだり、悩み過ぎて鬱っぽい症状が現れている方には本気でおすすめしたい。

野﨑まどは天才なので、作中に登場するカウンセリングについても非常に研究されたうえで書かれているようで、上記のような症状の方には様々な気付きを与えてくれるように思うからである。

登場人物は非常に少なく、文体も読みやすいのでSFが苦手な方でも問題なく読めることは保証する。超おすすめ。

 

 

 

〇おすすめ記事

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恒川光太郎|作品一覧とおすすめランキング17選

独自のダークな異世界の創造主

恒川ワールドの根幹とも言える和製ダークファンタジーを始め、純ファンタジーやSF、伝奇小説など年々守備範囲を広げ、どの作品も納得のクオリティを誇っている。
そんなダークな異世界を書かせたら並ぶ者の無い天才作家・恒川光太郎をご紹介したい。
 

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この見た目からは想像できない幻想世界を生み出す

 

何だろう.....小説の天才はHUNTER×HUNTER的に才能に毛髪を捧げているのだろうか...という少々失礼な冗談はさておき、角川ホラー出身作家の中では貴志祐介と双璧をなす神なのである。
 

作品一覧

創造主・恒川大先生はデビュー以降概ね1年に1作は新作を上梓される極めて読者に優しい作家である。

作品のジャンルはSFや伝奇小説、ホラー要素のあるファンタジーがメインで、短編および中編、連作短編、長編をバランスよく発表されているため、ライトな読者層からコアな恒川信者まで幅広くフォローされている。

 

  1. 夜市|中編集(2005年)
    収録作品:夜市 / 風の古道
  2. 雷の季節の終わりに|長編(2006年)
  3. 秋の牢獄|短編集(2007年)
    収録作品:秋の牢獄 / 神家没落 / 幻は夜に成長する
  4. 草祭|連作短編集(2008年)
    収録作品:けものはら / 屋根猩猩 / くさのゆめがたり
    天化の宿 / 朝の霞町
  5. 南の子供が夜いくところ|連作短編集(2010年)
    収録作品:南の子供が夜いくところ / 紫焔樹の島
    十字路のピンクの廟 / 雲の眠る海 / 蛸漁師
    まどろみのティユルさん / 夜の果樹園
  6. 竜が最後に帰る場所|短編集(2010年)
    収録作品:風を放つ / 迷走のオルネラ / 夜行の冬
    鸚鵡幻想曲 / ゴロンド
  7. 金色の獣、彼方に向かう|連作短編集(2011年)
    【改題】異神千夜
    収録作品:異神千夜 / 風天孔参り / 森の神、夢に還る
    金色の獣、彼方に向かう
  8. 私はフーイー 沖縄怪談短篇集(2012年)
    【改題】月夜の島渡り
    収録作品:弥勒節 / クームン / ニョラ穴 / 夜のパーラー
    幻灯電車 / 月夜の夢の、帰り道 / 私はフーイー
  9. 金色機械|長編(2013年)
  10. スタープレイヤー|長編(2014年)
  11. ヘブンメイカー スタープレイヤーⅡ|長編(2015年)
  12. 無貌の神 |短編集(2017年)
    収録作品:無貌の神  / 青天狗の乱
    死神と旅する女 / 十二月の悪魔
    廃墟団地の風人 / カイムルとラートリー
  13. 滅びの園(2018年)|長編
  14. 白昼夢の森の少女|短編集(2019年)
    収録作品:古入道きたりて / 焼け野原コンティニュー
    白昼夢の森の少女 / 銀の船 / 海辺の別荘で
    オレンジボール / 傀儡の路地
    平成最後のおとしあな / 布団窟 / 夕闇地蔵
  15. 真夜中のたずねびと|(連作)短編集(2020年)
    収録作品:ずっと昔、あなたと二人で / 母の肖像
    やがて夕暮れが夜に / さまよえる絵描きが、森へ / 真夜中の秘密
  16. 化物園|(連作)短編集(2022年)

    収録作品:猫どろぼう猫 / 窮鼠の旅 / 十字路の蛇
    風のない夕暮れ、狐たちと / 胡乱の山犬
    日陰の鳥 / 音楽の子供たち

  17. 箱庭の巡礼者たち(2022年)

 

作品ランキング

恒川作品は漏れなく面白いので既刊作品の大半をランクインさせてしまった。

したがって本ランキングで順位が下の方にある作品でも極めてクオリティは高く、素晴らしい作品なので安心して手に取ってほしい。

単純にエンタメ要素の強いSFやファンタジーが好きな私個人のランキングである。

なお4~1位に入っている作品は、いずれも我が読書人生の中でも最高峰の作品が揃っているため、死ぬほどおすすめしたいのだが、激しく睡眠時間を奪いまくる徹夜小説なのでくれぐれも読む際は注意してほしい。

 

17位  草祭(2008年)

 

