神本を求めて

小説を読みまくって面白い本を見つけたら紹介するブログ

『星を継ぐもの 三部作』ジェイムズ・P・ホーガン|ハードSF×本格ミステリの至高

最高のハードSFにして超スケールの本格ミステリ

 

創元SF文庫の顔

作品一覧

『星を継ぐもの』は三部作で三作目の『巨人たちの星』で物語大団円を迎えるが、四作目以降も続きがある。すべては翻訳されていないが参考までに記載しておく。

作品紹介

『星を継ぐもの』は三部作であり、最も有名な第一部は文庫版で300ページ程度のコンパクトな尺(といっても創元SFなので文字数多め)の中で、月面で発見された真紅の宇宙服を着た人間らしき生物の遺体。その遺体は5万年前のものだった。というまさに宇宙最強の謎が提示される。そんな超魅力的な謎を各方面の科学者たちがあーでもない、こーでもないと揉めながら解き明かしていくのである。壮大なSF小説なのにノリはまさに安楽椅子探偵推理小説のようでもある。

続く第二部の『ガニメデの優しい巨人』は木星の衛星ガニメデで発見された2500万年前の宇宙船を調査していると、なんとその宇宙船を造った異星人に遭遇するというファーストコンタクト作品である。こちらも300ページそこそこの尺で第一部に勝るとも劣らない謎解きがある。

そして最後の『巨人たちの星』ではこれまでの2作品とはガラッと作風が異なり、宇宙スケールのスパイ/サスペンス小説のような趣が出てきて、ボリュームも500ページ近い大作となり、これまでの伏線をすべて回収して盛大なフィナーレを迎えるのである。

ハードSFとしても本格ミステリとしても並ぶ作品がないほど高い完成度を誇り、SFのセンスオブワンダーも全開なので、少々難しい部分もあるが普段小説を読まない人でもまずは第一部だけでも教養として読んでいただきたい。

 

星を継ぐもの

あらすじの引用

月面調査員が真紅の宇宙服をまとった死体を発見した。綿密な調査の結果、この死体は何と死後五万年を経過していることがわかった。果たして現生人類とのつながりはいかなるものなのか。やがて木星の衛星ガニメデで地球のものではない宇宙船の残骸が発見された……。ハードSFの新星が一世を風靡した出世作

 

 

小説好きになるきっかけとなった作品

『星を継ぐもの』は私にとって非常に思い入れのある作品である。私は昭和末期生まれの人間なので、高校生時代にはまだインターネットでの情報収集がそこまで有効ではなかった(と認識している)。当時からSFとホラー好きだったので角川ホラー文庫を中心にちょこちょこ小説を読んではいたのだが、読書する人は周りにほとんどいなかったし、ましてや神林しおり(バーナード嬢曰くのSFマニア)ような生き字引がいるはずもなく、何から手を出してよいのか分からなかった。

そんな状況から大学に上がり、幸い近くに神保町の三省堂があったため隅から隅まで本屋を徘徊して手に取ったのが『星を継ぐもの』だったのである。ちなみにその時他にもダン・ブラウンの『ダ・ヴィンチ・コード』と乙一の『ZOO』も買った。どうでも良いけどやたら覚えている。

言うまでもなく『星を継ぐもの』は映像化作品では決して味わうことのできない読書の楽しみを教えてくれて、私を小説好きに変えてしまったのである。まさに人生に影響を及ぼした記念碑的な作品なのである。

 

小野不由美女史曰く

私が崇拝している作家の一人、主上こと小野不由美女史がかつて本の帯に以下のコメントを書かれていたので引用する。

 

SFにして本格ミステリ
謎は大きいほど面白いに決まっている。


謎は大きいほど面白いに決まっている....これはまさに超名言だ。なぜならその通りなのだから。(規模の小さい謎を扱う館シリーズでお馴染みの夫がいるのにそんなこと言っていいのか?と苦笑)

私は最初に読んだ本格ミステリが『星を継ぐもの』なので、以降本格ミステリに対する評価が極めて辛辣になってしまい、大半のミステリがちっぽけで残念なものに感じるようになってしまった。

 

超魅力的な謎

月面で発見された真紅の宇宙服を着た人間らしき生物の遺体。
その遺体は5万年前のものだった。

こんな魅力的な謎が提示された時点で、本作が傑作であることは確定している。散々ミステリー小説を読んできたのでこんなことは言いたくないが、正直言って殺人事件とかトリックだやらアリバイなんて超くだらない。だって小さいんですもん。謎が。はっきり言ってどうでもいい。

では月で見つかった5万年前の人間の遺体といったらどうだろう。めっちゃ気になるではありませんか。謎は大きいほど面白いし、不可解であればあるほど惹き付けられるのも当然なのだ。『星を継ぐもの』が提示するこの謎は大きさ、不可解さ共に最高峰である。

 

謎が謎を呼ぶ

科学者達が月の人『ルナリアン』が持っていた手帳を元に謎を解いてたら、木星の衛星ガニメデの地下で2500万年前の宇宙船を発見してしもうた......もう( ゚д゚)ポカーンである。
ルナリアンの正体を追えば追うほどこれでもかと言うほどさらなる謎がぶちまけられてくる。ざっと挙げただけでも以下の超壮大な謎がある。
 
  1. 「謎に包まれたプロローグ」
  2. 「月の裏側の戦闘基地」
  3. 「超破壊兵器」
  4. 「ルナリアンの月と母星の戦争」
  5. ノアの方舟の如き謎の宇宙船」
  6. ホモ・サピエンスの起源」

 

そんな解読不能だと思われる途方もない謎も、ある仮説に当てはめると綺麗に筋が通るのだから驚きだ。ルナリアンの正体が分かった時の感動といったら....ぜひ味わってほしい。

知る人ぞ知る月の裏側。本書でこのキモさの理由が解明される。

我は〇〇人なり

本作のラストは鳥肌ものである。何故ホモ・サピエンスは地球を支配するに到ったのか。私はこの話はフィクションではなく事実だと認識するようにしている。
何故ならその方が人生面白いからだ。

地球上の生物を見ると思う。「我は○○○○○人なり!!」と。

しかし著者のジェイムズ・P・ホーガンは本当に天才としか言いようがない。1978年当時の情報から、”月の裏側で見つかった人間のような遺体”というフィクションに、つじつまのあう理論を組み立ててしまうのだから。

 

残りまくる謎

ルナリアンの正体は分かった。しかしガニメデの2500万年前の宇宙船は一体何なのだろうか?またルナリアンの戦争は何がきっかけだったのか?そもそもルナリアンの進化の秘密とは一体?謎は残りまくるが次作でさらなる謎の解明に挑み、最終作では何もかもが完結する。
最終作まで読めば『星を継ぐもの』も『ガニメデの優しい巨人』自体が壮大な伏線と言えるほどの感動的な仕掛けが明かされる。SNSなどで情報を得ていると、おそらくかなりの方が第一部だけ読んで続きは読まないというパターンに陥っているように思うのだが、それはあまりにももったいない。なぜなら第二部も素晴らしいハードSF×本格ミステリだし、第三部まで読めばシリーズ全体の完成度が跳ね上がるような驚きの仕掛けがあるからである。

 

ガニメデの優しい巨人

あらすじの引用

木星の衛星ガニメデで発見された異星の宇宙船は二千五百万年前のものと推定された。ハント、ダンチェッカーら調査隊の科学者たちは、初めて見る異星人の進歩した技術の所産に驚きを禁じ得ない。そのとき、宇宙の一角からガニメデ目指して接近する物体があった。遥か昔に飛びたったガニメアンの宇宙船が故郷に戻って来たのだ。

 

こいつは異星の優しくない巨人

※以下は必然的に多少のネタバレを含むためご注意を

冒頭から超ハードSF

第二部についてどう書こうか迷う。なぜなら第二部は完全に『星を継ぐもの』で導かれた結論の延長線上にある話だからである。

SNSをやってるとよく見る「何を書いてもネタバレになっちゃう♥」的な思考停止発言は大嫌いなのだが、『ガニメデの優しい巨人』は文字通り何を書いてもネタバレになってしまうのである。そのため書ける内容はかなり限定されるのだが、許される範囲で内容に触れていく。

そしてプロローグ。これがもういきなりSF好きなら脳内麻薬全開な幕開けなのである。宇宙船に乗った科学者的な人たちが恒星イスカリスが超新星爆発を起こす!逃げなきゃ!!でも逃げるには超高速で飛ぶ必要があるのだが、減速装置が壊れているので、このまま自然原則に任せて飛ぶんじゃ相対性理論やらなんやらで何百万年も時間が経過してしまうぜ!!(泣)な感じなのである。掴みはOK。『星を継ぐもの』から間髪入れずに読んでいる方なら誰の話なのか分かるだろう。

ちなみに私が初めて読んだ時に感動したのはこの宇宙船の推進力である。様々なSFで核融合エネルギーで飛ぶような描写は目にするのだが、この宇宙船は飛ぶというよりも人為的にブラックホールを発生させて、そのブラックホールに超高速で無限に落ち続けるという理論らしい。いやー....すごいよ。

 

