神本を求めて

小説を読みまくって面白い本を見つけたら紹介するブログ

『欺す衆生』月村了衛|欺し欺される地獄の裏社会

徹夜本の最終兵器

 

作品紹介

月村了衛による『欺す衆生』は2019年に新潮社より出版された作品で、文庫版で700ページ越えの長編である。ジャンルはノワール(犯罪小説)である。

代表作『機龍警察シリーズ』などもそうだが、徹底的な取材のもとに書かれたと思われる裏社会の描写は、著者自身が裏社会とつるんでいるのではないかと疑ってしまうほどの異様なリアリティがある。また「原野商法」や「和牛商法」に始まり、「結婚詐欺」など徐々にスケールの大きくなりつつ様々な詐欺が登場するので、これ一冊読めば詐欺マスターになれるだろう(笑)

また家庭の平穏のために詐欺に手を染めていく主人公が、最初はやむを得ず悪事をこなしていたのに、数々の苦境を乗り越えるたびに大物にのし上っていくという、正統派にして手堅い展開は、まさに読む手を止めるタイミングを失わせる至高の徹夜小説を築き上げている。

山田風太郎ファンを自称する月村了衛氏が山田風太郎賞を受賞したことで、同じく山田風太郎ファンの私は読む前から期待しまくりだったが、いざ読んでみると高い期待値を大きく上回る圧倒的なエンターテイメント巨編だった。そんな凄まじい傑作について書いていく。

 

 以下、あらすじの引用

戦後最大の詐欺集団、横田商事。その崩壊を目撃した元社員の隠岐隆は平凡な生活を志したが、同じく元社員の因幡充からの執拗な勧誘を受け、嫌々ながら再び悪事に手を染める。次第に昏き才能を開花させる隠岐時代の寵児として調子づいてゆく因幡。さらには二人の成功を嗅ぎつけ、経済ヤクザの蒲生までもが加わってくる。口舌で大金を奪い取ることに憑かれた男たち。原野商法から海外ファンドにまで沸騰してゆく遊戯の果てに見えるのは、光明か地獄か。

 

 

長いこと積んでしまったのを後悔

前述の通り、山田風太郎ファンを自称する月村了衛氏による山田風太郎賞受賞作というので面白くないわけがないというのは分かっていた。

しかしSFやファンタジーをメインに読む私にとってノワール(犯罪小説)というのは、最も苦手なジャンルの一つであり、小説に登場する役割の中で探偵の次に警察とヤクザという存在が嫌いなので、ただでさえ読む気が起きない中で、ページ数も単行本で500ページ越え、文庫版では700ページ越えの長尺ときたら積むしかない...(笑)

そして単行本を購入して積んでいるうちに文庫版が出て、文庫本を購入するもやはりそれなりの期間積んでしまったのだが、新潮社nexから出た江戸川乱歩の『地底の魔術王』の解説を月村氏が担当されていて、しかもそれが滅茶苦茶面白かったので、満を持して手に取ったのである(笑)

いざ読んでみれば、「読み始めると止まらない小説界」の中でも屈指の止まらない小説であり、「もっと早く読んでおけば良かったぜ!(´;ω;`)」と泣きながら徹夜して、700ページ越えの分量を一気に読んでしまったのである。

 

正統派にして手堅いプロットの妙技

『欺す衆生』は長尺ながら極めて分かりやすいストーリー展開であり、言うなればまさしく少年ジャンプの『ドラゴンボール』や『ワンピース』である。というかパッと思いついて書いてみたが、ちゃんと考えてみても実によく似ている。

ドラゴンボールに例えるならば、少年時代はクリリンとともに亀仙人のもとで修業(横田商事の平社員)→ドラゴンボールZになりラディッツを始めとしたサイヤ人たちの襲撃(原野商法)→フリーザ様の襲撃(和牛商法)→人造人間およびセルとの闘い(海外ファンド)→魔人ブウとの闘い(闇の帝王へ)といった感じで、スケールはどんどん大きくなり、降りかかる難題もハイパーインフレを起こしたかの如く強化されていく。

裏社会の話であっても王道の展開はとにかく読んでいて痛快であり、また安定したエンターテイメントを約束してくれるので安心して読める。苦境を乗り越える際の解決策は毎回とてもどう乗り切るのかが楽しみであり、問題解決して高みに上っていく様は本当に読んでいて熱くなる。

エンターテイメントの型を押さえた本作は優れた娯楽作品として一片の隙も無い、鉄板の超絶面白本である。

 

日本刀を首にあてられているかの如き緊張感

物語の圧倒的な面白さはここまでに書いてきたとおりだが、月村作品は筆力も凄まじいものがある。私は「ハラハラドキドキしちゃいました♡」的な感想は、言い出したやつを打首獄門に処したいくらい嫌いなのだが、『欺す衆生』はずばりハラハラドキドキしちゃう作品である。

序盤の時点でかなりの緊張感があり、それが作中ずっと継続していくのだが、その緊張感はヤクザが登場したあたりから強烈なものになっていく。失敗すれば命はないうヤクザとの駆け引きは、まさにお客様でプレゼンしている時の100万倍の緊張感があり、もはやこれを読んでしまえば、今後仕事でのプレゼンなど取るに足らないくだらないことに感じてしまうだろう。下手なビジネス本を1000冊読むよりも本書を読んだ方が、得られる経験値は高いと思われる。

私は自己啓発本やビジネス本、ハウツー本というものを忌み嫌っているのだが、小説を読んで物語から得られる経験値やビジネススキルというのはとても大切なものと考えている。小説から何かを学びたいと考えている方にとって、『欺す衆生』はうってつけの作品と言えるだろう。

 

平穏が一番

誰よりも平穏を望む主人公は、闇社会から逃れられずに、多くのものを得ると同時に多くのものを失ってきたわけだが、本作を読むとやはり平穏こそが一番だと痛感してしまう。

私は妻と二人の子がいるので、主人公の隠岐と同じ家族構成なのだが、妻には常々こう語っている。「世帯年収300万で幸せだと感じる精神を得たものこそが、究極の金持ちであり幸せ者なのだ」と。私は大した年収ではないが、一応上場企業に籍を置き、ちょっとした役職もあるため、転職する前の中小企業時代よりは高い給料と優れた福利厚生を得ている。私はこれで満足しているし、これ以上昇進して自由を失うのはこりごりなのだが、妻としてはさらに生活レベルを高めたいと考えているようである。

そんな生活レベルを高めたいなどというくだらない虚栄心を持つ者にも本作をおすすめしたい。

結局のところ留まることを知らない欲望こそが地獄への入り口なのである。夫婦そろってフリーターでも成り立つ生活に満足できれば、そもそも不幸に成りようがないのだから....などと私の考えを書いてみたところで締める。

 

やはり月村了衛はエンタメに魂を売っている

月村氏がデビュー間もない頃に上梓された、山田風太郎忍法帖オマージュの『機忍兵零牙』を読んだ時に「アッ....この作家は読者を楽しませることに魂を売った系の人だ」と認識して『槐』を読んだ時に私の目に狂いはなかったと思ったものだが、『欺す衆生』はエンタメに魂を売った度が飛躍的にパワーアップしてしまっている。

遅咲きの作家のため、すでにいい年齢になっているが、今後も途轍もないエンターテイメント作品を発表してくれることだろう。新作が待ち遠しい作家の一人である。(というか『機龍警察シリーズ』の続編早う(笑)

 

 

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『沈みかけの船より、愛をこめて』乙一たち|彼らのすべてが詰まった幻夢コレクション

洗練された夢と幻の物語

 

作品紹介

乙一、山白朝子、中田永一安達寛高による『沈みかけの船より、愛をこめて』は2022年に朝日新聞出版より発表された作品で、11作の短編が収録された350ページ程度の作品集である。

一人アンソロジーは『メアリー・スーを殺して』に続いて2回目となるが、今回は越前魔太郎名義の作品がないため、3人+安達寛高の解説といった構成である。前回のアンソロジーと比べると短めの作品が多く、山白朝子名義の作品は1作のみ、中田永一名義の作品も短めな作品が4作品なので、かなり乙一寄り(といっても全員乙一だけど...)の作品になっている。個々の作品の完成度は高く、バラエティも非常に豊かで、なおかつ初期作品にあった異様にグロい描写が影を潜めているので、乙一マニアから読書慣れしていない人まで幅広くおすすめできる。

乙一全体で見てもトップクラスの短編集だと断言したい本作の魅力を語っていきたい。

 

 以下、あらすじの引用

破綻しかけた家庭の中で、親を選択することを強いられる子どもたちの受難と驚くべき結末を描いた表題作ほか、「時間跳躍機構」を用いて時間軸移動をくり返す驚愕の物語「地球に磔(はりつけ)にされた男」など全11編、奇想と叙情、バラエティーにあふれた「ひとり」アンソロジー

 

 

