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『薫香のカナピウム』上田早夕里|異形蠢く遠未来森SFファンタジー

秘密に包まれた未来の森の物語

 

 

作品紹介

上田早夕里による『薫香のカナピウム』は2015年に文芸春秋社より出版されたSFファンタジー作品で、文庫版で340ページ程度の長編である。

森SFのオールタイムベスト作品『地球の長い午後』の世界観のような生態系が一変した遠未来の森が舞台となるファンタジー作品かと思わせつつ、しっかりと著者お得意のハイクオリティSF作品なので、ファンタジー好きにもSF好きにも満足がいく内容になっている。また優れた冒険小説でもあり、さらには世界の秘密に迫るタイプのミステリーでもあるので、一気読み確実の素晴らしいエンタメ作品に仕上がっている。

SFファンタジー作品にありがちな、専門用語や造語はそれなりにあるものの、比較的読みやすいという点もおすすめポイントである。想像力が溢れまくって様々な驚きが秘められた本作を紹介していきたい。

 

 以下、あらすじの引用

生態系が一変した未来の地球、その熱帯雨林で少女は暮らす。“カナピウム”と呼ばれる地上四十メートルの林冠部には多彩な動植物が集まり、少女たちは彼らが発散する匂いを手掛かりに、しなやかに樹上を跳び回る。ある日やってきた旅の者たち、そして森に与えられた試練。少女の季節は大人へと巡っていく。

 

 

森SFファンタジーと聞おて血が湧きたつ者へ

本作の冒頭は『風の谷のナウシカ』の元ネタの一つと称されるブライアン・W・オールディス著『地球の長い午後』を敢えて意識したのではないかと思われるシーンから幕を開ける。最初の章を読み終えた瞬間「キターーーーーーー!」と唸ってしまった。

もうとにかくこの世界観が大好きなんですよ....森SFファンタジー!!ナウシカ好きという性癖のせいで、腐海的な雰囲気を感じるともうテンションが上がりまくってしまうのです。もちろん『もののけ姫』も好き。そして『女神転生』を生んだアトラスの鬼畜ダンジョンRPG世界樹の迷宮』なんかは私の性癖に400%突き刺さるのだが、本作はそういった作品が好きな人が読んだら、脳内麻薬が爆裂する要素がこれでもかというほど秘められている。

生態系が一変し、文明も大きく退化していると思われる遠い未来の森、そして遠くに見える軌道エレベーター....いわゆるギャップ萌えというものだろうか。SFファンタジーだけあって、かなり独特な設定も数多くあるので、読み進めると途中で何度も驚くことになるかもしれない。文庫版の解説ではSF界の女王こと池澤春奈さんも驚いたとおっしゃっているので、きっと誰が読んでも「おっ!」「なぬッ!」となることだろう。

 

ちょっとヤバい想像力

前述の通り、森とSFという世界観だけですでに大満足な感じなのだが、異形を書くことを得意とする上田早夕里だけあって、ちょっと訳ありな感じの奇妙な生物が頻繁に描写される。また人間たちも〇〇族といった形に分かれていて、文化だけではなく生態も含めて我々ホモ=サピエンスと異なる要素がある。

人間と異なる要素の超設定っぷりに読んだ時は、「どういうことだってばよ???」と混乱するとともに、我が目を疑い活字を二度見三度見してしまった。しかも読了後も「ぬぬぬ???」な感覚は残っている。なるべく何も知らずに読んだ方が良い作品なのでこれ以上は控えておくが、SFならではの特殊極まるジェンダーが関連しているということだけは挙げておきたい。『華竜の宮』でセンス・オブ・ジェンダーを受賞した作家だけあって、性に関して凝りに凝った設定が楽しめる。

 

世界の秘密に迫り刺激される好奇心

数あるエンターテイメント要素の中でも、私はとりわけ壮大なスケールのミステリーが好きである。ミステリではなくミステリー。ここが重要である。

殺人事件の犯人当てだとか、密室殺人やら鉄壁のアリバイといった謎を解くようなスケールが小さくてしょぼいミステリ作品は反吐が出るほど嫌いなのだが、人類の起源や宇宙の神秘、オーパーツなどの好奇心が刺激されまくるミステリーは大好物だ。

有名どころでいうとアーサー・C・クラークの『宇宙のランデブー』とかJ・P・ホーガンの『星を継ぐもの』、個人的な超激推しH・P・ラブクラフトの『狂気の山脈にて』、さらに範囲を広げるなら『進撃の巨人』なんかも壮大なミステリーになるのだろうけど、こういうのを読むとテンションが上がり過ぎて眠れなくなってしまう方には本作も漏れなくおすすめである。最初から最後まで好奇心を刺激され続けるので、読み切るまで昂ぶりは収まらないだろう。

 

色々な要素が詰め込まれ過ぎ

『薫香のカナピウム』唯一の弱点であり、また良い部分でもあることなのだが、300ページ程度の物語に収めるには贅沢過ぎるほどの、様々な設定が投入されている点が挙げられる。余裕で1000ページ級の大作にまで話を広げられるほどの世界観なので、短い時間で濃密な物語を堪能できる一方で、まだまだ説明不足な要素が多いのでもっと長く読んでいたかったという気持ちも残るかもしれない。

その辺は好みが分かれるところかもしれないが、個人的には全体をコンパクトにまとめながらも、お手本のようにバッチリ起承転結を決めているので、これはこれで悪くないと思う。本当にもったいないくらい驚きの設定が盛り込まれまくっているので、妄想力(笑)に特化した方なら、脳内でどこまでも世界を広げていけることだろう。

 

読まないと分からない世界観

このブログは原則ネタバレしない方針で書いているので、秘密が多い『薫香のカナピウム』については、ほんの上辺を説明することしかできない。面白い設定のほとんどに触れていないので、興味を持たれた方がいたらぜひ読んでいただきたい。

容易に映像化できない作品こそ本当に読むべきだと私は考えている。本作はまさに読むべき一冊である。強くおすすめしたい。

 

 

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