たとえば、苔むして古びた水路の先、住宅街にひしめく路地のつきあたり。理由も分らずたどりつく、この世界のひとつ奥にある美しい町“美奥”。母親から無理心中を強いられた少年、いじめの標的にされた少女、壮絶な結婚生活の終焉をむかえた女…。ふとした瞬間迷い込み、その土地に染みこんだ深い因果に触れた者だけが知る、生きる不思議、死ぬ不思議。神妙な命の流転を描く、圧倒的傑作。

 

恒川作品の中でもある意味『夜市』以上に恒川ワールド全開な作風となっている。

そのため異世界に浸りたいような方にはこれ以上ない傑作だと思うが、文学的なことを著者が意識したのかなぁと思うところがあり、娯楽作品としては他の作品に一歩譲るように私は感じた。

たぶん『草祭』をこの順位にする恒川ファンは私だけのような気がするが、一般的には恒川作品の中でも特に人気の高い作品で、架空の街”美奥”に魅せられた読者は、作品の中に取り込まれてしまうであろう。

 

 

16位  真夜中のたずねびと(2020年)

 

次々と語られる、闇に遭遇した者たちの怪異譚。ゲストハウスでほんの一時関わっただけの男から送られてくる、罪の告白。その内容は驚くべきもので…。(「さまよえる絵描きが、森へ」)。弟が殺人事件を起こし、一家は離散。隠れ住む姉をつけ狙う悪意は、一体、誰のものなのか。(「やがて夕暮れが夜に」)。全五篇。

 

フツーにめちゃくちゃ面白く、一気読み確定だがあえてこの順位。

というのも本作は恒川作品史上、最も異世界感の希薄な作品で、どちらかというと何かしらの怪異が関わるサスペンスといった作品だからである。

読みやすく面白いものの、恒川作品初心者には作風からしてあまりおすすめできないが、逆に恒川作品をある程度読まれた方には、著者の可能性を知るといった意味でおすすめしておきたい。

個々の物語で登場人物がゆる~くリンクしているので、少しだけ連絡短編の要素があるが、基本的にはサスペンスな短編集である。

 

 

15位  月夜の島渡り(2012年)

 

鳴り響く胡弓の音色は死者を、ヨマブリを、呼び寄せる―。願いを叶えてくれる魔物の隠れ家に忍び込む子供たち。人を殺めた男が遭遇した、無人島の洞窟に潜む謎の軟体動物。小さなパーラーで働く不気味な女たち。深夜に走るお化け電車と女の人生。集落の祭りの夜に現れる予言者。転生を繰り返す女が垣間見た数奇な琉球の歴史。美しい海と島々を擁する沖縄が、しだいに“異界”へと変容してゆく。7つの奇妙な短篇を収録。

 

『私はフーイー 沖縄怪談短篇集』の改題である。

微妙に異世界かした沖縄を舞台とした短編集で、文句なしにクソ面白いが他の作品がさらに神過ぎるのであえてこの順位とした。

いちおう沖縄が関わる物語ではあるものの、ふつうに異世界恒川ワールドが堪能できる恒川成分が詰まった作品集となっている。

意外にも俗世的なサスペンス寄りの作品もあり、特に沖縄×サスペンスな「夜のパーラー」はかなり好みだったりする。

 

 

14位  無貌の神 (2018年)

 

赤い橋の向こう、世界から見捨てられたような場所に私は迷い込んだ。そこには陰気な住人たちと、時に人を癒し、時に人を喰う顔のない神がいた。神の屍を喰った者は不死になるかわりに、もとの世界へと繋がる赤い橋が見えなくなる。誘惑に負けて屍を口にした私はこの地に囚われ、幸福な不死を生きることになるが…。現実であり異界であり、過去であり未来でもある。すべての境界を飛び越える、大人のための暗黒童話全6篇!

 

綱川成分濃いめな6作の物語からなる短編集である。

前恒川作品の中でも恒川度の高さでは5本の指に入るほど濃厚さで、割とラノベ度も高く読みやすく面白いうえに、バラエティも豊富なので読書慣れしていない方でも楽しめると思う。

いかにも恒川っぽい表題作に、時代小説風の「青天狗の乱」、個人的には一番好きなラノベファンタジー「死神と旅する女」、恒川式ファンタジーの「カイムルとラートリー」と傑作が多い。

 

 

13位  秋の牢獄(2007年)

 

十一月七日水曜日。女子大生の藍は秋のその一日を何度も繰り返している。何をしても、どこに行っても、朝になれば全てがリセットされ、再び十一月七日が始まる。悪夢のような日々の中、藍は自分と同じ「リプレイヤー」の隆一に出会うが…。世界は確実に変質した。この繰り返しに終わりは来るのか。表題作他二編を収録。名作『夜市』の著者が新たに紡ぐ、圧倒的に美しく切なく恐ろしい物語。

 