優しい巨人とファーストコンタクト

第一部にて木星の衛星ガニメデで発見された2500万年前の宇宙船を調査していると、なんとその宇宙船を造った異星人に遭遇してしまうのである。

そしてタイトルの通りこの異星人たちは諸々の理由があって非常に優しく、 異星人ガニメアンの底抜けの優しさの理由に始まり、ホモサピエンスとガニメアンの関係、2500万年という空白の時間の謎を、地球の学者コンビ×異星人の圧倒的な科学力と人工知能ゾラックにより、またしても論理的に解明していく流れは前作同様に知的好奇心を刺激されまくる。

人類の真の起源、星を継ぐものとは何か、母星にいたガニメアンに何があったのか。このような魅力的な謎が明らかになった時、大きなセンス・オブ・ワンダーに包まれること間違いなしである。全編に渡りと~っても平和なのが愛おしい。

 

魅力的なキャラ達

前作では主に原子物理学者のヴィクター・ハントと生物学者のクリスチャン・ダンチェッカーがホームズとワトソンならぬ、ホームズ×ホームズ体制でミステリーに挑んでいったわけだが、第二部以降はパーティメンバーにガニメアンのガルースとシローヒン、そしてガニメアンの超AIゾラックが加わり、みんな良キャラなので第一部よりもキャラモノとしては面白いだろう。

特に圧倒的な計算力をもつゾラックが地球人が苦労して解き明かした謎をあっさり解いてしまったりする時のやりとりは面白い。

 

なお『ガニメデの優しい巨人』は新たなSFのマスターピースとなりうる、アンディ・ウィアーの『プロジェクト・ヘイル・メアリー』とノリが似ている部分がある。どちらかの作品が好きな方は、絶対にもう片方も好きになるはずなので、気になる方はチェックしていただきたい。

kodokusyo.hatenablog.com

 

巨人たちの星

あらすじの引用

冥王星の彼方から〈巨人たちの星〉のガニメアンの通信が再び届きはじめた。地球を知っているガニメアンとは接触していないにもかかわらず、相手は地球人の言葉のみならず、データ伝送コードを知りつくしている。ということは、この地球という惑星そのものが、どこかから監視されているに違いない……それも、もうかなり以前から……!! 5万年前月面で死んだ男たちの謎、月が地球の衛星になった謎、ミネルヴァを離れたガニメアンたちの謎など、からまったすべての謎の糸玉が、みごとに解きほぐされる。前2作で提示された謎のすべてが見事に解き明かされる。《巨人たちの星》シリーズ第3部。

 

 

物語はまったく予想外の展開へ

前作とは打って変わって不穏な空気が漂う三部作の最終作である。いよいよ前二作のネタバレに触れずに書くのは不可能になってきているので端的に書いていく。

まず今回も相変わらず本格ミステリの要素は残っているし、物語の構成は完全にミステリのそれである。またハードSFとしても相変わらず凄い。しかし今回は政治やスパイ/サスペンスといったこれまでとは真逆の作風に変貌するのである。

『巨人たちの星』で提示される謎は、現在のガニメアンの状況はどうなっているのか。かなりヤバい状況っぽいけどいったいどうなっているのか。というものである。またその謎に挑む中で前二作で明らかになってきた事実の真の解決篇がなされる。

宇宙規模の陰謀と戦争という圧倒的な規模の物語の中で、一作目から張り巡らされていたありとあらゆる謎が解明され、迎える大団円は衝撃という言葉すら生温い超絶なものでなのある。

 

複数勢力がそれぞれの思惑で動く

今回は物語の性質上、登場人物がかなり多いうえに、複数勢力がそれぞれの思惑で行動するため整理しながら読まないと、途中で何がなんやら分からなくなる可能性がある。

私は小説を読む時にどんな複雑であろうともメモを取ったりしながら読むことなんてしないのだが、『巨人たちの星』は今のところ人生最初にして最後、ただ一度きり本気でメモを取って図を書いて整理しながら読んだという点で本作は思い出深い。

丁寧に読む価値がある本なんてほんの一握りだと思うし、今後もメモを取り図を書いて読む本なんてお目にかかれないかもしれないと考えると、本当に貴重な読書体験になった。一作目からぶっ続け出読んですべての真相を目の当たりにすると「うおぉぉぉぉぉぉーーーーーーッ!!」となること間違いなしである。超どんでん返し、圧倒的な伏線回収に酔いしれてほしい。

 

ちなみに『巨人たちの星』はSF永遠の今日傑作として語り継がれるであろう『三体』に近い印象を受ける。巨人たちの星が好みであれば三体も必ず読もう。

kodokusyo.hatenablog.com

 

最後におまけ...というかアドバイス

本シリーズはめちゃくちゃ面白い。しかし唯一の弱点と言ったら、版を重ねた古い創元SF文庫のため、活字が小さくフォントもお固くて読む気が失せることだ。(東京創元社様ごめんなさい)最近重版がかかったものなら微妙に活字が読みやすくなっているが、それでも読書慣れしていない人には敷居が高い印象を受けるかもしれない。

しかし電子書籍という近代兵器を使えば、おそるるに足らずである。私は『星を継ぐもの 三部作』は紙の本も所有しつつ電子書籍で読んだ。....すごい読みやすかった。

ということで紙の本で無理ゲーだと感じた方は電子書籍をおすすめしたい。私はH・P・ラブクラフトの『ラブクラフト全集』も電子書籍で読み申した。

 

これぞまさしく文明の利器

 

センス・オブ・ワンダーの宝庫

インターネット経由で情報収集がしやすくなった今では、おそらく読書に興味を持った方の多くが早い段階で『星を継ぐもの』を目にするだろう。

読書慣れしていない人には、年季の入った翻訳書であったりハードSFということもあり、少々敷居が高いかもしれないが、むしろミステリ慣れしていないという点で、大きな感動が得られることは間違いない。センス・オブ・ワンダーの宝庫を味わってほしい。

 
 

『八つ墓村』横溝正史|時を超えた究極の”萌”

探偵小説だって??...否、ハーレムラノベである

 

f:id:kodokusyo:20220122225845j:plain

この表紙が一番好き

 

作品紹介

横溝正史による『八つ墓村』は1949年から1950年に雑誌『新青年』で連載された金田一耕助シリーズの長編第四作目である。現在の角川文庫版でおよそ500ページとなかなかのボリュームとなっている。

言わずと知れた大横溝作品の中でも確実に5本の指に入るほどの知名度と完成度を誇る作品となっており、本格ミステリの熱心なファンとは言えない私でも『八つ墓村』は別格の超傑作だと思っていて、人生ベスト10小説には必ず名前を挙げている。

八つ墓村』の良いところの一つとして、本作では名探偵・金田一耕助は脇役にとどまっており、主人公やヒロインは他にいるので、シリーズ四作目ではあるものの順番を気にせず先に読んでも問題ない点がある。『八つ墓村』より前に発表された『本陣殺人事件/獄門島/夜歩く』と比べるとかなりエンターテイメント作品に特化した内容になっており、ミステリ云々ではなく純粋に物語が面白いのである。

ジャンルでいうならば伝奇/冒険/サスペンス/ミステリー/ちょいホラー/恋愛/ラノベであろうか。特に恋愛ラノベの部分は現代の萌えラノベ作家でも到底太刀打ちできないほどの尋常ではない仕上がりになっているため、そういった点に着目しつつ紹介したい。

 

 以下、あらすじの引用

戦国の頃、三千両の黄金を携えた八人の武者がこの村に落ちのびた。だが、欲に目の眩んだ村人たちは八人を惨殺。その後、不祥の怪異があい次ぎ、以来この村は“八つ墓村"と呼ばれるようになったという――。大正×年、落人襲撃の首謀者田治見庄左衛門の子孫、要蔵が突然発狂、三十二人の村人を虐殺し、行方不明となる。そして二十数年、謎の連続殺人事件が再びこの村を襲った……。現代ホラー小説の原点ともいうべき、シリーズ最高傑作! !

 

 

セールスポイント

21世紀を生きる人々が『八つ墓村』に対してどのようなイメージを持っているのかは知らないが、昭和末期に産まれた私の本作に対するイメージはおどろおどろしいホラーであった。しかし初めて原作を読んだ時に感じたのは「死ぬほど面白い!!しかもおどろおどろしくないどころかめっちゃ萌えてて超最高♥」である。映画作品は原作レイプし過ぎDEATH。

もちろん萌えているなどは冗談ではなく100%本当のことであり、初読み時に人に薦めるべくまとめたセールスポイントは以下の通りである。

 

  • まさかの萌え系ハーレムライトノベル

  • 春代と典子の超破壊力

  • オカルト全開な怪事件

  • 超面白い宝探しと愛の逃避行

 

オカルト要素全開の事件もかなり面白いのだが、『八つ墓村』の最大の魅力はラノベ的なハーレム恋愛である。もうとにかくめっちゃ面白いんだから!!

