神本を求めて

小説を読みまくって面白い本を見つけたら紹介するブログ

『我々は、みな孤独である』貴志祐介|貴志思想の集大成

デビュー時から伝えたいことは何も変わっちゃいない。

 

f:id:kodokusyo:20200915011201j:plain

まぁなんときれいな装丁ですこと

作品紹介

 神・貴志祐介による『我々は、みな孤独である』は角川春樹事務所から2020年に出版された作品であり、実に7年ぶりの長編である。単行本のページ数は400ページ越えで、内容も重厚なため新作を待ち望んでいたファンは感涙ものだろう。

 探偵小説ということで『硝子のハンマー』に始まる防犯探偵シリーズのような本格推理小説をイメージされる方が多いと思われるが、実際は似ても似つかない話である。『十三番目の人格 ISOLA』のようなオカルト要素と『黒い家』のようなサイコサスペンスを合わせ持った広義のミステリーであり貴志祐介の思想が詰まった哲学書といったところだろうか。

 一つ注意点を挙げると貴志作品は性的な描写や残虐な描写があるものが多いが、『我々は、みな孤独である』の残虐性は過去の作品を完全に超越しているので、グロ耐性が低い方は逃げた方が良いかもしれない。

 

 以下、あらすじの引用

探偵・茶畑徹朗(ちゃばたけ・てつろう)の元にもたらされた、
「前世で自分を殺した犯人を捜してほしい」という不可思議な依頼。
前世など存在しないと考える茶畑と助手の毬子だったが、
調査を進めるにつれ、次第に自分たちの前世が鮮明な記憶として蘇るようになる。
果たして犯人の正体を暴くことはできるのか? 誰もが抱える人生の孤独――死よりも恐ろしいものは何ですか。
鬼才がいま描く、死生観とは。著者7年ぶり熱望の傑作長篇。

 

我々は、みな孤独である

我々は、みな孤独である

  • 作者:貴志祐介
  • 発売日: 2020/09/15
  • メディア: 単行本
 

 

前世....正木だと....?

…………ブウウ――――ンンン――――ンンンン…………

 

 見出しの通りである。分かる人にはこれで伝わるだろう。ずばりこのキーワードが暗示するのは夢野久作の『ドグラ・マグラ』である。

冒頭の作品紹介でグダグダと説明させていただいたのだが、何を書いたところで『我々は、みな孤独である』を伝えることは難しい。言い訳をしているわけではなくドグってるしマグっているのだから伝えるすべがないのである。

 主役の探偵・茶畑に依頼人の正木から与えられた調査依頼の内容は「前世で自分を殺した犯人を捜してほしい」。ほらねドグマグしているでしょう.....。

 貴志祐介を崇拝する私としては、最初のページで"正木"という人名を見て次のページで依頼内容を見た瞬間からテンションが爆上がりしてしまったものである。

 

…………ブウウ――――ンンン――――ンンンン…………

 

極悪サスペンス ✖ 荒唐無稽ミステリー

 この本、ほんとに何を書いていいのか分からないな。

ただ一つ確実に言えることは貴志作品に共通する高いエンターテイメント性と多くの作品で発揮されたスリリングなサスペンスは本作でも健在ということだ。

「前世の事件の真相を解明する」というバカげたミステリーを、「解決できなければ死ぬ!!....しかも残虐に...」というサスペンス的な展開によって本気で取り組まざるを得ない状況を構築した著者の力量は半端ない...ではなく半端じゃない(作中より)。

 前世の事件を調査するということで、話の舞台は江戸時代に遡ったりさらには戦国合戦までも登場する。寡作ながら超高品質な作品を上梓する作家だけに作中作の時代小説も良くできていて、何の違和感もなく読むことができる。特に世界大戦と思われる戦地の地獄のシーンは非常に臨場感があった。

