神本を求めて

小説を読みまくって面白い本を見つけたら紹介するブログ

『NO.6』あさのあつこ|鬼畜外道の地獄ディストピア

児童文学だって?冗談キツい

 

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真のトラウマ鬱小説認定

作品紹介

 あさのあつこによる『NO.6』は2003~2011年に本編となる#1~#9、2012年に続編にあたる『NO.6 beyond』が講談社より出版された作品で、トータルで2000ページ級の大長編である。

 大ベストセラー『バッテリー』の作家であり、児童文学の作家として名高いあさのあつこだが、『NO.6』は果たして本当に児童に読ませても大丈夫なのか....と思うほど過激な内容であり、冒頭からガールフレンドが突飛なセリフを吐くなど、かなりいかれている。

単行本、文庫ともに9分冊されているため敷居が高く感じるかもしれないが、1冊の分量は概ね200ページ前後で、beyondまで含めても2000ページくらいなので読み始めてしまえば睡眠時間を削りまくる危険な徹夜本である。

不穏なディストピアの世界観に、謎が謎を呼ぶミステリ的展開、魅力的なキャラクターなど稀に見る大傑作として多くの方におすすしたい作品である。

 

 以下、あらすじの引用

 2013年。理想都市『NO.6』に住む少年・紫苑は、9月7日が12回目の誕生日であった。だが、その日は同時に彼の運命を変える日でもあった。『矯正施設』から抜け出してきた謎の少年・ネズミと出会い、負傷していた彼を介抱した紫苑だが、それが治安局に露見し、NO.6の高級住宅街『クロノス』から準市民の居住地『ロストタウン』へと追いやられてしまう。

4年後、紫苑は奇怪な事件の犯人として連行されるところをネズミに救われ、彼と再会を果たす。NO.6を逃れ、様々な人々と出会う中で紫苑は、理想都市の裏側にある現実、『NO.6』の隠された本質とその秘密を知っていく…。

 

NO.6♯1 (講談社文庫)

NO.6♯1 (講談社文庫)

 

 

 読み始めたきっかけ

 著者のことはさっぱり聞いたことがなかったのだが、私が最も好きな作品である貴志祐介の『新世界より』が好きな人へのおすすめとしてネットサーフィンする中でちらほら目にしていた。

 気にはなっていたが9分冊+1冊の大長編ということもあり、用心深く調べまくってみたところ児童文学の作家ということが判明し、他の代表作品を見ても明らかに児童文学という印象を受けたため躊躇していたのだが、日に日に気になる度は上がっていき、よくよく見てみたら1冊1冊の分量はわずか200ページ程度だと知り、さらに文庫版の装丁が美しいことも後押しになり読むことに決めた、という経緯である。

 高い期待値だったにもかかわらず、期待を裏切るどころか超えてきた素晴らしい物語だった。

 

『NO.6』の悪い点

 私は『NO.6』に完全に魅入られてしまっており、べた褒めしてしまいそうなので、先に本作の欠点を挙げてみたい。

  1. 分冊し過ぎ
    単行本であればもともと分冊され、時間を空けて刊行されてきたので文句の付けようがないのだが、文庫版も9分冊してしまうのはちょっとやり過ぎだと思う。
    文庫版は文庫用の著者あとがきがあるのだが、なぜか全巻についているわけではないため、450ページの4分冊+beyondにした方がスッキリしたとは思う。

  2. 謎にBL
    『NO.6』はなぜかボーイミーツボーイという誰得要素が極めて濃厚である。
    BLであることに意味を見出せるのならどんどんBLしちゃっても構わないのだが、本作においてはまったくと言っていいほど意味が見いだせない。
    まぁ著者がホモ好きなのだろう。某シーンなどトリハダが立ってしまいましたわい。
    こういうのが好きな人...腐女子かゲイであれば、大きなプラスポイントであることは言うまでもない。

欠点と言ってもこれぐらいか。ただBLのせいでそれなりに人を選ぶ小説になっているのはかなり深刻なデメリットだと言えるだろう。 
(BLやるなら百合も入れてくだされいッ!)

 

世界観最高

 聖都市と称される理想都市『NO.6』....という言葉を見ただけでテンションが上がってくるのがSFやRPG好きの宿命だろう。

終戦争によって地球上に人間が住めるエリアはほとんど残っておらず、残された地に6つの理想的な都市国家を創造したという設定の時点で、ハァハァしそうなのに壁に囲まれた理想都市の外側にはスラム街のようなエリアがあったりと『NO.6』の世界観は魅力に溢れている。

そんな世界に正体不明の寄生生物や用途不明な施設、都市国家の成り立ちに秘められた謎といった不穏なミステリ要素がこれでもかというほど詰め込まれているのだから悶絶必至である。

 

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こういうSF的な都市はたまらん

 

魅力的なキャラクター

 大長編かつ規模の大きな物語である割には登場人物は少なめで、それぞれがとても個性的で魅力のある良キャラである。キャラの良さは物語で最も大事な要素だと思っているので大きなプラスである。

まじめでお坊ちゃんだけど、やることはやる天然ボーイの主役・紫苑。

男版ツンデレの決定版・ネズミ(またの名をイブ)

隠れツンデレ萌えキャラ・イヌカシ

いいおっさん・力河 といった中心人物は本当にみんな良いキャラしている。

性別を意識させない人物が多い中、貴重な女性キャラ....というかヒロインの出番がやけに少ないのがちょっと残念だが、このヒロインもいい仕事をしている。

 

欲しいものは精子

 『NO.6』は序盤から児童文学だと考えるのをやめさせる会話がある。

 

女(16歳)「わたし、あなたから貰いたいものがあるんだけど

男(16歳)「うん。今からでも間に合うなら

女(16歳)「精子

女(16歳)「聞こえた?あなたの精子がほしいの

男(16歳)「あ・・・・え? ・・・・・あの

女(16歳)「セックスしたい

 

 対象年齢が低めな作品だと認識していたのだが、このセリフのおかげで「あっ...これなら大丈夫だ」と安心したのは言うまでもない。

 おませな小学校高学年からSFおじさんまで実に幅広く対応しているので、私がそうであったように児童向けだからという理由で忌避している方はご安心だ。

 

情け容赦ないサバイバル

 理想都市の壁の外側にある西ブロックというスラム街はまさに生きること自体がサバイバルな状況で、そこで描かれる過酷な環境下での生存競争はから学ぶことはとても多い。

何かを学ぶために小説を読むといった意識高い系的な愚行は避けたいものだが、『NO.6』からは確かな価値があることが学べるので、こういった観点からは小学生(高学年)であればおすすめしたくなる。

 

以下、少々本編の内容に触れるかも

 ネタバレになるようなことは控えるつもりだが、何一つ知らないで読みたい方はここで退散されることを推奨します。

 

アウシュビッツ級の地獄絵図

 『人狩り』と称した西ブロックでの虐殺兼誘拐と、強制施設で待つ地獄のような処遇は手加減なく本気で阿鼻叫喚の地獄絵図を見せられることになる。

老若男女問わず情け容赦なく残虐に虐殺されたり、瀕死の重傷を負いつつ死にきれない人間が殺してほしいと懇願してきたりと鬼畜この上ない。

そして地獄の先に待つもの......目も当てられないほど悲惨な結末が待ち受けているのである。

 小学生の時に某鬱RPGで強烈なトラウマを背負うことになったのだが、『NO.6』もそれに勝るとも劣らない極悪非道にして鬼畜の所業である。

読んでる時から最悪の結末は予想できていたのだが、もうちょっとマイルドかなと思っていたら想定を遥かに超えてきて唖然。

直接的なことは書かれていないからセーフなのかもしれないが、これは小中学生でも想像できてしまうだろうな....。

 著者は悪趣味な方向で本気を出しまくっているのでぜひとも体感してみてほしい。

 

謎はしっかり回収される

 ラストが近づいてくると「あれ....残りのページ数少ないけど大丈夫か」という不安に包まれた。これは他の読者も感じたことと思う。

ちょっと失礼なことを書いてしまうかもしれないが、個人的に女性作家は論理的にすべての伏線を回収して、きれいに大団円を迎える...ということをあまりしない傾向があるように思っている(ごめんなさい🙇)

だからこそ残りのページ数に冷や冷やしたものだが、結果的に提示されていた謎はすべて解決しているし、あっさりしてる感はあるもののとてもうまく締めくくられていると思う。

謎は解決しつつ、今後の動向について妄想の余地を残しまくる....いいですな。

 

『NO.6 beyond』

 

 “NO.6”が崩壊してネズミは去り、紫苑は留まった。紫苑は再建委員会のメンバーとして、国家の激変を目の当たりにする。何があっても変わらないでくれと、紫苑に哀願して旅にでたネズミの真意とは何だったのか?遙か遠くの荒野からネズミの心は紫苑に寄り添う。瓦解した世界のその後を描く、真の最終章。

 

本編の続編にあたる各キャラ視点の短編集。

『NO.6』はラストからが始まりといった作品なので、続きはいくらでも書けそうな感じがするのだが、コンパクトにまとめて来たといったところだろう。

正直物足りないし、蛇足感もないわけではないが本編を読まれたのならとりあえず読んでおくべき内容である。

ちなみにイヌカシ→ネズミ→紫苑→ネズミの物語で、イヌカシの話はとても良い萌えである(笑)

 

 

紛れもない超傑作

冒頭にも書いたが、私は貴志祐介の『新世界より』のような物語を求めて『NO.6』に出逢ったわけだが、結果的には万々歳。評判通りのどころか、予想以上に楽しむことができた。 

 『新世界より』のような作品を求めている方には自信をもっておすすめしたい。面白さは保証する。(合わなくてもクレームは受け付けませんが笑 )

『獣の奏者』上橋菜穂子|情け容赦ない物語

一人の女性の熾烈な生き様が強く描かれる

 

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この儚く美しい装丁がすべてを物語る

作品紹介

 上橋菜穂子による『獣の奏者』は2006~2010年にわたり講談社より出版された作品である。

単行本、文庫ともに外伝まで含め全5冊で2000ページ級の大長編となっているが、Ⅰ闘蛇編およびⅡ王獣編で話は一応の完結をしている。(by著者)

Ⅲ探求編とⅣ完結編は後から追加された物語だが、前作から繋がる正統な続編で、矛盾することなく回収されていなかった伏線がすべて回収され、心を揺さぶる大団円を迎えることになる。

 また外伝は『獣の奏者』本編を補完する内容となっているため、外伝まで読むことでどっぷり世界観に浸ることができる。

 なお児童文学の作家として名高い上橋菜穂子だが、『獣の奏者』は著者本人が子供向けに書いていないということを宣言している。
そのため内容も明らかに子供向けではなく、Ⅲ探求編とⅣ完結編にいたってはむしろ子供に読ませても大丈夫かというくらい、衝撃的な内容なので大人でも楽しめるのは保証する。(外伝なんてもはや官能小説です)

 読んだ後の放心の度合いは最強クラスであり、若い頃に読んでいたらトラウマになってしまうほどのものなので、読むのなら覚悟を決めてかかる必要がある。

 

 以下、あらすじの引用

リョザ神王国。闘蛇村に暮らす少女エリンの幸せな日々は、闘蛇を死なせた罪に問われた母との別れを境に一転する。母の不思議な指笛によって死地を逃れ、蜂飼いのジョウンに救われて九死に一生を得たエリンは、母と同じ獣ノ医術師を目指すが―。苦難に立ち向かう少女の物語が、いまここに幕を開ける。

 

 

Ⅰ 闘蛇編

 私はネタバレ回避のために絶対に面白いであろう作品を読む時はあらすじもなるべく見ないようにしている。

 そのためてっきり幼い頃に母とはぐれた少女が獣の力を借りて、母をたずねる三千里といった内容を想像していたのだが、まったく違うということを序盤でおもいっきり理解することになった。容赦がない。エグい!!

こんな展開を子供が読んだらショックを受けてしまうような残虐非道なシーンによって『獣の奏者』は開幕する。(想像力があればあるほどヤバいのを想像してしまうというアダルト仕様)

 その後の流れはまさに科学。論理的な思考を養うのにうってつけな話が続くので、若い頃(大学生くらい)に読んでおきたかったなぁとしみじみ思うのであった。
何かを学ぶために小説を読むなどという意識高い系の読書家には間違ってもなりたくないし、なってはならないと思うのだが、意図せず何かを学べるのは良いことだ。

闘蛇編を読んでる時に思ったのはおっさん羨ましいなぁ...である。そんな思いすら叩き潰すのが上橋流だと知ることになるのだが。

 ちなみに闘蛇とは『獣の奏者』に登場する架空の生き物の内の一種だ。

 

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にゅるにゅるした蛇かと思ったら超強そうでビビる

 

Ⅱ 王獣編

 ここから先はあらすじに触れること自体がネタバレに繋がるので、極力内容には触れないように感想を書いていく。

流れ的にはお約束のパターンと言えそうだが、超強力な兵器があってそれがコントロールできるのではないかという可能性が出てきたらどうなるだろうか。時代が時代ならもちろん使って戦争の道具にするだろう。

そんな感じの流れではあるのだが著者はとにかく描き方がうまい。
獣と仲良くなってRPGでいう召喚獣のごとく使役して無双するといったチープな流れには決してならず、最後の最後まで引き込まれまくることになった....というか最後の方は残りページ数は大丈夫なのかというほどである。

 どうでも良いことだが、どうしてもエリンがFFⅣのリディアで想像されてしまい、某シーンでは「ゴルベーザ四天王とのバトル」が脳内再生されて困ってしもうた....(笑)

 

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モフモフしてるのにやたら強そう


「ゴルベーザ四天王とのバトル」 from FINAL FANTASY 4

 

 Ⅲ 探求編

 王獣編で物語は一応の完結をしており、著者自身としては書きたいことは書ききったとのことで続編は考えていなかったらしいが、講談社の説得により(?)刊行された続編である。
書ききったと言われても、回収されていない謎が多いのでリアルタイム読者であれば「え~.....続き書いてよ!」となっていたと想定されるので、あって当然の続編だと言える。講談社の担当はナイスファイトである。

 探求編は前作からだいぶ時間が経過していろいろな状況が変化しているのだが、ノーネタバレで読んでいる方なら、登場人物を読んでブッ飛ぶことになるだろう。
少なくとも私は「おいおい....相手は誰だよ.....と言うかおらのエリンを返しとくれ~」となった。登場人物を読んで驚いたのは『獣の奏者』が初めてである。

 内容はどうなるのかなぁと思っていたら、これがまぁ不穏。前作からの流れ的に明るい世の中になってるかと思いきや、そうはなっていないところが素敵。

闘蛇編で回収されなかった闘蛇の謎から幕を開けるや、もうそこから先は完結編の最後まで怒涛の一気読みである。

 

 Ⅳ 完結編

 もはや何も言えないのが完結編、賛否両論らしい。まぁ当たり前だろう。

もしかしてそうはならないよな....と祈りつつ読書史上最高スピードでページをめくるほど物語に吸い込まれてしまった。

かなりの本を読んできた中で、物語に泣かせられたり、笑わされたり、胸くそ悪くさせられたり、スッキリ爽快な気分になったりと様々な感情を抱かされてきたが、『獣の奏者』では過去最大に心を揺さぶられた。マグニチュード1億である。

 この物語を読んで上橋菜穂子の本気度が痛いほど伝わってきた。真摯な想いで物語を創っているからこそこのラストに至ったのだろうと思うと、上橋信者にならざるを得ない。

読んだことを後悔するかもしれないが、活字から世界を想像して感情を変化させられるのは人間だけの特権なので、多くの方に思う存分情け容赦ない物語を体験してほしいと思う。(獣の奏者を読んで心を病んでしまった方がいるとかいないとか.....)

 

 外伝 刹那

 

 王国の行く末を左右しかねぬ政治的運命を背負ったエリンは、女性として、母親として、いかに生きたのか。エリンの恩師エサルの、若き頃の「女」の顔。まだあどけないジェシの輝く一瞬。一日一日、その時を大切に生きる彼女らのいとおしい日々を描く物語集。エリンの母ソヨンの素顔を描いた単行本未収録短編「綿毛」収録。

 

 空白の期間が描かれるなどと聞いたので、完結編で受けた心の傷を癒そうと思ったら、全然癒されないどころか傷口を広げられる外伝が『刹那』である。

内容はエリンの母親ソヨンの話や、エリンと〇〇〇の馴れ初め、エサルの過去の話に、エリンの子育てと本編の内容を補完するものである。

明るい物語かと思ったらなんかやたらアダルトな香りがぷんぷん漂う官能小説すれすれの内容でした....子供が読んだらおませになってしまうわい。

異様に強烈なエロスを感じさせる内容だけに、上橋大先生が書くファンタジー官能小説をぜひとも読んでみたいと思ってしまった。書いてくれないかな~。

 

獣の奏者 外伝 刹那 (講談社文庫)

獣の奏者 外伝 刹那 (講談社文庫)

 

 

万人におすすめしたい

 児童文学の作家が書いたとは思えないほどのハードコアな内容ではあるが、この物語を通じて感じることや学ぶことがとても多く、本当に読んで良かったと思える数少ない本に加わった。

『甲賀忍法帖』山田風太郎|能力バトルの始祖

週刊少年ジャンプもひれ伏す

 

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天野絵がすべてを物語っている

作品紹介

 山田風太郎による『甲賀忍法帖』は1959年に出版された作品である。
文庫版は概ね350ページと読みやすい長さで、その中にこれでもかというほど能力バトルが盛り込まれている。

能力バトル作品の始祖とされる作品だが、この時代に書かれたとは思えないほど練りに練られた能力や戦闘になっている。
甲賀卍谷衆VS伊賀鍔隠れ衆の10人対10人が出し惜しみなしの忍術によって潰し合う戦いは面白い以外の何物でもない。

 能力によって相性があったり、忍者であるため正々堂々ではなく奇襲、闇討ち、だまし討ちに多対一といった卑怯な戦術までバリエーション豊富なことが面白さに拍車をかけている。

 またありがたいことに(?)、くノ一たちはやたら妖艶なキャラが多く、使用する忍術が忍術だけに漂うエロスも尋常ではない。

 

 以下、あらすじの引用

 家康の秘命をうけ、徳川三代将軍の座をかけて争う、甲賀・伊賀の精鋭忍者各十名。官能の極致で男を殺す忍者あり、美肉で男をからめとる吸血くの一あり。四百年の禁制を解き放たれた甲賀・伊賀の忍者が死を賭し、秘術の限りを尽し、戦慄の死闘をくり展げる艶なる地獄相。恐るべし風太郎忍法、空前絶後の面白さ。

 

甲賀忍法帖 山田風太郎忍法帖(1) (講談社文庫)

甲賀忍法帖 山田風太郎忍法帖(1) (講談社文庫)

 

 

究極の娯楽小説

 60年以上前の本だというのに純粋な娯楽小説として『甲賀忍法帖』は頂点に立っていると断言したい。

少年誌では昔から能力バトル系の漫画が絶大な人気を集めているが、能力バトルにも2パターンあると考えている。

一つは『北斗の拳ドラゴンボール型』である。
北斗神拳南斗聖拳かめはめ波舞空術といった能力のようなものがあるが、強い奴は強いし仲間が殺されて怒れば勝てるタイプだ。

もう一つは『ジョジョ型・HUNTER×HUNTER型』である。

ベースとなる能力にある程度の差はあれど、基本的には圧倒的な戦力差は無く、能力や知恵を総動員して戦うタイプである。

 どちらも面白いことは間違いないが、どちらかというと後者の方が面白いと思うのは私だけではないはずである。
甲賀忍法帖』は典型的な後者である。腕力や剣術などの体術や五感が発達しているといったベースとなる本体にも優劣はあるが、能力や戦術を駆使することでその差を跳ね返すことができる程度のパワーバランスであるため、とにかく読んでいて面白い。

そして各キャラが使用する忍術はしょうもないものから反則級のものまで多彩だが、残念な能力であっても使い方次第では役に立つものなど全20人すべてが個性的である。

バジリスク 甲賀忍法帖』という名でアニメ化もされているが、この原作であれば現代でも通用することは間違いないだろう。そんな普遍性を持った作品である。

 

設定が面白過ぎる

 内容はシンプルで、徳川三代将軍決めるために甲賀衆と伊賀衆が代理戦争をするというものである。

 それぞれ10名ずつ選抜して全滅するまで戦うというバトルロイヤル形式が取られるのだが、そもそも代表+1名しか選ばれたメンバーが誰かを知らず、全体にことの全貌が伝わる前からすでに戦いが始まっているのである。

 甲賀のリーダーと伊賀のリーダー恋愛関係にあることも、物語の面白さにただのバトルものとは一味違う魅力を付与している。

忍術バトル×悲恋物語といったところだろう。これがつまらないはずがないことは一目瞭然だ。

 

