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『日本アパッチ族』小松左京|日本SF総大将衝撃のデビュー作

食鉄人種アパッチ族 VS 人類

 

こんな奴がいたら怖いって.....

作品紹介

小松左京による『日本アパッチ族』は1964年に光文社より出版された作品で、文庫版でおよそ400ページの長編であり、国内SFの御三家として君臨する小松左京のデビュー作である。新婚ほやほやだが超貧乏だった当時の小松左京が、妻を楽しませるために書いたという経緯があるためか、次作の『復活の日』以降の作品と比べると、ハードSF的な要素や風刺小説の側面を持ちつつも、エンターテイメントに特化した大衆娯楽小説となっている。

社会風刺と豊富な知識から生まれた奇想、そしてセンスのいいユーモアが組み合わさって、荒唐無稽だがやたら面白い物語に仕上がっている。また食鉄人種こと”アパッチ族”の生体については、気合いの入った詳細な描写がなされており、若かりし頃の著者がすでに博識であったことが伺える。さらにアホな設定からしっかりしたプロットを組み立てて、最後まで読者を楽しませるという点で、ストーリーテラーの才能も発揮している。偉大な作家のすべてが詰まったデビュー作について書いていく。

 

 以下、あらすじの引用

会社の上司の鼻をひっぱったために懲戒免職。さらに三か月以内に就職しなかったとして、失業罪で逮捕、追放の判決を受けた木田福一。砲兵工廠跡地に追放された彼は、餓死寸前で野犬に食われそうになっていたところを、アパッチ族に助けられた。赤銅色の肌を持ち、鉄を主食としているアパッチ族。木田は、彼らの一員となり、謎に包まれた生体と生き様について、記録していく。初の長編にして最高傑作の呼び声高い記念碑的作品!

 

 

冒頭からスーパーハイテンション

『日本アパッチ族』は労働が国民の権利ではなく義務となり、失業が重大な罪となる改変された1960年代の日本が舞台となっている。

アホな理由で懲戒免職をくらい失業した主人公・木田(キィコ)が実質死刑と同義の”追放刑”となり、警察に追放地に連行されるところから物語は幕を開ける。連行されるシーンがのほほんとしていて緊張感がないのに、いざ追放地に放たれると食べ物無し、飲み物無し、周囲には飢えた野犬が無数に存在するというと地獄が待っているというギャップ萌えを楽しむことができる。なおこの追放地は放り込まれたら最後、脱獄を試みても配備された兵器に木端微塵に粉砕されることになる。

そんな地獄に追放早々なすすべなく死にかけていると、山田捻という追放された政治犯に命を助けられ知恵を絞って脱獄を試みようとするものの.....。

ここまでが序盤。しかしすでに長編を一本読み終えた級の感覚を味わえてしまうのである。この時点で奇妙な怪物の噂は耳に入っていて、ついに奴らとの邂逅を迎えるのである。

 

食鉄人種アパッチ族

ついに登場アパッチ族!....で、彼らがとても面白いのである。やたら詳細に書かれるアパッチ族の生体も面白いのだが、さらに笑えるのが彼らのキャラでまさに鉄人なのである。みな口数は乏しく、表情は硬く笑うことも無いのだが(死ぬとき以外)、流麗な関西弁と危機に陥っても平然としてのほほ~んとしているところがとにかく笑えるのだ。

書いてみてどう笑えるのか全然伝わらないであろうことは認識しているのだが、軍隊が攻めてきてものんびり我関せずで、リーダーはいつも鼻毛を抜いているし緊張感が皆無というのは「ぷっ(笑)」という笑いを連発させること必至なのである。

続いて彼らの生体。いうまでもなく鉄を喰う。そしてガソリンや塩酸を飲む。皮膚は鉄になっていて、身体能力は人間の時から飛躍的に強化される。体が欠損しても溶接すれば回復可能で、弾丸が撃ち込まれまくっても、突き刺さった弾丸がやがて肉体に取り込まれるという無敵っぷり。ちんこも鋼鉄になっていて、酸性の精子アルカリ性卵子にぶっかけることによる中和作用で受精するなど、アホな設定が細部まで描写される。これも笑える。ちなみにアパッチ族のうんこは非常に優秀な鋼鉄である。(汚いけど)

通常の人間が鉄を喰うことによってアパッチ化が進むのだが、完全アパッチ族化されるにはそれなりの時間がかかる。この設定が微妙にゾンビっぽいのがたまらない。アパッチ族とは人間が進化した別の生命体らしい。

 

軍隊 VS アパッチ族

アパッチ族が危険視されたことにより、政府が軍隊を派遣してアパッチ族を抹殺しようと試みるのだが、身体能力が高いわ、銃弾が効かないわ、戦車や銃器は食べられてしまうなど、アパッチ族が想定外に強力で軍隊は手も足も出ない。熾烈な戦いなのにアパッチはのんびりしているし、死ぬ時だけ笑うので不気味だし、なんか笑えるしで、軍隊側は気の毒だけど読んでいて非常に面白い戦闘なのである。

鉄を喰うだけで人間ではなくなる代わりに、不死身に超人になれるとしたらなりたいだろうか....私はなりたいかもしれない。

 

政治的な思惑と日本滅亡

前述の通り、アパッチ族のうんこは貴重な鉄資源なのでとても価値が高い。そのうんこをめぐって政治的なあれこれがあり、アパッチ族と人間の最終戦争がはじまり、ついに日本滅亡というとんでもない状況を迎えるのである。

この辺は書きすぎるとネタバレになるので、あまり触れないようにするのだが、アパッチ族がじわじわと数を増やしてきて、人類に取って代わっていく流れはずばりバイオハザードのようであり、また『復活の日』や『日本沈没』を上梓したシミュレーション小説を書かせたら日本一の著者だけあって、滅亡に向かう過程が異様にリアリティがあるのだ。

生き残ったのは人類かアパッチ族か.....そこは読んで確かめてほしいのだが、どちらかが勝利したかという部分には哲学的な問いかけがなされているようでもある。この物語は社会から棄てられた棄民が逆襲するという風刺的な側面がとても強いので、ただ話が面白いだけでなく、何かと考えさせられるのが素晴らしい。

 

これを書いたのが30代前半だと...!?

色々な意味で凄すぎるデビュー作だし、大御所が書かれているのでついついご年配の方が書いたという錯覚を覚えるのだが、計算してみると『日本アパッチ族』と『復活の日』が上梓されたのは1964年で、当時小松左京氏はなんと30代前半。こんなの震えるしかねぇよ。この時代の作家は怪物ばかりだが、小松御大はレベルの違いが際立っているように感じる。

まぁそんなことはさておき、デビュー作だけあって小松作品の中でも様々な要素が詰まっていて、何よりエンターテイメント作品としての質が高いので、昨今のコロナ渦で『復活の日』を読まれた方やドラマ化されたことで『日本沈没』の原作を読まれた方が次に読むのは『日本アパッチ族』で決まりだぜ!

 

 

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