 

津山事件(津山30人殺し)

私が崇拝する作家の一人にしてミステリーの神・島田荘司は『龍臥亭事件』という超傑作小説でストレートに津山事件を作中作として盛り込んでいたが、大横溝は津山事件をあくまでもモチーフとして利用している。

だがこの津山事件は『八つ墓村』を読むにあたっては絶対に先に詳細を知っておいた方が良いので、ググってWikipediaを見ても良いだろうし、事前に前述した島田荘司の作品を読んでおくのも有りである。

戦前(戦中)最大最凶の殺人事件だけあって、詳細を調べると「おいおいマジかよ.....」とツッコミを入れたくなること間違いなしの、ランボーもビックリな大虐殺事件なのだが、マジな事件なのである。『八つ墓村』ではこの最悪の事件が非常にうまく取り入れられていて、事件のオカルト性を限界まで高めることに成功している。やはり横溝正史は天才である。

ちなみにやや不謹慎ではあるが、津山事件の犯人・都井睦雄をモデルとした多治見要蔵のフィギュアが涙が出るほどかっこよくて、のどから出るほど欲しいのだけど、妻子ある身としてはさすがに手が出ない.....でもいつかはほすぃなぁ...。頭懐中電灯に日本刀×ショットガン。鬼ですわい。

 

ミステリではなくミステリー

ミステリとミステリーを特に区別することなく使用する人が極めて多いが、私は明確に区別している。ミステリはすなわち事件があって探偵役が解決する作品だとすれば、ミステリーはオーパーツやピラミッドの謎などに値すると私は考えている。

八つ墓村』は前者の性質も強く持っているが、むしろ戦国時代1566年(永禄9年)の財宝の謎や鎧武者の謎といった後者の部分こそが本当に面白いところである。そのため本格ミステリ好きの人はもちろんのこと(まぁ本格ミステリマニアで八つ墓村を読んでない人はいないだろうが)、ミステリにまったく興味が無い人でも超楽しめるのである。

とは言ってももちろん推理小説としての完成度も高い。『本陣殺人事件』や『獄門島』ほどコテコテの本格推理小説ではないのだが、人はバタバタ死にまくるのに動機がさっぱりのため、犯人もさっぱりというホワイダニット系の事件である。したがってトリックを見破ったりアリバイを崩すタイプのものではない分、動機は非常に分かりづらくなっている。犯行の動機はこれぞ戦後。これぞ横溝な感じ。

 

お姉様 or 妹+α。あなたは誰を選ぶ?

ここからが本番である。萌え系ラノベの本領発揮なのだ(笑)

読めば分かることだが『八つ墓村』は真正の萌え系ハーレム小説だ。戦後間もない作品にも関わらず萌えの品質は尋常ではなく、それこそ『ソードアート・オンライン』あたりから始まったと思われる最近の異世界ハーレム物語と何ら変わらない。

ハーレム状況での"お兄さま"なギャルゲー的な要素が強く、究極の妹系「典子」を筆頭に、健気で弟思いのブラコン病弱お姉様「春代」、そして魔性の魅力を持った姐御肌な才女「美也子」。さらにダメ押しで隠しキャラ(?)の女中「お島」というキャラも存在しており、まさに至れり尽くせりなのである。ホントにどうなってるの横溝精子
しかもプロットも現代の異世界モノとたいして変わらないのだから驚きである。
お金持ちの息子だと判明し、美女に連れられ財宝を求めて異世界(岡山)へ。次々と殺されていく村人、少しずつ分かっていく自身と村の秘密。
危機が訪れながらも健気な女性たちに助けられて事件の謎と財宝の行方を解き明かす。
財宝は見つかるのか!?
ラブストーリーの行方は!?
とまぁ簡単にまとめただけでも魅力的なストーリーであることが分かるだろう。
昨今流行りまくっている異世界ものの原点は、小野不由美主上の『十二国記』ではなく『八つ墓村』にあるのは間違いない。なので萌え系・ハーレム系ラノベが好きな人は100%本作も好きになると保証しよう。無論私もその一人である。健気で優しい女だらけのパーティメンバーで冒険をするのが嫌いな男はこの世に存在しないだろう。

 

FF5のレナ・ファリス・クルルのようなキャラは完備しているのだ。

f:id:kodokusyo:20220123001723j:plain

私史上元祖ハーレムはFF5である。

 

究極の大団円

これについては伏せておくことにするが、一つ言えることは完全無欠である。

つらいことや悲しいこともいっぱいある物語なのだが、ラストはハリウッド映画も土下座せざるを得ないほどの素晴らしさなのである。どんな結末を迎えるのか。事件の真相(そんなのはオマケに過ぎないけど)は、もしまだ読まれていないのならぜひ....というか絶対に体感すべきであろう。誇り高き大日本帝国の男なら必修科目と言っても過言ではない。読ねば非国民である。

〇〇にさようなら。お姉ちゃんにありがとう。そして、全ての童貞達におめでとう。」(エヴァじゃないよ、エヴァじゃ笑)

 

横溝正史よ永遠に

本記事を書いたのは、横溝正史生誕120周年に伴い『八つ墓村』を含む複数の作品の復刻版が出たからである。それを機会に再読してみたのだが、やはり面白いものは面白い。ミステリなのに犯人や動機、事件の真相を知っていてもその面白さはまるで減ることはないのである。もう時空を超えた純文学と言っても良いかもしれない(なわけないけど)
とにかく『八つ墓村』は最高である。もし古臭そうとかホラーなイメージがあるとかで読むのを躊躇している人がいたら絶対に後悔はさせないので読んでね。
 

〇おすすめ記事

kodokusyo.hatenablog.com

kodokusyo.hatenablog.com

kodokusyo.hatenablog.com

 

 

 

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』アンディ・ウィアー|無理ゲーを乗り越えまくる極限エンターテイメント

大宇宙に、たった一人.....ではない!

 

f:id:kodokusyo:20220111192128j:plain

地味な表紙はあえてそうしているのかも

 

作品紹介

アンディ・ウィアーによる『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は2021年に早川書房より出版された作品である。
ハードカバー上下巻で650ページ弱とかなり読みごたえのある、超ハイクオリティなエンタメハードSFで、今後面白いSF小説を教えてと聞かれたら確実に本作を挙げたくなるような、心の底から人にすすめたくなるような素晴らしい物語となっている。

ハードSFだけあって、一つ一つの事象について丁寧に科学的な説明がなされるので、SF慣れしていない人や理科に興味が無い人にとってはやや読みずらい部分があるのも事実だが、小難しいところをすっ飛ばしてでも読む価値があると断言したい。なんといっても物語が本当に素晴らしいのである。

事前知識ゼロで読むべきと言われる本作だが、表紙や帯を見るだけで大まかな内容を掴めてしまうし、そもそも読む前に多少のネタを知ってしまっても魅力が減衰することはまったく無いので、ある程度話の内容に触れながら感想を書いていく。

 

 以下、あらすじの引用

グレースは、真っ白い奇妙な部屋で、たった一人で目を覚ました。ロボットアームに看護されながらずいぶん長く寝ていたようで、自分の名前も思い出せなかったが、推測するに、どうやらここは地球ではないらしい……。断片的によみがえる記憶と科学知識から、彼は少しずつ真実を導き出す。ここは宇宙船〈ヘイル・メアリー〉号――。ペトロヴァ問題と呼ばれる災禍によって、太陽エネルギーが指数関数的に減少、存亡の危機に瀕した人類は「プロジェクト・ヘイル・メアリー」を発動。遠く宇宙に向けて最後の希望となる恒星間宇宙船を放った……。

 

 

ネタバレが気になる方は今すぐ回れ右

冒頭でも触れたが『プロジェクト・ヘイル・メアリー』はネタバレ厳禁という意見をちらほら見かける。それはズバリ”密室で記憶を失った男が目を覚ますとミイラ化した遺体が2体”というまるで初代の映画SAWのようなサスペンス的な状況で幕を開けるのが理由なのだろう。しかし別にそれは掴みはOK的な小説としての著者の技巧に過ぎず、その謎めいたシチュエーションは物語全体としては大した魅力ではない。

したがって上記については気にせず内容に触れるし、もっと重要.....というか本作の最もセールスポイントとなる部分にも触れる。繰り返すが本作は多少内容を知ったところでまったく影響がないくらい素晴らしい。なので買おうか迷っている方は気にせず先を読んでいただきたい。

 

エンタメに特化した優れた構成

著者のデビュー作にしてエンタメSFとして非常に優れた『火星の人』は、言うまでもなく最高に面白い本だが、やや単調と言えなくもない。その弱点を完全に払拭して超パワーアップしたのが『プロジェクト・ヘイル・メアリー』である。

話は宇宙でのミッションシーンと地球でのプロジェクトを推進するシーンが交互に進んでいく。冒頭の謎めいたシチュエーションにどのようにして至ったのかという過程がジワジワと明らかになっていく展開はミステリー要素を孕み、読みやめるタイミングを失うほど続きが気になる仕様になっている。この展開だけでもすでに勝ちパターンなのだが、それすれも陰るほどの本作の真打があるのだ。

 

人類滅亡の危機に立ち向かう

人類滅亡を回避すべく立ち上がった『プロジェクト・ヘイル・メアリー』とはアヴェマリア計画=イチかバチか計画である。

太陽に”アストロファージ”という細菌のような宇宙生物が取り付いてしまい、太陽のエネルギーを吸収しまくることによって、太陽が徐々に力を失っていってしまい、その結果地球の気温は下がりまくり、30年で人類は滅んでしまうという状況に陥った人類が、最後の希望を託してイチかバチかプロジェクトを立ち上げた。