絶妙なパワーバランスと多彩なバトル

 

 先にも書いた通り、忍者たちには圧倒的な戦力差はない。

もちろん一般人でも格闘術を習っている人は強いし、男性と女性なら男性の方が基本的には強いといった程度の差はあるが、一番強い奴でも大して強くないキャラが5人束になってかかればなんとかなるかもしれない程度の差である。

そして忍者であるがゆえに正々堂々戦うといった概念は無く、奇襲やだまし討ち、リンチを問答無用に行うため、全体的に見れば概ねチーム全体の力は均衡していると言える。

 たとえば一番強いと思われるキャラはほぼほぼ無敵級の強さを誇るが、あるキャラの能力や体質によっては無効化されたり、強力でも能力や弱点が相手にばれたら有用性が大幅に減退するといったバランスである。

 

 溢れんばかりのエロス

 エロスこそが『甲賀忍法帖』の本当にすごいポイントの一つだ(笑)
エロではなくエロス。そこが重要。

総勢20名の忍びの中にはくノ一も多数いる。そんな彼女らの忍術の多くがエロスを演出するために考えられたとしか思えない、妖艶なものなのである。

能力を明かすのはネタバレになるので後々記載とするが、エロい技をエロく使うことにとことん成功している。

 

 ※以下能力ネタバレ

 男というのは能力バトルが好きであり、強さを格付けせずにはいられない生き物なのである。ということで登場人物兼忍術紹介+強さを格付けしたい。

なおアニメ版とは異なり、肉弾戦の描写はさほど多くないため体術は考慮せずに忍術の強さだけで判断する。

 

 メンバー紹介


甲賀

  1. 甲賀弦之介
    リーダー。伊賀のリーダー朧の恋人。瞳術という殺意を持って襲い掛かってきた者を自滅させるというナルトもびっくりな超強力忍術を持つ。
  2. 風待将監
    蜘蛛男。強力な粘着力を持つ痰を吐く(汚い....)。蜘蛛の巣のように吐くこともできてその上を移動することもできる(汚ねぇ...)。
  3. 地虫十兵衛
    芋虫男。四肢が欠損している。口に仕込んだ槍を発射することや、走る以上に速い移動ができる(キモい)。
  4. 鵜殿丈助
    デブ毬男。朱絹が好き。ゴム毬のように柔軟な体を持つ。北斗の拳ハート様ですな。
  5. 霞刑部
    大入道。壁と同化することができる。腕力も超強力。
  6. 如月左衛門
    モブキャラ面(存在感の薄い人)。お胡夷のお兄ちゃん。誰にでも化けることができる。
  7. お胡夷
    豊満な肉体のお姉さん。肉体が吸い付くエロ吸血鬼で如月左衛門の妹である。
    血を吸ったら吐かないといけないのがまたエロい。
  8. 陽炎
    妖艶な美女。弦之介のことを愛しているのがポイント。
    欲情すると吐く息が強力な毒の息になる。
  9. 室賀豹馬
    盲目にして甲賀のナンバー2。弦之介の瞳術の師であり、夜だけ瞳術が使用できる。
  10. 甲賀弾正
    弦之介の祖父。含み針を使用するがすぐに退場。


<伊賀>


  1. 優しいお姉さん。弦之介の彼女。忍術は使えないが生まれながらにすべての忍術を無効化する破幻の瞳を持つ。
  2. 夜叉丸
    イケメン枠。蛍火と付き合っている。女の髪を束ねて作った鞭を使用する。
  3. 小豆蠟斎
    お爺ちゃん。手足が伸縮自在で破壊力も抜群。
  4. 朱絹
    エロお姉さん。体から血の霧を噴出させるというなんともエロい技を持つ。
    もちろん裸にならないと血霧は出せません。
    傷ついた筑摩小四郎のことを看護して好きになるという萌えポイントあり。
  5. 蛍火
    萌え枠。夜叉丸の彼女。
    虫や爬虫類を自在に操るというかなりすごい忍術を操る。
  6. 雨夜陣五郎
    ナメクジ男。水に同化するが塩をかけられたら死ぬ。
  7. 筑摩小四郎
    アニメだと好青年。息を吸うことで引き起こす「吸息旋風かまいたち」というダサいけどこれぞ必殺技な忍術を使う。
  8. 蓑念鬼
    体毛おじさん。空気に触れる箇所以外はすべて体毛に覆われており、その体毛を自在に操ることができる。
  9. 薬師寺天膳
    不死の忍者。伊賀のナンバー2で剣術にも精通している。年齢不詳。
  10. お幻
    朧の祖母。特に何もせずに殺られたが、おそらく鷹を操る。

 

 能力ランキング

ただ書いてみたかっただけである。
人様に読んでいただくために書いているのではなく、完全に脳内妄想に過ぎません(笑)

Eランク

朱絹:完全にサポート役、血を浴びてみたい

Dランク

陽炎:殺傷力は抜群だが使いどころが難しい

Cランク

お胡夷:強そうでいて使い勝手は悪い

:完全にサポート役だが能力はチート

Bランク

鵜殿丈助:体術に対して無敵だがデブ

如月左衛門:まさに忍者。活躍しまくるが戦闘力特化ではない

地虫十兵衛:完全に一発芸。でも動きが速いから優秀

小豆蠟斎:優秀な武闘派だがお爺ちゃん。

雨夜陣五郎:すごい能力だが、弱点が残念

蓑念鬼:無難に優秀だが毛むくじゃら

蛍火:もはや魔法使い級の忍術だが武闘派ではない

Aランク

室賀豹馬:期間限定だが能力はチート。発達した聴力も重要

風待将監:汚いが明らかに強い

霞刑部:忍術も腕力も強い最強候補

薬師寺天膳:まさにチート能力。でも拘束されたらアウト

夜叉丸:無難な強キャラ。使い勝手がいい

筑摩小四郎:使用する忍術が殺傷力ナンバー1

Sランク

甲賀弦之介:朧と盲目キャラを除けば無敵

 

まとめ

 読んでみて思ったのは、ずばり1959年という大昔にこんなに面白い本が存在したのか...という純粋な驚きだ。

多少のアレンジを加えつつ『バジリスク 甲賀忍法帖』としてコミック化、アニメ化されたことからも、現代でも衰えることなく通用することが分かるが、現代でも通用するばかりか、現代でも他を圧倒するような最高クラスの能力バトル作品なのである。

ジョジョHUNTER×HUNTER、そして同じ忍者ものとしてNARUTOが好きな方は何が何でも読んだ方がいいだろう。

 


「甲賀忍法帖」(MV)

甲賀忍法帖 山田風太郎忍法帖(1) (講談社文庫)

甲賀忍法帖 山田風太郎忍法帖(1) (講談社文庫)

 

 

最強に面白い人生最高のおすすめ小説100選

神本を求めて

 

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神本を求めて本を積みまくる日々

 

1. 星を継ぐもの 三部作 / J.P.ホーガン(1977~1981年)

 

月面調査員が真紅の宇宙服をまとった死体を発見した。綿密な調査の結果、この死体は何と死後五万年を経過していることがわかった。果たして現生人類とのつながりはいかなるものなのか。やがて木星の衛星ガニメデで地球のものではない宇宙船の残骸が発見された……。ハードSFの新星が一世を風靡した出世作

 

月で5万年前の真紅の宇宙服をまとった死体が見つかった。

こんな魅力的な"謎"がある時点で本作が傑作であることは確定している。しかも月の人の謎を解明していく最中、木星の衛生ガニメデで2500年前の宇宙船が発見されるというさらなるミステリー。

圧倒的な"謎"に対して学者たちが科学的に解明していく流れはまさしく本格ミステリであり、論理的な帰結として辿り着く真相は驚愕の一言。一作目だけでも一応の完結はしているが、2作目では1作目で1作目では謎のままとなっている2500年前の宇宙船が明かされる傑作ファーストコンタクト作品、3作目は雰囲気が大きく異なり宇宙戦争の気配が濃厚な超スケールのSFとなり、シリーズの伏線がすべて回収され圧倒的な大団円が待っている。

 

〇個別紹介記事

kodokusyo.hatenablog.com

 

 

2. 新世界より / 貴志祐介(2008年)

 

ここは病的に美しい日本(ユートピア)。
子どもたちは思考の自由を奪われ、家畜のように管理されていた。
手を触れず、意のままにものを動かせる夢のような力。その力があまりにも強力だったため、人間はある枷を嵌められた。社会を統べる装置として。
1000年後の日本。豊かな自然に抱かれた集落、神栖(かみす)66町には純粋無垢な子どもたちの歓声が響く。周囲を注連縄(しめなわ)で囲まれたこの町には、外から穢れが侵入することはない。「神の力(念動力)」を得るに至った人類が手にした平和。念動力(サイコキネシス)の技を磨く子どもたちは野心と希望に燃えていた……隠された先史文明の一端を知るまでは。

 

神エンタメ作家・貴志祐介が持てる力のすべてを注いだ完全無欠の超傑作である。

ジャンルはファンタジーでもSFでもミステリーでもホラーでもあり、幅広いジャンルの作品を上梓してきた貴志祐介がそれぞれの作品で魅せたエンターテイメント性が見事に詰まった最終兵器となっている。

文庫で1500ページにもおよぶ超大作でありながら、まったくと言っていいほどダレるところはなく、ひたすら睡眠時間を削られまくったのは良い思い出だ。

 

〇個別紹介記事

kodokusyo.hatenablog.com

 

 

3. 三体(三部作) / 劉 慈欣(2008~2010年)

 

物理学者の父を文化大革命で惨殺され、人類に絶望した中国人エリート女性科学者・葉文潔(イエ・ウェンジエ)。失意の日々を過ごす彼女は、ある日、巨大パラボラアンテナを備える謎めいた軍事基地にスカウトされる。そこでは、人類の運命を左右するかもしれないプロジェクトが、極秘裏に進行していた。
数十年後。ナノテク素材の研究者・汪淼(ワン・ミャオ)は、ある会議に招集され、世界的な科学者が次々に自殺している事実を告げられる。その陰に見え隠れする学術団体〈科学フロンティア〉への潜入を引き受けた彼を、科学的にありえない怪現象〈ゴースト・カウントダウン〉が襲う。そして汪淼が入り込む、三つの太陽を持つ異星を舞台にしたVRゲーム『三体』の驚くべき真実とは

 

アジア作家初のヒューゴー賞受賞作という超話題作。

ページが進めば進むほど猛烈に面白くなってくるという神仕様であり、さらに第二部黒暗森林や第三部死神永世はオールタイムベストとして後世に語り継がれるほどの凄まじい傑作である。ハードSFでありつつも、高いエンターテイメント性を兼ね備え、中国人的な発想なのか第一部の「計算陣形」や「飛刃」、第二部の「面壁計画」や「水滴」、そして第三部の「階梯計画」「智子」「紙切れ」といった常軌を逸した奇想が惜しげもなく披露される。

長大なボリュームだが、『三体』を置いて他に何を読むのか?というくらいの作品なので、ぜひ手に取ってみてほしい。読めば宇宙を理解し、日常の問題など些細な問題に過ぎないと思えるだろう。

 

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4. 甲賀忍法帖 / 山田風太郎(1959年)

 

家康の秘命をうけ、徳川三代将軍の座をかけて争う、甲賀・伊賀の精鋭忍者各十名。官能の極致で男を殺す忍者あり、美肉で男をからめとる吸血くの一あり。四百年の禁制を解き放たれた甲賀・伊賀の忍者が死を賭し、秘術の限りを尽し、戦慄の死闘をくり展げる艶なる地獄相。恐るべし風太郎忍法、空前絶後の面白さ。

 

能力バトル作品の始祖とされる作品だが、この時代に書かれたとは思えないほど練りに練られた能力や戦闘になっている。
甲賀卍谷衆VS伊賀鍔隠れ衆の10人対10人が出し惜しみなしの忍術によって潰し合う戦いが面白くないはずがない!

 能力によって相性があったり、忍者であるため正々堂々ではなく奇襲、闇討ち、だまし討ちに多対一といった卑怯な戦術までバリエーション豊富なことが面白さに拍車をかけている。

またありがたいことに(?)、くノ一たちはやたら妖艶なキャラが多く、使用する忍術が忍術だけに漂うエロスも尋常ではない。

 純粋に面白い小説が読みたいなら『甲賀忍法帖』を読めば間違いないだろう。

 

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5. 機忍兵零牙 / 月村了衛(2010年)

 

凡そこの世に非ず、別の世界より来たる者を忍びと云う―数多の次元世界を制する支配者集団“無限王朝”に抗い続ける伝説の忍び“光牙”。その一人、零牙に与えられた任務は亡国の姫と幼君の護衛であった。亡命の旅路を急ぐ一行の行手に、無限王朝麾下の骸魔忍群が立ち塞がる。激突する機忍法、生き残るは光牙か骸魔か。幻惑的傑作アクションが新たなる世に徹底加筆の“新装版”で甦り、絶望に塗り込められた夜を裂く!

 

エンタメに魂を捧げた男にして山田風太郎の意思を継ぐもの・月村了衛による、山風忍法帖にリスペクトをはらいつつ、SF化して21世紀に蘇らせたトンデモ傑作である。

読者の期待に200%応えてなお、荒れ狂う”お約束”の嵐には、正常な精神を持っているのなら恥ずかしくて死んでしまうだろう。まさしく中二病の最終形態だ。

 

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6. 滅びの園 / 恒川光太郎(2018年)

 

わたしの絶望は、誰かの希望。
ある日、上空に現れた異次元の存在、<未知なるもの>。それに呼応して、白く有害な不定形生物<プーニー>が出現、無尽蔵に増殖して地球を呑み込もうとする。
少女、相川聖子は、着実に滅亡へと近づく世界を見つめながら、特異体質を活かして人命救助を続けていた。だが、最大規模の危機に直面し、人々を救うため、最後の賭けに出ることを決意する。世界の終わりを巡り、いくつもの思いが交錯する。壮大で美しい幻想群像劇。

 

著者が得意とする"ここではないどこか"へ読者を導く稀有なファンタジーの世界観と、深遠な思弁SFが見事に両立した比類無き傑作である。

本を開いてほんの数ページめくるだけで、のどかな異世界に連れ去られ、さらに読み進めると、突如話は人類滅亡に関わる壮大なSFへと物語は姿を変える。

異世界と破滅の危機に陥った地球で繰り広げられる群像劇は魂を揺さぶるほど素晴らしい。もちろんエンタメ的にも完璧。

『夜市』で有名な著者だが、ラノベのように読みやすい筆致はそのままに、猛烈にパワーアップされた筆力には脱帽である。

 

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7. タイタン / 野﨑まど(2019年)

 

至高のAI『タイタン』により、社会が平和に保たれた未来。人類は“仕事”から解放され、自由を謳歌していた。しかし、心理学を趣味とする内匠成果のもとを訪れた、世界でほんの一握りの“就労者”ナレインが彼女に告げる。「貴方に“仕事”を頼みたい」彼女に託された“仕事”は、突如として機能不全に陥ったタイタンのカウンセリングだった―。

 

”仕事とは何か?”という問いに対して、超天才野﨑まどがAIのカウンセリングを通じて解答を示す作品として紹介されがちだが、私からすればそれでは本作の魅力は半分も伝えられていないと思う。

ハードSF的な世界観とそこで繰り広げられる”巨人”との物語は壮大なスケールで描かれ、コレ系が好きな人が読んだら嬉しさのあまり、脳内物質が爆発するだろう。

 

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8. 沈みかけの船より、愛をこめて / 乙一たち(2022年)

 

破綻しかけた家庭の中で、親を選択することを強いられる子どもたちの受難と驚くべき結末を描いた表題作ほか、「時間跳躍機構」を用いて時間軸移動をくり返す驚愕の物語「地球に磔(はりつけ)にされた男」など全11編、奇想と叙情、バラエティーにあふれた「ひとり」アンソロジー

 

乙一「ひとり」アンソロジーPart2。

山白朝子や中田永一など他のペンネームでも執筆している乙一たちの作品がまとめられた傑作短編集で、Part1である『メアリー・スーを殺して』以上に作品のバラエティが豊かで、なおかつ個々の作品の完成度も非常に高い。

初期の天才的な感性で描かれた作品も素晴らしいが、作家としての乙一の成長が強く感じられる非の打ち所の無い大傑作である。

 

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9. 残月記 / 小田雅久仁(2021年)

 

近未来の日本、悪名高き独裁政治下。世を震撼させている感染症「月昂」に冒された男の宿命と、その傍らでひっそりと生きる女との一途な愛を描ききった表題作ほか、二作収録。「月」をモチーフに、著者の底知れぬ想像力が構築した異世界。足を踏み入れたら最後、イメージの渦に吞み込まれ、もう現実には戻れない――。最も新刊が待たれた作家、飛躍の一作!

 

月をモチーフにした超絶中短編集。

世にも奇妙な物語的でホラー要素もある不条理小説に始まり、想定外の展開を見せて突如異世界に飛ばされるダークファンタジーと続き、トドメにディストピアSFとファンタジーを筆頭にあらゆるエンタメ要素をぶち込み、異形の純愛物語に仕上がった表題作と完全無欠の超傑作である。

 

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10. 精霊の守り人 / 上橋菜穂子(1996年)

 

精霊の卵を宿す皇子チャグムを託され、命をかけて皇子を守る女用心棒バルサの活躍を描く物語。著者は2014年国際アンデルセン賞作家賞受賞。

老練な女用心棒バルサは、新ヨゴ皇国の二ノ妃から皇子チャグムを託される。精霊の卵を宿した息子を疎み、父帝が差し向けてくる刺客や、異界の魔物から幼いチャグムを守るため、バルサは身体を張って戦い続ける。建国神話の秘密、先住民の伝承など文化人類学者らしい緻密な世界構築が評判を呼び、数多くの受賞歴を誇るロングセラーがついに文庫化。痛快で新しい冒険シリーズが今始まる。

 

 日本を代表するファンタジー小説守り人シリーズ』はシリーズのどの作品も圧倒的に面白いため、本当は全作品を本記事に挙げたいところだが、1作目の『精霊の守り人』のみに留めておく。(詳細は下記URLのシリーズ紹介記事をご参照ください。)

 完成された世界観、物語のスピーディな展開や臨場感のある戦闘シーン、魅力的なキャラクター、そしてハイレベルなリーダビリティ。エンタメ作品として完璧である。

 このシリーズのすごいところは、1作目が最高傑作かと思いきや先に進めば進むほどさらに面白くなっていくことにある。

 

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11. プロジェクト・ヘイル・メアリー / アンディ・ウィアー(2021年)

 

グレースは、真っ白い奇妙な部屋で、たった一人で目を覚ました。ロボットアームに看護されながらずいぶん長く寝ていたようで、自分の名前も思い出せなかったが、推測するに、どうやらここは地球ではないらしい……。断片的によみがえる記憶と科学知識から、彼は少しずつ真実を導き出す。ここは宇宙船〈ヘイル・メアリー〉号――。ペトロヴァ問題と呼ばれる災禍によって、太陽エネルギーが指数関数的に減少、存亡の危機に瀕した人類は「プロジェクト・ヘイル・メアリー」を発動。遠く宇宙に向けて最後の希望となる恒星間宇宙船を放った……。

 

普段SFを読まない人に、「ガチなSFなんだけど読みやすくて面白いものを教えて」と言われたら、今後は本作『プロジェクト・ヘイル・メアリー』が最有力おすすめ候補となる。

それくらい優れた作品であり、SFを読まない人にとっても素晴らしい物語となっている。数少ない本当に読むべき本としてこの記事を読まれた多くの人におすすめしたい(というかこの記事を見たのなら読むのです!!)

 

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12. 八つ墓村 / 横溝正史(1950年)

 

戦国の頃、三千両の黄金を携えた八人の武者がこの村に落ちのびた。だが、欲に目の眩んだ村人たちは八人を惨殺。その後、不祥の怪異があい次ぎ、以来この村は“八つ墓村"と呼ばれるようになったという――。大正×年、落人襲撃の首謀者田治見庄左衛門の子孫、要蔵が突然発狂、三十二人の村人を虐殺し、行方不明となる。そして二十数年、謎の連続殺人事件が再びこの村を襲った……。現代ホラー小説の原点ともいうべき、シリーズ最高傑作! !

