タイムトリップSFの超傑作
作品紹介
谷川流による『涼宮ハルヒの消失』は涼宮ハルヒシリーズの4作目で、2004年に角川スニーカー文庫より出版された概ね250ページの長編である。
説明不要の知名度を誇る作品だが、ラノベを読まれる方やアニメ好きな方でなければただの学園コメディだと思われるのではないだろうか。
かく言う私も名前だけは知りつつもどんな内容なのか知らなかったのだが、角川文庫から再販された1作目『涼宮ハルヒの憂鬱』の装丁が美しくてジャケ買いしたところ、予想を裏切る本格的なSF作品であることを知った。
シリーズ作品の4作目ということもあり、やや敷居が高いかもしれないがとても完成度の高い正統派SFなので布教すべく紹介したい。
以下、あらすじの引用
「涼宮ハルヒ?誰のこと?」珍しく俺の真後ろの席が空席だった12月18日の昼休み。颯爽と現れてその席に座ったのはハルヒではなく、長門との戦いに敗れて消滅したはずの委員長・朝倉涼子だった。困惑する俺に追い打ちをかけるように、名簿からもクラスメイトの記憶からもハルヒは消失していた。昨日まで普通だった世界を改変したのは、ハルヒなのか。俺は一縷の望みをかけて文芸部部室を訪れるが―。
読んだきっかけ
角川文庫から再版された本シリーズの装丁が非常に美しいことと、解説が日本SF界の大御所である筒井康隆だったのでついつい買ってしまったというのが経緯である。
もちろんただ装丁に釣られて買っただけではなく、ずいぶん前から”SF小説 おすすめ 国内”でググるとそれなりに名前を見かけていたため、果たしてどんなSF作品なのかと興味があったという事情もあった。
装丁がオタクっぽかったり文体が稚拙だったりとラノベにはあまり良い印象を持っていなかったのだが、筒井康隆が解説したというだけで買ってしまうのだからやはり権威ある方の解説は重要だなとあらためて思う次第だ。
消失までの作品は前座
『涼宮ハルヒの消失』のすごいところは1作目の『涼宮ハルヒの消失』と3作目の『涼宮ハルヒの退屈』収録の短編「笹の葉ラプソディ」が重要な伏線になっていることだけでなく、2作目の『涼宮ハルヒの溜息』やその他の短編作品もカタルシスを高める重要な要素となっていることである。
著者が1作目を書いていた時どこまで構想していたのかは知らないが、1作目から順番に読んだ時の”消失”の破壊力は絶大だ。
ちなみに涼宮ハルヒシリーズは時系列がばらばらなので、5作目の『涼宮ハルヒの暴走』収録のアニメでは伝説になった短編「エンドレスエイト」にも伏線が貼られているという謎のタイムスリップ仕様である。
ちなみにアニメで「エンドレスエイト」を見てみたら.....これはキツい。そりゃあバグってしまうわい。
歴史改変×タイムトラベル×ミステリ
『涼宮ハルヒの消失』は歴史改変....というか世界改変されたり、複数の時間軸に行ったりとSFの王道ネタをばっちり押さえている。また世界を改変した原因は何なのか、世界を元に戻すにはどうすればよいのかといった魅力的なミステリにもなっている。
クリスマスパーティの企画といういかにもラノベチックなシチュエーションから、突然主人公以外のすべてが変わってしまっているという謎展開。主人公と同じ気持ちになりながら怒涛の一気読みをすることになるだろう。
書評家として有名な大森望氏によると谷川流は作家デビュー前にSFや本格ミステリ小説の書評をしていたとのことで、ラノベとは思えないような本作の尋常ではない完成度の高さにも頷ける。
SFが好きなので、こういったネタのSFは小説だけでなく映画でもそれなりの作品を見てきたが、『涼宮ハルヒの消失』は完成度だけでなく分かりやすさ、読みやすさ、キャラの魅力といった点でSF初心者からマニアまで幅広く楽しめるクオリティだと自信を持って言える。
せつない真相と大きなカタルシス
ネタバレはしないので詳細は伏せるが、『涼宮ハルヒの消失』の事件の真相はとてもせつなく、事件の原因となった〇〇に対して複雑な気持ちになること必至である。
シリーズ作品として伏線を積み重ねてきたからこそこそできる、強大なカタルシスをぜひとも味わってほしい。
ちなみに知ったかぶってカタルシスという単語を使ってみたが、つまり「うひょーーーーーーーー..............はぁ......」という意味だと考えてほしい。
なお前述もした5作目の『涼宮ハルヒの暴走』を先に読んでおくとさらにカタルシスはでかくなるかもしれない。
結局は萌え
さて、私は原作を読んだうえでアニメも見ている。
だから登場人物はアニメをベースに自分好みに改変して脳内妄想しているのだが、消失の萌えといったら.....おらの期待に100%応えてくれている。神様ですか。
涼宮ハルヒ、長門有希、朝比奈みくるを筆頭に異なるタイプの萌えを秘めたキャラクターが登場する本シリーズだが、おらは黒髪ロングポニーテールマニアなのです。
まさに主人公キョンと同じ心境なのだが、『涼宮ハルヒの消失』では消失ハルヒとも称されるTシャツ下ジャージ黒髪ロングポニーテールという最終萌え兵器が発動されるのである。
正直仮に物語がつまらなかったとしてもこれがあるだけで大満足なのです。
楽しい小説が読みたいなら読むべし!
はっきり言って『涼宮ハルヒの消失』は超傑作だと思う。
練りに練られたプロットやネタの良さ、魅力的なキャラクター、読みやすいページ数などなど欠点がまるで見あたらないのだから間違いない。
面白いことは保証するが、シリーズ作品に敷居の高さを感じるならまずはアニメ版をおすすめしたい。