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乙一|作品一覧とおすすめランキング15選

天に選ばれし唯一無二の才能

作品一覧

 この記事では乙一名義の作品のみ格付けするが、別名義の作品も含めて一覧化した方が分かりやすいので名義ごとに分けつつ発表順に並べる。ただ全作品を並べると異常に分かりにくいので、ライトノベルのレーベルから発表されたものや絵本、一部の児童書、共著などは割愛する。

要はマニアックな作品を除き、名の知れた出版社から文庫化された、または今後されそうなもののみ記載したと考えていただきたい。

 

乙一名義

  1. 夏と花火と私の死体 集英社(1996年)
    「夏と花火と私の死体」
    「優子」
  2. 天帝妖狐 集英社(1998年)
    「A MASKED BALL」
    「天帝妖狐」

  3. 石ノ目 【改題】平面いぬ。 集英社(2000年)
    「石ノ目」
    「はじめ」
    「BLUE」
    「平面いぬ。」

  4. 暗黒童話(2001年)
  5. 死にぞこないの青 (2001年)
  6. 暗いところで待ち合わせ(2002年)
  7. GOTH リストカット事件(2002年)
    「暗黒系 Goth」
    リストカット事件 Wristcut」
    「犬 Dog」
    「記憶 Twins」
    「土 Grave」
    「声 Voice」

    〇GOTH 夜の章(2005年)「暗黒系 Goth」「犬 Dog」「記憶 Twins」
    〇GOTH 僕の章(2005年) 「リストカット事件 Wristcut」「土 Grave」「声 Voice」

  8. ZOO(2003年)
    「カザリとヨーコ」
    「血液を探せ!」
    「陽だまりの詩」
    「SO-far そ・ふぁー」
    「冷たい森の白い家」
    「Closet」
    「神の言葉」
    「ZOO」
    「SEVEN ROOMS」
    「落ちる飛行機の中で」

    〇ZOO 1(2006年)「カザリとヨーコ」「SEVEN ROOMS」「SO-far そ・ふぁー」「陽だまりの詩」「ZOO」
    〇ZOO 2(2006年) 「血液を探せ!」「冷たい森の白い家」「Closet」「神の言葉」「落ちる飛行機の中で」「むかし夕日の公園で」

  9. 失はれる物語 (2003年)
    「Calling You」
    「失はれる物語」
    「傷」
    手を握る泥棒の物語
    「しあわせは子猫のかたち」
    「マリアの指」
    「ボクの賢いパンツくん」
    「ウソカノ」
  10. 小生物語:エッセイ(2004年)
  11. 銃とチョコレート(2006年)
  12. “The Book” jojo's bizarre adventure 4th another day(2007年)
  13. GOTH モリノヨル(2008年)
    〇GOTH 番外篇 森野は記念写真を撮りに行くの巻(2013年)
  14. 箱庭図書館(2011年)
    「小説家のつくり方」
    「コンビニ日和!」
    「青春絶縁体」
    「ワンダーランド」
    「王国の旗」
    「ホワイト・ステップ」
  15. Arknoah 1 僕のつくった怪物(2013年)
  16. Arknoah 2 ドラゴンファイア(2015年)
  17. 花とアリス殺人事件(2015年)
  18. シライサン(2019年)
  19. サマーゴースト(2021年)
  20. 一ノ瀬ユウナが浮いている(2021年)
  21. さよならに反する現象(2022年)
    「そしてクマになる」
    「なごみ探偵おそ松さん・リターンズ」
    「家政婦」
    「フィルム」
    「悠川さんは写りたい」
  22. 野良犬イギー(2022年)

 

作品ランキング

 乙一は他の作家では真似ができないような独自の感覚で執筆されているので、いかに乙一らしいかという点を最重視して格付けした。乙一作品は白乙一と称される透明感のあるせつない系の作品と黒乙一と称される残酷な描写を淡々と書く系があるため、どちらに作品なのかにも触れて紹介したい。

ちなみにこれから乙一作品を読もうと考えている人には「乙一らしさってなんだよ」となるかもしれないが、そんな方は短編集『ZOO』の分冊文庫版である『ZOO1』を読むのが手っ取り早い。乙一らしさが完全網羅されている。また別名義の作品がまとめて収録された幻夢コレクションもおすすめである。

 

15位 銃とチョコレート(2006年)

 

少年の旅は、甘くてほろ苦い。切なさの魔術師・乙一の快心ミステリ!大富豪の家を狙い財宝を盗み続ける大悪党ゴディバと、国民的ヒーローの名探偵ロイズ対決は世間注目の的。健気で一途な少年リンツが偶然手に入れた地図は事件解決の鍵か!? リンツは憧れの存在・ロイズと冒険の旅にでる。王道の探偵小説の痛快さと、乙一が仕掛ける意外性の面白さを兼ねる傑作!

 

ミステリーランドという講談社の児童向けの企画レーベルから刊行されているため、やや乙一らしさが乏しい児童向けの長編作品である。もちろん白乙一

このミステリーランドは「どこが子供向けなんじゃい」とツッコミを入れたくなる作品がある中、『銃とチョコレート』はちゃんとした子ども向けの本なので安心だ。

 内容は明らかに江戸川乱歩の少年探偵シリーズを意識したうえで世界観を西洋風にしたような、子供向けではあるが大人もしっかり楽しめるものとなっており、さりげなく凝った仕掛けがあるので伏線を拾いながら読むのも楽しいだろう。

 

 

14位  暗黒童話(2001年)

 

 突然の事故で記憶と左眼を失ってしまった女子高生の「私」。臓器移植手術で死者の眼球の提供を受けたのだが、やがてその左眼は様々な映像を脳裏に再生し始める。それは、眼が見てきた風景の「記憶」だった…。私は、その眼球の記憶に導かれて、提供者が生前に住んでいた町をめざして旅に出る。悪夢のような事件が待ちかまえていることも知らずに…。

 

貴重な黒乙一長編である。

乙一ならではの常軌を逸したグロ描写が強烈だが、ファンタジー的な不思議設定はこれぞ乙一と言わんばかりであり、物語には白乙一成分もそこそこ交じっている。

高いリーダビリティとミステリー要素があるため一気読み必至だが、短編に比べるとやや切れ味が悪いと思う。

 

 

13位  さよならに反する現象(2022年)

 

哀しみの先には、何があるのだろう──。乙一作家生活25周年記念短編集!心霊写真の合成が趣味の僕が撮影をしていると、一人の女性がカメラに映りこんできた。しかし撮影されたデータには無人の交差点が映っているだけだった。映りたがりの幽霊、悠川さんがこの世に残した未練とは……?(『悠川さんは写りたい』より)ほか、乙一贈る恐ろしくて切ない出会と別れの短編集。

 

乙一作家生活25周年記念短編集と銘打たれた作品集。

5作品しか入っていないうえに、1編はおふざけモードな作品であり、さらに1編は企画モノのショートショート作品なのでかなり物足りないのだが、乙一の奥義が炸裂した「家政婦」と「悠川さんは写りたい」の2編はかなり強烈。個人的には特に「悠川さんは写りたい」の物語全体の雰囲気と衝撃的な最後のギャップ萌えがたまらなくて好き。

 

 

12位  シライサン(2019年)

 

親友の変死を目撃した山村瑞紀と、同じように弟が眼球を破裂させて亡くなった鈴木春男。それぞれ異様な死の真相を探る中、2人は事件の鍵を握る富田詠子から、ある怪談話を聞かされる。それは死んだ2人と詠子が旅行先で知った、異様に目の大きな女の話だった。女の名を頑なに告げなかった詠子だが、ひょんなことからその名を口に出してしまう。「お2人は…呪われました」―その日から瑞紀たちの周囲でも怪異が起き始め…。

 

 黒乙一になるのだろうがあまり乙一っぽくない、直球の正統派ジャパニーズホラー長編である。

 乙一成分が不足しているので少々物足りなく感じるかもしれないが、ホラー作品としての完成度は高めであり、なにより読んでる最中はさりげな過ぎて気付かないかもしれないが邪悪な真相が隠されている.....のかどうかは要考察。いや、されてるな。絶対。

若い頃のようなセンスは薄れている気がしなくもないが、それを技巧でカバーするといった進化が見られる一冊である。

 

ちなみに映画版のシライサンが不気味過ぎてヤバいので夜に一人で見たらトイレに行けなくなるくらいの恐怖はある(笑) あの顔は怖すぎるし、設定が凶悪なのでホラー苦手な人がみたらかなりキツいかも。ただ私もそうなのだが、ホラー慣れした人が見たら意外と笑える。ちょっと怖カワイイ。

 

11位  サマーゴースト(2021年)

 

“サマーゴースト”という幽霊が現れるという。夏、使われなくなった飛行場、花火をすると、彼女は姿を現すらしい。自殺した女性の幽霊なのではないかという噂だ。ネットを通じて知り合った高校生、友也・あおい・涼。3人は“サマーゴースト”を探すために集まった。3人は幽霊に聞いてみたかった。“死ぬって、どんな気持ちですか?”それを聞くべき理由が、3人にはあったのだ――。

 

乙一が脚本を務めた映画『サマーゴースト』のノベライズ作品。

これでもかというほど白乙一な作品で物語自体は非の打ち所がないし、映画版を鑑賞しているのなら脳裏に美しい映像が浮かび上がってきて昇天できることだろう。

そんな最高の青春小説なのだが、ノベライズの宿命か全体的に深堀りがされていないように感じるためこの順位にしている。

 

〇個別紹介記事

kodokusyo.hatenablog.com

 

10位  天帝妖狐(1998年)

 

 とある町で行き倒れそうになっていた謎の青年・夜木。彼は顔中に包帯を巻き、素顔を決して見せなかったが、助けてくれた純朴な少女・杏子とだけは心を通わせるようになる。しかし、そんな夜木を凶暴な事件が襲い、ついにその呪われた素顔を暴かれる時が…。表題作ほか、学校のトイレの落書きが引き起こす恐怖を描く「A MASKED BALL」を収録。ホラー界の大型新人・乙一待望の第二作品集。

 

白と黒乙一が適度に混じった中編集である。

当時まだ10代だった青年が書いたとは思えないほど完成度の高い、不思議ミステリーの「A MASKED BALL」と乙一らしい痛々しさのあるダークファンタジー「天帝妖狐」が収録されている。どちらも傑作と言ってよい作品だが、表題作よりも仮面舞踏会を意味する「A MASKED BALL」の方が素晴らしいと思う。真相がよく分からなかった方は我孫子武丸氏の解説を読んでから再読するといかに凝った内容なのかが分かるだろう。

 

 

9位  平面いぬ。(2000年)

 

「わたしは腕に犬を飼っている―」ちょっとした気まぐれから、謎の中国人彫師に彫ってもらった犬の刺青。「ポッキー」と名づけたその刺青がある日突然、動き出し…。肌に棲む犬と少女の不思議な共同生活を描く表題作ほか、その目を見た者を、石に変えてしまうという魔物の伝承を巡る怪異譚「石ノ目」など、天才・乙一のファンタジー・ホラー四編を収録する傑作短編集。

 

「石の目」はそこそこ黒乙一な内容で他の3編は白乙一である。

乙一が大学生の時に書いた3作目の短編集で、この作品をもってせつない白乙一は完成したと思う。飛び抜けた傑作はないがどの作品も平均点越えの優等生作品集といったところだろうか。

「はじめ」と「平面いぬ。」は乙一らしさが本領発揮されている。おそらくこんな不思議な感覚は乙一にしか書けないだろう。「BLUE」は『トイストーリー』のような話で乙一作品の中でもかなり泣ける作品である。

1話が70~90ページという適度な長さなので、読みごたえと乙一らしさを味わうことができる。

 

 

8位  メアリー・スーを殺して(2016年)

 

「どこかでお会いしましたっけ?」。そして気づく。少女の目は、左右で色がちがっている。右の虹彩は黒色だが、左の虹彩は赤色。オッドアイ。「もうわすれたの?きみが私を殺したんじゃないか」(表題作より)―切なく妖しい夢の異空間へと誘う、異色“ひとり”アンソロジー

 

記念すべき一人アンソロジー第一弾。乙一の様々な名義の7作品が収録された、とてもバラエティ豊富な作品集である。

純白乙一から白乙一、黒乙一、漆黒乙一までこれ一冊で本当に幅広い乙一を堪能することができる。乙一中田永一名義の4編で白寄りの乙一を堪能していると、山白朝子の『私の頭が正常であったなら』にも収録されている「トランシーバー」の破壊的せつなさによって滂沱の涙に沈められ、そんな心境の中読み進めていくと「ある印刷物の行方」と超黒乙一の「エヴァ・マリー・クロス」でエグイ一撃を喰らうことになる。

まさに幻夢コレクションである。

 

 

7位  夏と花火と私の死体(1996年)

 

九歳の夏休み、少女は殺された。あまりに無邪気な殺人者によって、あっけなく―。こうして、ひとつの死体をめぐる、幼い兄妹の悪夢のような四日間の冒険が始まった。次々に訪れる危機。彼らは大人たちの追及から逃れることができるのか?死体をどこへ隠せばいいのか?恐るべき子供たちを描き、斬新な語り口でホラー界を驚愕させた、早熟な才能・乙一のデビュー作

 

乙一の中編集であり、なんと16才の時に書いたというデビュー作である。

死体となった"私"の視点で語られる変態的なホラーの表題作と不気味なホラー風ミステリー「優子」という2作の中編が収録されている。やはりすごいのは表題作で、とてもではないが10代半ばの学生が書いたものとは思えない完成度だから驚きである。

解説は小野不由美女史が書かれており、我孫子武丸氏、法月綸太郎氏が大騒ぎしていたそうだ。(天帝妖狐の我孫子氏の解説で、綾辻行人氏も大騒ぎしていたのが分かる。)

つまりホラーやミステリー界の大御所がこぞって絶賛しているのだから、本作の素晴らしさは折り紙付きである。

 