恒川作品で初めて濃厚なSF要素を見せる表題作を含む3作の短編集である。

このランキングでは10位となったが、表題作『秋の牢獄』の完成度は素晴らしく、恒川作品全短編の中でもトップクラスの傑作だと思う。

2話目の恒川的な設定が際立つ人間の闇を描いたような「神家没落」や、3話目の不思議な物語から不穏で不気味なラストに展開していく「幻は夜に成長する」と『夜市』を読んで恒川作品をもっと読んでみたいとなった方でも納得されるであろう作品集になっている。

 

 

12位  南の子供が夜いくところ(2010年)

 

からくも一家心中の運命から逃れた少年・タカシ。辿りついた南の島は、不思議で満ちあふれていた。野原で半分植物のような姿になってまどろみつづける元海賊。果実のような頭部を持つ人間が住む町。十字路にたつピンクの廟に祀られた魔神に、呪われた少年。魔法が当たり前に存在する土地でタカシが目にしたものは―。時間と空間を軽々と飛び越え、変幻自在の文体で語られる色鮮やかな悪夢の世界。

 

本作を発表するまでの作品は和風ホラーファンタジーな作風だったが、『南の子供が夜いくところ』は異国情緒あふれる異世界が舞台の連作短編集で純ファンタジーな作品となっている。

どの物語も短編とは思えない重厚さがあり「紫焔樹の島」や「雲の眠る海」「まどろみのティユルさん」あたりはファンタジー全開で没入感がすごい.....のだが最後の話「夜の果樹園」のインパクトが強烈過ぎて他の物語を吹っ飛ばしてしまうほどである(笑)

本の冒頭には異世界の地図が描かれるなど、恒川作品に冒険ファンタジーを求める方には強くおすすめできる。

 

 

11位  異神千夜(2011年)

 

鎌倉の山中に庵を結ぶ僧に、謎めいた旅の男が語り聞かせる響くべき来歴―数奇な運命により、日本人でありながら蒙古軍の間諜として博多に潜入した仁風。潜入部隊の中には美しい巫女・鈴華がおり、かたわらに金色の獣を連れていた。やがて追われる身となった一行の中で、先行きを見通す巫女の存在感は増し、いつしか皆が鈴華の指示に従うようになるが―。

 

『金色の獣、彼方に向かう』の改題版で内容は特に変わりはない。

個人的には旧表題作よりも「異神千夜」の方がはるかに素晴らしい作品だと思うので、装丁も含めて角川の改題版はナイスプレーである。

本作品集は鼬(イタチ)のような金色の獣が共通して登場する、ゆるい繋がりのある連作短編集である。

中でも鎌倉時代元寇を舞台とした中編「異神千夜」は恒川光太郎初の伝奇小説であり、ホラーと時代小説がうまく融合した素晴らしい作品に仕上がっている。

後に続く3作品も恒川度の高いバラエティ豊かな作品が揃っていて、2話目の「風天孔参り」はこれぞ恒川ワールドといった趣のある話である。

 

 

10位  雷の季節の終わりに(2006年)

 

雷の季節に起こることは、誰にもわかりはしない―。地図にも載っていない隠れ里「穏」で暮らす少年・賢也には、ある秘密があった―。異界の渡り鳥、外界との境界を守る闇番、不死身の怪物・トバムネキなどが跋扈する壮大で叙情的な世界観と、静謐で透明感のある筆致で、読者を“ここではないどこか”へ連れ去る鬼才・恒川光太郎、入魂の長編ホラーファンタジー。文庫化にあたり新たに1章を加筆した完全版。

 

恒川光太郎初の長編作品であり、他の長編作品が全体的に恒川ワールドの中では異色な雰囲気を放っているため、長編の中では最も恒川らしい和風ダークファンタジーな世界が描かれている。

地図に載っていない隠れ里””という異世界の存在だけでもワクワクしてくるが、他にも様々な魅力的な要素があり、ファンタジーとホラーが見事に調和して独自の世界観に否応なしにひきづり込まれることになる。

恒川ワールド全開な長編作品を読みたいなら『雷の季節の終わりに』で決まりである。

 

 

9位  竜が最後に帰る場所(2010年)

 

魔術のような、奇跡のような。稀有な才能が描く、世界の彼方――今、信じている全ては嘘っぱちなのかもしれない。しんと静まった真夜中を旅する怪しい集団。降りしきる雪の中、その集団に加わったぼくは、過去と現在を取り換えることになった――「夜行の冬」。古く湿った漁村から大都市の片隅、古代の南の島へと予想外の展開を繰り広げながら飛翔する五つの物語。日常と幻想の境界を往還し続ける鬼才による最重要短編集。

 

短編集の中では最高の完成度を誇る作品集である。

5つの短編は特に繋がりがある訳ではないのだが、俗世的な物語から段々話が異世界よりになっていくコンセプトなのが面白い。

またいずれの短編もタイプがバラバラなので、様々な恒川ワールドが楽しめるという点で、初めて恒川作品を読まれる方には『夜市』と並んでおすすめできる。

どの短編もやたらハイクオリティだが、恒川ワールド全開といった意味で3話目の「夜行の冬」と4話目の「鸚鵡幻想曲」特に素晴らしい。

中でも「夜行の冬」はホラー/SF要素を含むダークファンタジーの超傑作なので、個人的に数ある短編の中でも1,2を争う傑作だと思っている。

 