「五分間の永遠」乙一

一発目から非常に乙一らしい良い話である。ずばり白乙一

20ページ程度の短い尺の中でばっちり物語に引き込んで、タイトルの意味が分かる結末で早くも微妙に涙腺が緩むことになるだろう。『私の頭が正常であったなら』で感じた、人の親が書いた作品感がひしひしと伝わってきて、子持ちの親が読んだら特に感じるものがあると思う。

 

無人島と一冊の本」中田永一

無人島に漂流してしまった男が、一冊の本により島に住んでいる賢い猿たち知恵をもたらし、神として崇められる物語。

知恵が与えられたことによって、賢い猿たちに起こる変化がとても面白く、中田永一版の旧約聖書となっている。本作も短いが読後感は充実している。ちなみに著者自身のお気に入りとのこと。

 

「パン、買ってこい」中田永一

これぞ中田永一な作品。影の薄いいじめられっ子的な青年が、同じ学校に通うヤンキーに目をつけられて、「パン、買ってこい」とパシられる話なのだが、これがもう素晴らしいの一言。

目の付け所が乙一(というか中田永一だけど)的で、ヤンキーにとって最適なパンを提供することにやりがいを感じて、本気で研究し全力を傾けることによって、人間的に成長していく展開が本当に素晴らしい。

 

「電話が逃げていく」乙一

ドタバタミステリーかつどんでん返しのあるショートショート作品。しかもちょっと怖いというスペシャルな仕様。

『ZOO』に収録された「血液を探せ!」や「落ちる飛行機の中で」のような若かりし頃の勢いと、作家として高みに立った著者の技巧が冴える作品。

 

「東京」乙一

かなり謎の作品であると同時に子供がいる親が読んだらせつなさを感じそうな内容。

処女が突如妊娠して、不思議な力を秘めた子供が産んで育てていくが、何とも言えない結末を迎えるという物語。

おそらく冒頭に書いた通り、子育て経験者でなければイマイチ魅力が伝わらないかもしれないが、私は気に入っている。作風的に山白朝子に近いかも。

 

「蟹喰丸」中田永一

中田永一版「泣いた赤鬼」である。余命宣告されて酒に溺れていた男が、異世界に迷い込み、鬼に命の保証をされる代わりに、酒を買って来させられる話である。

蟹喰丸という鬼は乱暴者で自慢話をしまくる鬼のため、妖怪たちに嫌われているのだが、パシりの男と酒仲間の河童たちを通じて心に響く話になっている。かなり泣ける。ちなみに本作もどちらかというと山白朝子な感じがする。

 

「背景の人々」山白朝子

The 山白朝子。実話怪談風のジャパニーズホラーである。

正統派なJホラーだけあって、話自体はいかにもありがちな感じではあるのだが、山白朝子が書いている...というだけで何か違う気がしてくるのが良い。個人的には山白朝子の作風が大好きなので、もう1~2話山白朝子作品があればなぁ....なんて思いつつも、他の作品がとても良いのと、そもそもみんな乙一じゃん!(笑)というセルフツッコミを入れて納得した。

 

「カー・オブ・ザ・デッド」乙一

まさに最高の作品。リョナラーも大満足である(笑)

乙一がゾンビ作品を書くとどうなるのかという答えがここにある。ゾンビもの何だけど、乙一にありがちないじめられっ子系作品としても良くできていて、おまけに絶妙なコメディ要素もあるので、それなりにグロいのだがするっと読めてしまう。

何となく山白朝子の「エムブリヲ奇譚」にも通じる非倫理的な要素があるが、全然背徳感がないのが良い。個人的に本作品集の中で1,2位を争うくらい好き。

 

「地球に磔にされた男」中田永一

ちょっと変わった設定の時間SFかつ並行世界。

一度過去にタイムスリップすると宇宙空間に出て死んでしまうので、一度目のタイムスリップ後、すぐに二度目のタイムスリップをして元の年代に戻るというイミフな感じが面白い。ただ元の年代に戻ることによって元の世界とは別の並行世界に突入して、そこで生きるもう一人の自分を見つめていく展開がとても良い。

星新一筒井康隆的な感じもして、あらためて著者の守備範囲の広さをうかがい知ることができた。というか乙一は大学時代SF研究会に入っていたと初めて知った。

 

「沈みかけの船より、愛をこめて」乙一

これから離婚する両親のどちらについていくかを、それぞれのパターンで詳細にシミュレーションして、淡々と査定していくというプロットの時点ですでに大勝利な作品。表題作になるのも頷ける。

本作も近年の乙一が頻繁にテーマに挙げる「家族」の物語なので、古参のファンから最近の作品が好きな方まで幅広く気に入ると思う。

 

「二つの顔と表面 Two faces and a surface乙一

カルト宗教の信者を親に持ち、自身もまたカルト宗教の信者である少女が、とある事情で耳の後ろに怪我を負い、その怪我が知識があって会話も可能な人面瘡になってしまうという物語。

カルト宗教信者であるせいで、周囲にからハブられ友達のいない学園生活を送る中で、クラス一の美女天使のカバンの中に猫の死体が入れられる事件が起こり、その濡れ衣を着せられた主人公が、人面瘡と美人天使とともに犯人捜しをするという、実に乙一らしい変な本格ミステリである。

この人面瘡のキャラがとても良く、またいじめられっ子の描写に定評のある乙一が、カルト宗教といういかにもいじめられそうな設定を取り入れることによる相乗効果は強烈である。本作も1,2位を争うくらい好きな作品。

 

やはり乙一は最高だ

若かりし頃の作品には唯一無二の魅力があるのは、過去作品を読まれている方なら打でれも納得だろうが、個人的には洗練されてきた近年の作品の方が好きだったりする。乙一は今も昔も変わらず天才なのである。

『沈みかけの船より、愛をこめて』は、そんな天才による2022年時点の傑作選と言える出来栄えの作品が揃っているので、自信を持っておすすめしたい。

 

 

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『薫香のカナピウム』上田早夕里|異形蠢く遠未来森SFファンタジー

秘密に包まれた未来の森の物語

 

 

作品紹介

上田早夕里による『薫香のカナピウム』は2015年に文芸春秋社より出版されたSFファンタジー作品で、文庫版で340ページ程度の長編である。

森SFのオールタイムベスト作品『地球の長い午後』の世界観のような生態系が一変した遠未来の森が舞台となるファンタジー作品かと思わせつつ、しっかりと著者お得意のハイクオリティSF作品なので、ファンタジー好きにもSF好きにも満足がいく内容になっている。また優れた冒険小説でもあり、さらには世界の秘密に迫るタイプのミステリーでもあるので、一気読み確実の素晴らしいエンタメ作品に仕上がっている。

SFファンタジー作品にありがちな、専門用語や造語はそれなりにあるものの、比較的読みやすいという点もおすすめポイントである。想像力が溢れまくって様々な驚きが秘められた本作を紹介していきたい。

 

 以下、あらすじの引用

生態系が一変した未来の地球、その熱帯雨林で少女は暮らす。“カナピウム”と呼ばれる地上四十メートルの林冠部には多彩な動植物が集まり、少女たちは彼らが発散する匂いを手掛かりに、しなやかに樹上を跳び回る。ある日やってきた旅の者たち、そして森に与えられた試練。少女の季節は大人へと巡っていく。

 

 

森SFファンタジーと聞おて血が湧きたつ者へ

本作の冒頭は『風の谷のナウシカ』の元ネタの一つと称されるブライアン・W・オールディス著『地球の長い午後』を敢えて意識したのではないかと思われるシーンから幕を開ける。最初の章を読み終えた瞬間「キターーーーーーー!」と唸ってしまった。

もうとにかくこの世界観が大好きなんですよ....森SFファンタジー!!ナウシカ好きという性癖のせいで、腐海的な雰囲気を感じるともうテンションが上がりまくってしまうのです。もちろん『もののけ姫』も好き。そして『女神転生』を生んだアトラスの鬼畜ダンジョンRPG世界樹の迷宮』なんかは私の性癖に400%突き刺さるのだが、本作はそういった作品が好きな人が読んだら、脳内麻薬が爆裂する要素がこれでもかというほど秘められている。

生態系が一変し、文明も大きく退化していると思われる遠い未来の森、そして遠くに見える軌道エレベーター....いわゆるギャップ萌えというものだろうか。SFファンタジーだけあって、かなり独特な設定も数多くあるので、読み進めると途中で何度も驚くことになるかもしれない。文庫版の解説ではSF界の女王こと池澤春奈さんも驚いたとおっしゃっているので、きっと誰が読んでも「おっ!」「なぬッ!」となることだろう。

 

ちょっとヤバい想像力

前述の通り、森とSFという世界観だけですでに大満足な感じなのだが、異形を書くことを得意とする上田早夕里だけあって、ちょっと訳ありな感じの奇妙な生物が頻繁に描写される。また人間たちも〇〇族といった形に分かれていて、文化だけではなく生態も含めて我々ホモ=サピエンスと異なる要素がある。