 

6位  一ノ瀬ユウナが浮いている(2021年)

 

幼馴染みの一ノ瀬ユウナが、宙に浮いている。十七歳の時、水難事故で死んだはずのユウナは、当時の姿のまま、俺の目の前にいる。不思議なことだが、ユウナのお気に入りの線香花火を灯すと、俺にしか見えない彼女が姿を現すのだ。ユウナに会うため、伝えていない気持ちを抱えながら俺は何度も線香花火に火をつける。しかし、彼女を呼び出すことができる線香花火は、だんだんと減っていく――。

 

かなり久々のストレートな白乙一作品である。

あらすじに書いてあることが全てと言わんばかりの捻りのない直球の恋愛小説なのだが、せつない小説を書かせたら右に出るものがいない乙一が書くと、こうも素晴らしくなるものなのかと感じる物語に仕上がっている。私自身、もの凄く久しぶりに読書で泣くという体験をしてしまった。

 

〇個別紹介記事

kodokusyo.hatenablog.com

 

5位  沈みかけの船より、愛をこめて(2022年)

 

破綻しかけた家庭の中で、親を選択することを強いられる子どもたちの受難と驚くべき結末を描いた表題作ほか、「時間跳躍機構」を用いて時間軸移動をくり返す驚愕の物語「地球に磔(はりつけ)にされた男」など全11編、奇想と叙情、バラエティーにあふれた「ひとり」アンソロジー

 

11収録された作品一人アンソロジー第二弾。

こちらは名義が4名に減っており(一人だけど)、なおかつ山白朝子名義の作品が実話怪談風の1話しかないため、実質乙一中田永一の作品集である。全体的にとてもバランスがよく様々たなタイプの物語が収録されているため、進化した乙一の『ZOO』に続く傑作選と言えるような内容となっている。

どれも好きだが、黒っぽい乙一による「カー・オブ・ザ・デッド」と白っぽい乙一の「二つの顔と表面 Two faces and a surface」が特に素晴らしいと思う。

 

〇個別紹介記事

kodokusyo.hatenablog.com

 

4位  ZOO(2003年)

 

何なんだこれは! 天才・乙一のジャンル分け不能の傑作短編集。「1」は双子の姉妹なのになぜか姉のヨーコだけが母から虐待され――(「カザリとヨーコ」)。謎の犯人に拉致監禁された姉と弟がとった脱出のための手段とは?――(「SEVEN ROOMS」)など5編をセレクト。「2」は、目が覚めたら、何者かに刺されて血まみれだった資産家の悲喜劇(「血液を探せ!」)、ハイジャックされた機内で安楽死の薬を買うべきか否か?(「落ちる飛行機の中で」)など驚天動地の粒ぞろい5編に加え、幻のショートショート「むかし夕日の公園で」を特別収録。

 

 黒乙一作品が多いが白乙一作品もある、乙一ワールドが完全網羅された傑作短編集である。ジャンル分け不可能と言われるほどあらゆるタイプの話が収録されているため、乙一のすべてが分かるようで、逆にますます分からなくなるという仕様。

 全11作品の中でも飛び抜けた傑作が、黒乙一の神作「SEVEN ROOMS」と白乙一の奇跡のSF作品「陽だまりの詩」だ。白黒それぞれの最高峰である。

どちらも乙一にしか書けないような唯一無二の内容で、感受性豊かな人が読んだら現実世界に帰って来られなくなるかもしれない。

表題作の「ZOO」と「落ちる飛行機の中で」も狂った感じがたまらない。

 トラウマ級の作品もあるが、乙一初読みには最適な1冊である。

 

 

3位  失はれる物語(2003年)

 

 目覚めると、私は闇の中にいた。交通事故により全身不随のうえ音も視覚も、五感の全てを奪われていたのだ。残ったのは右腕の皮膚感覚のみ。ピアニストの妻はその腕を鍵盤に見立て、日日の想いを演奏で伝えることを思いつく。それは、永劫の囚人となった私の唯一の救いとなるが…。表題作のほか、「Calling You」「傷」など傑作短篇5作とリリカルな怪作「ボクの賢いパンツくん」、書き下ろし最新作「ウソカノ」の2作を初収録。

 

 ライトノベルのレーベルから出版されていた短編集から選ばれた白乙一のベスト盤である。白乙一短編としては間違いなく最高傑作だろう。

収録作は以下の通り。

 ○短編傑作選

「Calling you/失はれる物語/傷/手を握る泥棒の物語/しあわせは子猫のかたち」

 ○書き下ろし中編「マリアの指」

 ○文庫版収録「ボクの賢いパンツくん/ウソカノ」

 表題作の「失はれる物語」は乙一のセンスのすべてが注ぎ込まれた渾身の超傑作で、魂が作品の中に閉じ込められるほど物語に引き込まれるだろう。

 「Calling you」と「しあわせは子猫のかたち」もせつなさでいえば乙一作品の筆頭で、きっとみんな泣く。我孫子武丸さんも泣いたらしい。(天帝妖狐の解説より)

乙一のすべてを堪能したいなら迷うことなく本書を選ぼう。

 

 

2位  GOTH(2002年)

 

 森野が拾ってきたのは、連続殺人鬼の日記だった。学校の図書館で僕らは、次の土曜日の午後、まだ発見されていない被害者の死体を見物に行くことを決めた…。触れれば切れるようなセンシティヴ・ミステリー。

 

乙一による"僕"と"夜"を主役とした連作短編ミステリである。あまり推理作家というイメージがない乙一作品の中では、最も本格推理小説としての側面が強く、本格ミステリ大賞を受賞している。

この本の特徴は何と言っても"僕"と"夜"のキャラが最高過ぎることに尽きる。元々はラノベとして書かれているため、ブッ飛んだキャラである2人の絡みは激萌だ。

推理小説を読み慣れていない人を感激させ、本格ミステリの世界に入門させるのにはもってこいの作品で、推理小説でよく使われる"あのトリック"に本作で初めて触れる方もいるかもしれない。黒乙一作品に特有のショッキングなグロ描写があるので、グロが苦手な方にはダメージがでかいかもしれないがそれでも強引におすすめしたい。

文庫本の順番よりも単行本の順番で読んだ方が確実に面白いと思うが、文庫で読む場合は「夜の章」→「僕の章」の順番で読まないと後悔することになるので気をつけてほしい。ちなみに番外編も素晴らしい。

 

電子書籍でよいなら合本版が激安なので超おすすめ

 

1位  暗いところで待ち合わせ(2002年)

 

視力をなくし、独り静かに暮らすミチル。職場の人間関係に悩むアキヒロ。駅のホームで起きた殺人事件が、寂しい二人を引き合わせた。犯人として追われるアキヒロは、ミチルの家へ逃げ込み、居間の隅にうずくまる。他人の気配に怯えるミチルは、身を守るため、知らない振りをしようと決める。奇妙な同棲生活が始まった―。書き下ろし小説。

 

貴重な白乙一の長編である。

殺人事件の容疑者になった主人公の男が、事件現場の付近にある盲目の女性の家に潜伏するという奇妙な同棲生活を描いた異様な作品で、まさに乙一にしか書けない至高の一品になっている。

事件の真相も気になるが、なにより素晴らしいのは同棲生活を送る2人が接近していく過程である。せつなさの名手と言われる乙一氏は数々のせつない傑作を発表しているが、本作はせつなさのさらに一歩先に到達しており、最高の読後感が約束されている。

250ページ程度の長さなので読書慣れしていない人でも読みやすく、本を読まない人を読書沼に引きずり込む最強の布教兵器と言えるだろう。

 

 

まとめ

貴志祐介|作品一覧とおすすめランキング17選

万能の神作家

寡作ではあるものの、あらゆる作品が大傑作という稀代のエンタメ作家・貴志祐介

ホラー作家としてデビューし異なるタイプの大傑作ホラーを連発しつつも、『青の炎』や『硝子のハンマー』といったミステリー作品、さらにはSFの『新世界より』やサスペンスの『悪の教典』などジャンルを選ばずひたすら傑作のみを書き続けている。

いったいどうしたらこんな傑作を書き続けられるのか....きっと神様だからなのだろうと畏敬の念を抱かずにはいられない。そんな神作家・貴志祐介の作品について、畏れながらも布教すべく作品をランキングで紹介したい。

 

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こんな傑作ばかり書いてたらドヤ顔もしたくなるもんでしょう

 

作品一覧

傑作ばかりなので文句は言えないが、いくら何でも寡作過ぎるだろ!とツッコミを入れたくなるほどである。

とはいえ読者としては微妙な作品連発する多作な作家よりは、寡作だが超傑作のみという作家の方がいいのではなかろうか。寡作でやっていけている事実こそ、貴志祐介の実力の証明だろう。

 

小説

エッセー

  • 極悪鳥になる夢を見る(2013年)

その他

  • エンタテインメントの作り方(2015年)
    この本は非常におすすめの1冊。
    貴志作品の裏話がてんこ盛りで、作家志望でなくても楽しめる。
     

 

作品ランキング

貴志作品は様々なジャンルがあるため、人によって評価はまったく異なったものにだろう。『黒い家』が好きな人と『青の炎』が好きな人では、同じ貴志祐介を崇拝する一神教なのにキリスト教徒とイスラム教徒くらい気が合わないと思われる。

そのため先にことわっておくと、私はSFや広義のミステリー、ホラーが好みのタイプである。そんな嗜好を持った人間の評価だと考えていただきたい。

 

17位  狐火の家(2008年)

 

長野県の旧家で、中学3年の長女が殺害されるという事件が発生。突き飛ばされて柱に頭をぶつけ、脳内出血を起こしたのが死因と思われた。現場は、築100年は経つ古い日本家屋。玄関は内側から鍵がかけられ、完全な密室状態。第一発見者の父が容疑者となるが…(「狐火の家」)。表題作ほか計4編を収録。防犯コンサルタント(本職は泥棒?)榎本と、美人弁護士・純子のコンビが究極の密室トリックに挑む、防犯探偵シリーズ、第2弾。

 

防犯探偵シリーズ第2弾で『硝子のハンマー』と違い短編集になっている。

寡作な貴志祐介が長年温めてきたであろうネタを放出しているので、個々の作品のクオリティは非常に高い。表題作は悲惨さにあきれてしまうし、個人的にトリックが一番好きな『黒い牙』など読みどころが多い。4話目はユーモア全開でこちらも著者らしい。

神傑作を連発する著者だけにこの順位にしているが、プロの推理作家が束になっても敵わないくらいの品質である。

 

 

16位  鍵のかかった部屋(2011年)

 

元・空き巣狙いの会田は、甥が練炭自殺をしたらしい瞬間に偶然居合わせる。ドアにはサムターン錠がかかったうえ目張りまでされ、完全な密室状態。だが防犯コンサルタント(本職は泥棒!?)の榎本と弁護士の純子は、これは計画的な殺人ではないかと疑う(「鍵のかかった部屋」)。ほか、欠陥住宅の密室、舞台本番中の密室など、驚天動地の密室トリック4連発。あなたはこの密室を解き明かせるか!?防犯探偵・榎本シリーズ、第3弾。

 

相変わらず手堅い完成度の密室事件を扱った本格推理短編集。

好みの問題かと思えなくもないが、『狐火の家』の方が全体的にトリックは良いかなぁと思いつつも、個人的にはおふざけMAXな「密室劇場」が収録されたこちらを推す(笑)

表題作は密室事件を扱った本格推理小説の中でもかなり完成度の高い作品と言われているらしく、新本格系とは一味違った極めてリアリティのあるトリックで実践できてしまうのではないかと思ってしまうほどである。

 

 

15位  秋雨物語(2022年)

 

失踪した作家・青山黎明が遺した原稿。それは彼を長年悩ませる謎の転移現象の記録だった。転移に抵抗する青山だったが、更なる悪夢に引きずり込まれていく(「フーグ」)。ある呪いを背負った青年の生き地獄、この世のものとは思えないある絶唱の記録など、至高のホラー4編による絶望の連作集。『黒い家』『天使の囀り』『悪の教典』……いくつもの傑作を生み出した鬼才・貴志祐介が10年以上にわたり描き続けた新シリーズが遂にベールを脱ぐ。

 

ホラーやSF寄りの作品が4作品収録されており、オカルト要素も多い。

さすがは神作家だけあって4作品ともに非常にクオリティは高く、特に「フーグ」は超能力オカルト話なので、そっち系が好きな方は楽しめるだろう。結末も強烈。

やはり貴志祐介は凄いなぁ...としみじみ思いながらも、短編であるが故の物足りなさを感じてしまったのが難点か。

 

 

14位  雀蜂(2013年)

 

11月下旬の八ヶ岳。山荘で目醒めた小説家の安斎が見たものは、次々と襲ってくるスズメバチの大群だった。昔ハチに刺された安斎は、もう一度刺されると命の保証はない。逃げようにも外は吹雪。通信機器も使えず、一緒にいた妻は忽然と姿を消していた。これは妻が自分を殺すために仕組んだ罠なのか。安斎とハチとの壮絶な死闘が始まった―。最後明らかになる驚愕の真実。ラスト25ページのどんでん返しは、まさに予測不能!

