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『プロジェクト・ヘイル・メアリー』アンディ・ウィアー|無理ゲーを乗り越えまくる極限エンターテイメント

大宇宙に、たった一人.....ではない!

 

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地味な表紙はあえてそうしているのかも

 

作品紹介

アンディ・ウィアーによる『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は2021年に早川書房より出版された作品である。
ハードカバー上下巻で650ページ弱とかなり読みごたえのある、超ハイクオリティなエンタメハードSFで、今後面白いSF小説を教えてと聞かれたら確実に本作を挙げたくなるような、心の底から人にすすめたくなるような素晴らしい物語となっている。

ハードSFだけあって、一つ一つの事象について丁寧に科学的な説明がなされるので、SF慣れしていない人や理科に興味が無い人にとってはやや読みずらい部分があるのも事実だが、小難しいところをすっ飛ばしてでも読む価値があると断言したい。なんといっても物語が本当に素晴らしいのである。

事前知識ゼロで読むべきと言われる本作だが、表紙や帯を見るだけで大まかな内容を掴めてしまうし、そもそも読む前に多少のネタを知ってしまっても魅力が減衰することはまったく無いので、ある程度話の内容に触れながら感想を書いていく。

 

 以下、あらすじの引用

グレースは、真っ白い奇妙な部屋で、たった一人で目を覚ました。ロボットアームに看護されながらずいぶん長く寝ていたようで、自分の名前も思い出せなかったが、推測するに、どうやらここは地球ではないらしい……。断片的によみがえる記憶と科学知識から、彼は少しずつ真実を導き出す。ここは宇宙船〈ヘイル・メアリー〉号――。ペトロヴァ問題と呼ばれる災禍によって、太陽エネルギーが指数関数的に減少、存亡の危機に瀕した人類は「プロジェクト・ヘイル・メアリー」を発動。遠く宇宙に向けて最後の希望となる恒星間宇宙船を放った……。

 

 

ネタバレが気になる方は今すぐ回れ右

冒頭でも触れたが『プロジェクト・ヘイル・メアリー』はネタバレ厳禁という意見をちらほら見かける。それはズバリ”密室で記憶を失った男が目を覚ますとミイラ化した遺体が2体”というまるで初代の映画SAWのようなサスペンス的な状況で幕を開けるのが理由なのだろう。しかし別にそれは掴みはOK的な小説としての著者の技巧に過ぎず、その謎めいたシチュエーションは物語全体としては大した魅力ではない。

したがって上記については気にせず内容に触れるし、もっと重要.....というか本作の最もセールスポイントとなる部分にも触れる。繰り返すが本作は多少内容を知ったところでまったく影響がないくらい素晴らしい。なので買おうか迷っている方は気にせず先を読んでいただきたい。

 

エンタメに特化した優れた構成

著者のデビュー作にしてエンタメSFとして非常に優れた『火星の人』は、言うまでもなく最高に面白い本だが、やや単調と言えなくもない。その弱点を完全に払拭して超パワーアップしたのが『プロジェクト・ヘイル・メアリー』である。

話は宇宙でのミッションシーンと地球でのプロジェクトを推進するシーンが交互に進んでいく。冒頭の謎めいたシチュエーションにどのようにして至ったのかという過程がジワジワと明らかになっていく展開はミステリー要素を孕み、読みやめるタイミングを失うほど続きが気になる仕様になっている。この展開だけでもすでに勝ちパターンなのだが、それすれも陰るほどの本作の真打があるのだ。

 

人類滅亡の危機に立ち向かう

人類滅亡を回避すべく立ち上がった『プロジェクト・ヘイル・メアリー』とはアヴェマリア計画=イチかバチか計画である。

太陽に”アストロファージ”という細菌のような宇宙生物が取り付いてしまい、太陽のエネルギーを吸収しまくることによって、太陽が徐々に力を失っていってしまい、その結果地球の気温は下がりまくり、30年で人類は滅んでしまうという状況に陥った人類が、最後の希望を託してイチかバチかプロジェクトを立ち上げた。

