神本を求めて

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井上夢人|作品一覧とおすすめランキング10選

ジャンルにとらわれない夢物語

 張られた伏線は必ずしもすべて回収されるとは限らないため、独特の夢のような余韻に浸れる作品が多い。
そして何と言っても岡嶋時代からの圧倒的なリーダビリティは健在どころかさらにパワーアップしており、魅力的な謎と読みやすさにより徹夜本が多いという危険な特徴がある。

作品一覧

 井上作品の特徴は寡作だがどの作品もクオリティが高いシリーズ作品がない徹夜本のオンパレードというのがある。したがってどの作品から読んでも問題はない。

 

  1. ダレカガナカニイル…(1992年)
  2. あくむ|短編集(1993年)
    ホワイトノイズ / ブラックライト / ブルーブラッド
    ゴールデンケージ / インビジブルドリーム
  3. プラスティック(1994年)
  4. パワー・オフ(1996年)
  5. もつれっぱなし|短編集(1996年)
    宇宙人の証明 / 四十四年目の証明 / 呪いの証明
    狼男の証明 / 幽霊の証明 / 嘘の証明
  6. メドゥサ、鏡をごらん(1997年)
  7. 風が吹いたら桶屋がもうかる|連作短編集(1997年)
    風が吹いたらほこりが舞って / 目の見えぬ人ばかりふえたなら
    あんま志願が数千人 / 品切れ三味線増産体制
    哀れな猫の大量虐殺 / ふえたネズミは風呂桶かじり
    とどのつまりは桶屋がもうかる
  8. オルファクトグラム(2000年)
  9. クリスマスの4人(2001年)
  10. the TEAM|連作短編集(2006年)
  11. あわせ鏡に飛び込んで|短編集(2008年)
    あなたをはなさない / ノックを待ちながら
    サンセット通りの天使 / 空部屋あります / 千載一遇
    私は死なない / ジェイとアイとJI / あわせ鏡に飛び込んで
    さよならの転送 / 書かれなかった手紙
  12. 魔法使いの弟子たち(2010年)
  13. ラバー・ソウル(2012年)
  14. the SIX|連作短編集(2015年)
    あした絵 / 鬼の声 / 空気剃刀
    虫あそび / 魔王の手 / 聖なる子 

 

 

作品ランキング

 ジャンルを意識させない作風だけに、読者によってかなり好みは異なってくると思われる。本格ミステリ寄りの作品が好きであれば『the TEAM』や『ラバー・ソウル』を推すのだろうが、私はSFやファンタジー、オカルトが好きなIT企業の会社員なのでそういった要素の強い作品を高く評価するようにしたい。

 

10位  the TEAM(2006年)

 

悩みを解決していたのは、霊視ではなく…!?
人気〈霊導師〉の能城あや子。実は、スタッフが収集する情報で、霊視しているかのように装っているのだ。彼女の正体を暴こうと、週刊誌の記者が調査に乗り出すが…。痛快連作集!

 

 本格ミステリ寄りの作品であるため、岡嶋二人ファンであればまず間違いなく高評価するであろう作品。
流麗な筆致による読みやすさと計算された面白さ、ミステリーとしての完成度を兼ね備えたとてもよくできた作品である。
 機械やIT技術とオカルトといった著者の得意分野が存分に発揮されているのと、連作短編形式で読みやすいということもあり、井上作品初読みの方にもおすすめである。

the TEAM ザ・チーム (集英社文庫)

the TEAM ザ・チーム (集英社文庫)

  • 作者:井上 夢人
  • 発売日: 2009/01/20
  • メディア: 文庫
 

 

9位  あわせ鏡に飛び込んで(2008年)

 

 幻の名作「あわせ鏡に飛び込んで」をはじめ、瞬間接着剤で男をつなぎとめようとする女が出てくる「あなたをはなさない」、全篇、悩み相談の手紙だけで構成されたクライムミステリー「書かれなかった手紙」など、選りすぐりの10篇を収録。精緻に仕掛けられた“おとしあな”の恐怖と快感。

 

 異常にクオリティの高いバラエティ豊かな短編集である。
この1冊だけで井上作品の魅力は概ね味わうことができるため、短編から入りたいならとてもおすすめな作品だ。

 全10作と作品数が多いのだが、どの作品もタイプがバラバラでいずれも井上作品独特の読後感を10連発で味わうことができる。

 

あわせ鏡に飛び込んで (講談社文庫)

あわせ鏡に飛び込んで (講談社文庫)

  • 作者:井上 夢人
  • 発売日: 2008/10/15
  • メディア: 文庫
 

 

8位  ラバー・ソウル(2012年)

 

 幼い頃から友だちがいたことはなかった。両親からも顔をそむけられていた。36年間女性にも無縁だった。何度も自殺を試みた―そんな鈴木誠と社会の唯一の繋がりは、洋楽専門誌でのマニアをも唸らせるビートルズ評論だった。その撮影で、鈴木は美しきモデル、美縞絵里と出会う。心が震える、衝撃のサスペンス。

 