人間と異なる要素の超設定っぷりに読んだ時は、「どういうことだってばよ???」と混乱するとともに、我が目を疑い活字を二度見三度見してしまった。しかも読了後も「ぬぬぬ???」な感覚は残っている。なるべく何も知らずに読んだ方が良い作品なのでこれ以上は控えておくが、SFならではの特殊極まるジェンダーが関連しているということだけは挙げておきたい。『華竜の宮』でセンス・オブ・ジェンダーを受賞した作家だけあって、性に関して凝りに凝った設定が楽しめる。

 

世界の秘密に迫り刺激される好奇心

数あるエンターテイメント要素の中でも、私はとりわけ壮大なスケールのミステリーが好きである。ミステリではなくミステリー。ここが重要である。

殺人事件の犯人当てだとか、密室殺人やら鉄壁のアリバイといった謎を解くようなスケールが小さくてしょぼいミステリ作品は反吐が出るほど嫌いなのだが、人類の起源や宇宙の神秘、オーパーツなどの好奇心が刺激されまくるミステリーは大好物だ。

有名どころでいうとアーサー・C・クラークの『宇宙のランデブー』とかJ・P・ホーガンの『星を継ぐもの』、個人的な超激推しH・P・ラブクラフトの『狂気の山脈にて』、さらに範囲を広げるなら『進撃の巨人』なんかも壮大なミステリーになるのだろうけど、こういうのを読むとテンションが上がり過ぎて眠れなくなってしまう方には本作も漏れなくおすすめである。最初から最後まで好奇心を刺激され続けるので、読み切るまで昂ぶりは収まらないだろう。

 

色々な要素が詰め込まれ過ぎ

『薫香のカナピウム』唯一の弱点であり、また良い部分でもあることなのだが、300ページ程度の物語に収めるには贅沢過ぎるほどの、様々な設定が投入されている点が挙げられる。余裕で1000ページ級の大作にまで話を広げられるほどの世界観なので、短い時間で濃密な物語を堪能できる一方で、まだまだ説明不足な要素が多いのでもっと長く読んでいたかったという気持ちも残るかもしれない。

その辺は好みが分かれるところかもしれないが、個人的には全体をコンパクトにまとめながらも、お手本のようにバッチリ起承転結を決めているので、これはこれで悪くないと思う。本当にもったいないくらい驚きの設定が盛り込まれまくっているので、妄想力(笑)に特化した方なら、脳内でどこまでも世界を広げていけることだろう。

 

読まないと分からない世界観

このブログは原則ネタバレしない方針で書いているので、秘密が多い『薫香のカナピウム』については、ほんの上辺を説明することしかできない。面白い設定のほとんどに触れていないので、興味を持たれた方がいたらぜひ読んでいただきたい。

容易に映像化できない作品こそ本当に読むべきだと私は考えている。本作はまさに読むべき一冊である。強くおすすめしたい。

 

 

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初心者おすすめSF小説10選+地獄の地雷10選|最高に読みやすくて面白いSF

最高のおすすめSFと地獄の地雷10選

一番書きたかった記事

私が一番好きなジャンルはSFである。様々なジャンルの本を読むがルーツはあくまでもSFなのだ(ホラーもだけど)

幼少期に『エイリアン』『ブレードランナー』『スターウォーズ』『ターミネーター』『プレデター』『マッドマックス』『ウォータワールド』『未来少年コナン』『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』などを観て、SFキチガイ少年の原型はすでに出来上がっていたと思われる中、思春期に『パラサイト・イヴ』や『らせん』を映画で鑑賞して、原作を読んだことによってほぼSFマニアの土台は完成した。トドメに高校時代の70%を『ファンタシースターオンライン』に捧げ、『クトゥルフ神話』を読み漁ったことによって私は完全なるSF信者になった。

したがってこのブログはSF小説好きを一人でも多く増やすというのが目的の一つなのだが、これまでにSF特化記事を書けていなかったので、満を持してSF小説記事を書くことにした。

SF小説はマニアだけが崇拝する作品と、一般人でも楽しめる作品があると私は認識している。しかし”SF小説 おすすめ”でググると、あからさまに初心者がSFアレルギーを起こすようなマニア向け作品が紹介されていている。そこに危機感を感じ、この記事では回避すべきマニアックな地雷作品10選を紹介した後に、厳選に厳選した超読みやすく面白いSF小説をおすすめしたい。これからSF小説を読む方の参考になれば幸いである。

 

地雷作品滅ぶべし!!

さて、まずは地雷作品を10作品紹介したい。

実際は10作品どころではないのだが、おすすめされがちな「これぞSF」な作品にもかかわらず初心者が読んだら爆死する小説を10作品紹介しよう。ここで挙げる地雷作品を読んでSF食わず嫌いになってしまった方は、安心してSF界に戻っていただきたい。読みやすいSF小説などいくらでもある。

なお念のため注釈しておくが、地雷作品=駄作では当然ない。あくまでも初心者にとっての地雷であることを先にお伝えしておく。

 

10位 ハーモニー / 伊藤計劃(2008年)

 

21世紀後半、“大災禍”と呼ばれる世界的な混乱を経て、人類は大規模な福祉厚生社会を築きあげていた。医療分子の発達で病気がほぼ放逐され、見せかけの優しさや倫理が横溢する“ユートピア”。そんな社会に倦んだ3人の少女は餓死することを選択した―それから13年。死ねなかった少女・霧慧トァンは、世界を襲う大混乱の陰に、ただひとり死んだはずの少女の影を見る―『虐殺器官』の著者が描く、ユートピアの臨界点。

 

最初にして最強候補の地雷SFである。

国産かつラノベっぽい装丁についつい騙されてしまうが、内容は非SFマニアには理解不能な領域に達している。だが安心してほしい。『ハーモニー』が理解不能で心が折れたとしても、それはあなたの理解力が低いからではない。

そもそもこの本は最低でも”HTML”を理解し、自らコーディングしたことがあるような人でなければ理解しようがない。無論、これらの専門用語が分からない人はお呼びではない。

私も初読時は「ぶっちゃけつまらん....ていうかネーミングセンスwww」という感じだったが、それなりにSF小説を読んでから再読すると良さが分かってくる。すぐれたSFというのは一読しただけでは理解不能なパターンが多いというのを知っていただきたい。

 

 

9位  ハローサマー、グッドバイ / マイクル・コーニィ(1975年)

 

夏休暇をすごすため、政府高官の息子ドローヴは港町パラークシを訪れ、宿屋の少女ブラウンアイズと念願の再会をはたす。粘流が到来し、戦争の影がしだいに町を覆いゆくなか、愛を深める少年と少女。だが壮大な機密計画がふたりを分かつ…少年の忘れえぬひと夏を描いた、SF史上屈指の青春恋愛小説、待望の完全新訳版。

 

続いてはこいつだ。いかにも読みやすそうでいてなかなか厳しい。

装丁やあらすじから判断すると非常に読みやすそうな印象を受けそうだが、実際には独自の世界観を持つSF×ファンタジーで、SF慣れしていれば大丈夫かも知れないが、初心者からすれば装丁イラストからは想像もつきにくいほど読みずらい。

さらに言うと、可愛いと噂のブラウンアイズがそんなに可愛くない!日本とイギリスの日英同盟が崩れたのは萌えに対する認識の相違だと推測する(笑)

しかも音に聞く衝撃のラストはあくまでもSFマニア向けの衝撃なので、マニア以外が読んだら「ふーん」で終わることだろう。騙されてはならない。

 

 

8位  地球の長い午後 / ブライアン・W・オールディス(1962年)

 

大地をおおいつくす巨木の世界は、永遠に太陽に片面を向けてめぐる、植物の王国と化した地球の姿だった! 人類はかつての威勢を失い支配者たる植物のかげで細々と生きのびる存在に成り果てていた……。イギリスSF界を代表する巨匠が、悠久の時の果てにSF的想像力の精髄を展開する名作

 

個人的には超好きな、人類が衰退し植物が地球を支配する遠未来SFである。

本作の読みづらさは遠未来という設定のため、現代の地球の常識は完全にブッ飛んでおり、SFというよりもファンタジーに近い世界観なので、とにかく景色を想像しにくいことにある。初心者はイラストなどをググって世界観を脳内補完しなければ、「さっぱり分からん(泣)」で終わる可能性が非常に高い危険な作品である。『風の谷のナウシカ』の元ネタの一つとも称され、素晴らしい作品だが、SFとファンタジーそれぞれにある程度の慣れがなければ読んではならない。

 

 

7位 ニューロマンサー / ウィリアム・ギブスン(年)

 

ハイテクと汚濁の都、千葉シティの空の下、コンピュータ・ネットワークの織りなす電脳空間を飛翔できた頃に思いを馳せ、ケイスは空虚な日々を送っていた。今のケイスはコンピュータ・カウボーイ能力を奪われた飢えた狼。だがその能力再生を代償に、ヤバい仕事の話が舞いこんできた。依頼を受けたケイスは、電脳未来の暗黒面へと引きこまれていくが……新鋭が華麗かつ電撃的文体を駆使して放つ衝撃のサイバーパンクSF!

