ゴッドオブミステリーの笑撃!!
作品説明
島田荘司御大による『屋上』は講談社から2016年に出版された作品である。
文庫版のページ数は解説込みで548ページと常軌を逸したバカミスなのに結構な大ボリュームである。
新本格の祖と称される伝説のミステリー作家がバカミスに全力投球するとどうなるかが分かるトンデモ本であり、Amazonレビューでは☆5と☆1と両極端な評価がなされている通り、はっきりと評価が分かれる作品である。
本格推理小説マニアからすれば壁投げ本確定であり、純粋にミステリーやコメディとしてみれば素晴らしい作品ということになる。
伝説のメフィスト賞受賞作である『六枚のとんかつ』的なポジションだろう。
私個人の意見としてはずばり神本である。
御手洗シリーズの中でも最高峰に魅力的な謎が提示されていて、なおかつトリック(笑)も登場人物も最高で笑いが止まらなかったのである。
以下、あらすじの引用。
自殺する理由がない男女が、次々と飛び降りる屋上がある。足元には植木鉢の森、周囲には目撃者の窓、頭上には朽ち果てた電飾看板。そしてどんなトリックもない。死んだ盆栽作家と悲劇の大女優の祟りか?霊界への入口に名探偵・御手洗潔は向かう。人智を超えた謎には「読者への挑戦状」が仕掛けられている!
島田御大ご乱心
上記の通り、賞賛と批判という両極端なレビューが散見されるため、これはきっとやらかしたなと確信。
そもそも島田御大の作品は『占星術殺人事件』の時点でかなりブッ飛んでいるし、2作目の『斜め屋敷の犯罪』はすでにバカミスと言っても間違えではないようなものだった。つまり何が起きてもおかしくないのだった。
そしてこの『屋上』読み終えた結論から言うと、
おバカ。
バカミスとは聞いていたが、聞きしに勝る"そんなバカなっ!?"なトリック(と言っちゃっていいのかは不明)は賛否両論を巻き起こして当然なしろものだった。
しかもトリックがおバカなだけではなく、何から何までがアホくさくて、島田荘司御大の遊び心を爆発させたと断言できる内容になっている。
本作を書いてる時の島田御大はきっとニヤニヤしていたに違いない(笑)
『斜め屋敷』の特大トリックに『暗闇坂』の悪魔的偶然をさらに強化して掛け合わせたようなクソバカさ加減に私は盛大な拍手を送りたい!!
そして私は『屋上』に低評価をした者に問うてみたい。
「あなた、これが楽しめなくて人生何が楽しいのん?」とね。
どうなってるのこのフォント??
一体なにを意図してやったのかさっぱり分からないのだが、一人称が変わるたびにフォントがおかしくなる。
フォントが変わるだけでこんなに文章の印象がガラッと変わってしまうものなのかと驚かされる....ひょっとして驚かすのが目的だったのだろうか(笑)
一人称が苦行者の時に使用されるフォントはとにかく読みづらい。
目がチカチカしてしまい申したぞ。しかも何となくキラキラしてるフォントなのに内容はなかなか重いというギャップが痛い。
一人称がサンタクロースの時に使用されるフォントはまるでギャル文字のようにかわいらしいものである。
にもかかわらず文章は汚くて笑える言葉遣いが多くてこれまたギャップに笑わされてしまうのである。
宇宙人ってなんだよ.....というツッコミも入れたくなるし、話のアホ臭さも相まってこのフォントは逆に違和感がなくなっている。
魅力的な謎、屋上の呪い
『屋上』の事件はまさしく島田御大の十八番である、怪談としか言いようがない謎の中でもトップレベルの不可解さに仕上がっている。
いわく付きの盆栽がところ狭しと敷き詰められた銀行の屋上。
盆栽に水をやりに行ったある秘密を共有する係長の部下たちが飛び降り自殺をしてしまい、ついには係長までもが飛び降り自殺してしまう。
しかしその人たちはいずれも「絶対に自殺なんかしませーん!!」という人たちだった。