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8位  夜市(2005年)

 

妖怪たちが様々な品物を売る不思議な市場「夜市」。ここでは望むものが何でも手に入る。小学生の時に夜市に迷い込んだ裕司は、自分の弟と引き換えに「野球の才能」を買った。野球部のヒーローとして成長した裕司だったが、弟を売ったことに罪悪感を抱き続けてきた。そして今夜、弟を買い戻すため、裕司は再び夜市を訪れた―。奇跡的な美しさに満ちた感動のエンディング!魂を揺さぶる、日本ホラー小説大賞受賞作。

 

言わずと知れた有名かつ人気な天才のデビュー作である。

幻想的なダークファンタジーの世界観が濃厚な表題作の他、表題作以上の傑作と言っても過言ではない恒川ワールド全開の和風ホラーファンタジーの「風の古道」が収録されている。

日本ホラー小説大賞受賞作だがさほど怖い物語ではなく、どちらの収録作もジブリ作品、特に『千と千尋の神隠し』のような雰囲気が濃厚であり、直木賞にもノミネートされたことから万人におすすめできる作品となっている。

特に「風の古道」は物語への没入感がすさまじく、読了後は異世界を長く旅してきたような余韻に浸ることができるだろう。

 

 

7位  化物園(2022年)

 

「人間はおもしろい。だが、飼ってはならぬ」スリルに憑かれ空き巣を繰り返す羽矢子。だが侵入した家の猫に引っかかれ、逃げた先で奇妙な老人に出会い……「猫どろぼう猫」自尊心が高く現実に向き合えない王司。金目的で父の死を隠蔽した後、家にやってきたのは……「窮鼠の旅」〈お手伝いさん〉として田舎の館に住み込むことになった、たえ。そこでの生活は優雅だが、どこか淫靡で……「風のない夕暮れ、狐たちと」その他「十字路の蛇」「胡乱の山犬」「日陰の鳥」「音楽の子供たち」全七篇。恒川光太郎が描く、《化物》たちの饗宴を、ご覧あれ。

 

 

6位  白昼夢の森の少女(2019年)

 

異才が10年の間に書き紡いだ、危うい魅力に満ちた10の白昼夢。人間の身体を侵食していく植物が町を覆い尽くしたその先とは(「白昼夢の森の少女」)。巨大な船に乗り込んだ者は、歳をとらず、時空を超えて永遠に旅をするという(「銀の船」)。この作家の想像力に限界は無い。恐怖と歓喜、自由と哀切―小説の魅力が詰まった傑作短編集。

 

ショートショート含む10作からなる短編集で、これまで未収録だった書かれた時期もバラバラな作品の寄せ集めなので、クオリティは大丈夫なのかと疑問を持たれるかもしれないが、心配ご無用な超傑作のバーゲンセールである。

2008年から2018年というデビュー時から本書の出版時までの単行本未収録短編集となっており、恒川光太郎のあらゆる属性を短いページ数で堪能できるという素晴らしい作品集だ。

『夜市』を筆頭とするThe恒川な作品はやや少なめだが、和を感じる恒川ワールドから純ファンタジー、SF、実話怪談まであらゆる恒川作品を網羅しており、いずれの話も超読みやすいという点から、『夜市』や『竜が最後に帰る場所』と並んで最も恒川作品初読みな方にもおすすめできる内容となっている。

個人的にはパニック終末SF系の「焼け野原コンティニュー」と不思議SF風ファンタジーの「白昼夢の森の少女」、純ファンタジーな「銀の船」や世にも奇妙な物語的なサスペンスの「傀儡の路地」、笑えない不思議ワールドな「平成最後のおとしあな」がたまらなく好きだ。というか全部好き。

 

 

5位  スタープレイヤー(2014年)

 

鬼才・恒川光太郎が描く、いまだかつてない創世記!
路上のくじ引きで一等賞を当て、異世界に飛ばされた斉藤夕月(34歳・無職)。そこで10の願いが叶えられる「スタープレイヤー」に選ばれ、使途を考えるうち、夕月は自らの暗い欲望や、人の抱える祈りの深さや業を目の当たりにする。折しも、マキオと名乗るスタープレイヤーの男が訪ねてきて、国家民族間の思惑や争いに否応なく巻き込まれていく。光と闇、生と死、善と悪、美と醜――無敵の力を手に、比類なき冒険が幕を開ける!鬼才・恒川光太郎RPG的興奮と神話世界を融合させ、異世界ファンタジーの地図を塗り替える、未曾有の創世記!

