神本を求めて

小説を読みまくって面白い本を見つけたら紹介するブログ

山白朝子=乙一別名義|作品紹介とおすすめランキング

謎の作家山白朝子

 その作風は乙一から「せつなさ」と「残酷さ」抽出して、そこに時代小説の要素を加えたものである.....というより、乙一から「恋愛」と「青春」、そして「ミステリ」要素を無くした作風といった方が分かりやすいかもしれない。
 

作品一覧

 長編小説はなく、短編集と和泉蝋庵シリーズの連作短編集が発表されている。
また異色の一人アンソロジーにも山白朝子名義の作品がある。

 あまり長編を書かない作家でシリーズ作品もほとんどないが、和泉蝋庵シリーズは今後も続いていくものと思われる。

 

 

作品紹介とランキング

 作品数が多くないので、各短編に簡単に触れたうえでランキングしてみたい。
なお和泉蝋庵シリーズは、旅をして本を書く旅本作家の和泉蝋庵とその付き人で荷物持ちの耳彦による旅物語である。
1作目で登場したキャラが2作目ではメインキャラに昇格しており、今後もシリーズが続く見込みである。

 

【ランク外】メアリー・スーを殺して(2016年)

 

奇想ホラーの名手・乙一を筆頭に、
感涙ラブコメ中田永一、異色ホラーの山白朝子、
そして'10年以降沈黙を守っていた越前魔太郎、と鬼才4名が揃い踏み、幻夢の世界を展開する。
そしてその4名を知る安達寛高氏が、それぞれの作品を解説。

 

異色の一人アンソロジー短編集で、山白朝子名義の作品は2作収録されている。
収録作には残念ながら山白朝子の魅力の一つである「時代小説」は含まれていないのだが、どちらの作品も読みやすく、山白朝子名義の特徴である「せつなさ」と「残酷さ」を非常に高いレベルで持ち合わせているため、ランク外にしたが山白朝子初読みに安心しておすすめできる。

 

「トランシーバー」

東日本大震災に関わる話で、全乙一作品の中でも最も泣けると思う。
特に子どもがいる父親が読んだら大号泣必至である。
私はちょうど作中の主人公と状況が近かったため、今までに読んだ小説の中で一番泣かされてしまった。

名義を問わず乙一作品には不思議なことがよく書かれるものだが、「トランシーバー」ではその要素がとても素晴らしい形で活かされている。

著者の最高傑作の一つに挙げても良い作品なので、本作を目的に『メアリー・スーを殺して』を購入しても後悔はしないだろう。
(ちなみに「トランシーバー」は後述する『私の頭が正常であったなら』にも収録されている。)


「ある印刷物の行方」

主人公の女性が謎の研究所で焼却炉に運ばれてくる正体不明の箱を焼却するというアルバイトをする話である。

簡単な仕事なのに給与は激高、なのに前任はやめてしまう、研究員は自殺が相次ぐといういかにもヤバそうなバイトで、研究内容や箱の中身に迫るというSFやホラー要素が強い内容だ。グロテスクな描写はかなり強烈。

SFにありがちな設定だが、タイトルのつけ方や著者ならではのせつなさ、話の落としどころなどとてもよくできている。

 

 

【ランク外】沈みかけの船より、愛をこめて(2022年)

 

破綻しかけた家庭の中で、親を選択することを強いられる子どもたちの受難と驚くべき結末を描いた表題作ほか、「時間跳躍機構」を用いて時間軸移動をくり返す驚愕の物語「地球に磔(はりつけ)にされた男」など全11編、奇想と叙情、バラエティーにあふれた「ひとり」アンソロジー

 

山白朝子名義の作品は20ページ程度の実話風ホラー「背景の人々」のみ。

そのため山白朝子のランキングに入れることはできないが、本短編集は乙一全体でみても最高ランクの傑作と言ってもよく、収録作の内「東京」「蟹喰丸」「沈みかけの船より、愛をこめて」は山白朝子の作風に近いため、十分に山白朝子を感じることができる.....って同一人物なんだからあたりまえか(笑)

「背景の人々」はまさに王道のJホラーで、11作品収録された本短編集の中でも一際異才を放っている。

 

 

5位  死者のための音楽(2007年)

 

教わってもいない経を唱え、行ったこともない土地を語る幼い息子。逃げ込んだ井戸の底で出会った美しい女。生き物を黄金に変えてしまう廃液をたれ流す工場。仏師に弟子入りした身元不明の少女。人々を食い荒らす巨大な鬼と、村に暮らす姉弟。父を亡くした少女と巨鳥の奇妙な生活。耳の悪い母が魅せられた、死の間際に聞こえてくる美しい音楽。人との絆を描いた、怪しくも切ない7篇を収録。怪談作家、山白朝子が描く愛の物語。

 

 時代小説風の話とほぼ乙一と変わらない作品が収録されている。
どれもなかなか良い作品だが、「井戸を下りる」と乙一度の高い「黄金工場」「鳥とファフロッキーズ現象について」が傑作。

 山白朝子=ホラー小説という印象を持たれるかもしれないが、さほどホラー要素は強くなく、乙一を含めた著者お得意の不思議な話が多い。

 

「長い旅のはじまり」
 時代小説風の不思議な話である。
いかにも乙一といったようなありえないことが起きているが、作風は乙一とは似て非なるものとなっている。


「井戸を下りる」
 こちらも時代小説風の不思議な話だが、ファンタジー要素が強くなっている。
井戸の中で美女とイチャイチャする話から予想外の展開が待っているので、短編でありながら、すごいものを読んだ感の残る読後感である。


「黄金工場」
 乙一の『ZOO』にあっても違和感のないような不気味な話である。
生き物を黄金に変えてしまう廃液をたれ流す工場.....という時点で勘のいい読者ならオチが読めるかもしれないが、想像するとおぞましい作品である。


「未完の像」
 時代小説×ややラノベっぽい話。
僅かではあるが絶妙な萌えが良いと思う。


鬼物語
 時代小説風で最もホラー要素が強い話である。
鬼が人を襲う話なので残虐な描写が多いが、最後のシーンは美しい。


「鳥とファフロッキーズ現象について」
 山白朝子というよりはほぼ乙一作品と言えそうな話で、助けた黒い鳥が主人公である少女の父が亡くなった後、主人公を守るような話である。
 ちなみにタイトルにあるファフロッキーズ現象とは以下の通りである。

 

ファフロツキーズとは、その場にあるはずのないものが無数に降り注ぐ現象を指す用語である。飛行機からの散布や竜巻による飛来など原因が判明しているものを除き、「なぜ降ってきたのか分からない」ものを指す。


 語義からすれば単体でもファフロツキーズと呼べるはずだが、通常「多数が落下してくる」現象として認識されている。落下物に明確な共通性はなく、様々な事例が記録されているが、どういうわけか水棲生物の落下事例が目立ち、また混在ではなく単一種のみであることが多い。このような現象は古来から世界各地で確認されている。』


「死者のための音楽」
 正直よく分からん....(笑)
.....が、著者ならではの感性が存分に発揮されているといったところか。

 

 

4位  私のサイクロプス(2016年)

 

書物問屋で働く輪は、旅本作家・和泉蝋庵と彼の荷物持ち・耳彦と未踏の温泉地を求める旅に出ては、蝋庵のひどい迷い癖のせいで行く先々で怪異に遭遇していた。ある日山道で2人とはぐれてしまった輪は、足をすべらせて意識をうしなう。眠りからさめると、背丈が輪の3倍以上あるおおきな男が顔をのぞきこんでいた。心優しき異形の巨人と少女の交流を描いた表題作を含む9篇を収録した、かなしくておぞましい傑作怪異譚。

 

 和泉蝋庵シリーズの2作目である。
1作目の『エムブリヲ奇譚』に登場した輪という女性がメインキャラに加わっているので、キャラ推しの作品としては前作よりもはるかに完成度が高い。

 時系列的に前作と必ずしも繋がっていないため、どちらを先に読んでもさほど問題はないが、和泉蝋庵の出生の秘密の一部と輪の置かれている状況を知っておきたいなら前作から読んだ方がいい。

 なお残虐描写やグロテスクな描写がやや悲惨なので苦手な方は要注意である。
耳彦の残念ぶりが上がっており、また彼が痛い目に遭う話が多い。

 

「私のサイクロプス

 もののけ姫.....とは無関係で輪が主役の母と子の愛を描いたようなせつない話である。
山白朝子っぽい作品を一作挙げろと言われたならこの話を挙げるだろう。


「ハユタラスの翡翠

 耳彦の残念さが全開な作品。
おバカをみんなで力を合わせて救おうとするものの怪異が強烈でどうなるやら....ユーモアとエンタメが強まっており、このシリーズの方針が見えてくる楽しい話である。


「四角い頭蓋骨と子どもたち」

 やや悲惨な話で、ある村を訪れた時に四角い頭蓋骨が見つかり、そのことについて偶然村で出会ったお坊さんに話を聞いて、村で起こった事件の真相が見えてくる話である。


「鼻削ぎ寺」

 語り手の耳彦が悲惨な目に遭う話である。
殺人鬼に監禁され、そこから何とか脱走を試みるのだが、とにかく悲惨なのがポイント。


「河童の里」

 これまたグロくて凄惨な話である。
河童の里でおバカな耳彦がその正体を見に行ったら、口封じされそうになるのだが相変わらず耳彦は残念だ....(笑)


「死の山」

 山で遭遇する怪異に反応すると、下山できなくなるというありがちなホラーだが、ちょっとした仕掛けがあり驚かされることになるだろう。


「呵々の夜」

 何気に一番怖い話かもしれない。
耳彦がある家族の家に泊まらせてもらうことになり、その家族から一人ずつ怪談を話すから誰が一番怖いか判定して、という話なのだがみんなクッソヤバいことを言ってまして.....。


「水汲み木箱の行方」

 グロくてせつなくていい話である。
かなり不気味な話だが、山白朝子の良いところを漏らさずに詰め込んだような作品だ。
話はずばりタイトルの通り....水汲みの仕掛けは読んでみてのお楽しみだ。


「星と熊の悲劇」

 和泉蝋庵の出生に関わる要素のある話で、斜面を登ったら最後、下ろうとしてもいつの間にか上ってしまい下山できなくなるという山の話である。
耳彦のダメ人間ぶりが際立つが、せつない結末が待っている。
シリーズの継続を確信させる幕切れである。

 

 

⇩ちなみに単行本の装丁が非常に素晴らしいので単行本の方がおすすめ。

 

3位  エムブリヲ奇譚(2012年)

 

「わすれたほうがいいことも、この世には、あるのだ」無名の温泉地を求める旅本作家の和泉蝋庵。荷物持ちとして旅に同行する耳彦は、蝋庵の悪癖ともいえる迷い癖のせいで常に災厄に見舞われている。幾度も輪廻を巡る少女や、湯煙のむこうに佇む死に別れた幼馴染み。そして“エムブリヲ”と呼ばれる哀しき胎児。出会いと別れを繰り返し、辿りついた先にあるものは、極楽かこの世の地獄か。哀しくも切ない道中記、ここに開幕。

 

 和泉蝋庵シリーズの1作目である。
キャラものの作品としては2作目の方が優れているが、こちらの方が個々の話のクオリティはやや高いと思われる。

 特に「エムブリヲ奇譚」と「ラピスラズリ幻想」、「湯煙事変」はかなりの傑作である。

 

「エムブリヲ奇譚」

 エムブリヲとはずばり....というか英語の「embryo」そのままなのかもしれないが、胎児を意味している。
不思議で不気味な話なのだが、最後はほっこりするという大傑作である。


ラピスラズリ幻想」

 シリーズ2作目でメインキャラになる輪の話である。
これは山白朝子だけでなく乙一名義を含めても最高クラスの傑作である。
輪廻転生に関わる物語で、短編ではあるが壮大な読後感が待っている。


「湯煙事変」

 せつなくて怖くていい話である。これもまた山白朝子の本領発揮作だろう。
とある温泉にて語り手耳彦が死者に逢い、せつなくて悲しい結末に向かっていく。
雰囲気をはじめ何から何まで素晴らしい。


「〆」

 怪奇幻想度が高くて不気味な話である。
ある村ではあらゆるものに人の顔が浮かぶという想像するだけでイヤな話であり、作中では浮かぶ顔とは別にイヤな描写がある。


「あるはずのない橋」

 これぞ怪談というほどオーソドックスな怪談である。
せつない話で終わるかと思いきや恐ろしいことになる.....。


「顔無し峠」

 不思議な良い話である。
ある村を訪れると、村人たちから少し前に死んだはずの男と耳彦が瓜二つだと言われ、死んだ男の妻としばらく暮らすというなんともせつない話である。


「地獄」

 本当に地獄のような話である。
耳彦が山賊の罠にかかり、拘束され続けていくうちに拘束されている理由に気付いていく過程がおぞましい。
 結末も悲惨そのもので無理な人は本当に無理だと思われる。


「櫛を拾ってはならぬ」

 The 怪談である。
山白朝子はホラー作品であっても、せつなさを感じさせたりするものだが、この作品だけは完全にホラーに特化している。
微妙にユーモア要素があるのがポイント。


「「さあ、行こう」と少年が言った」

 和泉蝋庵の出生に関わる話であり、蝋庵がいつも道に迷いまくる理由が分かる。
まさに「さあ、行こう」と少年が言う話である。

 

⇩やはりこちらも単行本の装丁が素晴らしいので単行本推奨。

 

2位  小説家と夜の境界(2023年)