- トム・クルーズ(に似た人)との結婚を控えてる女性
- 間もなく子どもが生まれる男性
幸せ絶頂な人たちがなぜ自殺してしまうのか気になりまくりである。
事件の真相はだいたいこんな感じだろう.....という予測はできたが、想定を超えるアホっ振りに空いた口が塞がらなくなる。
というか島田御大ならではのトラップが仕掛けられているので、そんなふざけた遊び心も本格推理マニアにはイラつくのかもしれない。
しかしどいつもこいつも俺は死なん的なポジティブシンキングが不幸を招いたともいえるのだろう。
もっと碇シンジ君的なネガティブシンキングで綾波に守ってもらうくらいのヘタレっぷりが一番安全なのだと思う。
フザけ過ぎ.....そしてみんなバカ過ぎる。
御手洗シリーズだということで本格推理小説をイメージされる方は多いと思う。
しかし『屋上』は本格推理小説ではなく、本格おバカコメディ小説なのである。
島田御大は40代くらいまでの頃の著者近影を見ると、どの写真もなかなか怖い顔をしているし、還暦を超えたあたりの近影を見るととても知的なお姿をされているので、作風もさぞかしお堅いものかと思う方もいるかもしれない。
しかし島田御大は間違いなくコッチ側(お笑い界)の人間なのである。
したがって還暦を過ぎてこのようなお笑い作品を書くのはさぞかし面白かったのだと思う。
『屋上』においては狂人なはずの御手洗が1番真面目な人に見えてしまうくらい、石岡君含めあらゆる登場人物がおバカに徹している。
主役となる銀行員みんなのギャクがキレッキレ過ぎるせいで、むしろ後半御手洗が登場してからの方が、退屈に感じるほどなのだ。
私は電車の中で本を読むことが多いので、危険なにおいを嗅ぎ取ると笑わないよう細心の注意をはらっていたのだが、2回ほど我慢しきれなくなり電車の中で吹いてしまった。周りの人からはさぞかし恐れられたことだろう、ごめんなさい。
〇私が爆笑して死にかけたセリフ
・サンタクロース
「こんな銀行ぶっつぶしてやろうか」
・関西弁と宇宙人
「ありがとう、来てもろて」
「君、大阪の人?」
「はいそうです。なんで解ったん」
そしたら男(宇宙人)は笑った。
いやいや....私が笑ってしまったよ.....。
○アホ過ぎる解答
以下、事件に関わってくる要素である。
わけの分からない謎がばらまかれ、その一つ一つが導く論理的な帰結とは!?
( ゚д゚ )......。
こんな絵文字も使いたくなりますよ....。
実は島田作品のエッセンスが詰まっている
批判する意見が多いが、この『屋上』こそは島田御大の魅力と悪い癖を高密度に凝縮して、余計なものを濾過した奇跡の作品なのだ。
島田荘司と言ったら何と言っても伝説のデビュー作『占星術殺人事件』だろうし、おすすめするとなればほとんどの人は占星術を紹介するだろう。
たしかに『占星術殺人事件』には世界最強クラスのトリックが使われているだけでなく、メインの事件以外の2つの事件もかなり豪華なトリックが使われている。
ただし冒頭が難解なせいで読みずらい印象を与えたり、グロ描写や性的な描写があるため必ずしも万人に勧められる内容だとは言い難い。
そこで島田布教に役立つのが『屋上』である。
読みやすくて笑えるし、トリック(笑)はすごいし、登場人物は魅力的な人ばかり....おすすめしない訳にはいかない。
他の超傑作群を差し置いて、最初の1冊にしてもいいくらいだとも思っている。
島田御大のお力添えでデビューした新本格ムーブメントの作家の方々が『屋上』を読んだら果たしてどんな感想を持つのだろうか...(ちなみに解説は乾くるみ)
グダグダと書いてしまったが、本作は面白い。
そしてこの本を楽しめるようであれば、バカミスと呼ばれるようなギャグに等しい作品も楽しめることだろう