 

恒川作品らしいようでいて、実は異色作と言える王道中の王道な異世界ファンタジーである。(主人公は女性だが)俺TUEEEE系のテンプレートを踏襲したかのようなありがちな物語なのに、力量の違いを見せつけるかのような完成度を誇っている。

突如異世界に飛ばされた主人公が10の願い事をどのように使っていくのかという楽しみの他、Theファンタジーな民族間の戦争や謎の超強い人(?)と読みどころは満載であり、しかもものすごく読みやすいので、アニメ、ゲーム好きな人であれば普段本を読まないような人でも100%楽しめることを保証できる素晴らしい作品である。

ちなみに恒川光太郎は何気に”クソ野郎”の描写がやけに巧いという特長があるのだが、その妙な才能は本作でも健在であり、とある理由で異世界召喚される男のクソっぷりの描写がすごいです(笑)

 

 

4位  金色機械(2013年)

 

時は江戸。ある大遊廓の創業者・熊悟朗は、人が抱く殺意の有無を見抜くことができた。ある日熊悟朗は手で触れるだけで生物を殺せるという女性・遙香と出会う。謎の存在「金色様」に導かれてやってきたという遙香が熊悟朗に願ったこととは―?壮大なスケールで人間の善悪を問う、著者新境地の江戸ファンタジー

 

圧倒的な異才を放つ謎の超強い存在(ロボット?)”金色様”を始めとして、触れるだけで生物を殺せるという女や人が抱く殺意を見抜くという男がヤバいくらい面白い物語を生み出している超傑作時代/伝奇小説である。

面白い小説を受賞させるという点について、個人的に最も信頼できる歴史ある由緒正しい日本推理作家協会賞の受賞作だけあって、”金色様”の正体といった超気になる謎を含むミステリ要素がとにかく読む手を止めさせない。

舞台は戦国時代から江戸時代の中期にまたがる時代設定だというのに、”金色様”はずばり『スターウォーズ』のC-3POがダースベイダーのような戦闘力を持つという違和感全開のキャラであり、言動の一つ一つがやたら興味深いのが特徴である。

 

 

3位  箱庭の巡礼者たち(2022年)

 

神々の落としものが、ぼくらの世界を変えていく。ある夜、少年は優しい吸血鬼を連れ、竜が棲む王国を出た。祖母の遺志を継ぎ、この世界と繋がる無数の別世界を冒険するために。時空を超えて旅する彼らが出会った不思議な道具「時を跳ぶ時計」、「自我をもつ有機ロボット」、そして「不死の妙薬」。人智を超えた異能(ギフト)がもたらすのは夢のような幸福か、それとも忘れられない痛みか。六つの世界の物語が一つに繋がる一大幻想奇譚。

 

創造主・恒川光太郎の作家としての技巧が存分に発揮された作品。

ファンタジーやSF要素がとても強い作品で、ゆるい結びつきを持ちながらも個々で独立した6つの物語を、5つの断片の物語で結びつけたことによって、短編集でありながらも長編を超えるような圧倒的な読後感に浸ることができる。

物語の終章を読んだ後に1話目から振り返ってみると、時間も空間も超越した壮大な旅を終えたようなカタルシスが待っている。

 

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2位  ヘブンメイカー(2015年)

 

“10の願い”を叶える力を得た者が思い描く理想郷とは――
気が付くと殺風景な部屋にいた高校二年生の鐘松孝平。彼は横須賀にむかってバイクを飛ばしている最中に、トラックに幅寄せされ……その後の記憶はなかった。建物の外には他にも多くの人々がおり、それぞれ別の時代と場所から、「死者の町」と名付けられたこの地にたどり着いたという。彼らは探検隊を結成し、町の外に足を踏み出す。一方、片思いの相手を亡くし自暴自棄になった大学生の佐伯逸輝は、藤沢市の砂浜を歩いていたところ奇妙な男に勧められクジを引くと――
いつのまにか見知らぬ地に立ち、“10の願い"を叶えることができるスターボードという板を手渡された。佐伯は己の理想の世界を思い描き、異世界を駆け巡ってゆく……。興奮と感動をよぶ、渾身のファンタジー長編!

 

前作『スタープレイヤー』の続編で、世界観を共有し前作の登場人物も一部姿を見せるが、時系列的には『ヘブンメイカー』の方が先で話が独立しているため、前作を読んでいなくても問題なく楽しめるようになっている。

前作からしラノベやアニメでおなじみの王道異世界ファンタジーの超絶傑作であったが、この『ヘブンメイカー』は同じく王道の異世界ファンタジーでありながら、より著者の思想が深く投影されており、世界観はより深淵に、スケールはさらに大きく、おまけにミステリー要素まであるため、『スタープレイヤー』を凌駕する神傑作となっている。

600ページ近い大作ながら、一気読みは避けられないのでくれぐれも注意していただきたい。

 

 

 

1位  滅びの園(2018年)

 