 

名前だけは知ってる小説No1候補の筆頭であろう国民的神傑作。

はっきり言って『八つ墓村』の面白さはヤバ過ぎると言っても良いだろう。なんと言っても”萌え”という要素において時代を先取りし過ぎているのである。優しいけど病弱なお姉ちゃん、天真爛漫な妹、勝ち気で男勝りなハイカラギャル、脇役のくせにやたら可愛い女中と弱点無しの無敵である。無論、推理小説としても伝奇・冒険小説としても完全無欠の神傑作である。

 

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13. [映]アムリタシリーズ / 野﨑まど(2009~2012年)

 

芸大の映画サークルに所属する二見遭一は、天才とうわさ名高い新入生・最原最早がメガホンを取る自主制作映画に参加する。だが「それ」は“ただの映画”では、なかった―。TVアニメ『正解するカド』、『バビロン』や、劇場アニメ『HELLO WORLD』などを手掛ける鬼才・野崎まどの作家デビュー作にして、電撃小説大賞にて“メディアワークス文庫賞”を初受賞した伝説の作品が新装版で登場!貴方の読書体験の、新たな「まど」が開かれる1冊!

 

究極の創作と呼ぶにふさわしい人知を超えたシリーズである。

一作目の『[映]アムリタ』から最終作の『2』を読めば、多くのSF的なセンスオブワンダーが得られ、著者の圧倒的な才能にひれ伏すことになるだろう。

六作品いずれも本記事の100選に選抜したいほどの傑作揃いだが、泣く泣くシリーズとして紹介している。とても読みやすいので超おすすめ。

 

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14. 夢みる葦笛 / 上田早夕里(2016年)

 

ある日、街に現れたイソギンチャクのような頭を持つ奇妙な生物。不思議な曲を奏でるそれは、みるみる増殖していく。その美しい歌声は人々を魅了するが、一方で人間から大切な何かを奪い去ろうとしていた。(表題作)人と人あらざるもの、呪術と科学、過去と未来。様々な境界上を自在に飛翔し、「人間とは何か」を問う。収録作すべてが並々ならぬ傑作!奇跡の短篇集。

 

本格的なSFであるにもかかわらず、読みやすさと優れた娯楽性を兼ね備えた恐るべきクオリティの作品が10編収録された短編集。

SFだけでなくファンタジーやホラー要素が強い作品もあり、SFとしても宇宙SFから歴史改変SFに仮想人格など多彩である。SFに興味があるけどとっつきにくいし、何から読めばいいのかサッパリな方からSFマニアまで自信を持っておすすめできる。個人的にはオカルトホラー的な村の因習に高次元知性が関与しているという「眼神」や”積んでる”世界観の「滑車の地」がベスト。

 

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15. 魔性の子 / 小野不由美(1991年)

 

どこにも、僕のいる場所はない──教育実習のため母校に戻った広瀬は、高里という生徒が気に掛かる。周囲に馴染まぬ姿が過ぎし日の自分に重なった。彼を虐(いじ)めた者が不慮の事故に遭うため、「高里は祟(たた)る」と恐れられていたが、彼を取り巻く謎は、“神隠し”を体験したことに関わっているのか。広瀬が庇おうとするなか、更なる惨劇が……。心に潜む暗部が繙(ひもと)かれる、「十二国記」戦慄の序章。

 

 国内ファンタジーの最高峰『十二国記』の1作目ではあるが、シリーズの番外編に位置する作品となっていてこの1冊で話が完結している。

したがって十二国記には興味が無くても面白いホラー小説に興味があるような方にぜひおすすめしたい。数々の傑作ホラーを生み出している小野不由美女史の作品の中でも、エンタメ要素が高めで素晴らしい内容となっている。

 

 

16. 月の影 影の海 / 小野不由美(1992年)

 

「お捜し申し上げました」──女子高生の陽子の許に、ケイキと名乗る男が現れ、跪く。そして海を潜り抜け、地図にない異界へと連れ去った。男とはぐれ一人彷徨(さまよ)う陽子は、出会う者に裏切られ、異形(いぎょう)の獣には襲われる。なぜ異邦(ここ)へ来たのか、戦わねばならないのか。怒濤(どとう)のごとく押し寄せる苦難を前に、故国へ帰還を誓う少女の「生」への執着が迸(ほとばし)る。

 

 事実上の『十二国記』1作目であり、現在アニメに溢れかえっている異世界ものの頂点に君臨する完成度である。

 女子高生が妖しいイケメンに連れられて血も涙もない異世界に放り込まれて、まさに地獄のような旅を余儀なくされる様は、人によっては勇気をもらえることだろう。

 練りに練られた設定は話が進んでも破綻することがないので、『魔性の子』や本作を書く前に一体どれだけ本気で妄想したんだろう....と若き日の小野不由美女史に聞いてみたいものである。

 

十二国記の紹介記事

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17. 涼宮ハルヒの消失 / 谷川流(2004年)

 

涼宮ハルヒ?誰のこと?」珍しく俺の真後ろの席が空席だった12月18日の昼休み。颯爽と現れてその席に座ったのはハルヒではなく、長門との戦いに敗れて消滅したはずの委員長・朝倉涼子だった。困惑する俺に追い打ちをかけるように、名簿からもクラスメイトの記憶からもハルヒは消失していた。昨日まで普通だった世界を改変したのは、ハルヒなのか。俺は一縷の望みをかけて文芸部部室を訪れるが―。

 

涼宮ハルヒシリーズの4作目にして映画化された、本格SF×ミステリ×萌えを兼ね備えた完全無欠の超傑作である。

最低でも1作目と3作目の一部を読んでおかなければ話が理解できないが、『涼宮ハルヒの消失』の面白さは圧倒的なので、憂鬱から消失まで一気に読み進めることをおすすめしたい。

本気で面白いので何ならアニメから見てもいいと思う!なにせYouTubeにほとんどの話がアップされているのでね。

 

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18. ビアンカ・オーバースタディ / 筒井康隆(2012年)

 

あらゆる男子生徒から熱視線を浴びまくる超絶美少女・ビアンカ北町は、生物研究部員としての生殖の研究が大好き。ウニを使ったいつもの実験に飽き飽きしていたところで、ついに閃いてしまう。毎日凄まじい愛の波動を送ってくる可愛い後輩・塩崎哲也に、研究に協力してもらおう!そんな中、部活の先輩・千原信忠が実は未来人だったと判明して!?まさかまさかの美少女ライトノベル、まだ見ぬ筒井康隆の新世界、開幕!

 

SF界の巨匠として後世に多くの影響を与えたであろう筒井御大が『涼宮ハルヒ』に触発されて書いたという伝説のラノベである.....そして史上最強の精液小説でもある。

ページを開くや否やスペルマラッシュというエロ過ぎる展開に、執筆当時すでに70歳を超えられていたお爺ちゃんの頭が狂ったかと思ったほどである。

とりあえず全男必読の書物である。

 

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19. 夏への扉 / ロバート.A.ハインライン(1956年)

 

ぼくの飼い猫のピートは、冬になるときまって「夏への扉」を探しはじめる。家にあるドアのどれかひとつが、夏に通じていると固く信じているのだ。そして1970年12月、ぼくもまた「夏への扉」を探していた。親友と恋人に裏切られ、技術者の命である発明までだましとられてしまったからだ。さらに、冷凍睡眠で30年後の2000年へと送りこまれたぼくは、失ったものを取り戻すことができるのか──新版でおくる、永遠の名作。

 

日本で最も愛されているSF作品で、時間旅行を扱った作品としてはとても読みやすく、キャラも物語も魅力的な古典的名作である。

2020年の早川書房の新版は元々読みやすかった訳が現代的にアップデートされていてさらに読みやすさに磨きがかかっているので超おすすめ。

何もかも失った男が冷凍睡眠、時間遡行することによって取り戻していく展開はとても引き込まれる。

SFに興味があるものの、何から手を付けてよいのか分からない方にはSF入門用としてもベストだろう。

 

 

20. ガダラの豚 / 中島らも(1993年)

 

アフリカの呪術医研究の第一人者、大生部多一郎は、テレビの人気タレント教授。超能力ブームで彼の著者「呪術パワーで殺す!」はベストセラーになった。しかし、妻の逸美は8年前の娘・志織のアフリカでの気球事故での死以来、神経を病んでいた。そして奇跡が売り物の新興宗教にのめりこんでしまった。逸美の奪還をすべく、大生部は奇術師ミラクルと組んで動き出す。

 

 娯楽小説の最終到達点と言っても過言では無いほど徹底的に面白い作品である。

ただ面白いだけでなく、超能力や呪術といった超自然的なことについてしっかりと研究された上で書かれているため、ブッ飛んだ内容にも関わらず確かなリアリティがあり、読者自身の知識も増える。

最強に面白い小説が読みたいなら本作を読んでおけばまず間違いない。

 

 

21. ループ / 鈴木光司(1998年)

 

科学者の父親と穏和な母親に育てられた医学生の馨にとって家族は何ものにも替えがたいものだった。しかし父親が新種のガンウィルスに侵され発病、馨の恋人も蔓延するウィルスに感染し今や世界は存亡の危機に立たされた。ウィルスはいったいどこからやって来たのか?あるプロジェクトとの関連を知った馨は一人アメリカの砂漠を疾走するが…。そこに手がかりとして残されたタカヤマとは?「リング」「らせん」で提示された謎と世界の仕組み、人間の存在に深く迫り、圧倒的共感を呼ぶシリーズ完結編。否応もなく魂を揺さぶられる鈴木文学の最高傑作。

 

言わずと知れた国民的ジャパニーズホラーの金字塔『リング』のシリーズ3作目だが、ホラー要素はまったく無い。2作目の『らせん』もリングとは異なるタイプのホラーを魅せてくれたが、『ループ』は一体どうやったらこんな展開を思いつくのだろうかというハードSF作品である。

とにかく設定が予想の斜め上を言っていることは間違いなく、SF好きなら確実に押さえていただきたいところだ。愛する者のためにすべてをかけた熱い男の物語としても至高である。日本人であれば誰でも”貞子”のことは知っていると思うが『リングシリーズ』の全貌を把握している方はほとんどいないだろう。リングからバースデイまで一気読みして号泣しよう。

 

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22. くノ一忍法帖 / 山田風太郎(1961年)

 

大坂城を攻め滅ぼし、天下を手にしたはずの家康を驚愕させる情報がもたらされた。真田幸村の秘策により、信濃忍法を駆使した5人のくノ一が秀頼の子を身ごもった。しかもその女たちは愛孫・千姫の侍女の中に潜んでいるという。禍根を断つべく、家康は伊賀忍者の精鋭5人を呼び寄せ、隠密裡にくノ一たちを葬るよう命ずる。性の極致で繰り広げられる凄艶奇抜な忍法合戦。千姫と家康、勝つはのいずれの執念か。忍法帖の究極作。

 

ただのエロ本です(笑)

直木賞作家の馳星周は童貞時代『くノ一忍法帖』をオカズにしていたという、歴史のある由緒正しきエロ本をとくと味わっていただきたい!

 

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23. ヘブンメイカー / 恒川光太郎(2015年)

 

高校二年生の孝平はバイクで事故にあい、気づくと見知らぬ町にいた。「死者の町」と名付けられた地で、孝平は他の人間とともに探検隊を結成し、町の外に足を踏み出す。一方、自暴自棄になっていた佐伯逸輝は、砂浜で奇妙な男に勧められクジを引くと―見知らぬ地に立ち、“10の願い”を叶えられるスターボードを手に入れる。佐伯は己の理想の世界を思い描くが…。『スタープレイヤー』に連なる長編ファンタジー第2弾!

 

私が最も新作を欲している異世界作家・恒川光太郎

そんな神作家の最高傑作候補がスタープレイヤーの2作目にあたる『ヘブンメイカー』である。異世界ファンタジーの最高峰と言っても過言ではない完成度に、絶妙なミステリー要素が加わり究極のエンターテイメント作品に仕上がっている。1作目とは世界観を共有しつつも、物語は独立しているのでどちらを先に読んでも支障はない。危険な超絶徹夜本である。

 

〇おすすめ記事

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24. 円 / 劉慈欣(2021年)

 

円周率の中に不老不死の秘密がある――10万桁まで円周率を求めよという秦の始皇帝の命を受け、荊軻(けいか)は300万の兵を借りて前代未聞の人列計算機を起動した! 第50回星雲賞に輝く「円」。麻薬密輸のために驚愕の秘密兵器を投入するデビュー短篇「鯨歌」。貧しい村で子どもたちの教育に人生を捧げてきた教師の“最後の授業"が信じられない結果をもたらす「郷村教師」。漢詩に魅せられた超高度な異星種属が、李白を超えるべく、あまりにも壮大なプロジェクトを立ち上げる「詩雲」。その他、もうひとつの五輪を描く「栄光と夢」、少女の夢が世界を変える「円円のシャボン玉」など、全13篇。中国SF界の至宝・劉慈欣の精髄を集める、日本初の短篇集。

 

途轍もないクオリティを誇る中国SFの至宝・劉慈欣による日本初の短編集である。

これはマジで凄いです。『三体』に興味を持っているが大ボリュームに恐れをなしている方や”三体ロス”に苦しむ方には本気でおすすめしたい。またSF小説に興味があるものの、何から読んでいいか分からないといった方にもベストだろう。

中国の貧しい村から太陽系を遠く離れた宇宙まで話のスケールの幅が広く、内容もバラエティ豊富でSFの魅力を200%教えてくれる作品が揃っている。

 

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25. クリムゾンの迷宮 / 貴志祐介(1999年)

 

藤木芳彦は、この世のものとは思えない異様な光景のなかで目覚めた。視界一面を、深紅色に濡れ光る奇岩の連なりが覆っている。ここはどこなんだ? 傍らに置かれた携帯用ゲーム機が、メッセージを映し出す。「火星の迷宮へようこそ。ゲームは開始された……」それは、血で血を洗う凄惨なゼロサム・ゲームの始まりだった。『黒い家』で圧倒的な評価を得た著者が、綿密な取材と斬新な着想で、日本ホラー界の新たな地平を切り拓く、傑作長編。

 

 「面白い小説を教えて」と漠然と聞かれた時に紹介する本の筆頭である。

圧倒的なエンタメ性を持つ至高のデスゲーム作品であり、まったく無駄がなく最初から最後までめちゃくちゃ面白いのがポイントだ。

貴志作品に共通する高いリーダビリティと、ちょうど良いページ数により普段小説を読まない人にも自信をもっておすすめできる。

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26. 欺す衆生 / 月村了衛(2019年)

 

戦後最大の詐欺集団、横田商事。その崩壊を目撃した元社員の隠岐隆は平凡な生活を志したが、同じく元社員の因幡充からの執拗な勧誘を受け、嫌々ながら再び悪事に手を染める。次第に昏き才能を開花させる隠岐時代の寵児として調子づいてゆく因幡。さらには二人の成功を嗅ぎつけ、経済ヤクザの蒲生までもが加わってくる。口舌で大金を奪い取ることに憑かれた男たち。原野商法から海外ファンドにまで沸騰してゆく遊戯の果てに見えるのは、光明か地獄か。

 

究極の徹夜本である。著者の力量にただ唖然とするのみ。

文庫版にして700ページ越えの超大作だが、ダレるシーンが一瞬たりとも存在せず、しかも後半になればなるほどスケールアップして緊張感も凄まじいものになっていく。

詐欺という裏社会の物語だが、実に少年ジャンプ的な正統派のプロットで、主人公が裏社会で苦境を乗り切るたびに力をつけつつ、のし上っていく展開は『ドラゴンボールZ』的ですらある。

ノワール(犯罪小説)が嫌いな人もページ数にビビっている人もマジでこれだけは読んだ方が良い。超絶おすすめです。

 

〇個別紹介記事

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27. 粘膜兄弟 / 飴村行(2010年)

 

ある地方の町外れに住む双子の兄弟、須川磨太吉と矢太吉。戦時下の不穏な空気が漂う中、二人は自力で生計を立てていた。二人には同じ好きな女がいた。駅前のカフェーで働くゆず子である。美人で愛嬌があり、言い寄る男も多かった。二人もふられ続けだったが、ある日、なぜかゆず子は食事を申し出てきた。二人は狂喜してそれを受け入れた。だが、この出来事は凄惨な運命の幕開けだった…。待望の「粘膜」シリーズ第3弾。てていた。二人には同じ好きな女がいた。駅前のカフェーで働くゆず子である。美人で愛嬌があり、言い寄る男も多かった。二人もふられ続けだったが、ある日、なぜかゆず子は食事を申し出てきた。二人は狂喜してそれを受け入れた。だが、この出来事は凄惨な運命の幕開けだった…。待望の「粘膜」シリーズ第3弾。

 

『粘膜シリーズ』に共通する軍国主義の独特な世界観はそのままに、圧倒的にパワーアップしたセンスの良いギャグが火を噴く圧倒的なエンタメ傑作。個人的にはシリーズ最高傑作である。さほど知名度が高い作品でないことは承知している。でもお願いします、読んで。こんなに面白い本には滅多に出会うことはできないのだから。

くびとまらぼうをながくしてまってます へるぷみー

なお世界観を共有する『粘膜シリーズ』は滅茶苦茶おもしろく、特に2作目の『粘膜蜥蜴』超傑作なので合わせておすすめしたい。

 

〇飴村行元帥のまとめ記事

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28. ここから先は何もない / 山田正紀(2017年)

 

日本の無人探査機が三億キロ彼方の小惑星〈パンドラ〉で採取してきたサンプルには、なぜか化石人骨が含まれていた。アメリカが不当にも自国の管理下に秘匿したその化石人骨“エルヴィス”を奪還するために、民間軍事会社のリーダー大庭卓は奪還チームを結成する。天才的なハクティビストハッカー+アクティビスト)・神澤鋭二、早朝キャバクラでアルバイトをする法医学者・藤田東子、非正式の神父にして宇宙生物学の研究者・任転動、そして正体不明の野崎リカ。厳重な警備が敷かれた米軍施設から、“エルヴィス”を奪還することはできるのか。そして、三億キロ彼方の“密室”では一体何が起こったのか……?

 

オールタイムベストSF『星を継ぐもの』に挑んだ作品。

日本SF作家の大御所が総力で描く物語にはハードSF・本格ミステリ・冒険小説の要素がマシマシで盛られていて、エンターテイメント全開である。

それでいてお爺さんが書いたとは思えないほどのIT知識で構築された、本格ミステリマニアでも唸らせられる超密室とその真相は壮大で圧巻の一言。

 

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29. 悪童日記 / アゴタ・クリストフ(1986年)

 

戦争が激しさを増し、双子の「ぼくら」は、小さな町に住むおばあちゃんのもとへ疎開した。その日から、ぼくらの過酷な日々が始まった。人間の醜さや哀しさ、世の不条理―非情な現実を目にするたびに、ぼくらはそれを克明に日記にしるす。戦争が暗い影を落とすなか、ぼくらはしたたかに生き抜いていく。人間の真実をえぐる圧倒的筆力で読書界に感動の嵐を巻き起こした、ハンガリー生まれの女性亡命作家の衝撃の処女作。

 

これはマジでヤバいです。

どんな物語なのか知らずに読んだら完全にブッ飛んでしまった。まぁとりあえず読んでとしか言えないのだが、戦時中という舞台背景を考慮しなければ、研ぎ澄まされたキレッキレのサイコ小説と言ってもいいのかもしれない。固有名詞を一切排除した感情の欠片もない文章から、現代日本の価値観からすれば狂気にしか感じない「ぼくら」の恐るべき行動を目の当りにすることになる。

ちなみに本作は三部作であり、続編の『ふたりの証拠』は完全な続編で悪童日記に匹敵するほど強烈である。3作目?そんなのは知らん。

 

 

30. 薫香のカナピウム / 上田早夕里(2015年)

 

生態系が一変した未来の地球、その熱帯雨林で少女は暮らす。“カナピウム”と呼ばれる地上四十メートルの林冠部には多彩な動植物が集まり、少女たちは彼らが発散する匂いを手掛かりに、しなやかに樹上を跳び回る。ある日やってきた旅の者たち、そして森に与えられた試練。少女の季節は大人へと巡っていく。

 

超傑作国産森SFファンタジー

SFとファンタジー双方の魅力をバランスよく持っており、また異形の描写に定評のある作家だけに、森に生息する生物は想定外の超設定を見せてくれる。300ページとそこらの物語にこれでもかというほど様々な要素が詰められていて、世界の謎に迫るミステリー要素があるため、最初から最後まで読む手が止まらない作品である。

 

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31. ハーモニー / 伊藤計劃(2008年)

 

21世紀後半、“大災禍”と呼ばれる世界的な混乱を経て、人類は大規模な福祉厚生社会を築きあげていた。医療分子の発達で病気がほぼ放逐され、見せかけの優しさや倫理が横溢する“ユートピア”。そんな社会に倦んだ3人の少女は餓死することを選択した―それから13年。死ねなかった少女・霧慧トァンは、世界を襲う大混乱の陰に、ただひとり死んだはずの少女の影を見る―『虐殺器官』の著者が描く、ユートピアの臨界点。

 

虐殺器官』に続く夭折の天才2作目にして遺作。

享年が34歳だというのだから本当に惜しい方を失った.....と言わざるをえない異常な完成度を誇る作品だが、SF的な描写に注力されているようで、エンターテイメント作品としては少々弱いかもしれない。

しかし最後まで読んだ時に『ハーモニー』に仕掛けられたギミックに心を奪われること必至である。

 

 

32. 最後にして最初のアイドル / 草野原々(2018年)

 

“バイバイ、地球―ここでアイドル活動できて楽しかったよ。”SFコンテスト史上初の特別賞&42年ぶりにデビュー作で星雲賞を受賞した実存主義ワイドスクリーン百合バロックプロレタリアートアイドルハードSFの表題作をはじめ、ガチャが得意なフレンズたちが宇宙創世の真理へ驀進する「エヴォリューションがーるず」、書き下ろしの声優スペースオペラ「暗黒声優」の3篇を収録する、驚天動地の草野原々1st作品集!