 

最古クラスのサイバーパンクSF小説

サイバーパンクと聞いてピンと来ない方はあきらめてください。否、ピンと来ても無理ゲーかもしれない(笑)

当方『攻殻機動隊』や『マトリックス』は大好きにもかかわらず、本書を最後まで読み切るのは死ぬほど苦労した割に、理解度は低く、しかも再読する勇気がないため、恥ずかしながらいまだに「よく分からん(´;ω;`)」状態である。

 

 

6位 全作品 / グレッグ・イーガン(nnnn年)

 

全部ですってばwww

 

当代最高のハードSF作家ことグレッグ・イーガン

私は最初に『祈りの海』を読んで撃沈しつつも、ちょこちょこ他の作品も読み進めたのだが、結論から言うとさっぱりである。凄いことは分かる。しかし文系出身インフラSEと、それなりにそっち系の知識を持つ私でも残念ながら理解が及ばぬようだ。短編なら比較的読みやすいものもあるが、初心者が読んだら宇宙の塵になるだろう。

 

⇩いっそのこと初戦から『ディアスポラ』を読んで玉砕するのはいかがだろうか(笑) たしか『バーナード嬢』でも紹介されていたはず。あと『プランクダイブ』...これも死ぬ(笑)

 

5位 ソラリス  / スタニスワム・レム(1961年)

 

惑星ソラリス―この静謐なる星は意思を持った海に表面を覆われていた。惑星の謎の解明のため、ステーションに派遣された心理学者ケルヴィンは変わり果てた研究員たちを目にする。彼らにいったい何が?ケルヴィンもまたソラリスの海がもたらす現象に囚われていく…。人間以外の理性との接触は可能か?―知の巨人が世界に問いかけたSF史上に残る名作。レム研究の第一人者によるポーランド語原典からの完全翻訳版。

 

オールタイムベストSF筆頭の作品。

ネームバリューに釣られて読むとこれがなかなかキツイ。純文学が娯楽を追求していないのと同様、本書もエンターテイメント追及したような作品ではなく、とにかく説明が詳細でクッソ眠くなるという睡眠小説である。ソラリスがあればドリエル(睡眠薬)は不要と言える(笑)

後世に名を残す作品というのは読めば納得だが、初心者が手を出すべき作品ではないことは確かである。

 

 

4位  幼年期の終わり / アーサー・C・クラーク(1953年)

 

地球上空に、突如として現れた巨大な宇宙船。オーヴァーロード(最高君主)と呼ばれる異星人は姿を見せることなく人類を統治し、平和で理想的な社会をもたらした。彼らの真の目的とはなにか?異星人との遭遇によって新たな道を歩み始める人類の姿を哲学的に描いた傑作SF。

 

おそらく万人が認める人類最高のSF小説である。

したがって他の追随を許さぬ圧倒的な完成度を誇る作品だが、大きく分けて三章に分かれる本作の中で、面白いと言えるのは一章のみだと言えるだろう。(二章もちょっとは面白いかも) 哲学的な内容に移行していく中盤以降は思弁系SFとしては比類なき内容だが、娯楽小説としては正直つまらない。『新世紀エヴァンゲリオン』の人類補完計画など後世に与えた影響を鑑みると必読の作品だが、初心者には荷が重いだろう。後回しを推奨する。

ちなみに本作は早川書房東京創元社、光文社からそれぞれ出版されていて、私は前二者版を読んだのだが、噂では光文社版が読みやすいらしい。もし意地でも読みたいのなら光文社版を選ぶのが良いのかもしれない。

 

 

3位 1984年 / ジョージ・オーウェル(1949年)

 

“ビッグ・ブラザー”率いる党が支配する全体主義的近未来。ウィンストン・スミスは真理省記録局に勤務する党員で、歴史の改竄が仕事だった。彼は、完璧な屈従を強いる体制に以前より不満を抱いていた。ある時、奔放な美女ジュリアと恋に落ちたことを契機に、彼は伝説的な裏切り者が組織したと噂される反政府地下活動に惹かれるようになるが…。二十世紀世界文学の最高傑作が新訳版で登場。

 

ディストピアの超傑作にしてネームバリューも最高峰の作品。

しかしお世辞にも読みやすいとは言えず、SFというよりは海外文学をそれなりに読んだうえで、ディストピアSF系の作品もそれなりに読んでから挑むべき作品だと思う。出版された時代を考えると凄まじい先見性を持ち、後世に圧倒的な影響を与えた作品だと思う。(難しいけどね)

意識高い系(笑)がかっこつけて読みがちな作品だが(勝手な想像)、そういった痛い人の心を折る小説兵器としては素晴らしい。

 

 

2位 華氏451度 / レイ・ブラッドベリ(1953年)

 

華氏451度―この温度で書物の紙は引火し、そして燃える。451と刻印されたヘルメットをかぶり、昇火器の炎で隠匿されていた書物を焼き尽くす男たち。モンターグも自らの仕事に誇りを持つ、そうした昇火士のひとりだった。だがある晩、風変わりな少女とであってから、彼の人生は劇的に変わってゆく…。本が忌むべき禁制品となった未来を舞台に、SF界きっての抒情詩人が現代文明を鋭く風刺した不朽の名作、新訳で登場!

 

こちらも意識高い系(笑)に読まれがち(であろう)超傑作ディストピアSF。

しかしまぁ読みずらい。SF度はそこまで高くないのでSF入門者にはおすすめしがたく、ディストピア小説を読みたい方にも、敷居が高いかもしれない。主張は分かりやすいし、プロットもシンプルなのだが読めばわかる読みづらさ....。意識高い系の人が読んでかっこつけているとしても、90%くらい知ったかなので笑ってあげよう。

 

 

1位 アンドロイドは電気羊の夢を見るか / フィリップ・K・ディック(1968年)

 

長く続いた戦争のため、放射能灰に汚染され廃墟と化した地球。生き残ったものの中には異星に安住の地を求めるものも多い。そのため異星での植民計画が重要視されるが、過酷で危険を伴う労働は、もっぱらアンドロイドを用いて行われている。また、多くの生物が絶滅し稀少なため、生物を所有することが一種のステータスとなっている。そんななか、火星で植民奴隷として使われていた8人のアンドロイドが逃亡し、地球に逃げ込むという事件が発生。人工の電気羊しかえず、本物の動物を手に入れたいと願っているリックは、多額の懸賞金のため「アンドロイド狩り」の仕事を引き受けるのだが…。

 

栄えある一位は文句なしに本作である。レベルが違い過ぎる。

そもそも私は映画『ブレードランナー』の大ファンなのだが、原作である本作を読んだ印象は「は?」である。映画は50回は観たし、ヴァンゲリスによるサウンドトラックも購入したくらいには愛しているにも関わらず....。くれぐれもネームバリューとお洒落な邦題に釣られて読んではならない。爆死必至である。

ちなみにPKD作品は全体的に読みづらいので、気合を入れて集中して読むか、酒を飲んで泥酔中に読むのが良いだろう。

 

 

楽しくなくては意味がない!

さて、上記の作品はいかがであっただろうか。他にも地雷は大量にあるのだが、キリがないのでとりあえず代表的な作品に抑えてみた。

ここからは①読みやすさ面白さ本格SF度のバランスが良い作品を超厳選して10作品挙げてみたい。読みやすくて面白くても肝心なSF度が低ければSF作品として紹介する意味がなくなるので、上記を十分に考慮したうえで紹介していく。

 

10位 星を継ぐもの / ジェイムズ・P・ホーガン(1977年)

 

月面調査員が真紅の宇宙服をまとった死体を発見した。綿密な調査の結果、この死体は何と死後五万年を経過していることがわかった。果たして現生人類とのつながりはいかなるものなのか。やがて木星の衛星ガニメデで地球のものではない宇宙船の残骸が発見された……。ハードSFの新星が一世を風靡した出世作

 

私を読書沼に沈めた思い入れのある作品.....ということは考慮せずともオールタイムベストSFでトップクラスの神傑作である。

ではなぜ10位なのか。それは初心者にはやや敷居が高いということと、創元SF文庫の活字が小さくフォントが微妙に読みづらいこと、また三部作であるため最後まで読まなければ、本作品の魅力を最大限に味わうことができないからである。

やや敷居が高いという点を除けば古今東西SF最強の作品なので、ぜひとも読んでみてほしい。というかこれを読んで合わなければSFは読まなくても良いとすら言える。

ちなみに私はkindleを購入後に初めて買ってみたのが、本作なのだが創元SF文庫の破滅的に読みにくい活字で慣れていたこともあり、あまりの読みやすさに涙を流した。紙の本でムリゲーだと思った方には電子書籍を推奨したい。

 

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9位 夢みる葦笛 / 上田早夕里(2016年)

 