 

幸福な作家など存在しない――山白朝子による業界密告小説。私の職業は小説家である。ベストセラーとは無縁だが、一応、生活はできている。そして出版業界に長年関わっていると、様々な小説家に出会う。そして彼らは、奇人変人であることが多く、またトラブルに巻き込まれる者も多い。そして私は幸福な作家というものにも出会ったことがない──。そんな「私」が告発する、世にも不思議な小説家の世界。

 

実話っぽいホラー×サスペンス寄りな7編が収録された小説家小説。

山白朝子に幻想小説を求めるのだとしたら少々肩透かしを食らうかもしれないが、オチがまったく読めない展開の作品群は一度読み始めたら止まらなくなる要素が強い。

乙一はもちろん他の山白朝子名義作品とも雰囲気が違っているので、やや好みは分かれるかもしれないが、エンターテイメント作品としてとても優れている。

 

 

1位  私の頭が正常であったなら(2018年)

 

 私の哀しみはどこへゆけばいいのだろう――切なさの名手が紡ぐ喪失の物語。

突然幽霊が見えるようになり日常を失った夫婦。首を失いながらも生き続ける奇妙な鶏。記憶を失くすことで未来予知をするカップル。書きたいものを失くしてしまった小説家。娘に対する愛情を失った母親。家族との思い出を失うことを恐れる男。元夫によって目の前で愛娘を亡くした女。そして、事故で自らの命を失ってしまった少女。わたしたちの人生は、常に何かを失い、その哀しみをかかえたまま続いていく。暗闇のなかにそっと灯りがともるような、おそろしくもうつくしい八つの“喪失”の物語。

 

 乙一名義の作品を含めたとしても最高傑作クラスの非常に素晴らしい短編集である。
あらすじにある通り、”喪失”の物語であり乙一名義の過去の大傑作『失はれる物語』を想起させる内容である。

 『失はれる物語』がどちらかというと若い世代に刺さる物語だとすれば、こちらは既婚であったり子どもがいる層により響く物語である。

 

「世界で一番、みじかい小説」

家内と暮らすマンションで先日から“3人目”の人影を見るようになった〈僕〉。疲れているのだろうか。あるいは心の病気か。家内に相談すると、彼女からは「私も見る」とじつに冷静に返事が返ってきた。心霊現象の再発防止のため、2人はデータ収集や実験を重ねながら幽霊の正体を探ることに――。

 

 なんとも不気味な怪談じみていて、夫婦そろって同じ幽霊が見えるという話である。
怪異を超理系な妻が分析していくのがかなり笑える。
「まずは彼の出現パターンをしらべてみましょう。心霊現象の再発防止に取り組んでみるから」などというセリフが出るのだからたまらないのだ。

 そして特殊設定ミステリのように話が進み論理的に心霊現象を解明するという結末が面白い。


「首なし鶏、夜をゆく」

転入したてでクラスになじむことができずにいた〈僕〉は、あるとき、雑木林の中で同じくクラスで孤立している女の子・水野風子を見かける。彼女は「京太郎」を探しているらしい。そのとき突然、足元で音がしたかと思うと、そこには首から上の一切がない奇妙な鶏があらわれて――。

 

 首を切断された鶏が生きているという不気味で残酷で悲しい話である。
無残な事件が起こった後のラストシーンがなんともまた不気味である。


「酩酊SF」

小説家の〈私〉の元に大学時代の後輩Nから「相談したいことがあるんです」と連絡が届く。話を聞くと、どうやら彼は〈酒を飲んで酩酊すると、酩酊が終わるまでの範囲で過去や未来が見えてしまう女〉というアイディアで主人公が金儲けをする物語を書きたい、ということらしいが――。

 

 よくありがちな設定に著者ならではの少し凝ったオチを付けたという話である。
乙一は昔から自然にサイコパスを書くから恐ろしい。


「布団の中の宇宙」

長いあいだスランプに陥っていた小説家仲間のTさんが、ある日、とある文芸誌に新作の短編小説を発表した。もうこのまま出版界から消えてしまうかもしれないと危惧されていたTさんの変わらない筆致に興奮した〈私〉は彼に連絡をとり、後日会うことになるのだが、そこで彼から不思議な布団の話を聞く――。

 

 割と正統派な怪奇幻想小説である。
スランプに陥った作家が謎の布団を得てからの流れが面白い。


「子どもを沈める」

高校時代よく行動を共にしていたクラスメイトたちが、ことごとく自分の子どもを殺している。結婚した〈私〉の元にそのうちの1人から送られてきた手紙には、娘が、かつて自分たちが自殺へ追いこんでしまった少女に異様に似ていたという奇妙な話が綴られていた。〈私〉が子どもを産んで自分と同じ目にあわないかと彼女は危惧したのかもしれない。しかし〈私〉のおなかにはすでに――。

 

 タイトルからして強烈な実に恐ろしい話である。
実際に作中のような出来事があったならどうなるのだろうか....これは子どもがいる親にしか分からないのかもしれないが、この話の辿り着くところは親である著者の見解なのだと思う。


「トランシーバー」

津波で最愛の妻と息子を失った〈俺〉は、震災から2年が経った頃、酩酊していた最中にザーという音を耳にする。半壊した自宅から回収した、かつて息子と一緒に遊んだおもちゃのトランシーバー。突如電源が入ったそれをながめて酒を飲んでいると、ねむりにつく直前、ノイズのむこうに息子の声が聞こえてきて――。

 

メアリー・スーを殺して』に収録されていた作品と同作である。超傑作。


「私の頭が正常であったなら」

逆上した元夫に、目の前で娘を道連れに道路で自殺された〈私〉。三年間の入退院の末、抗精神病薬を服用しながら実家で療養していたある日、〈私〉は川のほとりを散歩している途中でかすれたような女の子の声を聞く。「たすけて」幻聴であるならば問題はない。けれど、もし私の頭が正常であったなら――。

 

 タイトルからしてセンスの塊である素晴らしい作品である。
悲惨な鬱展開から、幻聴に対して「私の頭が正常であったなら」と分析して行動するさまに愛を感じる。


「おやすみなさい子どもたち」

沈没する船の上、足をすべらせ海に投げだされた少女・アナは水中で意識を手放す刹那、これまでの人生の断片的な映像を見る。幼い頃の光景、両親との思い出、恋人とのキス…恋人?恋人なんていなかったのに?気がつくとそこは天界の映画館だった。どうやら天使の手違いで他人の“走馬灯”を観せられたらしい。アナは未だ船上で恐怖におびえている子どもたちを救うことを交換条件に、自分の“走馬灯”を探す手伝いをすることになるが――。

 

 タイタニック号の沈没をイメージしたのだろうか、非常にスケールの大きい物語である。本短編集のラストにふさわしいだろう。
他の泣ける話とは異なり、読者である私自身もスケールの大きい感情の波が押し寄せることになった。

 

 

今後の活躍が期待される

乙一は作家歴が長いが、なんと言ってもデビューが早いのでまだまだこれからだろう。
和泉蝋庵シリーズの続編や、素晴らしい作品を期待したい。
 

井上夢人|作品一覧とおすすめランキング10選

ジャンルにとらわれない夢物語

 張られた伏線は必ずしもすべて回収されるとは限らないため、独特の夢のような余韻に浸れる作品が多い。
そして何と言っても岡嶋時代からの圧倒的なリーダビリティは健在どころかさらにパワーアップしており、魅力的な謎と読みやすさにより徹夜本が多いという危険な特徴がある。

作品一覧

 井上作品の特徴は寡作だがどの作品もクオリティが高いシリーズ作品がない徹夜本のオンパレードというのがある。したがってどの作品から読んでも問題はない。

 

  1. ダレカガナカニイル…(1992年)
  2. あくむ|短編集(1993年)
    ホワイトノイズ / ブラックライト / ブルーブラッド
    ゴールデンケージ / インビジブルドリーム
  3. プラスティック(1994年)
  4. パワー・オフ(1996年)
  5. もつれっぱなし|短編集(1996年)
    宇宙人の証明 / 四十四年目の証明 / 呪いの証明
    狼男の証明 / 幽霊の証明 / 嘘の証明
  6. メドゥサ、鏡をごらん(1997年)
  7. 風が吹いたら桶屋がもうかる|連作短編集(1997年)
    風が吹いたらほこりが舞って / 目の見えぬ人ばかりふえたなら
    あんま志願が数千人 / 品切れ三味線増産体制
    哀れな猫の大量虐殺 / ふえたネズミは風呂桶かじり
    とどのつまりは桶屋がもうかる
  8. オルファクトグラム(2000年)
  9. クリスマスの4人(2001年)
  10. the TEAM|連作短編集(2006年)
  11. あわせ鏡に飛び込んで|短編集(2008年)
    あなたをはなさない / ノックを待ちながら
    サンセット通りの天使 / 空部屋あります / 千載一遇
    私は死なない / ジェイとアイとJI / あわせ鏡に飛び込んで
    さよならの転送 / 書かれなかった手紙
  12. 魔法使いの弟子たち(2010年)
  13. ラバー・ソウル(2012年)
  14. the SIX|連作短編集(2015年)
    あした絵 / 鬼の声 / 空気剃刀
    虫あそび / 魔王の手 / 聖なる子 

 

 

作品ランキング

 ジャンルを意識させない作風だけに、読者によってかなり好みは異なってくると思われる。本格ミステリ寄りの作品が好きであれば『the TEAM』や『ラバー・ソウル』を推すのだろうが、私はSFやファンタジー、オカルトが好きなIT企業の会社員なのでそういった要素の強い作品を高く評価するようにしたい。

 

10位  the TEAM(2006年)

 

悩みを解決していたのは、霊視ではなく…!?
人気〈霊導師〉の能城あや子。実は、スタッフが収集する情報で、霊視しているかのように装っているのだ。彼女の正体を暴こうと、週刊誌の記者が調査に乗り出すが…。痛快連作集!

 

 本格ミステリ寄りの作品であるため、岡嶋二人ファンであればまず間違いなく高評価するであろう作品。
流麗な筆致による読みやすさと計算された面白さ、ミステリーとしての完成度を兼ね備えたとてもよくできた作品である。
 機械やIT技術とオカルトといった著者の得意分野が存分に発揮されているのと、連作短編形式で読みやすいということもあり、井上作品初読みの方にもおすすめである。

the TEAM ザ・チーム (集英社文庫)

the TEAM ザ・チーム (集英社文庫)

  • 作者:井上 夢人
  • 発売日: 2009/01/20
  • メディア: 文庫
 

 

9位  あわせ鏡に飛び込んで(2008年)

 

 幻の名作「あわせ鏡に飛び込んで」をはじめ、瞬間接着剤で男をつなぎとめようとする女が出てくる「あなたをはなさない」、全篇、悩み相談の手紙だけで構成されたクライムミステリー「書かれなかった手紙」など、選りすぐりの10篇を収録。精緻に仕掛けられた“おとしあな”の恐怖と快感。

 

 異常にクオリティの高いバラエティ豊かな短編集である。
この1冊だけで井上作品の魅力は概ね味わうことができるため、短編から入りたいならとてもおすすめな作品だ。

 全10作と作品数が多いのだが、どの作品もタイプがバラバラでいずれも井上作品独特の読後感を10連発で味わうことができる。

 

あわせ鏡に飛び込んで (講談社文庫)

あわせ鏡に飛び込んで (講談社文庫)

  • 作者:井上 夢人
  • 発売日: 2008/10/15
  • メディア: 文庫
 

 

8位  ラバー・ソウル(2012年)

 

 幼い頃から友だちがいたことはなかった。両親からも顔をそむけられていた。36年間女性にも無縁だった。何度も自殺を試みた―そんな鈴木誠と社会の唯一の繋がりは、洋楽専門誌でのマニアをも唸らせるビートルズ評論だった。その撮影で、鈴木は美しきモデル、美縞絵里と出会う。心が震える、衝撃のサスペンス。

 

 本格ミステリファンであれば最高傑作に挙げるであろう、凝りに凝った仕掛けとビートルズ愛が詰まった傑作。

ひたすらストーカーの気持ち悪い描写が続くのだが、真相が判明した時の驚きは何とも言えないものがある。

完成度の高いミステリー作品は、真相を把握したうえで伏線を回収しながら再読するという楽しみ方があるが、すべてを知ったうえで読む『ラバー・ソウル』は伏線回収など生温い、別次元に生まれ変わった物語と精密な仕掛けの妙技を堪能することができる。

ラバー・ソウル (講談社文庫)

ラバー・ソウル (講談社文庫)

  • 作者:井上 夢人
  • 発売日: 2014/06/13
  • メディア: 文庫
 

 

7位  魔法使いの弟子たち(2010年)

 

 山梨県内で発生した致死率百パーセント近い新興感染症。生還者のウィルスから有効なワクチンが作られ拡大を防ぐが、発生当初の“竜脳炎”感染者で意識が戻ったのは、三名だけだった。その中の一人で、週刊誌記者として取材にきて感染した仲屋京介は、二人の生還者とともに病院内での隔離生活を続ける。やがて彼ら三名は、「後遺症」として不思議な能力を身につけていることに気づき始める。壮大なる井上ワールド、驚愕の終末―。

 

 ジャンルにとらわれない井上作品は、物語がどのように進んでどのように収束するのかがまったく読めずにひたすら振り回されるという楽しみ方があるのだが、『魔法使いの弟子たち』は最もそのパターンが強く表れていて、予測不能な展開を思う存分体感させられることになる。