 

SF好きな人でブッ飛んだ作品を求める方ならこれで決まりである。

割と日常的なシーンから超展開を経て、宇宙規模にまで話が膨らんで著者の超理論を展開するといったノリの短編が3作収録されている。

また装丁イラストからは想像もできないほど表題作はグロくてエグくて殺伐としているのでちょっと注意。

 

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33. 幻の女 / ウィリアム・アイリッシュ(1942年)

 

妻と喧嘩し、あてもなく街をさまよっていた男は、風変りな帽子をかぶった見ず知らずの女に出会う。彼は気晴らしにその女を誘って食事をし、劇場でショーを観て、酒を飲んで別れた。その後、帰宅した男を待っていたのは、絞殺された妻の死体と刑事たちだった!迫りくる死刑執行の時。彼のアリバイを証明するたった一人の目撃者“幻の女”はいったいどこにいるのか?最新訳で贈るサスペンスの不朽の名作。

 

私はミステリーは好きだが、事件があって探偵役が解決するようないわゆる本格ミステリが苦手なのだが、江戸川乱歩も絶賛したという『幻の女』の面白さは別格である。

本当に存在していたのか怪しいほど幻過ぎる女に探偵役の人が気の毒に思うほどだ。幻想的な謎に驚きの結末、そしていい感じで古さを感じさせない訳と非の打ち所の無い名作である。

 

 

34. 太陽黒点 / 山田風太郎(1963年)

 

昭和30年代後半の東京。才気に満ちた美貌の苦学生・鏑木明は、アルバイト先の屋敷で社長令嬢・多賀恵美子と出会い、偶然にも特権階級への足掛かりを手にする。献身的だが平凡な恋人・容子を捨て、明は金持ち連中への復讐を企て始める。それが全ての悲劇の序章だとは知らず…。“誰カガ罰セラレネバナラヌ”―静かに育まれた狂気が花聞く時、未曾有の結末が訪れる。戦争を経験した著者だからこそ書けた、奇跡のミステリ長編。

 

物語の後半まではミステリとは思えないような青春恋愛小説といった展開だが、裏では驚愕の仕掛けが施されており、誰もが予想不可能な結末が待っている。

また戦後の精神を描いた作品としても秀逸である。古いからと言って読まないのはもったいなさ過ぎる!

 

 

35. 〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件 / 早坂吝(2014年)

 

アウトドアが趣味の公務員・沖らは、仮面の男・黒沼が所有する孤島での、夏休み恒例のオフ会へ。赤毛の女子高生が初参加するなか、孤島に着いた翌日、メンバーの二人が失踪、続いて殺人事件が。さらには意図不明の密室が連続し……。果たして犯人は? そしてこの作品のタイトルとは? 「タイトル当て」でミステリランキングを席巻したネタバレ厳禁の第50回メフィスト賞受賞作

 

 こんなこと書いたらミステリーマニアとして村八分にされそうだが、本格推理小説としては5本の指に入るほどの傑作だと感じてしまったし、なによりキャラがとても良くて、意味のあるエロが満載なところがたまらない。

愛しすぎてネタバレ無しの個別作品記事も書いてしまったので、ぜひとも参考していただきたい!!

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36. 暗闇坂の人喰いの木 / 島田荘司(1990年)

 

さらし首の名所・暗闇坂にそそり立つ樹齢2000年の大楠。この巨木が次々に人間を呑み込んだ? 近寄る人間たちを狂気に駆り立てる大楠の謎とは何か? 信じられぬ怪事件の数々に名探偵・御手洗潔が挑戦する。だが真相に迫る御手洗も恐怖にふるえるほど、事件は凄惨を極めた。本格ミステリーの騎手が全力投球する傑作。

 

 クララが死んだ!!

正直言ってこんな凄まじいミステリーに出会えるとは夢にも思っていなかったレベルの超絶傑作である。

ミステリーであると同時に非常に恐ろしいホラー小説でもあり、さらに冒険小説としての楽しさを合わせ持っているという規格外の作品で、物語と魅力的な謎に惹かれてただひたすらページをめくってしまった。

すさまじくグロい作品でもあるので注意が必要だ。

 

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37. 天使の囀り / 貴志祐介(1998年)

 

北島早苗は、終末期医療に携わる精神科医。恋人の高梨は、病的な死恐怖症(タナトフォビア)だったが、新聞社主催のアマゾン調査隊に参加してからは、人格が異様な変容を見せ、あれほど怖れていた『死』に魅せられたように自殺してしまう。さらに、調査隊の他のメンバーも、次々と異常な方法で自殺を遂げていることがわかる。アマゾンでいったい何が起きたのか? 高梨が死の直前に残した「天使の囀りが聞こえる」という言葉は、何を意味するのか? 前人未踏の恐怖が、あなたを襲う。

 

貴志ホラーとして、またグロ系ホラーとしてマスターピース級の超傑作。

ミステリー的な要素と終始漂う不穏な空気、人々の恐ろしい死に様、気持ち悪い描写の数々に完全にやられてしまった。おぞましい作品だが、エンタメ作品として素晴らしい作品でもあるため、グロを覚悟してでも読んでおくべき作品である。

終盤に待つ地獄の描写は、阿鼻叫喚という言葉すら生温い恐るべき映像を想起させる。

 

 

38. ツインスター・サイクロン・ランナウェイ / 小川一水(2020年)

 

人類が宇宙へ広がってから6000年。辺境の巨大ガス惑星では、都市型宇宙船に住む周囲者たちが、大気を泳ぐ昏魚を捕えて暮らしていた。男女の夫婦者が漁をすると定められた社会で振られてばかりだった漁師のテラは、謎の家出少女ダイオードと出逢い、異例の女性ペアで強力な礎柱船に乗り組む。体格も性格も正反対のふたりは、誰も予想しなかった漁獲をあげることに―日本SF大賞『天冥の標』作者が贈る、新たな宇宙の物語!

 

未来宇宙漁業百合SFという唯一無二の物語。

ガチ目なハードSF×百合SFという魅力的なキャラクターとSF全開な各種設定、オリジナリティ溢れる世界観だけで完全勝利しているような感じだが、百合ップルがガチガチのジェンダー論に縛られた世界の中で少しずつ容認されていく流れや、謎な部分が残る世界の成り立ちや宇宙魚の秘密が明らかになっていく展開は純粋に面白い。

ラノベかと思いきや、意外にも本格SFなのでやや人を選ぶかもしれないが、SF好きには強くおすすめしたい一品。

 

 

そして続編。あらすじ自体が微妙にネタバレ感があるのだが、まぁそんなことは良いとして、百合エロ度400%増しのハイパー百合SFになっている。

SF的な要素は一作目よりも減退している印象だが、百合ップルに絶妙な三角関係が生じるなど、違った方向の魅力がある。とりあえずこっちの方が萌えて抜ける。

 

女同士じゃ結ばれない宇宙なんて。大宇宙巨大ロケット百合SF、新章開幕! 人類が辺境のガス惑星で生き残るために巨大ロケット宇宙漁技術を編み出したはいいものの、その船を操れるのは男女の夫婦に限ると定められてしまった、遠い未来。異例の女同士ペア、テラとダイは困難を乗り越えて互いを想い合う恋仲となっていた。このまま星系脱出かと思いきや、ダイが故郷のゲンドー氏に誘拐されてしまう。愛する人を取り戻すため、テラの宇宙を駆ける潜入計画が始まった――大好評バディSF、第2弾!

 

39. 竜が最後に帰る場所 / 恒川光太郎(2018年)

 

魔術のような、奇跡のような。稀有な才能が描く、世界の彼方――今、信じている全ては嘘っぱちなのかもしれない。しんと静まった真夜中を旅する怪しい集団。降りしきる雪の中、その集団に加わったぼくは、過去と現在を取り換えることになった――「夜行の冬」。古く湿った漁村から大都市の片隅、古代の南の島へと予想外の展開を繰り広げながら飛翔する五つの物語。日常と幻想の境界を往還し続ける鬼才による最重要短編集。

 

異世界への案内人・恒川光太郎の中でも最もバランスよく様々なタイプが集められた作品集である。どの物語もとてもオリジナリティが高く、読み進めるごとに非日常感が上がっていくので、恒川作品の魅力を知るという意味では最も優れた作品集と言える。

中でも3話目の「夜行の冬」は多くの恒川短編の中でも5本の指に入る作品で、著者の持つホラー、ファンタジー、SF要素が凝縮された珠玉の名品である。

 

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40. 日本アパッチ族 / 小松左京(1964年)

 

会社の上司の鼻をひっぱったために懲戒免職。さらに三か月以内に就職しなかったとして、失業罪で逮捕、追放の判決を受けた木田福一。砲兵工廠跡地に追放された彼は、餓死寸前で野犬に食われそうになっていたところを、アパッチ族に助けられた。赤銅色の肌を持ち、鉄を主食としているアパッチ族。木田は、彼らの一員となり、謎に包まれた生体と生き様について、記録していく。初の長編にして最高傑作の呼び声高い記念碑的作品!

 

日本SF御三家小松左京の記念すべきデビュー作である。

同年に上梓されている『復活の日』とはノリが全然まったく異なり、政府に捨てられた棄民が食鉄人種”アパッチ族”に進化して、人類と争うことになるという荒唐無稽なエンターテイメントになっている。小松左京だけあってユーモア全開なアホ作品でも博識はそこはかとなく感じられ、またメッセージ性も強く考えさせられる要素も濃厚である。小松左京初読みの方にもおすすめな一冊。

 

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41. エンダーのゲーム / オースン.スコット.カード(1985年)

 

地球は恐るべきバガーの二度にわたる侵攻をかろうじて撃退した。容赦なく人々を殺戮し、地球人の呼びかけにまったく答えようとしない昆虫型異星人バガー。その第三次攻撃に備え、優秀な艦隊指揮官を育成すべく、バトル・スクールは設立された。そこで、コンピュータ・ゲームから無重力訓練エリアでの模擬戦闘まで、あらゆる訓練で最高の成績をおさめた天才少年エンダーの成長を描いた、ヒューゴー賞/ネビュラ賞受賞作!

 

新世紀エヴァンゲリオン』の元ネタの一つとして有名な作品で、内容もずばりエヴァを宇宙規模に拡大して、使徒をバガーに置き換えたようなものである。

決定的に違うのはへっぽこオナニスト碇シンジ君と異なり、主人公のエンダーがベジータ様級の超エリート(ちなみにそのお兄さんもお姉さんも超エリート)であることだろう。エヴァに乗ったのがエンダー三兄弟だったら使徒も真っ青ですわい(笑)

少々敷居は高いかもしれないが、少年少女の成長物語という点で子供にもおすすめである。

 

 

42. クラインの壺 / 岡嶋二人(1989年)

 

現実も真実も崩れ去る最後で最恐の大傑作。200万円で、ゲームブックの原作を謎の企業「イプシロン・プロジェクト」に売却した上杉彰彦。その原作をもとにしたヴァーチャルリアリティ・システム『クライン2』の制作に関わることに。美少女・梨紗と、ゲーマーとして仮想現実の世界に入り込む。岡嶋二人の最終作かつ超名作。そのIT環境の先見性だけでも、刊行年1989年という事実に驚愕するはず。

 

最強の徹夜本であり読み始めたら最後、読了まで何も手につかなくなるだろう。

伝説の作家ユニット岡嶋二人名義の作品ではあるが、実質はコンビの一人井上夢人氏の作品と言われるSF×ミステリーの至高の傑作である。

1989年に刊行され、VRをメインテーマにしているにも関わらず今読んでもまったく古臭さをまるで感じさせないのは、著者の先見の明と圧倒的な力量だろう。

またSFなのに異常に読みやすいのも高ポイントだ。

 

 

43. なめらかな世界と、その敵 / 伴名練(2019年)

 

いくつもの並行世界を行き来する少女たちの1度きりの青春を描く表題作や、ありえたかもしれないもう1つの日本SF史を活写する「ゼロ年代の臨界点」、伊藤計劃の『ハーモニー』にトリビュートを捧げた「美亜羽へ贈る拳銃」、未曾有の災害が発生した新幹線の乗客と取り残された人々のドラマ「ひかりより速く、ゆるやかに」など、人の心の隔たりと繋がりをめぐる奇跡の傑作集。著者渾身の1万字あとがきを併録した決定版

 

マニア向けとライト向けの作品が混在した超クオリティ短編集。

やや読みづらいが並行世界系のSFの中でも屈指の完成度を誇る最初の表題作と、修学旅行の帰りに新幹線で謎の低速化が発生して、新幹線とその中の時間がほぼ停止しているに等しい超常現象に見舞われて、修学旅行に行けなかった主人公が幼馴染で片思いの女性を救うべく奔走する「ひかりより速く、ゆるやかに」が飛び抜けた傑作である。

「ひかりより早く~」はSF好きだけでなく万人におすすめしたい。

 

 

44. 孤島の鬼 / 江戸川乱歩(1930年)

 

私(蓑浦金之助)は会社の同僚木崎初代と熱烈な恋に陥った。彼女は捨てられた子で,先祖の系譜帳を持っていたが,先祖がどこの誰ともわからない。ある夜,初代は完全に戸締まりをした自宅で,何者かに心臓を刺されて殺された。その時,犯人は彼女の手提げ袋とチョコレートの缶とを持ち去った。恋人を奪われた私は,探偵趣味の友人,深山木幸吉に調査を依頼するが,何かをつかみかけたところで,深山木は衆人環視の中で刺し殺されてしまう……!

 

 前半は密室と衆人環境での殺人という二つの殺人事件の謎を追う推理小説、中盤は江戸川乱歩の変態趣味が炸裂する怪奇幻想小説、そして後半は冒険小説と進む。

物語自体が尋常ではない面白さであるため、古い作品だからと言う理由で読まないのはもったいなすぎる。

BLの超傑作でもあるので、腐女子は死んでも読まなければならない。

 

 

45. NO.6 / あさのあつこ(2009年)

 

 2013年。理想都市『NO.6』に住む少年・紫苑は、9月7日が12回目の誕生日であった。だが、その日は同時に彼の運命を変える日でもあった。『矯正施設』から抜け出してきた謎の少年・ネズミと出会い、負傷していた彼を介抱した紫苑だが、それが治安局に露見し、NO.6の高級住宅街『クロノス』から準市民の居住地『ロストタウン』へと追いやられてしまう。

4年後、紫苑は奇怪な事件の犯人として連行されるところをネズミに救われ、彼と再会を果たす。NO.6を逃れ、様々な人々と出会う中で紫苑は、理想都市の裏側にある現実、『NO.6』の隠された本質とその秘密を知っていく…。

 

児童文学なのかと思いきや、いきなり主人公の幼馴染とのやり取りで以下のシーンがある。

わたし、あなたから貰いたいものがあるんだけど

精子

セックスしたい

つまりこれはヤバい作品なのだ。BL全開だったり、トラウマ級の地獄展開が待っていたりと殺る気満々過ぎてちょっと怖いです.....でも強烈に物語に引き込まれる素晴らしい作品だ。

 

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46. 私の頭が正常であったなら / 山白朝子(2018年)

 

 私の哀しみはどこへゆけばいいのだろう――切なさの名手が紡ぐ喪失の物語。

突然幽霊が見えるようになり日常を失った夫婦。首を失いながらも生き続ける奇妙な鶏。記憶を失くすことで未来予知をするカップル。書きたいものを失くしてしまった小説家。娘に対する愛情を失った母親。家族との思い出を失うことを恐れる男。元夫によって目の前で愛娘を亡くした女。そして、事故で自らの命を失ってしまった少女。わたしたちの人生は、常に何かを失い、その哀しみをかかえたまま続いていく。暗闇のなかにそっと灯りがともるような、おそろしくもうつくしい八つの“喪失”の物語。

 

 せつなさの名手、乙一.....ではなく山白朝子の健在を確信した作品である。

かつて乙一名義で発表された『失はれる物語』を大人向け(子どもがいる層)にしたような内容で、より洗練されたせつなさを堪能することができる。

 美しい装丁にふさわしい物語だけでなく、エンタメとしても優れている。

 

 

47. グラン・ヴァカンス / 飛浩隆(2006年)

 

仮想リゾート“数値海岸”の一区画“夏の区界”。南欧の港町を模したそこでは、ゲストである人間の訪問が途絶えてから1000年、取り残されたAIたちが永遠に続く夏を過ごしていた。だが、それは突如として終焉のときを迎える。謎の存在“蜘蛛”の大群が、街のすべてを無化しはじめたのだ。わずかに生き残ったAIたちの、絶望にみちた一夜の攻防戦が幕を開ける―仮想と現実の闘争を描く『廃園の天使』シリーズ第1作。

 

寡作界の神(笑)・飛浩隆による長編第一作にして『廃園の天使』シリーズの第一作。

本の装丁やあらすじを見ただけで天国に逝けそうになるのだが、文章の美しさでは他の追随を許さない飛浩隆の筆致により描かれる世界観は溜息が漏れそうになるほど美麗に脳内再生される。だが物語は非常に残酷かつグロテスクで五感に働きかける強烈な痛みを想起させる。美しさと残酷さの対比もまた素晴らしい。

いかにもハードSFな内容かと思いきや、SFとしての仕掛けは本作では明らかにならないため、全体の印象はダークファンタジーである。

 

 

なお2010年に上梓された『ラギッド・ガール』は『グラン・ヴァカンス』を補完する短編集であるため必ずセットで読むべし。

SF好きな方であれば、ダークファンタジーの印象が濃厚な『グラン・ヴァカンス』よりも好きになる可能性が極めて高い。SFとしての背景が明らかになる『ラギッド・ガール』を読むことで、飛浩隆氏が構想する『廃園の天使』シリーズの世界観が、いかに精密に構築されているかが分かるだろう。

言うまでもなくSFとして最高峰の完成度を誇る作品なので度肝を抜かれること必至である。物語としても秀逸な常軌を逸した超傑作。

これほど続編が待ち遠しい作品はない。(いったいいつになったら読めるのやら....)

 

人間の情報的似姿を官能素空間に送りこむという画期的な技術によって開設された仮想リゾート“数値海岸”。その技術的/精神的基盤には、直感像的全身感覚をもつ一人の醜い女の存在があった―“数値海岸”の開発秘話たる表題作、人間の訪問が途絶えた“大途絶”の真相を描く「魔述師」など全5篇を収録。『グラン・ヴァカンス』の数多の謎を明らかにし、現実と仮想の新たなる相克を準備する、待望のシリーズ第2章。

 

 

48. 隻眼の少女 / 麻耶雄嵩(2010年)

 

山深き寒村で、大学生の種田静馬は、少女の首切り事件に巻き込まれる。犯人と疑われた静馬を見事な推理で救ったのは、隻眼の少女探偵・御陵みかげ。静馬はみかげとともに連続殺人事件を解決するが、18年後に再び惨劇が…。日本推理作家協会賞本格ミステリ大賞をダブル受賞した、超絶ミステリの決定版。

 

絶対に何かをやらかさずにはいられない作家、麻耶雄嵩だが栄光ある賞をW受賞した本作は横溝的な世界観の中で行われる連続殺人に、萌え探偵が成長しながら論理的な推理をするまともな作品かと思いきや......まぁもちろんそんなわけがありません(笑)

本格ミステリという枠の中で周到かつやりたい放題やってしまったわけである。犯人、トリック、動機、狂気(凶器)いずれも伊賀忍者もびっくりな超絶無敵仕様!!