ある日、街に現れたイソギンチャクのような頭を持つ奇妙な生物。不思議な曲を奏でるそれは、みるみる増殖していく。その美しい歌声は人々を魅了するが、一方で人間から大切な何かを奪い去ろうとしていた。(表題作)人と人あらざるもの、呪術と科学、過去と未来。様々な境界上を自在に飛翔し、「人間とは何か」を問う。収録作すべてが並々ならぬ傑作!奇跡の短篇集。

 

本格的なSFであり様々なジャンルを扱いながらも、読みやすさと優れた娯楽性を兼ね備えた恐るべきクオリティの神短編集。

10作品収録のためそれぞれの作品はとても読みやすいボリュームにまとまっているのだが、本当に短編かよ...と思うほど深い読後感に浸ることができる凄まじい傑作が揃っている。しかも各作品が非常にバラエティ豊富なので、もし肌に合わない作品があったとしても、SFに興味があるような人であれば何かしら好きになる作品があるはずである。国産ということもあり最も推奨したい作品の一つだ。

 

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8位 われはロボット / アイザック・アシモフ(1950年)

 

ロボットは人間に危害を加えてはならない。人間の命令に服従しなければならない…これらロボット工学三原則には、すべてのロボットがかならず従うはずだった。この三原則の第一条を改変した事件にロボット心理学者キャルヴィンが挑む「迷子のロボット」をはじめ、少女グローリアの最愛の友である子守り用ロボットのロビイ、ひとの心を読むロボットのハービイなど、ロボット工学三原則を創案した巨匠が描くロボット開発史。

 

ロボット工学三原則を提唱した最重要SF小説の一つである。

SFとして圧倒的なクオリティを誇るだけでなく、連作短編集で比較的読みやすく、しかも著者お得意の本格ミステリとの融合作品でもあるので、娯楽要素も非常に高い。こんなのが戦後すぐに書かれてしまったら、後進の心を折りまくってしまった罪深き作品なのかもしれない。起源にして頂点といったところだろうか。

 

 

7位 涼宮ハルヒの消失 / 谷川流(2004年)

 

涼宮ハルヒ?誰のこと?」珍しく俺の真後ろの席が空席だった12月18日の昼休み。颯爽と現れてその席に座ったのはハルヒではなく、長門との戦いに敗れて消滅したはずの委員長・朝倉涼子だった。困惑する俺に追い打ちをかけるように、名簿からもクラスメイトの記憶からもハルヒは消失していた。昨日まで普通だった世界を改変したのは、ハルヒなのか。俺は一縷の望みをかけて文芸部部室を訪れるが―。

 

アニメ好きなら知らぬ者はいない作品。

ラノベということもあり私自身、長年忌避してしまったのだが、角川文庫版収録の日本SF御三家こと筒井康隆氏の熱い解説を信じて読んでみたら、4作目の本作で「ウオォーーーーーーー!」となってしまったのである。読みやすさ、面白さ、本格SF度を高水準で満たしており、なおかつ”ツインテール萌え”という必殺兵器を備えた本作を読まないわけにはいかないだろう。

一作目から読まなければならないという敷居の高さを差し引いても絶対的におすすめの作品。(というか一作目もかなりの傑作なので安心されたし)

 

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6位 円 / 劉慈欣(2021年)

 

円周率の中に不老不死の秘密がある――10万桁まで円周率を求めよという秦の始皇帝の命を受け、荊軻(けいか)は300万の兵を借りて前代未聞の人列計算機を起動した! 第50回星雲賞に輝く「円」。麻薬密輸のために驚愕の秘密兵器を投入するデビュー短篇「鯨歌」。貧しい村で子どもたちの教育に人生を捧げてきた教師の“最後の授業"が信じられない結果をもたらす「郷村教師」。漢詩に魅せられた超高度な異星種属が、李白を超えるべく、あまりにも壮大なプロジェクトを立ち上げる「詩雲」。その他、もうひとつの五輪を描く「栄光と夢」、少女の夢が世界を変える「円円のシャボン玉」など、全13篇。中国SF界の至宝・劉慈欣の精髄を集める、日本初の短篇集。

 

本当は人類最高傑作『三体』を挙げておきたいところだが、三部作で圧倒的なボリュームがあるため、初心者向けに短編集である『円』をおすすめする。

読めば分かるが、アジア人史上初めて”ヒューゴー賞”を受賞された中国SFの至宝・劉慈欣の力は本物で、短編集である本作も個々の作品が途轍もないクオリティを備えている。いわゆる”三体ロス”に陥って虚無空間を彷徨っていた私は本作に救われた。

中国の貧しい村から太陽系を遠く離れた宇宙まで話のスケールの幅が広く、内容もバラエティ豊富でSFの魅力を200%教えてくれるので、大長編『三体』に恐れをなしているのならまずは本作から読んでみてほしい。

 

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5位 滅びの園 / 恒川光太郎(2018年)

 

わたしの絶望は、誰かの希望。
ある日、上空に現れた異次元の存在、<未知なるもの>。それに呼応して、白く有害な不定形生物<プーニー>が出現、無尽蔵に増殖して地球を呑み込もうとする。
少女、相川聖子は、着実に滅亡へと近づく世界を見つめながら、特異体質を活かして人命救助を続けていた。だが、最大規模の危機に直面し、人々を救うため、最後の賭けに出ることを決意する。世界の終わりを巡り、いくつもの思いが交錯する。壮大で美しい幻想群像劇。

 

我が激推し異世界作家・恒川光太郎によるSF寄りの作品である。

ファンタジー寄りでもあるためこの順位にしているが、読みやすさと面白さでは他の追随を許さない非の打ち所の無い超絶エンターテイメント作品である。ページを開くや否や即効で異世界に飛ばされてしまい、そのまま面白すぎて確実に一気読みしてしまうだろう。ホントにどうしたらこんな物語が描けるのか不思議でならない。

 

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4位 ループ / 鈴木光司(1998年)

 

科学者の父親と穏和な母親に育てられた医学生の馨にとって家族は何ものにも替えがたいものだった。しかし父親が新種のガンウィルスに侵され発病、馨の恋人も蔓延するウィルスに感染し今や世界は存亡の危機に立たされた。ウィルスはいったいどこからやって来たのか?あるプロジェクトとの関連を知った馨は一人アメリカの砂漠を疾走するが…。そこに手がかりとして残されたタカヤマとは?「リング」「らせん」で提示された謎と世界の仕組み、人間の存在に深く迫り、圧倒的共感を呼ぶシリーズ完結編。否応もなく魂を揺さぶられる鈴木文学の最高傑作。

 

国民的ジャパニーズホラーの金字塔『リングシリーズ』3作目。

ホラー要素はまったく無くジャンルはずばりハードSFである。しかも相当ガチなSFなのだから意表を突かれること間違い無しである。2作目の『らせん』もSF的要素を備えた傑作だが、『ループ』は完全なる別物となっていて、リアルタイムで読んだ方や映画から原作を追った人それぞれの度肝を抜いたことだろう。

愛する者のために全存在をかけた熱い男の物語でもあり、まさかの大号泣である。”貞子”は知っているが原作は読んでいないSF好きがいれば絶対に読むべきである。

 

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3位  新世界より / 貴志祐介(2008年)

 

ここは病的に美しい日本(ユートピア)。
子どもたちは思考の自由を奪われ、家畜のように管理されていた。
手を触れず、意のままにものを動かせる夢のような力。その力があまりにも強力だったため、人間はある枷を嵌められた。社会を統べる装置として。
1000年後の日本。豊かな自然に抱かれた集落、神栖(かみす)66町には純粋無垢な子どもたちの歓声が響く。周囲を注連縄(しめなわ)で囲まれたこの町には、外から穢れが侵入することはない。「神の力(念動力)」を得るに至った人類が手にした平和。念動力(サイコキネシス)の技を磨く子どもたちは野心と希望に燃えていた……隠された先史文明の一端を知るまでは。

 

もはや説明不要の神傑作。神の中の神本である。

一位最有力候補だが、SFだけではなく様々なジャンルが複合された作品であることと、文庫版三分冊で1500ページ級のボリュームを考慮して3位としている。貴志祐介特有の優れたリーダビリティは本作でも全開なので、スラスラ読めてしまうことも強力なセールスポイントだ。

SFに興味があるがページ数に躊躇して『新世界より』を読もうか検討されている方は恐れることなくただちに読み進めるべし。究極の傑作である。

 

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2位 タイタン / 野﨑まど(2019年)

 

至高のAI『タイタン』により、社会が平和に保たれた未来。人類は“仕事”から解放され、自由を謳歌していた。しかし、心理学を趣味とする内匠成果のもとを訪れた、世界でほんの一握りの“就労者”ナレインが彼女に告げる。「貴方に“仕事”を頼みたい」彼女に託された“仕事”は、突如として機能不全に陥ったタイタンのカウンセリングだった―。

 

超天才・野﨑まどによる未来お仕事小説。

読みやすさと面白さを完璧に備えているのは当たり前として、びっくり仰天な超スケールかつ超展開が待っていて、私はあまりのテンションの高まりに血管が破裂するかと思ってしまった。