 超強力なウイルスが登場したと思ったら、生存者に謎の後遺症が現れ.....うん、まったく先が読めません。

 

魔法使いの弟子たち (上) (講談社文庫)

魔法使いの弟子たち (上) (講談社文庫)

  • 作者:井上 夢人
  • 発売日: 2013/04/12
  • メディア: 文庫
 
魔法使いの弟子たち (下) (講談社文庫)

魔法使いの弟子たち (下) (講談社文庫)

  • 作者:井上 夢人
  • 発売日: 2013/04/12
  • メディア: 文庫
 

 

6位  クリスマスの4人(2001年)

 

 1970年、ビートルズが死んだ年の聖夜、物語は始まった。その夜を共に過ごした二十歳を迎える四人の男女。ドライブ中の車の前に突然、飛び出してきたオーバーコートの男。彼らは重大な秘密を共有する羽目になった。その後、十年毎に彼らを脅かす不可解な謎と、不気味に姿を現す男。2000年、時空を超えた結末は、破滅か、奇跡か!?奇想あふれる傑作長編小説。

 

 井上夢人的な要素をこれでもかというくらい凝縮した最強の一気読み小説である。

 リア充全開なイチャイチャから一転、謎の人物を轢き殺してしまい、不可解極まりない謎に巻き込まれていく様は最高に面白い。

10年ごとのクリスマスに4人が再開し、事故の話を語り合うというシチュエーションが妙に味わい深い。

 

クリスマスの4人 (光文社文庫)

クリスマスの4人 (光文社文庫)

  • 作者:井上 夢人
  • 発売日: 2004/12/10
  • メディア: 文庫
 

 

5位  オルファクトグラム(2000年)

 

姉を殺害した犯人に、事件現場で襲撃された片桐稔は、その後遺症から通常の“匂い”を失い、イヌ並みの嗅覚をもつことに…。まったく違う世界に戸惑いながらも、失踪したバンド仲間を、嗅覚を頼りに捜し求めてゆく。新たな能力を駆使することで、姉の仇を討てるのか?新感覚の大長編異次元ミステリー。

 

 井上夢人にしか書けないであろう唯一無二な内容で、他の作家にはまず書くことができない”嗅覚”小説である。

 殺人事件の真相を特殊な嗅覚を用いて追うミステリーというよりは、嗅覚が視覚に取って代わった世界を見事に描いたファンタジーのような作品である。
匂いが見えるという感覚によって描かれる世界感はすごいとしか言いようがない。

膨大なページ数だが、圧倒的な読みやすさが時間を忘れさせ睡眠時間をゴリゴリ削る極めて危険な徹夜本である。

 

オルファクトグラム(上) (講談社文庫)

オルファクトグラム(上) (講談社文庫)

  • 作者:井上 夢人
  • 発売日: 2005/02/15
  • メディア: 文庫
 
オルファクトグラム(下) (講談社文庫)

オルファクトグラム(下) (講談社文庫)

  • 作者:井上 夢人
  • 発売日: 2005/02/15
  • メディア: 文庫
 

 

4位  ダレカガナカニイル…(1992年)

 

 警備員の西岡は、新興宗教団体を過激な反対運動から護る仕事に就いた。だが着任当夜、監視カメラの目の前で道場が出火、教祖が死を遂げる。それ以来、彼の頭で他人の声がしはじめた。“ここはどこ?あなたはだれ?”と訴える声の正体は何なのか?ミステリー、SF、恋愛小説、すべてを融合した奇跡的傑作。

 

 オカルト全開なソロデビュー作品で、様々な要素が混ざり合った内容である。

『ダレカガナカニイル...』のすごいところは、あまり良い話ではないのかもしれないが、当時世間を賑わせたオウム真理教が事件を起こす前に、オウムに酷似した新興宗教が登場することである。

密教やヨガ、催眠術などについてこれ以上ないほど豊富な知識が得られる小説でもある。オカルトマニアや超常現象を前提としたミステリーが好きな方は必読である。

 

ダレカガナカニイル… (講談社文庫)

ダレカガナカニイル… (講談社文庫)

  • 作者:井上 夢人
  • 発売日: 2004/02/13
  • メディア: 文庫
 

 

3位  メドゥサ、鏡をごらん(1997年)

 

 作家・藤井陽造は、コンクリートを満たした木枠の中に全身を塗り固めて絶命していた。傍らには自筆で〈メドゥサを見た〉と記したメモが遺されており、娘とその婚約者は、異様な死の謎を解くため、藤井が死ぬ直前に書いていた原稿を探し始める。だが、何かがおかしい。次第に高まる恐怖。そして連鎖する怪死! 身の毛もよだつ、恐怖の連鎖が始まる。

 

 徹夜本となる要素が詰まりに詰まった、睡眠時間キラー小説である。 

ジャンルを書くこと自体がネタバレにつながるような内容であり、ミステリーなのかホラーなのか分からない展開がひたすら続く。

魅力的で不可解な謎、圧倒的に読みやすい文章、そこそこのボリュームと読み始めたその時から先が気になりまくること必至である。

 

メドゥサ、鏡をごらん (講談社文庫)

メドゥサ、鏡をごらん (講談社文庫)

 

 

2位  パワー・オフ(1996年)

 

 高校の実習の授業中、コンピュータ制御されたドリルの刃が生徒の掌を貫いた。モニター画面には、「おきのどくさま…」というメッセージが表示されていた。次々と事件を起こすこの新型ウィルスをめぐって、プログラマ、人工生命研究者、パソコン通信の事務局スタッフなど、さまざまな人びとが動き始める。進化する人工生命をめぐる「今」を描く。

 

 著者が得意としているIT分野の知識が本領発揮された超傑作SFである。

1996年に書かれた作品ということが信じられないくらい、コンピュータウイルスやネットワーク、セキュリティについて詳細に描かれている。
しかもAI(人口知性)ではなく、生物学や進化論に基づくAL(人工生命)という独自の発想がなされているため、時が経っても廃れない普遍的な作品となっている。

 読者にそれなりのITリテラシーがなければ、いかに『パワー・オフ』がすごいのかを理解できないかもしれないが、仮にITの知識が乏しくても楽しむことができるし、なにより今読んでも勉強になるという全人類必読の1冊である。

 

パワー・オフ (集英社文庫)

パワー・オフ (集英社文庫)

  • 作者:井上 夢人
  • 発売日: 1999/07/16
  • メディア: 文庫
 

 

1位  プラスティック(1994年)

 

 54個の文書ファイルが収められたフロッピイがある。冒頭の文書に記録されていたのは、出張中の夫の帰りを待つ間に奇妙な出来事に遭遇した主婦・向井洵子が書きこんだ日記だった。その日記こそが、アイデンティティーをきしませ崩壊させる導火線となる! 謎が謎を呼ぶ深遠な井上ワールドの傑作ミステリー。

 

 徹夜兵器となりうる井上夢人の最終到達点といえる超絶ミステリー。

不可解な謎がさらなる謎を呼び続ける強烈な展開に夢中になることは確実であり、しかも途中で真相が分かってしまったとしても、『プラスティック』に仕掛けられた真打となる渾身の一撃に驚嘆させられることだろう。

言うまでもなく、読み始めたら最後読み終わるまで何も手につかなくなるほどの凄まじい一気読み作品である。

 

プラスティック (講談社文庫)

プラスティック (講談社文庫)

 

 

番外編  風が吹いたら桶屋がもうかる(1997年)

 

 牛丼屋でアルバイトをするシュンペイにはフリーターのヨーノスケと、パチプロ並の腕を持つイッカクという同居人がいる。ヨーノスケはまだ開発途上だが超能力者である。その噂を聞きつけ、なぜか美女たちが次々と事件解決の相談に訪れる。ミステリ小説ファンのイッカクの論理的な推理をしり目に、ヨーノスケの能力は、鮮やかにしかも意外な真相を導き出す。

 

 ユーモア全開な作品だが、内容的には井上作品の中でも最も本格推理小説に近い内容となっている.....のかどうかは読んでみてのお楽しみ(笑)

 すべてがコントのようなワンパターンというなかなか尖った連作短編で、役に立たないけどすごい超能力と、当たるとは限らないけど極めて論理的な推理が導く論理的帰結は毎回空気が抜けてしまったような笑いをもたらす。

 

風が吹いたら桶屋がもうかる (集英社文庫)

風が吹いたら桶屋がもうかる (集英社文庫)

  • 作者:井上 夢人
  • 発売日: 2000/07/19
  • メディア: 文庫
 

 

 

もっと崇め奉られるべき

子どもにおすすめの小説|子どもを読書好きにする方法

子どもが読書をするメリット

細かいことを考えれば無限にメリットは出てきそうだが、シンプルに挙げるなら以下の通りになると考えている。
 
  1. IQが上がる
    これこそ最大のメリットである。
    IQを挙げるとされる行動の中でも、読書は最も優秀な行動の一つである。
    活字からその世界を創造し、泣いたり笑ったりするのは人間にしかできないことだからだ。

  2. 経済的に助かる
    新刊の単行本を買いまくれば話は別だが、図書館や青空文庫を利用すればただで済むというのは、親からすればありがたい。
 

なぜ読書嫌いになるのか

 この理由は断定できる。面白い本に出会う前につまらない本を読んでしまうことで、”読書=つまらない”という方程式が完成してしまうためである。

 続いてなぜ面白い本に出会わないかということついて説明したい。答えは単純でずばり保護者である親が本を読まないからである。

親は子どもが本を読むことは良いことだと考えているにもかかわらず、親自身が本を読まないせいで何を子どもに勧めればいいのか見当もつかない。

したがってお役所が選んだような推薦図書を勧めてしまうのである。
当然ながらそのような本はお堅くてつまらないので、読書嫌いの子どもがまた量産されるのである。

 

どうすれば読書好きになるのか

 親が読書好きであること以外に方法はない。

子どもがいる方なら言うまでもなく分かっているだろうが、子どもは勘弁してほしいくらい親の真似をする。

どんなに親が「本は良いから読め」といったところで、子どもは絶対に読まないだろう。というか子どもは命令するとますますやらなくなる。

親が面白そうに本を読んでいる姿を子どもの目に焼き付ければいいのである。

何も言う必要はないだろうが、なんなら子どもに「〇〇にはまだ早いかもしれないからゲームでもしてなさい」とでも言ってみよう。

子どもは親に内緒でこっそり本を読むようになるだろう。

 

読書をしない保護者へのおすすめ本

 子どもを本好きにしたいのなら、保護者である親が本好きになるしか方法はない。

しかしこの記事を読んでいただいている方は、どんな本を読めばいいのか分からないこという人もいるのかもしれない。

 そこで私が保護者におすすめな本を紹介したい。
選別する基準は面白いこと読みやすいことだけである。読書を通じて何かを学ぶなどというのは、読書好きが自動的に享受する恩恵であって、学びを目的に読書を試みたところで残念な結果が待っている。

 

1. 秘密 / 東野圭吾(1998年)

 

運命は、愛する人を二度奪っていく。
自動車部品メーカーで働く39歳の杉田平介は妻・直子と小学5年生の娘・藻奈美と暮らしていた。長野の実家に行く妻と娘を乗せたスキーバスが崖から転落してしまう。 妻の葬儀の夜、意識を取り戻した娘の体に宿っていたのは、死んだはずの妻だった。 その日から杉田家の切なく奇妙な“秘密"の生活が始まった。 外見は小学生ながら今までどおり家事をこなす妻は、やがて藻奈美の代わりに 新しい人生を送りたいと決意し、私立中学を受験、その後は医学部を目指して共学の高校を受験する。年頃になった彼女の周囲には男性の影がちらつき、 平介は妻であって娘でもある彼女への関係に苦しむようになる。

 

 日本で一番売れている作家の売れまくっている作品であり、日本推理作家協会賞というその年で一番優れたミステリに贈られる歴史ある賞も受賞したすごい本である。

とりあえずめちゃくちゃ面白いのは保証するとして、子どものいる親にとって心を揺さぶりまくる内容になっている。

 

秘密 (文春文庫)

秘密 (文春文庫)

 

 

2. 夜のピクニック / 恩田陸(2004年)

 

高校生活最後を飾るイベント「歩行祭」。それは全校生徒が夜を徹して80キロ歩き通すという、北高の伝統行事だった。甲田貴子は密かな誓いを胸に抱いて、歩行祭にのぞんだ。三年間、誰にも言えなかった秘密を清算するために――。学校生活の思い出や卒業後の夢など語らいつつ、親友たちと歩きながらも、貴子だけは、小さな賭けに胸を焦がしていた。本屋大賞を受賞した永遠の青春小説。

 

 本屋大賞という面白い本であることを保証してくれる素晴らしい賞で大賞を受賞した作品である。もちろん面白いし、なによりすごい読みやすい。

どちらかというと若者向けの内容かと思いきや、大人が読んで学生時代の思い出に浸るという楽しみ方もできる傑作である。

 

夜のピクニック (新潮文庫)

夜のピクニック (新潮文庫)

  • 作者:陸, 恩田
  • 発売日: 2006/09/07
  • メディア: 文庫
 

 

3. イニシエーション・ラブ / 乾くるみ(2004年)

 

僕がマユに出会ったのは、代打で呼ばれた合コンの席。やがて僕らは恋に落ちて…。甘美で、ときにほろ苦い青春のひとときを瑞々しい筆致で描いた青春小説―と思いきや、最後から二行目(絶対に先に読まないで!)で、本書は全く違った物語に変貌する。「必ず二回読みたくなる」と絶賛された傑作ミステリー。