わたしの絶望は、誰かの希望。ある日、上空に現れた異次元の存在、<未知なるもの>。それに呼応して、白く有害な不定形生物<プーニー>が出現、無尽蔵に増殖して地球を呑み込もうとする。少女、相川聖子は、着実に滅亡へと近づく世界を見つめながら、特異体質を活かして人命救助を続けていた。だが、最大規模の危機に直面し、人々を救うため、最後の賭けに出ることを決意する。世界の終わりを巡り、いくつもの思いが交錯する。壮大で美しい幻想群像劇。

 

SFとファンタジーを強引にくっつけてホラー的な不気味さを添加したにも関わらず、何の違和感もなく一気読みさせる恒川光太郎の集大成である。

バリバリのSFなのに恒川作品特有のラノベ的なリーダビリティにより、読みずらさはまるでなく、読み始めたが最後、何もかも放棄してラストまで読むのをやめることはできなくなる神傑作である。

『滅びの園』を読んで私が思ったのは「恒川先生、ありがとうございました」ある。人生で相当な数の小説を読んできたが、こんな気持ちになったのはまだ10作ほどしかない。

バリバリのSFとゴリゴリのファンタジーを完璧に融合した超傑作をぜひ体験してみてほしい。

 

〇個別紹介記事

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異世界マスターはまだまだこれから

この記事の初稿は2021年10月で、創造主・恒川はまだギリギリ40代のアラフィフなので、これからも超傑作を上梓されることが期待される。

じわじわ作品の守備範囲を広げ、『金色機械』以降は限界突破したかのような徹夜本を連発しているので、私の中では最も新作が待ち遠しい作家である。

『スタープレイヤー』の3作目の続編とか『滅びの園』みたいなSF×ファンタジーが発表されたらきっと嬉し泣きしてしまいそう。

この記事を読んでくださった方はぜひ、気になった恒川作品を読んでいただき、一緒に新作の発表を祈ろうではありませんか。

 

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『機忍兵零牙』月村了衛|現世に蘇りし異世界忍法帖

これはマジで正気の沙汰じゃねぇ(笑)

 

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これは魔界転生されし山田風太郎なのか

 

作品紹介

 月村了衛による『機忍兵零牙』は2010年に出版された作品である。
文庫版(改訂新装版)は350ページ程度とほどよい長さの中に、著者が最も好きな作家として挙げられている山田風太郎忍法帖フォーマットをベースに、これでもかというほど中二病成分を満載しまくったとんでもない作品となっている。

風忍法帖の基本フォーマットである多人数のチームプレイを現代版にアップデートして、SFファンタジーの世界観で語っているのだから、好きな人が読んだら興奮し過ぎて悶死してしまう可能性さえある。(ホントです)

具体的には北斗の拳や男塾はもちろんのこと、ジョジョHUNTER×HUNTERが好きな方であればたまらないだろう。

そんな超絶激アツな本作を気合を入れて紹介したい。

 

 以下、あらすじの引用

凡そこの世に非ず、別の世界より来たる者を忍びと云う―数多の次元世界を制する支配者集団“無限王朝”に抗い続ける伝説の忍び“光牙”。その一人、零牙に与えられた任務は亡国の姫と幼君の護衛であった。亡命の旅路を急ぐ一行の行手に、無限王朝麾下の骸魔忍群が立ち塞がる。激突する機忍法、生き残るは光牙か骸魔か。幻惑的傑作アクションが新たなる世に徹底加筆の“新装版”で甦り、絶望に塗り込められた夜を裂く!

あらすじからしてヤバいでしょ(笑)

 

 

 

魅力を語るため支障のない範囲でネタバレいたす。

 『機忍兵零牙』はもはやエンタメ純文学である(笑)

したがって多少....というかたとえ全部ネタバレされたとしても、セリフや文章そのものが味わい深く面白いので、作品の魅力が軽減されることはないのである。

というか、「絶対こう来るよなぁ.....ほら、やっぱり!来たァー!」的なシーンの寄せ集めの物語なので、ネタバレなどそもそも無効なのだ。

そこで伏せておくべきこと以外は、好き放題書かせていただき申す。

 

山田風太郎リスペクトがヤバし

本作を読まれる方はおそらく月村氏の代表作『機龍警察シリーズ』を読んでファンになり、””の文字が共通している本書を手に取ったパターンが多いかと思われる。そのパターンの場合、人によっては肩透かしを喰ってしまう可能性があるのはご愛嬌。

しかし山田風太郎マニア(や少女革命ウテナの脚本家と知っている方)が読んだら発狂するほど魅力的な作品である。

 

「お召しにより、零牙参上」

「......光牙者か」(=甲賀者か)

「如何にも」

 

拙者は山田風太郎マニアの男塾生なので、上記のやり取りを見ただけで様々な脳内麻薬が爆裂してしまった。

どうだろうか。SFファンタジー的な異世界でこのやり取りである。これで「はおッ」となった方は、この記事の続きを読むことなく今すぐに『機忍兵零牙』を読むべきだろう。

 

ネーミングセンスが神(アホ)

固有名詞や人物名がホントにヤバいんDEATH!!