 

角川ホラー文庫から出ているがホラー要素はほとんどなく、ユーモラスかつスリリングなサスペンスミステリーといった作風である。

重厚な長編が魅力的な貴志作品においてやや物足りなさはあるものの、最後まで読んでから思わず振り返りたくなるおもしろ要素があり私は”思い出し笑い”ならぬ”思い返し笑い”をしてしまった。

本作を駄作という意見が目立つがエンタメ小説として抜群におもしろく、貴志作品に共通する圧倒的なリーダビリティの高さとページ数が少ないこともあり、とても読みやすいので読書慣れしていない人にもおすすめだ。

 

 

13位  我々は、みな孤独である(2020年)

 

探偵・茶畑徹朗の許にもたらされた、奇妙な依頼。「前世で自分を殺した犯人を捜してほしい」と言う依頼人・正木栄之介は八十歳に近いが、一代で企業を築き上げた傑物らしく未だ矍鑠としている。前世など存在しないと考える茶畑と助手の毬子は適当に話を合わせて報酬を得ようとするが、調査を進めるにつれ、次第に自分たちも前世の記憶としか思えない鮮明な夢を見るようになり──。鬼才が今描く死生観とは⁉ 未体験、未曾有のエンターテインメント! (巻末 著者インタビュー)

 

エンタメとして面白いことは確かだが、かなり人を選ぶ作風である。

過去最高レベルの暴力描写もさることながら、内容が一筋縄ではいかないことが賛否両論となる原因だろう。 貴志祐介の思想がまずありきで、その思想を伝えるべく物語を用意した感もあるくらい言いたいことを言っている。もう哲学書と言っても過言ではない。

やたら早く文庫化されたので、やはり一般受けしなくて早急に広めたかったのかなぁ...なんて思いつつ、文庫版オマケの巻末インタビューを読んでみるととても良かったので、文庫版がおすすめ。

 

 

12位  ミステリークロック(2020年)

 

犯人を白日のもとにさらすために――防犯探偵・榎本と犯人たちとの頭脳戦。様々な種類の時計が時を刻む晩餐会。主催者の女流作家の怪死は、「完璧な事故」で終わるはずだった。そう、居あわせた榎本径が、異議をとなえなければ……。表題作ほか、斜め上を行くトリックに彩られた4つの事件。

 

防犯探偵シリーズの4作目。文庫版ではタイトルを変えて『ミステリークロック』と『コロッサスの鉤爪』で二分冊されている。

貴志作品だけあって短編でも相変わらず作品のクオリティは高く、「ミステリークロック」にいたっては、コアなミステリファンではない私にとっては凄過ぎてよく分からんというレベルであった(ちなみにミステリファンでもよく分からなかったそうな)

個人的にはユーモラスな「ゆるやかな自殺」が分かりやすくて面白く、分冊版の表題作になった「コロッサスの鉤爪」も気合が入っていてとても好印象だった。防犯探偵シリーズの短編集の中では、今のところ一番完成度の高いと思う。

 

 

11位  罪人の選択(2020年)

 

「夜の記憶」――『十三番目の人格‐ISOLA‐』『黒い家』で本格デビュー前に書かれた貴重な一編。水生生物の「彼」は、暗黒の海の中で目覚め、「町」を目指す。一方三島暁と織女の夫婦は、南の島のバカンスで太陽系脱出前の最後の時を過ごす。二つの物語が交錯するとき、貴志祐介ワールドの原風景が立ち上がる。


「呪文」――『新世界より』刊行直後の発表。文化調査で派遣された金城は、植民惑星『まほろば』に降り立った。目的は、この惑星で存在が疑われる諸悪根源神信仰を調べるためだ。これは、集団自殺や大事故などを引き起こす危険な信仰で、もしその存在が認められたら、住民は抹殺される。金城は『まほろば』の住民を救おうとするが……。


「罪人の選択」――1946年8月21日、磯部武雄は佐久間茂に殺されようとしていた。佐久間が戦争に行っている間に、磯部が佐久間の妻を寝取ったからだ。磯部の前に出されたのは一升瓶と缶詰。一方には猛毒が入っている。もしどちらかを口にして生き延びられたら磯部は許されるという。果たして正解は?


「赤い雨」――新参生物、チミドロによって地球は赤く蹂躙された。チミドロの胞子を含む赤い雨が世界各地に降り注ぎ、生物は絶滅の危機にあった。選ばれた人間だけが入れるドームに、成績優秀のためスラムから這い上がった橘瑞樹は、不可能と言われた未知の病気RAINの治療法を探る。

 

表題作のみ本格推理小説よりのミステリーで残りはすべてSF作品という短編集。

デビュー前に書かれたという「夜の記憶」はわけわかめ(笑)だが、それ以外の作品は3作ともとても完成度が高い。特に「呪文」と「赤い雨」は短編で終わらせるにはずいぶん贅沢な設定である。

貴志といったら長編だと考えているが、『罪人の選択』は読みごたえがあるため、短編とは思えない読後感に浸れるだろう。(....であるが故に「赤い雨」あたりは長編に話を広げてほしかったという想いがある)

 

 

10位  梅雨物語(2023年)

 

貴志祐介が描くホラーミステリの極北 。あなたの罪が、あなたを殺す。
・命を絶った青年が残したという一冊の句集。元教師の俳人・作田慮男は教え子の依頼で一つ一つの句を解釈していくのだが、やがて、そこに隠された恐るべき秘密が浮かび上がっていく。(「皐月闇」)
・巨大な遊廓で、奇妙な花魁たちと遊ぶ夢を見る男、木下美武。高名な修験者によれば、その夢に隠された謎を解かなければ命が危ないという。そして、夢の中の遊廓の様子もだんだんとおどろおどろしくなっていき……。(「ぼくとう奇譚」)
・朝、起床した杉平進也が目にしたのは、広い庭を埋め尽くす色とりどりの見知らぬキノコだった。輪を描き群生するキノコは、刈り取っても次の日には再生し、杉平家を埋め尽くしていく。キノコの生え方にある規則性を見いだした杉平は、この事態に何者かの意図を感じ取るのだが……。(「くさびら」)
想像を絶する恐怖と緻密な謎解きが読者を圧倒する三編を収録した、貴志祐介真骨頂の中編集。

 

ホラー、サスペンス、ミステリにオカルト要素が入った短編集。

収録作品はいずれも洗練された完成度を誇っており、長編で読みたかった....とは思うこともなく、読めば貴志作品の魅力が凝縮されまくっていることに気付くだろう。

とにかくクオリティが高い本作品集にあって「くさびら」は貴志作品にはめずらしく、涙腺にダメージを与えるタイプの話であり、オカルト要素、ミステリ要素と相まって個人的には貴志史上最強クラスの短編だと思う。

 

 

9位  黒い家(1997年)

 

若槻慎二は、生命保険会社の京都支社で保険金の支払い査定に忙殺されていた。ある日、顧客の家に呼び出され、期せずして子供の首吊り死体の第一発見者になってしまう。ほどなく死亡保険金が請求されるが、顧客の不審な態度から他殺を確信していた若槻は、独自調査に乗り出す。信じられない悪夢が待ち受けていることも知らずに……。恐怖の連続、桁外れのサスペンス。読者を未だ曾てない戦慄の境地へと導く衝撃のノンストップ長編。第4回日本ホラー小説大賞受賞作。

 

1番怖いホラー小説だと言う人も多い角川ホラー小説大賞受賞作。

生命保険会社の社員である主人公が、ヤバイ人に関わったことで執拗に命を狙われるという話だが、著者自身が生命保険会社で働いていたということもあり、臨場感満載の描写となっている。

サイコパスについて相当な調査をされたと思われるほど菰田夫妻の人格が深く描かれており、サイコパスについての知識が深まることも間違いない。

世の中関わってはいけない人は大勢いるが(関わりたくない人もいるけど.....)、菰田夫妻は実際に近くにいたらおしまい級の危険人物だ。

 

 

8位  十三番目の人格 ISOLA(1996年)

 

賀茂由香里は、人の強い感情を読みとることができるエンパスだった。その能力を活かして阪神大震災後、ボランティアで被災者の心のケアをしていた彼女は、西宮の病院に長期入院中の森谷千尋という少女に会う。由香里は、千尋の中に複数の人格が同居しているのを目のあたりにする。このあどけない少女が多重人格障害であることに胸を痛めつつ、しだいにうちとけて幾つかの人格と言葉を交わす由香里。だがやがて、十三番目の人格〈ISOLA〉の出現に、彼女は身も凍る思いがした。

 

貴志先生のデビュー作で、角川ホラー小説大賞佳作受賞作。

デビュー作には著者のすべてが入っていると言われるが、本作では著者の心理学やオカルトへの博識さがひしひしと伝わってくる。

人の心が聞こえてくるエンパスという能力を持った主人公が阪神大震災の被災地にボランティア活動をしている時に多重人格の少女に出会い、十三番目の人格 ISOLAの驚愕の正体を知ることになるという話。

作品のテーマやISOLAの正体など、オカルトの類が好きな方であればまず間違いなく好きになる作品である。

 

 

7位  硝子のハンマー(2004年)

 

日曜日の昼下がり、株式上場を間近に控えた介護サービス会社で、社長の撲殺死体が発見された。エレベーターには暗証番号、廊下には監視カメラ、窓には強化ガラス。オフィスは厳重なセキュリティを誇っていた。監視カメラには誰も映っておらず、続き扉の向こう側で仮眠をとっていた専務が逮捕されて……。弁護士・青砥純子と防犯コンサルタント・榎本径のコンビが、難攻不落の密室の謎に挑む。日本推理作家協会賞受賞作。

 

防犯探偵シリーズの1作目で、シリーズ唯一の長編作品である。

その年の最も優れたミステリー小説に与えられる、日本推理作家協会賞を受賞した作品だけあって非常に優れた密室殺人モノの推理小説である。

だが本作の本当に凄いところはその構成にある。

構成について触れること自体がネタバレになりかねないので書かないが、この本が長いことには意味がある。貴志のストーリーテラーとしての才能を堪能しよう。

推理小説に興味がない人でも100%楽しめることを保証する。

 

 

6位  青の炎(1999年)

 

櫛森秀一は湘南の高校に通う17歳。女手一つで家計を担う母と素直で明るい妹との3人暮らし。その平和な家庭に、母が10年前に別れた男、曾根が現れた。曾根は秀一の家に居座って傍若無人に振る舞い、母の体のみならず妹にまで手を出そうとする。警察も法律も家族の幸せを取り返してはくれないことを知った秀一は決意した。自らの手で曾根を葬り去ることを……。完全犯罪に挑む少年の孤独な戦い。その哀切な心象風景を精妙な筆致で描き上げた、日本ミステリー史に残る感動の名作。

 

優れた倒叙ミステリー(犯人目線で描かれるミステリー)であると同時に、せつなさが溢れる青春小説の大傑作でもある。

本作を貴志作品のベストに挙げる方も多いと思われる万人向けの作品だ。

青春小説としても非常に素晴らしい完成度を誇り、これまでホラー作品を上梓し続けてきた作家とは到底思えないほどである。

脳内に再生される湘南の情景が美しくそして儚い。

 

 

5位  悪の教典(2010年)

 

晨光学院町田高校の英語教師、蓮実聖司はルックスの良さと爽やかな弁舌で、生徒はもちろん、同僚やPTAから信頼され彼らを虜にしていた。そんな〝どこから見ても良い教師〟は、実は邪魔者は躊躇いなく排除する共感性欠如の殺人鬼だった。少年期、両親から始まり、周囲の人間をたいした理由もなく次々と殺害してきたサイコパス。美形の女生徒をひそかに情婦とし、同僚の弱みを握って脅迫し、〝モリタート〟の口笛を吹きながら、放火に殺人にと犯行を重ねてゆく。社会から隔絶され、性善説に基づくシステムである学校に、サイコパスが紛れこんだとき――。

 

黒い家のサイコキラーよりも遥かに戦闘能力の高い化け物、高校の英語教師ハスミンによる恐怖のサイコパスストーリー。

文庫本で上下巻に別れる大長編だが、上巻はブラックユーモアを匂わせつつハスミンが邪魔者をひっそりと抹殺していく傑作サスペンス、下巻は自分の利益のために生徒全員を皆殺しにするという阿鼻叫喚の地獄絵図が展開される。

流麗な筆致は数ある貴志作品の中でも最高峰のリーダビリティを誇り、徹夜を覚悟しなければならない。

ハスミンは最悪の外道だが、目的のためには手段を選ばない高い問題解決力は学ぶことも多い.....のかもしれない。

 

 

4位  天使の囀り(1998年)

 

北島早苗は、終末期医療に携わる精神科医。恋人の高梨は、病的な死恐怖症(タナトフォビア)だったが、新聞社主催のアマゾン調査隊に参加してからは、人格が異様な変容を見せ、あれほど怖れていた『死』に魅せられたように自殺してしまう。さらに、調査隊の他のメンバーも、次々と異常な方法で自殺を遂げていることがわかる。アマゾンでいったい何が起きたのか? 高梨が死の直前に残した「天使の囀りが聞こえる」という言葉は、何を意味するのか? 前人未踏の恐怖が、あなたを襲う。

 

グロホラーの超傑作。私は本作を読んで貴志祐介のファンになるとともに、小説でしか楽しめない映像化不可能な要素が存在することを知った。

作品の圧倒的なクオリティーとこれは映像化したら大変なことになるな.....と思わざるをえない最悪のグロ表現にド肝を抜かれたものだ。

作中常に漂う不穏な雰囲気、おぞましい人の死に様の数々、ヤバ過ぎて何も言えない地獄の浴場。かなり人を選ぶ作品だが怖いものが見たい方にはおすすめしたい。

 

 

3位  ダークゾーン(2011年)

 

暗闇の中、赤い怪物として目覚めたプロ棋士を目指す塚田は、「青の軍勢」と戦えと突然命じられる。周囲には、やはり怪物と化した恋人や友人たちが、塚田が将となった「赤の軍勢」の駒として転生していた。将棋のようなルールのもと、特殊能力を駆使し、知恵と駆け引きで敵の王将を狙う「赤VS青」、異形同士の七番勝負が始まった。異次元空間で繰り広げられる壮絶な“対局”の行方は?衝撃のバトルエンターテインメント開戦。

 

SF色濃厚な謎の異世界で行われるデスゲーム作品。

将棋をベースとした知略の限りを尽くした戦闘は極めて秀逸であり、戦闘と戦闘の合間に描かれる現実世界の青春ストーリーも心理描写がしっかとしていいてリアリティがある。また謎に包まれた異世界の正体などミステリー作品としても優れている。