 

 小説には小説でしか味わえない楽しみというものがある。

その楽しみが読みやすい恋愛小説として体感できるのが『イニシエーション・ラブ』である。

「えッ......!?」という感覚を味わってみてほしい。

 

イニシエーション・ラブ (文春文庫)

イニシエーション・ラブ (文春文庫)

 

 

4. コンビニ人間 / 村田沙耶香(2016年)

 

「普通」とは何か?
現代の実存を軽やかに問う第155回芥川賞受賞作
36歳未婚、彼氏なし。コンビニのバイト歴18年目の古倉恵子。
日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、
「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる――。
「いらっしゃいませー!!」
お客様がたてる音に負けじと、今日も声を張り上げる。
ある日、婚活目的の新入り男性・白羽がやってきて、
そんなコンビニ的生き方は恥ずかしい、と突きつけられるが……。

 

 芥川賞=つまらない本というのがお約束である。

そんな中『コンビニ人間』だけは純文学でありながら、やたら面白いという特長があり、特にアラサー以降の年代で生きづらさを感じている人には最適である。

ページ数も短いのでサラッと読めるのも高ポイント。

 

コンビニ人間 (文春文庫)

コンビニ人間 (文春文庫)

 

 

5. 暗いところで待ち合わせ / 乙一(2002年)

 

視力をなくし、独り静かに暮らすミチル。職場の人間関係に悩むアキヒロ。駅のホームで起きた殺人事件が、寂しい二人を引き合わせた。犯人として追われるアキヒロは、ミチルの家へ逃げ込み、居間の隅にうずくまる。他人の気配に怯えるミチルは、身を守るため、知らない振りをしようと決める。奇妙な同棲生活が始まった――。

 

 天才と呼ばれる作家の最高傑作と言える1冊。

映画化もされている作品だが、繊細な描写は実写ではまず再現不能なものである。

圧倒的な優しさをぜひ体感してほしい。

言うまでもなく文章は平易でページ数も少ないので読みやすい。

 

暗いところで待ち合わせ (幻冬舎文庫)

暗いところで待ち合わせ (幻冬舎文庫)

  • 作者:乙一
  • 発売日: 2002/04/01
  • メディア: 文庫
 

 

6. 阪急電車 / 有川浩(2008年)

 

隣に座った女性は、よく行く図書館で見かけるあの人だった…。片道わずか15分のローカル線で起きる小さな奇跡の数々。乗り合わせただけの乗客の人生が少しずつ交差し、やがて希望の物語が紡がれる。恋の始まり、別れの兆し、途中下車―人数分のドラマを乗せた電車はどこまでもは続かない線路を走っていく。ほっこり胸キュンの傑作長篇小説。

 

 超売れまくり作家の人気作品である。

私は恋愛小説は滅多に読まないし、読んだとしても面白かったと思うことが少ない。
しかし『阪急電車』はとても構成がよくできていて、彼と彼氏だけの話ではなく、阪急電車をベースに紡がれる群像劇になっているので、単純な恋愛小説ではなくヒューマンドラマとして楽しむことができるのである。

また連作短編のため、読みやすさは完璧である。

 

阪急電車 (幻冬舎文庫)

阪急電車 (幻冬舎文庫)

  • 作者:有川 浩
  • 発売日: 2010/08/05
  • メディア: 文庫
 

 

7. 死神の制度 / 伊坂幸太郎(2005年)

 

こんな人物が身近に現れたら、彼/彼女は死神かもしれません──(1)CDショップに入りびたり(2)苗字が町や市の名前と同じ(3)会話の受け答えが微妙にずれていて(4)素手で他人に触ろうとしない。1週間の調査の後、死神は対象者の死に「可」「否」の判断を下し、「可」ならば翌8日目に死は実行される。ただし、病死や自殺は除外。まれに死神を感じる人間がいる。──クールでどこか奇妙な死神・千葉が出会う、6つの人生。

 

 連作短編という形式がとられていて、同じキャラクターが毎回登場するが、話自体は1話完結という体裁のためとても読みやすい。

 個々の作品の完成度も高く、伏線回収に定評のある作家だけに最後まで読めば感動が待っている。読後感も最高である。

 

死神の精度 (文春文庫)

死神の精度 (文春文庫)

 

 

8. 精霊の守り人 / 上橋菜穂子(1996年)

 

精霊の卵を宿す皇子チャグムを託され、命をかけて皇子を守る女用心棒バルサの活躍を描く物語。著者は2014年国際アンデルセン賞作家賞受賞。

老練な女用心棒バルサは、新ヨゴ皇国の二ノ妃から皇子チャグムを託される。精霊の卵を宿した息子を疎み、父帝が差し向けてくる刺客や、異界の魔物から幼いチャグムを守るため、バルサは身体を張って戦い続ける。建国神話の秘密、先住民の伝承など文化人類学者らしい緻密な世界構築が評判を呼び、数多くの受賞歴を誇るロングセラーがついに文庫化。痛快で新しい冒険シリーズが今始まる。

 

 子どもにおすすめな本というのは大人が読んでも面白くなければならない。

この本は児童書という扱いのため、もちろん子どもにおすすめな作品なのだが、大人が読んでもものすごく面白いという最高の本である。

そしてシリーズ作品のため続編があるのだが、すべての作品が傑作と言うありがたい作品なのである。

 

〇シリーズ紹介記事

kodokusyo.hatenablog.com

 

精霊の守り人 (新潮文庫)

精霊の守り人 (新潮文庫)

 

 

9. 青の炎 / 貴志祐介(1999年)

 

櫛森秀一は湘南の高校に通う17歳。女手一つで家計を担う母と素直で明るい妹との3人暮らし。その平和な家庭に、母が10年前に別れた男、曾根が現れた。曾根は秀一の家に居座って傍若無人に振る舞い、母の体のみならず妹にまで手を出そうとする。警察も法律も家族の幸せを取り返してはくれないことを知った秀一は決意した。自らの手で曾根を葬り去ることを……。完全犯罪に挑む少年の孤独な戦い。その哀切な心象風景を精妙な筆致で描き上げた、日本ミステリー史に残る感動の名作。

 

 大人が読んでも子どもが読んでも素晴らしい作品である。

主人公の男子高校生が母と妹を守るために完全犯罪を計画し、実行するという犯人が主役の倒叙ミステリと呼ばれる形式をとっている。

心理描写は素晴らしく、読後は何とも言えない感情が残るだろう。

 

青の炎 (角川文庫)

青の炎 (角川文庫)

  • 作者:貴志 祐介
  • 発売日: 2002/10/23
  • メディア: 文庫
  

 

10. 告白 / 湊かなえ(2008年)

 

「愛美は死にました。しかし事故ではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」我が子を校内で亡くした中学校の女性教師によるホームルームでの告白から、この物語は始まる。語り手が「級友」「犯人」「犯人の家族」と次々と変わり、次第に事件の全体像が浮き彫りにされていく。衝撃的なラストを巡り物議を醸した、デビュー作にして、第6回本屋大賞受賞のベストセラー。

 

 これまでに挙げた作品と異なり、かなりヘヴィで暗黒度の高い作品である。

イヤミスと呼ばれるジャンルの最高峰とされるだけあって、思わず目を背けたくなるほどの描写が続く。

 子どものいる親が読むことで真価を発揮する作品である。

 

告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)

告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)

  • 作者:湊 かなえ
  • 発売日: 2010/04/08
  • メディア: 文庫
 

 

 

子どもにおすすめな本

 工事中。

 まずはごめんなさいと言わせていただこう。

というのもすでに一定数のおすすめ本を考案したうえでこの記事を書き始めたのだが、いざ肝心な本項目を書こうとすると、少々基準に悩んでしまったのである。

どう迷ったかというと性的な描写暴力的な描写をどの程度容認するかを決めかねたのである。

 年齢指定はなぜか小説にはない。だがどう考えても良い子にはおすすめしてはならない本が溢れかえっている。古典的な名著も然りである

 そこでここまででいったんアップさせていただき、反響を確認しつつ考えをまとめたうえで更新することにする。

 

なおさすがにそれでは詐欺なので罪滅ぼしに上記の10選の中から、子どもにもおすすめな本を挙げておく。

 

  1. 夜のピクニック
  2. 暗いところで待ち合わせ
  3. 阪急電車
  4. 精霊の守り人

 

この作品は性的な描写や暴力描写はあまりないので安心しておすすめして良いだろう。

 

『屋上』島田荘司|バカミスの最終到達点

ゴッドオブミステリーの笑撃!!

 

f:id:kodokusyo:20201005181727j:plain

この表紙はかなりのチャレンジャー

 

作品説明

 島田荘司御大による『屋上』は講談社から2016年に出版された作品である。
文庫版のページ数は解説込みで548ページと常軌を逸したバカミスなのに結構な大ボリュームである。

 新本格の祖と称される伝説のミステリー作家がバカミスに全力投球するとどうなるかが分かるトンデモ本であり、Amazonレビューでは☆5と☆1と両極端な評価がなされている通り、はっきりと評価が分かれる作品である。

 本格推理小説マニアからすれば壁投げ本確定であり、純粋にミステリーやコメディとしてみれば素晴らしい作品ということになる。
伝説のメフィスト賞受賞作である『六枚のとんかつ』的なポジションだろう。

 私個人の意見としてはずばり神本である。
御手洗シリーズの中でも最高峰に魅力的な謎が提示されていて、なおかつトリック(笑)も登場人物も最高で笑いが止まらなかったのである。

 

以下、あらすじの引用。

自殺する理由がない男女が、次々と飛び降りる屋上がある。足元には植木鉢の森、周囲には目撃者の窓、頭上には朽ち果てた電飾看板。そしてどんなトリックもない。死んだ盆栽作家と悲劇の大女優の祟りか?霊界への入口に名探偵・御手洗潔は向かう。人智を超えた謎には「読者への挑戦状」が仕掛けられている!

 

屋上 (講談社文庫)

屋上 (講談社文庫)

  • 作者:島田 荘司
  • 発売日: 2019/02/15
  • メディア: 文庫
 

 

島田御大ご乱心

 上記の通り、賞賛と批判という両極端なレビューが散見されるため、これはきっとやらかしたなと確信。
そもそも島田御大の作品は『占星術殺人事件』の時点でかなりブッ飛んでいるし、2作目の『斜め屋敷の犯罪』はすでにバカミスと言っても間違えではないようなものだった。つまり何が起きてもおかしくないのだった。

そしてこの『屋上』読み終えた結論から言うと、

 

 おバカ。

 

 バカミスとは聞いていたが、聞きしに勝る"そんなバカなっ!?"なトリック(と言っちゃっていいのかは不明)は賛否両論を巻き起こして当然なしろものだった。

 しかもトリックがおバカなだけではなく、何から何までがアホくさくて、島田荘司御大の遊び心を爆発させたと断言できる内容になっている。
本作を書いてる時の島田御大はきっとニヤニヤしていたに違いない(笑)

『斜め屋敷』の特大トリックに『暗闇坂』の悪魔的偶然をさらに強化して掛け合わせたようなクソバカさ加減に私は盛大な拍手を送りたい!!

そして私は『屋上』に低評価をした者に問うてみたい。

あなた、これが楽しめなくて人生何が楽しいのん?」とね。

 

どうなってるのこのフォント??

 一体なにを意図してやったのかさっぱり分からないのだが、一人称が変わるたびにフォントがおかしくなる。
フォントが変わるだけでこんなに文章の印象がガラッと変わってしまうものなのかと驚かされる....ひょっとして驚かすのが目的だったのだろうか(笑)

 一人称が苦行者の時に使用されるフォントはとにかく読みづらい。
目がチカチカしてしまい申したぞ。しかも何となくキラキラしてるフォントなのに内容はなかなか重いというギャップが痛い。

 

f:id:kodokusyo:20201005190341j:plain

この文字を読むのが苦行のような.....