以下に挙げてみるが、書いてて恥じらうほどである。

  • 正義のヒーロー的な味方側の忍者=光牙甲賀じゃんww)
  • 悪役側の忍者軍団=骸魔(ウヒャーーwww)
  • 数多の次元世界を制する支配者集団=無限王朝(ぶおッ)
  • 骸魔筆頭の忍=骸魔六機忍(もうダメ.....)
  • 骸魔六機忍の頭領”骸魔死皇丸”(ドーン........)

 

この時点ですでに私の自我は崩壊していたのだが、山田風太郎忍法帖の如き骸魔六機忍の登場シーンで完全に逝ってしまった。一人ずつ名乗ってイク。

  • (燦然寺鏡弥)さんぜんじきょうや
  • (黒薙怜門)くろなぎれいもん
  • 十六夜鞠緒)いざよいまりお
  • (濡髪絵蓮)ぬれがみえれん
  • (帷虹之介)とばりにじのすけ
  • (魔妖女)まようじょ

これはさすがにもう耐えられません.....しかもキャラによっては名前が使用する忍法のネタバレになっているというオチ。

 

忍法が中二過ぎる

まずは普通に忍びはビームを発射します(笑)....ちなみに””を冠しているが、別にサイボーグというわけではなく、生身の人間である。

で、使う忍法を適当に挙げてみると以下の通りである。

 

  • 亜空間を操る能力=ジョジョならヴァニラ・アイスが近いか
  • 刀に雷を落とし帯電させて斬る!
  • 触れると死ぬ謎の光の玉。しかも追尾する。
  • 超加速=ジョジョでいうならザ・ワールド
  • 次元を無視して弓で射る!
  • 触れると蒸発する極熱光のオーロラ
  • 鏡の世界から攻撃する=ジョジョでいうJ・ガイルやイルーゾォ
  • ビームを反射させて狙撃!=ジョジョでいうホルホース+ミスタ
  • 召喚獣+加速

 

他にもあるけどなんかもうこれ以上はよく分からん(笑)

まぁこれで中二病能力のバーゲンセールということは分かっていただけるであろうが、月村了衛氏はこのような能力を用いて、男塾的激アツな戦闘を築き上げている。

もう読んでてニヤニヤが止まらず、電車で読んでしまったのなら、泣ける小説やエロ小説よりも大変なことになるだろう。

 

無駄に百合

私的にはさほど感じなかったが、早川書房は本作を百合SF作品として紹介している。百合とは女と女である。

たしかに言われてみればそんなシーンも結構あるし、そこそこ気合を入れて書かれたのかもしれない。

私自身が(大好きだけど)あまり百合作品に詳しくないので何とも評価しがたいが、確かになかなか百合ってるようには思える。なので百合好きにもおすすめできると言っておこう。

 

期待を裏切らない

もはや読んでる時に書きたいと思っていたことはそこそこ書いたので(まったく内容に触れてないww)、一つだけ言っておくとしよう。

月村了衛と『機忍兵零牙』は読者を決して裏切らないということだ。何というか”お約束”という不文律を見事に繰り返しまくっているのである。

様々なシーンにおいて「こんな感じになったらマジで泣いちゃう」といった内容が、狙いすましたかのように「こんな感じ」なってしまうのである。

鳥肌が立つほどの名言/名シーン(迷言/迷シーン)を心行くまで堪能してほしい。

 

これを超える中二はない

ちょっと言い過ぎかもしれないが、これほど強烈な中二病に罹患している物語を私は知らない。ラノベやアニメには中二病要素満点な話はいくらでもあるのかもしれないが、そういったものは所詮アマチュアである。

『機忍兵零牙』の中二病は完全に天井を突き破って異次元に到達しているので、異能バトルもののSFやファンタジーが好きな方は必ず読もう。やたら美しい文章に感激すること間違いなしであろう。

 

 

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『竜が最後に帰る場所』恒川光太郎|人の世界から人外の世界へ

これぞ恒川ワールドの布教本

 

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おしとやかな装丁だが内容は強烈

 

作品紹介

 恒川光太郎による『竜が最後に帰る場所』は2010年に出版された作品である。
文庫版はちょうど300ページ程度の長さにバラエティ豊富な5作の短編が収録されている。

”読むにつれて、だんだん人間から離れていきます”という売り文句の通り、1話目から読み進めるごとにだんだん現実感が薄れていく物語に移り変わっていくので、じわじわと恒川ワールドに没入していく仕様になっている。どの話もだいぶ雰囲気が異なっていて、現代ホラー風な話やサイコサスペンスな話もあれば、ホラーSFな感じの話や発想がぶっ飛んだ作品、ファンタジーのような人外の物語と幅広く恒川光太郎の作風をカバーしている。

とても読みやすいので、初めて恒川作品を読む方にも自信を持っておすすめできる優れた作品集である。

 