軍艦島を舞台とした世界観から放たれる儚い雰囲気と物語の秘密によるせつなさは、貴志作品でも最高峰である。

また将棋を含めシミュレーションゲーム好きは絶対に読むべき1冊。

 

 

2位  クリムゾンの迷宮(1999年)

 

藤木芳彦は、この世のものとは思えない異様な光景のなかで目覚めた。視界一面を、深紅色に濡れ光る奇岩の連なりが覆っている。ここはどこなんだ? 傍らに置かれた携帯用ゲーム機が、メッセージを映し出す。「火星の迷宮へようこそ。ゲームは開始された……」それは、血で血を洗う凄惨なゼロサム・ゲームの始まりだった。『黒い家』で圧倒的な評価を得た著者が、綿密な取材と斬新な着想で、日本ホラー界の新たな地平を切り拓く、傑作長編。

 

デスゲームの超絶傑作。
読み始めたら読み終わるまで何も手につかなくなってしまうのは確実だろう。

目が覚めるとそこは地球とは思えないような正体不明の地。
そこで理由も分からず、同じく謎の地に連れてこられた人間とデスゲームを繰り広げることになる。

正体不明の地の謎、未知の環境でのサバイバル、デスゲームに現れる恐怖の化物.....どこをとってもエンタメの最高峰だと断言したい。

グロいシーンもあるが万人に読んでほしい作品だ。

 

〇個別紹介記事

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1位  新世界より(2008年)

 

1000年後の日本。豊かな自然に抱かれた集落、神栖(かみす)66町には純粋無垢な子どもたちの歓声が響く。周囲を注連縄(しめなわ)で囲まれたこの町には、外から穢れが侵入することはない。「神の力(念動力)」を得るに至った人類が手にした平和。念動力(サイコキネシス)の技を磨く子どもたちは野心と希望に燃えていた……隠された先史文明の一端を知るまでは。

 

圧倒的に面白い小説しか書かない貴志神の中でもダントツの一位に君臨するのが、日本SF大賞受賞作の『新世界より』である。

超長編ゆえ読むのを躊躇する人もいるかと思うが、そんな不安は杞憂に過ぎない。

SFでありファンタジーであり、高品質なホラーでもあり学園、青春、バトル......そしてエロと多数の要素を持ちながらもそのすべてがパーフェクト。

貴志作品は心理学や脳科学に関連のテーマが多いが(多重人格、サイコパスetc...)、本書はそのテーマを内包する作品としても最高傑作だ。

数えきれないほどの本を読んできたが『新世界より』は間違いなく生涯最高の作品である。

 

〇個別紹介記事

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新刊が全然出ないんですけど...

何はともあれ幅広い作風ゆえに、作品によっては好き嫌いが分かれるだろうが、この記事が何から読めば良いか悩んでいる人の参考になれば幸いである。

 

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飴村行|作品一覧とおすすめランキング9選

粘膜ワールドを築き上げた変態大元帥

作品一覧

 唯一無二の世界観を築き上げているだけに、他の作家が贋作を創りえないという事情から、飴村閣下ほど新作が待ち遠しい作家はこの世に存在しないのだが、寡作ゆえに読者の欲求不満を煽るという粘膜SMプレイがなされている。

 代表作である『粘膜シリーズ』の他にも傑作が多く、またシリーズ外の作品もエログロや軍国主義といったキーワードは共通している。

 

粘膜シリーズ

  1. 粘膜人間(2008年)
  2. 粘膜蜥蜴(2009年)
  3. 粘膜兄弟(2010年)
  4. 粘膜戦士(2012年)
  5. 粘膜探偵(2018年)

 

作品ランキング

 作家によってはどれも甲乙付け難く格付けに苦慮する場合があるのだが、飴村閣下の作品はランキングがとても付けやすかった。なぜなら閣下に求めているものが定まっているためである。

求めているものとは物語の面白さ、エログロ、バイオレンス、独自の世界観、ギャグであるため、そういった要素が総合的に高いものを高評価としている。

 

九位  ジムグリ(2015年)

 

〇単行本あらすじ

X県山間の町。そこには虻狗隧道(あぶくずいどう)と呼ばれる謎の洞窟があり、〈モグラ〉と称される住民が住んでいた。
故郷と訣別して町に引っ越してきた男は、紹介されたツチヘビの食品加工場で働き、美しい女性と知り合って結婚した。だが、ある日、妻は「トンネルにまいります」との書き置きを残して失踪する。男は妻を探そうと動き出すのだが……。
読み出したら止まらない、読書の醍醐味に満ちた、至高の怪奇幻想小説

 

○文庫版あらすじ

闇を抱える美人妻が失踪した! 妻が向かった先は凶暴な種族〈モグラ〉が住む地下帝国。男は妻を連れ戻すことを決意するが……。エログロ小説の鬼才が描く、ダーク・ファンタジー長編。(解説/関根勤)

 

 粘膜シリーズと世界観が似ている怪奇幻想ダークファンタジー小説。駄作では決してないのだが、大風呂敷を広げて回収をし損った感は否めない。

面白い作品であることは間違いないが、他の作品よりは怪奇幻想の世界観に重点が置かれており、エンターテイメント作品としてはやや他の作品に劣る印象。

 ただし軍国主義的な飴村ワールドを粘膜シリーズと同等かそれ以上に味わうことができるというかなりマニアックな仕様になっているので、『粘膜シリーズ』を読み終えてしまった方におすすめ。

 なお単行本と文庫本で内容が大幅に違う。個人的には単行本の方が好み。

単行本の方がより飴村ワールド全開というメリットがある反面、とにかく話のテンポが悪く途中は結構グダグダというデメリットある。

文庫本は単行本の不評を解消したかのようにテンポが良く、エンタメ要素も強化されているが、肝心な飴村度が少し減退している。また原田ちあきによる装丁のイラストと関根勤による解説が素晴らしい。

 

ジムグリ

ジムグリ

  • 作者:飴村 行
  • 発売日: 2015/06/26
  • メディア: 単行本
 
ジムグリ (集英社文庫)

ジムグリ (集英社文庫)

  • 作者:飴村 行
  • 発売日: 2018/01/19
  • メディア: 文庫
 

 

八位  路地裏のヒミコ(2014年)

 

笑いに包まれた恐怖をご賞味あれ!

二十五年前に三人の死を予言し姿を消した、
百発百中の予言者「ヒミコのオッサン」。
漫画家志望の大輝と、ミュージシャン志望の茂夫は、
軽い気持ちで彼の行方と正体を探りはじめる。
当時をよく知る人々の取材をするうちに、
二人が辿りついたのは、想像を絶する恐怖の真相だった……。

「粘膜シリーズ」で人気沸騰中の飴村行が、
約二年間の沈黙を破って放つ、渾身の怪作。

 

 恋愛要素のある鬼畜ミステリー「水銀のエンゼル」と怪奇幻想ホラーの「路地裏のヒミコ」という方向性の違う中編2作構成である。

 個人的には表題作よりも「水銀のエンゼル」の方が断然面白いと思う。なんならもう少し話を膨らませて長編にしてほしかったくらいである。飴村流の恋愛小説には言うまでもなくヤバ気な仕掛けがあり、目も当てられないほど強烈な内容となっている。

 表題作は暗黒度の高い雰囲気や飴村氏の言葉のセンス(ヒミコのおっさんって...)が良いのだが、何だかよく分からんというのが本音。

 

路地裏のヒミコ

路地裏のヒミコ

  • 作者:飴村 行
  • 発売日: 2014/02/20
  • メディア: 単行本
 

 

七位  粘膜探偵(2018年)

 

 戦時下の帝都。14歳の鉄児は憧れの特別少年警邏隊に入隊した矢先、先輩のとばっちりを受け謹慎処分となってしまう。汚名返上に燃える彼は、巷で噂の保険金殺人事件を解決するため独自調査に乗り出すが……。軍部の思惑、昏々と眠る老女、温室で栽培される謎の植物、行方不明の少女――。すべてが交錯する時、忌まわしい企みが浮かび上がる。暴力と狂気が渦巻き、読む者の理性を抉り取る最凶の粘膜ワールド!

 

 粘膜シリーズの5作目で、前作から6年という長い年月が空いているためか、微妙にマイルドになっている.....と言いたいところだがそれでも十分に鬼畜なのでシリーズファンは安心して楽しむことができる。

 ミステリー要素はなかなか熱く、クトゥルフ神話っぽいネーミングがあったりラノベ的な展開があったりと、ある意味マニアック度は上がっているのかもしれないのだが、総じて読みやすいので粘膜デビューにもおすすめな一冊である。(粘膜探偵はこれ以前の粘膜シリーズを読んでいなくてもあまり支障がない。)

 ラストシーンは飴村作品らしからぬ締め方だが個人的には大歓迎だし、今後はぜひともこういう路線に走ってもらいたいという欲求もある。

 

粘膜探偵 (角川ホラー文庫)

粘膜探偵 (角川ホラー文庫)

  • 作者:飴村 行
  • 発売日: 2018/05/25
  • メディア: 文庫
 

 

六位  粘膜戦士(2012年)

 

 占領下の東南アジアの小国ナムールで、大佐から究極の命令を下された軍曹。抗日ゲリラ、ルミン・シルタと交戦中、重傷を負い人体改造された帰還兵。複雑な家庭事情を抱え想像を絶する悲劇に見舞われる爬虫人好きの無垢な少年。陸軍省の機密書類を盗み出そうとして捕らわれた2人の抗日分子。そして安住の地を求めて山奥に辿り着いた脱走兵……。戦時下で起こる不可思議な事件。目眩く謎と恐怖が迫る、奇跡のミステリ・ホラー!

 

 『粘膜シリーズ』の4作目で、鉄血/肉弾/石榴/極光/凱旋という5作の短編集である。

 凱旋は鉄血の続編であり『粘膜人間』のべかやんが主役の鬼畜拷問冒険小説だ。”男体股ぐら泉責め”というパワーワードが登場する(笑)。まったくもってやりたい放題のクソったれな作品だ。

 肉弾は『粘膜戦士』というタイトルのもとになった作品で、粘膜的なSF要素のあるクソエンタメ。ちょっとせつない。しかし発想はキチガイ地獄である。

 石榴は優れたミステリー作品で、飴村閣下が偏愛している○○が鍵となる。この人は一体どれだけ蜥蜴を愛しているのだろうか....。

極光は粘膜兄弟の"アノ人"と思われる方がすごいことになる作品。

前作までの『粘膜シリーズ』を読んでいることが前提になるが、いずれも短編ながらヘヴィ級の作品であり、粘膜世界全開である。

 

粘膜戦士 (角川ホラー文庫)

粘膜戦士 (角川ホラー文庫)

  • 作者:飴村 行
  • 発売日: 2012/02/25
  • メディア: 文庫
 

 

五位  粘膜黙示録(2016年)

 

 『粘膜人間』で華々しいデビューを遂げたホラー作家、飴村行。しかし、そこに至るまでは聞くものをみなドン引きさせるほどの苦難の日々があった。漫画家を目指し大学を中退するも、あっと言う間に挫折。癖のあり過ぎる人々に囲まれ、過酷な環境で働いた派遣工時代を、逆恨み精神満載で綴った爆笑エッセイ。現代版『蟹工船』がここにある!

 

 粘膜の名を関しているが『粘膜シリーズ』ではない。

私小説と言っても過言ではないくらい、アホバカで外道な面白すぎるエッセイである。

 飴村氏の波瀾万丈な半生は、ちょっと脚色して書いてしまえば、現代の『蟹工船』と言えるような凄絶な物語になるのだ。

粘膜人間たる飴村氏が小説家としてデビューするまでの地獄の生活を、ブッ飛びまくった面白いギャグを織り交ぜながら語られる涙の怪作。

 

粘膜黙示録 (文春文庫)

粘膜黙示録 (文春文庫)

  • 作者:飴村 行
  • 発売日: 2016/02/10
  • メディア: 文庫
 

 

四位  爛れた闇(2011年)

 

 あの「粘膜」シリーズを超える不条理とカタルシス!

学校の不良と母親が付き合い出し家に入り浸るようになったため生きる希望を失った高校生の正矢。記憶を失い独房に監禁されたうえに拷問を繰り返される謎の兵士。二人の意識がリンクした時、凄絶な運命の幕が開く!

 

 訳も分からず拷問され続ける軍人の話と現代日本の話が交互に描かれる、とても完成度の高い怪奇幻想ミステリー小説である。

2つの話にはどんな関連があるのか?そして正体不明の軍人はなぜ拷問され続けるのか?

 飴村氏は粘膜シリーズ以外でもやりたい放題書きまくっている。重くて暗い話だが、謎が気になって一気読み確実の変態鬼畜外道ミステリーである。

スペルマバーグ”や”ビッチコック”といった、名前を聞いただけでセンスの良い笑いを誘う裏ビデオ監督が登場する(笑)

 

爛れた闇 (角川ホラー文庫)

爛れた闇 (角川ホラー文庫)

  • 作者:飴村 行
  • 発売日: 2013/03/23
  • メディア: 文庫
 

 

三位  粘膜人間(2008年)

 

 「弟を殺そう」――身長195cm、体重105kgという異形な巨体を持つ小学生の雷太。その暴力に脅える長兄の利一と次兄の祐二は、弟の殺害を計画した。だが圧倒的な体力差に為すすべもない二人は、父親までも蹂躙されるにいたり、村のはずれに棲む“ある男たち”に依頼することにした。グロテスクな容貌を持つ彼らは何者なのか? そして待ち受ける凄絶な運命とは……。第15回日本ホラー小説大賞長編賞を受賞した衝撃の問題作。

 

 飴村氏のデビュー作であり、エログロ好きは死んでも読むべき1冊である。

中学生が考えそうなおバカ物語と変態エログロを、廃人文豪が本気を出して小説にしてしまったかのような異常な作品に仕上がっている。

 巨体で凶暴な小学生雷太を殺すため、2人の兄がその殺害を河童に依頼するというアホな話と、エログロ超全開のハイパー怪奇幻想ミステリーで構成されている。

とにかく面白いので、クソ文学に耐性がある方はぜひ手に取って頂きたい。

 生きた女のケツの穴から槍をぶっ刺して、口まで通して串刺しにしてみたいというリョナのあなたは絶対に読みなさいッ!!