 

 一人称がサンタクロースの時に使用されるフォントはまるでギャル文字のようにかわいらしいものである。
にもかかわらず文章は汚くて笑える言葉遣いが多くてこれまたギャップに笑わされてしまうのである。

f:id:kodokusyo:20201005191315j:plain

どんな話でもこのフォントだと緊張感がなくなりそう

 

 宇宙人ってなんだよ.....というツッコミも入れたくなるし、話のアホ臭さも相まってこのフォントは逆に違和感がなくなっている。

f:id:kodokusyo:20201005191857j:plain

なんとなく宇宙人感のするフォントだ

 

魅力的な謎、屋上の呪い

 『屋上』の事件はまさしく島田御大の十八番である、怪談としか言いようがない謎の中でもトップレベルの不可解さに仕上がっている。

いわく付きの盆栽がところ狭しと敷き詰められた銀行の屋上。
盆栽に水をやりに行ったある秘密を共有する係長の部下たちが飛び降り自殺をしてしまい、ついには係長までもが飛び降り自殺してしまう。
しかしその人たちはいずれも「絶対に自殺なんかしませーん!!」という人たちだった。

  • トム・クルーズ(に似た人)との結婚を控えてる女性
  • 間もなく子どもが生まれる男性

幸せ絶頂な人たちがなぜ自殺してしまうのか気になりまくりである。

f:id:kodokusyo:20201005193158j:plain

こんな感じの人たちが数分後には飛び降り自殺


 事件の真相はだいたいこんな感じだろう.....という予測はできたが、想定を超えるアホっ振りに空いた口が塞がらなくなる。
というか島田御大ならではのトラップが仕掛けられているので、そんなふざけた遊び心も本格推理マニアにはイラつくのかもしれない。

 しかしどいつもこいつも俺は死なん的なポジティブシンキングが不幸を招いたともいえるのだろう。
もっと碇シンジ君的なネガティブシンキングで綾波に守ってもらうくらいのヘタレっぷりが一番安全なのだと思う。

 

f:id:kodokusyo:20201005193507j:plain

あなたは死なないわ 私が守るもの

 

フザけ過ぎ.....そしてみんなバカ過ぎる。

 御手洗シリーズだということで本格推理小説をイメージされる方は多いと思う。
しかし『屋上』は本格推理小説ではなく、本格おバカコメディ小説なのである。

 島田御大は40代くらいまでの頃の著者近影を見ると、どの写真もなかなか怖い顔をしているし、還暦を超えたあたりの近影を見るととても知的なお姿をされているので、作風もさぞかしお堅いものかと思う方もいるかもしれない。
しかし島田御大は間違いなくコッチ側(お笑い界)の人間なのである。

 したがって還暦を過ぎてこのようなお笑い作品を書くのはさぞかし面白かったのだと思う。

 『屋上』においては狂人なはずの御手洗が1番真面目な人に見えてしまうくらい、石岡君含めあらゆる登場人物がおバカに徹している。
主役となる銀行員みんなのギャクがキレッキレ過ぎるせいで、むしろ後半御手洗が登場してからの方が、退屈に感じるほどなのだ。

私は電車の中で本を読むことが多いので、危険なにおいを嗅ぎ取ると笑わないよう細心の注意をはらっていたのだが、2回ほど我慢しきれなくなり電車の中で吹いてしまった。周りの人からはさぞかし恐れられたことだろう、ごめんなさい。

 

 

私が爆笑して死にかけたセリフ

・サンタクロース

こんな銀行ぶっつぶしてやろうか

 

・関西弁と宇宙人

ありがとう、来てもろて

君、大阪の人?

はいそうです。なんで解ったん

 そしたら男(宇宙人)は笑った。

 いやいや....私が笑ってしまったよ.....。

 

アホ過ぎる解答

以下、事件に関わってくる要素である。

  • 呪いの盆栽
  • 大女優の怨念
  • プルコ(グリコ)の看板
  • 痴漢する苦行者
  • 轟く雷鳴
  • 消えたサンタクロース
  • 降臨せし宇宙人
  • 関西弁女、一世一代の攻め
  • ロールス・ロイス
  • ドンペリ飲みまくり....etc


わけの分からない謎がばらまかれ、その一つ一つが導く論理的な帰結とは!?
( ゚д゚ )......。

 こんな絵文字も使いたくなりますよ....。

 

実は島田作品のエッセンスが詰まっている

 批判する意見が多いが、この『屋上』こそは島田御大の魅力と悪い癖を高密度に凝縮して、余計なものを濾過した奇跡の作品なのだ。

 島田荘司と言ったら何と言っても伝説のデビュー作『占星術殺人事件』だろうし、おすすめするとなればほとんどの人は占星術を紹介するだろう。
たしかに『占星術殺人事件』には世界最強クラスのトリックが使われているだけでなく、メインの事件以外の2つの事件もかなり豪華なトリックが使われている。

 ただし冒頭が難解なせいで読みずらい印象を与えたり、グロ描写や性的な描写があるため必ずしも万人に勧められる内容だとは言い難い。

 そこで島田布教に役立つのが『屋上』である。
読みやすくて笑えるし、トリック(笑)はすごいし、登場人物は魅力的な人ばかり....おすすめしない訳にはいかない。

他の超傑作群を差し置いて、最初の1冊にしてもいいくらいだとも思っている。
島田御大のお力添えでデビューした新本格ムーブメントの作家の方々が『屋上』を読んだら果たしてどんな感想を持つのだろうか...(ちなみに解説は乾くるみ)

グダグダと書いてしまったが、本作は面白い。
そしてこの本を楽しめるようであれば、バカミスと呼ばれるようなギャグに等しい作品も楽しめることだろう

 

屋上 (講談社文庫)

屋上 (講談社文庫)

  • 作者:島田 荘司
  • 発売日: 2019/02/15
  • メディア: 文庫
 

 

 

村田沙耶香|作品一覧&読む順番とおすすめランキング10選

 狂気に歪んだ世界の女神

作品一覧

 村田作品は短編と中編が多く、長編作品もさほど長くないので全体的に読みやすい本が多い。ただ単純に文章が読みずらい作品や思想がブッ飛び過ぎていて常人ではついていけない作品もあるのが特徴だ。

 ごく稀にまともな作品もあるのだが、短編だろうが長編だろうが全体的に危険な村田ワールドが全開である。

 

小説

  1. 授乳|短編集(2005年)
  2. マウス|長編(2008年)
  3. ギンイロノウタ|中編集(2008年)
  4. 星が吸う水|中編集(2010年)
  5. ハコブネ|長編(2011年)
  6. ダイマトビラ|長編(2012年)
  7. しろいろの街の、その骨の体温の|長編(2012年)
  8. 殺人出産|短編集(2014年)
  9. 消滅世界|長編(2015年)
  10. コンビニ人間|長編(2016年)
  11. 地球星人|長編(2018年)
  12. 生命式|短編集(2019年)
  13. 半変身(かわりみ)|中編集(2019年)
  14. 丸の内魔法少女ラクリーナ|短編集(2020年)

 

エッセイ

  1. きれいなシワの作り方〜淑女の思春期病(2015年)
  2. となりの脳世界(2018年)
  3. 私が食べた本(2018年)

 

読む順番

 村田作品は危険な作品が多い。したがって徐々に狂気の村田ワールドに慣れていかなければ、あまりのショックに嫌いになってしまうことだろう。(まぁ好きになったり信者になる人もいるかもしれないが。)

危険な要素は大まかに挙げると以下の通りである。

 

  1. エロい
    女性作家特有のねちっこいいやらしさを、無感情に淡々と記載するパターンが多いため読者の男女を問わず無理な人は無理だろう。
  2. グロい
    『殺人出産』以降の作品ではショッキングなグロ描写が多い。しかもエロさと同様に何の感情もなく無機的な描写なのが恐ろしさに拍車をかける。
  3. 危険思想
    これこそが村田ワールドの真骨頂なのだが、一部の作品ではこの人絶対にキチ〇イだ...と思わざるを得ない危険な思想が描かれている。
  4. 読みずらい
    全体的には読みやすい作品が多いのだが、いくつかの作品は純文学的な要素が強めで物語性が乏しく読みずらい。

 

 上記の内容を受けてより安全に村田作品を楽しみたいのなら、危険度が低い作品でで少しずつ慣れていくのが無難だと思う。要は過激な作品や読みずらい作品を後回しにしている。

①最初に読むべき本

『マウス』
コンビニ人間

どちらの作品も過剰に危険な描写は少なくとてもマイルドである。話も面白い部類に入るため最初に読むには最適だ。

②村田ワールドに慣れてきたら読むべき本

『星が吸う水』
『ハコブネ』
『しろいろの街の、その骨の体温の』
『消滅世界』
『丸の内魔法少女ラクリーナ』

エロい描写や狂った描写が目立ち始めるが、読みやすくて完成度の高い作品が多いのでドン引きはしないと思う。

 ③村田LOVEになったら読むべき本

 

『授乳』
『ギンイロノウタ』
『殺人出産』
『生命式』

授乳やギンイロノウタは純文学度が高めで読みずらい。そして微妙。
殺人出産と生命式はかなりおすすめだが、グロやキチ〇イ度が高いのでいきなり読むと「えっ....この人大丈夫??」となること請け合いである。

④村田信者向け

『タダイマトビラ』
『地球星人』

 タダイマトビラはそこそこまともに見せかけて、最もマニアックな思想が出ているので常人が読んでも理解不能だろう。地球星人はマジキチ本なので取り扱い注意だ。

 

作品ランキング

いかに村田ワールドが発揮されているか”と”話が面白いか”を基準に格付けをした。そのためランキング上位の作品ほど危険な作品が多い傾向になったので、上記の読む順番をご参考いただき、ヤバい本は回避した方が得策かもしれない。
では村田ワールド全開な作品をランキング形式でご紹介していく。

 

10位  星が吸う水(2010年)

 

 恋愛ではない場所で、この飢餓感を冷静に処理することができたらいいのに。「本当のセックス」ができない結真と彼氏と別れられない美紀子。二人は「性行為じゃない肉体関係」を求めていた。誰でもいいから体温を咥えたいって気持ちは、恋じゃない。言葉の意味を、一度だけ崩壊させてみたい。表題作他一篇。

 
 村田作品で"性"を扱うものが多いが、本作はそのテーマ、特にセックスに特化した内容になっていてかなり過激。
表題作と『ガマズミ航海』という2作収録されている中編集だが、どちらもめちゃくちゃエロい.....いや、これはエロ過ぎる。

表題作ではとにかく女が"勃起"だの"抜く"だの独特のエロい表現がさらっと連発されていて大変危ない。タイトルの意味は....酷すぎて笑うしかない。
女は射精ができないのがツライのか?

 もう1編の『ガマズミ後悔』は本当のセックスを探求する話なのだが、「膣で人間の肉片=ペニスをしゃぶる」など表現が超強烈であり、本当のセックス探求シーンがエロマックスである。

星が吸う水 (講談社文庫)

星が吸う水 (講談社文庫)

 

 

9位  マウス(2008年)

 

 私は内気な女子です――無言でそう訴えながら新しい教室へ入っていく。早く同じような風貌の「大人しい」友だちを見つけなくては。小学五年の律(りつ)は目立たないことで居場所を守ってきた。しかしクラス替えで一緒になったのは友人もいず協調性もない「浮いた」存在の塚本瀬里奈。彼女が臆病な律を変えていく。

 
"他人の目が気になりまくる女性"と”他人の目はまったく気にならないが人間が怖い女性”の話。
村田作品の中で唯一ブッ飛んだ表現や性的な描写が無い作品であり、村田ワールドでよく扱われるテーマである、スクールカースト他人の目を気にすることについて的確に書かれている。
 パンチが足りないかもしれないが、物語としてしっかりしているので無難におすすめできる作品である。

マウス (講談社文庫)

マウス (講談社文庫)

 

 

8位  ハコブネ(2011年)

 

十九歳の里帆は男性とのセックスが辛い。自分の性に自信が持てない彼女は、第二次性徴をやり直そうと、男装をして知り合いの少なそうな自習室に通い始める。そこで出会ったのは、女であることに固執する三十一歳の椿と、生身の男性と寝ても実感が持てない知佳子だった。それぞれに悩みを抱える三人は、衝突しあいながらも、自らの性と生き方を模索していく。芥川賞作家が赤裸々に紡いだ話題作。

 
『ハコブネ』は他の村田作品に共通するテーマである""に特化した内容だが、男と女以外の性別やLGBTといった"性別"がテーマになっている。
エロ描写の過激さは『星が吸う水』よりは低いものの、『ハコブネ』もかなりエロい。

『ハコブネ』の思想は強烈である。
生物感覚より物体感覚が勝るという(?)星の欠片女の思考がとにかくすごい。
『般若心経』の色即是空を悟ったような人なのだが、テラ=地球とセックスという途方もない珍プレイを描いている。

 すべての問題をセックスに集約させているようで、人によっては嫌悪感も出る話だと思うが、刺さる人には刺さるであろう傑作だ。

ハコブネ (集英社文庫)

ハコブネ (集英社文庫)

 

 

7位  しろいろの街の、その骨の体温の(2012年)

 

 クラスでは目立たない存在の結佳。習字教室が一緒の伊吹雄太と仲良くなるが、次第に彼を「おもちゃ」にしたいという気持ちが高まり、結佳は伊吹にキスをするのだが―女の子が少女へと変化する時間を丹念に描く、静かな衝撃作。第26回三島由紀夫賞、第1回フラウ文芸大賞受賞作。

 
 扱うテーマは『マウス』とほとんど同じだが、こちらはスクールカーストの要素が強い。またかなり性的な表現が強く、人によってはドン引きすることになるだろう。

スクールカーストの最下層の女とスクールカーストの最上層の男の恋の話だが、そこには存在する様々な葛藤見事に描かれている。
だが、クレイジー沙耶香だけに描写は18禁である。”精通と初潮を見せっこ”や女子中学生による強制フェラチオなどいくら何でもやり過ぎである。

 物語としては最もまとまった完成度の高い作品なので、強烈な描写を気にしなければ大変おすすめである。

しろいろの街の、その骨の体温の (朝日文庫)

しろいろの街の、その骨の体温の (朝日文庫)

 

 

6位  タダイマトビラ(2012年)

 

 母性に倦んだ母親のもとで育った少女・恵奈は、「カゾクヨナニー」という密やかな行為で、抑えきれない「家族欲」を解消していた。高校に入り、家を逃れて恋人と同棲を始めたが、お互いを家族欲の対象に貶め合う生活は恵奈にはおぞましい。人が帰る所は本当に家族なのだろうか?「おかえり」の懐かしい声のするドアを求め、人間の想像力の向こう側まで疾走する自分探しの物語。

 

オナニーをしよ、ニナオ
ニナオ。ね、ほら、オナニーだよ
はじめるよ

サイコな母の影響で家庭崩壊した家庭で家族欲を満たすためのオナニー、カゾクヨナニーにふける主人公。

本作は"家族"がテーマになっているかと思いきや、仏教の色即是空を邪悪に解釈したような開いた口が塞がらない、ブッ飛び過ぎた衝撃のラストが待っている。

もう苦しくないよ。カゾクというシステムの外に帰ろう

この作品は説明不可能。かなりの信者向けの作品だが村田思想が最も深淵まで覗くことができる作品である。

タダイマトビラ (新潮文庫)

タダイマトビラ (新潮文庫)

 

 

5位  生命式(2019年)

 

 死んだ人間を食べる新たな葬式を描く表題作のほか、著者自身がセレクトした脳そのものを揺さぶる12篇。文学史上、最も危険な短編集

 

 最高峰に狂った小説である。特に表題作。

コンビニ人間』を発表してからさらに頭のネジがブッ飛んでしまった著者の短編集であり、1作品が平均30ページ前後のため非常に読みやすく、効率よくまた幅広く村田思想を体験できる傑作である。

 ただしマイルドな作品を何作か読んでからではないと村田沙耶香をいきなり嫌いになる可能性が高いので要注意。

 

西加奈子さんが非常にお上手なコメントを書いているので引用する。

自分の体と心を完全に解体することは出来ないけれど、
この作品を読むことは、限りなくそれに近い行為だと思う。
――西加奈子(作家)

 

生命式

生命式

 

 

4位  地球星人(2018年)

 

 私はいつまで生き延びればいいのだろう。いつか、生き延びなくても生きていられるようになるのだろうか。地球では、若い女は恋愛をしてセックスをするべきで、恋ができない人間は、恋に近い行為をやらされるシステムになっている。地球星人が、繁殖するためにこの仕組みを作りあげたのだろう―。常識を破壊する衝撃のラスト。村田沙耶香ワールド炸裂!

