最強エンタメ小説候補の筆頭
作品紹介
貴志祐介による『クリムゾンの迷宮』はKADOKAWAから1999年に出版された作品である。文庫版は解説無しで393ページとちょうど良い長さで無駄がなく、怒涛の展開が凝縮されている。
同年に発表された高見広春の『バトル・ロワイアル』と双璧を成すデスゲームの超傑作であり、至高のリーダビリティとリアルな描写が圧倒的な臨場感を生み出す最高のサバイバル小説である。
みなさんご存じのことかと思うが貴志作品の魅力の一つに”超ヤバい奴が襲ってきてマジで勘弁”というのがある。
『クリムゾンの迷宮』のヤバい奴はかなりヤバい。どんなヤバい奴なのかはぜひとも作中で味わっていただきたい。
以下、あらすじの引用
藤木芳彦は、この世のものとは思えない異様な光景のなかで目覚めた。視界一面を、深紅色に濡れ光る奇岩の連なりが覆っている。ここはどこなんだ? 傍らに置かれた携帯用ゲーム機が、メッセージを映し出す。「火星の迷宮へようこそ。ゲームは開始された……」それは、血で血を洗う凄惨なゼロサム・ゲームの始まりだった。『黒い家』で圧倒的な評価を得た著者が、綿密な取材と斬新な着想で、日本ホラー界の新たな地平を切り拓く、傑作長編。
恐怖の徹夜本、貴志祐介の奥義炸裂
貴志祐介の作品を一冊でも読んでいれば、小難しい蘊蓄をバシバシ入れてくるにもかかわらず、そのことが読みやすさをまったく損ねていないというのが分かるだろう。
貴志先生は読ませる文章を書く達人なのである。
流麗なリーダビリティとスリリングな作品とは非常に相性が良く、スリリングなデスゲームものである『クリムゾンの迷宮』は、すべての貴志作品の中でも最も読み始めたら止まらない仕様である。
読みやすいフォントサイズの角川ホラー文庫で400ページ未満という絶妙な物語の長さは夜寝る前に読み始めたら最後、次の日が学校の試験だろうが、会社で大事なプレゼンを控えていようが、問答無用に一気読みさせられるという危険な兵器といって間違いない。
蹴落としたいライバルがいたら、試しに一冊渡してみよう。罠にかかったライバルは次の日睡眠不足に襲われているはずだ。
完璧なロケットスタート
読了後におもしろかったな~と感じる小説は数多くあることだろう。最後まで読まないと面白さがまったく分からないというドMな作品がこの世には数多くする。
しかし1冊読むにもそこそこ時間がかかるというのに最後まで読まないと良さが分からないというのは狂気の沙汰である。
では数多のエンターテイメントが跋扈する令和の世になってもなお、読書が趣味という読書家という生き物は、希少かつマゾヒスティックな生命体なのだろうか。
答えは”否”である
小説の中にははぐれメタルに遭遇するくらいのレアな確率で、超絶エンタメ本が存在しており、読書家というのは運よく読書が嫌いになる前にそういった作品に出会っているのである。
言うまでも本作は超絶エンタメ本であり、最初のページを開くや否やクリムゾンの迷宮という異世界(?)に誘われてしまうのである。
目が覚めると地球とは思えない謎の場所。おまけに直前の記憶を失っている。
何の前置きもなくいきなり40代のおっさんが、地球とは思えない謎の場所で目覚め、長身の美女と遭遇し、諸事情から行動を共にする.....そして気が付けばラストまで一気読みさせられてしまうのである。
超リアルなサバイバル
9人の男女がサバイバルアイテム、武器、食料、情報を手に入れるために4パーティに別れて各ルートを進む.....フフフ...このシチュエーションがすでに激アツでしょ。
そしてこのあたりからワケの分からない理不尽な状況をノリ切るために、皆が人間ならではのイヤらしい小細工をし始めるのだが、そのいった描写が気色悪いほど”人間あるある”なのだ。
貴志先生が心理学や脳科学に造詣が深いのは、他の作品を見てもまず間違いないだろう。その知識が活かされた、リアリティのある心理描写は貴志作品のお楽しみの1つなのだが、本作のような極限状態では特にそのお楽しみは一層際立つ。
また貴志作品では相当な取材や調査をされているだけあり、本作の舞台となる地やその地におけるサバイバル技術が極めて詳細に描かれる。
サバイバル関連の蘊蓄はかなり豊富に解説されているのだが、本編の勢いをまったく削ぐことなく、むしろ更に強い臨場感を創り出すことに成功している。
ヤバい奴=怪物の存在
貴志作品と言ったら多重人格スタンド使いに、包丁を持ったサイコビッチ、暴走したサイコハスミン、悪鬼に業魔とヤバい奴のオンパレードである。
『クリムゾンの迷宮』はデスゲームものである以上、言うまでもなく人間同士の殺し合いが発生する。じゃあ人間同士が争うだけでヤバい奴がいないかというと、もちろんそんなことはない。
この記事では化け物の正体はもちろん伏せておくが、謎に包まれた超怖い生命体が登場する。そいつの行動はヤケにリアルで不気味であり、生き残ることすら困難な過酷な環境に、猛烈なスリルと絶望感を味合わせてくれるのだ。
化け物と自軍双方のパワーバランスが崩壊していないのも良い。知恵をフル活用した駆け引きが張り詰めた緊張感を維持し続ける。
違和感の無いエロシーン
貴志先生はかなりのエロジジィである。男性ホルモンが強い男はエロいというのが一般常識だが(?)、貴志先生の頭をみれば彼のテストステロンが強烈であることは一目瞭然だろう。
したがってみなぎる精力を秘めた貴志作品の多くは濡れ場がある。デスゲーム作品である本作ももちろん例外ではない。
サバイバルデスゲームとセクロスの相性の良さと言ったら....。ものすごいエロい描写というわけではないのに、極限状況というシチュエーションがエロさに拍車をかけているのである。
私はエロシーンがそこまで好きなわけではないのだが、海外のB級スプラッタホラー映画にありがちな王道パターンを取り入れる貴志先生の精神を愛してやまない。
賛否両論のラスト
ラストが近づくにつれて、「おいおい...残りページ数は大丈夫なのかよ.....!!」という心境になってくるのだが、実際にどうなるのかは読んでみて確かめてほしい。
このラストが賛否両論になるのは大いに納得できるが、私的にはベストな締めくくりだと思っている。
エンタメ小説というものは、読んでいる最中の面白かったパーセンテージが非常に重要なのだ。『クリムゾンの迷宮』は最初から最後まで面白いので楽しい割合はほぼ100%と言ってよいと思う
余計なことを書いて蛇足になるよりは、徹底的に突っ走って後のことは知ったこっちゃねーというスタンスは大好きである。
本作は稀に見る超傑作であり、普段小説など読まないような人を読者の世界に引きずり込むには最適な一冊である。過激な描写が多いのでそういうのが苦手な人もいるかもしれないが、実際グロが苦手という人はただのいい子ぶりっこに過ぎない。
しずかちゃんにも出木杉君にも胸を張っておすすめしようではありませんか。
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