 

粘膜人間 (角川ホラー文庫)

粘膜人間 (角川ホラー文庫)

  • 作者:飴村 行
  • 発売日: 2008/10/24
  • メディア: 文庫
 

 

二位  粘膜蜥蜴(2009年)

 

 国民学校初等科に通う堀川真樹夫と中沢大吉は、ある時同級生の月ノ森雪麻呂から自宅に招待された。父は町で唯一の病院、月ノ森総合病院の院長であり、権勢を誇る月ノ森家に、2人は畏怖を抱いていた。〈ヘルビノ〉と呼ばれる頭部が蜥蜴の爬虫人に出迎えられた2人は、自宅に併設された病院地下の死体安置所に連れて行かれた。だがそこでは、権力を笠に着た雪麻呂の傍若無人な振る舞いと、凄惨な事件が待ち受けていた…。

 

 『粘膜シリーズ』2作目。粘膜人間と比べて怪奇幻想やエログロが減少した代わりに、他のあらゆる面が超パワーアップしている。

 しかもその年の一番優れたミステリー小説に贈られる日本推理作家協会賞を受賞しているというミステリーとしても超一流なとんでも本である。

軍国主義の粘膜大日本帝国は本作から本領発揮しており、爬虫人やナムール国といった粘膜ワールドの代名詞も本作から登場する。「怨敵粉砕撃滅!!」といった国粋ワードも炸裂するようになる。

 冒険小説としても圧倒的に面白く、小説好きであれば誰にでもおすすめできる1作だ。

 

粘膜蜥蜴 (角川ホラー文庫)

粘膜蜥蜴 (角川ホラー文庫)

  • 作者:飴村 行
  • 発売日: 2009/08/22
  • メディア: 文庫
 

 

一位  粘膜兄弟(2010年)

 

 ある地方の町外れに住む双子の兄弟、須川磨太吉と矢太吉。戦時下の不穏な空気が漂う中、二人は自力で生計を立てていた。二人には同じ好きな女がいた。駅前のカフェーで働くゆず子である。美人で愛嬌があり、言い寄る男も多かった。二人もふられ続けだったが、ある日、なぜかゆず子は食事を申し出てきた。二人は狂喜してそれを受け入れた。だが、この出来事は凄惨な運命の幕開けだった……。待望の「粘膜」シリーズ第3弾!

 

 『粘膜シリーズ』3作目。ただでさえ面白すぎる『粘膜蜥蜴』に、強烈なギャグ要素と恋愛要素を追加して、エンタメ度をさらに高めたのが『粘膜兄弟』だ。

 我が生涯でも5本の指に入るほどの超絶傑作であり、これ以上ないほど人を選ぶ作風とはいえ、もっと有名になってほしいと願うものである。純粋なエンターテイメント作品としてはこれを超える作品には出会っていない。

 金玉拷問、腸がはみ出て死を待つ美女ビッチに死姦ならぬ死にかけ強姦というワードにピンと来たそこなあなた。

"くびとまらぼうをながくしてまってます

へるぷみー" へもやん

 

粘膜兄弟 (角川ホラー文庫)

粘膜兄弟 (角川ホラー文庫)

  • 作者:飴村 行
  • 発売日: 2010/05/22
  • メディア: 文庫
 

 

 

まとめ

 私は現在年間で300冊程度の小説を読むため小説好きを自認しても良いものだと思っているのだが、このようになるきっかけとなった作品が『粘膜シリーズ』なのである。

そういった意味で飴村閣下には感謝してもしきれないのだ。恩返しのためにも布教し続けていきたい。

 

東野圭吾|作品一覧とおすすめランキング10選

日本最強の売れっ子作家

発表する多くの作品は映画やドラマ化されているので、本にまったく興味が無い方であったとしても作品のタイトルを知らない人などまずいないはずだ。
 私自身小説なんてたまにしか読まない時代から名前だけは知っていた数少ない作家なのだが、私は売れっ子忌避症候群なる病に罹患しているようで、気にはなっていたものの東野作品は20年近くスルーしてしまっていた。
 だが、いわゆる新本格ムーブメントと呼ばれる一連の本格推理小説をある程度読んでいた時にふと東野圭吾の名を思い出し『仮面山荘殺人事件』を読んだら、「今まで読まなかったぼくちんのバカ...バカッ....!!」となるくらいの衝撃を受けたのである。
 それ以降ちょこちょこ東野圭吾の作品を読んでいたのだが、気が付けば気になる作品や代表作と呼ばれる作品は概ね読み終えていた。
東野圭吾は完成度の高い傑作が多い割に非常に多作な作家でもあるので、備忘録も兼ねておすすめ作品ランキングとしてまとめたい。
 

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イケてる人なのに見ると笑っちゃうのはなぜ...(笑)

 

作品一覧

 おそらく『容疑者Xの献身』(2005年)を発表する頃には一生遊べるくらいのお金を稼いでいたと思われるが、それでも作品を発表し続ける東野圭吾さんのストイックさには驚かされる。

 100冊近い東野作品の完全制覇はかなり大変だと思うが、傑作だらけなので少しずつ読んでいればいつも間にかコンプリートできてしまうかもしれない。

 

加賀恭一郎シリーズ

  1. 卒業―雪月花殺人ゲーム(1986年)
  2. 眠りの森(1989年)
  3. どちらかが彼女を殺した(1996年)
  4. 悪意(1996年)
  5. 私が彼を殺した(1999年)
  6. 嘘をもうひとつだけ(2000年)
  7. 赤い指(2006年)
  8. 新参者(2009年)
  9. 麒麟の翼(2011年)
  10. 祈りの幕が下りる時(2013年)

 

ガリレオシリーズ

  1. 探偵ガリレオ(1998年)
  2. 予知夢(2000年)
  3. 容疑者Xの献身(2005年)
  4. ガリレオの苦悩(2008年)
  5. 聖女の救済(2008年)
  6. 真夏の方程式(2011年)
  7. 虚像の道化師(2012年)
  8. 禁断の魔術(2012年)
  9. 沈黙のパレード(2018年)

 

天下一大五郎シリーズ

  1. 名探偵の掟(1996年)
  2. 名探偵の呪縛(1996年)

 

浪花少年探偵団シリーズ

  1. 浪花少年探偵団(1988年)
  2. 浪花少年探偵団2(1993年)
    【改題】しのぶセンセにサヨナラ―浪花少年探偵団・独立篇(1996年)

 

○笑小説シリーズ

  1. 怪笑小説(1995年)
  2. 毒笑小説(1996年)
  3. 黒笑小説(2005年)
  4. 歪笑小説(2012年)

 

マスカレードシリーズ

  1. マスカレード・ホテル(2011年)
  2. マスカレード・イブ(2014年)
  3. マスカレード・ナイト(2017年)

 

スキー場シリーズ

  1. 白銀ジャック(2010年)
  2. 疾風ロンド(2013年)
  3. 恋のゴンドラ(2016年)
  4. 雪煙チェイス(2016年)

 

ラプラスの魔女シリーズ

  1. ラプラスの魔女(2015年)
  2. 魔力の胎動(2018年)

 

ノンシリーズ長編作品

  1. 放課後(1985年)
  2. 白馬山荘殺人事件(1986年)
  3. 学生街の殺人(1987年)
  4. 11文字の殺人(1987年)
  5. 魔球(1988年)
  6. 香子の夢-コンパニオン殺人事件(1988年)
    【改題】ウインクで乾杯
  7. 十字屋敷のピエロ(1989年)
  8. 鳥人計画(1989年)
  9. 殺人現場は雲の上(1989年)
  10. ブルータスの心臓(1989年)
    【改題】ブルータスの心
  11. 宿命(1990年)
  12. 仮面山荘殺人事件(1990年)
  13. 変身(1991年)
  14. 回廊亭の殺人(1991年)
    【改題】回廊亭殺人事件
  15. ある閉ざされた雪の山荘で(1992年)
  16. 美しき凶器(1992年)
  17. 同級生(1993年)
  18. 分身(1993年)
  19. むかし僕が死んだ家(1994年)
  20. 虹を操る少年(1994年)
  21. パラレルワールド・ラブストーリー(1995年)
  22. 天空の蜂(1995年)
  23. 秘密 (1998年)
  24. 白夜行(1999年)
  25. 片想い(2001年)
  26. レイクサイド(2002年)
  27. トキオ(2002年)
  28. ゲームの名は誘拐(2002年)
  29. 手紙(2003年)
  30. おれは非情勤(2003年)
  31. 殺人の門(2003年)
  32. 幻夜(2004年)
  33. さまよう刃(2004年)
  34. 使命と魂のリミット(2006年)
  35. 夜明けの街で(2007年)
  36. ダイイング・アイ(2007年)
  37. 流星の絆(2008年)
  38. パラドックス13(2009年)
  39. カッコウの卵は誰のもの(2010年)
  40. プラチナデータ(2010年)
  41. ナミヤ雑貨店の奇蹟(2012年)
  42. 夢幻花(2013年)
  43. 虚ろな十字架(2014年)
  44. 人魚の眠る家(2015年)
  45. 危険なビーナス(2016年)
  46. 希望の糸(2019年)
  47. クスノキの番人(2020年)

 

ノンシリーズ短編作品

  1. 依頼人の娘(1990年)
    【改題】探偵倶楽部
  2. 犯人のいない殺人の夜(1990年)
  3. 交通警察の夜(1991年)
    【改題】天使の耳(1995年)
  4. 怪しい人びと(1994年)
  5. 超・殺人事件 推理作家の苦悩(2001年)
  6. あの頃の誰か(2011年)
  7. 素敵な日本人(2017年)

 

エッセイ

  1. あの頃僕らはアホでした(1995年)
  2. ちゃれんじ?(2004年)
  3. さいえんす?(2005年)
  4. 夢はトリノをかけめぐる(2006年)
  5. たぶん最後の御挨拶(2007年)

 

 

 

作品ランキング

 まだまだ未読の本は多いが、評判のいい本や個人的に気になる本からチョイスしていただけあって、現状の読了本はどれも異様にレベルが高い。

なのでミステリー好きであればどれを読んでも楽しめると思われるのだが、格付け依存症の私があくまでも好みでトップ10を決めてみたい。

 今後も東野作品はコンスタントに読み続けるだろうが、おそらくあまり順位に変更はないのではないかと思われる。そんな格付けとなった。

 

10位  むかし僕が死んだ家(1994年)

 

「あたしは幼い頃の思い出が全然ないの」。7年前に別れた恋人・沙也加の記憶を取り戻すため、私は彼女と「幻の家」を訪れた。それは、めったに人が来ることのない山の中にひっそりと立つ異国調の白い小さな家だった。そこで二人を待ちうける恐るべき真実とは……。超絶人気作家が放つ最新文庫長編ミステリ。

 

 東野圭吾の多才さに驚かされた作品で、ジャンルはミステリーというよりは怪奇幻想ホラーと言った方が正確かもしれない。推理小説のような驚きを楽しむものではなく、なんとも不気味な真相を味わうようなものかと思う。

 短いうえに登場人物も少なくてとても読みやというのも優れた点。

 

むかし僕が死んだ家 (講談社文庫)

むかし僕が死んだ家 (講談社文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 1997/05/14
  • メディア: 文庫
 

 

9位  名探偵の掟(1996年)

 

 完全密室、時刻表トリック、バラバラ死体に童謡殺人。フーダニットからハウダニットまで、12の難事件に挑む名探偵・天下一大五郎。すべてのトリックを鮮やかに解き明かした名探偵が辿り着いた、恐るべき「ミステリ界の謎」とは?本格推理の様々な“お約束”を破った、業界騒然・話題満載の痛快傑作ミステリ。

 

 本格推理小説マニアが読んだら怒るかもしれないが、推理小説好き程度の人が読めば爆笑必至の言語同断ミステリー(笑)

「あんたはエスパーか」と思わず唸るほどに"えせ推理小説好き"の心理を見透かしており、密室などの推理小説おなじみのキーワードをくそぼろにこき下ろすのは笑ってします。

 本格推理マニアにはぜひとも読んでもらいたい怪作。

 

名探偵の掟 (講談社文庫)

名探偵の掟 (講談社文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 1999/07/15
  • メディア: 文庫
 

 

8位  ある閉ざされた雪の山荘で(1992年)

 

 1度限りの大トリック!
たった1度の大トリック!劇中の殺人は真実か?
俳優志願の男女7人、殺人劇の恐怖の結末。

 

 いかにも本格推理小説なタイトルからして一発かましてやる感がぷんぷん漂っている。そしてやはり一発かましてくるのが著者のすごいところだろう。

 ありがちな吹雪の山荘モノのクローズドサークル東野圭吾が何を仕掛けるのかは、読んでみてのお楽しみである。 

『ある閉ざされた雪の山荘で』というタイトルからしていかにも”吹雪の山荘”型のクローズドサークルなのは、東野圭吾ならではの皮肉なのかもしれない。

 

ある閉ざされた雪の山荘で (講談社文庫)

ある閉ざされた雪の山荘で (講談社文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 1996/01/11
  • メディア: 文庫
 

 

7位  天使の耳(1991年)

 

天使の耳をもつ美少女が兄の死亡事故を解明。

深夜の交差点で衝突事故が発生。信号を無視したのはどちらの車か!?死んだドライバーの妹が同乗していたが、少女は目が不自由だった。しかし、彼女は交通警察官も経験したことがないような驚くべく方法で兄の正当性を証明した。日常起こりうる交通事故がもたらす人々の運命の急転を活写した連作ミステリー。