 

 まさに狂気の結晶であり、閲覧注意の化身である。
完全に頭のネジがブッ飛んでしまったのか.....『コンビニ人間』を読んでファンになった読者が読んだら卒倒するほどの狂った作品となっている。

著者の作品のテーマとなっている要素をより高い視点でまとめて、極限まで凶悪に書ききったといったところか。

"普通"の人は洗脳されて地球星人になった人であり、主人公たちのように"普通"ではない人は洗脳され損なった人となる。

当然洗脳されていない人は地球では生きづらいのでポハピピンポボピア星人として生きていくのだが.....。

「精通前の小学生セックス」やら「"ごっくんこ"と称した小学生イラマチオ」、さらにはサイコな殺戮、挙げ句の果てには禁断のご法度「○○食い」と完全に限界突破した変態キチガイサイコホラーに仕上がっている。

地球星人

地球星人

 

 

3位  殺人出産(2014年)

 

 今から百年前、殺人は悪だった。10人産んだら、1人殺せる。命を奪う者が命を造る「殺人出産システム」で人口を保つ日本。会社員の育子には十代で「産み人」となった姉がいた。蝉の声が響く夏、姉の10人目の出産が迫る。未来に命を繋ぐのは彼女の殺意。昨日の常識は、ある日、突然変化する。表題作他三篇。

 
 『殺人出産』は頭がおかしい中編である表題作と、それに勝るとも劣らないこれまた危険な3作の短編集である。

 表題作は『消滅世界』とほとんど同じ世界観だが、10人産んだら1人殺せるというキチガイシステムにより恐ろしいほど不気味な印象だ。
ある意味合理的ではあるものの、違和感は強く10人産んだ後の殺戮シーンは狂気の一言。狂っている。

 2作目『トリプル』はいわゆる3Pの話だ。
ただAVなどにありがちなエロいやらせな3Pではなく、3人1組の恋愛形態となっている。
短編ながら猛烈なインパクトである。そして激エロである。

 3作目『清潔な結婚』は性別の無い結婚、恋愛の延長線ではなく、恋愛感情の無い、つまりセックスをしない結婚をした夫婦の話である。

ミズキさんも33歳でしょう?そろそろ、卵子を受精させたほうがいいと思うのだけれど」こんなシュールなセリフが出てくる。

 セックス抜きでも子どもは欲しているため、クリーンブリード(清潔な繁殖)なる変態的な生殖行為をすることになるのだが、とにかくコミカルでエロくてブラックユーモアにしか見えない物語である。

4作目『余命』
医療が発達して「死」が無くなった世界の話。僅か数ページの短編だがキチガイな雰囲気が濃厚に漂う。

殺人出産 (講談社文庫)

殺人出産 (講談社文庫)

 

 

2位  消滅世界(2015年)

 

 セックスではなく人工授精で、子どもを産むことが定着した世界。そこでは、夫婦間の性行為は「近親相姦」とタブー視され、「両親が愛し合った末」に生まれた雨音は、母親に嫌悪を抱いていた。清潔な結婚生活を送り、夫以外のヒトやキャラクターと恋愛を重ねる雨音。だがその“正常”な日々は、夫と移住した実験都市・楽園で一変する…日本の未来を予言する傑作長篇。


 人工授精の発達により生殖行為としてのセックスが無くなり、夫婦間のセックスは近親相姦とされる近未来、本当にあり得そうな世界の話。

 ただ生殖行為としてのセックスが無くなっただけで、かなり非人間的な世界になるものだと思うが、『消滅世界』ではさらに一歩先に進んだ、もはや狂気と化した実験都市が登場する。
 そこではセックスが無くなった世界での家族の在り方を掘り下げたものとなっており、恐るべき世界観はぜひ実際に読んで確かめてみてほしい。

消滅世界 (河出文庫)

消滅世界 (河出文庫)

 

 

1位  コンビニ人間(2016年)

 

 「いらっしゃいませー!」お客様がたてる音に負けじと、私は叫ぶ。古倉恵子、コンビニバイト歴18年。彼氏なしの36歳。日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる。ある日婚活目的の新入り男性・白羽がやってきて…。現代の実存を軽やかに問う第155回芥川賞受賞作。

 

 村田作品の中では表現はかなりマイルドではあるものの、内容は安定のエクストリーム志向なので安心だ。クレイジー沙耶香全開である。

 芥川賞受賞作だけあって、村田ワールドが無駄なくコンパクトに凝縮された大傑作である。

 サイコな36歳独身処女のコンビニバイトと35歳の超絶ダメ男を通して"普通"とは何かという事を考えさせられる素晴らしい内容である。
ほとんどの読者は「普通とは何なのか考えさせられました。」といった"普通"の感想を述べられているが、『コンビニ人間』の本当の面白さは36歳独身処女と35歳童貞ニートの掛け合いである。私はツボにはまって腹筋崩壊寸前になった。

 アラサーを過ぎた世代であれば、男女や既婚未婚を問わず楽しめる要素が多いので最強におすすめである。

コンビニ人間 (文春文庫)

コンビニ人間 (文春文庫)

 

 

クレイジー沙耶香はどこに向かうのか

島田荘司|代表作品一覧とおすすめランキング21選

 ゴッドオブミステリー

代表作品一覧

詳細は別の記事に作中年表と合わせて、島田御大への畏敬の念込めて気合を入れてまとめたので以下のURLをご参照いただきたい。本記事では御手洗シリーズと吉敷シリーズの一覧のみに留める。

 

御手洗シリーズ

  1. 占星術殺人事件(1981年)
  2. 斜め屋敷の犯罪(1982年)
  3. 御手洗潔の挨拶|短編集(1987年)
  4. 異邦の騎士(1988年)
  5. 御手洗潔のダンス|短編集(1990年)
  6. 暗闇坂の人喰いの木(1990年)
  7. 水晶のピラミッド(1991年)
  8. 眩暈(1992年)
  9. アトポス(1993年)
  10. 龍臥亭事件(1996年)
  11. 御手洗潔のメロディ|短編集(1998年)
  12. Pの密室|中編集(1999年)
  13. 最後のディナー|短編集(1999年)
  14. ハリウッド・サーティフィケイト(2001年)
  15. ロシア幽霊軍艦事件(2001年)
  16. 魔神の遊戯(2002年)
  17. セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴(2002年)
  18. 上高地切り裂きジャック|中編集(2003年)
  19. ネジ式ザゼツキー(2003年)
  20. 龍臥亭幻想(2004年)
  21. 摩天楼の怪人(2005年)
  22. 溺れる人魚|短編集(2006年)
  23. UFO大通り|中編集(2006年)
  24. 犬坊里美の冒険(2006年)
  25. 最後の一球(2006年)
  26. リベルタスの寓話|中編集(2007年)
  27. 進々堂世界一周 追憶のカシュガル|短編集(2011年)
    【改題】御手洗潔進々堂珈琲
  28. 星籠の海(2013年)
  29. 屋上の道化たち(2016年)
    【改題】屋上
  30. 御手洗潔の追憶|短編集(2016年)
  31. 鳥居の密室 世界にただひとりのサンタクロース(2018年)

吉敷シリーズ

  1. 寝台特急はやぶさ」1/60秒の壁(1984
  2. 出雲伝説7/8の殺人(1984
  3. 北の夕鶴2/3の殺人(1985)
  4. 消える「水晶特急」(1985)
  5. 確率2/2の死(1985)
  6. Yの構図(1986)
  7. 灰の迷宮(1987)
  8. 夜は千の鈴を鳴らす(1988)
  9. 幽体離脱殺人事件(1989)
  10. 奇想、天を動かす(1989)
  11. 羽衣伝説の記憶(1990)
  12. ら抜き言葉殺人事件(1991)
  13. 飛鳥のガラスの靴(1991)
  14. 涙流れるままに(1999)
  15. 吉敷竹史の肖像|短編集(2002)
    【改題】光る鶴
  16. 盲剣楼奇譚(2019)

御手洗&吉敷関連作品

  1. 展望塔の殺人|短編集(1987年)
  2. 毒を売る女|短編集(1988)
  3. 切り裂きジャック百年の孤独(1988)
  4. 踊る手なが猿|短編集(1990)

 

⇩作中の年表と詳細な作品一覧

kodokusyo.hatenablog.com

 

 

作品ランキング

 多作なうえに超傑作のオンパレードなため10選では到底選別できず20選にしたのだが、それでも絞るのは困難を極めた.....というかほぼ無理ゲー。

 ランキング下位の作品ですら、他のミステリー作家を木っ端微塵に粉砕するほどの強烈な作品が集結しているので、もう全部おすすめである。

 

21位  出雲伝説 7/8の殺人(1984年)

 

山陰地方を走る6つのローカル線と大阪駅に、流れ着いた女性のバラバラ死体!なぜか首はついに発見されなかった。捜査の結果、殺された女は死亡推定時刻に「出雲1号」に乗車していたらしい。休暇で故郷に帰っていた捜査一課の吉敷竹史は、偶然にもこの狂気の犯罪の渦中に…。本格トラベル・ミステリーの力作。

 

吉敷シリーズの2作目にして御手洗シリーズに勝るとも劣らない猟奇殺人である。

はっきり言ってこの作品を本当に20位にしてしまってよいものかと悩みまくったくらいの傑作で、単なる推理小説を超越して歴史や神話にまで話が及び、明らかに島荘本人の解釈と思われる説も披露される。

当時は”バラバラの島田”と”人攫いの岡嶋”と称されていただけあって、バラバラ殺人のトラベルミステリーである本作はやはり尋常ではない完成度である。出雲伝説や八岐大蛇、女の怨念など純度100%の島荘でもある。

 

 

20位  夏、19歳の肖像(1985年)

 

バイク事故で入院中の青年が、病室の窓から目撃した「谷間の家」の恐るべき光景!ひそかに想いをよせる憧れの女性は、父親を刺殺し工事現場に埋めたのか?退院後、青年はある行動を開始する―。青春の苦い彷徨、その果てに待ち受ける衝撃の結末!青春ミステリー不朽の名作。

 

青春ミステリーの傑作であり短いページ数のノンシリーズ作品なので、島田荘司の本を読みたいけど『占星術殺人事件』は冒頭が難しそうだし、ページ数が多いし、グロそうだし....と感じる方には最適の作品。

もちろん純粋に青春小説としてもミステリとしても優れた作品なので、盗んだバイクで走りだしてしまいたくなること必至である。

 

 

 

19位  毒を売る女(1988年)

 

娘は名門幼稚園に入り、家も手に入れた。医者である夫の仕事も順調で、全てがうまくいっているはずだった。あの女があんな告白をするまでは―。人間が持つ根源的な狂気を描いた圧巻の表題作をはじめ、御手洗潔シリーズの傑作「糸ノコとジクザグ」からショートショートまで、著者の様々な魅力が凝縮した大充実の傑作短篇集!