(著者は伊賀の里の出身です)

 

 

49. 水晶のピラミッド / 島田荘司(1991年)

 

エジプト・ギザの大ピラミッドを原寸大で再現したピラミッドで起こる怪事。冥府の使者アヌビスが5000年の時空を超えて突然甦り、空中30メートルの密室で男が「溺死」を遂げる! アメリカのビッチ・ポイントに出現した現代のピラミッドの謎に挑む名探偵・御手洗潔。壮大なテーマに挑んだ本格ミステリーの大作。

 

 限界突破してしまったミステリー小説。

推理小説という枠を超えて、純粋なミステリーを提供している。

本筋に関係あるのかどうかも分からない、古代エジプトタイタニックの挿話が200ページ近くあるのだが、そこがものすごく面白い。

こんな小説、島田御大にしか書けません。

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50. 七瀬ふたたび / 筒井康隆(1975年)

 

人を避け、旅に出た七瀬が出会った超能力者たち。
彼らを抹殺しようとする組織との戦いが始まる。七瀬シリーズ第二作。

生れながらに人の心を読むことができる超能力者、美しきテレパス火田七瀬は、人に超能力者だと悟られるのを恐れて、お手伝いの仕事をやめ、旅に出る。その夜汽車の中で、生れてはじめて、同じテレパシーの能力を持った子供ノリオと出会う。その後、次々と異なる超能力の持主とめぐり会った七瀬は、彼らと共に、超能力者を抹殺しようとたくらむ暗黒組織と、血みどろの死闘を展開する。

 

 七瀬シリーズ第二作だがこのシリーズは作品ごとにかなり作風が異なり、一作目を読んでいなくても『七瀬ふたたび』は問題なく読める。

超能力者が集結して超能力の抹殺をもくろむ組織との対峙するというエンタメ全開の展開でありつつも、文学性もSFとしての完成度も高い傑作である。

超能力者VS一般人、超能力者VS超能力者、超能力者VS暗黒組織の立ち回りや心理的物理的距離感が『ジョジョの奇妙な冒険』の戦闘っぽくてすごく楽しい。

 

 

51. 狐笛のかなた / 上橋菜穂子(2003年)

 

小夜は12歳。人の心が聞こえる“聞き耳”の力を亡き母から受け継いだ。ある日の夕暮れ、犬に追われる子狐を助けたが、狐はこの世と神の世の“あわい”に棲む霊狐・野火だった。隣り合う二つの国の争いに巻き込まれ、呪いを避けて森陰屋敷に閉じ込められている少年・小春丸をめぐり、小夜と野火の、孤独でけなげな愛が燃え上がる…愛のために身を捨てたとき、もう恐ろしいものは何もない。

 

上橋女神による和風ファンタジー。乙女チックで胸キュンなのが特徴。

いい年こいてしまった小生は読んでいてそれなりに「あひゃー」な気持ちになってしまったが、世界観は安定の上橋クオリティでとても創り込まれている。女性なら老若問わず好きになるであろう物語である。著者にしてはめずらしい単発読み切り作品なので、軽い気持ちで読み始められるのも良い。

 

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52. 殺人鬼 覚醒篇(1990年)

 

伝説の傑作『殺人鬼』、降臨!!’90年代のある夏。双葉山に集った“TCメンバーズ”の一行は、突如出現したそれの手によって次々と惨殺されてゆく。血しぶきが夜を濡らし、引き裂かれた肉の華が咲き乱れる…いつ果てるとも知れぬ地獄の饗宴。だが、この恐怖に幻惑されてはいけない。作家の仕掛けた空前絶後の罠が、惨劇の裏側で読者を待ち受けているのだ。―グルーヴ感に満ちた文体で描かれる最恐・最驚のホラー&ミステリ。

 

 『館シリーズ』で有名な綾辻行人氏ではあるが、個人的には『殺人鬼 覚醒篇』こそが最高傑作だと思っている。最も好きなスプラッタホラーでもある。

13日の金曜日』のような王道のスプラッタ全開ホラーかと思いきや、さすがは新本格ムーブメントの筆頭、ミステリとしての仕掛けもよく練られておりかなり強烈な1冊である。エロ注意、グロ注意。

 

 

53. 殺人鬼 逆襲篇(1993年)

 

伝説の『殺人鬼』、ふたたび。双葉山の惨劇から三年、最初にそれと遭遇したのは休暇中の一家。正義も勇気も家族愛も、ただ血の海に消えゆくのみ。そしてそれは山を降り、麓の街に侵攻するのだ。病院を、平和な家庭を、凄惨な地獄風景に変えていく。殺す、殺す、殺す…ひたすら殺戮を欲する怪物に独り立ち向かうのは、不思議な“能力”を持った少年・真実哉。絶望的な闘いの果てに待ち受ける、驚愕と戦慄の結末とは!?―。

 

 アホみたくグロさとエグさに特化した鬼畜の続編。鬼。

はっきり言ってミステリ×スプラッタホラーのミステリの部分は前作よりも大幅に劣化している。もう取って付けたようなオマケと言えるだろう。

しかしその代わりに、スプラッタ要素が”この作家、頭大丈夫か”と本気で心配してしまうほど残虐性が向上している。
冒頭から鬼畜無双だが、その残虐性が最後の最後まで続くのだからたちが悪い。

私はこの本を読んでいなければ他の綾辻作品に興味を持たなかったと思う。

 

 

54. オフシーズン / J.ケッチャム(1980年)

 

避暑客が去り冷たい秋風が吹き始めた九月のメイン州の避暑地。ニューヨークから六人の男女が休暇をとって当地にや
って来る。最初に到着したのは書箱編集者のカーラ。すこし遅れて、彼女の現在のボーイフレンドのジム、彼女の妹の
マー ジーとそのボーイフレンドのダン、そしてカーラのかつてのボーイフレンドのニックとそのガールフレンドのロー
ラが到着した。六人全員が到着した晩に事件は勃発した。当地に住む“食人族"が六人に襲い掛かったのだ。“食人族
"対“都 会族"の凄惨な死闘が開始する。

 

 絵に描いたようなB級スプラッタホラーの超傑作。

エロもグロも突き抜けて凄まじいことになっており、怒涛の勢いで阿鼻叫喚の地獄絵図が展開される様は、この手の話が好きなら恋人に嫌われようが必読である。

 世の中にはあからさまなエロやグロを追求した作品が溢れかえっていて、正直興醒めしてしまうのだが、『オフシーズン』は強烈でありながらも狙った感は皆無であり、結末の容赦の無さも実に教訓的で自然である。

 

モダンホラーの帝王S.キング曰く

全米一怖い作家は誰だ?きっとジャック・ケッチャムさ。

『オフシーズン』の無修正版を感謝祭の日に読んだら、

きっとクリスマスの日まで眠れなくなること請け合いだ。

ティーブおじさんが警告しなかったなんて言うなよ、

はっはっはっ……(by スティーブン・キング)

 

 

55. 魍魎の匣 / 京極夏彦(1995年)

 

箱を祀る奇妙な霊能者。箱詰めにされた少女達の四肢。そして巨大な箱型の建物――箱を巡る虚妄が美少女転落事件とバラバラ殺人を結ぶ。探偵・榎木津、文士・関口、刑事・木場らがみな事件に関わり京極堂の元へ。果たして憑物(つきもの)は落とせるのか!?日本推理作家協会賞に輝いた超絶ミステリ、妖怪シリーズ第2弾。

 

アホみたいに分厚い本が並ぶ京極夏彦先生の百鬼夜行シリーズの中でも、1,2位を争う尋常ではない傑作であり、SFや怪奇幻想要素を持った超絶ミステリーである。

冒頭の美しい文章は芸術的であり、文章を読んで心が震えた数少ない作品である。

これを読んで京極先生の天才っ振りに呆れてしまったものだ。

訳が分からないほど謎まみれなのに最後は見事にすべての伏線を回収。
腰を抜かすほど猟奇的なので注意。

 

 

56. 月の裏側 / 恩田陸(2002年)

 

九州の水郷都市・箭納倉。ここで三件の失踪事件が相次いだ。消えたのはいずれも掘割に面した日本家屋に住む老女だったが、不思議なことに、じきにひょっこり戻ってきたのだ、記憶を喪失したまま。まさか宇宙人による誘拐か、新興宗教による洗脳か、それとも? 事件に興味を持った元大学教授・協一郎らは〈人間もどき〉の存在に気づく……。

 

 不気味な雰囲気が溢れたSFホラー的な傑作。

私はこのような世界観が大好きなため、猛烈な勢いで一気読みしてしまった。

読んでいる最中は紛れもなく最強の傑作なのだが、そこは恩田陸
予想通りというか恩田流投げっぱなしジャーマンが本領発揮する(笑)。

 

 

57. 江戸川乱歩傑作選 / 江戸川乱歩(1960年)

 

読者諸君、これが日本で一番美しい犯罪小説だ。
耽美的トリック×倒錯的フェティシズムが交錯する、本格探偵小説を確立した初期傑作9編。

日本における本格探偵小説を確立したばかりではなく、恐怖小説とでも呼ぶべき芸術小説をも創り出した乱歩の初期を代表する傑作9編を収める。特異な暗号コードによる巧妙なトリックを用いた処女作「二銭銅貨」、苦痛と快楽と惨劇を描いて著者の怪奇趣味の極限を代表する「芋虫」、他に「二癈人」「D坂の殺人事件」「心理試験」「赤い部屋」「屋根裏の散歩者」「人間椅子」「鏡地獄」。

 

もはや説明不要な由緒正しき傑作選である。

一応特徴を説明するならば、時代を感じさせない普遍性があり圧倒的に読みやすい、推理小説というより物語として純粋に面白い、各話30~40ページ程度でお手頃なのにインパクトは絶大といったところだろうか。

以下の解説から引用する。

繰り返して言えば、ここに収められた九篇は、初期の乱歩を代表する傑作である。一般に探偵小説は、犯人が判ってしまうと再読に耐えない。だが、乱歩の場合は例外で、普通の小説と同じように、何度読んでも印象が新鮮である。乱歩は、日本の本格探偵小説を確立したばかりでなく、仮に恐怖小説とでも呼ぶべき芸術小説を創り出したのである。その功績は、文学史上に残るものと思われる。
――荒正人(文芸評論家)

 

 

なお半世紀以上経過した2016年に同じく新潮文庫より、『江戸川乱歩名作選』が出版されている。歴史ある『江戸川乱歩傑作選』には入らなかったが、傑作選にある作品と比べても遜色ないレベルの作品で構成されている。

「石榴」と「陰獣」という乱歩作品の中でも本格ミステリ度の高い中編に怪奇幻想の傑作短編がサンドイッチされておりバランスも良い。特に「押絵と旅する男」と「陰獣」は乱歩の中でも最高ランクの作品なのでとてもおすすめである。

以下、紹介分の引用。

「陰獣」「押絵と旅する男」ほか、大乱歩の魔術に浸れる全七編を収録。

見るも無残に顔が潰れた死体、変転してゆく事件像(「石榴(ざくろ)」)。
絶世の美女に心奪われた兄の想像を絶す る“運命"(「押絵と旅する男」)。
謎に満ちた探偵作家・大江春泥(しゅんでい)に脅迫される実業家夫人、彼女を恋する私は春泥の影を追跡する――後世に 語り継がれるミステリ「陰獣」。
他に「目羅博士」「人でなしの恋」「白昼夢」「踊る一寸法師」を収録。
大乱歩の魔力を存分に味わえる厳選全7編。

 

58. 復活の日 / 小松左京(1964年)

 

吹雪のアルプス山中で遭難機が発見された。傍には引き裂かれたジュラルミン製トランクの破片。中には、感染後70時間以内に生体の70%に急性心筋梗塞を引き起こし、残りも全身マヒで死に至らしめるMM菌があった。春になり雪が解け始めると、ヨーロッパを走行中の俳優が心臓麻痺で突然死するなど、各地で奇妙な死亡事故が報告され始める―。人類滅亡の日を目前に、残された人間が選択する道とは。

 

まさにコロナ渦を予言したかのごとき怒涛の終末ハードSFである。

半世紀以上前に書かれた小説にも関わらず古びれた感じはあまりせず、著者の博識さに裏づけられた圧倒的なリアリティで世界の終焉が襲い掛かってくる。

ただの風邪だよ」というパワーワードが出た時には震えた。

少々敷居が高い作品なのは否めないが、プロットの秀逸さに支えられて徹夜させられること間違いなしである。

 

 

59. 獣の奏者 / 上橋菜穂子(2006年)

 

リョザ神王国。闘蛇村に暮らす少女エリンの幸せな日々は、闘蛇を死なせた罪に問われた母との別れを境に一転する。母の不思議な指笛によって死地を逃れ、蜂飼いのジョウンに救われて九死に一生を得たエリンは、母と同じ獣ノ医術師を目指すが―。苦難に立ち向かう少女の物語が、いまここに幕を開ける。

 

 児童文学ではない。大人ですら心を揺さぶられずにはいられない情け容赦ない本気のファンタジー小説である

 『獣の奏者』が圧倒的に面白い理由の一つに、Ⅰの闘蛇編からひたすらに作中の歴史や世界に関する謎をひっぱりまくるところにある。
Ⅰ闘蛇編とⅡ王獣編でいったん物語は完結しており、作者自身も続編を考えていなかったとのことだが、完結編の最後の最後まで謎が明かされないことにより、続きが気になりまくりもはや徹夜は避けられないだろう。

 

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60. GOTH / 乙一(2002年)

 

 連続殺人犯の日記帳を拾った森野夜は、未発見の死体を見物に行こうと「僕」を誘う……人間の残酷な面を覗きたがる者〈GOTH〉を描き本格ミステリ大賞に輝いた乙一出世作

世界に殺す者と殺される者がいるとしたら、自分は殺す側だと自覚する少年「僕」。もっとも孤独な存在だった彼は、森野夜に出会い、変化していく。彼は夜をどこに連れて行くのか? 「僕」に焦点をあてた3篇を収録。

 

」と「」のキャラが最高すぎる、ラノベ寄りの傑作連作短篇集。

ミステリとしての完成度の高さは本格ミステリ大賞受賞作だけあって保証されているのだが、何と言っても最高なのは二人の会話だろう。さりげない萌えが読者を襲うことだろう。また魑魅魍魎の如き極悪非道なグロ描写は黒乙一の最高傑作といってもいいかもしれない。

続編である番外編もとても素晴らしいので一気に読んでしまうことをおすすめする。

 

 

61. アトポス / 島田荘司(1993年)

 

虚栄の都・ハリウッドに血でただれた顔の「怪物」が出没する。ホラー作家が首を切断され、嬰児が次々と誘拐される事件の真相は何か。女優・松崎レオナの主演映画『サロメ』の撮影が行われる死海の「塩の宮殿」でも惨劇は繰り返された。甦る吸血鬼の恐怖に御手洗潔が立ち向かう。渾身のミステリー巨編が新たな地平を開く。

 

 1000ページ近い大作にも関わらずまったくと言っていいほど長さを感じることが無い奇跡的な作品である。

作中作ではギネス級の大量殺人鬼エリザベート・バートリーの挿話が200ページ以上続くのだが、この挿話が尋常ではない面白さでありページ数的にも1冊の超傑作歴史ホラー小説として十分に成り立っている。

戦時中の魔都上海やサロメのエピソードもあり何から何まで謎まみれであり、島田式本格ミステリーが完成した作品といっても過言ではないと思う。

御手洗はまさに白馬の王子様である。嗚呼レオナよ.....。

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62. 銀河忍法帖 / 山田風太郎(1968年)

 

不敵な無頼者「六文銭の鉄」の活躍を描く、幻の傑作忍法帖!多くの鉱山を開拓し、家康さえも一目置いた稀代の傑物・大久保石見守長安。彼に立ち向かい護衛の伊賀忍者たちと激戦を繰り広げる不敵な無頼者「六文銭の鉄」の活躍を描く、爽快感溢れる忍法帖!

 

数ある忍法帖の中でも純粋な面白さではトップクラスの超傑作。

本作は”愛すべきおバカ”な主人公「六文銭の鉄」が惚れた女を手助けするために活躍する物語で、一見するといかにも少年ジャンプ的なエンタメ作品なのだが、その裏には山田風太郎のミステリ作家としての技巧が遺憾なく発揮されていて、衝撃の真相を目のあたりにすることになる。もちろんミステリ要素を抜きにしてもあらゆる娯楽要素がぶち込まれていてアホみたいに面白い。山田風太郎は本当に凄いよ....。

 

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63. インスマスの影 / H.P.ラブクラフト(2019年)

 

ラヴクラフトは不遇のままその生涯を閉じた。だが、彼の創造したクトゥルー神話は没後高く評価され、時代を越えて世界の読者を虜にしている―。頽廃した港町インスマスを訪れた私は、魚類を思わせる人々の容貌の恐るべき秘密を知る(表題作)。漂流船で唯一生き残った男が握りしめていた奇怪な石像とは(「クトゥルーの呼び声」)。英文学者にして小説家、南條竹則が選び抜いた、七篇の傑作小説。

 

短~中編程度の傑作選で、 クトゥルフ神話に興味はあるけど何から手を付けていいのか分からない方には超おすすめのラインナップとなっている。

原文がそもそも難解なため、新訳ではあってもかなり読みずらいのはご愛嬌だが、活字がでかい分、創元推理文庫の全集よりは読みやすい。

クトゥルフ神話全体でみても知名度が高い「クトゥルーの呼び声」と「インスマスの影」はThe・クトゥルフ神話である。

イア!イア! クトゥルー フタグン!!

 

以下、収録作品

①異次元の色彩
②ダンウィッチの怪
クトゥルーの呼び声
ニャルラトホテプ
⑤闇にささやくもの
⑥暗闇の出没者
インスマスの影

 

なお翌年には新潮社のクトゥルー神話傑作選第二弾が発表された。

大傑作長編「狂気の山脈にて」と「時間からの影」が収録されているため、個人的には傑作選第一弾の『インスマスの影』よりもこちらが好みである。

南極大陸にそびえ立つエベレストよりも高い山脈で、未知の文明や謎の生命体が見つかることにピンとくる方は必読だ。

テケリ・リ、テケリ・リ” by ショゴたん

 

以下、あらすじと収録作品

地質、生物、物理学者らによるミスカトニック大学探検隊が、南極大陸に足を踏み入れた。彼らは禁断の書『ネクロノミコン』の記述と重なる、奇怪きわまる化石を発見する(表題作)。一九〇八年五月十四日、ピーズリー教授の身に異変が起きた。“大いなる種族"との精神の交換がなされたのだ(「時間からの影」)。闇の巨匠ラヴクラフトの神話群より傑作八篇を精選し、新たに訳出。あなたに、眠れぬ夜を約束する。

ランドルフ・カーターの陳述
②ピックマンのモデル
③エーリッヒ・ツァンの音楽
④猟犬
ダゴン
⑥祝祭
⑦狂気の山脈にて
⑧時間からの影

 

64. 箱庭の巡礼者たち / 恒川光太郎(2022年)

 

神々の落としものが、ぼくらの世界を変えていく。ある夜、少年は優しい吸血鬼を連れ、竜が棲む王国を出た。祖母の遺志を継ぎ、この世界と繋がる無数の別世界を冒険するために。時空を超えて旅する彼らが出会った不思議な道具「時を跳ぶ時計」、「自我をもつ有機ロボット」、そして「不死の妙薬」。人智を超えた異能(ギフト)がもたらすのは夢のような幸福か、それとも忘れられない痛みか。六つの世界の物語が一つに繋がる一大幻想奇譚。

 

ファンタジー/SF要素が強めの凝った構成の連作短編集。

著者の作家としての技量・力量が存分に発揮されていて、短編集でありながらも長編を超えるような圧倒的な読後感に浸ることができる。

長編でも滅多に体験することのできない、時間も空間も超越した壮大な旅を終えたようなカタルシスを得ることができるので、読後は( ゚д゚)となってしまうだろう。

 

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65. 屍鬼 / 小野不由美(1998年)

 

人口わずか千三百、三方を尾根に囲まれ、未だ古い因習と同衾する外場村。猛暑に襲われた夏、悲劇は唐突に幕を開けた。山深い集落で発見された三体の腐乱死体。周りには無数の肉片が、まるで獣が蹂躪したかのように散乱していた―。闇夜をついて越して来た謎の家族は、連続する不審死とどう関わっているのか。殺人か、未知の疫病か、それとも…。超弩級の恐怖が夜の帳を侵食し始めた。

 

 長い...退屈...暗い...そして登場人物多過ぎ。
相当読書慣れしてない人はまず読もうとは思えないだろうが、覚悟を決めて読んだら間違いなく心に残る1冊になるだろう。

最も作中に没入できた作品で、読んでいる最中はすごい幸せだった....。

 

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66. ダークゾーン / 貴志祐介(2011年)

 

「戦え。戦い続けろ」プロ将棋棋士の卵・塚田は、赤い異形の戦士と化して、闇の中で目覚めた。突如、謎の廃墟で開始される青い軍団との闘い。敵として生き返る「駒」、戦果に応じた強力化など、奇妙なルールの下で続く七番勝負。頭脳戦、心理戦、そして奇襲戦。“軍艦島”で繰り広げられる地獄のバトル。圧巻の世界観で鬼才が贈る最強エンターテインメント!