 サスペンス部分については後述するが、恐ろしさは過去のあらゆる作品を超越している。ISOLAなるスタンド使いや包丁を持ったおばさん、囀る天使やグールに悪鬼など様々な化け物が襲い掛かってくる貴志作品にあって『我々は、みな孤独である』の相手は一番恐ろしいからである。

 

麻薬カルテル

 皆さんはこの言葉を聞いてどう思うのだろうか。”麻薬カルテル

私は怖い。この世で一番怖い。

 貴志祐介は様々なジャンルの作品を上梓するのでファンにもいろいろな人がいるだろう。デビュー当時から追いかける人、『黒い家』で貴志を知った人、『青の炎』でファンになった人、『硝子のハンマー』のドラマや『新世界より』のアニメから入門した方など本当に多様なパターンがあると思う。

 そんな中、ホラーマニアである私は言うまでもなくISOLAと黒い家の映画は見ていたのだが、映画を視聴した後に原作は読もうとは思わなかった。私が初めて貴志小説に出会ったのは"グロホラー 最強"といったキーワードで必ず名が挙がる『天使の囀り』である。

 さて、何が言いたいかというとグロ好きであるため必然的にI〇〇Sの動画や麻薬カルテル・ロ〇・セ〇スの動画などを見てしまうがゆえに、誰よりも麻薬カルテルの恐ろしさを知ってしまっているということだ。

『我々は、みな孤独である』では麻薬カルテルに命を狙われるという最恐最悪のサスペンスとなっている。作中に描かれる残虐描写は度を越えており、まさに麻薬カルテルの動画そのもののである首ちょんぱや四肢切断、ペ〇ス切断セルフフ〇ラ.......どころか小説であるがゆえにさらにその一歩先を行く、人間活け造りなる新手のグロ芸術をお見舞いしてくる。

 

覚醒、そして宇宙の真実

 私は人間には二種類いると考えている。分かっちゃった人とそうでない人だ。

貴志祐介は当然分かっちゃった側の人間である。『ISOLA』や『新世界より』はまさしく分かってる人が書いた内容そのものであり、『新世界より』の最後のメッセージなんかはズバリ真実である。

 分かっちゃった人=覚醒した人であり、一般的にはサマタ瞑想やヨーガ、気功の修業やLSDといった強烈な麻薬をやることで覚醒する。数学や量子論などを学ぶことで目覚める人もいるのかもしれない。

『我々は、みな孤独である』は覚醒した人が体感することになる宇宙の真実について、貴志的な解釈のもとでエンタメとして皆に伝えようとしたものだと私は感じた。

.....何を言っているのかさっぱりでしょうね。そしてさっぱりだったそこのあなた。本作をフルに楽しめない可能性が大である。この本を読む前に著者の『ISOLA』『新世界より』を読んだうえで、スピリチュアル系の本や引き寄せの法則系の本、さらには『般若心経』の分かりやすい解説を読んでおくなど予習をした方が良い。

 この記事を書いている時点では、まだほとんど本作の感想や評価は見受けられないが、きっと賛否両論になることだろう。それもかなり否定的な意見が多くなりそうな予感。ただ『我々は、みな孤独である』は間違いなく傑作であり、貴志祐介の集大成ともいえる作品であると私は断言したい。

 

まとめ

 記事を書いてみて再認識したが、やはり感想を書きにくいし無責任におすすめすることはできない内容だ。相当人を選ぶ作品だと思う。

ただ難しいことは理解できなくとも、貴志流の本格ミステリーと極悪非道サスペンスとしても十分に高い完成度であるため、少しでも気になったのであれば読んだ方がいい。

 時間が経過して他の読者の感想を見るのがこれほど楽しみな作品も稀である。

 

我々は、みな孤独である

我々は、みな孤独である

  • 作者:貴志祐介
  • 発売日: 2020/09/15
  • メディア: 単行本
 

 

 

〇おすすめ貴志作品

kodokusyo.hatenablog.com

kodokusyo.hatenablog.com