 

あらすじの通りバラエティーに富んだ作品集であり、幻想的でマニアックな作品もあるが、島田作品のエッセンスの大半が詰まっている。

センスに満ち溢れた隠れ御手洗シリーズの「糸ノコとジクザグ」も素晴らしいが、なんと言っても表題作が強烈。邪悪な女性心理を書かせたら、女性作家ですれ凌ぐのではないかと思われる島田御大の悪質なイヤミスが堪能できる。

 

 

 

18位  御手洗潔のメロディ(1998年)

 

何度も壊されるレストランの便器と、高名な声楽家が捜し求める美女。無関係としか思えない2つの出来事の間に御手洗潔が存在するとき、見えない線が光り始める。御手洗の奇人ぶり天才ぶりが際だつ「IgE」のほか大学時代の危険な事件「ボストン幽霊絵画事件」などバラエティ豊かな4つの傑作短編を収録。

 

タイトルに御手洗を冠した短編集には、本作の他に『御手洗潔の挨拶』と『御手洗潔のダンス』の2作があり、いずれも優れた傑作だが、個人的には『御手洗潔のメロディ』を推薦したい。

「IgE」は御手洗シリーズの中でも御手洗がかなりブッ飛んでいて爆笑必至であり、なおかつ島荘ならでは訳の分からない謎が楽しめる。
事件の起きない「SIVAD SELIM」は御手洗シリーズの中でも素晴らしい作品である。

ちなみにアーノルド・シュワルツェネッガーが登場します(笑)

 

 

 

17位  ロシア幽霊軍艦事件(2001年)

 

 箱根、富士屋ホテルに飾られていた一枚の写真。そこには1919年夏に突如芦ノ湖に現れた帝政ロシアの軍艦が写っていた。四方を山に囲まれた軍艦はしかし、一夜にして姿を消す。巨大軍艦はいかにして“密室”から脱したのか。その消失の裏にはロマノフ王朝最後の皇女・アナスタシアと日本を巡る壮大な謎が隠されていた―。御手洗潔が解き明かす、時空を超えた世紀のミステリー。

 

海と繋がっていない芦ノ湖に巨大軍艦が突如現れて消えたという、壮大な謎を解き明かすスケールがデカすぎる物語。

ロマノフ王朝の秘密について島田御大の考えが反映されていて、これこそが本当のミステリーだ!と叫びたくなる内容になっている。 はっきり言ってこんなとてつもない作品が書けるのは島田御大以外にはまずありえないと思われる。もはやこれはSFだよ。口が裂けても言えないけど『天空の城ラピュタ』が頭に浮かんだりととにかく凄い作品なのである。

 

 

 

16位  透明人間の納屋(2003年)

 

 昭和52年夏、密室状態のホテルの部屋から一人の女性が消え失せ、海岸で死体となって発見された。孤独な少年・ヨウイチの隣人で、女性の知人でもあった男は「透明人間は存在する」と囁き、納屋にある機械で透明人間になる薬を作っていると告白する。混乱するヨウイチ。心優しき隣人は犯人なのか? やがて男は外国へ旅立ち、26年後、一通の手紙がヨウイチのもとへ届いた。そこには驚愕の真相が記されていた! 

 

 講談社の児童向け企画のレーベルであるミステリーランドから発表された作品だが、謎は極めて怪奇的なものであり大人が読んでも引き込まれることは必至である。

ノンシリーズであり、短めな物語の中に島田作品の魅力が凝縮されているため、初めて島田作品に触れる方にも特におすすめな1冊。

 また児童向けの企画だというのに一切の手加減がない島田御大の人柄にも憧れる。

 

 

 

15位  斜め屋敷の犯罪(1982年)

 

北海道の最北端・宗谷岬に傾いて建つ館――通称「斜め屋敷」。雪降る聖夜にこの奇妙な館でパーティが開かれたが、翌日、密室状態の部屋で招待客の死体が発見された。人々が恐慌を来す中、さらに続く惨劇。御手洗潔は謎をどう解くのか!? 日本ミステリー界を変えた傑作が、大幅加筆の改訂完全版となって登場! 

 

言わずと知れた究極の密室殺人を扱った話であり、密室の完成度は完璧でどう考えても不可能犯罪である。不気味な人形が登場するなど怪奇現象としか言いようのない事件は見ものであり、あいかわらず島田荘司の謎の魅せ方はデビュー当時からとても素晴らしく完成されているのが分かる。

そして歴史に名を残すであろう伝説のトリックを存分に味わってみてほしい。はっきり言ってバカミス......超凄いです。

この作品の隠れたポイントは登場人物の描写であり、全面的にユーモアが聞きまくっていて、特に女同士の見苦しい喧嘩はあまりにも悲惨で面白すぎる。

 

 

 

14位  北の夕鶴2/3の殺人(1985年)

 

 北の大地で壮大なトリックが展開される傑作ミステリー。
占星術殺人事件』『奇想、天を動かす』などと並び称される名作!離婚した妻・通子から掛かってきた一本の電話。ただ、「声が聞きたかった」と言うだけの電話を不審に思った吉敷は、通子を追って上野駅へ向かう。発車した〈ゆうづる九号〉に通子の姿を認めた吉敷だが、翌日、車内から通子と思われる死体が発見された。通子の足跡をたどる吉敷は、彼女が釧路で殺人事件の容疑者となり、姿を消していたことを知る。次々と降りかかる難事に身も心も傷だらけになりながら、別れた妻の無実を証明するため盛岡、そして釧路へと吉敷の捜査行は続く。ハードボイルドと超絶トリックを融合させた驚異の傑作ミステリー!

 

島田御大のすべての要素が詰まったと言っても過言ではない大傑作。『異邦の騎士』に迫るものがあるほどの力作である。

オカルトとしか言いようがない尋常ではない事件と、島田流のラブストーリーが合わさった熱い物語である。 本作のトリックはもともとは御手洗シリーズで使う予定だったというだけあって、バカミスすれすれのアルティメットな離れ業が爆裂する。

 

 

13位  奇想、天を動かす(1989年)

 

 浅草で浮浪者風の老人が、消費税12円を請求されたことに腹を立て、店の主婦をナイフで刺殺した。だが老人は氏名すら名乗らず完全黙秘を続けている。この裏には何かがある。警視庁捜査一課の吉敷竹史は、懸命な捜査の結果、ついに過去数十年に及ぶ巨大な犯罪の構図を突き止めた。―壮大なトリックを駆使し、本格推理と社会派推理とを見事に融合させた傑作。

 

島田御大が提示する謎の中でも最強レベルにブッ飛んだ謎を扱った作品であり、本格ミステリと社会派ミステリが融合された超傑作である。

とにかく謎が謎過ぎてヤバいのが特徴のため、ミステリー好きは絶対に読まなければならないだろう。 死んだピエロが消えたり、電車が爆発したり、灰色の巨人が現れたりとありえないことこの上ない。この作品を発表して以降、島田御大はミステリーの限界を突破した作品を連発するようになる。

 

 

 

12位  切り裂きジャック百年の孤独(1988年)

 

1988年、西ベルリンで起きた謎の連続殺人。5人の娼婦たちは頚動脈を掻き切られ、腹部を裂かれ、内臓を引き出されて惨殺された。19世紀末のロンドンを恐怖の底に陥れた“切り裂きジャック”が、100年後のベルリンに甦ったのか? 世界犯罪史上最大の謎「切り裂きジャック事件」を完全に解き明かした、本格ミステリー不朽の傑作。

 

伝説の怪事件、切り裂きジャックについて島田御大の回答が示された1冊であり、現代のドイツで起きた怪事件と100年前の切り裂きジャック事件を、”クリーン・ミステリ”なる謎の男が同時に解決するというすごい力作である。

グロ描写が凄まじいが、実際の事件がそうだったのだからしょうがないとして、島田御大の考える切り裂きジャック事件の真相に驚愕させられる。

また隠れ御手洗潔作品でもある。

 

 

11位  龍臥亭幻想(2004年)

 

石岡和己、犬坊里美、そして加納通子―。雪に閉ざされた龍臥亭に、八年前のあの事件の関係者が、再び集まった。雪中から発見された行き倒れの死体と、衆人環視の神社から、神隠しのように消えた巫女の謎!貝繁村に伝わる「森孝魔王」の伝説との不思議な符合は、何を意味するのか?幻想の「龍臥亭事件」が、いま、その幕を開ける。

 

『龍臥亭事件』に続く2作目で御手洗潔と吉敷竹史が集結するというボーナスステージのような内容になっている。

『龍臥亭事件』とノリが全然違って、のほほんとした印象を受けたりもするが、扱われる事件の怪奇幻想っぷりは史上最強クラスであり、ある程度御手洗シリーズを読んだ方であれば絶対に読んでいただきたい内容である。だって鎧が勝手に動いて罪人を始末するのですぜ....(笑)

まさに龍臥亭の幻想という感じで、こんなとてつもない話を思いついて書くことのできる作家は島田荘司だけだろうと確信する。

 

 

10位  ハリウッド・サーティフィケイト(2001年)

 

知らぬまに子宮を盗まれた女‘ アメリ黒社会を描く衝撃本格ミステリー!異常者によって、女優のパトリシアの「子宮」が盗まれた事件は、全米中を震撼させていた。そしてLAPDに犯人から郵送された2本目の殺人テープ。テープハリウッドで起こる連続殺人事件は何か?本格ミステリー大長編!

 

まさにハリウッド映画を見ているような作品である。

レオナ・マツザキが主役であり、御手洗は電話でしか登場せず科学的な話しかしないため、御手洗シリーズを読んでる感じはまったくしない。  ポルノがテーマの一つになっており、レオナは完全に変態女に暗黒進化しておりエロさ極まりない。

極悪非道な殺人事件に、『ケルトの伝説』のエピソード、SF的グロテスク描写やハリウッド級のアクションと強烈極まりない作品である。真相にも「マジかよ!!」と猛烈に驚かされるだろう。

 

 

 

9位  屋上(2016年)

 

自殺する理由がない男女が、次々と飛び降りる屋上がある。足元には植木鉢の森、周囲には目撃者の窓、頭上には朽ち果てた電飾看板。そしてどんなトリックもない。死んだ盆栽作家と悲劇の大女優の祟りか?霊界への入口に名探偵・御手洗潔は向かう。人智を超えた謎には「読者への挑戦状」が仕掛けられている!

 

最強のバカミスであるため賛否両論を呼んでいるが、個人的には超最高な作品である。

これでもかというほど自殺するはずがない人が次々と屋上から飛び降り自殺するという怪事件が、アホみたく面白おかしく描かれる。島田御大も明らかに面白可笑しく書いているように思われ、登場人物の滅茶苦茶なセリフの掛け合いなど、とにかくエンタメ要素がマシマシというのがポイント。ツボに入ると腹筋崩壊だろう。

 

 

〇個別紹介記事

kodokusyo.hatenablog.com

 

8位  龍臥亭事件(1996年)

 

御手洗潔が日本を去って1年半。彼の友人で推理作家の石岡は、突然訪ねてきた二宮という女性の頼みで、岡山県まで悪霊祓いに出かけた。2人は霊の導くままに、寂しい駅に降り立ち、山中分け入り、龍臥亭という奇怪な旅館に辿り着く。そこで石岡は、世にもおぞましい、大量連続殺人事件に遭遇した。推理界の奇才が、渾身の筆致で描く本格ミステリー超大作。

 

横溝正史の『八つ墓村』のモチーフにもなった、戦前最大にして伝説の事件である”津山三十人殺し”に島田御大の解釈を入れて構築した凄まじい事件である。

主役が石岡君で御手洗は電報と手紙わずかに登場するだけにもかかわらず1000ページを超える大長編なのだが、一気読みしてしまう魔力を秘めている。津山三十人殺しの犯人である都井睦雄が主役の作中作があるのだが、これがまた凄まじい臨場感を持った超傑作である。

なお事件のトリックはかなりやらかした感があり、賛否両論のスーパーバカミスとなっていて、実現可能性ゼロ(笑)のトリックに有り得ない偶然があり得ちゃったりと、本格推理小説としてはかなりアウトだが私は大好きだ。

 

 

7位  ネジ式ザゼツキー(2003年)

 

記憶に障害を持つ男エゴン・マッカートが書いた物語。そこには、蜜柑の樹の上の国、ネジ式の関節を持つ妖精、人工筋肉で羽ばたく飛行機などが描かれていた。御手洗潔がそのファンタジーを読んだ時、エゴンの過去と物語に隠された驚愕の真実が浮かびあがる!圧倒的スケールと複合的な謎の傑作長編ミステリー。

 

シリーズ8作目の怪作『眩暈』をさらに幻想的にしたような超怪作である。

記憶喪失の男が記した、謎に包まれた 「タンジール蜜柑王国」を御手洗が論理的に実在を解明していく前半と、その王国にまつわる圧倒的な猟奇殺人事件の謎を解くという奇想が炸裂した内容だ。しかしネジ式で動く妖精だったり、人工筋肉で羽ばたく飛行機、鼻を削がれた老人。そして浮かび上がるスペースコロニーなどやり過ぎMAXである。

 

 

6位  異邦の騎士(1988年)

 

 失われた過去の記憶が浮かびあがり男は戦慄する。自分は本当に愛する妻子を殺したのか。やっと手にした幸せな生活にしのび寄る新たな魔の手。名探偵御手洗潔の最初の事件を描いた傑作ミステリ『異邦の騎士』に著者が精魂こめて全面加筆修整した改訂完全版。幾多の歳月を越え、いま異邦の扉が再び開かれる。

 

島田御大の事実上の処女作であり、御手洗&石岡君最初の事件である。

ミステリーとしても優秀なのはもちろんのこと、島田御大のストーリーテラーとしての才能が溢れる至高のラブストーリーである。記憶を無くした"俺"の正体と良子の謎に迫る物語は涙無しでは語れず、ラストはそこはかとないせつなさが残る。

『異邦の騎士』を読むと100%御手洗シリーズを好きになるが、この作品までは必ず順番通りに読まなければならない。

 

 

5位  アルカトラズ幻想(2012年)

 

 一九三九年十一月二日、ワシントンDCのジョージタウン大学脇にあるグローバーアーチボルド・パークの森の中で、娼婦の死体が発見された。被害者は両手をブナの木の枝から吊るされ、性器の周辺がえぐられたため股間から膣と子宮が垂れ下がっていた。時をおかず第二の殺人事件も発生し、被害者には最初の殺人と同様の暴虐が加えられていた。凄惨な猟奇殺人に世間も騒然とする中、恐竜の謎について独自の理論を展開される「重力論文」を執筆したジョージタウン大学の大学院生が逮捕され、あのアル・カポネも送られたサンフランシスコ沖に浮かぶ孤島の刑務所、アルカトラズに収監される。やがて、ある事件をきっかけに犯人は刑務所を脱獄し、島の地下にある奇妙な場所で暮らし始めるが……。先端科学の知見と作家の奔放な想像力で、現代ミステリーの最前線を走る著者の渾身の一作がついにベールを脱ぐ!