 

 謎に包まれた空間ダークゾーンにて訳も分からず繰り広げられる"人間将棋デスゲーム"。そこはかとなく漂うせつなさと虚無感がたまらない。

ダークゾーンとは一体何なのか?現実世界では何があったのか?戦いの先に待つものとは?謎が謎を呼びグイグイ物語に引き込まれることになるだろう。

貴志作品の中でも最もエンターテイメントに特化した作品である。

 

 

67. 倒錯のロンド / 折原一(1989年)

 

”原作者”と”盗作者”の緊迫する駆け引きに息を呑む。受賞間違いなし、と自信を持って推理小説新人賞に応募しようとした作品が、何者かに盗まれてしまった! そして同タイトルの作品が受賞作に。時代の寵児になったのは、白鳥翔。山本安雄がいくら盗作を主張しても誰も信じてくれない。原作者は執念で盗作者を追いつめる。巧緻極まる仕掛けが全編に張り巡らされ、その謎が解き明かされていく衝撃、そして連続する衝撃! 叙述トリックの名手・折原一の”原点”に位置づけられる名作、32年越しの改訂が加わった新装完成版。

 

 最強に面白い本格ミステリの最有力候補である。

折原一といったら叙述トリックなので、もはや隠す必要はないだろうから書いてしまうと、『倒錯のロンド』は非常にレベルの高い叙述トリックものである。

 だがそんなことはどうでもいいほど物語が面白いのである。
猛烈に勢いのある筆致に、なんとなくブラックユーモアめいたセリフ、そしてS・キングの『シャイニング』を全力でパロっていたりととことん面白さを追求している。

 

 

68. 鋼鉄都市 / アイザック・アシモフ(1953年)

 

警視総監に呼びだされた刑事ベイリが知らされたのは、宇宙人惨殺という前代未聞の事件だった。地球人の子孫でありながら今や支配者となった宇宙人に対する反感、人間から職を奪ったロボットへの憎悪が渦まく鋼鉄都市へ、ベイリは乗り出すが……〈ロボット工学の三原則〉の盲点に挑んだSFミステリの金字塔!

 

SF✕本格ミステリの超傑作で、SFとしても本格推理小説としても楽しめるだけでなく、ストーリー良し、キャラ良し、世界観良しとまったくと言っていいほど弱点の無い圧倒的な完成度を誇る。

普段はSFを読まないような人であっても、特殊設定ミステリとして一度は読んでみてほしい作品だ。

 

 

69. 殺戮にいたる病 / 我孫子武丸(1992年)

 

永遠の愛をつかみたいと男は願った―。東京の繁華街で次々と猟奇的殺人を重ねるサイコ・キラーが出現した。犯人の名前は、蒲生稔!くり返される凌辱の果ての惨殺。冒頭から身も凍るラストシーンまで恐るべき殺人者の行動と魂の軌跡をたどり、とらえようのない時代の悪夢と闇を鮮烈無比に抉る衝撃のホラー。叙述ミステリの極致!

 

あのトリックを使ったミステリーの中でも最高峰の完成度を誇る大傑作だが、そんなことはどうでも良い。至高のエログロこそが本作の核だ。

恐るべきエロさとやたらリアリティのあるなまなましいグロさが襲い掛かってくる。

口が裂けても女性や子どもにはおすすめできない作品だが、小説の楽しさを教えるという意味でいつかは我が子におすすめしてしまうかもしれない1冊である。

 

 

70 アルカトラズ幻想 / 島田荘司(2012年)

 

一九三九年十一月二日、ワシントンDCのジョージタウン大学脇にあるグローバーアーチボルド・パークの森の中で、娼婦の死体が発見された。被害者は両手をブナの木の枝から吊るされ、性器の周辺がえぐられたため股間から膣と子宮が垂れ下がっていた。時をおかず第二の殺人事件も発生し、被害者には最初の殺人と同様の暴虐が加えられていた。凄惨な猟奇殺人に世間も騒然とする中、恐竜の謎について独自の理論を展開される「重力論文」を執筆したジョージタウン大学の大学院生が逮捕され、あのアル・カポネも送られたサンフランシスコ沖に浮かぶ孤島の刑務所、アルカトラズに収監される。やがて、ある事件をきっかけに犯人は刑務所を脱獄し、島の地下にある奇妙な場所で暮らし始めるが……。先端科学の知見と作家の奔放な想像力で、現代ミステリーの最前線を走る著者の渾身の一作がついにベールを脱ぐ!

 

 島田御大の到達点というところだろうか。まさにゴッドオブミステリーである。

はっきり言って小説の体を成していないハチャメチャ作品なのかもしれないが、ミステリーの求道者は死んでも読むべき1冊である。

猟奇的殺人、恐竜絶滅の謎、アルカトラズ刑務所、地球空洞説、パンプキン王国???

開いた口が塞がらない伝説の作品である。

 

71. 羆嵐 / 吉村昭(1977年)

 

北海道天塩山麓の開拓村を突然恐怖の渦に巻込んだ一頭の羆の出現!日本獣害史上最大の惨事は大正4年12月に起った。冬眠の時期を逸した羆が、わずか2日間に6人の男女を殺害したのである。鮮血に染まる雪、羆を潜める闇、人骨を齧る不気味な音…。自然の猛威の前で、なす術のない人間たちと、ただ一人沈着に羆と対決する老練な猟師の姿を浮彫りにする、ドキュメンタリー長編。

 

 まるでその場で惨劇を見ているかのような最強のリアリティ小説である。

描写の臨場感は尋常ではなく、読んでいると羆の息遣いがすぐそこで聞こえてくるようで、相手はクマなので言うまでもなく残虐さも最恐クラスである。

 くまのプーさんが危険なファンタジーであることが分かる強烈な一冊。

 

 

72. Another / 綾辻行人(2009)

 

夜見山北中学三年三組に転校してきた榊原恒一は、何かに怯えているようなクラスの雰囲気に違和感を覚える。同級生で不思議な存在感を放つ美少女ミサキ・メイに惹かれ、接触を試みる恒一だが、謎はいっそう深まるばかり。そんな中、クラス委員長の桜木が凄惨な死を遂げた! この”世界”ではいったい何が起きているのか!?

 

萌え系学園ホラーミステリー

文体からしてかなりラノベ寄りの作品だが、ホラーとしてもミステリーとしても非常によくできた作品である。

私は小説でしかできないあのトリックを妻に思い知らせたくて、本作のアニメ版を無理やり見せたら無事に「えッ!?」と言わせることに成功した。

 

 

73. 鹿の王 / 上橋菜穂子(2014年)

 

強大な帝国・東乎瑠から故郷を守るため、死兵の役目を引き受けた戦士団“独角”。妻と子を病で失い絶望の底にあったヴァンはその頭として戦うが、奴隷に落とされ岩塩鉱に囚われていた。ある夜、不気味な犬の群れが岩塩鉱を襲い、謎の病が発生。生き延びたヴァンは、同じく病から逃れた幼子にユナと名前を付けて育てることにする。一方、謎の病で全滅した岩塩鉱を訪れた若き天才医術師ホッサルは、遺体の状況から、二百五十年前に自らの故国を滅ぼした伝説の疫病“黒狼熱”であることに気づく。征服民には致命的なのに、先住民であるアカファの民は罹らぬ、この謎の病は、神が侵略者に下した天罰だという噂が流れ始める。古き疫病は、何故蘇ったのか―。治療法が見つからぬ中、ホッサルは黒狼熱に罹りながらも生き残った囚人がいると知り…!?たったふたりだけ生き残った父子と、命を救うために奔走する医師。生命をめぐる壮大な冒険が、いまはじまる―!

 

 本屋大賞の大賞受賞作品。

 ファンタジー×医療サスペンスという面白くないはずがない組み合わせで、読めば読むほど止まらなくなる超面白本である。

 様々な政治的な思惑が交錯する中、伝説の疫病“黒狼熱”を用いたバイオテロというもはやあまりファンタジーっぽくない本気っぷりが見どころだ。

 二組の男女の絶妙な距離感が素晴らしい隠れ恋愛小説でもある。

 

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74. 鹿の王 水底の橋 / 上橋菜穂子(2019年)

 

伝説の病・黒狼熱大流行の危機が去った東乎瑠帝国では、次の皇帝の座を巡る争いが勃発。そんな中、オタワルの天才医術師ホッサルは、祭司医の真那に誘われて恋人のミラルと清心教医術発祥の地・安房那領を訪れていた。そこで清心教医術の驚くべき歴史を知るが、同じころ安房那領で皇帝候補のひとりの暗殺未遂事件が起こる。様々な思惑にからめとられ、ホッサルは次期皇帝争いに巻き込まれていく。『鹿の王』、その先の物語!

 

 鹿の王のその後の物語ではあるが、前作との繋がりは希薄で物語の方向性も異なるため外伝にあたる作風である。こちらも本編に勝るとも劣らない傑作だ。

 ファンタジー要素はますます薄れ、医療サスペンスの度合いが大幅に高まると同時に、恋愛小説としてもパワーアップしている。

 上橋菜穂子の類稀なる物語だけでなく、技巧も冴えわたる作品である。

 

 

75. 犬神家の一族 / 横溝正史(1951年)

 

信州財界一の巨頭、犬神財閥の創始者犬神佐兵衛は、血で血を洗う葛藤を予期したかのような遺言状を残して永眠した。佐兵衛は生涯正室を持たず、女ばかり三人の子があったが、それぞれ生母を異にしていた。一族の不吉な争いを予期し、金田一耕助に協力を要請していた顧問弁護士事務所の若林がやがて何者かに殺害される。だが、これは次々と起こる連続殺人事件の発端にすぎなかった! 血の系譜をめぐる悲劇、日本の推理小説史上の不朽の名作!!

 

不気味な白いマスクと池にぶっ刺さった逆立ち死体でおなじみの国民的大傑作....にも関わらず今では原作はおろか映画の内容すら知らない人が大多数かもしれない。

少々強引な点を差し引いても推理小説として非常に良くできていて、娯楽性も申し分ないという稀代のエンターテイメント作品である。

原作を読んでいないのなら今すぐ読むべし!

 

 

76. 花嫁の家 / 郷内心瞳(2014年)

 

その家に嫁いだ花嫁は、必ず死ぬ。「嫁いだ花嫁が3年以内にかならず死ぬ」――。忌まわしき伝承のある東北の旧家・海上家では、過去十数代にわたり花嫁が皆若くして死に絶えていた。この家に嫁いだ女性から相談を受けた拝み屋・郷内は、一家に伝わるおぞましい慣習と殺意に満ちた怪奇現象の数々を目の当たりにする……。記録されることを幾度も拒んできた戦慄の体験談「母様の家」と「花嫁の家」。多くの読者を恐怖の底へ突き落とした怪談実話がついによみがえる。

 

知る人ぞ知る最恐ホラー小説。

しかし『花嫁の家』の特筆すべき点はその怖さだけでなく、練りに練った物語の構成と優れたサスペンスであるということだ。とにかく話が面白く、めちゃくちゃ怖いのにゴリゴリ読み進めてしまうのは間違いない。様々な伏線が恐怖で恐怖で結びついた時の鳥肌の立ち方は尋常ではない。

なぜか長らく文庫が絶版しており、前作が角川ホラー文庫から再販されているにも関わらず、本作がなかなか復刊されないのが禍々しかったが、漸く2022年に復刊されたので超おすすめである。 ちなみに前作は読んでいなくても問題ないが、前作読了後に読むと恐怖が2割増しになる。

 

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77. 一ノ瀬ユウナが浮いている / 乙一(2021年)

 

幼馴染みの一ノ瀬ユウナが、宙に浮いている。十七歳の時、水難事故で死んだはずのユウナは、当時の姿のまま、俺の目の前にいる。不思議なことだが、ユウナのお気に入りの線香花火を灯すと、俺にしか見えない彼女が姿を現すのだ。ユウナに会うため、伝えていない気持ちを抱えながら俺は何度も線香花火に火をつける。しかし、彼女を呼び出すことができる線香花火は、だんだんと減っていく――。

 

乙一というと初期の頃の作品は小説読みであれば誰でも作品名くらいは知っているくらいの知名度を誇るものばかりなのだが、アラフォーの乙一が描く白乙一作品はどうなの?という答えが詰まった物語である。

泣ける小説をほとんど読まないということもあるのだが、私のATフィールドは木っ端微塵に粉砕され、ラストは涙で文字が見えなくなってしまった。

 

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なお上記の記事でも紹介しているが、姉妹編の『サマーゴースト』もかなり気合の入った白乙一作品である。ノベライズではあるものの、そもそも映画の脚本が乙一なので、オリジナル作品と言っても過言ではない内容になっているので、白乙一好きならこちらも必読だ。

 

78. 槐 / 月村了衛(2015年)

 

水楢中学校野外活動部の弓原公一らが合宿で訪れた湖畔のキャンプ場で、惨劇は起こった。隠された大金を捜す半グレ集団・関帝連合がキャンプ場を封鎖し、宿泊客を虐殺し始めたのだ。囚われの身となった公一たち。だが絶体絶命の状況下、突然何者かが凶悪集団に反撃を開始した!謎の闘士と中学生たちが決死の脱出に挑む。今最も旬な著者による戦慄と興奮の物語。

 

いやー....月村了衛万歳!!と思わず叫びたくなるほどエンタメに特化した作品。

ハッキリ言ってかなり荒唐無稽でおバカなプロットだが、この超テンションは著者自身が敬愛するとされる山田風太郎忍法帖を現代に復活させたような趣がある。何も考えずに娯楽本が読みたい方には自信を持っておすすめする。

 

 

79. 夢魔の標的 / 星新一(1977年)

 

腹話術師の私と、息ぴったりで幼児番組に出演し活躍していた、かわいらしい人形のクルコちゃん。ある日、クルコちゃんが生きた人間のように勝手にしゃべり出した。私の言うことを聞かないばかりか、ついに暴走を始めてしまい――。
これは夢なのか現実なのか、妄想なのか。それとも異次元からの知られざる指令なのか。

 

ミステリー要素のあるSF/ファンタジー/ホラーが好みな私にとって、これ以上ないほどそういった要素をぶち込んだ作品で、星新一の数少ない長編の一作である。

腹話術人形のクルコちゃんがある日突然話し出すというサイコホラーな謎が、世界の存亡にまでおよぶというスケールの大きいミステリーとなっている。

ショートショートを繋げて長編にしたような読みやすさと切れ味、不気味で怖可愛いクルコちゃんの魅力など読みどころ満載だ。

 

 

80. マリアビートル / 伊坂幸太郎(2010年)

 

幼い息子の仇討ちを企てる、酒びたりの元殺し屋「木村」。優等生面の裏に悪魔のような心を隠し持つ中学生「王子」。闇社会の大物から密命を受けた、腕利き二人組「蜜柑」と「檸檬」。とにかく運が悪く、気弱な殺し屋「天道虫」。疾走する東北新幹線の車内で、狙う者と狙われる者が交錯する――。小説は、ついにここまでやってきた。映画やマンガ、あらゆるジャンルのエンターテイメントを追い抜く、娯楽小説の到達点!

 

みんな大好き伊坂幸太郎が放つエンターテイメントの最高峰。それが『マリアビートル』である。個人的に伊坂作品は独特なセリフなどにイマイチ馴染めないので紹介しようか迷ったが、まぁこれを紹介しないのは嘘でしょうということで選抜した。

面白い本を読みたいのならまず外さないでしょう。一つだけ注意点を挙げておくと必ず『グラスホッパー』を読んでから読みましょうということだ。マリアビートルを先に読んでもOKという意見も見受けられるがそれは真っ赤な嘘である。

 

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81. 魚舟・獣舟 / 上田早夕里(2009年)

 

現代社会崩壊後、陸地の大半が水没した未来世界。そこに存在する魚舟、獣舟と呼ばれる異形の生物と人類との関わりを衝撃的に描き、各界で絶賛を浴びた表題作。寄生茸に体を食い尽くされる奇病が、日本全土を覆おうとしていた。しかも寄生された生物は、ただ死ぬだけではないのだ。戦慄の展開に息を呑む「くさびらの道」。書下ろし中編を含む全六編を収録する。

 

超絶クオリティかつバラエティ豊富な中短編集。

イマジネーション豊富なSFである表題作を始め、収録されている6編すべてが恐るべき完成度を誇り、SFだけでなくホラーやダークファンタジー、妖怪モノから恋愛、サスペンスまで幅広いジャンルをカバーしている。著者の他の作品とリンクする作品が複数あるので、上田作品初読みにもおすすめ。

 

 

82. 今夜、すべてのバーで / 中島らも(1991年)

 

「この調子で飲み続けたら、死にますよ、あなた」。それでも酒を断てず、緊急入院するはめになる小島容。ユニークな患者たち、シラフで現実と対峙する憂鬱、親友の妹が繰り出す激励の往復パンチ。実体験をベースに生と死のはざまで揺らぐ人々を描いた、すべての酒飲みに捧ぐアル中小説。

 

酒とドラッグにおぼれた天才作家・中島らもによる、ほぼ実話に近いノンフィクション風な私小説である。

私はこの著者はただの変な人だと思っていたのだが、作品を読めば読むほど圧倒的な知性とセンスを感じて驚ろかされるのだが、本作はアルコールについて相当な研究がなされたうえで描かれており、センス×蘊蓄×実体験という要素が掛け合わされたことで素晴らしい作品になっている。

酒好きは飲みながら読もう。そしてやめよう。

 

 

83. アラビアの夜の種族 / 古川日出夫(2001年)

 

語られるのは、存在しない物語。13世紀エジプトを舞台とした奇書の登場!
聴きたい者の前に、物語は姿を見せる。ナポレオンのエジプト侵攻をくい止めるため、奴隷アイユーブが探しだした「災厄の書」。そして、物語が現実を浸食し始める。

 

  なぜか日本推理作家協会賞日本SF大賞をW受賞しているが、内容的には推理要素もSF要素も皆無に等しく、純粋なファンタジー小説である。

 しかも剣と魔法全開のこてこてのファンタジーにも関わらずラノベではないことが大きなポイント。『アラビアの夜の種族』は”Wizardry”小説なのである。

 面白い架空の物語を書いて献上することによって、エジプトに侵攻してくるナポレオン軍を退けちゃお☆といったふざけた本なのだが、何も考えずに読めばこれほど世界観に引きずり込まれる小説はない。

 

 

84. ゴーストハント / 小野不由美(1930年)

 

 学校の旧校舎には取り壊そうとすると祟りがあるという怪奇な噂が絶えない。心霊現象の調査事務所である渋谷サイキックリサーチ(SPR)は、校長からの依頼で旧校舎の怪異現象の調査に来ていた。高等部に通う麻衣はひょんなことから、SPRの仕事を手伝うことに。なんとその所長は、とんでもなく偉そうな自信家の17歳になる美少年、渋谷一也(通称ナル)。調査に加わるのは個性的な霊能者たち。ミステリ&ホラーシリーズ。

 

 小野不由美と言ったらホラー×ミステリーの名手だが、結構読みずらい本が多いので、手に取る本を誤ると挫折する可能性もあるかもしれない。

代表作である『十二国記』ですらけっこう読みずらいのである。
そんな中この『ゴーストハント』はとても読みやすく、魅力的なキャラクターたちによって繰り広げられる、超高品質なホラー×ミステリーである。

もともとはティーン向けの作品だったが、怪奇現象を例の仕業なのか人間の仕業なのか論理的に追及する流れは大人が読んでも楽しむことができる。

 

〇紹介記事

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85. 玩具修理者 / 小林泰三(1996年)

 

玩具修理者は何でも直してくれる。独楽でも、凧でも、ラジコンカーでも…死んだ猫だって。壊れたものを一旦すべてバラバラにして、一瞬の掛け声とともに。ある日、私は弟を過って死なせてしまう。親に知られぬうちにどうにかしなければ。私は弟を玩具修理者の所へ持って行く…。現実なのか妄想なのか、生きているのか死んでいるのか―その狭間に奇妙な世界を紡ぎ上げ、全選考委員の圧倒的支持を得た第2回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作品。

 

不気味グロ怪奇幻想クトゥルフ短編『玩具修理者』と時間SF中編「酔歩する男」の2作が収録されていて、表題作である前者は幻想的な雰囲気、後者はSFがホラー的な感覚を生み出す作品となっていてどちらも高品質だ。

クトゥルフ神話好きなら「ようぐそうとほうとふ」という名状しがたき名称に「ヨグ=ソトース」が浮かぶこと間違いないしだろう。

 