 本格ミステリファンであれば最高傑作に挙げるであろう、凝りに凝った仕掛けとビートルズ愛が詰まった傑作。

ひたすらストーカーの気持ち悪い描写が続くのだが、真相が判明した時の驚きは何とも言えないものがある。

完成度の高いミステリー作品は、真相を把握したうえで伏線を回収しながら再読するという楽しみ方があるが、すべてを知ったうえで読む『ラバー・ソウル』は伏線回収など生温い、別次元に生まれ変わった物語と精密な仕掛けの妙技を堪能することができる。

ラバー・ソウル (講談社文庫)

ラバー・ソウル (講談社文庫)

  • 作者:井上 夢人
  • 発売日: 2014/06/13
  • メディア: 文庫
 

 

7位  魔法使いの弟子たち(2010年)

 

 山梨県内で発生した致死率百パーセント近い新興感染症。生還者のウィルスから有効なワクチンが作られ拡大を防ぐが、発生当初の“竜脳炎”感染者で意識が戻ったのは、三名だけだった。その中の一人で、週刊誌記者として取材にきて感染した仲屋京介は、二人の生還者とともに病院内での隔離生活を続ける。やがて彼ら三名は、「後遺症」として不思議な能力を身につけていることに気づき始める。壮大なる井上ワールド、驚愕の終末―。

 

 ジャンルにとらわれない井上作品は、物語がどのように進んでどのように収束するのかがまったく読めずにひたすら振り回されるという楽しみ方があるのだが、『魔法使いの弟子たち』は最もそのパターンが強く表れていて、予測不能な展開を思う存分体感させられることになる。

 超強力なウイルスが登場したと思ったら、生存者に謎の後遺症が現れ.....うん、まったく先が読めません。

 

魔法使いの弟子たち (上) (講談社文庫)

魔法使いの弟子たち (上) (講談社文庫)

  • 作者:井上 夢人
  • 発売日: 2013/04/12
  • メディア: 文庫
 
魔法使いの弟子たち (下) (講談社文庫)

魔法使いの弟子たち (下) (講談社文庫)

  • 作者:井上 夢人
  • 発売日: 2013/04/12
  • メディア: 文庫
 

 

6位  クリスマスの4人(2001年)

 

 1970年、ビートルズが死んだ年の聖夜、物語は始まった。その夜を共に過ごした二十歳を迎える四人の男女。ドライブ中の車の前に突然、飛び出してきたオーバーコートの男。彼らは重大な秘密を共有する羽目になった。その後、十年毎に彼らを脅かす不可解な謎と、不気味に姿を現す男。2000年、時空を超えた結末は、破滅か、奇跡か!?奇想あふれる傑作長編小説。

 

 井上夢人的な要素をこれでもかというくらい凝縮した最強の一気読み小説である。

 リア充全開なイチャイチャから一転、謎の人物を轢き殺してしまい、不可解極まりない謎に巻き込まれていく様は最高に面白い。

10年ごとのクリスマスに4人が再開し、事故の話を語り合うというシチュエーションが妙に味わい深い。

 

クリスマスの4人 (光文社文庫)

クリスマスの4人 (光文社文庫)

  • 作者:井上 夢人
  • 発売日: 2004/12/10
  • メディア: 文庫
 

 

5位  オルファクトグラム(2000年)

 

姉を殺害した犯人に、事件現場で襲撃された片桐稔は、その後遺症から通常の“匂い”を失い、イヌ並みの嗅覚をもつことに…。まったく違う世界に戸惑いながらも、失踪したバンド仲間を、嗅覚を頼りに捜し求めてゆく。新たな能力を駆使することで、姉の仇を討てるのか?新感覚の大長編異次元ミステリー。

 

 井上夢人にしか書けないであろう唯一無二な内容で、他の作家にはまず書くことができない”嗅覚”小説である。

 殺人事件の真相を特殊な嗅覚を用いて追うミステリーというよりは、嗅覚が視覚に取って代わった世界を見事に描いたファンタジーのような作品である。
匂いが見えるという感覚によって描かれる世界感はすごいとしか言いようがない。

膨大なページ数だが、圧倒的な読みやすさが時間を忘れさせ睡眠時間をゴリゴリ削る極めて危険な徹夜本である。

 

オルファクトグラム(上) (講談社文庫)

オルファクトグラム(上) (講談社文庫)

  • 作者:井上 夢人
  • 発売日: 2005/02/15
  • メディア: 文庫
 
オルファクトグラム(下) (講談社文庫)

オルファクトグラム(下) (講談社文庫)

  • 作者:井上 夢人
  • 発売日: 2005/02/15
  • メディア: 文庫
 

 

4位  ダレカガナカニイル…(1992年)

 

 警備員の西岡は、新興宗教団体を過激な反対運動から護る仕事に就いた。だが着任当夜、監視カメラの目の前で道場が出火、教祖が死を遂げる。それ以来、彼の頭で他人の声がしはじめた。“ここはどこ?あなたはだれ?”と訴える声の正体は何なのか?ミステリー、SF、恋愛小説、すべてを融合した奇跡的傑作。

 