同じくアストロファージに寄生されているにもかかわらず、エネルギーを失っていない恒星が地球から10光年以上離れた場所で観測されたのである。このプロジェクトは三人の勇気ある乗員がその恒星の謎を解き明かして地球に情報を送るという特攻ミッションで、崖っぷちに立たされた人類はこのミッションにすべてを託したのだ。ただターゲットとなる恒星にたどり着く前に、乗員二人は死亡してしまっていた。そんな絶望的な状況の中、主人公のグレースは無理ゲーにただ一人立ち向かっていくのだが....。

まずもう設定が勝利だよ....傑作と称されるSFには大きく分けて2パターンあると思っていて、一つ目はSFとしては超凄いけど、娯楽作品としては完全にアウトなパターン(例えば『幼年期の終わり』とか『果しなき流れの果に』、さらに言えばグレッグ・イーガン全般とか)。そして二つ目はSFとしても娯楽作品としても一級品であるパターンである(例えば『夏への扉』とか『われはロボット』、『星を継ぐもの』や『三体』)。

本作は間違いなく後者にあたり、SFとしてもエンターテイメント作品としても比類なき完成度を誇っている。

 

真打登場

さて、いよいよ『プロジェクト・ヘイル・メアリー』最大の魅力について語りたいと思う。そもそも隠すことはないようにも思うのだが、ズバリ同じ災禍に見舞われた地球人とそれなりに科学の発展度合いが近い異星人とファーストコンタクトを果たすのである。しかもその異星人は友好的で主人公とも境遇が近いためまさかの共闘をすることになるのだ。人間の科学者×異星人のエンジニアである。無敵ですよね、もうこの時点でマスターピース確定なのだ。

しかしその異星人は人間とはかけ離れた姿を持つのだが、その生態について執拗に丁寧に描かれるのは『星を継ぐもの 三部作』の二作目、『ガニメデの優しい巨人』を彷彿とさせる。つまり人類の命運をかけたミッションに加えて、ファーストコンタクト作品の醍醐味、さらには異星人の生物学に探偵と助手の如き相棒型ミステリーの要素まで内包しているのだ。無敵ですよ、無敵。

で、二人ともキャラがすごく良いし二人のコンビネーションも素晴らしくて、”アストロファージに取りつかれても平気な恒星”という魅力的な謎に立ち向かっていくのである。面白い要素をこれでもかというほど詰め込んだかのようである。著者は本当に凄いよ....。

 

大宇宙での共闘

これが本当によくできてるんです。

おいおいマジかよよツッコミを入れたくなるほど科学に強い人間と、未知の素材を使って何でも直したり作ったりしちゃうし、最強の暗算能力を持った異星人と役割分担がとてもしっかりしていて、ホームズとワトソンというよりはそれぞれがフロントに立って得意分野の作業を着々とこなしていく感じ。そして船外作業などかなりの危険に瀕したりしながらも、謎を解き明かし、さらに故郷を救うためにそこからさらに奮闘しまくる展開は本当に面白い。

ユーモアあふれる二人のやり取りにニヤニヤし、お互いを助けるために命をも省みずに行動する二人には感動させられる。よくありがちなお涙頂戴の狙ったパターンとは異なり、まさに必然的に感動が生まれるのは本来、こっち系の話が嫌いな私でも素直に心を動かされた。これだから万人におすすめしたくなるのである。

 

意外な結末

どう物語を収束させるのだろう....ありきたりなラストだったら怒るぞ!(笑)といったノリで、終盤は超スピードで読み進めてしまったのだが、待っていたラストは私のようなアメリカ的ハッピーエンドには耐えられないひねくれた人間にも十分に納得のいくものであり、ますますアンディ・ウィアーマジ最高となったのである。

一筋縄ではいかないが、これ以外は考えられないぜ!な結末はぜひとも確かめていただきたい。

 

今後の評価が気になる

個人的には『火星の人』よりも格段に優れた作品だと思うし、これまでに読んできたSF作品の中でもかなりの傑作の部類に入ると考えている。マジで超傑作。

今後映画化もされるし、どのような評価がなされていくのかが本気で気になるものだ。またアンディ・ウィアーの次回作もめっちゃ期待ができる。なんせまだ作家にしてはギリギリ若い方だしあと何作かは凄い作品を書いてくれそうなので今後が楽しみである。

 

 

〇おすすめ記事 

kodokusyo.hatenablog.com

kodokusyo.hatenablog.com

 

⇩言わずと入れた神傑作『三体』はまさにプロジェクト・ヘイル・メアリーと真逆の宇宙観を提示する超傑作。

kodokusyo.hatenablog.com

 

『円』劉慈欣|村から宇宙へ...著者の筆力に脱帽

中国SFの至宝は短編も凄すぎる

 

f:id:kodokusyo:20220103200012j:plain

これぞ計算陣形!!

 

作品紹介

劉慈欣による『円』は2021年に早川書房より出版された作品である。
ハードカバーで400ページ弱となかなかのボリュームでショートショートくらいの尺の作品を含む十三編の短編が収録されている。

世界中で読まれまくっている『三体』の著者による日本初の短編集で、超大作『三体』と比べて短編はどうなのだろうという不安を粉々に粉砕するほど個々の作品のクオリティが高い。本当にどの短編もバラエティが豊富で良くできていて、とにかく折り紙付きの面白さなのである。『三体』が気になっているがボリュームに恐れをなしている方や、”三体ロス”に苦しむ方にとっては福音書になるだろう。

中国の現状を知らされる貧しい村の話から超文明を持つ宇宙の話まで短編でも相変わらずの超スケールで様々な世界を見せてくれる。そんな超傑作短編集について語っていく。

 

 以下、あらすじの引用

円周率の中に不老不死の秘密がある――10万桁まで円周率を求めよという秦の始皇帝の命を受け、荊軻(けいか)は300万の兵を借りて前代未聞の人列計算機を起動した! 第50回星雲賞に輝く「円」。麻薬密輸のために驚愕の秘密兵器を投入するデビュー短篇「鯨歌」。貧しい村で子どもたちの教育に人生を捧げてきた教師の“最後の授業"が信じられない結果をもたらす「郷村教師」。漢詩に魅せられた超高度な異星種属が、李白を超えるべく、あまりにも壮大なプロジェクトを立ち上げる「詩雲」。その他、もうひとつの五輪を描く「栄光と夢」、少女の夢が世界を変える「円円のシャボン玉」など、全13篇。中国SF界の至宝・劉慈欣の精髄を集める、日本初の短篇集。

 

 

 

収録作品

翻訳者の大森望さんによると、本作品集に収録された作品は劉慈欣本人のチョイスらしく、デビュー作から『三体』発表後の作品までのベスト盤と言っても良いのかもしれない。したがってどの作品も非常に優れているが赤文字にした作品は特に素晴らしいと思う。

  1. 鯨歌(1999年)※デビュー作
  2. 地火(1999年)
  3. 郷村教師(2000年)
  4. 繊維(2001年)
  5. メッセンジャー(2001年)
  6. カオスの蝶(1999年)
  7. 詩雲(2002年)
  8. 栄光と夢(2003年)
  9. 円円のシャボン玉(2003年)
  10. 二〇一八年四月一日(2009年)
  11. 月の光(2009年)
  12. 人生(2003年)
  13. (2014年)

 

イデアの宝石箱

『三体』で素晴らしい奇想を惜しげもなく披露された劉慈欣だが、本作品集では『三体』で使用されたアイデアの原型となるものが複数収録されている。

三体の第一部からスピンオフされた『円』だけでなく、全体的に劉慈欣の奇想が個々の作品に凝縮されていて、しかもどの物語でもストーリーテラー振りを発揮しており、しっかりと意外な落ちが用意されているのでSF作品としてでなく、純粋に話が面白いのが凄い。

全作品熱く語りたいところだが、私が特に好きな作品(上記の赤文字の作品)について感想を書いていきたい。

 

郷村教師

これが超凄いんです。これを読むと「そりゃ黒暗森林や死神永世も生まれますわい」と言った途轍もない作品になっている。

中国の貧しい村で死に瀕した教師が子供たちに最後の授業をするパートと地球から遥かに離れた宇宙戦争終焉のパートに分かれて物語は進んでいき、最後には見事に双方の話が交じり合って見事な結末にいたるのである。

中国の貧しい村と人類を遥かに超越した文明の戦争というギャップに驚嘆しながら読み進めて最後に「あッ」と言わせる著者の剛腕には脱帽するしかない。

 

カオスの蝶

カオス理論における、ある系の変化が初期条件に強く依存する場合に見られる予測不可能な挙動「バタフライエフェクト」を計算してしまおうというトンデモ理論を社会問題に結びつけた話である。

この作品はとにかく劉慈欣の奇想が爆裂しており、故国を救うために一人の男がバタフライエフェクトを利用して奮闘する話である。かなり悲しい話ではあるのだが、こんなバカげた理論を物語に昇華させた著者は天才だと思う。

ちなみに最後がよく分からんのです。私の読解力ではラスト付近を何度か読んでもイマイチ何が言いたいのか伝わりませんでした。教えて偉い人。

 

詩雲

個人的には本作品集で一、二位を争う傑作である。

人間の詩人、人間を家畜として支配する呑食帝国の恐竜、神に等しいテクノロジーを持つ異星人を中心に話が進むのだが、もう凄すぎて凄すぎて....何なら三体第三部の”紙切れ”に繋がる奇想の原型を見せつけられた気分である。