 

86. 香君 / 上橋菜穂子(2022年)

 

遥か昔、神郷からもたらされたという奇跡の稲、オアレ稲。ウマール人はこの稲をもちいて帝国を作り上げた。この奇跡の稲をもたらし、香りで万象を知るという活神〈香君〉の庇護のもと、帝国は発展を続けてきたが、あるとき、オアレ稲に虫害が発生してしまう。時を同じくして、ひとりの少女が帝都にやってきた。人並外れた嗅覚をもつ少女アイシャは、やがて、オアレ稲に秘められた謎と向き合っていくことになる。『精霊の守り人』『獣の奏者』『鹿の王』の著者による新たなる代表作の誕生です。

 

安定の上橋クオリティで他の作品よりも総合的な完成度では一回り高みに達しているように思う。洗練されていて無駄がなく、とにかく読みやすくて一気読み度が激高なのである。

超人的な嗅覚と”オアレ稲”架空の稲をベースに展開される物語はファンタジーを超越しており、読んでいる時の感覚はハードSFに限りなく近い。それくらい地に足のついた世界観なのである。素晴らしい科学ミステリーをぜひ堪能してほしい。

 

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87. 僕が愛したすべての君へ|君を愛したひとりの僕へ / 乙野四方字(2016年)

⇩僕が愛したすべての君へ

 人々が少しだけ違う並行世界間で日常的に揺れ動いていることが実証された時代――両親の離婚を経て母親と暮らす高崎暦は、地元の進学校に入学した。勉強一色の雰囲気と元からの不器用さで友人をつくれない暦だが、突然クラスメイトの瀧川和音に声をかけられる。彼女は85番目の世界から移動してきており、そこでの暦と和音は恋人同士だというのだが……並行世界の自分は自分なのか? 『君を愛したひとりの僕へ』と同時刊行

⇩君を愛したひとりの僕へ

人々が少しだけ違う並行世界間で日常的に揺れ動いていることが実証された世界―両親の離婚を経て父親と暮らす日高暦は、父の勤務する虚質科学研究所で佐藤栞という少女に出会う。たがいにほのかな恋心をを抱くふたりだったが、親同士の再婚話がすべてを一変させた。もう結ばれないと思い込んだ暦と栞は、兄妹にならない世界へ跳ぼうとするが…彼女がいない世界に意味はなかった。

 

パラレルワールドSFの良作。

2作品同時に発表された作品で、それぞれが無数にある並行世界の一つの物語で、相互にリンクしたり補完しあっているというなかなかトリッキーな作品である。

トリッキーでありつつも両作品ともにパラレルワールドSFにしては読みやすく、いずれも恋愛という共通要素があるのだが、それ以外の部分はミステリ寄りの『僕君』とSFファンタジー寄りの『君僕』といった感じで作風が異なるので、2冊一気読みすることは確実である。ライトなSFファンにおすすめ。

 

 

そして2022年に映画化されたことによって発表されたであろう、スピンオフ作品が『僕が君の名前を呼ぶから』である。

スピンオフというよりはもう一つの並行世界での佐藤栞の物語であり、独立した作品として成立しているが、終盤で(やや強引に)『君を愛したひとりの僕へ』を補完する展開になるので、前二作が気に入った方なら必ず読むべきである。

 

人々が少しだけ違う並行世界間で日常的に揺れ動いていることが実証された時代──虚質科学を研究する母と専業主夫の父とともに暮らす今留栞は、中学2年の夏休みに訪れた元病院の敷地内で、内海進矢という青年と出会う。彼は鬼隠しに遭って姿を消した少年について調べているというのだが……別の並行世界を生きた、もう一人の栞の物語。『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』に続く待望のスピンオフ長篇

 

88. パラサイト・イブ / 瀬名秀明(1995年)

 

事故で亡くなった愛妻の肝細胞を密かに培養する生化学者・利明。Eve 1と名付けられたその細胞は、恐るべき未知の生命体へと変貌し、利明を求めて暴走をはじめる―。空前絶後の着想と圧倒的迫力に満ちた描写で、読書界を席巻したバイオ・ホラー小説の傑作。

 

私が人生で初めて自分でお金を払って買って読了した小説なのでとにかく思い入れのある作品だ。

ミトコンドリアが人間に反逆するというブッ飛んだ内容も、科学者である著者の手にかかれば圧倒的なリアリティで描かれ、小学生だった当時は本気でビビった記憶が懐かしい。最初の日本ホラー小説大賞の大賞受賞作ということもあり、その完成度はとても高く時が経っても廃れない傑作である。

 

 

89. メドゥサ、鏡をごらん / 井上夢人(2000年)

 

作家・藤井陽造は、コンクリートを満たした木枠の中に全身を塗り固めて絶命していた。傍らには自筆で〈メドゥサを見た〉と記したメモが遺されており、娘とその婚約者は、異様な死の謎を解くため、藤井が死ぬ直前に書いていた原稿を探し始める。だが、何かがおかしい。次第に高まる恐怖。そして連鎖する怪死! 身の毛もよだつ、恐怖の連鎖が始まる

 

 謎が謎を呼ぶ最強一気読み小説。

ミステリーでありホラーであり、SFっぽくもある本作だが、読んでいる最中の面白さは最強と呼ぶにふさわしい。気が付けば徹夜していることだろう。

最も井上夢人らしい作品だとも思っており、岡嶋二人時代の超名作『クラインの壺』的な感覚を彷彿とさせられる。

 

 

90. 流浪地球/老神介護 / 劉慈欣(2022年)

 

中国大ヒット映画原作、『三体』著者によるSF短編集、待望の邦訳!

●ぼくが生まれた時、地球の自転はストップしていた。人類は太陽系で生き続けることはできない。唯一の道は、べつの星系に移住すること。連合政府は地球エンジンを構築し、地球を太陽系から脱出させる計画を立案、実行に移す。こうして、悠久の旅が始まった。それがどんな結末を迎えるのか、ぼくには知る由もなかった。「流浪地球」

●突如現れた宇宙船から、次々地球に降り立った神は、みすぼらしい姿でこう言った。「わしらは神じゃ。この世界を創造した労に報いると思って、食べものを少し分けてくれんかの」。神文明は老年期に入り、宇宙船の生態環境は著しく悪化。神は地球で暮らすことを望んでいた。国連事務総長はこの老神たちを扶養するのは人類の責任だと認め、二十億柱の神は、十五億の家庭に受け入れられることに。しかし、ほどなく両者の蜜月は終わりを告げた――。「老神介護」

 

中華SF神による究極のSF短編集。

収録されている十一作品すべてが神の如きクオリティを誇っている。いずれの作品もハードSFとして優れているだけでなく、純粋に物語として圧倒的に面白いのがポイントである。我が生涯で読んだSF作品集の中でも最高の一冊である。本気でおすすめしたい。

 

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91. ボッコちゃん / 星新一(1971年)

 

 著者が傑作50編を自選。SF作家・星新一の入門書。バーで人気の美人店員「ボッコちゃん」。彼女には、大きな秘密があった……。表題作品をはじめ「おーい でてこーい」「殺し屋ですのよ」「月の光」「暑さ」「不眠症」「ねらわれた星」「冬の蝶」「鏡」「親善キッス」「マネー・エイジ」「ゆきとどいた生活」「よごれている本」など、とても楽しく、ちょっぴりスリリングな自選50編。

 

星新一はかなり強烈な毒を持っている。

そんな作家が選ぶ自選傑作編なので50作あるショートショート作品それぞれのクオリティが異様に高く、一発一発がタイプの異なる毒をぶちまけてくるので読後はかなりのダメージを覚悟した方がいい。

平均10ページにも満たない作品集なので寝る前に少しづつ読むのもおすすめだが.....きっと悪い夢を見るだろう(笑)

 

⇩以下著者によるあとがきより引用

特徴をもうひとつあげるとすれば、作品のバラエティを多くするよう心がけた。ミステリー的なものもあり、SF的なものもある。ファンタジーもあれば、寓話がかったものもあり、童話めいたものもある。いずれも私が関心を抱いている分野である。だからこの一冊は、私、星新一というあやしげな作家そのものを、ショートショートに仕上げた形だといえるかもしれない。

 

 

92. 旅のラゴス / 筒井康隆(1986年)

 

北から南へ、そして南から北へ。突然高度な文明を失った代償として、人びとが超能力を獲得しだした「この世界」で、ひたすら旅を続ける男ラゴス。集団転移、壁抜けなどの体験を繰り返し、二度も奴隷の身に落とされながら、生涯をかけて旅をするラゴスの目的は何か? 異空間と異時間がクロスする不思議な物語世界に人間の一生と文明の消長をかっちりと構築した爽快な連作長編。

 

この世には人生を変える本というものが存在するらしいが、本作こそまさにそんな1冊なのだと思う。

人生を台無しにする可能性を秘めた諸刃の剣であり、私はこの本を読んで家族も放ったらかしにしてひたすら読書をするようになってしまった。

男であれば必読の作品である。(もちろん女性が読んでもいいと思うよ)

 

 

93. 金色機械 / 恒川光太郎(2013年)

 

時は江戸。ある大遊廓の創業者・熊悟朗は、人が抱く殺意の有無を見抜くことができた。ある日熊悟朗は手で触れるだけで生物を殺せるという女性・遙香と出会う。謎の存在「金色様」に導かれてやってきたという遙香が熊悟朗に願ったこととは―?壮大なスケールで人間の善悪を問う、著者新境地の江戸ファンタジー


異世界ファンタジーの筆頭恒川光太郎が、長編で伝奇小説に挑んだ作品。

『金色機械』までは恒川作品と言ったら中短編という感覚だったが、長編でも才能を発揮しまくりなどころか、むしろ長編の方が圧倒的に面白いということを教えてくれた一冊でもある。

江戸時代を舞台としており、人格を持った謎の超強力な機械である”金色様”がいろいろあって大活躍するのだが、”金色様”の凄まじい存在感と、日本推理作家協会賞を受賞するほどのミステリー要素が読む手を止めさせない最高のエンターテイメントを創り出している。

 

 

94. 墓地を見おろす家 / 小池真理子(1993年)

 

新築・格安、都心に位置するという抜群の条件の瀟洒なマンションに移り住んだ哲平一家。問題は何一つないはずだった。ただ一つ、そこが広大な墓地に囲まれていたことを除けば…。やがて、次々と不吉な出来事に襲われ始めた一家がついにむかえた、最悪の事態とは…。復刊が長く待ち望まれた、衝撃と戦慄の名作モダン・ホラー

 

なかなか怖い本だが、霊がめっちゃアグレッシブでやたら面白いのがポイント。

ホラー小説は怖さを重視するとエンタメ性が低下するし、面白くしようとすると怖くなくなるというパターンに陥るが、『墓地を見おろす家』は恐怖とエンタメのバランスがよくとても面白い。

おとなしそうな装丁からは予想もつかない大暴れが待っている。

 

 

95. 酒気帯び車椅子 / 中島らも(2004年)

 

家族をこよなく愛する小泉は中堅の商社に勤める平凡なサラリーマン。彼は、土地売買の極秘巨大プロジェクトを立ち上げた。必死の思いで進めた仕事のメドがたったある日、計画を知るという謎の不動産屋から呼び出される。彼を待っていたのは暴力団だった。家族を狙うという脅しにも負けず敢然と立ち向かう小泉だったが…。容赦ない暴力とせつない愛が交差する中島らもの遺作バイオレンス小説。

 

 エンタメを追求することにすべてをかけたような著者の遺作。

のほほん→地獄→復讐→皆殺しと実にシンプルに話は進むが、著者のセンスの良いギャグが随所に入れられることにより、普通ならどんより激重な話になりそうなところだが、清々しさと爽快感が溢れる仕様となっている。

 

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96. ジェノサイド / 高野和明(2011年)

 

創薬化学を専攻する大学院生・研人のもとに死んだ父からのメールが届く。傭兵・イエーガーは難病を患う息子のために、コンゴ潜入の任務を引き受ける。2人の人生が交錯するとき、驚愕の真実が明らかに――。

 

絶対に読むべき1冊である。はっきり言ってあまり万人受けする作品ではないと思うのだが、それでもベストセラーになったのはまだまだ日本人も捨てたもんじゃないな...などと調子に乗ったことを思ってしまった。

私の感想は本作はエンタメに振り切った作品ではなく、著者の政治的な思想が色濃く出ている社会派ミステリーであるため、エンタメに振り切らなかったという点で少々惜しいのだが、その点を差し引いても、これを読まずして何を読むのかというレベルの作品である。小説を通じて何かを学びたいという方にはうってつけの素晴らしい内容である。

 

 

97. MAZE / 恩田陸(2001年)

 

アジアの西の果て、荒野に立つ直方体の白い建物。一度中に入ると、戻れない人間が数多くいるらしい。その「人間消失のルール」を解明すべくやってきた男たちは、何を知り得たのか?めくるめく幻想と恐怖に包まれる長編ミステリー。人間離れした記憶力を持ち、精悍な面差しで女言葉を繰り出す、魅惑のウイルスハンター・神原恵弥を生み出した、シリーズ第一作!

 

 これこそが真のミステリーと言いたい、SFやファンタジー要素の強い作品である。

恩田陸の良いところと悪いところ(笑)がぎっしり詰まっているので、本格ミステリ好きは肩透かしかもしれないが、ミステリー寄りの恩田作品に慣れたファンなら感涙モノだろう。ずばりおすすめ。

 

 

98. メアリー・スーを殺して / 著者複数(2016年)

 

奇想ホラーの名手・乙一を筆頭に、
感涙ラブコメ中田永一、異色ホラーの山白朝子、
そして'10年以降沈黙を守っていた越前魔太郎、と鬼才4名が揃い踏み、幻夢の世界を展開する。
そしてその4名を知る安達寛高氏が、それぞれの作品を解説。

 

乙一のすべてが結集した究極の一人アンソロジーである。

別名義も含めた乙一のすべてが堪能できるだけでなく、乙一の本名名義で各短編の解説もされているという徹底された乙一本だ。名義が変われば作風もばっちり変わるため、バラエティ豊かであり個々の作品は名義ごとの個性が色濃く出ていて完成度も高い。

乙一ファンだが別名義の作品は追えていなかったという方には超おすすめ。

 

 

99. 屋上 / 島田荘司(2016年)

 

 自殺する理由がない男女が、次々と飛び降りる屋上がある。足元には植木鉢の森、周囲には目撃者の窓、頭上には朽ち果てた電飾看板。そしてどんなトリックもない。死んだ盆栽作家と悲劇の大女優の祟りか?霊界への入口に名探偵・御手洗潔は向かう。人智を超えた謎には「読者への挑戦状」が仕掛けられている!

 

 ゴッドオブミステリーによる最強のバカミスである。

賛否両論を呼んでいるが、本格推理小説として考えずに純粋にエンタメ作品としてみれば稀に見る傑作である。

これでもかというほど自殺するはずがない人が次々と屋上から飛び降り自殺するという怪事件が、アホみたく面白おかしく描かれる。

 島田御大はたまに笑える作品を書かれるのだが、『屋上』はお笑い本としては最高傑作であり、ミステリーとしてもしっかりしているので万人におすすめ。

 

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100. 忍びの卍 / 山田風太郎(2011年)

 

時は寛永9年。三代家光の治世である。大老土井大炊頭の近習・椎ノ葉刀馬は、御公儀忍び組に関する秘命を受ける。伊賀・甲賀・根来の代表選手を査察し、最も優れた組を選抜せよというのだ。妖艶奇怪この上ない忍法に圧倒されながらも、任務を果たす刀馬。全ては滞りなく決まったかに見えたが…それは駿河大納言をも巻き込んだ壮絶な隠密合戦の幕開けだった。卍と咲く忍びの徒花。その陰で描かれていた戦慄の絵図とは…。公儀という権力組織を鮮烈に描いた名作。

 

ラストにふさわしい素晴らしい作品である。

山風作品お馴染みのおバカとエロが極限まで発揮されており、爆笑しながら勃起するというかなり特殊な状況にさせられるのだが、奇想で後世に名を残した山田風太郎だけに衝撃の結末が待っており、世の中の全サラリーマンは号泣すること間違いなしである。すべての雇われ人の魂に火をつける、熱くせつない物語である。

 

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神本探しに終わりはない

素晴らしい本に出会ったらその都度作品を入れ替えながら更新していく。この記事が読書好きやこれから小説を読もうと考えている方の参考になれば幸いである。

なおこの記事は主にSFとファンタジー好きな私が”紹介する価値のある”面白い本を挙げているが、純粋に超絶面白い本を求められる方は以下の記事がおすすめ。
 
〇エンタメ特化本を紹介した記事

 

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『殺し屋シリーズ』伊坂幸太郎|究極のエンタメ小説(グラスホッパー / マリアビートル / AX)

最強にして高純度のエンタメ作品

 そもそも面白い小説というものは人それぞれ考え方が違い、紹介者が面白いと感じてもいざ読んでみると、あまり面白くないということはよくある話だ。
 そこで紹介したいのが伊坂幸太郎の『殺し屋シリーズ』である。
私は万人受けしそうな作風やベストセラー作家はあまり好きになれない(というかなりたくない)というタイプなので、THE 売れっ子作家代表である伊坂幸太郎作品はついつい粗探しをするつもりで読んでしまうのだが、そんな読み方をしていても伊坂作品はどれも非常にエンタメとして優れていると認めざるを得ない。
 そんな伊坂作品の中でも『グラスホッパー』に始まる『殺し屋シリーズ』は人が死ぬ系の小説がOKな方であれば、まず間違いなく楽しむことができる最強エンタメ小説だと考えている。
というのも本シリーズはジャンルとしては広義のミステリやサスペンスに属すると思われるが、ジャンルにとらわれずオールマイティーかつ高純度のエンターテイメント作品だからである。
それでは『殺し屋シリーズ』の3作品について紹介していきたい。
 

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装丁のスタイリッシュさに見合った内容だ

 

作品紹介

 『グラスホッパー』『マリアビートル』『AX』の3作品が発表されている。
先に注意点を書いておくが、世の中には『殺し屋シリーズ』は順番を気にしなくてもあまり前作と繋がっていないから大丈夫、といった意見が見受けられる。たしかにストーリーは延長線上にあるわけではないので、順番通りに読まなくても分からないことは特になく読むことはできる。
 しかし『グラスホッパー』の重要人物は続編でも登場し活躍するし、何よりもまずいのは、前作での生存者といった重大な情報が『マリアビートル』や『AX』で分かってしまうので、100%楽しむためにも、またネタバレ回避のためにも必ず順番通りに読むことをおすすめしたい。

 まぁどの作品も問答無用のエンタメ傑作なので、順番通りに読まない理由はないだろう。

 

1作目  グラスホッパー(2004年)

 

 「復讐を横取りされた。嘘?」元教師の鈴木は、妻を殺した男が車に轢かれる瞬間を目撃する。どうやら「押し屋」と呼ばれる殺し屋の仕業らしい。鈴木は正体を探るため、彼の後を追う。一方、自殺専門の殺し屋・鯨、ナイフ使いの若者・蝉も「押し屋」を追い始める。それぞれの思惑のもとに―「鈴木」「鯨」「蝉」、三人の思いが交錯するとき、物語は唸りをあげて動き出す。疾走感溢れる筆致で綴られた、分類不能の「殺し屋」小説。

 

 伊坂幸太郎は芸術的な伏線回収の巧みさに定評がある作家だが、『グラスホッパー』は「鈴木」「鯨」「蝉」という普通の人+2名殺し屋目線で物語が展開する中で多くの伏線をばらまき、それがスッキリ爽快!と思わず叫びたくなるくらいキレイに回収される。

 物語自体とても勢いがあり、スタイリッシュに話が展開されていくため、とても面白いというのは言うまでもないのだが、ミステリー好きであれば伏線回収の妙技に震えることだろう。
また鈴木や鯨、蝉以外にも複数の魅力的な殺し屋や外道キャラが登場するので、キャラ同士の掛け合いもとても面白い。

なお『グラスホッパー』は生田斗真浅野忠信、山田涼介、波留、菜々緒などのキャスティングで映画化されている。 完成度は観てのお楽しみだが、キャストはこれでもかというほどイメージ通りである。

 

グラスホッパー (角川文庫)

グラスホッパー (角川文庫)

 

 

2作目  マリアビートル(2010年)

 

 幼い息子の仇討ちを企てる、酒びたりの元殺し屋「木村」。優等生面の裏に悪魔のような心を隠し持つ中学生「王子」。闇社会の大物から密命を受けた、腕利き二人組「蜜柑」と「檸檬」。とにかく運が悪く、気弱な殺し屋「天道虫」。疾走する東北新幹線の車内で、狙う者と狙われる者が交錯する――。小説は、ついにここまでやってきた。映画やマンガ、あらゆるジャンルのエンターテイメントを追い抜く、娯楽小説の到達点!