仕事とは何か?”という問いに対して、AIとのカウンセリングを通じて、著者の思想とも言える解答を示す作品として超優秀である。野﨑まどは本作に限らずいずれの作品もSF初心者におすすめしたい。

 

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1位 プロジェクト・ヘイル・メアリー / アンディ・ウィアー(2021年)

 

グレースは、真っ白い奇妙な部屋で、たった一人で目を覚ました。ロボットアームに看護されながらずいぶん長く寝ていたようで、自分の名前も思い出せなかったが、推測するに、どうやらここは地球ではないらしい……。断片的によみがえる記憶と科学知識から、彼は少しずつ真実を導き出す。ここは宇宙船〈ヘイル・メアリー〉号――。ペトロヴァ問題と呼ばれる災禍によって、太陽エネルギーが指数関数的に減少、存亡の危機に瀕した人類は「プロジェクト・ヘイル・メアリー」を発動。遠く宇宙に向けて最後の希望となる恒星間宇宙船を放った……。

 

SF小説のおすすめはどれかと聞かれたら本作の名を上げることを神に誓っている。

少々長めなボリュームを考慮しても、SF入門者から玄人まで自信を持っておすすめできる、SF界に名を刻むであろう新たなマスターピースである。

ミステリー要素があり、事前情報は極力ない方が楽しめるので、気になったのであればただちに読むことを推奨する。21世紀になってなお、アホみたいな戦争を繰り返してしまう人類には必読書とすべき内容だ。人類同士で争っている場合ではない世界がここにある。

 

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SF好きが一人でも増えることを祈って

本記事で紹介した作品は本当に本の一部である。最高のSFが読みたいのであれば問答無用に『三体』を読めば良いと思いつつも、やはり敷居が高いと思われるので、本当に読みやすい小説と危険な地雷SFをお伝えした。

本記事に興味を持たれたようであれば、SF好きの私が紹介する100選などの記事も以下にリンクを貼るので参照していただければ幸いである。

 

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『残月記』小田雅久仁|ルナティックな世界観のSFファンタジー

月にまつわる驚異の物語

 

 

作品紹介

小田雅久仁による『残月記』は2021年に双葉社より出版された作品で、単行本で400ページ程度の中・短編集である。(表題作は長編級の尺)

いかにも本格SFのようなタイトルと表紙だが、意外にも一話目「そして月がふりかえる」はあまりSF要素はなく”世にも奇妙な物語”のような不条理小説となっていて、続く二話目の「月景石」は日常が突如崩れ去って異世界に雪崩れ込むダークファンタジー風に仕上がっている。そして圧巻の三話目「残月記」はディストピアSF×ファンタジーを筆頭に、ありったけのエンターテイメント要素をぶち込んだ途轍もない物語である。

いずれの作品も””にまつわる話ということと予想不可能な展開という共通点があるが、それぞれがジャンル違いの異なる魅力と、そして強烈な世界観を持っているので、心に深く刻み込まれること請け合いである。通読後は放心してしまうだろう。

それでは奇跡的な傑作『残月記』について書いていきたい。

 

 以下、あらすじの引用

近未来の日本、悪名高き独裁政治下。世を震撼させている感染症「月昂」に冒された男の宿命と、その傍らでひっそりと生きる女との一途な愛を描ききった表題作ほか、二作収録。「月」をモチーフに、著者の底知れぬ想像力が構築した異世界。足を踏み入れたら最後、イメージの渦に吞み込まれ、もう現実には戻れない――。最も新刊が待たれた作家、飛躍の一作!

 

 

想像していたイメージと違い過ぎ

月をモチーフにしたSF要素のある恋愛短編集的な内容を勝手に想像していたのだが、実際はまるで違い良い意味で期待を裏切ってくれた。

まずは収録数と物語の尺である。収録作のページ数はそれぞれ70ページ、90ページ、220ページ程度で、単行本で改行少なめの文字びっしりのため、長めの短編2編に、短めの長編という感じなので非常に読みごたえがあり、中短編よりも長編が好きな私にとっては嬉しい誤算であった。

次に作風である。月が舞台のキラキラしたお話かと思いきや、最初の「そして月がふりかえる」は家族でレストランに行った主人公が、トイレに席を立って戻ってみると妻子が主人公のことを知らないという不条理ホラーな作風である。「こんな感じだったのかぁ...これなら本屋大賞にノミネートされてもおかしくないな」などと思いながら一気読みし、続く二作目の「月景石」を読み進めていくと、ちょっとファンタジー要素があるっぽい日常系の話から一転、恐ろしいダークファンタジーの世界に引きづり込まれる。

そして圧巻の表題作である。架空の病気の感染者を隔離するという、コロナ渦のような社会から全体主義の突き進んだディストピアSFなのだが、どうしてこうなったという感じの展開を迎え、血沸き肉躍るエンターテイメントを味わうことができたのである。

ザコ敵(失礼極まりない)かと思ったら、裏ボス級の大物だったという希少な読書となり、テンションが上がりまくってしまった。まさにルナティック!!

 

月がふりかえってしまった

「そして月がふりかえる」は収録作の中では最も日常度が高く、読者によっては我が身に置き換えてしまいそうな内容なので、読みやすく共感しやすい作品である。

突然自分の妻子が冗談ではなく「あんた誰?」となったらどうだろうか。しかも自分の代わりに別の夫が登場したり、自分には面識がないのに別の妻(?)がいきなり現れたらどうだろうか。本作を読書中の私はちょうど作中の主人公と年齢や家族構成が近いので、いろいろと「俺ならこうする」と妄想しながら読んでいたら、「あ!やってもうた」な展開かと思わせつつ、やはりかくかくしかじかな感じになり、ラストでちょっとした衝撃を喰らったりと、短めな話なのにかなり思い読後感が残るだろう。

世にも奇妙な物語”を思わせる作風で、想像するとなかなかのホラー要素を秘めているので、好みな方にはハマる作品だと思われる。

 

そんな夢は見たくないです

「月景石」は電波系の叔母(夭逝した美女)が残した、月景石という枕の下に入れて寝るととんでもない夢を見てしまうというトンデモな代物がキーになる物語だ。

物語はある地点まではアラサー独身で10歳年上のモテ男と同棲している女性の日常的な話を中心に進んでいくのだが、途中から「おや?」となりついには一気に「うおぉーーーッ!!」となる展開である。月景石が見せる悪夢の世界だと半ば分かってはいても、あまりの超展開に頭が混乱すること請け合いである。

ダークファンタジー全開な月世界ではかなり残酷な描写が続くので、ここいらでふるいにかけられる読者は多そうだが、エグイのがOKな方やリョナラーにとってはたまらない作品になるだろう。どちらが現実だか分からなくなってくる展開と、某SF作品が脳裏をよぎるラストは本当に最高だった。

 

グラディエーターだと...!?

完全無敵な表題作は尺的にも重厚な内容からも、まさに大長編に匹敵するほど圧巻の超傑作である。(でも激しく人を選びそう&好みが分かれそう)

架空の日本を舞台に、”月昂”という感染症にかかった男の生涯が描かれるディストピアSF×ファンタジーな物語なのだが、話の展開が斜め上過ぎてテンションが猛烈に上がってしまい、まさに私自身が”月昂”に感染してしまったかのような状態に陥ってしまった。ちなみに”月昂”とは超強烈なインフルエンザのような症状が発端となり、最初の段階で死亡する罹患者もいるが、そこを乗り切るとスタンド使い満月期に超パワーアップし、新月期に深い賢者タイムに入り3%くらいの確率で死ぬという状態になる病気である。

架空の日本が舞台だけあって、独裁政治のもとに月昂発症者を隔離するのだが、そこでまさに古代ローマ帝国のような剣闘が行われている。主人公はそこに太刀使いのサムライとして参戦することになり、とある事情で女を愛することになり....という胸アツな展開が待っている。

私は恋愛ものには相当な拒絶反応を示す体質であり、くだらない小説のくだらない恋愛シーンでは「マジでかんべんしてくれよ....」となってしまうのだが、「残月記」の恋愛はいろいろと完璧に決まってしまっており、『北斗の拳』とか『男塾』が好きな小生は、物語が終盤に差し掛かるや涙腺が緩んでしまう状態であった。

激アツな中盤戦とスーパーハードな逃避行とせつない純愛の物語はツボにはまればとことん好きになるだろう。読後はしばらく放心してしまった。

 

ほんとにこんな感じ

 

究極のリアリティ”トイレ愛”

超どうでもいいことなので完全に蛇足なのだが、それを承知で書いておきたい。

『残月記』収録の作品はいずれもトイレとか小便・大便関連のネタが頻出するんです(笑) なんでだろうと考えてみると、おそらく著者の小田さんはトイレが近いんだろうとか、はたまたひょっとしてスカ〇ロ好きなのかしらんとか、くだらない考えが次々と浮かんでしまうのである。