同じくアストロファージに寄生されているにもかかわらず、エネルギーを失っていない恒星が地球から10光年以上離れた場所で観測されたのである。このプロジェクトは三人の勇気ある乗員がその恒星の謎を解き明かして地球に情報を送るという特攻ミッションで、崖っぷちに立たされた人類はこのミッションにすべてを託したのだ。ただターゲットとなる恒星にたどり着く前に、乗員二人は死亡してしまっていた。そんな絶望的な状況の中、主人公のグレースは無理ゲーにただ一人立ち向かっていくのだが....。

まずもう設定が勝利だよ....傑作と称されるSFには大きく分けて2パターンあると思っていて、一つ目はSFとしては超凄いけど、娯楽作品としては完全にアウトなパターン(例えば『幼年期の終わり』とか『果しなき流れの果に』、さらに言えばグレッグ・イーガン全般とか)。そして二つ目はSFとしても娯楽作品としても一級品であるパターンである(例えば『夏への扉』とか『われはロボット』、『星を継ぐもの』や『三体』)。

本作は間違いなく後者にあたり、SFとしてもエンターテイメント作品としても比類なき完成度を誇っている。

 

真打登場

さて、いよいよ『プロジェクト・ヘイル・メアリー』最大の魅力について語りたいと思う。そもそも隠すことはないようにも思うのだが、ズバリ同じ災禍に見舞われた地球人とそれなりに科学の発展度合いが近い異星人とファーストコンタクトを果たすのである。しかもその異星人は友好的で主人公とも境遇が近いためまさかの共闘をすることになるのだ。人間の科学者×異星人のエンジニアである。無敵ですよね、もうこの時点でマスターピース確定なのだ。

しかしその異星人は人間とはかけ離れた姿を持つのだが、その生態について執拗に丁寧に描かれるのは『星を継ぐもの 三部作』の二作目、『ガニメデの優しい巨人』を彷彿とさせる。つまり人類の命運をかけたミッションに加えて、ファーストコンタクト作品の醍醐味、さらには異星人の生物学に探偵と助手の如き相棒型ミステリーの要素まで内包しているのだ。無敵ですよ、無敵。

で、二人ともキャラがすごく良いし二人のコンビネーションも素晴らしくて、”アストロファージに取りつかれても平気な恒星”という魅力的な謎に立ち向かっていくのである。面白い要素をこれでもかというほど詰め込んだかのようである。著者は本当に凄いよ....。

 

大宇宙での共闘

これが本当によくできてるんです。

おいおいマジかよよツッコミを入れたくなるほど科学に強い人間と、未知の素材を使って何でも直したり作ったりしちゃうし、最強の暗算能力を持った異星人と役割分担がとてもしっかりしていて、ホームズとワトソンというよりはそれぞれがフロントに立って得意分野の作業を着々とこなしていく感じ。そして船外作業などかなりの危険に瀕したりしながらも、謎を解き明かし、さらに故郷を救うためにそこからさらに奮闘しまくる展開は本当に面白い。

ユーモアあふれる二人のやり取りにニヤニヤし、お互いを助けるために命をも省みずに行動する二人には感動させられる。よくありがちなお涙頂戴の狙ったパターンとは異なり、まさに必然的に感動が生まれるのは本来、こっち系の話が嫌いな私でも素直に心を動かされた。これだから万人におすすめしたくなるのである。

 

意外な結末

どう物語を収束させるのだろう....ありきたりなラストだったら怒るぞ!(笑)といったノリで、終盤は超スピードで読み進めてしまったのだが、待っていたラストは私のようなアメリカ的ハッピーエンドには耐えられないひねくれた人間にも十分に納得のいくものであり、ますますアンディ・ウィアーマジ最高となったのである。

一筋縄ではいかないが、これ以外は考えられないぜ!な結末はぜひとも確かめていただきたい。

 

今後の評価が気になる

個人的には『火星の人』よりも格段に優れた作品だと思うし、これまでに読んできたSF作品の中でもかなりの傑作の部類に入ると考えている。マジで超傑作。

今後映画化もされるし、どのような評価がなされていくのかが本気で気になるものだ。またアンディ・ウィアーの次回作もめっちゃ期待ができる。なんせまだ作家にしてはギリギリ若い方だしあと何作かは凄い作品を書いてくれそうなので今後が楽しみである。

 

 

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