 

 星の数ほどあるエンタメ小説の中でも最強候補の超傑作、それが『マリアビートル』である。
ノリは前作に近く、殺し屋が入り乱れて大変なことになる話なのだが、あらゆる面で前作を凌駕しており、600ページに迫る大作でありながら退屈なシーンがないどころか、徹頭徹尾ハイパー面白いという奇跡的な完成度なのである。

 前作の以上に魅力的な殺し屋や、読書中ひたすらぶっ殺したくなる外道中の外道、そして前作で活躍したキャラの再登場とキャラクターの魅力はさらに向上し、走行中の東北新幹線というクローズドな状況により緊迫感やスピード感も跳ね上がっている。
またページ数に比例して増大した伏線回収の妙技も堪能できる。

 とにかくひたすら面白いので何が何でも読んでほしい!!

 ちなみに『マリアビートル』は『Bullet Train』のタイトルでハリウッド映画化されることが決まっている。主演はブラッド・ピットでレディーガガも出るらしい。さらに日本からは真田広之も出演するそうな....。日本の小説がハリウッド映画化されるのはうれしいものである。

 

マリアビートル (角川文庫)

マリアビートル (角川文庫)

 

 

3作目  AX(2017年)

 

 「兜」は超一流の殺し屋だが、家では妻に頭が上がらない。一人息子の克巳もあきれるほどだ。兜がこの仕事を辞めたい、と考えはじめたのは、克巳が生まれた頃だった。引退に必要な金を稼ぐために仕方なく仕事を続けていたある日、爆弾職人を軽々と始末した兜は、意外な人物から襲撃を受ける。こんな物騒な仕事をしていることは、家族はもちろん、知らない。物語の新たな可能性を切り拓いた、エンタテインメント小説の最高峰!

 

 複数の登場人物の視点が入り乱れて展開される『グラスホッパー』『マリアビートル』とは少々趣が異なり、ほぼ妻子ある恐妻家の殺し屋「兜」の視点で語られる連作短編集となっている。

 ホームドラマやコメディ要素が濃厚な「AX」「BEE」「Crayon」で前作までとは異なるタイプの楽しさを堪能していると、「EXIT」→「FINE」でミステリ的な物語が展開され、感動的なラストを迎えるというこれまた傑作なのである。

 私はホームドラマといった作風があまり好きではないし、恐妻家というのも共感できないのだが、それでもなお一気読みさせられるという優れたエンタメだった。

『AX』もまた映画化に適した作品なので、きっとそのうち映画化されるだろう。

AX アックス (角川文庫)

AX アックス (角川文庫)

 

 

今後も期待

 『殺し屋シリーズ』は個々の作品がある程度独立しているため、伊坂本人がその気になればいくらでも続編が書けてしまいそうである。
それなりの数の生存者がいるため、ぜひともそういったキャラが活躍する続編が読みたいものである。
 

『リングシリーズ』鈴木光司|想像不能な超展開(リング/らせん/ループ/バースデイ+α)

映画からは想像もつかない超展開

 映画では怨霊のような存在として登場し、『貞子3D』以降の作品では完全にB級映画よろしくのクリーチャーと化してしまった貞子だが、原作では似ても似つかないような存在なのはあまり知られていないのかもしれない。
 映画は映画でホラー作品として確固たる地位を築いていることは誰もが認めるところであろうが、原作も神懸った傑作なのだ。
 この記事では、少々混乱しがちな映画の流れにも言及しつつ『リングシリーズ』の魅力を語っていきたい。
 

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すべてはここから始まった

作品一覧

 原作は『リング』『らせん』『ループ』の三部作+『バースデイ』でいったん完結したが、『エス』『タイド』が新章として発表されている。

 小説

作品紹介

すっかりジャパニーズホラー映画のカリスマとしての貞子が定着してしまっているかもしれないが、原作の貞子はかなり立ち位置が異なる。

 原作は呪いのビデオから生還するための謎解きメインのホラー×ミステリ『リング』から始まり、呪いの正体を科学的に分析していくSFバイオホラー×ミステリ『らせん』ですべての謎が解き明かされたと思いきや、完全に想像を超えた超展開を起こした、ハードSFの『ループ』に続く。

 主役は貞子というより、DNAといったところだろうか。いずれにせよ物語が想像もつかない内容であることと、超面白いことを保証できる稀代の名作である。

 

①  リング (1991年)

 

同日の同時刻に苦悶と驚愕の表情を残して死亡した四人の少年少女。雑誌記者の浅川は姪の死に不審を抱き調査を始めた。―そしていま、浅川は一本のビデオテープを手にしている。少年たちは、これを見た一週間後に死亡している。浅川は、震える手でビデオをデッキに送り込む。期待と恐怖に顔を歪めながら。画面に光が入る。静かにビデオが始まった…。恐怖とともに、未知なる世界へと導くホラー小説の金字塔。

 

 言わずと知れたジャパニーズホラーの超傑作である。
恐怖描写に特化しまくった映画とは異なり、主役の浅川は男性であり、友人の高山とともに、見たら1週間後に死ぬ”呪いのビデオ”の謎を解くというミステリ要素がとても強い。

 意外かもしれないが、あまり怖くはない。
確かに怖いことは怖いのだが、謎解き要素がかなり強く、また狙ったような恐怖描写は思いのほか少ないのである。

 ホラーと言うよりはむしろ愛する者の命を救うため、全身全霊をかけて呪いに挑むという熱い物語なので、小説として純粋におすすめできる大傑作である。

 

リング (角川ホラー文庫)

リング (角川ホラー文庫)

  • 作者:鈴木 光司
  • 発売日: 1993/04/30
  • メディア: 文庫
 

 

②  らせん(1995年)

 

幼い息子を海で亡くした監察医の安藤は、謎の死を遂げた友人・高山竜司の解剖を担当した。冠動脈から正体不明の肉腫が発見され、遺体からはみ出た新聞紙に書かれた数字は、ある言葉を暗示していた。…「リング」とは?死因を追う安藤が、ついに到達する真理。それは人類進化の扉か、破滅への階段なのか。史上かつてないストーリーと圧倒的リアリティで、今世紀最高のカルトホラーとしてセンセーションを巻き起こしたベストセラー。

 

 『リング』がミステリ小説でいうところの問題編だとすると、『らせん』は解答編にあたる作品である。

 呪いの正体が”あるもの”であることが判明するため、ジャパニーズホラー的なノリはほとんどなく、物語も別の路線として大きな飛躍を遂げているのだが、考えようによってはこちらの方が怖いかもしれない。

 『リング』の結末を大きくひっくり返すような内容であり、ジャンルも前作とは別物であるため、人を選ぶかもしれないが、 個人的には『リング』を遥かに上回る大傑作なので、『リング』を読んで合わなかったという方にも『らせん』はおすすめしたい。

 というか設定がいろいろとブッ飛んでいるので、ホラー好きというよりもSF好きであれば絶対に読まなければならないだろう。
 同年に発表された瀬名秀明の『パラサイト・イヴ』はノリ的にも近いものがあり、ホラーの大傑作として名が挙げられる貴志祐介の『天使の囀り』にもやや通じるところがある。

 

らせん - (角川ホラー文庫)

らせん - (角川ホラー文庫)

  • 作者:鈴木 光司
  • 発売日: 2000/04/06
  • メディア: 文庫
 

 

③  ループ(1998年)

 

科学者の父親と穏和な母親に育てられた医学生の馨にとって家族は何ものにも替えがたいものだった。しかし父親が新種のガンウィルスに侵され発病、馨の恋人も蔓延するウィルスに感染し今や世界は存亡の危機に立たされた。ウィルスはいったいどこからやって来たのか?あるプロジェクトとの関連を知った馨は一人アメリカの砂漠を疾走するが…。そこに手がかりとして残されたタカヤマとは?「リング」「らせん」で提示された謎と世界の仕組み、人間の存在に深く迫り、圧倒的共感を呼ぶシリーズ完結編。否応もなく魂を揺さぶられる鈴木文学の最高傑作。

 

 『リング』や『らせん』の世界観を木端微塵に吹き飛ばす、想像の斜め上を行く超傑作ハードSFである。
もはやホラー要素は皆無だが、我が生涯でも最高ランクの名作だと断言できる、限界突破しまくったハイパーな作品だ。

 何を書いてもネタバレになってしまいそうなので、書けることは限られてしまうが、要点を挙げるならば①超面白い、②超すごい、③超泣けるといったところだろうか。
想像がつかないだろうが、映画『マトリックス』とRPGファイナルファンタジーⅩ』を足したような衝撃的な世界観と超展開が待っている。

 正直このシリーズがこんな展開になるなど予想もつかなかったし、『リングシリーズ』で泣かされるとは夢にも思わなかった。
『らせん』以上に前作までの結末をひっくり返すことになるので、人を選びまくるかもしれないが、これほどの傑作には滅多にお目にかかれない。
超おすすめである。

 

ループ (角川ホラー文庫)

ループ (角川ホラー文庫)

  • 作者:鈴木 光司
  • 発売日: 2000/09/07
  • メディア: 文庫
 

 

④  バースデイ(1999年)

 

リングの事件発生からさかのぼること三十年あまり。小劇団・飛翔の新人女優として不思議な美しさを放つひとりの女がいた。山村貞子―。貞子を溺愛する劇団員の遠山は、彼女のこころを掴んだかにみえたが、そこには大きな落とし穴があった…リング事件ファイル0ともいうべき「レモンハート」、シリーズ中最も清楚な女性・高野舞の秘密を描いた「空に浮かぶ棺」、『ループ』以降の礼子の意外な姿を追う「ハッピー・バースデイ」。“誕生”をモチーフに三部作以上の恐怖と感動を凝縮した、シリーズを結ぶ完結編。

 

 『リング三部作』を補完し、『ループ』の後日譚となる完結編である。
無くてもいいという意見も見受けられるが、滂沱の涙を流すことになるであろう素晴らしい作品である。

『らせん』のサイドストーリーとなる「空に浮かぶ棺」と、劇団時代の貞子を描きつつも、リング&らせんともリンクする「レモンハート」、そしてそれら2作を内包して『ループ』の先の世界を描いた「ハッピー・バースデイ」で連作短編の形式となっている。

 映画『リング0 バースデイ』では貞子の悲しい生前の物語だったが、原作である「レモンハート」は、映画で儚いイメージを見せた貞子とは異なり、ミステリアスなキャリアウーマン(?)として描かれていて面白い。

 三部作で物語は完結していると言えるが、『ループ』が好きな方であれば絶対に読んでおくべき作品である。

 

バースデイ (角川ホラー文庫)

バースデイ (角川ホラー文庫)

  • 作者:鈴木 光司
  • 発売日: 2000/04/06
  • メディア: 文庫
 

 

⑤  エス(2012年)

 

映像制作会社に勤める安藤孝則は、ネット上で生中継されたある動画の解析を依頼される。それは、中年男の首吊り自殺の模様を収めた不気味な映像だった。孝則はその真偽を確かめるため分析を始めるが、やがて動画の中の男が、画面の中で少しずつ不気味に変化していることに気づく。同じ頃、恋人で高校教師の丸山茜は、孝則の家で何かに導かれるようにその動画を観てしまうのだった。今“リング”にまつわる新たな恐怖が始まる。

 

 まさかの『リングシリーズ』新章である。
物語的には『らせん』の未来の世界を描いた続編にあたる。

 リング三部作+バースデイで見事に完結していただけに、存在そのものが蛇足感にあふれているが、内容はそれなりに面白くファンであれば一気読みだろう。
反面、過去作を読まずに『エス』から読み始めると完全に置いてけぼりを喰らうことになるので注意である。

 エンタメとしては優秀だと思うのだが、感動的だった『バースデイ』の内容を完全にぶち壊してくれるという点と、終盤がいくら何でも適当に畳みかけ過ぎなのはいただけない。

 『ループ』『らせん』後のifの一つとして考えれば、魅力的ではあるのでシリーズファンならとりあえず読んでみるのも有りだろう。

 

エス (角川ホラー文庫)

エス (角川ホラー文庫)

  • 作者:鈴木 光司
  • 発売日: 2013/05/25
  • メディア: 文庫
 

 

⑥  タイド(2013年)

 

高山竜司、二見馨という二人の男の人生を生きた記憶を持つ、予備校講師の柏田誠二は疑問を抱えていた。おれは何のためにこの世界にいるのか…。謎の病に伏した少女を介し受け取った暗号に導かれ、伊豆大島に渡った柏田は、『リング』という本に記された竜司の行動を追うことで、山村貞子の怨念の起源を知る。自らの使命を自覚する柏田だったが、時を越え転生した貞子の呪いに身体を蝕まれ…。新「リング」シリーズ第2章!

 

 過去作品をぶち壊しながらシリーズを進めてこられた鈴木光司だが、『エス』の前日譚にあたる『タイド』はいくら何でもやり過ぎである。
ダメ。ゼッタイ。」という御法度をやらかしまくりなのだ。

 読書家を自称できる程度には多くの作品を読んできた私だが、これほどやらかした作品を読んだのは初である。黒歴史界の伝説として後世に語り継ぐべき内容と言っても良いのかもしれない。

 ギャグにしても笑えないし、役小角に関する蘊蓄や後付け設定の解説が多くエンタメ要素も低いというどうしようもない子なのだが、『エス』まで読まれた方には衝撃の後付け設定を味わってほしいと思う。

 いやはや何もかも完全にぶち壊して、貞子のキャラも怨念も「うっそーん」という残念なものにしてしまった著者には、いい意味でも悪い意味でも脱帽である。

 

タイド (角川ホラー文庫)

タイド (角川ホラー文庫)

  • 作者:鈴木 光司
  • 発売日: 2016/03/25
  • メディア: 文庫
 

 

まだ続編が続くだと...?

 『リングシリーズ』が三部作だったように、『新リングシリーズ』も三部作とのことで、続編となる『ユビキタス』が連載中である。

謎の古文書である「ヴォイニッチ手稿」がテーマとのことであり、なおかつ執筆にも時間がかけられていることから、ひょっとしたら『ループ』級の超傑作となるのかもしれない。

なんにせよ超展開を見せた旧シリーズという前例があり、また『タイド』で盛大にやらかした後に続く物語というのは、否応なしに好奇心を刺激させられまくる。

世界で活躍する貞子に興味がある方は、ぜひとも『リング』から始まる物語を楽しんでいただければと思う。

『酒気帯び車椅子』中島らも|脳内麻薬のビッグバン

皆殺し....!!

 

作品紹介

 中島らもによる『酒気帯び車椅子』は集英社から2004年に出版された作品である。
文庫版は344ページと読みやすい長さであり、序盤から中盤、そして終盤へとかなりハードコアな展開が待っている。

 らも作品の中でも最もエンターテイメントに特化した作品である分、著者の持ち味である抒情性が封印されているため評価が分かれているが、『ガダラの豚』や『こどもの一生』あたりが好きな方であれば確実に高評価になるだろう。

 『酒気帯び車椅子』は抒情性どころか知性的な部分もかなり抑えられていて、ただひたすらストーリーに重きを置いているような作品である。しかもこれが著者の遺作というのが著者の熱い遺志であるように思えてしまう。
とにかく頭をすっからかんにして楽しむべき物語である。

 

 以下、あらすじの引用

家族をこよなく愛する小泉は中堅の商社に勤める平凡なサラリーマン。彼は、土地売買の極秘巨大プロジェクトを立ち上げた。必死の思いで進めた仕事のメドがたったある日、計画を知るという謎の不動産屋から呼び出される。彼を待っていたのは暴力団だった。家族を狙うという脅しにも負けず敢然と立ち向かう小泉だったが…。容赦ない暴力とせつない愛が交差する中島らもの遺作バイオレンス小説。

 

酒気帯び車椅子 (集英社文庫)

酒気帯び車椅子 (集英社文庫)

  • 作者:中島 らも
  • 発売日: 2008/07/18
  • メディア: 文庫
 

 

(注意)こればっかりはどうしようもない

 ネタバレはしない方針なので極力内容には触れないようにしたいのだが、この物語は話が極めてシンプルなので、感想を書くこと自体がある程度ネタバレになってしまうということをまずは伝えておきたい。
何一つネタバレを喰らいたくない方はこの本は滅茶苦茶に面白いということは保証するので、ここから先は読まずに『酒気帯び車椅子』を楽しんでいただきたい。

 

のほほ~んとした序章

 『酒気帯び車椅子』はふざけたタイトルに反して、情け容赦ないほど過激な内容である。
序章は嵐の前の静けさと言わんばかりに、平凡なサラリーマン生活と飲み友達との日常、そして温かい家族生活が描かれる。

 あらすじの内容から先に待ち受ける地獄のような展開は想像できてしまうのかもしれないが、かなりのページにわたってユーモア溢れるのほほんとした話が続くため、「この幸せが壊れませんように」という祈りのような思いが、のほほんの中に不穏な緊張感を生み出している。

 著者はユーモラスで脱力した描写が巧いだけに、序盤のまったり感は読んでいるだけでへらへらしてしまうのだが、この温かいゆるさが中盤以降の激情を生み出すのだ。
完全に計算されているのだろう。

ドン引きレベルのえげつない行為

 幸せがぶち壊されるシーンははっきり言って超超超極悪非道だ。
私は映画にしても小説にしても過激な作品を好む傾向があり、残虐極まりない肉体破壊シーンをアホみたいに大量に見ているのだが、『酒気帯び車椅子』の胸糞度は最高ランクと言っても過言ではない。

 過激な肉体破壊系は限界値があるし、そっち系を見れば見るほど耐性がついてきてしまうという弱点がある。また視覚や聴覚を伴わない小説では相性が悪い。
しかし本作はそこそこの肉体破壊+強烈な精神ダメージ系である。
胸糞度に限界値がなく、著者の力量が試されるのだが天才中島らもは完璧である。

 必然性があり、なおかつ下品にならない範囲の肉体破壊と、怒りと憎しみを爆裂させる蛮行が描かれるため、作中の主人公と境遇が近い私はかなりの大ダメージを負った。

 しかし何といっても素晴らしいのは、悪ノリで残虐シーンを描いたのではなく(ちょっとは好きで書いたのかもしれないけど...)、後半のハイパーハイテンションを生み出すための起爆剤となっている点である。

 

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.....と叫びたくなること間違いなしである

 

絶望の中にも笑いとエロ有り

 すべてを失い失意のどん底に陥った主役のおっさんだが、ここで完璧な著者のセンスが発揮されている。
普通なら陰鬱なシーンになってしまうであろうシーンのはずだが、なぜかやたら笑えてしまうし、男の夢の中の夢である「ナースフ〇ラ」というアルティメットなエロシーンがある。

 笑わせたり泣かせたり怒らせたりと、読者の心をコントロールするのがどこまでもうまい作家だと思う。
ちなみに何かで読んだのだが、作家として難しいことは「驚かせる」≦「泣かせる」<「怖がらせる」<「笑わせる」らしい。
一番難しいとされる「笑い」をマスターしているのも、中島らもが天才と称される要素なのだと思う。

 

バカと友情

 外道たちを皆殺しにするための戦術を練ったり、修行をするのだがこれがまぁ面白い。
戦前最悪の大量殺人とされる『津山三十人殺し』を参考文献として名前を挙げるあたり、著者の知性を感じさせるしちょっと面白い。

 そして冗談と中二病で出来上がったようなジェノサイド車椅子がなんともかっこよくて笑えて最高なのだ。

 しかし何といっても見どころなのは、おバカな飲み友達の優しさと友情である。
きっと著者にはこんな友達がいたんだろうなぁと考えながら、ほほえましくなってしまった。

 

 

天誅

 外道どもを血祭りにあげるラストシーン。
ここでのテンションの上がり方は尋常ではなく、脳内麻薬はドバドバである。

 無駄が一切なく、淡々とぶっ殺しまくるのでかなりあっさりしているので物足りないという意見も散見されるが、本作の狙いは大量殺戮を面白おかしく書くことではないと思うので私はちょうど良いと思う。

 脳内麻薬が爆裂する小説は滅多に出会えないものだが、『酒気帯び車椅子』はレアな麻薬小説の中でも最強の1冊である。
酒を片手にニヤニヤしながら車椅子が突撃するシーンを思い浮かべて読むのが良いのだろう。

 

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「駆逐してやる…この世から一匹残らず」見事達成

 

酒気帯び車椅子 (集英社文庫)

酒気帯び車椅子 (集英社文庫)

  • 作者:中島 らも
  • 発売日: 2008/07/18
  • メディア: 文庫
 

 

中島らも|作品一覧とおすすめ小説ランキング10選 

 

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