 

 交通事故にまつわる事件を扱った短編集で、一見地味な印象を持つかと思われるが、それぞれの作品がミステリーとしてやたらレベルが高いだけでなく、人間のダークな心理まで描かれている。

 信号無視、飛び出し、煽り運転など日常で起こりうる身近なテーマであるだけにとても臨場感があるのも高ポイント。

1話あたり50ページくらいの短編作品だというのに、作品どの作品もずっしりとした読みごたえがあり驚かされる。

 

天使の耳 (講談社文庫)

天使の耳 (講談社文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 1995/07/06
  • メディア: 文庫
 

 

6位  仮面山荘殺人事件(1990年)

 

 8人の男女が集まる山荘に、逃亡中の銀行強盗が侵入した。外部との連絡を断たれた8人は脱出を試みるが、ことごとく失敗に終わる。恐怖と緊張が高まる中、ついに1人が殺される。だが状況から考えて、犯人は強盗たちではありえなかった。7人の男女は互いに疑心暗鬼にかられ、パニックに陥っていった……。

 

 私が初めて読んだ東野作品の長編であり、華やかな新本格ムーブメントとは一味も二味も違った魅力を味わうことができた。

短めな尺の中でどんでん返しを連発させるだけでなく、気が付けばヒューマンドラマとしても楽しめているというすごい仕様である。

某世界で最も有名なミステリー小説のトリックが流用されているが、どんでん返しに次ぐどんでん返しラッシュは本家を知っている方でも、「うおぉーーー!!」と唸らされることは必至である。

 

仮面山荘殺人事件 (講談社文庫)

仮面山荘殺人事件 (講談社文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 1995/03/07
  • メディア: 文庫
 

 

5位  超・殺人事件 推理作家の苦悩(2001年)

 

 新刊小説の書評に悩む書評家のもとに届けられた、奇妙な機械「ショヒョックス」。どんな小説に対してもたちどころに書評を作成するこの機械が、推理小説界を一変させる――。発表時、現実の出版界を震撼させた「超読書機械殺人事件」をはじめ、推理小説誕生の舞台裏をブラックに描いた危ない小説8連発。意表を衝くトリック、冴え渡るギャグ、そして怖すぎる結末。激辛クール作品集。

 

 ギャグ小説かと思いきや、思った通りのただのギャグ小説なのだが(笑)扱っているネタがあまりにも強烈で、出版業界にとっては自虐テロのようなものであろう。

当然のごとく評価が分かれている作品のようだが、ネタとして純粋に楽しむ分には最高の一品であり、推理小説だけでなく小説そのものが好きな方であればブラックユーモアに噴き出すこと間違いなしである。

 またふざけた作品であることは間違いないはずだが、おそらく東野圭吾は本作を書くのにかなりの労力を費やしたと思わざるを得ないような、出版業界の裏話的な蘊蓄がもりもりである。

 

超・殺人事件―推理作家の苦悩 (新潮文庫)

超・殺人事件―推理作家の苦悩 (新潮文庫)

 

 

4位  容疑者Xの献身(2005年)

 

天才数学者でありながら不遇な日々を送っていた高校教師の石神は、一人娘と暮らす隣人の靖子に秘かな想いを寄せていた。彼女たちが前夫を殺害したことを知った彼は、2人を救うため完全犯罪を企てる。だが皮肉にも、石神のかつての親友である物理学者の湯川学が、その謎に挑むことになる。ガリレオシリーズ初の長篇、直木賞受賞作。 

 

 数々のミステリーの賞を受賞した上に直木賞まで受賞してしまった化け物級の作品だ。

犯人が初めから分かっている倒叙ミステリーなのだが、基本的にはヒューマンドラマとして楽しむべき作品だと思.......いきや「なにぃィーーーー!?」という推理小説ならではの驚きが待っているという非の打ち所がない作品である。

 万人向け且つ推理小説マニアにも響くというのがすごい。

これほど売れまくって当然な本は早々お目にかかれないのだが、結末は結構なツッコミどころがあるように思うのだが、こんな感じが一番世の人々の心に響くのだろう。

 

容疑者Xの献身 (文春文庫)

容疑者Xの献身 (文春文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 2008/08/05
  • メディア: 文庫
 

 

3位  悪意(1996年)

 

人はなぜ人を殺すのか。
東野文学の最高峰。
人気作家が仕事場で殺された。第一発見者は、その妻と昔からの友人だった。
逮捕された犯人が決して語らない「動機」とはなんなのか。
超一級のホワイダニット

 

 ホワイダニットに特化した希少な推理小説なのだが、その完成度が尋常ではなく、いったいこの東野圭吾という男は何者なんだという疑問が湧きまくった作品である。

 本格推理小説にはあまり動機に焦点を置いた作品は多くないと思われるので、興味本位で読んでみてもまず後悔することはない。

 ちなみに犯人がもちいたトリックも地味に気合が入っているので、ハウダニットとしてもちゃんと楽しめるのもミステリー作家としての力量だろう。

 

悪意 (講談社文庫)

悪意 (講談社文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 2001/01/17
  • メディア: 文庫
 

 

2位  秘密(1998年)

 

運命は、愛する人を二度奪っていく。
自動車部品メーカーで働く39歳の杉田平介は妻・直子と小学5年生の娘・藻奈美と暮らしていた。長野の実家に行く妻と娘を乗せたスキーバスが崖から転落してしまう。 妻の葬儀の夜、意識を取り戻した娘の体に宿っていたのは、死んだはずの妻だった。 その日から杉田家の切なく奇妙な“秘密"の生活が始まった。 外見は小学生ながら今までどおり家事をこなす妻は、やがて藻奈美の代わりに 新しい人生を送りたいと決意し、私立中学を受験、その後は医学部を目指して共学の高校を受験する。年頃になった彼女の周囲には男性の影がちらつき、 平介は妻であって娘でもある彼女への関係に苦しむようになる。

 

 読んだ動機は日本推理作家協会賞の受賞作であること。

しかしはっきり言ってミステリーとして読むような本ではなく、ヒューマンドラマとして楽しむべき作品だろう。また設定上SFやファンタジー要素もある。

よくよく考えると「ん...?」となってしまうのだが、この辺は読者の性別によって感じ方も異なってくるように思う。

 ミステリー好きとして東野圭吾を読むような人には、最初に読む一冊としてはちょっとミーハー(死後)かもしれないが、そうでない人ならこれを最初に読むのがいいかもしれない。

 

秘密 (文春文庫)

秘密 (文春文庫)

 

 

1位  白夜行(1999年)

 

1973年、大阪の廃墟ビルで一人の質屋が殺された。容疑者は次々と浮かぶが、事件は迷宮入りする。被害者の息子・桐原亮司と「容疑者」の娘・西本雪穂――暗い目をした少年と、並外れて美しい少女は、その後、全く別の道を歩んでいく。二人の周囲に見え隠れする、いくつもの恐るべき犯罪。だが、証拠は何もない。そして19年……。伏線が幾重にも張り巡らされた緻密なストーリー。壮大なスケールで描かれた、ミステリー史に燦然と輝く大人気作家の記念碑的傑作。


 ジャンルはノワール。好きな作家に東野圭吾を掲げることに抵抗が無くなった作品である。なぜならこんな小説は神に選ばれし者にしか書けないからだ。

 非常に長い小説であるものの、この本に関して言えば長さは気にならないというか、むしろ無限に読んでいたいと思えるレベルである。

 全体の構成といい、主役二人が一度も主観にならない書き方といい超絶技巧としか言いようがない。ここに理系の本気が表れているようにも思う。

これを読まずに生きていくなんて人生の損失だと言っても過言ではない。

 

白夜行 (集英社文庫)

白夜行 (集英社文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 2002/05/25
  • メディア: 文庫
 

 

番外編  怪笑小説(1995年)

 

年金暮らしの老女が芸能人の“おっかけ”にハマリ、乏しい財産を使いはたす「おっかけバアさん」をはじめ、ちょっとブラックで、怖くて、何ともおかしい人間たち!多彩な味つけの9編。

 

 冒頭にも書かせていただいたが、私は京極夏彦氏が本作に収録されている「超たぬき理論」というおバカオカルト小説で東野作品デビューをして、この作品のあまりの面白さに腹筋崩壊した経緯がある。もちろん一発でファンになった。

 個人的には伝説となった「超たぬき理論」の他、「鬱積電車」「しかばね台分譲住宅」という話がめちゃくちゃ面白かった。

ブラックユーモアが過ぎる感じもするが、全体的に笑える。というかこの本を書いたのが『悪意』や『白夜行』の著者と同じということが一番笑えるというユーモア。

 

怪笑小説 (集英社文庫)

怪笑小説 (集英社文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 1998/08/20
  • メディア: 文庫
 

 

小説界の怪物は支配者として君臨し続ける

いつまでも同行を追っていきたい作家である。

 

『守り人シリーズ』上橋菜穂子|読む順番とおすすめ作品ランキング

世界水準の国内ファンタジー小説

 NHKによりアニメ化、大河ドラマ化されるという快挙を成し遂げていることからも、本シリーズの素晴らしさはお国のお墨付きといっても差し支えないだろう。
 児童書に分類されるだけあって子どもにおすすめなのは言うまでもなく、主人公が物語のスタート時点で30を過ぎた女用心棒であるため、大人でも共感するシーンがとても多くのめり込むことは間違いない。そんな素晴らしい作品についてランキングもつけながらご紹介したい。
 

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この物語に出会えて良かった

 

1.作品一覧

 『守り人シリーズ』は7作品(全10巻)の本編と2冊の短編集、1冊の外伝が発表されている。なおタイトル末尾に守り人がつく作品が女用心棒バルサが主役の話であり、末尾が旅人がつく作品は皇太子チャグムが主役である。

 本編

  1. 精霊の守り人(1996年)
  2. 闇の守り人(1999年)
  3. 夢の守り人(2000年)
  4. 虚空の旅人(2001年)
  5. 神の守り人 来訪編(2003年)
  6. 神の守り人 帰還編(2003年)
  7. 蒼路の旅人(2005年)
  8. 天と地の守り人 第一部 ロタ王国編(2006年)
  9. 天と地の守り人 第二部 カンバル王国編(2007年)
  10. 天と地の守り人 第三部 新ヨゴ皇国編(2007年)

短編集

  1. 流れ行く者(2008年)
  2. 炎路を行く者(2012年)

外伝

  1. 風と行く者:守り人外伝(2018年)

 

2.読む順番

 『守り人シリーズ』は刊行順に読む以外に選択肢はない。本編は時系列通りに進行し、後の作品はその前の作品までを読んでいることが前提になっているためである。(大河ドラマを途中から見るようなものだ)

 著者ご自身も仰っている通り、一応1作目の『精霊の守り人』と2作目の『闇の守り人』、3作目の『夢の守り人』までは個別の作品としても楽しめるようになっているのだが、その3冊も順番通りに読むに越したことはないし、4作目以降は一つの大きな物語として進行し、『蒼路の旅人』以降はラストまで話が繋がっている。また本編以外の作品も必ず順番通りに読むべきである。

 

3.おすすめ作品ランキング

守り人シリーズ』のすごいところは1作目の『精霊の守り人』が素晴らしい傑作であるため、最初が一番すごいというありがちなパターンかと思いきや、先に進めば進むほどますます物語が盛り上がってきて読むのをやめられなくなるという点にある。

したがって後の作品ほど面白いと言ってしまえばそれまでなのだが、それでは意味がないのであくまでも私の好みで格付けしたいと思う。

 

十位  流れ行く者(2008年)

 

王の陰謀に巻き込まれ父を殺された少女バルサ。親友の娘である彼女を託され、用心棒に身をやつした男ジグロ。故郷を捨て追っ手から逃れ、流れ行くふたりは、定まった日常の中では生きられぬ様々な境遇の人々と出会う。幼いタンダとの明るい日々、賭事師の老女との出会い、そして、初めて己の命を短槍に託す死闘の一瞬―孤独と哀切と温もりに彩られた、バルサ十代の日々を描く短編集。

 

 生前のバルサの養父ジグロや子どもの頃のバルサとタンダなどが描かれたサイドストーリーの短編集で、短編という事情からか本編の長編作品よりも文学的な要素が強いように感じられ、児童文学というより大人向けの印象を強く受ける。

1作目の時点で故人だった、ジグロが過去を振り返る形ではなく生きた姿で描かれるのは本編読了後であれば感慨深いものがあるかもしれない。

 

 

九位  夢の守り人(2000年)

 

人の夢を糧とする異界の“花"に囚われ、人鬼と化したタンダ。女用心棒バルサは幼な馴染を救うため、命を賭ける。心の絆は“花"の魔力に打ち克てるのか? 開花の時を迎えた“花"は、その力を増していく。不可思議な歌で人の心をとろけさせる放浪の歌い手ユグノの正体は? そして、今明かされる大呪術師トロガイの秘められた過去とは? いよいよ緊迫度を増すシリーズ第3弾。

 

呪術師トロガイとその弟子タンダがメインとなる、シリーズ中最もファンタジー色が強い作品である。他の作品に比べるとややインパクトが弱い感は否めないが、窮地に陥ったタンダを救おうとする健気なバルサがとても良い。

タンダ好きにおすすめということは当然として、精霊の守り人振りに登場する成長したチャグムに会えるのも高ポイントである。

 

 

八位  炎路を行く者(2012年)

 

『蒼路の旅人』、『天と地の守り人』で暗躍したタルシュ帝国の密偵ヒュウゴ。彼は何故、祖国を滅ぼし家族を奪った王子に仕えることになったのか。謎多きヒュウゴの少年時代を描いた「炎路の旅人」。そして、女用心棒バルサが養父ジグロと過酷な旅を続けながら成長していく少女時代を描いた「十五の我には」。──やがて、チャグム皇子と出会う二人の十代の物語2編を収録した、シリーズ最新刊。

 
 本編の終盤で暗躍した密偵ヒュウゴが主役の中編と15歳のバルサが主役の短編からなる作品集である。中編といっても250ページ近いため実質は短めの長編+短編と言っても差し支えない。どちらの作品も完成度が高いが、ヒュウゴの物語はとても重い話で読みごたえがあり、また学ぶことも多い素晴らしい傑作である。

 

 

七位  虚空の旅人(2001年)

 

隣国サンガルの新王即位儀礼に招かれた新ヨゴ皇国皇太子チャグムと星読博士シュガは、〈ナユーグル・ライタの目〉と呼ばれる不思議な少女と出会った。海底の民に魂を奪われ、生贄になる運命のその少女の背後には、とてつもない陰謀が――。海の王国を舞台に、漂海民や国政を操る女たちが織り成す壮大なドラマ。シリーズを大河物語へと導くきっかけとなった第4弾!