超文明の異星人が過去の偉人が生み出したの詩をテクノロジーで超えてみせるという話なのだが、規模がデカすぎるうえに、最高の詩を創るためにやることが超ド級の鬼畜プレイなのである。いやー.....これはマジで凄いです。

 

円円のシャボン玉

読後感が一番よく、SF初心者にこそ強くおすすめした素晴らしい作品である。

世の中的には何の役にも立たなさそうなシャボン玉の研究を、好きだからという理由で主人公の円円が徹底的にやってみたところ、思いもよらない副産物を生み出すという希望に満ちた物語なので、我が子にもぜひ読ませたいと思っている。

全体的にスケールが大きく物騒な話が多い本作品集において、こういったハートフルな作品は癒しとなるだけでなく、著者の守備範囲の広さを伝えることに成功していると思う。本当にいい話です。子供が理科を好きになりそう。

 

月の光

短めな尺の中で文字通り様々な世界を見せられる歴史改変SF。

未来の自分と会話して未来を変えていくのだが、そのたびに「あっちゃー.....」な結果になってしまうのだが、次はどんな結果が待っているのだろうとページをめくる手が止まらない作品である。

物語の始まりのシチュエーションも「どうしてこんな感じにしたんだろう」的な理系っぽい感じで好感触。作中で語られるアイデア一つとっても長編が一つ書けてしまいそうだが、そんなアイデアを惜しげもなくぽんぽん投下する著者に拍手したい。

 

『三体』第一部のVRゲーム三体からのスピンオフ作品である。

秦の始皇帝が優秀な科学者のもとで、軍隊を用いて人力コンピュータを構築し、円周率を計算する(笑)というトンデモな物語である。ただブッ飛んではいるものの実際に実現できそうなのが凄いのである。

『三体』とは異なり一つの物語として起承転結がしっかりしているので、物語自体がとても面白い。アメリカで三体を実写ドラマ化するってことは、この計算陣形も再現されるのだろうけど、想像しただけで壮観である。

劉慈欣の良いところはハードSFであっても、オールドスクール(古典)が持つ分かりやすさや娯楽性の高さをしっかり両立させているところだと思う。こんなの他のSF作家では絶対に思いつかないだろう。

 

今後も超期待

冒頭にも書いたがこれから『三体』を読もうとしている方には素晴らしい入門書になるだろうし、”三体ロス”に苦しむ地球三体協会の方にも救いになるのは間違いない。

また三体の第一部が思ったほど楽しめず第二部以降を読もうか迷っているような方(私はこのパターンだった)にも特効薬となることを保証する。本当に素晴らしい作品集なので気になったのなら迷うことなく手に取ってほしい。

また本作が出版された2021年時点で未翻訳の作品もこれから順次翻訳されていくということなので嬉しい限りである。劉慈欣は今後も世界SFの筆頭として活躍していくはずなので、今後も期待してやまない。

 

 

〇おすすめ記事

kodokusyo.hatenablog.com

kodokusyo.hatenablog.com

kodokusyo.hatenablog.com

 

『三体 三部作』劉慈欣|次元を超えたSF大作

オールタイムベスト級の超絶ハードSF

アジア人で初のヒューゴー賞受賞作にして、全世界で3000万部以上売り上げているという怪物作品である。そしてその驚愕の内容はまさしくオールタイムベストと言っても過言ではなく、私は「ついに1980年に出版された『星を継ぐもの』を超える作品が出たか...しかも中国で!!」と感激している。
そんな圧倒的な超絶SFについて、主にこれから読もうか迷っている層に焦点を当てて、作品の説明と感想を語っていきたい。
 

f:id:kodokusyo:20211231154114j:plain

宇宙すら超越した無限のスケール

作品一覧

本国では2008年から2010年に出版されているということが驚きである。

作品紹介

『三体』は三部作であり、第一部が壮大なプロローグでハードカバーにして約450ページ、物語が動き出す第二部はハードカバー上下巻で約700ページ、そして時空を超えた超展開を迎える驚天動地の第三部がハードカバー上下巻で約900ページという大長編となっている。二段組ではないが文字はびっしりなので、最近の国内小説のような文字大きく、文字数が少なめな文庫本に換算するとおよそ3000ページに匹敵する。

大変失礼ながら私は小説としては馴染みのない中国産という理由から第一部を長いこと積んでしまい、しかも第一部がそこまで凄いとは感じなかったため、第二部も長いこと積んでしまったのである。しかし第二部と第三部を読んで、第一部はあくまでもプロローグであり本当に面白くなるのは第二部から。そして第三部は方向性を変えつつもSFとしてはさらなる高みに到達した超絶傑作だったと知ったのである。

ではそれぞれの作品をある程度ネタに触れつつ、これから読もうと思っている人が読みたくなるような紹介をしていきたい。なお『三体』はネタバレされたくらいでつまらなくなるような作品ではないことを保証するが、すでに読む気満々な方はこの記事は読まずに早速読むことをおすすめしたい。

 

※以下ネタバレ注意

三体(2008年)

 

物理学者の父を文化大革命で惨殺され、人類に絶望した中国人エリート科学者・葉文潔。失意の日々を過ごす彼女は、ある日、巨大パラボラアンテナを備える謎めいた軍事基地にスカウトされる。そこでは、人類の運命を左右するかもしれないプロジェクトが、極秘裏に進行していた。数十年後。ナノテク素材の研究者・汪森は、ある会議に招集され、世界的な科学者が次々に自殺している事実を告げられる。その陰に見え隠れする学術団体“科学フロンティア”への潜入を引き受けた彼を、科学的にありえない怪現象“ゴースト・カウントダウン”が襲う。そして汪森が入り込む、三つの太陽を持つ異星を舞台にしたVRゲーム『三体』の驚くべき真実とは?

 

前述の通り、第一部はプロローグに過ぎない。物語舞台は1970年の文化大革命時代と2010年代、そしてVRゲーム「三体」が主軸となり交互に進んでいく。後半まではSF的な要素よりもむしろホラーサスペンス/ミステリー要素が濃厚で、科学者の連続自殺や主要キャラでナノテク素材の研究者・汪森の網膜に浮かび上がる謎のカウントダウン「ゴーストカウントダウン」、謎に包まれたVRゲーム「三体」など様々な謎がばらまかれて、終盤に向けてそれぞれの意味が判明していく。

ずばり簡単に内容を説明してしまうと概ね以下の通りになる。

文化大革命で父を殺された葉文潔は人類に絶望していた。そんな彼女は超エリートだったので某秘密基地で働いていたのだが、ある時人類の科学力を遥かに上回る異星人の罠通信を受取り、人類を滅ぼしてほしくて意図的に応答した。その行動により地球の場所が異星人特定され、超科学文明の異星人に地球を侵略されることになった......のだが、三体星系から太陽系は遠いので地球到達までは450年かかる。三体人の考えでは地球人の科学進歩はスピードが早く、450年後には地球人に負けるのでは?という考えから智子(ソフォン)という陽子スーパーコンピュータを侵略艦隊に先立って地球に送り、地球の科学の発展の妨害と地球の監視されるようになった。人類の運命やいかに。という物語である。

VRゲーム「三体」での”人力コンピュータ”やド肝を抜く”飛刃”、人類を虫けら扱いできる”智子”など中国ならではなのか、強烈な奇想が惜しげもなく出されるのは非常に面白い。しかし繰り返すがこれはあくまでもプロローグである。第二部以降と比較すると地味でスケールが小さくてそこまで凄いとは言えない。あと個人的には主役の一人・葉文潔のキャラが嫌いである。

絶賛される第一部だが、私のように賞賛されるほど凄いと思えない人もいるかもしれない。しかし第一部を読み終えたのならとりあえず速攻で第二部を読み始めてほしい。超面白いから。

 

 

三体Ⅱ 黒暗森林(2008年)

 

人類に絶望した天体物理学者・葉文潔が宇宙に向けて発信したメッセージは、三つの太陽を持つ異星文明・三体世界に届いた。新天地を求める三体文明は、千隻を超える侵略艦隊を組織し、地球へと送り出す。太陽系到達は四百数十年後。人類よりはるかに進んだ技術力を持つ三体艦隊との対決という未曾有の危機に直面した人類は、国連惑星防衛理事会を設立し、防衛計画の柱となる宇宙軍を創設する。だが、人類のあらゆる活動は三体文明から送り込まれた極微スーパーコンピュータ・智子に監視されていた! このままでは三体艦隊との“終末決戦"に敗北することは必定。絶望的な状況を打開するため、前代未聞の「面壁計画」が発動。人類の命運は、四人の面壁者に託される。そして、葉文潔から“宇宙社会学の公理"を託された羅輯の決断とは?