 

ゴッドオブミステリー・島田御大の到達点。

起承転結だったり序破急といった物語のお約束をガン無視した展開のため、小説の体を成していないトンデモ本だが、ミステリーの求道者は死んでも読むべき1冊である。

女性器を抉るという猟奇的殺人に恐竜絶滅の謎、アルカトラズ刑務所や地球空洞説、さらにはパンプキン王国???4章+エピローグという構成だが、2章がほぼ丸々『重力論文』という宇宙規模の論文が展開されるのも島田御大の気合いが感じられる。

開いた口が塞がらない伝説の作品であり、島田荘司の裏最高傑作と言えるかもしれない。

 

 

4位  占星術殺人事件(1981年)

 

密室で殺された画家が遺した手記には、六人の処女の肉体から完璧な女=アゾートを創る計画が書かれていた。その後、彼の六人の娘たちが行方不明となり、一部を切り取られた惨殺遺体となって発見された。事件から四十数年、迷宮入りした猟奇殺人のトリックとは!?名探偵御手洗潔を生んだ衝撃作!

 

島田御大の伝説のデビュー作である。

東西ミステリベスト100の2012版で3位、英国の有力新聞『ガーディアン』で世界の密室ミステリーベスト10の2位という世界でも高い評価をされる究極の事件である。

占星術殺人事件』を超えるトリックは永遠に現れないのではないかと思ってしまうくらいの、衝撃的な事件とトリックは未来永劫に語り継がれるだろう。広義のミステリーとしての謎の魅せ方もデビュー作にしてすでに完成している。アゾートよ永遠に。

 

 

3位  水晶のピラミッド(1991年)

 

 エジプト・ギザの大ピラミッドを原寸大で再現したピラミッドで起こる怪事。冥府の使者アヌビスが5000年の時空を超えて突然甦り、空中30メートルの密室で男が「溺死」を遂げる! アメリカのビッチ・ポイントに出現した現代のピラミッドの謎に挑む名探偵・御手洗潔。壮大なテーマに挑んだ本格ミステリーの大作。

 

事件に関係があるのか無いのか読んでいる時点ではさっぱりな「タイタニック号の沈没事故」と「古代エジプト」の物語が描かれる。

この作品をもって島田流の限界突破ミステリーが完成形に近づいてきており、謎に挿入されるエピソードが事件を混迷させる。 ピラミッドの謎に迫ったり、異形の怪物が登場したりとミステリー作品として超一級品だろう。そしてアメリカ、エジプトを巡る冒険小説としても素晴らしい。

 

 

 

2位  暗闇坂の人喰いの木(1990年)

 

さらし首の名所・暗闇坂にそそり立つ樹齢2000年の大楠。この巨木が次々に人間を呑み込んだ? 近寄る人間たちを狂気に駆り立てる大楠の謎とは何か? 信じられぬ怪事件の数々に名探偵・御手洗潔が挑戦する。だが真相に迫る御手洗も恐怖にふるえるほど、事件は凄惨を極めた。本格ミステリーの騎手が全力投球する傑作。

 

 オカルト全開ミステリーホラーの最終兵器である。(本気のホラーなので注意)

偶然が大いに作用しているため、本格推理マニアからは賛否両論だが、そもそも人喰いの木という怪物が関与しているため、偶然は偶然ではなく木がもたらす怪異なのだ。

スコットランドに旅立って、猟奇事件の謎に迫ったりと話のスケールもデカい。

私は『暗闇坂の人喰いの木』以前の御手洗シリーズで既に島田御大の信者になっていたが、これを読んで狂信者へと進化してしまった。

 

〇個別紹介記事

kodokusyo.hatenablog.com

 

1位  アトポス(1993年)

 

虚栄の都・ハリウッドに血でただれた顔の「怪物」が出没する。ホラー作家が首を切断され、嬰児が次々と誘拐される事件の真相は何か。女優・松崎レオナの主演映画『サロメ』の撮影が行われる死海の「塩の宮殿」でも惨劇は繰り返された。甦る吸血鬼の恐怖に御手洗潔が立ち向かう。渾身のミステリー巨編が新たな地平を開く。

 

1000ページ近い超大作だが、一気読み確定なド級のハイパーエンタメ作品である。

プロローグに次ぐ章のタイトルはその名も「長い前奏」。200ページに及ぶエリザベート・バートリーをテーマにした作中作が圧倒的に面白く、その後に続くB級ホラーのような展開も熱い。そして再度プロローグを挟み舞台はイスラエル死海へ....。

『奇想、天を動かす』『暗闇坂の人喰いの木』『水晶のピラミッド』『目眩』で著してきた島田流ミステリーの1つの到達点となっている。

サイコでおぞましい連続殺人事件に、事件の全貌を曖昧にする挿話、白馬に乗った王子様にやり過ぎなトリック。完璧である。

 

 

島田信者を増やす布教活動は終わらない

『クリムゾンの迷宮』貴志祐介|超絶スリリングデスゲーム

最強エンタメ小説候補の筆頭

 

作品紹介

 貴志祐介による『クリムゾンの迷宮』はKADOKAWAから1999年に出版された作品である。文庫版は解説無しで393ページとちょうど良い長さで無駄がなく、怒涛の展開が凝縮されている。

 同年に発表された高見広春の『バトル・ロワイアル』と双璧を成すデスゲームの超傑作であり、至高のリーダビリティとリアルな描写が圧倒的な臨場感を生み出す最高のサバイバル小説である。

 みなさんご存じのことかと思うが貴志作品の魅力の一つに”超ヤバい奴が襲ってきてマジで勘弁”というのがある。

『クリムゾンの迷宮』のヤバい奴はかなりヤバい。どんなヤバい奴なのかはぜひとも作中で味わっていただきたい。

 

 以下、あらすじの引用

藤木芳彦は、この世のものとは思えない異様な光景のなかで目覚めた。視界一面を、深紅色に濡れ光る奇岩の連なりが覆っている。ここはどこなんだ? 傍らに置かれた携帯用ゲーム機が、メッセージを映し出す。「火星の迷宮へようこそ。ゲームは開始された……」それは、血で血を洗う凄惨なゼロサム・ゲームの始まりだった。『黒い家』で圧倒的な評価を得た著者が、綿密な取材と斬新な着想で、日本ホラー界の新たな地平を切り拓く、傑作長編。

 

 

クリムゾンの迷宮 (角川ホラー文庫)

クリムゾンの迷宮 (角川ホラー文庫)

  • 作者:貴志 祐介
  • 発売日: 1999/04/09
  • メディア: 文庫
 

 

恐怖の徹夜本、貴志祐介の奥義炸裂

 貴志祐介の作品を一冊でも読んでいれば、小難しい蘊蓄をバシバシ入れてくるにもかかわらず、そのことが読みやすさをまったく損ねていないというのが分かるだろう。

貴志先生は読ませる文章を書く達人なのである。

流麗なリーダビリティとスリリングな作品とは非常に相性が良く、スリリングなデスゲームものである『クリムゾンの迷宮』は、すべての貴志作品の中でも最も読み始めたら止まらない仕様である。

 読みやすいフォントサイズの角川ホラー文庫で400ページ未満という絶妙な物語の長さは夜寝る前に読み始めたら最後、次の日が学校の試験だろうが、会社で大事なプレゼンを控えていようが、問答無用に一気読みさせられるという危険な兵器といって間違いない。

蹴落としたいライバルがいたら、試しに一冊渡してみよう。罠にかかったライバルは次の日睡眠不足に襲われているはずだ。

 

完璧なロケットスタート

 読了後におもしろかったな~と感じる小説は数多くあることだろう。最後まで読まないと面白さがまったく分からないというドMな作品がこの世には数多くする。
しかし1冊読むにもそこそこ時間がかかるというのに最後まで読まないと良さが分からないというのは狂気の沙汰である。

 では数多のエンターテイメントが跋扈する令和の世になってもなお、読書が趣味という読書家という生き物は、希少かつマゾヒスティックな生命体なのだろうか。

答えは”否”である

 小説の中にははぐれメタルに遭遇するくらいのレアな確率で、超絶エンタメ本が存在しており、読書家というのは運よく読書が嫌いになる前にそういった作品に出会っているのである。

言うまでも本作は超絶エンタメ本であり、最初のページを開くや否やクリムゾンの迷宮という異世界(?)に誘われてしまうのである。

 目が覚めると地球とは思えない謎の場所。おまけに直前の記憶を失っている。 

何の前置きもなくいきなり40代のおっさんが、地球とは思えない謎の場所で目覚め、長身の美女と遭遇し、諸事情から行動を共にする.....そして気が付けばラストまで一気読みさせられてしまうのである。

 

 

f:id:kodokusyo:20201002205918j:plain

このノリは映画『プレデターズ』に受け継がれた。

 

超リアルなサバイバル

 

 9人の男女がサバイバルアイテム、武器、食料、情報を手に入れるために4パーティに別れて各ルートを進む.....フフフ...このシチュエーションがすでに激アツでしょ。

そしてこのあたりからワケの分からない理不尽な状況をノリ切るために、皆が人間ならではのイヤらしい小細工をし始めるのだが、そのいった描写が気色悪いほど”人間あるある”なのだ。

貴志先生が心理学や脳科学に造詣が深いのは、他の作品を見てもまず間違いないだろう。その知識が活かされた、リアリティのある心理描写は貴志作品のお楽しみの1つなのだが、本作のような極限状態では特にそのお楽しみは一層際立つ。

 また貴志作品では相当な取材や調査をされているだけあり、本作の舞台となる地やその地におけるサバイバル技術が極めて詳細に描かれる。

サバイバル関連の蘊蓄はかなり豊富に解説されているのだが、本編の勢いをまったく削ぐことなく、むしろ更に強い臨場感を創り出すことに成功している。

 

 ヤバい奴=怪物の存在

 貴志作品と言ったら多重人格スタンド使いに、包丁を持ったサイコビッチ、暴走したサイコハスミン、悪鬼に業魔とヤバい奴のオンパレードである。

『クリムゾンの迷宮』はデスゲームものである以上、言うまでもなく人間同士の殺し合いが発生する。じゃあ人間同士が争うだけでヤバい奴がいないかというと、もちろんそんなことはない。 

この記事では化け物の正体はもちろん伏せておくが、謎に包まれた超怖い生命体が登場する。そいつの行動はヤケにリアルで不気味であり、生き残ることすら困難な過酷な環境に、猛烈なスリルと絶望感を味合わせてくれるのだ。

化け物と自軍双方のパワーバランスが崩壊していないのも良い。知恵をフル活用した駆け引きが張り詰めた緊張感を維持し続ける。

 

f:id:kodokusyo:20201002214131j:plain

ここまで力に差が無いのがいい感じ。

 

違和感の無いエロシーン

 貴志先生はかなりのエロジジィである。男性ホルモンが強い男はエロいというのが一般常識だが(?)、貴志先生の頭をみれば彼のテストステロンが強烈であることは一目瞭然だろう。

したがってみなぎる精力を秘めた貴志作品の多くは濡れ場がある。デスゲーム作品である本作ももちろん例外ではない。

 サバイバルデスゲームとセクロスの相性の良さと言ったら....。ものすごいエロい描写というわけではないのに、極限状況というシチュエーションがエロさに拍車をかけているのである。

私はエロシーンがそこまで好きなわけではないのだが、海外のB級スプラッタホラー映画にありがちな王道パターンを取り入れる貴志先生の精神を愛してやまない。

 

f:id:kodokusyo:20201002215235j:plain

B級ホラーならこの後どうなるかはお約束だが....

 

賛否両論のラスト

 

 ラストが近づくにつれて、「おいおい...残りページ数は大丈夫なのかよ.....!!」という心境になってくるのだが、実際にどうなるのかは読んでみて確かめてほしい。

このラストが賛否両論になるのは大いに納得できるが、私的にはベストな締めくくりだと思っている。

エンタメ小説というものは、読んでいる最中の面白かったパーセンテージが非常に重要なのだ。『クリムゾンの迷宮』は最初から最後まで面白いので楽しい割合はほぼ100%と言ってよいと思う

余計なことを書いて蛇足になるよりは、徹底的に突っ走って後のことは知ったこっちゃねーというスタンスは大好きである。

 本作は稀に見る超傑作であり、普段小説など読まないような人を読者の世界に引きずり込むには最適な一冊である。過激な描写が多いのでそういうのが苦手な人もいるかもしれないが、実際グロが苦手という人はただのいい子ぶりっこに過ぎない。

しずかちゃんにも出木杉君にも胸を張っておすすめしようではありませんか。

 

クリムゾンの迷宮 (角川ホラー文庫)

クリムゾンの迷宮 (角川ホラー文庫)

  • 作者:貴志 祐介
  • 発売日: 1999/04/09
  • メディア: 文庫
 

 

貴志祐介|作品一覧とおすすめランキング12選 

kodokusyo.hatenablog.com