 以下、あらすじの引用

魔術のような、奇跡のような。稀有な才能が描く、世界の彼方――今、信じている全ては嘘っぱちなのかもしれない。

しんと静まった真夜中を旅する怪しい集団。降りしきる雪の中、その集団に加わったぼくは、過去と現在を取り換えることになった――「夜行の冬」。古く湿った漁村から大都市の片隅、古代の南の島へと予想外の展開を繰り広げながら飛翔する五つの物語。日常と幻想の境界を往還し続ける鬼才による最重要短編集。

 

 

純粋にハイレベルな短編集

恒川作品はずばりハズレ無しである。

なのでどの作品を先に読んでも良い世界観に浸ることができるのだが、恒川光太郎の才能や守備範囲を幅広くカバーしているのが『竜が最後に帰る場所』である。

多くの人は『夜市』を1冊目に読んで、「あー....良かったなぁ.....」となって満足してしまうものだと思うのだが、『夜市』は超傑作ではあるものの、恒川作品の魅力を余すことなく伝えているかというとそうは言えない。

『竜が最後に帰る場所』は恒川作品の魅力が凝縮されているだけでなく、もっとこの人の作品を読みたいと猛烈に思わせる要素が満載である。そのため、初めて恒川作品を読む人や1~2冊読んで次に何を読もうか迷った方に超おすすめである。

それでは個々の作品の感想を挙げていく。

 

「風を放つ」

かなり短めで、さらっと読めて妙に印象に残る話である。

バイト先の社員との繋がりから、ギャルっぽいようでいてやたらストーカー体質な正体不明なとの交流が描かれる。ホラーではないのだろうがホラーのような後味を残るのが面白い。

恒川作品が得意とする異界感は乏しいのだが、人を殺す力を持つ精霊を封じ込めた小瓶という妖しげな小道具が恒川ワールドの幕開けにふさわしい。

 

「迷走のオルネラ」

冒頭で謎のヒーローが悪い奴を魔法で消し去るところから物語は幕を開ける。

しかし話は”マスター・ヴラフの手記”なる、外道中年男によって少年時代をめちゃくちゃにされた可哀そうな少年の話に移り変わり「この話は一体どんな展開になるんだろう?」などと考え冒頭のシーンを忘れたあたりで話は怪しげな方向に展開していく。

現実的な物語なので恒川ワール度は低いが、ミステリ的な伏線回収のテクニックが発揮されており、最後まで読み終えると冒頭のヒーローの話に戻ること間違いなしである。

ちなみにこの話に登場するクソな中年男の最悪っぷりがなかなか強烈で、主人公の彼女もかなりこじらせていて、こういうブッ飛んだキャラの描写がうまいのも著者の魅力かもしれない。

 

「夜行の冬」

個人的に『竜が最後に帰る場所』の中でベストの作品。

3話目にして一気に恒川ワールド全開となり、和風ホラーのような怖めな世界観に、パラレルワールド設定が組み込まれていて、これぞ恒川な作品となっている。

発想が神。世界観が闇。物語が鬼。と無敵な内容で、この作品を読むためだけに本短編集を購入しても元が取れるくらいである。

講談社のうたい文句にも「初めて恒川作品を読む人はまずはコレから」的なことが書かれていたので、著者的にも出版社的にも推しなのだろう。超おすすめ。

 

「鸚鵡幻想曲」

「夜行の冬」に続き、またしてもThe 恒川な作品である。

この話は著者自体が行き当たりばったりで書いたらしく、話の展開が斜め上過ぎて終始意表を突かれまくる仕様になっている。それでいてラストの素晴らしさよ....。

偽装集合体”という概念が本作のキーワードで、思わず本当にある用語なのかと思ってググってみたら、フィクションだったというオチ。この意味不明な概念を考案しただけで著者の奇想を崇めたくなるのだが、この設定をこれでもかというくらい巧みに利用して結末に向かうのは天才としか言いようがない。

これも唯一無二のすごい話なので超おすすめ。

 

「ゴロンド」

タイトルは異なるが、本作に”竜が最後に帰る場所”という言葉が登場することから、表題作である。竜(のような謎の生き物)が主人公で、その生き物目線で物語が進んでいく。まるっきりファンタジーな作品だ。

作風の割に、他の作品に比べてエンターテイメント要素が少なめに感じるが、どうも著者が生き物ドキュメンタリーに影響を受けて書いたらしい。人間以外(または人間が人間以外のものになった)の視点の描写がやたらうまいのも恒川作品の魅力だと思う。

 

面白おかしく書けなかった

このブログでは超面白かった作品の他、ぜひとも人に布教したい変態作品を紹介しているのだが、『竜が最後に帰る場所』は当然ネタ枠ではなく前者になる。

この記事がクソつまらなくなってしまったことは反省すべき点ではあるが、私が紹介する記事の内容がつまらなければつまらないほどその作品は正統派な面白い作品なのである。真面目に面白い本作を多くの人におすすめしたい。

 

 

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