 

 4作目にして初めて主役がバルサではなくチャグムとなる。
そのためどんな物語なのだろう...とか果たして本当に面白いのだろうか...という具合に心配する方もいるかもしれない。しかし心配ご無用で、話のスケールはますます広がり、物語としても非常に面白く、海が中心となる世界観は素晴らしい。そしてシリーズとしてもこれからが本番という具合に新章の幕開けを感じさせる展開が熱い。成長を遂げたチャグムがさらに大躍進する傑作である。

六位  天と地の守り人(2006年)

 

大海原に身を投じたチャグム皇子を探して欲しい―密かな依頼を受けバルサはかすかな手がかりを追ってチャグムを探す困難な旅へ乗り出していく。刻一刻と迫るタルシュ帝国による侵略の波、ロタ王国の内側に潜む陰謀の影。そして、ゆるやかに巡り来る異界ナユグの春。懸命に探索を続けるバルサは、チャグムを見つけることが出来るのか…。大河物語最終章三部作、いよいよ開幕。

 

読めば読むほど面白くなるという『守り人シリーズ』の特性からして、本作は第一部から完結まで最も楽しむことができたと思う。文庫版で1000ページを超える大作でありながらずっと緊迫感をキープすることに成功した著者の筆力はすさまじい。

感動的なシーンや衝撃的なシーンが強力なインパクトを残し、この長大な物語にふさわしい余韻を残すラストも素晴らしい。読了後、放心してしまうことは避けられないだろう。

 

 

五位  風と行く者(2018年)

 

バルサが挑む、ロタ王国の歴史の闇!つれあいの薬草師タンダと草市をおとずれた女用心棒バルサは、二十年前にともに旅したことのある旅芸人サダン・タラムの一行と偶然出くわし、再び護衛を引き受ける。魂の風をはらむシャタ〈流水琴〉を奏で、異界〈森の王の谷間〉への道を開くことができるサダン・タラムの若い女頭エオナは、何者かに命を狙われていた。二十年前の旅の折、養父ジグロとエオナの母サリは情を交わしていた。養父ジグロの娘かもしれないエオナを守るため、父への回顧を胸にバルサはロタ王国へと旅立つ。

 

アダルト。そんな言葉が浮かび上がる洗練された物語である。

天と地の守り人』の後日談となるバルサが単独でサダン・タラム“風の楽人”の護衛につく物語と、20年前にジグロとともにサダン・タラム護衛についた物語がリンクして、ロタ北部の歴史の闇に隠されていた秘密に迫っていく。

ミステリー要素も強い展開が読む手を止めさせないが、何と言ってもバルサとジグロの物語が再度味わえるのが素晴らしい。中年女が過去を振り返るのは『闇の守り人』に通じるものがある。

 

 

四位  精霊の守り人(1996年)

 

老練な女用心棒バルサは、新ヨゴ皇国の二ノ妃から皇子チャグムを託される。精霊の卵を宿した息子を疎み、父帝が差し向けてくる刺客や、異界の魔物から幼いチャグムを守るため、バルサは身体を張って戦い続ける。建国神話の秘密、先住民の伝承など文化人類学者らしい緻密な世界構築が評判を呼び、数多くの受賞歴を誇るロングセラーがついに文庫化。痛快で新しい冒険シリーズが今始まる。

 

 シリーズ1作目であるため、単品の作品としての完成度は一番だと思う。

守り人シリーズ』の世界観において重要なキーワードとなる異世界「ナユグ」といった概念はすでに完成されており、物語のスピーディな展開や臨場感のある戦闘シーン、魅力的なキャラクターなども完璧である。

 怪物の姿が『クトゥルフ神話』のような造形であることも個人的に興味をそそられる要素であった。

 この本を読むとシリーズ全作読むまでやめられなくなるという呪いにかかるので覚悟を決めて読むのがいいだろう。

 

 

三位  神の守り人(2003年)

 

女用心棒バルサは逡巡の末、人買いの手から幼い兄妹を助けてしまう。ふたりには恐ろしい秘密が隠されていた。ロタ王国を揺るがす力を秘めた少女アスラを巡り、“猟犬”と呼ばれる呪術師たちが動き出す。タンダの身を案じながらも、アスラを守って逃げるバルサ。追いすがる“猟犬”たち。バルサは幼い頃から培った逃亡の技と経験を頼りに、陰謀と裏切りの闇の中をひたすら駆け抜ける。

 

守り人シリーズ』はファンタジーではあるものの、強力な魔法があったり強大なドラゴンが登場するといった類の物語ではない。そんなシリーズにおいて唯一チート級の破壊力を持った神、鬼神タルハマヤを宿した者〈サーダ・タルハマヤ〉が登場するのが『神の守り人』である。

中二病に罹患気味な者にとっては、このようないかにもファンタジーの設定には燃えない訳にはいかないのである。

 

 

二位  蒼路の旅人(2005年)

 

生気溢れる若者に成長したチャグム皇太子は、祖父を助けるために、罠と知りつつ大海原に飛びだしていく。迫り来るタルシュ帝国の大波、海の王国サンガルの苦闘。遥か南の大陸へ、チャグムの旅が、いま始まる! ──幼い日、バルサに救われた命を賭け、己の身ひとつで大国に対峙し、運命を切り拓こうとするチャグムが選んだ道とは? 壮大な大河物語の結末へと動き始めるシリーズ第6作。

 

すでに”できる男”としての地位を気付いたチャグムが、ベリーハードな蒼路の旅人になってしまう話である。『蒼路の旅人』から最終作の『天と地の守り人』は完全に繋がった一つの物語なのだが、その壮大な物語の序章となる本作の素晴らしさは言葉では言い表せないものがある。良キャラクターのヒュウゴが初登場する作品というのも高ポイント。

 

 

一位  闇の守り人(1999年)

 

女用心棒バルサは、25年ぶりに生まれ故郷に戻ってきた。おのれの人生のすべてを捨てて自分を守り育ててくれた、養父ジグロの汚名を晴らすために。短槍に刻まれた模様を頼りに、雪の峰々の底に広がる洞窟を抜けていく彼女を出迎えたのは――。バルサの帰郷は、山国の底に潜んでいた闇を目覚めさせる。壮大なスケールで語られる魂の物語。読む者の心を深く揺さぶるシリーズ第2弾。

 

精霊の守り人』が大傑作であったために、それに続く本作は大丈夫かな...という考えを木っ端微塵にした素晴らしい作品である。

傑作ばかりで格付けにはとても苦慮した本シリーズにおいて、1位が『闇の守り人』であることはすんなり決まった。バルサが過去を清算するという内省的な物語は大人である私にはとても響き、また地下という闇の世界の幻想的な描写と様々な想いが込み上げてくるラストシーンに圧倒されたためだ。
小説を読んでこれほどまでに心を揺さぶられたのは初めてかもしれない。そんな一生ものの1冊である。

 

 

我が子に読ませたい物語

 

『我々は、みな孤独である』貴志祐介|貴志思想の集大成

デビュー時から伝えたいことは何も変わっちゃいない。

 

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まぁなんときれいな装丁ですこと

作品紹介

 神・貴志祐介による『我々は、みな孤独である』は角川春樹事務所から2020年に出版された作品であり、実に7年ぶりの長編である。単行本のページ数は400ページ越えで、内容も重厚なため新作を待ち望んでいたファンは感涙ものだろう。

 探偵小説ということで『硝子のハンマー』に始まる防犯探偵シリーズのような本格推理小説をイメージされる方が多いと思われるが、実際は似ても似つかない話である。『十三番目の人格 ISOLA』のようなオカルト要素と『黒い家』のようなサイコサスペンスを合わせ持った広義のミステリーであり貴志祐介の思想が詰まった哲学書といったところだろうか。

 一つ注意点を挙げると貴志作品は性的な描写や残虐な描写があるものが多いが、『我々は、みな孤独である』の残虐性は過去の作品を完全に超越しているので、グロ耐性が低い方は逃げた方が良いかもしれない。

 

 以下、あらすじの引用

探偵・茶畑徹朗(ちゃばたけ・てつろう)の元にもたらされた、
「前世で自分を殺した犯人を捜してほしい」という不可思議な依頼。
前世など存在しないと考える茶畑と助手の毬子だったが、
調査を進めるにつれ、次第に自分たちの前世が鮮明な記憶として蘇るようになる。
果たして犯人の正体を暴くことはできるのか? 誰もが抱える人生の孤独――死よりも恐ろしいものは何ですか。
鬼才がいま描く、死生観とは。著者7年ぶり熱望の傑作長篇。

 

我々は、みな孤独である

我々は、みな孤独である

  • 作者:貴志祐介
  • 発売日: 2020/09/15
  • メディア: 単行本
 

 

前世....正木だと....?

…………ブウウ――――ンンン――――ンンンン…………

 

 見出しの通りである。分かる人にはこれで伝わるだろう。ずばりこのキーワードが暗示するのは夢野久作の『ドグラ・マグラ』である。

冒頭の作品紹介でグダグダと説明させていただいたのだが、何を書いたところで『我々は、みな孤独である』を伝えることは難しい。言い訳をしているわけではなくドグってるしマグっているのだから伝えるすべがないのである。

 主役の探偵・茶畑に依頼人の正木から与えられた調査依頼の内容は「前世で自分を殺した犯人を捜してほしい」。ほらねドグマグしているでしょう.....。

 貴志祐介を崇拝する私としては、最初のページで"正木"という人名を見て次のページで依頼内容を見た瞬間からテンションが爆上がりしてしまったものである。

 

…………ブウウ――――ンンン――――ンンンン…………

 

極悪サスペンス ✖ 荒唐無稽ミステリー

 この本、ほんとに何を書いていいのか分からないな。

ただ一つ確実に言えることは貴志作品に共通する高いエンターテイメント性と多くの作品で発揮されたスリリングなサスペンスは本作でも健在ということだ。

「前世の事件の真相を解明する」というバカげたミステリーを、「解決できなければ死ぬ!!....しかも残虐に...」というサスペンス的な展開によって本気で取り組まざるを得ない状況を構築した著者の力量は半端ない...ではなく半端じゃない(作中より)。

 前世の事件を調査するということで、話の舞台は江戸時代に遡ったりさらには戦国合戦までも登場する。寡作ながら超高品質な作品を上梓する作家だけに作中作の時代小説も良くできていて、何の違和感もなく読むことができる。特に世界大戦と思われる戦地の地獄のシーンは非常に臨場感があった。

 サスペンス部分については後述するが、恐ろしさは過去のあらゆる作品を超越している。ISOLAなるスタンド使いや包丁を持ったおばさん、囀る天使やグールに悪鬼など様々な化け物が襲い掛かってくる貴志作品にあって『我々は、みな孤独である』の相手は一番恐ろしいからである。

 

麻薬カルテル

 皆さんはこの言葉を聞いてどう思うのだろうか。”麻薬カルテル

私は怖い。この世で一番怖い。

 貴志祐介は様々なジャンルの作品を上梓するのでファンにもいろいろな人がいるだろう。デビュー当時から追いかける人、『黒い家』で貴志を知った人、『青の炎』でファンになった人、『硝子のハンマー』のドラマや『新世界より』のアニメから入門した方など本当に多様なパターンがあると思う。

 そんな中、ホラーマニアである私は言うまでもなくISOLAと黒い家の映画は見ていたのだが、映画を視聴した後に原作は読もうとは思わなかった。私が初めて貴志小説に出会ったのは"グロホラー 最強"といったキーワードで必ず名が挙がる『天使の囀り』である。

 さて、何が言いたいかというとグロ好きであるため必然的にI〇〇Sの動画や麻薬カルテル・ロ〇・セ〇スの動画などを見てしまうがゆえに、誰よりも麻薬カルテルの恐ろしさを知ってしまっているということだ。

『我々は、みな孤独である』では麻薬カルテルに命を狙われるという最恐最悪のサスペンスとなっている。作中に描かれる残虐描写は度を越えており、まさに麻薬カルテルの動画そのもののである首ちょんぱや四肢切断、ペ〇ス切断セルフフ〇ラ.......どころか小説であるがゆえにさらにその一歩先を行く、人間活け造りなる新手のグロ芸術をお見舞いしてくる。

 

覚醒、そして宇宙の真実

 私は人間には二種類いると考えている。分かっちゃった人とそうでない人だ。

貴志祐介は当然分かっちゃった側の人間である。『ISOLA』や『新世界より』はまさしく分かってる人が書いた内容そのものであり、『新世界より』の最後のメッセージなんかはズバリ真実である。

 分かっちゃった人=覚醒した人であり、一般的にはサマタ瞑想やヨーガ、気功の修業やLSDといった強烈な麻薬をやることで覚醒する。数学や量子論などを学ぶことで目覚める人もいるのかもしれない。

『我々は、みな孤独である』は覚醒した人が体感することになる宇宙の真実について、貴志的な解釈のもとでエンタメとして皆に伝えようとしたものだと私は感じた。

.....何を言っているのかさっぱりでしょうね。そしてさっぱりだったそこのあなた。本作をフルに楽しめない可能性が大である。この本を読む前に著者の『ISOLA』『新世界より』を読んだうえで、スピリチュアル系の本や引き寄せの法則系の本、さらには『般若心経』の分かりやすい解説を読んでおくなど予習をした方が良い。

 この記事を書いている時点では、まだほとんど本作の感想や評価は見受けられないが、きっと賛否両論になることだろう。それもかなり否定的な意見が多くなりそうな予感。ただ『我々は、みな孤独である』は間違いなく傑作であり、貴志祐介の集大成ともいえる作品であると私は断言したい。

 

まとめ

 記事を書いてみて再認識したが、やはり感想を書きにくいし無責任におすすめすることはできない内容だ。相当人を選ぶ作品だと思う。

ただ難しいことは理解できなくとも、貴志流の本格ミステリーと極悪非道サスペンスとしても十分に高い完成度であるため、少しでも気になったのであれば読んだ方がいい。

 時間が経過して他の読者の感想を見るのがこれほど楽しみな作品も稀である。

 

我々は、みな孤独である

我々は、みな孤独である

  • 作者:貴志祐介
  • 発売日: 2020/09/15
  • メディア: 単行本
 

 

 

〇おすすめ貴志作品

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小野不由美|作品一覧とおすすめランキング8選

十二国の創造主にしてホラー×ミステリーの大御所

 ファンタジーから入った人がホラーを読むと仰天するかもしれないが、いずれの作品も非常に高い完成度を誇っている。
 数多の女性作家の中でも私が最も崇拝している御方だけに、敬意を込めて紹介させていただきたい。
 

 

作品一覧

 シリーズものとそれ以外の作品を分けて刊行順に記載する。

なおティーン向けに発表されて、その後他の文庫などに移行されていない作品については割愛させていただく。(30過ぎた男が読むような内容ではなさそうなので...)