 

ここからが本番である。エンタメ要素が一気に跳ね上がり、人類VS三体人という勝ち目のない戦いにどうすれば勝利できるのかという激アツな物語になる。

冒頭で三体人の特性”透明な思考”が判明する。三体人は言葉などのコミュニケーションを取らず、思考がダイレクトに相手に伝わるので嘘をついたりといった知略・戦略とは無縁なのである。スーパーコンピュータ”智子”に何もかも監視されていても、人間の思考までは読めない。そこで人類は面壁者という莫大なリソースを使用する権限を持つ人を4人選び、各々が三体人を撃退するための奇策を練っていくのである。

そして4人の面壁者達がそれぞれ凄い作戦を立てていくのだが、これがまぁ面白い。4人の内の脳筋タイプの2人は、現代の科学では実現不可能な超強力武器や艦隊を考案していくのだが、かなりブッ飛んでいるので大いに楽しめるはず。

そして学者型の1人と4人の中でなぜ面壁者に選ばれたのか不明な主人公・羅輯も兵器とは別路線の奇策を打ち立てていく。しかし面壁者には三体人側が用意した破壁人という刺客が放たれており、この破壁人が名探偵のごとく面壁者の策を看破し追い詰めていくので、ミステリー好きにもたまらないだろう。

 

 

三体世界の巨大艦隊は、刻一刻と太陽系に迫りつつあった。地球文明をはるかに超える技術力を持つ侵略者に対抗する最後の希望は、四人の面壁者。人類を救うための秘策は、智子にも覗き見ることができない、彼らの頭の中だけにある。面壁者の中でただひとり無名の男、羅輯が考え出した起死回生の“呪文"とは?二百年後、人工冬眠から蘇生した羅輯は、かつて自分の警護を担当していた史強と再会し、激変した未来社会に驚嘆する。二千隻余から成る太陽系艦隊に、いよいよ出撃の時が近づいていた。一方、かつて宇宙軍創設に関わった章北海も、同じく人工冬眠から目醒め、ある決意を胸に、最新鋭の宇宙戦艦に乗り組むが……。

 

続いて後半。前半をさらに加速させた面白さになっており、面壁者VS破壁人の知的バトルは一段落して、冬眠により時代は200年後に移行する。200年後の人類は智子に妨害されつつも科学のブレイクスルーを起こして驚くほど進歩しており、強力な2000機からなる宇宙艦隊を築き上げたので、面壁計画は過去のものになっていた。なぜなら正面から戦っても楽勝で勝てるんじゃね?気分に浸っていたからである。

そんな状況の中、人類は三体人から放たれたたった一機の探索機”水滴”に対して2000機の宇宙大艦隊で迎え撃つのだが.....。超すごいです。あえてここでは書かないが、例えば2000人のサイヤ人(スーパーサイヤ人ではない)がフリーザ様と戦ったらどうなるのかを想像してほしい。

そして絶望に沈む人類。だがついに主人公・羅輯が宇宙の謎を解き、素晴らしい大団円を迎えることになるのである。このラストシーンは本当に素晴らしくSF史に残るだろうし、羅輯が提唱したフェルミパラドックスに対する一つの解である暗黒森林理論は後世に多大な影響を及ぼす理論になるのは間違いない。

宇宙観を変えてしまうような稀代の傑作なので、絶対に読むべき作品である。

 

 

三体III 死神永生(2010年)

 

圧倒的な技術力を持つ異星文明・三体世界の太陽系侵略に対抗すべく立案された地球文明の切り札「面壁計画」。その背後で、極秘の仰天プランが進んでいた。侵略艦隊の懐に、人類のスパイをひとり送る――奇想天外なこの「階梯計画」を実現に導いたのは、若き航空宇宙エンジニアの程心。計画の鍵を握るのは、学生時代、彼女の友人だった孤独な男・雲天明。この二人の関係が人類文明の――いや、宇宙全体の――運命を動かすとは、まだ誰も知らなかった……。一方、三体文明が太陽系に送り込んだ極微スーパーコンピュータ・智子は、たえず人類の監視を続けていた。面壁者・羅輯の秘策により三体文明の地球侵略が抑止されたあとも、智子は女性型ロボットに姿を変え、二つの世界の橋渡し的な存在となっていたが……。

 

第二部がとても綺麗に完結するので、果たして続編なんて書けるのか?という疑問を誰もが持つことになるのだろうが、ところがどっこい第二部すら圧倒するほどの限界突破したスケールで描かれる超傑作に仕上がっているのである。

第三部は前作の面壁計画と並行して推進されたもう一つの計画”階梯計画”が主軸となる。三体人に地球人を送り込むというこれまたブッ飛んだ計画なのである。と言いつつも計画はやるだけやって失敗したっぽいと判断してとりあえず忘れ去られてからの展開が超激アツなのだ。”智子降臨”である。

人類と三体人は第二部で侵略がストップしたので、仲良く交流していたのだがあることが契機となり、またしても人類に危機が訪れる。そこで三体側の代表として活躍するのが、スーパーコンピュータ”智子”が擬人化された女性型ロボット”智子”である。この世のものとは思えない美貌に美しい着物姿、そして日本刀。あるシーンで智子さんが大変なことをしてしまうのだが、これが妙に萌えるんです。劉慈欣さんは本当に分かっていらっしゃる。

そんなこんなで萌えまくっていると、今回も何とか人類は危機を一時的に脱するのだが、それと引き換えに近い将来確実に滅亡することが確定してしまう。そして下巻に続く!!

f:id:kodokusyo:20220101002832j:plain

これが中国での智子さんのイメージらしい

 

帰還命令にそむいて逃亡した地球連邦艦隊の宇宙戦艦〈藍色空間〉は、それを追う新造艦の〈万有引力〉とともに太陽系から離脱。茫漠たる宇宙空間で、高次元空間の名残りとおぼしき“四次元のかけら"に遭遇する。〈万有引力〉に乗り組む宇宙論研究者の関一帆は、その体験から、この宇宙の“巨大で暗い秘密"を看破する……。一方、程心は、雲天明にプレゼントされた星から巨額の資産を得ることに。補佐役に志願した艾AAのすすめで設立した新会社は、数年のうちに宇宙建設業界の巨大企業に成長。人工冬眠から目覚めた程心は、羅輯にかわる二代目の執剣者(に選出される。それは、地球文明と三体文明、二つの世界の命運をその手に握る立場だった……。

 

かつてない危機に立たされた人類は”智子”先生から教わった救済の方法を考えるうちに、すっかり忘れてた”階梯計画”に成果があったことを知り、超ミステリー的な暗号解読が始まる。そしてここから先は超絶ハードSFになる。

三体文明を超えるほどの超文明から太陽系が攻撃されることが確定したことにより、人類はまたも絶滅を逃れるための策を考えまくるのである。そしてこれなら助かると思った矢先、ついに来た超文明による”紙切れ”1枚の次元の違う攻撃。

そして超展開に次ぐ超展開にアーサー・C・クラークの『幼年期の終わり』や小松左京の『果しなき流れの果に』を彷彿とさせる、まさに時空を超えた驚愕のラストを迎えるのである。終盤150ページくらいでなぜか私は果てしない寂しさや悲しみを覚えた。

著者自身も第三部はSFマニア向けのハードSFになったと仰っているように、第三部前半までのエンタメ要素は大幅に減退し、ゴリゴリの超絶ハードSFが展開される。そのため賛否両論になるのかもしれないが、私は第三部が一番好きである。宇宙のすべてを理解してしまった感がある。

 

 

三体X 観想之宙(2011年) 宝樹

 

異星種属・三体文明の太陽系侵略に対抗する「階梯計画」。それは、敵艦隊の懐に、人類のスパイをひとり送るという奇策だった。航空宇宙エンジニアの程心(チェン・シン)はその船の推進方法を考案。船に搭載されたのは彼女の元同級生・雲天明(ユン・ティエンミン)の脳だった……。太陽系が潰滅したのち、青色惑星(プラネット・ブルー)で程心の親友・艾(アイ)AAと二人ぼっちになった天明は、秘めた過去を語り出す。三体艦隊に囚われていた間に何があったのか? 『三体III 死神永生』の背後に隠された驚愕の真相が明かされる第一部「時の内側の過去」。和服姿の智子が意外なかたちで再登場する第二部「茶の湯会談」。太陽系を滅ぼした〝歌い手〟文明の壮大な死闘を描く第三部「天萼」。そして――。 《三体》の熱狂的ファンだった著者・宝樹は、第三部『死神永生』を読み終えた直後、喪失感に耐えかねて、三体宇宙の空白を埋める物語を勝手に執筆。それをネットに投稿したところ絶大な反響を呼び、《三体》著者・劉慈欣の公認を得て、《三体》の版元から刊行されることに……。ファンなら誰もが知りたかった裏側がすべて描かれる、衝撃の公式外伝(スピンオフ)。

 

なんとまさかの『三体Ⅲ 死神永世』のその後の物語である。つまり死神永世を読んで三体ロスに陥った方はただちに読み始めるべし。内容については下記の記事にネタバレ極小でまとめたので参照されたし。死神永世すら小さく見えるほどスケールがデカいとんでもない作品である。

 

〇個別紹介記事

kodokusyo.hatenablog.com

 

『三体』を超える作品は出るのだろうか

『三体』は中国では2008~2010年に発表されている。私は少なくとも2010年から2021年までに『三体』を超える作品には出逢っていない。超えるというより他の作品はそもそも『三体』にかすりもしていない。となるともう何らかの科学のブレイクスルーが起きて、人類が大きな躍進を遂げない限り、もう人類にこれ以上の作品を想像する術はないように思うのである。
『三体』は現在人類が書くことのできる最高のSFである。そして最高のエンターテイメントでもある。21世紀に生きる人間であれば必読の一冊と言い切りたい。
でも1番言いたいことは「智子LOVE!!」なのだ。
 