というのは置いておくとして、何が言いたいかというと、私は頻尿なので基本的に常にトイレを探すことから行動が始まる人間である。そのため小説を読んでいて「トイレはどうするんだろう??」と常々ツッコミを入れてしまうものなのである。そんな中『残月記』は生まれて初めて出会ったトイレのことを考慮した小説なのだ。くだらないことだが私は感動したし、小田雅久仁氏の作品は今後もずっと読み続けたいと心に決めたのである。......(笑)

 

至高の傑作

プロットや世界観の完成度の高さや、洗練された文章など読む人を選ぶものの、稀に見る傑作なので多くの方におすすめしたい。今後新刊が出たら即購入する作家が一人増えたのは幸せなことである。

 

 

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自己紹介と書評ブログについて|PV数や収益など公開

10万PV記念に「私」と「ブログ」をネタバレ

2020年8月から『神本を求めて』と題して始めたこの書評ブログだが、2022年5月に10万PVに達した。興味本位で調べてみたところ、本ブログは更新頻度や記事数を考慮すると、それなりに読まれている書評ブログだとみなして良さそうである。

そのためこれから書評ブログを書いて儲けようかなぁなんて考えている無謀な方(笑)には、そこそこ需要があるとみなして私の自己紹介と本ブログのステータスをネタバレ解説していく。

私の自己紹介など興味がないのは分かっているが、どんな人が書いているのか把握することで、本ブログの見方も変わってくるかもしれない。何らかの参考になれば幸いである。

私のステータス

書評ブログに関係しそうなパラメータを箇条書きしていく。

  • 生年月日:1986年(昭和の民)
  • 家族構成:妻+子供2人+猫
  • 最終学歴:大卒
  • 職歴:TSUTAYAブックオフ的な業態の会社に5年勤務後、ブラック派遣IT企業を経て某IT上場企業への転職に成功。以降はインフラSEとして現在に到る。
  • 自己PR:SF好きのデスメタラー

こんなところだろうか。紹介するに値するであろう読書歴は次の項で書いていく。

 

私の読書歴

私は後天的な読書好きである。かつては(今もだけど)SF映画やB級ホラー映画、RPGをメインとするゲーマーでデスメタラーでブラックメタラーであった。そんな私が読書マニアになっていくまでに読んだ本を覚えている範囲で紹介していく。

 

小学生

中学生

 

高校生

読んでない!たぶん。
リア充(死語か?)だったため本を読む暇などなかったはず。

 

大学生

ブラック企業(2010~2016)

思い出しただけで発狂するような地獄のブラック企業時代。そこそこ高学歴なのに映画や本を扱う会社に行こうと思ったのが運の尽きだった.....。もちろん小説など1冊も読んでいない。2014年の結婚を機に転職を考え、2015年に転職するもそこではさらなる地獄が待っていたが、何とか経験を積みまともな会社への転職に成功した。
ここではっきり確信したが、幸せになるためには公務員になるか大企業に就職するしかないのである。この時期は地獄から脱出するために何冊かの自己啓発本やビジネス書を読んだが、書いてあることはすべてクソである。公務員になるか大企業に就職するか。人生にはこの二つしかないのである。
この記事を学生が読まれているのなら、企業や自営業、中小企業への就職は地獄への入り口であることを強く心に刻んでほしい。残業代なし、夜勤手当なし、休日出勤手当なし、昇給は雀の涙、賞与はほぼゼロ、残業時間は毎月100時間越え、なのに手取り給与は20万に満たない。まさに悪夢である。

 

ホワイト企業(2016~)

ここから私の本当の人生は始まった。労働時間が激減したにもかかわらず給与は4割増し。精神的にも金銭的にも余裕ができたのか、転職した直後に妻は妊娠し、2018年には東京郊外にマイホームを購入している。自由時間が劇的に増えたため、およそ7年ぶりに何か趣味を作ろうと思い、2016年にkindleを購入したことから読書マニア生活がスタートした。2020年に管理職に昇格するまでは年間250~300冊のペースで読めていて。役職がついてからは、精神的に忙しくなった関係で読書量が減少したが、それでも年間200冊程度は読めている。そして今に到る。

2016年にKindle端末を購入してからリハビリも兼ねて読み漁っていたのは、著作権切れで無料で読めた江戸川乱歩である。乱歩は神です。ちなみに購入したのはKindle Paperwhiteである。

 

 

書評ブログ『神本を求めて』について

『神本を求めて』という題名はFFⅥの神曲『仲間を求めて』から名付けている。ちなみにはてなブログで本ブログを書き始める前は、アメブロで書評ブログ+αのクトゥルフ神話の『未知なるカダスを夢に求めて』をもじったタイトルのブログを書いていた。

私は無料プランでしかブログを書くつもりがないので、アメブロの方が収益は多かったような気がしなくもないが、ランキング形式などのまとめ記事を書くと、アメブロだと文字数制限の関係で書ききれないという事情で、必然的にはてなブログに移行している。

ブログはあくまでも趣味でやっており、また将来我が子におすすめするための備忘録として書いているので、ブロガーになって稼ぐというつもりはない。そのためグーグルアドセンスは利用していないし(そもそも無料プランなのでドメイン名的に利用不可っぽい)、商品リンクを加工して貼るのが面倒なのでアフィリエイトAmazonのみにして、楽天のリンクは貼っていない。書評ブログでバリバリ稼ぎたい方(まぁそんなことは無理だろうが)その辺に詳しそうな方の記事を読むのが良いだろう。

稼ごうと思うと途端につまらなくなり、やる気が失せるのがブログである。ゆる~く継続するのが何よりだろうと考え、無料プランで月に1~2記事という亀ペースながらも着実に更新している。

 


www.youtube.com

 

PV数推移

書評ブログを書いたことがある人なら誰でも通る道だと思うが、最初の内は全く読まれない。というか戦略をミスると永遠に1日あたり0~10PV位という残念な結果を叩き出し続けることになるだろう。

読まれるようになるための王道の手段は読者を増やすことではなく、Googleなどの検索エンジンからの流入を増やすことである。というかそれ以外の手段は全部クソと言っても良いだろう。悲しいことだが他人はだれもあなたに興味はない。興味があるのは記事の情報であるTwitterなどのSNSで相互フォローを増やしまくって宣伝するのは、あくまでも最初の頃の苦肉の策といってよい。

私の場合はアメブロの複数記事がすでにGoogle上位表示されていたので、その記事をはてなブログに引っ越しして、アメブロにはリンクを貼っておくという姑息な手段を用いたため、最初からそこそこのPVがあった。「強くてニューゲーム」というやつである。

しかしPV数が安定して100を超えるようになったのは以下の二つの記事がGoogle上位表示されてからである。たしか書いてから2ヶ月くらい経ってGoogleでヒットするようになり、じわじわ上位に挙がってきたような気がする。

 

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タイトルを見ていただければ「この野郎!」と思われるかもしれない。そう、Googleに上位表示されそうなタイトルにしているのである。いかにも狙ってそうでしょ(笑)

いくらブログで稼ぐつもりがないと言っても、まったく読まれないのではテンションだだ下がりなので、モチベーションアップのためにいわゆるSEO対策とやらを実施している。

ちなみに10万PVを突破した2022年5月では、過去3ヶ月を見てもほぼ150~250PVという数字に収まっている。アクセス元の内訳は概ね以下の通りである。

  1. Google:60%
  2. Yahoo!検索:20%
  3. ブログ内リンク:15%
  4. Bing:5%
  5. その他:0~5%未満

ちなみにTwitterで書評ブログの告知をすると人間不信になるので気を付けよう(笑)

200いいねがついてもリンク先に飛ぶ人は3割に満たないだろう。下手したらもっと少ないかも。

 

収益推移

前述の通り私はブログで稼ぐつもりはないため、グーグルアドセンスは利用しないし、アフィリエイトAmazonのリンクしか貼らないようにしている。したがって、収益が発生するのはAmazonアフィリエイト収入だけである。

さあ....恐るべき雀の涙的な収益を教えてあげようではないかないか。

  • 単価が低い
    Amazonで新品の本を購入いただいた場合は3%還元である。仮に1000円の本が購入されたとしてもたかが30円だ。
    しかも多くの方はマケプレで中古の本を買われる。Amazonマケプレでは商品代が1円で送料が300円などもあり、その場合はもちろん収入はない。

  • kindle版なら多少はマシ
    kindle版の還元率は8%である。1000円の本が売れれば80円バック。おまけにマケプレは存在し得ないので安定している。たまに開催されるkindleセールで合本が買われると「うおっ」となる。

  • 最大の収入源はメンバー紹介
    私は特に意識していないのだが、何らかの商品リンクから飛んでKindleUnlimitedやアマプラなどサービス契約がなされると500円入る。ついつい金儲けのためにリンクを貼りまくりたいと思う気持ちが湧いたりするが、そうしたら趣味ではなくなるし、収益が増えすぎると会社に怒られそうなのでやらないようにしておく。