 

悪霊シリーズ → ゴーストハント

 小野不由美女史の代表シリーズの一つでアニメ化もされている。講談社X文庫ティーンズハートから少女向けに発表されていたものが、後に全面的に改稿されてゴーストハントと改題されている。

作品ランキング

 『十二国記』や『ゴーストハント』はシリーズ作品のためシリーズ全体の評価として格付けする。また『魔性の子』は十二国記とは独立した作品としても楽しめるため個別に格付けする。なおゴーストハントシリーズは文庫化された巻までしか読んでいないため、格付けが変わる可能性がある。

 

八位  黒祠の島(2001年)

 

 「そう―ここは黒祠なのですよ」近代国家が存在を許さなかった“邪教”が伝わる、夜叉島。式部剛は失踪した作家・葛木志保の姿を追い求め、その地に足を踏み入れた。だが余所者を忌み嫌う住民は口を閉ざし、調査を妨害するのだった。惨事の名残を留める廃屋。神域で磔にされていた女。島は、死の匂いに満ちていた。闇を統べるのは何者なのか?式部が最後に辿り着いた真実とは。

 

雰囲気はまさしく横溝正史ワールド。しかし異常な残虐性も伴って妖しさやおどろおどろしさは本作の方が1枚上手である。

小野不由美女史の田舎的な閉塞感の描写は本当に巧い。変な風習があったり、急に島民全体の態度がコロッと変わったりと、実際に自分がこの島を訪れたらと考えると、勘弁してくれよ...となること間違いなしだ。

ホラー要素はあまりなくミステリーホラーの名手である主上の作品の中では、もっとも探偵小説の側面が強い。尺の割に登場人物が多いので少々こんがらがるが、小野不由美作品にミステリーを求めるならおすすめな1冊。

最初がとても勢いがあって面白く、中盤少々かったるいと思ったらラストが怒涛の展開というジェットコースターである。

 

 

 

七位  営繕かるかや怪異譚(2014年)

 

叔母から受け継いだ町屋に一人暮らす祥子。まったく使わない奥座敷の襖が、何度閉めても開いている(「奥庭より)」。古色蒼然とした武家屋敷。同居する母親は言った。「屋根裏に誰かいるのよ」(「屋根裏に」)。ある雨の日、鈴の音とともに袋小路に佇んでいたのは、黒い和服の女。あれも、いない人?(「雨の鈴」)。人気絶頂の著者が存分に腕をふるった、じわじわくる恐怖、極上のエンタテインメント小説。

 

タイトルや本の装丁から優しい感じのイメージを持たれるかもしれないが、恋愛や生温いヒューマンドラマを書かないのが小野不由美である。

したがって本作は生温いと見せかけてかなりのガチホラーなので、十二国記を読んで小野作品にハマったという人が読むと思わぬトラウマになるかもしれない。

しかし全体的にやや読みづらい作品が多い小野作品の中、連作短編の形式のためとても読みやすいのと、読後感がなんとも言えない良い気分になれるので、安心しておすすめできる作品だ。シリーズ化されているが、連作短編のため読む順番はどちらが先でもさほど問題がなく、また其の弐からは営繕屋のさりげなさがアップして、より洗練された内容になっている。

 

 

六位  残穢(2012年)

 

この家は、どこか可怪しい。転居したばかりの部屋で、何かが畳を擦る音が聞こえ、背後には気配が…。だから、人が居着かないのか。何の変哲もないマンションで起きる怪異現象を調べるうち、ある因縁が浮かび上がる。かつて、ここでむかえた最期とは。怨みを伴う死は「穢れ」となり、感染は拡大するというのだが―山本周五郎賞受賞、戦慄の傑作ドキュメンタリー・ホラー長編!

 

 最恐ホラー小説と称されることも多いJホラーの究極完全体。

一人暮らしの人は絶対に読んではいけない。『リング』や『呪怨』は一人暮らしでもギリギリ耐えられそうだが『残穢』は無理である。

 ホラーにもいろいろなタイプがあるが、怪異系は日本的な恐怖の代表ではないだろうか。本作はその怪異系の中でも群を抜いた完成度を誇っている。

残穢』は主人公の作家(モデルは明らかに小野不由美ご本人)によるドキュメンタリー形式で語られており、語り手の”私”がマンションの一室で起きる怪異を過去に過去に遡って調査いくという流れのため、ミステリーの要素も併せ持っている。

 怪異全般に関する蘊蓄も豊富に書かれていることや、"私"の夫が綾辻行人氏としか思えなかったり、ホラー界の重鎮、平山夢明氏は実名で登場したりとノンフィクションっぽいところが恐怖を助長する。ヤバいホラーを求める方は必読である。

 なお本作は『鬼談百景』の百話目に相当する話であるため、先にそちらから読んでおくと盛り上がってから読むとなお良い。

1話あたり2~4ページ程度のホラーショートショートがジワジワと効いてくる危険な本だが、様々なタイプの話があり、ガチで怖めなのはさほど多くはない。ショートショートが癖になり、気が付けば読了しているタイプの作品だ。

 

 

五位  東亰異聞(1994年)

 

帝都・東亰、その誕生から二十九年。夜が人のものであった時代は終わった。人を突き落とし全身火だるまで姿を消す火炎魔人。夜道で辻斬りの所業をはたらく闇御前。さらには人魂売りやら首遣いだの魑魅魍魎が跋扈する街・東亰。新聞記者の平河は、その奇怪な事件を追ううちに、鷹司公爵家のお家騒動に行き当たる……。人の心に巣くう闇を妖しく濃密に描いて、官能美漂わせる伝奇ミステリ。

 

怖めなダークファンタジー系の世界観で描かれる、小野作品の中でも本格推理小説の度合いが高い作品である。

魑魅魍魎が跋扈する架空の都、帝都東亰。時は江戸の名残を残す明治時代である。怖いことを書かなくてもその異様な妖しさから何とも言い難い恐怖を感じる。

 本作は"闇御膳"や"火炎魔人"という闇に跋扈する者(まさしく中二病)による、怪異級の殺人事件と鷹司家のお家騒動を記者が追うという内容である。

 はっきり言ってこの本は超すごい。どれくらいすごいかというと、夫である綾辻行人氏の大傑作ミステリー『十角館の殺人』の驚きを超えてしまっている。

 驚愕することは天地神明に誓って私が保証するので、可能な限り事前情報無しで読んで欲しい。ただし登場人物が多く読みづらいので、時間をかけて丁寧に読み進めるか、Wikipediaなどで登場人物を整理しながら読むことをおすすめしたい。

 あぁ...記憶を失ってもう一度読みたい!!

 

 

四位  ゴーストハントシリーズ

 

学校の旧校舎には取り壊そうとすると祟りがあるという怪奇な噂が絶えない。心霊現象の調査事務所である渋谷サイキックリサーチ(SPR)は、校長からの依頼で旧校舎の怪異現象の調査に来ていた。高等部に通う麻衣はひょんなことから、SPRの仕事を手伝うことに。なんとその所長は、とんでもなく偉そうな自信家の17歳になる美少年、渋谷一也(通称ナル)。調査に加わるのは個性的な霊能者たち。ミステリ&ホラーシリーズ。

 

このシリーズは小野不由美作品の中でも唯一避けていた作品である。なぜかというと作品の印象からとても硬派な印象を小野主上のイメージが崩れ、きゃぴきゃぴしたフユミーになってしまいそうだったからである。

いざ読み始めると、確かに新潮社やKADOKAWAなどからすでに文庫化された作品群に比べると乙女チックなのは否めないのだが、個性的なキャラが繰り広げる超高品質なホラー×ミステリーであり、これまで読まなかったことを後悔したくらいである。

ホラーとミステリーは紙一重であるということを教えてくれる作品で、人為的なものなのか、本当の怪異なのかを検証していくのは本当に面白い。

小野作品の中でも最も読みやすく、それでいて著者の魅力の大半が詰まった作品なので初読みにもおすすめだ。

ちなみに5作目が一番怖いと思われ、6話目が一番気合いが入っていて、7話目が最も感動することになると思う。

 

〇紹介記事

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三位  魔性の子(1991年)

 

どこにも、僕のいる場所はない──教育実習のため母校に戻った広瀬は、高里という生徒が気に掛かる。周囲に馴染まぬ姿が過ぎし日の自分に重なった。彼を虐(いじ)めた者が不慮の事故に遭うため、「高里は祟(たた)る」と恐れられていたが、彼を取り巻く謎は、“神隠し”を体験したことに関わっているのか。広瀬が庇おうとするなか、更なる惨劇が……。心に潜む暗部が繙(ひもと)かれる、「十二国記」戦慄の序章。

 

十二国記のエピソードゼロということになっているが、元々は十二国記というシリーズが出る前に新潮社からでたファンタジーホラー小説で、十二国記は本作に登場する向こう側の世界の話である。

したがって十二国記として極めて重要なポジションに位置する作品ではあるものの、十二国記と切り離して独立したホラー小説として楽しむことができる。

本作はファンタジー要素のあるホラーとして非常に完成度が高いだけでなく、ミステリーとして読むこともできるため、極めて優れたエンターテイメント作品となっている。

ホラー好きなら十二国記がどうしたなどと細かいことは気にせず絶対に読むことをおすすめしたい。単体の作品として素晴らしいだけでなく、『魔性の子』を読むことによって、めでたく十二国の世界に旅立つことになるだろう。

 

 

 

二位  十二国記(1991年~)

 

「お捜し申し上げました」──女子高生の陽子の許に、ケイキと名乗る男が現れ、跪く。そして海を潜り抜け、地図にない異界へと連れ去った。男とはぐれ一人彷徨(さまよ)う陽子は、出会う者に裏切られ、異形(いぎょう)の獣には襲われる。なぜ異邦(ここ)へ来たのか、戦わねばならないのか。怒濤(どとう)のごとく押し寄せる苦難を前に、故国へ帰還を誓う少女の「生」への執着が迸(ほとばし)る。

 

 普通の女子高生が突然化け物たちと現れた妖しいイケメンに「許すとおっしゃい」と言われ、こき使うようになる.....訳ではなくツンデレな謎の主従関係が成立し有無を言わさず異世界へ。

 かと思いきや異世界でいきなりイケメンとはぐれて迷子になり、地獄のような旅をするという血も涙もないベリーハードな旅路を描いた物語から壮大な物語は幕を開ける。

ファンタジー小説として最高峰の知名度と売上を誇るシリーズだが、意外にも世界観以外の部分のファンタジー要素は控えめで、かなり硬派な内容である。

 人名や地名を始めとして難読漢字が多いため、お世辞にも読みやすいとは言い難いのだが、近年アニメや漫画で跋扈する有象無象の異世界ものとは一線を画した内容だ。

 

十二国記の紹介記事

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一位  屍鬼(1998年)

 

 死が村を蹂躙し幾重にも悲劇をもたらすだろう―人口千三百余、三方を山に囲まれ樅を育てて生きてきた外場村。猛暑に見舞われたある夏、村人たちが謎の死をとげていく。増え続ける死者は、未知の疫病によるものなのか、それとも、ある一家が越してきたからなのか。

尋常でないなにかが起こっている。忍び寄る死者の群。息を潜め、闇を窺う村人たち。恐怖と疑心が頂点に達した時、血と炎に染められた凄惨な夜の幕が開く…。

 

文庫本で2500ページに渡る超大作ダークファンタジー。『屍鬼』は長すぎるだけでなく、前半(特に文庫版1巻)の展開がダラダラしており、登場人物も人物もアホみたいに多いため、読書慣れしていない人にとってはこれ以上ない壁になる。しかも話が進むに連れてジワジワ勢いが上がっていくかと思いきや一向にグダグダ展開で、バタバタ人が死んでいく。

そんな本がなぜ1位なのか。

それは2000ページ以上に渡り蓄積されてきた、溜まりに溜まったフラストレーションがラストでスーパーノヴァの如く怒涛の大爆発をするためである。

こんな体験ができるのは本作だけだ。

 

〇紹介記事

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まとめ

推理小説好きなら

ホラー小説好きなら

ファンタジー小説好きなら

 

いざ小野不由美ワールドへ!!