 オカルト全開なソロデビュー作品で、様々な要素が混ざり合った内容である。

『ダレカガナカニイル...』のすごいところは、あまり良い話ではないのかもしれないが、当時世間を賑わせたオウム真理教が事件を起こす前に、オウムに酷似した新興宗教が登場することである。

密教やヨガ、催眠術などについてこれ以上ないほど豊富な知識が得られる小説でもある。オカルトマニアや超常現象を前提としたミステリーが好きな方は必読である。

 

ダレカガナカニイル… (講談社文庫)

ダレカガナカニイル… (講談社文庫)

  • 作者:井上 夢人
  • 発売日: 2004/02/13
  • メディア: 文庫
 

 

3位  メドゥサ、鏡をごらん(1997年)

 

 作家・藤井陽造は、コンクリートを満たした木枠の中に全身を塗り固めて絶命していた。傍らには自筆で〈メドゥサを見た〉と記したメモが遺されており、娘とその婚約者は、異様な死の謎を解くため、藤井が死ぬ直前に書いていた原稿を探し始める。だが、何かがおかしい。次第に高まる恐怖。そして連鎖する怪死! 身の毛もよだつ、恐怖の連鎖が始まる。

 

 徹夜本となる要素が詰まりに詰まった、睡眠時間キラー小説である。 

ジャンルを書くこと自体がネタバレにつながるような内容であり、ミステリーなのかホラーなのか分からない展開がひたすら続く。

魅力的で不可解な謎、圧倒的に読みやすい文章、そこそこのボリュームと読み始めたその時から先が気になりまくること必至である。

 

メドゥサ、鏡をごらん (講談社文庫)

メドゥサ、鏡をごらん (講談社文庫)

 

 

2位  パワー・オフ(1996年)

 

 高校の実習の授業中、コンピュータ制御されたドリルの刃が生徒の掌を貫いた。モニター画面には、「おきのどくさま…」というメッセージが表示されていた。次々と事件を起こすこの新型ウィルスをめぐって、プログラマ、人工生命研究者、パソコン通信の事務局スタッフなど、さまざまな人びとが動き始める。進化する人工生命をめぐる「今」を描く。

 

 著者が得意としているIT分野の知識が本領発揮された超傑作SFである。

1996年に書かれた作品ということが信じられないくらい、コンピュータウイルスやネットワーク、セキュリティについて詳細に描かれている。
しかもAI(人口知性)ではなく、生物学や進化論に基づくAL(人工生命)という独自の発想がなされているため、時が経っても廃れない普遍的な作品となっている。

 読者にそれなりのITリテラシーがなければ、いかに『パワー・オフ』がすごいのかを理解できないかもしれないが、仮にITの知識が乏しくても楽しむことができるし、なにより今読んでも勉強になるという全人類必読の1冊である。

 

パワー・オフ (集英社文庫)

パワー・オフ (集英社文庫)

  • 作者:井上 夢人
  • 発売日: 1999/07/16
  • メディア: 文庫
 

 

1位  プラスティック(1994年)

 

 54個の文書ファイルが収められたフロッピイがある。冒頭の文書に記録されていたのは、出張中の夫の帰りを待つ間に奇妙な出来事に遭遇した主婦・向井洵子が書きこんだ日記だった。その日記こそが、アイデンティティーをきしませ崩壊させる導火線となる! 謎が謎を呼ぶ深遠な井上ワールドの傑作ミステリー。

 

 徹夜兵器となりうる井上夢人の最終到達点といえる超絶ミステリー。

不可解な謎がさらなる謎を呼び続ける強烈な展開に夢中になることは確実であり、しかも途中で真相が分かってしまったとしても、『プラスティック』に仕掛けられた真打となる渾身の一撃に驚嘆させられることだろう。

言うまでもなく、読み始めたら最後読み終わるまで何も手につかなくなるほどの凄まじい一気読み作品である。

 

プラスティック (講談社文庫)

プラスティック (講談社文庫)

 

 

番外編  風が吹いたら桶屋がもうかる(1997年)

 

 牛丼屋でアルバイトをするシュンペイにはフリーターのヨーノスケと、パチプロ並の腕を持つイッカクという同居人がいる。ヨーノスケはまだ開発途上だが超能力者である。その噂を聞きつけ、なぜか美女たちが次々と事件解決の相談に訪れる。ミステリ小説ファンのイッカクの論理的な推理をしり目に、ヨーノスケの能力は、鮮やかにしかも意外な真相を導き出す。

 

 ユーモア全開な作品だが、内容的には井上作品の中でも最も本格推理小説に近い内容となっている.....のかどうかは読んでみてのお楽しみ(笑)

 すべてがコントのようなワンパターンというなかなか尖った連作短編で、役に立たないけどすごい超能力と、当たるとは限らないけど極めて論理的な推理が導く論理的帰結は毎回空気が抜けてしまったような笑いをもたらす。

 

風が吹いたら桶屋がもうかる (集英社文庫)

風が吹いたら桶屋がもうかる (集英社文庫)

  • 作者:井上 夢人
  • 発売日: 2000/07/19
  • メディア: 文庫
 

 

 

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