『[映]アムリタシリーズ』野﨑まど|究極の創作

予想不可能な超展開の連続

 次元の違う超天才作家・野﨑まど。そんな異才による内容の想像すら不可能な超絶傑作小説群が『[映]アムリタ』に始まり『2』に終わる一連のシリーズである。(といいつつシリーズであるっぽいことが判明するのは5作目の『パーフェクトフレンズ』の最後の最後なのだが)
私は野﨑まどをSF小説も書くラノベ作家というイメージが先行しており、ラノベが不得意という事情から野﨑まどとのファーストコンタクトが遅れてしまい、特にこのシリーズは後回しにしてしまっていたのだが、本当に後悔するぐらいのとてつもない超絶傑作である。
著者が野﨑まどである、ということ自体がネタバレになりかねないほどネタバレしない方が良いシリーズなのだが、本シリーズの魅力を伝えるためにできるだけ内容に触れることは避けつつも、必要な範囲で内容をご紹介していきたい。

f:id:kodokusyo:20211231114603j:plain

新装版のイラストが萌えてMAX

作品一覧

 

作品紹介

前述の通りシリーズ作品である(っぽい)ことが判明するのは5作目の最終版であり、『2』を読むことで初めてこれまでの5作品が『2』を読むための伏線であることが判明するという仕様である。したがって1作目から4作目は完全に独立した作品なので読む順番は気にする必要はない。また5作目の『パーフェクトフレンド』も1作目の『[映]アムリタ』とわずかに繋がりがあるだけなので、こちらも順不同でも問題ない。

最終作の『2』だけは絶対に他の全作品を読んでから読まなければならない。特に1作目は絶対に必須で、そもそも読んでいなければ話がよく分からなくなるだろう。また2作目から5作目も読んでおかないと『2』の魅力が1作読まないごとに1割以上減少してしまうので読まないのは非常にもったいない。

だが2作目から5作目も非常に面白く、『2』を読むための使命感で読む必要などまったくないので安心である。

 

①  [映]アムリタ(2009年)

 

芸大の映画サークルに所属する二見遭一は、天才とうわさ名高い新入生・最原最早がメガホンを取る自主制作映画に参加する。だが「それ」は“ただの映画”では、なかった―。TVアニメ『正解するカド』、『バビロン』や、劇場アニメ『HELLO WORLD』などを手掛ける鬼才・野崎まどの作家デビュー作にして、電撃小説大賞にて“メディアワークス文庫賞”を初受賞した伝説の作品が新装版で登場!貴方の読書体験の、新たな「まど」が開かれる1冊!

 

とりあえず読んで」としか言いようがない作品である。

学園もののラノベ的展開が続くので、ただの青春恋愛映画製作小説だと認識して読み進めていると恐るべき.....これ以上はネタバレになるので言えない、という感じ。

おそらく事前情報ゼロ(たとえばリアルタイムで読んだ人)であればブッ飛ぶこと間違いなしである。もちろんある程度の情報が入っていても驚愕するのでご安心を。サイコホラーやSFとも受け取れる超天才が超天才だと理解させられる超絶作品。

 

 

②  舞面真面とお面の女(2010年)

 

第二次大戦以前、一代で巨万の富を築いた男・舞面彼面。戦後の財閥解体により、その富は露と消えたかに見えたが、彼はある遺言を残していた。“箱を解き石を解き面を解け よきものが待っている―”時を経て、叔父からその「遺言」の解読を依頼された彼面の曾孫に当たる青年・舞面真面。手がかりを求め、調査を始めた彼の前に、不意に謎の「面」をつけた少女が現われて―?鬼才・野崎まど第2作となる伝記ミステリ、新装版!

 

超読みやすくて超面白い伝奇ミステリである。“箱を解き石を解き面を解け よきものが待っている”という暗号を解読していく過程で謎の”お面の少女”と出逢い、謎が謎を呼ぶ魅力的な内容になっている。そして野﨑まどお馴染みの超展開も待っている。

1作目が凄すぎたので、本作はどうなんだろうなぁ....という不安を木端微塵に吹き飛ばすほどの楽しく、謎が気になりまくるので一気読み必至である。

また本作の主人公・舞面真面は『2』の主要キャラクターになるという点でも強くおすすめしたい。

 

 

③  死なない生徒殺人事件~識別組子とさまよえる不死~(2010年)

 

「この学校には、永遠の命を持つ生徒がいる」女子校「私立藤凰学院」に勤めることとなった生物教師・伊藤は、同僚の教師や、教え子からそんな噂を聞く。人として、生き物としてありえない荒唐無稽な話。だがある日、伊藤はその「死なない生徒」に話しかけられた。“自称不死”の少女・識別組子。だが、彼女はほどなく何者かによって殺害され、遺体となって発見される―!“生命”と“教育”の限界に迫る鬼才・野崎まど新装版シリーズ第3弾!

 

不老不死の女が殺されていくという、設定自体がブッ飛んだ作品である。

タイトルに”殺人事件”とついているが、本格ミステリというよりは本格SFといった方がふさわしい内容になっている。超天才野﨑まどが考案した学園での”不老不死システム”がどんなものなのかぜひとも確かめてみてほしい。こんなことを思いつくところが鬼才などと称される所以なのだと思う。SFのセンスオブワンダーが溢れている。

もちろん言うまでもなく野﨑まど的超展開もあるので本作も一気読み確定だろう。それと新装版の表紙の女性が萌えてますね(まさかあんなキャラだとは....)

 

 

④  小説家の作り方(2011年)

 

駆け出しの小説家・物実の元に舞い込んだ初めてのファンレター。そこには、ある興味深い言葉が記されていた。「この世で一番面白い小説」。あまねく作家が目指し、手の届かないその作品のアイディアを、手紙の主は思いついたというのだ。送り主の名は、紫と名乗る女性。物実は彼女に乞われるがまま、小説の書き方を教えていくのだが―。鬼才・野崎まど新装版シリーズ第4弾。「小説家を育てる小説家」が遭遇する非日常を描く、ノベル・ミステリー。

 

ジャンルを明かすことすらためらわれる超絶作品である。

あらすじの通りの内容なのだが、まずは何といっても「この世で一番面白い小説」のアイデアを思いついたが、それを書くすべを持たないので教えてほしいという”依代”のキャラクターが超最高なのです。そしてそんな彼女の持つ”秘密”の凄まじさと言ったら....もう1作目と同様「とりあえず読んで」としか言いようがないのでとにかく読んで!!青春恋愛(っぽい)小説(?)としても楽しめます。

ちなみに超美人な表紙の女性が”依代”です。この人間とは思えないような無表情な感じは本書を読めば納得なのである。

私個人の好みだと、単体の作品では本作がナンバー2である。

 

 

⑤  パーフェクトフレンド(2011年)

 

少女たちの“トモダチ大作戦”。みんなよりちょっとだけ頭がよい小学四年生の少女・理桜は、担任の先生のお願いで、不登校の少女・さなかの家を訪れる。しかしさなかは既に大学院を卒業し、数学者の肩書きを持つ超・天才少女!手玉に取られくやしい理桜は、マウントを取るべく不用意に叫ぶ。「あんた、友達居ないでしょ!」かくして変な天才少女に振り回される『友達探求』の日々が始まるのだった…。野崎まど新装版シリーズ、「友情」の極意をお届けする第5弾!

 

単体の作品としては個人的にナンバー1の超絶傑作である。

もうとにかく凄すぎてヤバいのだけど、その数学SF的なすさまじさがギャグに結びついているというところに著者の圧倒的な才能を思い知らされたのだ。理系的な思考を突き詰めたような”友達方程式”は爆笑とともに畏敬の念を覚えた。

  1. 友達とは何か
  2. なぜ友達が必要か
  3. 友達は作れるか

上記の問いを論理的に解明し、それを数式化するというハードSFに片足を突っ込んだような感じなので、SF的センスオブワンダーも全開である。

しかし本作の素晴らしさは論理が崩壊した先に待っている。超展開からの超展開に著者が人間を超越した者だと思えたほどである。5作目であり1作目と関連しているが、個人的には本作を一番最初に読むのがベストではないかと思っている

 

 

⑥  2(2012年)

 

創作することの極地。それが『2』。日本一の劇団『パンドラ』の入団試験を乗り越えた青年・数多一人。しかし、夢見たその劇団は、ある一人の女性によって“壊滅”した。彼女は言った。「映画に出ませんか?」と。言われるがまま数多は、二人きりでの映画制作をスタートする。彼女が創る映画とは。そして彼女が、その先に見出そうとするものとは…。『創作』の限界と「その先」に迫る野崎まど新装版シリーズ・最終章!!『2』が、全てを司る。

 

究極の創作としか言えない作品。それが『2』である。

1作目から5作目こそが『1』であり、すべては『2』の伏線となっている。『1』を読むことが『2』の素晴らしさを堪能しきる前提となるため、ぜひ順番通りに読んでほしいものである。

『2』単体では「???」になる部分が多いのだが、1作目から5作目を読むことにより圧倒的なミステリーに姿を変える。これまでのすべてを伏線とするような超展開の乱れ打ちには、文字通り脳に何らかの影響を及ぼすかもしれない。野﨑まどの超天才っぷりが400%発揮された人知を超えた作品である。

 

 