そして肝心な本ブログの収益だが、概ね月に1000円から2000円である(笑)
だが私は月に1~2記事程度しか更新せず、ブログを書いている時間は月に10時間に満たないため、時給100円は超えているのである。やったね!(泣)

アフィリエイト収入はAmazonギフト券で届くようにしているので、書評ブログで儲けた金はAmazonで本の購入に捧げている。本で稼いだ金で本を買う。自給自足である。これがまた何ともいえない醍醐味なのです。

ちなみに以下に過去30日間の収益の画面キャプチャを貼ったので参照してほしい。大体いつもこんな感じだが、いつもはもう少し単価が低い代わりに50冊くらい売れることが多い。

 

これぞまさに雀の涙

 

稼ぎたいなら働きましょう(笑)

結論、書評ブログは趣味である。趣味以外の目的でやってはいけない。

おそらく私が有料プランにして独自ドメインを作り、グーグルアドセンスを利用して楽天やhontoなどのアフィリエイトリンクも貼り、さらに月に10記事くらい書けば1万円くらいは稼げそうな気がしなくもない。しかしそれで1万円....まさにアホである。そもそも私は本当に紹介したい本しか記事にしないので、10記事書こうとノルマを設けるとゴミのような作品も紹介することになってしまう。それでは価値がなくなる。

何の社会貢献にもならないような残念な仕事で金を稼ごうなどとは笑止千万!地道に働こうではありませんか。好きな本のことを記事で紹介するのは面白い、そんな方に書評ブログはおすすめである。

 

ふぅ...疲れた

始めて小説以外の内容を中心に書いてみたが、やはり疲れるし書いていてあまり面白いものではないですな。しかし前々から自己紹介的な記事を書かなきゃなぁと考えていたのでスッキリした感がある。1年前くらいから書こうと思ってたかも(笑)

本については書評以外に語りたいことがあるので、いつかまたこんな感じの記事を書くかもしれない。例えば紙の本VS電子書籍とか小口研磨本許すまじ!やらメルカリとか...etc。

 

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『日本アパッチ族』小松左京|日本SF総大将衝撃のデビュー作

食鉄人種アパッチ族 VS 人類

 

こんな奴がいたら怖いって.....

作品紹介

小松左京による『日本アパッチ族』は1964年に光文社より出版された作品で、文庫版でおよそ400ページの長編であり、国内SFの御三家として君臨する小松左京のデビュー作である。新婚ほやほやだが超貧乏だった当時の小松左京が、妻を楽しませるために書いたという経緯があるためか、次作の『復活の日』以降の作品と比べると、ハードSF的な要素や風刺小説の側面を持ちつつも、エンターテイメントに特化した大衆娯楽小説となっている。

社会風刺と豊富な知識から生まれた奇想、そしてセンスのいいユーモアが組み合わさって、荒唐無稽だがやたら面白い物語に仕上がっている。また食鉄人種こと”アパッチ族”の生体については、気合いの入った詳細な描写がなされており、若かりし頃の著者がすでに博識であったことが伺える。さらにアホな設定からしっかりしたプロットを組み立てて、最後まで読者を楽しませるという点で、ストーリーテラーの才能も発揮している。偉大な作家のすべてが詰まったデビュー作について書いていく。

 

 以下、あらすじの引用

会社の上司の鼻をひっぱったために懲戒免職。さらに三か月以内に就職しなかったとして、失業罪で逮捕、追放の判決を受けた木田福一。砲兵工廠跡地に追放された彼は、餓死寸前で野犬に食われそうになっていたところを、アパッチ族に助けられた。赤銅色の肌を持ち、鉄を主食としているアパッチ族。木田は、彼らの一員となり、謎に包まれた生体と生き様について、記録していく。初の長編にして最高傑作の呼び声高い記念碑的作品!

 

 

冒頭からスーパーハイテンション

『日本アパッチ族』は労働が国民の権利ではなく義務となり、失業が重大な罪となる改変された1960年代の日本が舞台となっている。

アホな理由で懲戒免職をくらい失業した主人公・木田(キィコ)が実質死刑と同義の”追放刑”となり、警察に追放地に連行されるところから物語は幕を開ける。連行されるシーンがのほほんとしていて緊張感がないのに、いざ追放地に放たれると食べ物無し、飲み物無し、周囲には飢えた野犬が無数に存在するというと地獄が待っているというギャップ萌えを楽しむことができる。なおこの追放地は放り込まれたら最後、脱獄を試みても配備された兵器に木端微塵に粉砕されることになる。

そんな地獄に追放早々なすすべなく死にかけていると、山田捻という追放された政治犯に命を助けられ知恵を絞って脱獄を試みようとするものの.....。

ここまでが序盤。しかしすでに長編を一本読み終えた級の感覚を味わえてしまうのである。この時点で奇妙な怪物の噂は耳に入っていて、ついに奴らとの邂逅を迎えるのである。

 

食鉄人種アパッチ族

ついに登場アパッチ族!....で、彼らがとても面白いのである。やたら詳細に書かれるアパッチ族の生体も面白いのだが、さらに笑えるのが彼らのキャラでまさに鉄人なのである。みな口数は乏しく、表情は硬く笑うことも無いのだが(死ぬとき以外)、流麗な関西弁と危機に陥っても平然としてのほほ~んとしているところがとにかく笑えるのだ。

書いてみてどう笑えるのか全然伝わらないであろうことは認識しているのだが、軍隊が攻めてきてものんびり我関せずで、リーダーはいつも鼻毛を抜いているし緊張感が皆無というのは「ぷっ(笑)」という笑いを連発させること必至なのである。

続いて彼らの生体。いうまでもなく鉄を喰う。そしてガソリンや塩酸を飲む。皮膚は鉄になっていて、身体能力は人間の時から飛躍的に強化される。体が欠損しても溶接すれば回復可能で、弾丸が撃ち込まれまくっても、突き刺さった弾丸がやがて肉体に取り込まれるという無敵っぷり。ちんこも鋼鉄になっていて、酸性の精子アルカリ性卵子にぶっかけることによる中和作用で受精するなど、アホな設定が細部まで描写される。これも笑える。ちなみにアパッチ族のうんこは非常に優秀な鋼鉄である。(汚いけど)

通常の人間が鉄を喰うことによってアパッチ化が進むのだが、完全アパッチ族化されるにはそれなりの時間がかかる。この設定が微妙にゾンビっぽいのがたまらない。アパッチ族とは人間が進化した別の生命体らしい。

 

軍隊 VS アパッチ族

アパッチ族が危険視されたことにより、政府が軍隊を派遣してアパッチ族を抹殺しようと試みるのだが、身体能力が高いわ、銃弾が効かないわ、戦車や銃器は食べられてしまうなど、アパッチ族が想定外に強力で軍隊は手も足も出ない。熾烈な戦いなのにアパッチはのんびりしているし、死ぬ時だけ笑うので不気味だし、なんか笑えるしで、軍隊側は気の毒だけど読んでいて非常に面白い戦闘なのである。

鉄を喰うだけで人間ではなくなる代わりに、不死身に超人になれるとしたらなりたいだろうか....私はなりたいかもしれない。

 

政治的な思惑と日本滅亡

前述の通り、アパッチ族のうんこは貴重な鉄資源なのでとても価値が高い。そのうんこをめぐって政治的なあれこれがあり、アパッチ族と人間の最終戦争がはじまり、ついに日本滅亡というとんでもない状況を迎えるのである。

この辺は書きすぎるとネタバレになるので、あまり触れないようにするのだが、アパッチ族がじわじわと数を増やしてきて、人類に取って代わっていく流れはずばりバイオハザードのようであり、また『復活の日』や『日本沈没』を上梓したシミュレーション小説を書かせたら日本一の著者だけあって、滅亡に向かう過程が異様にリアリティがあるのだ。

生き残ったのは人類かアパッチ族か.....そこは読んで確かめてほしいのだが、どちらかが勝利したかという部分には哲学的な問いかけがなされているようでもある。この物語は社会から棄てられた棄民が逆襲するという風刺的な側面がとても強いので、ただ話が面白いだけでなく、何かと考えさせられるのが素晴らしい。

 

これを書いたのが30代前半だと...!?

色々な意味で凄すぎるデビュー作だし、大御所が書かれているのでついついご年配の方が書いたという錯覚を覚えるのだが、計算してみると『日本アパッチ族』と『復活の日』が上梓されたのは1964年で、当時小松左京氏はなんと30代前半。こんなの震えるしかねぇよ。この時代の作家は怪物ばかりだが、小松御大はレベルの違いが際立っているように感じる。

まぁそんなことはさておき、デビュー作だけあって小松作品の中でも様々な要素が詰まっていて、何よりエンターテイメント作品としての質が高いので、昨今のコロナ渦で『復活の日』を読まれた方やドラマ化されたことで『日本沈没』の原作を読まれた方が次に読むのは『日本アパッチ族』で決まりだぜ!

 

 

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