神に等しい作家

他の作品読んだり、脚本を担当されたアニメ『正解するカド』を観れば世界観が広がることは間違いなしだ。
 

『タイタン』野﨑まど|人類の命運がかかった”おねショタ”

仕事とは何かを考え進撃する巨人

 

f:id:kodokusyo:20211123204208j:plain

とても秀逸な表紙だ

 

作品紹介

 野﨑まどによる『タイタン』は2020年に講談社より出版された作品である。
単行本で400ページ弱と野﨑まど作品の中ではボリュームが多い部類に入り、ジャンルもハードSFなので非常に読みごたえがあるのだが、野まど作品に共通するラノベに通じる高いリーダビリティは本作でも健在であり、非常に読みやすいのが特徴である。

SF作家としてもミステリー作家としても高い評価を得ている著者が、AIが仕事をすることにより、人類が仕事をする必要がなくなった2205年を舞台としたハードSFな世界観の中で、”仕事とは何か”という魅力的な謎を極めて論理的に突き詰めていく物語なので、人を選ぶ作風の著者ではあるが、万人におすすめできる非常に素晴らしい作品となっている。

これ以上はネタバレになりかねないので本記事の後半に記載するが、非常にエンターテイメント要素が高いのも高ポイント。興味を持たれた方にはぜひとも読んでいただきたい一冊である。

 

 以下、あらすじの引用

至高のAI『タイタン』により、社会が平和に保たれた未来。人類は“仕事”から解放され、自由を謳歌していた。しかし、心理学を趣味とする内匠成果のもとを訪れた、世界でほんの一握りの“就労者”ナレインが彼女に告げる。「貴方に“仕事”を頼みたい」彼女に託された“仕事”は、突如として機能不全に陥ったタイタンのカウンセリングだった―。

 

後半はネタバレありで感想を書きます。

野﨑まど作品は基本的に何を書いてもネタバレになりやすい傾向がある。

『タイタン』も例外ではなく、前情報ゼロで読んだ方が圧倒的な驚きを体感することができるので、ネタバレ無しの記事にしたいところだが、悲しいことにそれでは本作の魅力を書くことは(少なくとも私には)無理なので、途中から物語の内容に触れさせていただくが、ネタバレ要素を含むことは事前に記載する。

 

踏み込んだあらすじ

本作はハードSF=科学的な本格的なSFである。

2205年には21世紀中ごろに誕生したAI『タイタン』の恩恵を享受して、人間は働く必要がなくなっている。(人間が働くと効率が悪くなるため、AIにすべてを任せた方が生産性が高い状況....この辺はなかなか著者の皮肉が利いていて面白い)

そんな素晴らしい(泣)世の中で世界中に12基ある知能拠点の内の第二拠点、『コイオス』が原因不明の性能低下に陥ってしまい、心理学を仕事....ではなく趣味としている、内匠成果(人名で女性)がAIのカウンセリングをするという物語である。

踏み込んだあらすじと言いながらもこれ以上はネタバレになるので控えざるを得ない。

他の野﨑まど作品を読まれた方ならすでに認識されていることだろが、野﨑まどは並みの作家とはレベルの違う天才である。というか異次元過ぎる。SFやミステリーを読んでいると稀に「本当によくこんなの書けるよなぁ」と思うことがあるのだが、野まど作品では著者が驚かせることを狙ったと思われる作品ではもれなく、上記の感想を持つことになるのである。

そんな稀代の天才が仕事とは何かを追求するのだからとにかく面白く、好奇心を刺激されまくるのである。

 

史上最大規模のおねショタ

さて、本作はこれ以上ないほど壮大なおねショタ物語でもある(笑)おねショタとは何かを知らない一般人のために、念のためおねショタとは何かグーグル先生に聞いてみよう。

 

おねショタとは、主に漫画作品のジャンルにおいて、年上の女性と年端も行かない少年とのカップリングを指す俗語。 ショタコンに代表する少年性愛や、もしくは年の差カップルなどのカテゴリ内に属する細分化された派閥である。 英語圏のインターネットには、日本のおねショタに相当する「Ara Ara」というスラングがある。

wikipediaより引用

 

だそうである。ちなみにエロは一切ないのでご安心ください。

予想はつくだろうから書いてしまうと、人知を超えた知性を持つAIも、カウンセリングのためにいざ人格を発現させるとなると、子どもになってしまうのである。

つまり内匠成果というお姉さんが”コイオス”という子どものカウンセリングをしてしまう話であり、失敗すると残された11基のAIでは人類すべての生活をカバーすることができないため結果的に10億人以上の人類の命運がかかったおねショタということになるのである。野﨑まどってこんなのも書けるのか....と驚嘆しつつクオリティの高い対話にこれでもかというほど知的好奇心を刺激されるのだからたまらない。

この対話は本当によくできており、ファーストコンタクトSF的な要素も多いのでSF好きが熱くなることは確実だろう。

 

以下、ネタバレ注意

何から何までネタバレするわけではないが、どうしても書きたいことがあり物語の展開には大きく触れるので、これから読もうと思われる未読の方は注意していただきたい。ただしすぐには読む気のない方や、読もうか迷っていて少しくらいなら判断材料としてネタバレがあっても問題がないという方は、物語のミステリ部分には触れないので読んでもいいかもしれない。

 

超大型巨人!?

私は中盤以降の展開と超ド派手なシーンに歓喜のあまり震えてしまったのである。

というのもAI『タイタン』は人間の思想に則った思考をするために、ハードウェアは人間の”脳”の形が取られている。しかし人間の脳を人間以外の動物の体に搭載したとして、人間と同じように考えられるであろうか.....答えはもちろん「NO」である。

つまり脳の形をしたAIは人間の形をした骨格に搭載させられているのである。その骨格の大きさたるや全長1000メートル。『進撃の巨人』に出てきた超大型巨人(60m)も真っ青の超特大サイズの巨人なのである。

そんな超超超大型巨人がね....カウンセリングの結果「ルルルルルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」と唸って立ち上がってしまうんです。このシーンでもう私は脳内麻薬が出まくってぶるぶる震えてしまったのである。(あとにさらにすごいことが待っているとも知らずに)

 

f:id:kodokusyo:20211123220545j:plain

こいつの16倍強のデカさなんですぞ(泣)

超野﨑まど展開炸裂!!

全長1000メートルの巨人が立ち上がったことですでにビックリMAXなのですが、なんと12基の巨人の中でも最も後に創られた巨人『フェーベ』に会いに行くため、第二知能拠点の北海道から第十二知能拠点であるアメリカはシリコンバレーまで歩いて行ってしまうのです!これぞおねショタロードムービー!!

この旅路がなんとも言えずほっこりしてとても良いのですよ。野﨑まど作品は冒頭で何を書いてもネタバレになりうると書かせていただいたのだが、本作の最後に参考文献があり、そこには『地球の歩き方』のロシアからシベリア、アラスカ、そしてカナダが挙がっているのである(少しネタな気もする)。参考文献を読んでもネタバレになりうるのが野﨑まど作品である。

 

感激極まる

人知を超えた超知性を持つ『コイオス』と最後の巨人『フェーベ』ーちなみにこのAIはアラサーくらいの女性の人格であるーが出逢ってどんな対話をするのだろうか、こういった人知を超えたもの同士の対話といったテーマは野﨑まどの十八番と言っても良いようで、ハードSFとして完成度の高い『know』でも似たような状況があったのだが、『タイタン』ではどうなるのか。なんと”戦う”のである。

この二体の戦闘はすさまじく(まぁデカいのだから当然だが)、『進撃の巨人』でいうなら戦鎚の巨人の能力を持った超大型巨人の16倍デカい鎧の巨人VS進撃の巨人級に未来を見据えて戦鎚の巨人の能力を持った超大型巨人のよりも圧倒的にデカい女型の巨人の戦いということになる(じつはこれが書きたくてこの記事を書きました(笑))

もうこういうの本当に好きで、一人で宴を始めてしまうくらいには我を忘れて歓喜してしまったのです。もちろんこの戦いには極めて必然的な理由があるので、その理由については本編でご確認いただければ幸いである。

f:id:kodokusyo:20211123224526j:plain

まさにこんな感じ....野まど万歳!

 

野まど的ラスト

いろいろと激しいアクションシーンを経て、”仕事とは何か”と”コイオスの機能不全の理由”という二つのミステリーを解き明かした内匠成果&コイオスのおねショタコンビは、まさに天才野﨑まどでしか思いつかないようななるほど....と唸らせる結末を迎えるのである。本作『タイタン』についてはあまり他人のレビューを拝見していないのだが、個人的には素晴らしいラストだと思う。というかこれ以上の結末は考えられないように思う。

 

今日も働く、人類へ

「仕事に疲れちゃった」とか「仕事にやりがいを感じない」ということで悩んだり、悩み過ぎて鬱っぽい症状が現れている方には本気でおすすめしたい。

野﨑まどは天才なので、作中に登場するカウンセリングについても非常に研究されたうえで書かれているようで、上記のような症状の方には様々な気付きを与えてくれるように思うからである。

登場人物は非常に少なく、文体も読みやすいのでSFが苦手な方でも問題なく読めることは保証する。超おすすめ。

 

 

 

〇おすすめ記事

kodokusyo.hatenablog.com

kodokusyo.hatenablog.com